※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第4話  港町ノトス

――夜が明けると同時にエルプルの川原を発ったラルゴとエア。

 それから歩く事約半日、二人はようやくラルゴの故郷であるノトスの地を踏みしめた。

 

――人探しをするだけなら正直、ヴァリスで探すのが一番手っ取りはやい。だが、格好つけて出て行った手前、1日で戻るなんてだせぇ真似をするのは気が引ける……それに、田舎だからって情報が何もないとは限らないからな。

 

「まだなのラルゴ? ……ワタクシもうお腹がぺこぺこですのよ」

 

 金髪の美少女、エアが干し肉を頬張りながら疲れ顔で語りかけてくる。

 

「勘弁してくれ……どれだけ食えば気が済むんだ? 俺の分も殆ど食いやがって」

 

 事の発端は、今日の朝食だ。

 今朝、腹を満たそうと干し肉を取り出したとき、エアが異様に興味を示した。

 まさかこのご時勢、干し肉に興味を示す人間がいるとは誰も思うまい。

 俺は興味本位でエアに干し肉を与えた……それが間違いだった。

 以降、際限なくおかわりを要求され続け、気づけば2日分も用意しておいた保存食が半日で空……この女、どれだけ食い意地が張っているんだ?

 

「だってこんなに美味しい物、初めて食べたんですもの。 早くおかわりを探しに行きますわよ!」

「……そんなに美味いか?」

「ええ、とても……」

 

 たかが干し肉を食べただけでこのうっとり顔……正直羨ましい。

 この干し肉、普通に露店で売ってるレベルの低品質の肉だぞ?

 エアよ……お前は今までどれだけ過酷な食生活を送ってきたというのだ。

 

「人探しはどうしたんだ……っと、そろそろ見えてくるぞ」

 

 丘を上がると、小さな町が見えてきた。

 

 海岸線を臨む丘陵地に、石製の建築物が点々と建てられた姿が特徴的な港町、ノトスだ。

 思えばヴァリスを発ってから約1日半……本来なら1日経たない予定だったが、今はこの少女との出会いに感謝するとしよう。

 

 にしても……

 

「なんか静かだな……」

 

 快晴な空から太陽の陽射しが降り注ぐ中、潮風がエアの色白い肌を震わせた。

 

「さ、寒いですわね……」

「冬だし、海沿いだからな」

 

 確かに、防寒着とマフラーを与えはしたものの、この気候は普通の人にとっては厳しいだろう。

 エアが普通かどうかはこの際置いておく。

 

「服を見繕おう、その格好じゃ見栄えも悪いだろう」

「流石はワタクシのしもべ、気が利きますわね」

「誰がしもべだ、さっさと行くぞ」

「もう、せっかちですのね……あっ、食事も忘れてはなりませんわよ!」

 

――そうしてノトスの町を回る事数刻、

 最初に、エアの服を新調した。

 駆け出しの女性冒険者が好む、茶色の革を基調とした簡素な服と防具に、俺が渡した紺色のフード付き防寒着と真紅のマフラーを羽織らせる。

 露出の少ない暗い色合いを基調としたファッションの中、首元に巻いた真紅のマフラーが一際目立っている。

 

「どう? サマになっていて?」

「ああ……サマになってるぞ。 それとエア、人前に出る時はなるべくフードを被ってくれ」

「あら? 別に構わないけれど。 何かありましたの?」

「それはあの……あれだ、女冒険者ってのは周りから舐めた目で見られるからな、なるべく隠した方がいい」

「そういうことなら、わかりましたわ。 それにしてもラルゴ……お腹が空きましたの」

 

――ぐぅ

 

 その言葉と同時に、エアの腹が小さく唸りを上げた。 

 

「おいまたか……」

 

 俺はたまたま近くにいた、露店を開いていた恰幅の良い漁師のオヤジに声をかける。

 

「おっさん、そこの缶詰3個くれ。 スプーンもだ」

「あいよ、500ガルドだ」

「……なんか値段上がったか? まあいいか、ガルド銀貨5枚ちょうどだ」

「まいど!」

 

 そのやり取りを見ていたエアが、興味津々と言った様子で近づいてきた。

 

「ま! それはなんですの?」

「ノトスシーパーチの缶詰だな。 安価で長期間保存が効くのがウリだ。 しばらくこれで我慢してくれ」

 

 エアは喜んで缶詰を開けると、渡したスプーンでそれを口の中に運んでいく。

 

「ん~! 中々いけますわね!」

「そいつは良かった……」

 

 それにしてもこの女……凄まじい金食い虫じゃねぇか。 

 庶民舌だからかろうじて食い繋いでいけてるが……俺の手持ちもそろそろやばいんじゃねぇか?

 今500ガルド使って……残りいくら……

 

「げっ!」

「どうかしましたの?」

「路銀が……尽きそうだ」

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

――太陽が東に沈み始めて間もない頃、身支度を整え終えた俺達はノトスのギルドを訪れた。

 町の西部にある大きな石造りの平屋、ベルのついた両開きの木製ドアを開くと、寂れたカウンターと、活気の無い何人かの冒険者の姿が目に入ってくる。

 

「ここがぎるど? なんだか寂しいところですのね」

「昔はもっと活気があった気がしたが、とりあえずインフェルノについての情報を集めよう」

「任せましたわよ」

「お前なぁ……わかった、そこで待っててくれ」

 

 とりあえずエアは放置、ギルドのカウンターへと向かう。

 奥には隈の目立つ紫髪の若い受付嬢が、睡魔と格闘しているかのようにコクリと頭を揺らしていた。

 

 久々に見たぜ、ノトスの眠り姫……こいつの目を覚ますには、こうだ!

 

――チン……チン!チン!チン!チン!

 

 俺は木製のカウンターの上に置かれた、スイッチ式の呼び鈴を連打した。

 チンと高い音がギルド内に鳴り響くと、受付嬢はハッとした表情で俺を見る。

 

「ハッ、ぁーーー……ッ! ラルゴさんじゃないですか。 随分雰囲気が変わりましたね」

 

 そりゃここを出る前は生え揃っていたからな、そう言われるのも無理は無い。

 だが如何せん、口に出されると腹が立つ

 

「レイジーか。 そっちは相変わらずなようで安心したよ」

「ふふふ……懐かしいですね、久々に故郷のクエストでも受けに来ましたか?」

 

 先ほどまで気だるげだったレイジーは、俺を見ていくらか表情が明るくなった。

 俺はこの場所に戻ってきた理由をはぐらかしつつ、道すがらエアから聞いていた目的の人物を探す為、ダメ元で情報を提示する。

 

「人探しなんだが……燃え盛る炎のような頭? をした、インフェルノって男だ。 何か情報はないか?」

 

「ぁーーー、インフェルノ、インフェルノっと……残念。 今のところそれらしい情報はあがってませんねー。 そんな特徴的な髪型なら何かしら情報はありそうなものですが」

「だろうな……ここはハズレか」

 

 横目にエアを見やる。

 少女は木製の二人用の席に腰を下ろし、ギルドの入り口横にあるチラシを何枚か集めては読み進めているようだった。

 あんなチラシ見て面白いのか?

  

 そういえば、1つ気になった事があったな。 

 

「ちょっと聞きたいんだが、妙に冒険者の数が少ないのは気のせいか?」

「ぁーーー、恐らくは冒険者狩りの仕業ですかねー」

「冒険者狩り?」

「ええ、2月程前からでしょうか。 リベルタス南部で失踪する冒険者の数が急激に増えてるんです。 ギルド本部はこれらが意図的に冒険者を狙った何者かによる犯行だと見て、現在対策を進めている状況です」

「対策ねぇ、具体的には?」

「そうですねぇ、クエスト内容は今までどおり魔獣や野盗の討伐が主ですが、リベルタス南部の依頼に限っては報酬が3倍です。 こうやって強い冒険者の人たちに事件を解決してもらおうって寸法ですねー。 更にはー、原因の解決に成功した暁には、多大な報奨金を用意しております」

「報酬3倍に報奨金!? それはまた随分太っ腹だな」

 

 レイジーは若干困り顔で話を続ける。

 

「まー……ギルドとしても危険な地域に冒険者を送り出すわけですから、これくらいしないと割りに合わないかと。 実際、状況は思った以上に深刻で、金級以上の冒険者に優先してクエストを手配しているのが現状です」

「なるほどな、それで腕に自信の無い冒険者達は余所へ出稼ぎに行ったってわけか」

「まーそんなところですねー。 逆に金級以上の冒険者さんはあまりこちらに来てくれないわけですが……そうだ、ラルゴさんは金級でしたよね?」

「冒険者狩りなぁ……気になるところだが、今稼いでおかないとこの先破産するんだよな…… とりあえず現場の意見を聞きたい、誰かいるか?」

 

「それでしたらー、ちょうどそこにほら」

 

 レイジーの指の向く先を見ると、椅子に腰をかけて退屈そうにあくびをするエアに絡む、黒金入り混じった髪が特徴的な、軟派男がいた。

 あいつは……間違いない、あのクソ野郎!

 

「君ーこれからクエスト? 良かったら俺と一緒にどう? 俺金よ、金」

 

 エアは顔を背けて、愛想無く呟く。

 

「間に合ってますわ」

「まあまあ、そういわずによー」

 

 顔を背けるエアの前にしつこく回りこんだかと思うと、野郎のテンションが急激に上がったのがわかった。

 

「うおっ激マブ! こんなマブい娘と組めるなんて羨ましいな~……誰よ、PT?」

「そこにおりますでしょう」

 

そっけないエアの返しに軟派男が振り向く。

 

「ウオッ! なんだお前!?」

 

 俺は野郎を無視して、エアの手を引きギルドから出ようとした。

 

「きゃっ! どうしましたのラルゴ? 不躾でしてよ?」

 

 それを聞いたクソ野朗が、ニヤリと笑みを浮かべるのがわかった。

 

「ラルゴ? まさか、かの有名な夜明けを告げる者(デイブレイカー)とこんなところでお会いできるとは思わなんだわ~」

「黙れ、話しかけるな」

「2年ぶりくらいかな~、懐かしいっすね先輩」

 

 クソ野朗は気にした様子もなく、軽い足取りで俺に近づいてくる。

 

「いや~ここで会ったのもなんかの縁ってヤツ? 実際PT組めるヤツが少なくて心細いんだよね~オレ」

 

 野朗の手が俺の肩を掴んだ。

 

「聞こえなかったか? 次にそのふざけた口を開きやがったらぶん殴るぞ」

「オイオイそりゃねぇぜ~……あれか? お前まだアイツのこと根に持」

 

――ゴッ!!!

 

 思い切り右の拳で野朗の下顎を打ち抜く。

 ヤツは派手に吹き飛ばされ、フロアに置かれた木製のテーブルに叩き付けられた。

 

「うお、なんだ!?」

「ゼットさんが大男に殴られたぞ!」

 

 周りでくつろいでいた冒険者達が慌てて声を上げた。

 

「ぁちゃー……」

 

 レイジーはさも面倒くさそうに頭を抱えている。

 

「あらあら、派手にやりましたわね」

「……行くぞ、エア」

 

 俺は傍で心配そうに見つめるエアの手を引いてギルドを去った。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 居合わせた者達は、去り行くラルゴ達を黙って見送った。

 遠巻きに見ていた冒険者の1人が、倒れたテーブルに寄りかかっていた軟派男に声をかける。

 

「お、おい大丈夫か?」

 

 倒れていた男は突然ムクリと上半身を起こすと、ニヤリとした笑みを浮かべて血の混じった唾を吐いた。

 

「……面白ェ、覚えとけよ……ラルゴ」

 

 男は怒りの混じった声音で、静かに呟いた。

 

 




※この世界の貨幣価値、1つあたり(円=ガルド)

大型金貨:100,000円
  金貨: 10,000円
  銀貨:    100円
  銅貨:      1円

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