※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第34話 動き出す影

――薄暗い洞窟の中、揺らめく炎に照らされて浮かび上がる7つの影。

 その中の1つ、貝のような頭をした老魔術師、スカラー・シェルキオールがしわがれた声を上げた。

 

「皆、よく集まってくれたのう。 紹介しよう、こちらはシーラから借り受けてきた助っ人じゃ」

 

 すると、傍でそれを見ていた筋骨隆々とした褐色の禿頭の男、ロッシュが声をあげる。

 

「おお、イクスにマニタリではないか! これは心強いのう!」

「そうか、お主は既に知り合いじゃったな……まあよい、二人とも自己紹介を頼む」

 

 そうスカラーが促すと、変わった形の黒い帽子を被った白髪赤眼の女が、そっけなく言葉を漏らした。

 

「私はイクス、心躍る決闘(デュエル)ができると聞いてここに来た。 ……誰が相手してくれるの?」

「馬鹿者、ここにおるのは味方じゃ! お主の相手は後でたんまり用意してやるわい」

「そう……」

 

 続いて、赤に白の斑点模様の入った、大きな笠を被った男が声をあげる。

 

「あっしはマニタリでやんす。 見ての通りの魔法使いで白兵戦は苦手でやんす、以上」

「うむ、今後も折を見てシーラの所から人を借りる予定じゃが、当面はこのメンバーで仕掛けようと思う」

 

 すると、その視線の先で金黒入り混じった髪色をした冒険者の男、ヴォイドが声をあげた。

 

「嘘だろ爺さん!? 仕掛けるったって、たった7人しかいねぇじゃねぇか」

「本当はあと二人はいた筈なんだがのう……ヴォイドよ、お主ともあろうものが、あの程度の相手から金級冒険者の2人すらも連れ戻せないとは思わなんだ……」

「そ、それは違うぜ爺さん! 途中までは上手くいっていたんだ……あの野朗の邪魔さえ入らなければ……」

 

 それを聞いて、ロッシュは大きく笑った。

 

「グハハハハハ! スカラー殿のお気に入りと聞いて期待しとったが、蓋を開けてみればとんだボンクラじゃったのう!」

「ええい、よさぬかロッシュ! 今は仲間同士いがみ合っている場合ではないわ」

「グハハハハ! まったくもって過保護じゃのう! レイジー、お主もそう思わんか?」

 

 ロッシュは傍にいた隈の目立つ紫髪の女、レイジーに笑いかける。

 

「どうでもいいです……」

 

 そう言って、レイジーは1人その場をあとにした。

 

「なんじゃあ、愛想の無い奴じゃのう」

「放っておけ。 ときにヴォイドよ、何があったのか詳しく説明してもらおうか」

 

 そうスカラーが促すと、ヴォイドは静かに言葉を紡ぎ出す。

 

「ああ……シーマとグローリオの野朗だが、ここに来る途中で1人の冒険者に遭遇したんだ。 マリスリングの副作用か、奴ら妙に好戦的になってやがってな、オレの静止も聞かねぇで勝手に挑んでいきやがった」

「ほほう、それで?」

「勿論オレだってフォローはしたさ……だが、あの野朗……とてつもねぇ強さだった。 少し判断が遅れてたら、オレの命も危なかったぜ……」

「ほう……今のお主をそこまで圧倒するとはのう……一体何者じゃ」

「俺もあんな奴初めて見たぜ……赤い髪をした若い男だ、服装も特別目立ったもんじゃねぇ……だが、オレの術を見て一目でレガリアの技術だと看破しやがった……間違いねぇ、あいつはレガリアの脱走兵だ」

「それはまた、厄介な奴がいたものじゃのう……」

 

 二人が暗い表情をしていると、ロッシュは大きく笑いかけた。

 

「なあに、ここにおるのはシーラ様が選りすぐった最高峰の魔族ばかりじゃ、ドンと大船に乗った気持ちでおればええ!」

「ちょっとロッシュはん、無駄にハードル上げんでくださいよ」

「グハハハハ! お主も不安か? マニタリよ」

「はっ、別に……」

「かっかっか、心強いのう! ときに、例の冒険者はどうした?」

「無論、既に始末しておる。 レイジーの目の前で始末してやったからのう、間違いないわい! グハハハハ!」

「そうか、よくやったぞロッシュ」

「なあに、これもシーラ様の為じゃ!」

 

 薄暗い洞窟の中に、ロッシュの笑い声が響いていく。

 

「そうじゃ、お主らにこれを渡しておこうと思う」

 

 そう言うと、スカラーは懐から逆十字を象った紫のネックレスを取り出し、居合わせた魔族達に配りだした。

 

「なんじゃあ、このけったいなアクセサリーは?」

「そやつは小型化した反封印の逆十字(アンシール・クロス)、封印を緩和する力がある」

「へぇ……」

「こんなんにそないな力が?」

 

 イクスとマニタリは、手渡されたアンシール・クロスをまじまじと見つめている。

 

「こんなんとは失礼な。 儂とシーラが、封印の十字架(セマンテリオン)を解析してようやくそこまで実用化できたんじゃ! 謂わば研究の賜物……とはいえ、流石に完全に封印を無力化するまでには至らんかったからのう、あまり過信はせんでくれ」

「グハハハハ! まあ俺様がこれを必要とする相手がいるとも思えんがのう!」

「んで、これからどうするんでさあ?」

「うむ、この調子なら次の赤い満月の夜(ブラッディナイト)にはオリジナルのアンシール・クロスが実用化できる見込みじゃ。 パラレリアから援軍を呼ぶにあたって、本格的に下準備を整えておく必要がある」

「へぇ……具体的には?」

 

 そうイクスが問いかけると、スカラーは隅に縮こまった4枚羽の美女の異形に声をかける。

 

「ラクシャーサ、場所の目星はついておるのじゃろう?」

 

 言われて、ラクシャーサはぎこちなく声を返した。

 

「あ、ああ……勿論だ」

「……? お主にしてはやけに元気がないのう、何ぞあったのか?」

「い、いや! なんでもねぇ! 気にするな!」

「そ、そうか? ならよいが……」

「……」

 

 その様子を、マニタリは怪訝そうな表情で見つめている。

 

「リベルタス限定って言ってたからな、徹底的に調べあげてきたぞ!」

 

 そう言って、ラクシャーサは懐から乱雑に地図の書かれた羊皮紙を取り出した。

 

「どうだ、ラクシャーサ様のリベルタス徹底網羅マップだ!」

 

 それを見て、イクスは静かにごちる。

 

「汚い字。 これじゃ何が書かれているのかわからないわ」

「あぁん!? テメェあたしをなめてんのか? やるかコラ!?」

 

 突如怒り出したラクシャーサが、イクスを睨みつける。

 

「ええ、受けて立つわよ」

 

 そう言ってイクスはゆっくりと背中に背負った大剣を引き抜くと、ラクシャーサを睨みながら禍々しい魔力を放った。

 

「ええい、よさぬかと言っておる!」

 

 怒ったスカラーが二人の間を遮る。

 

「だ、だがよぉスカラー……あいつ、あたしの事馬鹿にして」

「いい加減にせんか! 儂はお主の保護者ではないのだぞ!」

 

 そう言って、スカラーはラクシャーサの手から羊皮紙をひったくった。

 

「グハハ! ラクシャーサよ、これは一本取られたのう!」

「ふふふ、命拾いしたわね鳥さん」

「くっそぉこいつら……」

「抑えろラクシャーサ。 鬱憤は冒険者相手に晴らせば良い。 それでじゃ、お主の書いた地図じゃが……」

 

 そう言ってスカラーは手にした羊皮紙を見る。

 

「なるほど……霊峰エルプルに、イバンの沼地、ヴェルデの廃墟、リプス島か……」

「ハッハッハ! どうだスカラー! どれも魔素の濃い、いい場所だったぞ!」

「よく見つけてきてくれたのう、でかしたぞラクシャーサ」

 

 それを聞いて、ラクシャーサは満面の笑みを浮かべる。

 そこに、間を置かずしてマニタリが口を挟んだ。

 

「いや、ちょっと待ってくだせぇ」

「あぁ!? あたしのチョイスに文句でもあんのか?」

「確かにラクシャーサはんの選んだ場所は、どれも魔素の濃い場所かも知れないでやんす。 ですがね、スカラーはんは封印の影響を失くす道具を作っておるんでしょう? なら、わざわざこんな辛気臭い場所選ばんでも、器の調達に困らん場所がいくらでもあるんじゃないですかい?」

 

 それを聞いて、スカラーは小さく呟く。

 

「確かに、マニタリの言う事にも一理あるのう……」

「だんなの事だ、どうせ各地のギルドに諜報員を仕込んでおるんでしょう?」

「それはまあ、そうじゃが……」

「なら、リベルタスにある4つの街を一斉に蜂起させたほうが効果的なんじゃないですかね?」

「それも考えなかったわけではないが……些かリスクが高すぎるのではないか?」

「だんなぁ、このご時世リスクなんぞにびびってたら勝てる戦も勝てなくなりますぜ?

「ううむ……」

「ならどうでしょう、ここにいる全員で決を取るってのは?」

「……いいじゃろう。 マニタリの意見に賛成と思うものは手をあげよ」

 

 そうスカラーが呟くと、ロッシュとイクス、そしてヴォイドがこれに賛同した。

 

「ううむ……どうもシーラ傘下の者達は血の気が有り余っているようじゃのう」

「当然じゃあ。 俺様は戦う為にここに来たんじゃからのう!」

「それについては、私もロッシュと同意見」

「そうかそうか。 ヴォイド……お主が手を上げたのは意外じゃったが」

 

 そう言ってスカラーは静かにヴォイドを見据える。

 

「いや爺さん、マニタリ……さんの言う通りだ。 このままチマチマやってたって、ギルドが本腰を入れたらどこまで保つかわからねぇ……なら、ここらでデケェ軍隊を呼び出した方が勝ちの目はあるんじゃねぇか?」

 

 すると、ラクシャーサが怒りの叫びを上げた。

 

「おい、ざっけんな! あたしの調査が無駄になるだろーが!」

「いや、無駄にはならんじゃろうて。 いざ戦いが始まれば、尚の事よ」

「本当かぁ? 本当なんだな?」

「ああ、気に病む必要はないぞラクシャーサ。 お主が調べた情報は有意義に活用させてもらうでの」

 

 そうスカラーが宥めると、ラクシャーサはころっと態度を変える。

 

「ならいいや、あたしもその作戦に乗らせてもらうぜ!」

「そうかそうか、ならば満場一致で決定じゃの」

 

 すると、ヴォイドはマニタリに静かに問いかけた。

 

「んで、具体的にはどうするんだ? マニタリさんよ」

「急に強気になりましたなぁヴォイドはん。 まあええ、あっしの考えとしてはこうでやんす。 リベルタスにはヴォラス、デュシィ、ノトス、アナトレーの4つの町がありますやんな」

「ああ……」

「そこにあっしらが赴くと同時に、諜報員達を蜂起させて一斉にギルドを掌握する。 現地でこさえた冒険者達はあっしたちが精神操作(ソウルハック)で手駒にできますし、ヴァリスにさえ連絡させなければ、援軍も暫くは現れんでしょう。 それまでに、どれかの町を守り抜けばあっしらの勝ちでやんす」

 

 それを聞いて、ヴォイドは不満げに呟く。

 

「リベルタスの各町に所属している冒険者達の数はざっと50~100って所だが、仕込んである諜報員は大体10人くらいだ。 こんだけで本当に町を落とせるのか?」

「何をおっしゃります、その為にあっしらを呼んだんでしょうが」

「ああ……そうだったな……それで、連絡の手段はどうする? 各町のリーダーには共鳴石(レゾナンスストーン)を持たせちゃいるが、生憎貴重品でな、この人数の分は用意できそうもないぜ」

「心配には及びませんて、こいつを使いやしょう」

 

 そう言ってマニタリは、懐から赤地に白の斑点が入ったキノコを人数分取り出した。

 

「なんだこりゃ……毒キノコ……?」

「ノンノンノン、これはあっしの使い魔で、1つ1つが共鳴石のように連絡端末としての機能を持っているでやんす」

 

 そう言ってマニタリは連絡キノコを全員に配った。

 

「試しに、誰か喋ってみてくだせぇ」

「グッハッハ! 中々珍妙じゃのう!」

 

 そうロッシュがキノコに笑いかけると、善人のキノコが、同じように笑い声をあげた。

 

「グッハッハ! 中々珍妙じゃのう!」

「うるさっ……耳がツーンとしたわ」

「なんじゃとイクス! 聞きやすくて助かるじゃろうが!」

「聞きやすくて助かるじゃろうが!」

 

 全員のキノコが、狭い空間の中で一斉に反響しだす。

 

「あーストップ、全員のがロッシュはんの声を拾い上げて地獄ですわ」

「ぐぬぬ……」

「まあ大体こんな感じでやんす、内緒話に向かないのと、火に弱い事だけ気をつけてもらえれば、後は無敵でやんすね」

「ううむ、面白い魔法じゃな。 距離はどれくらいまで届くのじゃ?」

「パラレリアの端から端までテスト澄みでやんす、その手の心配は必要ありまへん」

 

 そうマニタリが豪語すると、ヴォイドはほっと胸をなでおろした。

 

「そうか……これで当面の問題は解決できたな。 で、いつ仕掛ける?」

「ノトスじゃ既に諜報員に行動を起こさせてしまっているんでしょう?」

「レイジーの事か? 確かに、ラルゴを始末するのにあいつの手を借りたが……」

「なら、早速落としに行きましょうや」

「なっ、これからか!?」

「仕込みは早ければ早いほうが有利でやんす。 ちゃいますか?」

「あ、ああ……爺さんが良いってんなら、俺は特に異論は無い」

「うむ……儂は問題ないぞ」

「なら、決まりでやんすね」

 

 それを聞いて、ロッシュが腕をポキポキと鳴らしていく。

 

「グハハ! 腕がなるわい!」

「いや、ロッシュはんとラクシャーサはんには別の仕事があるでやんす」

「なんじゃいマニタリ、俺様をはぶくたぁいい度胸じゃねぇか」

「まあまあ落ち着いて。 ロッシュはんにはヴァリスとノトスの交通の要衝、エルプルブリッジを潰してもらいたいんですわ」

「ははーん、なるほどのう。 それでヴァリスからの援軍を断とうというわけかいの」

「ご名答でやんす。 あんなどでかい橋落ちたら、ヴァリスの対応も後手にまわるさかい、その間に残りの3つも落としちまおうって寸法でやんす」

 

 すると、再びラクシャーサが怒り出した。

 

「待て待て待て! ラクシャーサ様をこのハゲの足に使おうってのか?」

「それだけじゃないでやんすよ、ヴァリスとの街道を行き来する伝令を潰す重要な役割があるでやんす。 これは他でもない、空を飛べるラクシャーサはんにしかできない事でやんす」

「んなの、ただの雑用じゃねーか!」

「まさかこんな立派な仕事……引き受けてくれねーんですかい? だとしたら今まで計画したのも全部練り直しでやんすね……」

 

 そう言って、マニタリは露骨にしょげて見せた。

 

「ばっ馬鹿、そうは言ってねぇだろ! わぁーったよ、このラクシャーサ様にしかできねーってんならやってやるよ!」

「流石はラクシャーサはん! 賢い上司を持つと部下も楽でやんすなぁ」

「はっはっは! よせよキノコ、褒めても何もでねーぞ!」

 

 おだてられたラクシャーサは、満面の笑みをこぼしている。

 

「スカラーはん、以上でやんす」

「うむ、異論は無いぞ。 ヴォイド、レイジーを呼んでこい」

「ういっ」

 

 そう言って、ヴォイドは洞窟の外へと歩を進めて行った。

 

「さて、すぐに門を作るでな。 皆の衆、準備を済ませておくのじゃぞ」

「じゃあ、俺様達はもう行くとするか、行くぞラクシャーサ様よ」

「おう! わりぃが全力で飛ばせてもらうかんな?」

「グッハッハ! 上等じゃ!」

 

 そうしてロッシュとラクシャーサも、忙しく洞窟内を去っていく。

 

「それにしてもマニタリよ、お主も中々野心家じゃな」

「はぇ? なんのことでやんすか?」

「惚けなくともよい。 お主が何か企んでおるのはわかっておる」

「企むだなんて、また人聞きの悪い。 あっしはただ、1から成り上がるのが好きなだけでっせ。 シーラ様の下で甘い蜜を吸い続けるのも悪かぁないんでやんすがね、やっぱ魔族たるもの、自分で功を立ててなんぼでしょってね」

「いずれ儂も下克上されるときが来るかもしれんのう、かっかっか」

「へっはっはっは!」

「……」

 

 そうして、不気味に笑う二人をイクスは冷ややかな視線で見つめていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

――月明かりが照らす洞窟の入り口で、大きな白馬、ラグナレクに餌を与えるレイジーの横をラクシャーサとロッシュが通りすがった。

 

「おおレイジー、こんなところにおったか。 そろそろ仕事の時間じゃぞ、準備せい」

「あの……二人は一体どちらへ?」

 

 そうレイジーが尋ねると、ラクシャーサが凄んだ。

 

「あぁん? おめぇには関係ねぇだろが!」

「グッハッハ! まあそう大した用でもないわい、帰りを心待ちにしとくがよい」

「うるせぇ、とっとと行くぞハゲ!」

「ま、待たんか! ぬおおおぉぉぉ!!」

 

 そう言ってラクシャーサはロッシュを掴むと、音速で空へと飛び立っていった。

 

「はぁ……なんなの一体……」

 

 そして、レイジーは1人項垂れる。

 

「うう……もう嫌!」

 

――ガン!

 

 悔しさの余り岩壁を殴りつけると、ひびが入った岩壁にじんわりと赤が滲んでいく。

 赤くなった拳を見つめていると、ふと後ろから現れた影がそれを掬った。

 

「レイジー、ヒステリーの時間は終わりだぜ」

「ゼットさん……今度は何をしろって言うんですか……」

「まあそうカリカリすんなや」

「貴方……私にラルゴさんを始末させておいて、よくもそんな事が言えますね!」

 

 そう言ってレイジーは振り向くと、怒りの眼差しを向ける。

 しかし、目の前にたった男はこれを意にも介さず、逆にレイジーを壁にドンと押し付けた。

 

「気にすんなよ、お前が直接手にかけたわけじゃねぇ。 やったのはロッシュだ」

「そんなの屁理屈です……」

「今更正義感が目覚めたってか……面白ぇな、お前が斡旋した依頼で何人犠牲になったと思ってんだ?」

 

 そう言うと、レイジーはぼろぼろと涙を零し始める。

 

「貴方達が人質を取るなんて卑怯な真似をしなければ、誰がこんな事!」

「シーッ、あんまりでかい声出すと爺さん達に聞かれちまうぜ?」

「はぁ……」

 

 レイジーが大きく溜息を漏らすと、ヴォイドはゆっくりと離れた。

 

「さ、さっさと準備しな。 これから大仕事だぜ」

「今度は一体何をするつもりですか?」

「これからノトスを落とすんだよ。 ったく、また説明すんのもめんどくせー。 次からは勝手に席外すんじゃねーぞ」

「お願いです、教えてください」

「……急遽予定が変わってな、これから全員でノトスを落としに行く事にしたんだ」

 

 それを聞いたレイジーの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 

「そ、そんな……それじゃ約束が違う!」

「安心しろよ、お前の家族に手出しはしないさ。 いくら魔族ったって心はあるんだ。 話が通じないわけじゃねぇ」

「ううぅ……」

「ま、どの道お前に帰れる場所なんざねーんだ、家族を守りたかったらきびきび働くこったな」

「わかりました……」

「んじゃ、先行ってるぜ。 さっさと準備を済ませて中に来な」

 

 ヴォイドはレイジーの肩をポンと叩くと、洞窟の中へと戻って行った。

 

「ううぅ……うああぁぁぁ……」

 

――月が陰る中、レイジーはラグナレクに寄りかかり、1人声にならない叫びを漏らした。

 

 

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