※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第30話 抜け駆け

――俺たちはヴァリスの中央区にあるリリー御用達の宿、ロイヤル・ヴァリスへとやってきた。

 ロイヤル・ヴァリスは数少ない3階建ての宿であり、多くの冒険者が訪れるのを考慮してか、その殆どが客室となっている。

 唯一1階だけは、受付と酒場のスペースが作られており、昼間から食事や情報交換に利用する冒険者達で賑わっていた。

 

 そして、PTに白金冒険者のリリーがいることにより、値段は10万ガルドから半額以下の3万ガルドまで下がった。

 流石に部屋は男女PT用のコネクティングルームだったが、リリーの性格を考えればこれが普通だろう。

 むしろ、マーシアとウルがおかしいのだ。

 

「ふぅ、やっと一息つけますわね」

「思えば殆ど動きっぱなしだったからな……ハーピー達は早いが、移動中休めないのが玉に瑕だ」

「まあ、運んでもらってる手前あまり贅沢は言えませんよね……」

「それもそうだな……っと、この部屋だな」

 

 そう言って俺は手にした鍵で部屋を開ける。

 すると、扉を開けてすぐに左右の部屋への入り口があった。

 風呂と便所は男と女用で左右の部屋に2つずつ、扉を開けると、整然とした部屋の中に3つのシングルベッドが並んでいる。

 

「おれこの部屋1人で使うのか? 持て余すぞ」

「しょうがないでしょう? ここしか空きがなかったんですから」

「まあ、狭いよりは断然いいな、うん」

 

 すると部屋に入って早々、リリーは俺に釘を刺してきた。

 

「ラルゴ、こっちは女の子のお部屋なのですから気軽に立ち入らないで」

「わかってるよ、俺がそんな奴に見えるのか?」

「見えますわ」

「そうか……」

 

 この流れも最早テンプレ化しつつある。

 そんなに信用おけないのだろうか、失礼なお嬢様だまったく。

 

「ではラルゴ、ワタクシ達は少し休憩したら商業区に行きますわ。 何か用意しておく物はあるかしら?」

「うーん……どうせ明日もこの町に留まるんだし、特には無いな。 小腹が空いた時用の間食と飲み物くらいか」

「まあ、そんなもんでいいですの? 別に構わないけれど……」

「お前達は何を買いに行くんだ?」

 

 するとリリーはしばし思案した後、ゆっくりと喋りだした。

 

「たまにバザーにマジックアイテムの掘り出し物などがあるでしょう? メインはそれですわ。 後は適当に……」

「へぇ、マーシア達は?」

「私は女の子と買い物に行くのに憧れていたので、雰囲気さえ楽しめればそれで♡」

 

 マーシアは笑顔でそう笑いかけてくる。

 これについては、特に触れないで置こう……

 

「ウルは……本当に大丈夫か?」

「うん……少し慣れた……かも? それに、おねえちゃんたちもいるし」

「まあ、リリー達を疑うわけじゃないが、くれぐれも気をつけろよ。 マーシアも、自分が聖女だってことは隠しとけ」

「もう、わかってますよ♡ ラルゴさんったら」

「はぁ……それならいいが……」

 

――ぐぅ

 

 ふと、俺の腹が鳴った。

 そういえば、朝にケライノー達と休憩を取って以来何も食べていない。

 

「あら、ラルゴ? ハングリーですの?」

 

――ぐぅぅぅ……

 

 リリーがそう呟いた途端、より大きい空腹音がリリーの腹から響いてきた。

 

「あら、リリーさん? ハングリーですの?」

「う、うるさいですわね!」

「ラルゴさん、意地悪しちゃだめですよ」

 

 そう言ってマーシアが俺の頬を指で突いてくる。

 

「はっはっは! 小言を言う時は、小言を言われる覚悟を持って発言したまえ」

「ぐぬぬ……」

 

 リリーは山羊の兜の奥で静かに唸った。

 

「しかし腹は減ったが、1階の酒場は満席だったな」

「そうですわね……ここはいつもあんな感じですわ」

「ロイヤルと銘打ってる割には、酒場だけ妙に庶民的だもんな。 部屋は良い作りなんだが」

「それで、どうしますの? どこかでお昼でも……」

「いや、例の鍛冶屋が混んでたら嫌だからな、俺は先に行くよ。 どうせ商業区に行くんだろ? 美味いもんいっぱい食ってくるといいさ」

「そう? なら、仕方ないですわね」

「ああ。 じゃあ、俺は早速行って来る。 荷物はこっちに置いておくから、必要だったら勝手にもってってくれ」

「わかりましたわ」

 

 そう言って俺は、金貨を数枚詰めた革袋と、いつの間にかマーシアとリリーが共同で作った鞘に収めた愛剣(トリリオン)を持って部屋を出た。

 

――そして、リリー達に気取られないよう、さりげなくギルド本部の受付へと舞い戻る。

 

「おっす……って、ラルゴじゃねぇか!」

 

 声をかけてきたのは、プラチナブロンドのボブカットに青の瞳、端正な顔立ちで人気の受付嬢、クラリスティ……通称クリスちゃんだ。

 受付嬢にも関わらず、距離感の近いガサツな喋り方が人気の秘訣でもある。

 

「おお、クリスちゃん! 相変わらず……」

 

 その白と黒のゴシック調のギルド制服の中で、クリスちゃんの豊満すぎる両乳がこれでもかと主張している。

 

「相変わらず、なんだよ?」

「いや……なんでもない」

「はぁ?」

 

 うっかり目の前の魔性の乳に気を取られてしまった。

 

「そうそう、グラントのオッサンはいるか?」

「いやぁ、おっさん今忙しいみたいでさ、多分今日1日は手が離せないと思うぜ」

「そ、そうか……ちょっと聞きたい事があるんだが」

「ラスターの事か?」

「うおっと、鋭いな」

「へへっ、伊達に本部で受付嬢やってねぇからな」

 

 そう笑うクリスちゃんだが、どう見ても俺より遥かに若い。

 下手すればネリーぐらいだろうか。

 なんでこんな口調なのかは知らないが、相当エリートなのは間違いないだろう。

 

「ラスターなら、聖女捜索の為にリベルタスに向かったらしいぜ」

「そ、そうなのか……」

「まあその聖女さん、もう見つかったみたいなんだけどよ。 ギルドで発見者が出なかったのは残念だったなぁ……」

 

 実を言うと俺が見つけたんだが……めんどくさそうだし黙っておこう。

 

「リベルタスに行った冒険者達はどうするんだ?」

「伝令が早馬で伝えにいったから、1日もすれば周知されると思うぜ」

「そうか……」 

「にしてもラルゴ、よく帰ってきたな! 巷じゃ、昇格試験で心折れて故郷に逃げ帰ったとまで言われてたぜ」

「ひでぇ噂を立てる奴もいたもんだ……」

 

 まあ、残念な事に間違ってはいない……

 

「それにしても……ぷふっ」

 

 そう言ってクリスちゃんは、にやけ面で目を細めて俺を見る。

 

「なんだ、この黒団子アーマーに文句でも?」

「い、いやー……独特な格好だなって思ってよ……ぷふっ」

「笑いが抑えられてないぞ」

「わりぃわりぃ……ぷふっ、あははははは!!」

 

 すると我慢するのを止めたのか、クリスちゃんは爆笑しだしてしまった。

 

「あー笑え笑え、好きなだけ笑え」

 

 どうせこれはリリーのセンスだ。

 いくら笑われたところで痛くも痒くもない。

 ……むず痒いくらいだ。

 

「あはははは!! いやぁほんと面白い! あははははは!」

 

 クリスちゃんは過呼吸になりながら、カウンターをバンバンと叩いている。

 

「はぁ……」

 

 これを見る周りの視線の方が、俺にとってはよっぽど面白いが……

 

「ひぃ……ふぅ……やっと収まった……で、用件は以上か?」

 

 クリスちゃんはひとしきり笑った後、ゆっくりと呼吸を整えていく。

 

「いや、冒険者プレートと懐中時計の再発行を頼みたいんだが」

「なんだぁ? 紛失かよ」

「まあ……そんなところだ」

「仕方ねぇなぁ、手数料もらうぞ」

「費用はグラントのオッサンにツケといてくれ。 きっとわかってくれる」

「りょうかーい。 それじゃちょっと時間もらうぞー」

 

 冗談で言ったのに本当に通ってしまうとは……他の受付嬢ならこうはいくまい。

 

「じゃあ俺はそこで飯食ってるから、終わったら呼んでくれ」

「あいあーい」

 

 クリスちゃんは適当な返事をしながら受付の奥の部屋の中に入っていった。

 

「さーて、ご飯ご飯っと」

 

 俺は受付に一番近い、空いているテーブル席の端に座る。

 冒険者達は団欒に夢中で、近くの黒団子の事など気にも留めなかった。

 

「おーい、注文いいか?」

 

 俺はたまたま近くを歩いてきた、丈の短いメイド服のような制服に身を包んだウェイトレスを呼び止める。

 

「はいはーい……って、ラルゴさんじゃないですか! 帰ってこられたんですね」

 

 それは金髪ツインテールと豊満な乳が特徴的な、顔馴染みの美人ウェイトレス、サマーちゃんだった。

 

「まあ、色々あってな……」

「大変そうですね……では、ご注文を伺いします」

 

 それにしても、前から思っていたがギルド制服のデザイン、一体誰の趣味なんだろう。

 やけに性的に見えているのは、きっと俺だけじゃないはずだ。

 

「あのーご注文を……」

「おっと失礼。 ステーキセットを1つ、大盛りで」

 

 そう言うと、サマーちゃんは慣れた手つきで手にした用紙に注文を書き記していく。

 

「ステーキセット大盛りですね、パンとライス、お飲み物は如何いたしますか?」

「ライスで大盛り。 飲み物はコーラ」

「ふふっ、いつものですね。 かしこまりましたー!」

 

 そう言うと、サマーちゃんは厨房へと歩いていった。

 

「はぁ……にしてもほんと腹減ったな、エアの大食いが俺にも移ったか……?」

 

 それからしばらくして、受付から出てきたクリスちゃんが、コツコツとヒールの音を響かせながら歩いてくる。

 

「待たせたなーラルゴ、ちょっと座っていいか?」

「どうぞどうぞ」

「へへっ、よっこらしょっと」

 

 そう言ってクリスちゃんは、俺の向かい側の席に座る。

 よくある光景なのか、冒険者達は特に反応を見せなかった。

 

「はい、お待ちかねの品だ」

 

 クリスちゃんは、机越しに俺の名前が彫られた金色のプレートと懐中時計を渡してくる。

 

「サンキュー、確かに受け取ったぜ」

「ったく、もうなくすんじゃねーぞ?」

「うっす」

 

 俺は適当な返事を返した。

 すると、クリスちゃんは静かに溜息をつく。

 

「はぁ……一仕事終えたからかあたしも腹減ってきたなー」

「そうか? なら何か頼んでいけよ。 お題はオッサンのツケで」

「お、いいのか!」

「いいと思うぞ」

「いえーい、そうこなくっちゃ!」

 

 そう言ってクリスちゃんは、厨房から戻ってきたばかりのサマーちゃんを呼び止める。

 

「よぉサマー、注文いいか?」

「はーい、何にいたしますか?」

「じゃあナポリタンスパゲッティとコーラで」

「いや、その服でナポリタンは不味いだろ、汚れが目立っちまう」

「んなもん上手に食えばいーんだよ」

「あはは……それじゃ、ナポリタンとコーラですね、承りましたー」

「あ、できればラルゴのと一緒に持ってきてくれ」

「ええ……ステーキ冷めちまうよ」

「いいだろ? たまにはのんびり食おうぜ!」

「もう、しょうがないなぁ」

 

 クリスちゃんのようにグイグイ来るタイプの女性はカーラ以来だ。

 不思議にも妙な安息感を覚えてしまう。

 

「まあ、そこまで急いでるわけじゃないから別にいいんだが……」

「りょ、了解ですー!」

 

 そう言って、サマーちゃんは早足で厨房へと去っていく。

 

「ところでラルゴ、ついさっきおっさんに聞いたんだが……公爵に気に入られたって話、本当か?」

「まあ……」

「すっげぇ……!」

 

 そう言ってクリスちゃんは目をキラキラさせながら俺を覗き込んでくる。

 そして前屈みになった事により、よりそのどでかい胸が強調された。

 

「ぉぉ……」

「ラルゴ、一体何したんだよ?」

「えー……」

 

 ドレイクが一番惹かれた部分っていうと……恐らくはあれか……

 だとしたら、言えるはずが無い。

 

「そこはオッサンに聞いてくれ、俺にもようわからん」

「なんだよ、勿体ぶりやがって」 

「にしてもすごい尊敬してんだな、ドレ……公爵のこと」

「当たり前だろ? なんたって特級冒険者(ブリンク)だぞ?」

「具体的には、何した人なんだよ」

「まあ、大陸の殆どを開拓した人だって言われてるよな。 あと、意外とああ見えて部下の面倒見がいいんだ」

「それはまぁ……なんとなくわかった」

「でも、公爵が金級冒険者に目をつけるなんてのは初めて聞いたからさ、やっぱ気になるよなー」

「何度も言うが俺にはわからん、本人かオッサンに聞いてくれや」

 

 そうこうしていると、サマーが料理を乗せたワゴンを運んできた。

 既にステーキは鉄板の上でじゅうじゅうと美味しそうな音を奏でている。

 冷めるかどうかの心配は、ただの杞憂だったようだ。

 

「おっ、きたきたー!」

「へへっ……じゅるり」

「お待たせしましたー」

 

 そう言って、サマーちゃんは俺たちの前に料理を並べていく。

 俺の前には、ジョッキに入ったコーラと、皿一杯に盛られた白いご飯、そして鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てる、400gの牛肉ステーキ。

 添えられたられたポテトとニンジン、掛けられたソースの香りがより食欲をそそる。

 

「うおー、相変わらず美味そうだ」

 

 クリスちゃんの前には、大盛りのナポリタンスパゲッティと、ジョッキに入ったコーラが置かれている。

 

「ご注文は以上でよろしいですか?」

「ああ、ありがとう」

「では、ごゆっくりどうぞー」

 

 そう言って、サマーちゃんはワゴンを押して去って行った。

 

「うほほ、いただきまーす!」

「いえーい!」

 

――カン!

 

 意味も無くコーラの入ったジョッキで乾杯をする。

 同時に、二人同時にジョッキに入ったコーラを口に運んでいった。

 

「んぐっんぐっんぐっ……! ぷはぁ!」

「かぁーっ! 久々に飲んだが、生き返るぜ!」

 

 喉を流れるキンキンとしたコーラが、乾いたの身体の中に染み渡ってたまらない。

 

「ぷふっ、あたし達なんかおっさんくせーな」

「気にすんな、誰にもこの瞬間を邪魔することはできないのだ」

「へへっ、そうだな! けぷっ」

 

 クリスちゃんは、気が抜けたのか小さくげっぷをこぼした。

 

「あっ」

「わ、わりぃ……」

 

 若干の羞恥心はあるのか、クリスちゃんは顔を赤らめた。

 

「あ……あざとい……」

「な、なんだよ?」

「いや、なんでもない……」

 

 俺は気にしない素振りをしつつステーキの肉を切り分け口に運んでいく。

 

「うん……美味しい!」

 

 絶妙な脂の量と硬さで、やはり絶品である。

 何かマーシア達に内緒で贅沢しているような気分になってしまった。

 

「なぁ、ラルゴ。 冒険者狩りに襲われたって話、本当なのか?」

 

 クリスちゃんはナポリタンのソースを飛び散らしながら俺に問いかけてくる。

 案の定、白黒基調のギルド制服の節々に赤いソースが沁みこんでしまっていた。

 たまに受付嬢に返り血がどうのって話題になることがあったが、その正体はこれか……

 

「ああ、本当だぞ。 それがどうかしたか?」 

「いや、だって冒険者狩りに襲われて帰ってきたのなんてお前が初めてだぞ? ひょっとして自覚なかったのか?」

「それは初耳だったわ……だが確かに、俺もエアがいなかったら駄目だったかもしれない」

「そうなのか……まあ、運と仲間に恵まれて良かったじゃんか」

「ほんとその通りだよ。 思い返すと冷や冷やする事ばかりだ、今のPTの誰か1人でも欠けていたら俺はここにいなかったかもしれん」

「そうか……大事にしろよ、仲間の事」

「当たり前だ、言われるまでもない」

「へへっ」

 

 そう言って、クリスちゃんは力なく笑った。

 

「ところで、オッサンが忙しいってのはやっぱ冒険者狩り絡みか?」

「そうだな。 今大急ぎでリベルタス方面の手続きを進めてるところだ」

「ほほう……かたやナポリタンを食い荒らす美少女……」

「あたしは休憩時間だからいーんだよ! 気にすんな」

「ははは……それはさておき、今後のリベルタスはどうするんだ?」

「うーん、明日あたりには指示が下りると思うぜ?」

「そうか、仕事が早いとこっちも動きやすくて助かるな。 さすがはギルド本部様!」

「だろぉ? あっ、なんだあれ!」

 

 突然クリスちゃんが天井の隅を指差した。

 

「ん、なんだ? なにもないぞ」

「へへっ、油断したな!」

 

 するとクリスちゃんは、切り分けていた俺のステーキにフォークを刺し、そのまま口に運んでしまう。

 

「あっ! きたねぇぞ!」

「うーん、相変わらず美味しい、絶品絶品!」

「おいおい、普通に欲しいって言えばいいじゃねぇか」

「へへっ、あたしは欲しい物は奪い取る! そんな日和った真似はしねぇのさ!」

「只の食事なのに……賊じゃないんだから」

 

 そう口走ると、クリスちゃんは一瞬凍りついた。

 

「お、どうしたクリスちゃん?」

「い、いやなんでもない。 にしても、本当に美味しいな」

「ここの飯が好きすぎてヴァリスから離れない冒険者がいるぐらいだしなー」

「あはは、気持ちわかるわ。 で、ラルゴはラスターを追ってまたリベルタスに戻るのか?」

「いや、明日もドレ……公爵に呼び出されていてな。 なんでも会わせたい人物がいるんだと」

「公爵が会わせたい人物か……」

「うーん、誰だと思う?」

 

 そう言ってクリスちゃんは深く思案した。

 

「ヴァリスの王様……は影薄いしなぁ……あっ! 魔術学院の学院長とか?」

「魔術学院というと、本部の向かい側にある金持ち御用達の魔法教練施設か」

「そーそー、金だけあっても素質が無きゃ門前払いされるけどな」

「なるほどなぁ……だとしたら、俺の魔力の才を見出して……?」

 

 自分で言って思ったが、俺がやってるのはブーストした魔力でゴリ押ししているだけだ。

 特別何かをしているという自覚は無い。

 

「まあ、金級の中じゃラルゴは頭一つ抜けてる印象あるからなー」

「ほー、内勤目線だとそうなるのか」

「ま、あくまで金級の中ではだけどなー。 白金級なんてもっとやばいのがごろごろしてるし」

「へー……」

「あはは、そんな顔すんなよな。 なんにせよ、あの公爵に気に入られるってのは相当だからな?」

「それはまぁ……ありがたいこって」

「ちゃんと期待に応えろよー、ラルゴ……」

 

 ふと、クリスちゃんは壁に掛けられた大時計を見てハッとした顔をする。

 つられて視線を移すと、時計の針は午後の3時をさそうとしていた。

 

「おっと……流石にそろそろ戻らねーとかな」

 

 そう言ってクリスちゃんは、ソースが飛び散ったままの制服姿で席を立った。

 

「おいおい、その格好で戻るのか?」

「汚れちまったもんはしゃーねーだろ、それじゃあなラルゴ! また飯でも食おう」

 

 そう言ってクリスちゃんは、伝票を持ったまま受付へと戻って行った。

 

「あらら、行っちまったわ……」

 

 すると、困惑した様子でサマーちゃんが俺に喋りかけてくる。

 

「あはは……クラリスティさん、結局あの格好のまま行っちゃったんですね」

「まったく、お行儀の悪い子だよ」

「でも、あんなに楽しそうなクラリスティさん、久々に見ましたよ」

「そうなのか? これも俺の魅力の為せる技かね」

「どうでしょう……」

 

 サマーちゃんは露骨に困った顔をした。

 確かに今のはおっさん臭かったかもしれない。

 

「さて、俺も行くとするかな」 

「はい、ありがとうございました!」

「ごちそーさま、多分また近いうちに来るよ」

「お待ちしてまーす」

 

 俺はサマーちゃんの営業スマイルに見送られながら、ギルド本部を後にした。

 

――それから、ヴァリスの都市を歩く事数分。

 多種多様な工房が軒を並べる職人達の聖域、ヴァリス西の工房街へと辿り着いた。

 俺はドレイクの紹介状に添付されていた地図を頼りに坂を登っていく。

 暫く歩いていると、辺りから鉄を打ち鳴らす音が響き出し、大きな煙突から立ち上る煙の臭いが鼻を掠めた。

 

「凄い熱気だな。 これならさぞ良い物が出来そうだ」

 

 やがてその端にある、2階建ての小さな工房の前に辿り着いた。  

 扉の横にある看板には、小さくブリギッドの工房と書かれている。

 

「たのもー!」

 

 俺は工房の木扉をノックした。

 

「はいはい、ちょっと待ってなー」

 

 中から活力のある姉ちゃんの声が返ってくる。

 ドレイクが進める職人と聞いて、どんな偏屈爺が出てくるものかと思ったが、嬉しい誤算だ。

 

 間もなくして、その扉が開く。

 

「待たせたなー!」

 

 中から現れたのは、背の高い小麦色の肌をしたお姉ちゃんだった。

 肩甲骨まで伸びる赤髪のポニーテールに、青い瞳、そしてとても整った顔立ちをしている。

 纏っているのは黒のチューブトップに半ズボン、そして作業用の手袋に白と黒のエプロン。

 そしてそのエプロン越しにわかる、はちきれんばかりの胸……

 

 クリスちゃんもそうだが、今日はやたらと巨乳に縁がある気がする。

 

「そんなじろじろ見てどうした? ウチに見惚れちまったか?」

 

 ブリギッドと名乗った姉ちゃんは、そう言って陽気に笑った。

 くしくも、性格も若干クリスちゃんよりな気がする。

 

「いやいや、何を言っておる……あんたがブリギッドか?」

「ははは! なんだその喋り方。 いかにも、ウチがブリギッドだけど……君は?」

「俺はラルゴ、金級冒険者だ」

「へぇ、ラルゴかぁ。 わざわざウチの工房を訪ねるなんて通だねぇ」

 

 そう言ってブリギッドは眩しい笑顔で応える。

 

「ドレイクからアンタを頼れって言われてさ。 こいつが紹介状だ」

 

 俺は懐から出した紹介状をブリギッドに手渡した。

 

「ぶっ!」

 

 すると、ブリギッドが驚いて吐いた唾が俺の顔にかかった。

 なんつー量だ……しかも、妙にねばついている。

 

「わ、わりぃ! ちょっと確認」

 

 そう言ってブリギッドは紹介状の封を開け、その内容に目を丸くした。

 

「うわぁまじかぁ……まじだよ」

「な、何か不味かったか?」

「ばっか! 公爵直々の推薦だよ? 君……一体何者?」

「まあそこは……かくかくしかじかで」

「とりあえず中に入ってくれ! 公爵推薦のお客様に失礼があっちゃウチの首が危ない」

 

 既に唾をぶちまけられてるわけだが……まあいいか

 

――俺はブリギッドに案内されるがまま、工房の中へと入っていく。

 

 

会話(特にHシーン)の♡マークについて

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