※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第37話 魔剣士イクス

――石造りの建築物が立ち並ぶ中、開けた土の往路の上で15m程の間隔を空けて向かい合う二つの影。

 1人は身の丈程の大剣を担いだ銀髪の女戦士、イクス。

 かたや全身に緑の甲冑を纏い二本の刀を構えた剣士、マサシ。

 そして往路の脇では、多くの冒険者達がこれから始まる戦いを一目見ようと胸躍らせていた。

 

「チケットを取ったのは君を含めて10人か。 思ったより少ないね」

「なあにいらん心配よ、どのみち後の奴らに順番が回る事なんて無いからな」

「良いわね……君みたいに自信満々な人、嫌いじゃないわ」

「おう、これからもっと好きになるぜ」

 

 そう言ってマサシは下卑た笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、改めて説明させてもらう。 1対1で先に戦えなくなった方の負け。 私は戦えればそれでいい、君達が勝てば1日の間、私の事を好きにしてくれて構わない。 それで問題ない?」

「おうよ、シンプルでわかりやすいじゃねぇか。 それで、戦える戦えないは誰が判断するんだ? 参加者の独断か?」

「勝敗はそのチケットが判断する。 それまでは思う存分戦ってほしい」

「上等じゃねぇか」

「それと……」

 

 イクスは改めて息を整えると、その場にいる全員に言い聞かせるように言葉を放った。

 

「勝敗がついていないのに戦いを放棄したり、外野が細工するような事があれば容赦しないから」

 

 周囲のギャラリーがざわつく中、マサシは不敵な笑みを浮かべる。

 

「安心しろって、そんなつまんねぇ真似はしねぇからよ」

「そう、ならいい」

「まったく心配性な姉ちゃんだぜ……いつまで焦らすつもりだよ?」

「そうね……始めるとしましょうか」

 

 イクスが宣言すると同時に、二人の間にマサシの持った決闘チケットが浮かび上がった。

 そして、その中に10という数字が浮かび上がる。

 

「おぉ? どんなからくりだこりゃぁ?」

「それは決闘の始まりを告げるカウント……0と同時に戦いの幕が上がる」

 

 イクスの言葉と同時に、チケットの中の数字は徐々にその数を減らしていく。

 

「なるほどな……」

 

 マサシは左の腰に提げた鞘から一振りの刀を引き抜き、腰を落として水平に構えた。

 対するイクスは、左手を前にし、背中の大剣を右手で握っている。

 

「何の構えだ、ありゃあ……」

 

 そうマサシが疑問を抱いてる内にも、カウントは徐々にその数を減らしていく。

 

――3……2……1……

 

 そして、数字が0になると共にチケットが赤く輝きだす。

 同時に、イクスは一直線にマサシへと駆け出した。

 

「大剣を持った女にしては速いと言えるが……俺からしてみれば素人と大差はねぇな……」

 

 イクスが間合いに入ると同時に、マサシはその胴体目掛けて目にも留まらぬ速さで刀を振るう。

 

「へっ、胴ががら空きじゃねぇか!」 

 

――カン!

 

 しかし、イクスはなんなくこの一撃を大剣で防いだ。

 

「なっ、いつの間……」

 

 瞬間、イクスの長い脚が無防備だったマサシの腹に突き刺さる。

 

「ぐほぁッ!」

 

 予想外の痛手に手にした刀を落とし、砂埃を巻き上げながら後ろへスライドしていく。

 

「なんつー蹴りだ……大剣は囮で、本命は体術だってのか……ごぶッ!」

 

 呟くと同時に、口から血を噴出す。

 見れば、自慢の緑の甲冑は鉄槌で打たれたかのように拉(ひしゃ)げていた。

 

「おい、今の見えたか?」

「いやまったく……」

「なんだあの女……あのマサシが押されてやがるぞ」

 

 ギャラリーがどよめき出す中、イクスは再び駆け出していく。

 それを見たマサシは気持ちを切り替えると同時に、鞘に納まったもう1本の刀に手を掛け、居合いの構えを取った。

 

「体術が本命だとわかりゃぁ、それに備えりゃいいだけの事……」

 

 そして再びイクスが間合いに入ったかと思うと、そのまま身体を翻しながら飛び込んできた。

 

「っ!」

 

 奇怪なイクスの動きに翻弄されながらも、マサシは持ち前の歩法で即座に距離を離す。

 

「そう、なら……――竜巻旋風剣(サイクロンブレード)!」

 

 すると、イクスはそのまま大剣を大きく広げて独楽(コマ)のように回り出し、そのままマサシに襲いかかった。

 慌てて距離を離そうとするも、それは徐々に勢いを増しながら迫っていく。

 

「ちぃっ! 受けるしかねぇ……――秘剣、登龍!」

 

 マサシは即座に剣を抜き、防御に適した方を取った。 

 

「出た、アマナの剣技の十八番! 激流を制するかの如く相手にカウンターを叩き込む必殺剣、登龍だぁっ!」

「うぉおおお! いけぇえええ!」

 

 ギャラリー達が盛り上がりを見せる中、暴風のように迫り来るイクスの剣撃の渦と、マサシが激突する。

 

――ガキンッ!

 

「ぐおおっ!?」

 

 接触と同時に、いともたやすく構えを弾かれ……

 

――ブオンッ!

 

「ッ!?」

 

 続くニ撃目で、マサシの身体が宙に浮かび上がると共に鮮血が舞い散った。

 

――ドッ!

 

 そのままマサシは、激しく地面に叩きつけられ気を失ってしまう。

 

「マ、マサシッッッ!」

「う、嘘だろ……あいつが負けるなんて……」

 

 歴戦の友の敗北する姿を前に、言葉を失うVV(ヴァリアント・ヴァンガード)のメンバー達。

 イクスは大剣を再び背面に背負うと、倒れるマサシ目掛けて走っていく。

 

「お、おい! あの女まだやる気かよ!」

 

 すると、不意に宙に浮いていた決闘チケットがイクスの前に現れた。

 そこには大きく赤い文字で、ENDと書かれている。

 

「はぁ、物足りないわ……」

 

 イクスは大きく溜息をつくと、血の滴る大剣を背中に収めた。。

 それを横目に、独特の赤い装備に身を包んだ獣使い、マスパートが倒れたマサシの元へ駆けつけていく。

 

「マサシ! 生きてるか!」

 

 マスパートがマサシの容態を確認すると、僅かに反応があった。

 

「生きてるぞ! 早く手当てを……っ!?」

 

 そう口にした途端、マスパートが持っていたチケットが再びイクスとの間に浮かび上がる。

 そこには無常にも、10という数字が刻まれていた。

 

「次は君ね」

「なっ! 待て、今はそれどころじゃ……」

「それはできない。 エントリーは既に受理された」

 

 そうイクスが告げると同時に、無常にもカウントは進みだす。

 

「くっ! アメイル、ゴネス! マサシを頼む!」

「おい、マスパート!」

「やるしかないだろう!」

 

 そう言ってマスパートは懐から一振りのナイフを取り出すと、マサシ達から距離をおくように走り出した。

 

「スタンド! 来い!」

 

――フュイー……

 

「バウバウ!」

 

 マスパートが指笛を吹くと同時に、金茶入り混じった毛色をした相棒の魔獣、スタンドが冒険者の列の中から躍り出る。

 それと同時に、チケットの数字は0を示し、赤く輝きだした。

 

「さあ、始めよう!」

 

 開始と同時に、イクスはマスパート目掛けて駆け出していく。

 

「来やがった! スタンド!」

「バウッ!」

 

 対するマスパートは、相棒のスタンドをイクスの死角に回りこませ、自身は懐から何本ものナイフを取り出して備えた。

 

「……」

 

 それに対して、イクスは真っ直ぐマスパートを見据えたまま走り続ける。 

 

「――ハウリング・コンビネーション!」

 

 マスパートがナイフを投げると同時に、スタンドが耳を劈くような咆哮を放った。

 

「――バウウゥゥン!」

 

 あまりの音量にギャラリー達が耳を塞ぐ中、イクスは何食わぬ顔で飛来するナイフをキャッチし、続けて襲い来るナイフを黙々と弾き落としていく。

 

「馬鹿な……」

 

 マスパートは気圧されつつも両手にナイフを構え、なおも迫り来るイクスに備える。

 そしてイクスが肉迫すると同時に、その背後から首筋目掛けてスタンドが飛び掛った。

 

――間合いに入ると同時に、大きな縦の円を描くように振り下ろされたイクスの斬撃。

 

「――!?」

「――ッ!!」

 

 気づけばマスパートとスタンドは一刀の元、縦に両断されていた。

 衝撃的な景色に、ギャラリー達は言葉を失う。

  

「スタンド! マスパートォォォ!」

 

 そんな中、戦いの行方を見守っていたゴネスが思わず大きな叫び声をあげた。

 

「あぁ……終わっちゃった……」

 

 そうイクスが呟くと同時に、マスパートとの間に浮かんでいたチケットにENDの文字が浮かび上がる。

 

「……次は誰?」

 

 それに対し、名乗り出るものは誰もいない。

 先程まで意気揚々としてチケットを握っていた冒険者達も、今ではただ青ざめた表情で震えるのみである。

 

「決められないなら、ランダムになるけど……」

 

 気づくと、各々の手に握られていたチケットのカウントが進んでいく。

 

「い、嫌だ! あんなの勝てるわけねぇ!」

「だ、大丈夫だ! お前なら! きっとお前なら勝てる!」

 

 浅ましい冒険者達の譲り合いの中、気がつけばカウントは0を回っていた。

 そして、1人のみすぼらしい男冒険者の手に握られたチケットがイクスとの間に浮かび上がる。

 

「次は君ね」

「嫌だ、嫌だぁああ! 死にたくないぃぃい!」

 

 カウントが進む中、みすぼらしい男冒険者は無我夢中で走り出した。

 イクスはただ、走り去ろうとする男の背中を静かに見つめている。

 

「……」

 

 そして、チケットのカウントが0になると同時に赤く光り出した。

 男冒険者の姿は今にも皆の視界から消え去ろうとしている。

 

「神聖な決闘を穢すなんて……許さない……」

 

 冒険者達が見つめる中、イクスの姿が靄のように消えてなくなっていく。

 

「き、消えたぞ!?」

「な、なんだありゃぁ……」

 

 ふと次の瞬間、遠くから男の叫び声が耳を突いた。

 

「ぎゃぁぁあああ!!」

 

 それを聞いて、ただでさえ気弱になっていた冒険者達が更にざわめきだす。

 

「う、嘘だよな……あんな一瞬で追いつけるわけ……」

「いやでも、今のは間違いなくあいつの声……ひっ!?」

 

 脅える冒険者の視線の先には、大剣を掲げたイクスがふらりと舞い戻ってきていた。

 そして、その大剣の切っ先には、心臓を貫かれたみすぼらしい男の姿がある。

 イクスはそのまま死体となった男を振り払うと、怒気を含んだ声音で叫んだ。

 

「言ったはず……決闘を穢すような真似をしたら容赦しないって」

 

 鋭く赤い、まるで悪魔のような眼光に冒険者達は縮み上がる。

 

「次は誰? 君? それとも君? ねぇ、早く私を楽しませてよ」

「やべぇよ……俺は軽はずみになんて事をしちまったんだ……」

「そ、そうだ! 元はと言えばお前が気軽に乗り出したから、俺だって……」

「はぁ!? ふざけんなよ、おめぇもあの時はノリノリだったじゃねぇか!」

「今更後悔したところでもう……逃げても戦っても殺されちまう……一体どうすれば……」

「ひぃっ! カウントが!」

 

 再びカウントが進み始めると同時に、黄と緑を基調とした特注の鎧に身を包んだ男、ゴネスがゆっくりと前に足を踏み出した。

 同時に、ゴネスの手元からイクスとの間にチケットが浮かび上がっていく。

 

「いいね……君からは燃えるような闘志を感じる」

「黙れ……マサシ、スタンド、マスパート……お前らの仇、この俺が討ってやる!」

 

 逸るゴネスを、青い甲冑と赤いインナーに身を包んだ男、アメイルが諌めようとする。

 

「ゴネス! 無茶だ、危険すぎる!」

「うるせぇぞアメイル! やってみなきゃわからねぇだろうが!」

 

 そう言ってゴネスは、刃が大きく湾曲した二振りのサーベルを抜くと、ゆっくりと魔力を練りだした。

 

「――エンチャントウィンド!」

 

 そうして、強い風の魔力がゴネスを包み込んだのと同時に、チケットが赤く光り出す。

 それと同時にイクスとゴネスは駆け出した。

 

「確かに、マサシやマスパート達がやられた時はあの女に対して守りの姿勢が強かった……なら、こちらから攻めに回ったらどうなる?」

 

 アメイルが見守る中、ゴネスとイクスがぶつかり合う。

 ゴネスは右のサーベルを順手に、左のサーベルを逆手に持ち、鋭く回転しながらすれ違った。

 

「――旋廻交差剣(ハリケル)!」

 

――キンッ!

 

 しかし、お互いに決定打にはなりえずそのまま距離が離れる。

 そのまま反転する両者、だが僅かにゴネスの方が速かった。

 

「食らえ! ――ツイン・ツイスター!」

 

 瞬時に翳された二本のサーベルの先から、風の魔力の渦がイクス目掛けて放たれる。

 

「……ッ!」

 

――ズボォア!

 

 振り向いた直後のイクスに、2つの水平に巻き起こる竜巻が直撃した。

 血の飛沫と破けた布が舞い散り、イクスが大きく後ずさる。

 

「まともに入った! 行けるぞゴネス!」

「ウォオオオ! ――ブースト!」

 

 ゴネスの鎧の背中の窪みから風の魔力が吹き出し、即座に加速した。

 そしてそのまま、姿勢を崩したイクスへと肉迫する。

 

「取った! ――噴射剣(ブースト・スラッシュ)!」

 

 圧倒的な加速を得た右手のサーベルが、イクスの首を撥ねんと繰り出された。

 

――カッ

 

「なっ……」

 

 完全に決まったと思っていたゴネスの一撃は、いつの間にかイクスが左手に握っていた黒いレイピアによって阻まれ、完全に勢いを殺されている。

 即座に姿勢を戻そうとするも、捨て身で繰り出した噴射によりゴネスの身体は言う事を聞かない。

 そしてその腹の先には、イクスがもう片方の手に握った大剣の切っ先があった。

 

「馬鹿……なッ」

 

――ドグシュッ!

 

 そのまま自らイクスの大剣に貫かれ、ゆっくりとくず折れていく。

 

「うぅぉぁぁ……」

「ゴネスゥゥウ!!」

 

 アメイルが叫ぶのと同時に、チケットにENDの文字が浮かび上がる。

 

「うん……これよ……このギリギリのスリル……たまらないわ……」

 

 僅かに息を荒げるイクスは、うっすらと恍惚の表情を浮かべていた。

 そんなイクスを眺めながら、アメイルはチケットを握る冒険者達に静かに問いかける。

 

「なぁ君達……君達はまだ死にたくないよな?」

「あ、ああ……」

「なら、僕に手を貸してくれないか?」

「手を貸すって、どうやって?」

「簡単さ。 あの女、攻撃は凄まじいが防御に関しては僅かに穴がある。 そこを君達が一斉に突けば勝てると思わないか?」

「だ、だがそれじゃあ、ルールに反するんじゃ……」

「うるさいな、やるしかないんだよ!」

 

 アメイルは既に正気ではなかったが、残るチケットを持った冒険者達にとってはそれが残された最後の希望のように思えた。

 

「や、やらせていただきやす……」

「話がわかるじゃないか……作戦はこうだ。 決闘開始と同時に、あの女は必ず僕に突っ込んでくる。 無論僕も応戦する、さっきのゴネスと同じようにね。 そして、振り向いた直後のあの女に君達が一斉に仕掛ける。 どうだ、簡単だろう?」

「あ、ああ! そ、それならいけるかもしれねぇ!」

 

 そう影で話し合うアメイル達に、イクスはやや上機嫌な様子で問いかける。

 

「ねぇ、次は誰? またランダムに決めるの?」

「……次は僕だ」

 

 アメイルが一歩踏み出すと同時に、二人の間にチケットが浮かび上がった。

 そして、アメイルは2本の直剣を背中から抜くと、両手に握り締める。

 

「VVは君で最後だね。 さあ、楽しみましょう」

「ああ……皆の仇……討たせてもらうよ」

 

 そうして、カウントが0になると同時にチケットが赤く輝きだした。

 同時に、イクスとアメイルは同時に駆け出していく。

 イクスに向かいながら、アメイルは自身を覆う魔力を練り上げる。

 

「エンチャントグランド!」

 

 アメイルの身体を重々しい地の魔力が覆うと同時に、二人がぶつかり合う。

 

――カァン! 

 

 お互いに刃を振り合う。

 

「ぐっ……!」

 

 しかし、無傷のイクスに対して、アメイルはかろうじて致命傷を避けたと言う状態であった。

 

「何が防御に穴があるだ……VV最強のゴネスだから肉迫できただけじゃないか……」

 

 背中を向けたままのアメイルに対し、イクスは素早く反転し、大きな踏み込みの後再び駆け出そうとする。

 

 直後……

 

――ドスッ!!

 

 「かはぁっ!?」

 

 不意に外野から飛来した投槍がイクスを貫いた。

 

「ふっ……かかったね!」

「ひ、卑怯……」

 

 空かさず振り返ったアメイルが距離を詰め、両手の直剣をイクス目掛けて振り下ろす。

 

――カン!

 

 しかし、それでもイクスは両手に持ったレイピアと大剣でアメイルの攻撃を防いだ。

 

「まだそこまで動けるなんて驚いたよ……けどね!」

 

――ドッ!

 

「ッ!?」

 

 不意に、一本の刃がイクスの心臓を貫く。

 

「ははっ! やった! やったぞ!」

 

 それはアメイルの背面から伸びた、尻尾状の魔術武装であった。

 

「ぐぅぁあああアア!」

 

 イクスが凄まじい怨嗟の声を吐きながら地面に倒れる。

 傍から見てもその傷は深く、立ち上がる事は不可能だと思われた。

 

「うおおおおお!」

 

 無事思惑通り事が運び、歓喜する冒険者達。

 

――フォオン……

 

 喜びも束の間、握り締めていたチケットにALERTの文字が浮かび上がると、それは各々の胸の中心へと張り付いた。

 

「な、なんだこりゃぁ!?」

「は、剥がれねぇ!」

 

 突然起こった事態に冒険者達はたじろぐ。

 首謀者のアメイルですらそれは例外ではない。

 

「なんなんだよこれは! 剥がれろ、剥がれろよ!」

 

 しかしいくら剥がそうとしても、チケットは胸にへばりついたままびくともしなかった。

 

「なんなんだよこれはぁ……はっ!」

 

 ふと視線の先には、先程まで倒れていたイクスがゆっくりと起き上がっていた。

 

「嘘だ! 完全に仕留めた筈なのに!」

 

 そのままイクスの腕に禍々しい魔力の渦が集中していく。

 そして、それは青黒い回転式拳銃を形作った。

 

「な、なんだよありゃあ……」

「あの奇怪な物は一体……」

 

 驚く冒険者達を余所に、イクスは黙々と呟き続ける。

 

「魔銃よ……決闘を穢した不浄なる魂を撃ち抜き給え……」

「おいお前! 何をやって――」

 

――バキュゥウン!

 

 甲高い発射音が鳴り響くと同時に、アメイルを含んだ6人の冒険者達が同時に地面に倒れた。

 そしてその胸から噴出した血の渦が、満身創痍のイクスの身体の中に吸い込まれていく。

 

「ふぅ……」

 

 すると、イクスの身体は何事もなかったかのように元通りになった。

 

「最悪よ……こんなつまらない幕切れだなんて……匪賊(ひぞく)には、誇りもないというの?」

 

 怒り心頭といった様子で、イクスは地面を蹴る。

 するとその前に、毒々しい笠を被った怪しい風貌の男、マニタリが姿を現した。

 気づけば、辺りに立っていたギャラリー達は皆虚ろな表情をしている。

 

「マニタリ……終わったの?」

「こっちは万事完了でやんす。 しかしまぁ……」

 

 マニタリは目の前に広がる倒れた冒険者達の姿を見やった。

 

「あんっだけ釘を刺したのに、イクスはんはほんまに手加減ちゅうもんが下手糞でやんすねぇ」

「ごめんなさい、悪気はなかったの……」

「それで済んだら魔神様はいらないでやんす……まあ、そこの死体はあっしが有効活用させてもらうでやんすけど……まさかVVの4分の3の息の根を止めるとは、流石に想定外だったでやんすよ……」

 

 そう嘆くマニタリに、イクスはおどけた表情で返す。

 

「でもこいつら、そうでもなかったよ?」

「イクスはんからしたらそうだったとしてもね、あっしから見たら貴重な戦力だったんでやんすよ……おかげで性能大幅ダウンでやんす、とほほ……」

 

 すると、マニタリが手にした連絡キノコからしわがれた老人の声が鳴り響いた。

 

「マニタリ、首尾はどうじゃ?」

「あいあい、ノトスは無事制圧完了したでやんす。 そちらはどうでやんすか?」

「なんと! もう仕事を終えたのか!? こちらは西、北、東共に何も起こりはせんかったが……」

「そうでやんすか、そしたら早いとこ合流してしまいやしょう。 今後についても、色々備えなきゃならないでやんすから」

「うむ、そうだな。 ではこれからそちらに向かう。 大人しく待っておれ」

 

 連絡キノコはその言葉を最後にぷっつりと鳴り止んだ。

 

「マニタリ、もう強そうな奴はいなかった?」

「やれやれ、まだ戦い足りないでやんすか? いたとしてもイクスはんに壊されるのわかってて言う奴がどこにおんねんって感じでやんすが」

「ぶぅ、ケチんぼ」

「……」

 

 マニタリは心底呆れた様子でイクスを見返す。

 

「まぁ、北部にある奇怪な宿に手こずらされたのは少々計算外だったでやんすが……」

「へぇ……そんなことがあったんだ……」

「ま、過ぎた話でやんすよ。 今となっては万事問題ないでやんすね。 さて、これからもっと忙しくなるでやんすよー」

「次はもっと強い奴と戦いたい」

「へっはっは、これからきっと出てくるでやんすよ。 イクスはんに見合うとびきりの相手がね」

「……楽しみだな」

 

――虚ろな人々の輪の中で笑うイクスとマニタリを月が静かに照らし出す。

 この夜、たった二人の魔族の手によってノトスは陥落した。

 

 

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