※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第36話 呪いの挑戦状

――ノトスを囲う、人ひとり分の高さはあろう長い白煉瓦の塀。

 その西の切れ目にある大きな鉄柵の門扉の前には、長槍を手にした二人の中年の男冒険者が眠そうに立っていた。

 

「ふぁ~あ、相変わらず暇だぜ……」

「なんだ、暇で何よりじゃねぇか。 突っ立ってるだけで報酬が出るんだ、こんな楽な仕事他にあるかって話だろ?」

「はっ、ちげぇねぇ。 それにしてもなんか……」

 

 冒険者の1人が、すんすんと鼻を鳴らす。

 

「なんか美味そうな匂いがしねぇか?」

「言われてみればそうだな……くそ、無性に腹が減ってきやがったぜ!」

 

 何処からか運ばれてきた香ばしい匂いが、二人の空腹感を煽った直後、街道から1組の男女がふらりと姿を現した。

 

「おっ? 何だあいつら?」

「妙な格好だが……冒険者か?」

 

 それを見た門番達は、警戒しながら二人に声をかける。

 

「そこの二人! 止まりな!」

「何……」

 

 それに対して、白髪の美女、イクスが鋭い眼光を飛ばすと、門番は思わずたじろいだ。

 

「まあまあイクスはん、ここはあっしに任せて欲しいでやんす」

「……わかった」

 

 打って変わって、毒々しい笠を被った男、マニタリが明るい口調で応える。

 

「夜遅くまでご苦労さんでやんす。 そう警戒しないで、同じ冒険者仲間でしょうに」

 

 そう言ってマニタリは胸にかけた白金製のプレートをチラつかせた。

 

「なんだ冒険者か……肝が冷えたぜ……こんな時間まで聖女様の捜索でもしてたのか?」

「ご名答でやんす。 いやーしかし、簡単には見つからないものでやんすねぇ」

 

 そうぼやくマニタリの下へ、二人の冒険者は近づいていく。

 

「一応身元を確認させてもらうぞ……って、白金冒険者じゃねぇか!」

「なっ……ラスター、VVに続いて3組目か……こんな辺鄙なところによく来……たな……?」

 

 突然、二人の冒険者の目が虚ろになったかと思うと、おもむろに門を開いた。

 

「……どうぞ、お入り、ください」

 

 そうぎこちなく呟く門番の首裏には、いつの間にか茶色い笠に覆われた小さなキノコが生えている。

 

「へっはっは、悪いでやんすねぇ」

「マニタリ、早く!」

「焦っちゃだめでやんすよイクスはん。 後ちょっとなんでやんすから」

 

 そう言って二人は門を潜ると、残った門番に指示を飛ばした。

 

「んじゃお二人はん、今からあっしが指示するまで、町から1人も出しちゃ駄目でやんすよ」

「……わかっ、たぜ」

 

 そう言って冒険者の二人は門を固く閉じた。

 

「いやぁちょろいもんでやんすねぇ、全く仕事がしやすい限りで……」

「マニタリ、もう行っていい?」

「全く、決闘の事になると急にせっかちになるでやんすねぇ……どうぞ、行ってくだせぇ」

「うん!」

 

 そう言うと、イクスは足早に東へ向かって歩いていく。

 

「やれやれ、イクスはんは奔放でいいでやんすねぇ……んじゃ、あっしは端からじわじわ行くとするでやんす。 冒険者が集まってるところと言えば、やっぱりギルドでやんすかねぇ……」

 

 マニタリは微細な魔力の粒子を撒き散らしながら、ノトス西にあるギルドへと向かった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

――多くの冒険者達で賑わいを見せるノトス東の酒場。

 埋まった席の各所から香ばしい料理の匂いが漂う中、一際異彩を放つ冒険者達の姿がある。

 スタイルの違う3人の剣士と、1人の獣使いで構成された白金冒険者パーティ、ヴァリアント・ヴァンガード。

 今宵、聖女探索のついでに魔物を狩った報酬で、今まさに宴に洒落込もうとしているところであった。

 

「それじゃ、今日も生き延びた俺たちと、聖女様の生還を願って……乾杯!」

 

 乾杯の音頭と同時に、酒場の入り口のスイングドアが小さく音を立て、1人の背の高い白髪の美女、イクスがふらりと姿を現した。

 

「うお、なんだあの美女は……」

「ヒューッ!」

 

 男だらけの空間に突然現れた美女を前に、酒場のあちこちで感嘆の声があがる。

 しかし、そんな男達の視線など意にも介さず、イクスは中央で卓を囲むVV(ヴァリアント・ヴァンガード)の元へと歩いていった。

 

「グルルルルル……」

 

 徐々に近づいてくるイクスに対して、独特の赤い装備に身を包んだ獣使い、マスパートの傍に寄り添っていた金茶入り混じった毛色をした犬型の魔獣が小さく唸り声を上げる。

 

「どうしたスタンド、しーっ……」

 

 マスパートが指示を出すと、魔獣スタンドは嘘のように大人しくなった。

 イクスはそのままVVの卓の前で止まると、静かに口を開く。

 

「失礼」

 

 それに対して、獣使いのマスパートはさも不機嫌そうに応えた。

 

「なんだぁ嬢ちゃん? 今盛り上がってるところなんだ、後にしてくれねぇか?」

「そう邪険にするなマスパート、俺たちが誰だかわかって尚こっちに来たんだろう?」 

 

 緑色の甲冑に身を包んだ、浅黒い肌の男、マサシがそれを制する。

 

「ええ、そうよ。 私はイクス。 君達よね、VV(ヴァリアント・ヴァンガード)って」

「おうともよ。 ま、今は辛気くせー話は抜きだ。 姉ちゃんも飲もうぜ!」

 

 そう言ってマサシは空いていた木製のコップにエールを注ぎ、イクスに渡した。

 

「何?」

「何って酒だよ、まさか飲めねぇわけじゃねぇよな?」

「こくっ。 じゃあ、これを飲んだら私のお願い聞いてくれる?」

 

 そんなイクスの言葉には耳も傾けず、マサシは自分のコップに注がれたエールを一口で飲み干した。

 

「んぐっんぐっんぐっ! ぷはぁ! やっぱこの瞬間が一番生を実感できるぜ!」

「ねぇ、ねぇってば」

「うっせーな! 注がれた酒を飲み終えてから物申せや!」

「おいマサシ」

 

 青い甲冑と赤いインナーに身を包んだ男、アメイルが怪訝な顔でイクスを見やる。

 

「この女、何かおかしいぞ……あまり関わらないほうが……」

「なーに余計な心配してんだアメイル、こんな姉ちゃん1人に臆す程のタマかよ?」

「それはそうだが……」

「姉ちゃんよぉ、そいつを飲み干したら話を聞いてやるってんだよ」

「……わかった」

 

 そう言ってイクスはなみなみとエールが注がれたコップを手に取ると、それを一口で飲み干した。

 

「んぐっんぐっんぐっ! ぷはぁ」

「おーいけるクチだねぇ、姉ちゃん」

 

 ほろ酔い状態ではしゃぐマサシとは裏腹に、イクスはいたって冷静に言葉を返す。

 

「さあ、今度は君が約束を守る番よ」

「いいぜ、聞いてやるよ。 んで、なんだ? 話ってのは」

 

 言われて、イクスは真剣な眼差しで答えた。

 

「私と決闘(デュエル)して」

「あぁ? なんつった?」

「だから、私と決闘……1対1で戦ってって言ってるの」

「ぷぐっ……ぎゃっはっはっは!」

 

 イクスの奇怪な提案に、酒場は爆笑の渦に包まれる。

 

「何がおかしいの?」

「ヒィ……すまねぇな、まさか俺たちをVVと知って挑んでくる命知らずがいるとは思わなんだ」

「そう? 君達が今この町で一番強いんだよね?」

「さては姉ちゃん、生粋のバトルマニアかぁ? おもしれぇ、相手してやるよ」 

「待てマサシ」

 

 そう制したのは、黄と緑を基調とした特注の鎧に身を包んだ男、ゴネスだった。

 

「この話、俺たちにとって何の旨味もない。 イクスといったな……わざわざ宴に割り込んできてこんな提案をするなど、不躾にも程があるだろう」

「確かに、言われてみりゃあその通りだな。 わりぃな姉ちゃん、この話無かったことにしてくれや」

 

 それを聞いてイクスは僅かに落ち込むが、すぐに気を取り戻して言葉を紡ぎ出す。

 

「……君達が勝ったら、1日の間私を好きにしてくれて構わない。 それならどう?」

「なっ……」

 

 それを聞いて、酒場に居合わせた男達は下卑た視線をイクスに送った。

 よくよく見返せば、目の前に立つのは誰もが息を呑むような美女。

 やや人間離れした白すぎる肌に、すらりと伸びた長い脚、ボディラインの誇張される戦闘服からは、その豊満な乳の形がくっきりと浮かんでいる。

 

「よっしゃあ! 乗ったぜ! ただし条件を変えろ、最初に姉ちゃんを倒した奴が1日自由にしていいってな!」

「なっ、マサシ貴様! 抜け駆けとは!」

「たりめぇーだ、誰がおめぇらなんぞと共有するもんか!」

 

 それを聞いて、酒場のあちこちからブーイングが巻き起こる。

 

「独り占めとは! 卑怯だぞ!」

「それでも白金級冒険者か! 思いやりはねぇのかよ!」

「黙りやがれ! この姉ちゃんは最初に俺を指名したんだ、そうするのが筋ってもんだろう? なぁ!」

 

 そう強く主張するマサシは、目の前に立つイクスを強く見据えた。

 

「私はそれで構わない。 ただし、こちらからもルールは設けさせてもらう」 

「なんだぁ? 自分に有利なルールにしたいってか?」

 

 そう凄むマサシの視線など物ともせず、イクスはただ冷静に言葉を紡ぎだしていく。

 

「他に参加したい者がいるなら、私は構わない。 やる順番も好きに決めて。 ただし、あくまで決闘は神聖な儀式……1対1以外は認めない。 そして、後から逃げるのも許さない」

「なんだぁ、そんなことかよ……」

「それと、君達VVのメンバーは全員参加すること。 これについては妥協するつもりはない」

 

 すると、マスパートが口を挟んだ。

 

「……決闘自体は構わんが、俺は獣使いだ。 スタンドがいなけりゃ俺は本領を発揮できねぇ」

「わかった。 その子も君の一部としてカウントする。 それなら問題ない?」

「あぁ……了解だ」

「へへへ、心配すんなよマスパート。 どの道お前まで出番が回ってくる事はねぇ! さあ、早速やろうぜ姉ちゃんよ」

「わかった。 腕の自信がある者はこれを取って」

 

 そう言ってイクスは、懐から特殊な紋様が刻まれた札の束を取り出すと、それをVVの卓の上に並べた。

 

「なんだこれは?」 

「決闘(デュエル)チケット。 これを受け取った瞬間、参加は受理される」

「ははっ、おもしれぇ」

「よせ!」

 

 マサシがチケットに手を伸ばそうとすると、アメイルがこれを制止した。

 

「あの女……何かやばい気がする、」

「バカヤローが、サシで女1人倒せずに白金級が名乗れるかっつーんだよ!」

 

 そう言ってマサシがチケットを引っ手繰ると同時に、VVのメンバー全員の手元にチケットが現れた。 

 

「なっ、僕はまだ触っちゃいないぞ!?」

「言ったはず。 君達全員に戦ってもらうと」

 

 そうイクスが冷たく呟くと同時に、さっきまで盛り上がっていた酒場の中が嘘のように静まり返る。

 

「他にも、我こそはと言う者はそのチケットを取って。 私は君達との心躍る戦いを心待ちにしている」

 

 そう言ってイクスは酒場の外へと歩いていった。

 

「はっはっは! 何びびってやがる、要は勝ちゃあ良いんだ、正々堂々正面からなぁ! あの姉ちゃんは俺のもんだ!」

 

 そう言ってマサシが外へ出て行くと、何人かの冒険者達がチケットを取り、後に続いていく。

 

「仕方ない、僕達もいこうか」

「ああ」

「なあに問題ないさ、いくら酒が入っているからとはいえ、タイマンでマサシに勝てる奴なんていやしない……あんなどこの誰ともわからない馬の骨が勝てるものか」

 

 ゴネス達が外に出ようとすると、やや気弱そうな酒場のマスターがこれを呼び止めた。

 

「すいません冒険者さん……こちらも商売なんでね、御代くださいや」

「ああ、そうだったな。 ほらよ」

 

 そう言ってゴネスは、やや怒り気味にガルド金貨をカウンターに叩きつけた。

 

「ま、まいどあり! 健闘を祈ってます……ってあれぇ?」

 

――ふと店内を見渡すと、先程まで盛り上がっていた筈の男達は、いつの間にかこぞって店の外に移動している。

 そして、卓の上に取り残されたチケットの束が、風に吹かれて散っていった。

 

 

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