※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第35話 潜行

――陰る月の下、人気の無い海岸線を臨む丘陵地に、突如として禍々しい門が現れた。

 そして低い音を立てながら門が開いたかと思うと、中から幾つもの影が姿を現れる。

 

「ぜぇ……流石に5人同時は負荷が尋常じゃないのう……」

 

貝殻のような頭をした老魔術師、スカラーが息を切らしながらしわがれた声を発した。

 

「やはり便利でやんすね、転移魔法っちゅーもんは」

 

 毒々しいキノコのような笠を被った男、マニタリが感心した様子で呟く。

 

「お主らも使えれば、儂がこんなに苦労する必要もないんじゃがのう」

「ほな、今度ご教授頂いてもよろしいでやんすか?」 

「かっかっか、そう簡単に覚えられるものなら苦労せんわい」

 

 そう言って、スカラーはしわがれた声で笑った。

 

「さて、いくらこちらの戦力が整っていると言ってものう……闇雲に仕掛けるわけにもいかんじゃろう?」

「そうでやんすね、ではここはあっしが――」

「待ってください!」

 

 ふと白馬、ラグナレクに跨る紫髪の女、レイジーが声を大にした。

 

「なんでやんすか、そんな慌てて」

「スカラー様、約束しましたよね? 私の家族には手を出さないって」

「はて、そうじゃったかのう?」

「スカラー様!」

 

 レイジーはそう言って強くスカラーを睨む。

 

「かっか、冗談じゃよ。 そうカリカリするでない」

「へっはっは、家族の為でやんすかぁ……健気でやんすねぇ……」

「……黙ってください」

「おー、怖い怖い」

 

 そう言ってマニタリは視線をそらした。

 

「……お願いします……町の人達を傷つけないでください……」

「かっかっか、それはお主の働き次第じゃのう」

 

 レイジーは静かに唇を噛み締める。

 

「わかりました……私がやります」

「なあに、お主は既に儂の作品の1つなんじゃ、それくらい造作もないじゃろうて」

「……はい」

「もし追加の薬が必要ならここにあるぞい」

「いえ! 問題ないです!」

 

 そう言うと、レイジーは青ざめた表情のまま魔力を練り上げ、静かに手を翳した。

 

「――生成(ジェネレイト)、D(ダーク)・シーカー……」

 

 すると、宙に描かれた魔法陣の中から、人の頭ほどの大きさをした、蝙蝠の翼を生やした目玉のような魔物が現れる。

 

「行って、D・シーカー」

「ギュチ!」

 

 レイジーが指示すると、目玉の魔物はノトスの町へと羽ばたいていった。

 

「ほぉ……けったいな魔法でやんすなぁ……」 

「気になるか、マニタリよ?」

「ええ、とても」

「かっかっか! 教えてやらんわい」

「チッ……だんなも人が悪いでやんすねぇ」

「すまんのう、こうも出来が良いとつい独り占めしたくなってしまうんじゃよ」

「レイジーはんも難儀なもんでやすんねぇ、こんなマッドなだんなに目付けられて」 

「静かにしてください……集中できません……」

 

 レイジーは怒りを必死に堪えた声音でそう呟く。

 

「おー、これは失礼」

「かっかっか、何せ使い魔の視覚にも気を回さないといけないからのう、あまり気を紛らせてはならんぞ」

「視覚の共有でやんすか……これはまた……」

「さて、レイジーよ。 町の様子はどうじゃ?」

「はい……例の聖女様の騒動のせいで、冒険者の数が普段とは比べ物にならないくらい多いです……あっ!」

「どうしやした?」

「……白金級パーティ、ヴァリアント・ヴァンガードの姿が見えました」

 

 それを聞いて、金黒入り混じる髪の男、ヴォイドが口を挟んだ。

 

「ヴァリアント・ヴァンガード、聞いたことあるぜ……通称VV(ブイツー)、3本腕のアメイル、魔装戦士ゴネス、獣使いマスパートにアマナの剣豪マサシ……殆どが前衛で構成されたイカれたパーティだってな」

「ほぉ、強いでやんすか?」

「俺も直接見たことはねぇが、全員が白金級成績表に載ってるくらいの猛者って話だ」

「猛者!?」

 

 黒い帽子を被った白髪赤眼の女、イクスが驚きの声を漏らす。

 

「熱い決闘(デュエル)の予感がするわ」

「ありゃりゃ、イクスはんに火が付いてしまったでやんす」

「待て待て! これ程の冒険者を相手にするのは流石に想定外だぞ!?」

「あっ、さてはヴォイドはん、怖気づいたでやんすか?」 

「いや、そうは言ってねぇが……」

 

 やや弱腰なヴォイドに構わず、マニタリは静かに問いかけた。

 

「レイジーはん、ざっと見てどれくらいの数がおるでやんすか?」

「80……90……100……といったところでしょうか……」

「ほぉ、そりゃぁ豊作でやんすねぇ」

 

 マニタリは1人嬉しそうな声をあげる。

 

「待てマニタリ、勝算はあるのか?」

「へっはっは、勿論でやんす。 正直あっしとイクスはんだけでもいけそうでやんすね」

「なっ……!? VVはどうするんだ、いくらお前達でも……」

「VV? イクスはんに任せとけば問題ないでやんすよ、ねぇイクスはん?」

「こくっ」

 

 イクスは静かに頷いた。

 

「些か信じられねぇが……」

「不安なら尻尾を巻いて逃げてもいいでやんすよ、別にあっしらは止めやしないんで」

「っ……どうする爺さん?」

 

 その問いかけに、スカラーは笑いながら答える。

 

「かっかっか、大した自信じゃのう。 ならいっそ、任せてみるとするか」

「流石、話がわかるでやんすねぇ」

「お主らの力を見越しての事よ……期待しておるぞ、イクス、マニタリ」

「こくっ、任せて」

「この程度朝飯前でやんすよ」

 

 そう言って、二人は余裕の笑みを浮かべた。

 

「そんじゃ、あっしらは町に繰り出すんで、3人は町から人が逃げないようしっかりと監視をお願いするでやんす」

「了解じゃ」

 

 スカラーが返事したのを確認すると、マニタリは静かにレイジーに視線を移す。

 

「それで、例のVVとやらは何処におるでやんすか?」

「ええ、ノトス東の酒場に入っていきました……」

「了解でやんす。 んじゃ西門から入って、イクスはんはそのまま東の酒場に向かう感じになるでやんすかねぇ」

「こくっ、心得た!」

 

 イクスはやや興奮した様子で声を返した。

 

「ヴォイドはん、万が一あっしらが取りこぼした時は諜報員の方達と連携してなんとかしてくだせぇ」

「ああ、わかったぜ」

「それとイクスはん、できるだけ強そうな奴は殺さないで欲しいでやんす、貴重な戦力になりやすから」

「こくっ」

「ほんと頼みやすよ、そこだけ心配でやんす」

「問題ない」

 

 そんな二人の会話を聞いて、焦ったレイジーが問いかける。

 

「待って! 町の人達はどうなるの!?」

「へっはっは、利口にしてればなーんも酷いことはしないでやんすよ」

「……本当ですね? 穏便に済むんですね?」

「ふぅ……ちょっとくどいでやんすね……」

 

 そんな二人を見て、スカラーはほくそ笑んだ。

 

「かっかっか、レイジーよ、たまには仲間を信用したらどうじゃ?」

「ですが……」

「なんならお主も一緒に行くかえ? 儂は構わんぞ」

 

 レイジーは俯きながら静かに呟く。

 

「……失礼しました」 

「そいつは残念……それじゃ、あっしらは行ってくるでやんすよ。 作戦開始は連絡キノコを通じて行いやすんで、耳を澄ましといてくだせぇ」

「了解じゃ、任せたぞマニタリ、イクス」

「こくっ」

「ほな、また後でーでやんす」

 

 そう言って、マニタリとイクスはノトスへの西門へ向かって街道を歩いていった。

 そんな二人を見送りながら、ヴォイドは静かに問いかける。

 

「爺さん、本当にこれで良かったのか?」

「なあに、仮にあ奴らがくたばったとしても自分で言い出した事じゃ。 儂らがシーラに責められる言われはないじゃろうて」

「こりゃあまた、薄情だな」

「じゃがなヴォイドよ、味方の力をしっかりと見極めておく事も大事じゃろうて。 以前はそれを見誤って拠点を1つ失う事になったからのう」

「ははは……正直スカル・マダガーもかなり強かったがな……今度の奴らはどうだろうな」

「かっかっか、楽しみじゃのう。 さあ、儂らも持ち場につくとしよう」

「わかった」

 

 そう言って歩き出す二人を、レイジーは馬上から黙って見つめていた。

 それに気づいたヴォイドは、振り返って言葉を投げかける。

 

「おい、レイジー! もたもたすんじゃねぇ」

「はい……」

「それと、改めて言っとくがよ……オレ達を裏切ろうなんて妙な考え起こすんじゃねぇぞ? てめぇの生殺与奪権は全部爺さんが握ってるんだからな」

「わかってます……わかってますから!」

 

 レイジーは迷いを隠すように、ノトスの北門に向かってラグナレクを走らせた。

 

「さーて、大丈夫かねぇあいつは」

「なーに問題ないじゃろうて。 最悪、精神操作(ソウルハック)すれば良いだけじゃからのう」

「おや? 性能が鈍るから嫌だとか言ってなかったっけか?」

「まあ、あくまで最終手段の話じゃ。 そうならないに越した事はないのう」

「あの調子じゃ、なんとも言えねぇがなぁ……ま、あとはあのキノコ野朗がヘマしないのを祈るだけか」

「まあ今は信じるしかあるまいて。 ヴォイドよ、お主の方の首尾はどうじゃ?」

「ああ……間もなく到着するぜ」

 

 その言葉と同時に、ヴォイドの前に黒装束の男達が音も無く現れる。

 

「お待たせしましたヴォイド様、我ら10名、既に準備は出来ております」

「おう揃ってるな。 話はさっき伝えた通りだ、西門に4人、東に4人、後の二人はオレ達について来い」

「御意」

 

 そう返事をすると、8人の黒装束の男達は音も無く去って行った。

 

「さーて、これでノトスからは1人も逃げられねぇだろうよ」

「かっかっか、楽しみじゃのう。 後はこやつが鳴るのを待つだけじゃ」 

 

 スカラーの手には連絡キノコが握り締められている。

 

「あやつらがどう動くのか……精々見届けさせてもらうとしようかのう」 

 

 

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