脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
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冒険者達が開拓した大陸図の中で最も南に位置する町や村々の総称。
金級冒険者の証である、ラルゴの懐中時計が午後の4時を指し示した頃、彼を乗せた馬車は、ヴァリスと
エルプル
ふと、橋の縁から
「こんな形で、戻ってくる事になるとはな……」
ラルゴが
金級以上への昇格を行えるギルドは限られており、基本的に
しかしラルゴがヴァリスに向かったのは、銀級冒険者の中でもかなり遅い時期であった。
その理由は、当時彼が組んでいた
お人好しも度が過ぎれば枷となる。
結果として、そのメンバーはラルゴ以外のPTと魔獣の討伐に出たまま帰らぬ人となった。
それを機に、ラルゴはヴァリスに向かう事を決意したのである。
しかし、それから数年経った今でもまだ、ラルゴの頭の中には帰らぬ相棒の姿が時折浮かぶのだった。
「このまま
ふとラルゴが対岸を見やると、小さな人影が流れ着いているのが目に入った。
「おい行商人のおっさん、向こうに人が倒れてる!」
「ラルゴ殿、いちいち行き倒れに構っていたらこのご時世きりがありませんぞ!」
「関係ねぇ、止めてくれ!」
「なりませぬ!」
「……なら護衛はここまでだ」
ラルゴはそう言って馬車を降りる。
「そんな! ラルゴ殿!」
「俺のスタンスは人命優先だ。 ここならノトスまでそんな距離もねぇ、後は1人でどうにかなるだろ!」
「それじゃ報酬は支払えませんよ!」
「ふん、いらねーやそんなもん!」
ラルゴは遠ざかる馬車には目もくれず、川岸に倒れている人影の元へと走った。
「おい、無事か!?」
所々破れ血の滲んだ黒の全身タイツに、破損した防具と思わしき金属の破片、肩までかかった黄金のブロンドヘアーに、まるで人形のように端正な顔立ちの少女がそこにはいた。
「まるでこの世の者とは思えない、この雰囲気は……いや、そんな場合じゃねぇ! しっかりしろ!」
少女の顔を軽く平手で叩くも、反応がない。
ラルゴは少女の胸に耳を押し当てる。
――ドクン、ドクン
確かに心臓の鼓動音が聞こえた。
「生きてる……!」
急いで少女を川原の平地に仰向かせ、自身の卵のような頭に照り返す汗を素早く拭うと、少女の小さな顎を持ち上げて口から口に思い切り息を送り込む。そうして、少女の肺に息が送られたのを確認すると、寝かせた少女の横に膝をついた。そして、重ねた大きな手で少女の胸骨の下部へと圧力を加えていく。
――グッ、グッ、グッ、グッ
「……ぅっ」
繰り返す事数十回、ラルゴの救急蘇生により少女は息を吹き返した。
「よ、良かった……大丈夫か?」
ゆっくりと上半身を起こす少女を傍で支える。
状況が呑めないまま虚ろな目を瞬かせる少女。
見詰め合う二人――
「ぁっ……ゥぐふッ!」」
――突然
少女の口から吐き出された鮮血が、ラルゴの顔面に広がった。
同時に、ラルゴは自身の血の気が急速に引いていくのを感じる。
「あれ……? 頭が……」
ラルゴは突然意識を失い、そのまま少女の上にくずおれた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――陽は完全に落ち、山風の吹き荒れるエルプルの川原。
バチバチと炎が燃え上がる音でラルゴは目を覚ました。
炎の傍には、先ほど助けた少女が膝を抱えて暖を取っている。
「俺は一体……」
ゆっくりと起き上がるラルゴに気づいた少女は、背中を向けたまま声をかける。
「気づいたようですわね。 突然のしかかってきて、何事かと思いましたわ」
「……君が助けてくれたのか? ……面目ない」
ラルゴは静かに頭を下げる。
それを聞いて少女は笑った。
「何を言いますの。 助けてくださったのは貴方なのでしょう? 礼を言うべきなのはこちらですわ」
少女は背中を向けたまま笑った。
「あ、ああ……ところで、君は」
そっぽを向く少女を見て、ラルゴは焚き火を挟んで向かい側に座ろうとする。
すると、少女は怒り交じりの声音で呟いた。
「貴方、デリカシーはありませんの?」
「えぇ?」
よく見れば少女は一糸纏わぬ姿と相違ない程、非常に破廉恥な姿をしていた。
全身ピッチリに着込んだタイツは、ボディラインが直に出ている。
くびれのある引き締まった少女の白い肌が焚き火に照らし出され、ラルゴの視線を釘付けにした。
「いつまで見てますの!」
突然突風が吹き、ラルゴは吹き飛ばされた。
そのまま尻餅を付き、目を丸くする。
「な……何が起こった?」
「あっ……大丈夫ですの?」
少女が慌ててラルゴに手を伸ばす。
先程の態度とは打って変わって、その表情は心配一色という感じだった。
「あ、ああ……大丈夫だ、すまない。 俺の方こそ、悪かったな」
ラルゴは内心そう思いながら、傍に置いていた革製のバックパックから、紺色のフード付きの防寒着を取り出した。
「ここらへんは冷えるよな……そんなもんで良かったら使ってくれ。 その……目に毒だ」
「フンッ……貴方みたいな人間もいるにはいますのね」
「……?」
「なんでもないですわ、ただの独りご……へくしゅっ!」
話の途中にも関わらず、少女は一際大きいくしゃみをした。
それを見たラルゴは少し考えた後、首に巻いていた赤いマフラーを取り、身震いする少女の首元に巻いていく。
「気が利きますのね」
「貸すだけだ、なくすなよ」
少女は自身に巻かれたマフラーをまじまじと見つめる。
「大事なモノですの?」
「ああ……今の俺が持ってる物の中じゃ一番かもな」
改めてラルゴは焚き火を挟んで少女の前に座る。
今度は少女も何も言う事もなく、ただラルゴを見つめていた。
「貴方は寒くありませんの?」
「生まれつきな、寒さには強いんだ」
「そうですのね、羨ましいですわ」
「そうか……?」
静寂が辺りを包み、焚き火の音だけがただパチパチと響いている。
気まずくなったラルゴは、静かに口を開いた。
「俺はラルゴ。 ラルゴ・アシュクラフト。 名前を聞いてもいいか?」
「……エアですわ。 貴方、何故見ず知らずのワタクシの為にここまでしてくださいますの?」
「冒険者だから……かな?」
「仮にワタクシが小汚い低級悪魔でも、同じ事をしますの?」
「いや、どうだろうな。 しかも妙に例え方がニッチだ」
そう言ってラルゴは力なく笑う。
「ふ~ん……その冒険者? のラルゴは、こんなところで何をしていましたの?」
「なに、故郷に逃げ帰ってきただけさ。 原因不明の病気でね、もうどうしょうもないんだ」
「それは災難ですわね。 ちょっと見てもよろしくて?」
そう言いながらエアは、ラルゴに近寄っていく。
「ま、待て待て!ヴァリスの有名な医者ですら治せなかったんだぞ、今更どうにかなるわけ」
「しっ、いいから」
そう言ってエアはラルゴの額に自身の額を当てる。
(この女……警戒心があるのかないのか、どっちなんだ?)
ラルゴは少女の顔を間近にして、心臓が高鳴るのを感じた。
「熱っ……なるほど、そういうことでしたのね」
そう言ってエアは額を離す。
ラルゴは名残惜しそうに口をポカンと開けた。
「え……? 何かわかったのか?」
「ええ、貴方の病気の件、ワタクシであれば力になれますのよ」
「……???」
「信じられない……って顔をしてますわね」
「そりゃそうだ……正直完全に諦めてたのに、たまたま助けた女の子がどうにかできるなんて、普通思わないだろう」
それを聞いたエアは、意地悪そうに笑みを浮かべた。
「ではどうしますの? このまま諦めたまま故郷で静かに暮らしますの? ワタクシは別にそれでも構わないけれど……きゃっ」
突然ラルゴはエアの肩を掴んで、まじまじとその瞳を覗き込んだ。
その表情はいたって真剣である。
「信じていいんだよな?」
「え、ええ……勿論ですわ。 でも」
そう言ってエアは語尾を濁した。
「でも?」
「条件がありますの」
「条件? なんだ? 言ってくれ」
ラルゴは至って真剣な面持ちで、エアの顔を覗き込む。
「……力を貸してほしいですの……正直ワタクシ、こちらの世界には疎くて」
エアは恥かしそうに顔を赤らめた。
(世界に疎い? どういう意味だ?)
ラルゴは少し考えた様子で宙を見つめる。
「べ、別に1人だから寂しいとか、そういうわけじゃないですのよ? ……ただ、人探しをしておりますの」
「人探し? どんな奴だ? 名前は?」
「ワタクシ達の間では、その男を『インフェルノ』と呼んでおりますわ。 その名の通り、燃え盛る炎のような頭をしておりますの」
「炎のような頭? それはまた、変わったヘアスタイルだな」
エアはコホンと咳き込む。
「とにかく、その男をワタクシと共に探すのがあなたの治療をする条件ですわ。 どう? 悪い条件ではありませんわよ? 何より、このワタクシと共に旅ができるのですから」
ラルゴは何も言わず、真剣に悩んでいる。
「むしろエア、お前こそそれでいいのか? 今の俺は……はっきり言ってただの足手まといだぞ」
「足手まとい?」
エアは不思議そうに首をかしげた。
「突然大事な局面で倒れるかもしれないし、なんなら寝たきりになって起き上がらないかもしれん」
「別に構いませんわ」
「もしそうなったら、遠慮なく見捨ててくれて構わない。 その後のことも気にしないでほしい」
それを聞いて、エアは突然腹をおさえて笑い出した。
「プッ……アハハハハハ!」
「な、なにがおかしい?」
怪訝な表情を浮かべるラルゴに構わず、エアは凛とした表情で応えた。
「くどいですわねラルゴ、ワタクシが治ると言ったら治りますの。 あまり情けない姿を見せないでくださる?」
(なんて自信だ……こいつは、本物かも知れねぇ。 少なくとも、他にやる事もない。 ならば答えは1つだ)
自信満々にそう告げるエアを前に、ラルゴの表情が期待を隠せないものになっていく。
それを見たエアは勝ち誇ったように切り出した。
「協力、していただけるかしら?」
「ああ……是非とも!!!」
そう言ってラルゴは、スッと右手を差し出した。
「な、なんですの?」
「なにって握手だよ、右手で右手を握ることで信頼を確かめるのさ」
「あ、あー……あくしゅ、握手ですわよね! 知ってますわよそのくらい!」
そう言ってエアは、ラルゴの右手を力いっぱい握り締めた。
「痛たたたたた! 力籠めすぎだっての!
(何だこの怪力!? 悪いが握力にはかなり自信があるぞ? まるでカーラ並の……いや、それ以上か?)
「あらっ、ご、ごめんなさい! 大丈夫ですの?」
「あ、ああ……問題ない」
心配そうな目で見つめるエアを余所に、ラルゴは笑いかけた。
「改めてよろしくな、エア」
「よろしく、ラルゴ」
――その日の
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絶対いる。 今後も続けて欲しい。
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