脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――冷たい空気が肌を刺す、得体の知れない実験器具の並ぶ一面白黒の一室の中……目の前には椅子に括りつけられた俺を見下ろす二人の特級冒険者がいる。
1人は抜群のプロポーションを誇るグラマー魔女フォーチュン、そして、それとは真逆のマニアックな体系をしたギルドの……しまった。
「誰がマニアックだって?」
一瞬語句が思い浮かんだだけだというのに、カマリはそんな俺の他愛無い心の中のリアクションすらも残さず拾い上げてくる。
「まったく、失礼極まりないね……」
――ピタッ
そういうとカマリは、不意に俺の愚息に向かって裸足になったばかりの小さな足先を乗せてきた。
「おふっ……」
突然加えられる刺激に、嫌でも身体が反応してしまう。
「うわぁラルゴ……こんな情けない格好させられてるのに感じてるのー?」
「まぁ、随分と可愛らしいボウヤだこと♡」
俺が動けない事を良いことに、特級冒険者の二人は言いたい放題である。
流石にこのままでは俺も黙っていられない。
「こんのォ……ふざけやがって!」
しかし力の限り暴れまわるも、拘束具はびくともしない。
「あはは、無駄だよラルゴ。 その椅子の上にいる限りは君の能力は無いも同然なんだから」
「何……っ!」
言われて俺を拘束する椅子に目をやると、そこには夥しい程の
本来なら
「どうかしら? 魔術学院長特製、
「……どうもこうも、最悪な気分だぜ。 何も出来ずに嬲られるだけってのは……」
「あらそう? それじゃ、少しだけお口直しに♡」
そう言って、フォーチュンは身だしなみは崩さないまま、椅子に括りつけられた俺の腕の上にその豊満な胸を乗せてきた。
「うおっ……」
「どう、気持ち良いかしら?」
「ああ……凄まじい弾力だ。 直に揉みしだいてやりたいよ」
「うふふ……残念だけど、それはダメ♡」
その言葉の直後、不意に股間に快感が走る。
ありえない……ただカマリに足を乗せられただけなのに、こうも気持ちよくなるなど……
そうして俺が驚いた顔を浮かべると、二人はくすくすと意地悪く笑った。
「ラルゴー? ひょっとして足が好きなの? 変態さんだね」
「違う! 大体お前、俺の頭の中が読めてるくせに知ってて言ってるだろ!」
「ふふふー、どうだろうね。 とりあえずここらで1回出してもらおうかなー」
「はぁ……? っ!?」
カマリが妖艶な笑みを浮かべた瞬間、不意に俺の愚息は限界を迎えてしまった。
――ドビュルルルルルッ! ドビュルルル! ビュルル!
大量の白濁が、まるで噴水のように目の前の二人に向かって解き放たれる。
「うわぁっ凄い量! ていうかこれって……」
「あら、不味いわね……」
そう言って二人は、慌てて部屋の隅に置かれた怪しげな棚の前へと走っていった。
「……はぁ?」
それから暫くして、完全に口元を覆う黒いマスクのような魔道具を付けた二人が、何食わぬ顔で戻ってきた。
「どうしたんだ? そんなもんつけて」
「いやー危ない危ない、反魔紋が属性関係ないものに反応しないのを失念してたよ」
「危うく虜にされてしまうところだったわね♡」
そう言って二人は、身体にかかった白濁を手で掬いながら再び俺を見下ろしてくる。
にしても虜にされるとは、一体何の事だろうか。
「あれー? ラルゴ、もしかして無意識にやってたの?」
「だから何の話だっての。 俺にもわかるように説明してくれ」
「ちょっとー、自分の能力ぐらい把握しとかなきゃ駄目じゃん! そんなんじゃいずれ君、問題起こすからね……って、もう起こしてたか!」
「うふふ……節操の無い悪い冒険者くんは、こうやって徹底的に躾けておかないと」
そう言って、今度はフォーチュンが俺の愚息をその艶かしい足で踏みつけてきた。
「やめろぉ! 本当に心当たりないんだっての!」
「あらあら、それを免罪符に一体どれだけの女の子を泣かせてきたのかしら?」
「と言われてもだな……」
すると、カマリは若干呆れ顔で俺に質問を投げかけてくる。
「えーとねーラルゴ。 君は今、自分がどんな力を持ってるのか解ってる?」
「俺がわかってるのは、元から得意としていた炎の魔法と、そして最近目覚めた吸収能力……あとはあやふやだが、力を分け与える事が出来る……気がする」
「うん、まぁ薄々感じてはいたけど……やっぱその程度の認識だったんだね」
俺を見るカマリの目が、段々と残念な物を見る目へと変わっていく。
そんな事を言われても、こんなもの手探りでどうやって把握しろというのだ。
「じゃあ次の質問。 その吸収能力を使って、君はどんな力を手に入れたのかな?」
「ああ……最初に気づいたのは、冒険者狩りのデーモンの一部を吸収した時に得た、雷の力だったな。 もっとも、こいつはあんまり上手く扱えないようだが……他はマーシアの再生能力に、包帯を生成する力? それとエアのタイツ作成能力に、さっき使った風魔法……ってところか?」
俺の話しを聞いたカマリは、なんとも言えない顔でため息を漏らす。
「はぁ……そりゃあ自覚が無いなら扱いようがないだろうけど、なんというか勿体ないね」
「勿体無い?」
「うん。 例えるなら今の君は、磨けば光る原石を大量に抱え込んでいるにも関わらず、それを倉庫の中にしまいこんでいるようなもんだし……しょうがない、僕の力のほんの一部だけど、君に分けてあげるよ」
――グッ
そうカマリが言った瞬間、俺の股間の上に置かれたフォーチュンの足に力が入った。
「ふおっ!?」
「マスター、それはいくらなんでも入れ込みすぎなんじゃないの?」
「うーん、ちょっと賭けかなとは思うんだけど……」
「何を迷っているんだ? まさかとは思うが、俺が裏切る心配とか、そういうのじゃないだろうな?」
「いやー……まあぶっちゃけるとそういうことなんだよね」
「なっ……」
冗談で言ったつもりだったがまさか図星だったとは。
人の心の内が読めるなら、今の俺の心を見ればそんな可能性微塵も無い事くらいわかるだろうに……
「まあそう思うよねー、普通なら。 でも今後の君についてはわからないでしょ? それに、君の中のもう1つの魂、それが一番の不安の種なんだ」
「アレグロの事か……確かにな……」
あいつは俺に対して敵対しているわけじゃないが、ギルドに対しては全くの不明瞭だ。
そんな奴を安易に信用しないのは、創設者という立場からすれば当然とも言える。
「ね? 君自身納得してるじゃん。 そんな不確定要素たっぷりの君に僕の力のちょぴっとでも貸し与えるのはどうなのかなーって」
「ぐうの音も出ないな」
「まあいいや。 メアリー、ちょっと来て」
「ええ」
そうして二人は椅子に括りつけられた俺を残したまま部屋から出て行った。
「俺はこのままなのかよ……」
――それから暫くして、結論が出たのか二人は俺の目の前に戻ってきた。
「おっまたせー、元気してたー?」
「白々しいぞ……にしても随分長かったな……」
「これでもかなり短く抑えたつもりだったんだけどねー」
「真面目に協議したら一日どころじゃすまないわよ? 良かったわね、ボウヤ」
「確かに……というかそんな重大な決め事、いくら特級冒険者とはいえたった二人で決めてしまって良かったのか?」
それを聞いて、カマリはにんまりと笑みを浮かべる。
「それは大丈夫、特級冒険者全員に決を取ったから」
「なるほど……そういえば特級冒険者同士は連絡取り合える的な事を言ってたな……」
「うん。 まあそれで結論なんだけど……満場一致とはいかなかったけど、とりあえず僕は君を信用してみようと思う」
「それはなんというか……光栄だな」
「でしょ? だからラルゴ、君も僕たちの期待を裏切らないでほしいんだ」
「勿論だ……精一杯善処する」
「そこできっぱり言えないところが逆に君らしいか……。 まあ、出来もしない事を出来るって豪語する奴よりは好感持てるよ」
そう言ってカマリは、マスクを外しながらゆっくりと俺に近づき……不意に唇を寄せてきた。
「な、何をっ?」
「うるさい、じっとして」
あっけにとられていると、突然俺の口をカマリの口が塞いできた。
「!?」
そしてそのまま、カマリの中から小さな光が俺の中に流れてくる。
目の前には目を瞑ったまま俺の唇を奪うカマリの姿がある。
視線を泳がせると、フォーチュンが空気読めとばかりに俺を睨んできた。
「……っ!」
そうしていると、徐々に俺の内に新たな力が発現していくのがわかった。
「……ふぅ」
それから暫くして、カマリはゆっくりと口を離した。
「うっ……やば……♡」
そしてすぐにカマリはマスクを付け直す。
「だ、大丈夫か? って……っおぉ!?」
ふと、頭の中にもぞもぞとする感覚が走る。。
意識をそれに集中すると、数々の文字の羅列が明瞭に浮かび上がった。
――希薄、炎、光、吸収、付与、強化、風、淫気、再生、暗視、帯、精神感応、水、生成、自己分析……
「なんだこれは?」
「見えるようになった? それが君が今持ってる能力の核だよ」
「えらいざっくりだが、なるほどな……ってこんなにあるのか?」
「ね、持て余してるでしょ? それと、後にあるやつ程新しい能力だから、これで大体どの時期にその能力が手に入ったのかわかると思うよ」
「なるほど……そしてこれが今カマリにもらった自己分析? ってやつか。 とすると……希薄ってなんだ?」
そう俺が問うと、カマリは腕を組んで考え出した。
「能力的には影が薄いとか気配が無いとかそういうことらしいけど……正直僕も初めて見たんだよね。
「不思議な事に、こいつが一番先に来てるな……」
「それが一番先に来てるってことは、それが最も君の本質に近いものなんじゃないかなぁ」
「ううむ……解せない」
俺が本来持ってる性質が希薄って……一体どういうことだよ。
そういえばラスターで活動してた時、ネリー達によく存在感についていじられていたような気もするな……
「ぷくくっ」
「おい、笑うな! 大体なぁ、これじゃ説明がざっくりすぎてよくわからねぇんだよ。 もっと詳細までわかったりしないのか?」
「そこまで与えるのは流石に……って感じかなぁ。 もっと僕の力が欲しいなら、期待に応えてくれないと」
「なるほどな……ま、そう都合良くはいかねぇか」
「それに、持ってるだけじゃ能力は伸びないよ。 ちゃんと有効活用して、自分の中で使い方を覚えないと」
「まったくその通りだな……。 待てよ? 今お前達がマスクをしてる理由って……」
それを聞いて、カマリはやれやれと言った態度を取った。
「ようやく気づいたみたいだね。 そうだよ、君が無意識に垂れ流してるむせかえるくらいの淫臭……」
「正直こんなの嗅がされたらたまったもんじゃないわよねぇ」
「淫臭……こんな如何わしい能力一体どこで手に入れたん……あっ」
そうか……最初にマーシアを助けに行った時に
その能力のおかげで女達は不思議なくらいに俺に靡いたと……そう考えると、複雑な気分だ。
大体、自分でもどこでこの能力を使っていたのかわからないから性質が悪い。
「そこまで自分を卑下しなくても……淫臭1つでパーティに加わるようなちょろい人なんて早々いないって」
「そうは言ってもなぁ……ちょっと自信無くなって来たぞ」
「実際、無意識でこれだけの威力があるんだから、意識して使えたらとんでもない能力かもね。 それに、こんな身分になってもまだ僕に弱点があったんだなってわからされた気分だよ。 ありがとね、ラルゴ」
「……そいつは皮肉で言ってるのか?」
「ちょっとだけ……ね!」
――ガシッ!
不意にカマリが、再びいきり立ったままの俺の愚息をその小さな手で掴んでくる。
「うぉぅ!? お前! もう終わったんじゃなかったのかよ!?」
「えー? 誰もそんな事言ってないよー」
「ごめんなさいねボウヤ。 召喚を伝授する前に、まだまだ貴方について調べなきゃいけないことがたくさんあるの」
「調べなきゃいけない事!? それとこの行為に何の関係があるってんだよ!」
「それが関係あるんだよねー。 創設者直々に搾り出してあげてるんだから感謝してよ」
そう言ってカマリは俺の竿を扱く速度を徐々に速めていく。
――シュッ シュッ しこしこしこしこ♡
「やっめろぉ! 一方的にやられるのは好きじゃねぇんだ!」
「だから罰ゲームなんだって。 負けた君が悪いんだから甘んじて受け入れてよ」
「君の精子には魔術学院的にも貴重な情報がいっぱい詰ってそうなのよねぇ……だから、枯れるまで搾り取らせてもらうわよ♡」
こいつら目がマジだ、恐らくやると言ったら本当にやるつもりなのだろう。
しかも、こんな状況だというのにアレグロの反応はまるで無い。
これは万事休すか……
「あっ、またイきそうみたいだね。 ラルゴー、今度はこっちにお願いねー」
そう言ってカマリは牛乳瓶を俺の竿の先端に当てて来た。
「はぁ!? まさかこいつに出させるつもりか!?」
「そうだよー。 ほらー、遠慮せずに射精しちゃいなよー、ぱーっとさ♡」
そう言ってカマリの手が光を放ったかと思うと、次の瞬間凄まじい快楽が流れ込んでくる。
「う、うおああああ!」
――どびゅるどびゅ! どびゅどどぼぼぼ!!
「うっわぁ、2回目だってのに凄い勢い……」
そうして放たれた濃厚な魔力の素は牛乳瓶をなみなみと満たした。
「本当に凄い量ねぇ……。 しかも、まだまだ元気みたい。 もうオークなんて目じゃないんじゃないかしら?」
「これ、ひょっとして無尽蔵だったりしない? だとしたら僕ちょっとだるいんだけど……」
「しょうがないわねマスター。 こういう時の為に、とっておきの魔物を用意しておいたわ」
「おおっ! 流石メアリー、魔術の研究の為なら抜かりないね」
「褒め言葉と受け取っておくわよ。 それじゃあ、おいでなさい」
――パチン!
メアリーが指を鳴らすと、白黒の部屋の奥から、ピンクの紋様の走った大きな黒い蛸のような生物が、ゆっくりと地面を這いながらこちらに向かってきた。
「な、なんだあいつは!?」
「うふふ……可愛いでしょう? 搾精に特化させた魔獣、ドレイン・テンタクラーちゃんよ♡」
「何!? 魔術学院じゃ魔獣を飼ってるのか!?」
「魔獣を使役する冒険者がいるんですもの、魔法使いが魔獣を使役したらいけないかしら?」
「いや、そうは言ってないが……うわぁっ!」
話の途中にも関わらず、この禍々しいタコは椅子に括りつけられた俺に絡みついてきた。
「まじでやめろ! 俺の触手プレイなんて何処にも需要ねぇんだよ!」
「需要あるないじゃないのよねぇ、目的は君の魔力の素なんだから」
そう言ってる間にも、蛸の足が俺の竿を包み込んでくる。
恐ろしい事に、不思議と嫌な気分がしない。
それどころか、自然と身体が高揚してしまうような……これこそが、こいつが搾精に特化してる事の由縁だろうか。
「長くなりそうだし、ワタシたちはお茶にでもしようかしら?」
「そうしよっか。 それじゃあラルゴ、聖女を耕した悪い鍬をしっかり矯正してもらってね!」
あの野朗……何食わぬ顔してしっかり根に持ってやがった……
「それじゃあまた後で。 頑張ってね、ボウヤ♡」
「おい! 待て! 待ってくれ!」
――ガチャン
大きな音と共に照明が落とされ、蛸の足が這いずり回る感触が一際鋭敏に感じる。
「うわぁぁあ! やめろぉー!」
――うじゅる♡ うじゅる♡
そのまま押し寄せる快楽と共に、俺の意識は徐々に真っ暗になっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――燦々とした太陽が照りつける昼下がり、マーシアは自由都市ヴァリスの南西部の区画を訪れていた。
立ち並ぶ石や煉瓦作りの住宅街の真っ只中に、ヴァリスの城壁まで伸びる高い塔が特徴的な大きな教会が立っており、礼拝に訪れたアスピラ教信徒達がまばらに出入りしている。
そこにふらっと現れた、邪教徒染みたマーシアの格好は、通りを行くアスピラ教信徒達の目を一層引いた。
「えっ……邪教徒!?」
「あんな格好で教会に訪れるなんて……なんて罰当たりなんでしょう……」
マーシアは逆に、信徒達に哀れむような視線を送る。
すると、信徒達はそそくさとその場を去って行った。
「あの人達もあの頃の私と同じ……何かに縋らなきゃ自分を持てない、なんて悲しい人達なんでしょう」
そのままマーシアは堂々と大きな教会の敷居を跨ぐと、そのまま正面にある礼拝堂を訪れた。
ステンドグラスから降り注ぐ光を浴びて、中央に佇む巨大な勇者の像が神々しく光を放つ中、立ち並ぶ長椅子に挟まれた中央のスペースを静かに歩いていく。
すると、その姿を見た白と黒の修道服に身を包んだシスターに呼び止められた。
「貴方! そのような格好でこの神聖な教会に足を踏み入れるなんて、一体何を考えているの!?」
「私のこの格好に何か問題でも? 神は迷える者を拒まないのではなかったのですか?」
「……っ!」
そうしてシスターが口を紡ぐと、マーシアは何食わぬ顔で勇者像に向かって歩を進め始めた。
そして、巨大な勇者像の前で足を止めると、それを見上げながら僅かに顔を曇らせる。
「どうしたのです? そんな顔で勇者様を見つめて」
マーシアが声の聞こえた方へ視線を移すと、礼拝堂の2階へと続く階段の傍で、白と金の修道服を纏ったおっとりとした雰囲気の金髪の美女が佇んでいる事に気づく。
「貴方は……司祭様?」
「ふふふ……さあ、どうぞこちらへ」
司祭とおぼしき金髪の美女は、笑顔を崩さないまま静かに頷くと、静かに2階への階段を登っていく。
マーシアはやや戸惑いを見せつつも、司祭の後を追う。
そのまま後をついていくと、やがて、礼拝堂の2階にある客室へと案内される。
そこは木製のありきたりな長机と幾つかの椅子が置かれただけの質素な部屋であった。
その殺風景な白い部屋は、清貧の心をモットーとするアスピラの教えを体言している。
「どうぞ、おかけください」
「……はい、失礼します」
やや恐縮そうにマーシアが椅子に腰掛けると、司祭の女はその向かい側に座って静かに言葉を紡ぎだした。
「こうして直接お会いするのは初めてですね、聖女マーシア」
「私の事を知っていらしたんですか? ……貴方は?」
「私は特級冒険者・サファイア、またの名をアリア・メリクと言います。 今はこのヴァリス教会でしがない司祭を務めさせていただいています」
「初めまして司祭様。 私はマーシア……おそらくご存知の通り、使命に背いた愚かな聖女です」
それを聞いたメリクは、声のトーンはそのままに、ただただ尾を引くような静かな笑い声を響かせる。
「ふふふ……ふふふふふ……」
それを目の当たりにしたマーシアは、一際困惑した様子で小さく返した。
「し……司祭様?」
「ふふふ……これは失礼しましたね、貴方があまりにもおかしな事を言うものですから」
「おかしい……でしょうか?」
「ええ、とても……。 それで、本日はどのような用でこの場所を訪れたのですか?」
「実はこれと言った用はないのですが……中庭で司祭様の……」
「私の事はメリクとお呼びください、聖女マーシア」
「は、はぁ……」
マーシアは何かを思い出したかのように一瞬言葉を詰らせる。
「……中庭でメリク様の像を一目見て、アスピラの教えを布教した人がどのような人なのか気になったんです」
「……様はつけるんですね……まあいいでしょう。 私には、貴方が何か答えを求めてこの場に来たように見受けられましたが……違いますか?」
その言葉を聞いて、マーシアの身体がぴくりと反応する。
「ふふふ……わかりやすいですね。 大方、使命を投げ出したものの吹っ切れないと言ったところでしょうか?」
「……なぜわかるのですか?」
「普通の方はあのような懺悔めいた自己紹介はしませんもの。 それで、司祭である私に叱ってほしかったのですか?」
「そう……なのかもしれません……」
「そうですか……でも残念でしたね、聖女マーシア。 私はそんなに良くできた司祭ではないのです。 だから別にあなたの事を責めたりはしません」
予想もしていない答えに、マーシアはきょとんとした表情をした。
「え?」
「そんな意外そうな顔をなさらないで? 私は過去何度も、貴方のように加護を失った聖女を見てきました。 でも、それでいて尚使命について悩んでいる子は……聖女マーシア、貴方が初めてです」
「そんな……今まで使命に背いた聖女は1人もいないって私は教わってきましたが……」
「貴方のように信心深い子を騙すことなんて、教会にとっては容易い事なのです」
そう言って、メリクは再び静かに笑い出す。
「ふふふ……ここまで言って尚、貴方は使命を捨てきれないでいる」
「そんな事は……」
「本当に使命なんてどうでもいいのなら、そんなわかりやすい格好をする必要も、淫らな行為に身をやつす必要もないじゃないですか。 敢えてそういったポーズをすることで、自分は使命を捨てた愚かな聖女だと公言している……でもそれが逆に、未だに貴方が使命に縛られている事を如実に表している」
その言葉に、マーシアは静かに頷く。
「……その通り、なのかもしれませんね。 メリク様、私はそんなにわかりやすいですか?」
「そうは言いません。 ただ私もかつて、貴方と似たような事を考えていた事があったからでしょうか」
「そうなんですか……」
「ええ。 良かったら貴方の悩み、聞かせてはくれませんか?」
「……わかりました」
そして、マーシアはゆっくりと語りだした。
「少し前の話です。 私は霊峰エルプルに封印を施しに行く際、とある魔族の方と戦って……敗れました。 それまで無敗を誇っていた驕りがあったかもしれません……でも、まさかあんなにも完膚なきまでにしてやられるとは……」
「加護のある聖女をそうも簡単に倒したとなると、それはもう名のある魔族なのでしょうね」
「はい……。 そしてその後はその魔族の方に身体を器として使われて……それから暫くして、再び目を覚ますと、目の前には見知らぬ冒険者の方がいたんです。 私は……あろうことか、勢いでその方に操を捧げてしまったのです……」
「ふふふ……それはまた、大層な事をしたものですね」
心底楽しそうに聞くメリクにマーシアは困惑した様子を隠しきれずにいたが、今は自分の中の荷を降ろそうと必死に言葉を紡ぎ続ける。
「そうして、加護と
「それは、聖女として育った時点で貴方は腐っても聖女ですから。 教会が貴方を連れ戻そうとするのは別に不思議な事ではありませんよ?」
すると、マーシアは意外そうな顔をしてメリクに聞き返した。
「でも……メリク様は私の事を連れ戻そうとはしないのですね」
「ふふふ……そのようなやり方では貴方は救われないとわかっていますから」
「ありがとうございます……。 私はただ、あの人の隣にいたいだけなんです……。 こんな私でも、傍にいる事を許してくれたあの人の所に……」
それを聞いたメリクは、またも意地悪そうに笑った。
「ふふふ……世の中に男なんて腐る程いるでしょう? その人に拘る理由は何なのです?」
「それは……」
「操を捧げたから? それとも、今の自分を認めてもらえたから? 本当はただ、貴方は誰かに縋って使命を忘れたいだけなんじゃないですか?」
「……そう、なのかもしれません……でも……」
そう言ってマーシアは、再び言葉を詰らせる。
「でも……? 結局は独りよがりな貴方の逃避行に、その方を付き合わせているだけなのでは? まあ、聖女の操を奪ったという点においては極刑に処されても仕方のない事ではありますが。 ふふふ……」
「っ……」
すると、メリクは黙り込むマーシアに言い聞かせるように語りかけた。
「ところで、無理して使命をないがしろにする必要があるのでしょうか?」
「えっ……?」
それを聞いたマーシアは、きょとんとした表情でメリクを見つめ返す。
「別に私が貴方に使命を背負わせたいから言っているのではありませんよ? そこまでして使命を放棄しようとするのは何故なのか、気になってしまったもので」
「それは……」
「教会への反抗心? 自分をこんな境遇に合わせたのが許せないから? でも、結果として貴方は私なんかよりも遥かに使命に忠実に生きようとしています」
「っ……」
その時マーシアは、初めてつきものが落ちたかのような表情を見せた。
「別に教会に戻る必要はありませんよ。 今の貴方に出来るやり方で、世界を救うという使命に繋がる事をすればいいのです」
「今の私に出来るやり方……」
マーシアは感動したような表情で、目の前のメリクを見つめる。
「結局何が正解かだなんて、結果が出た後にしかわからないのです。 でしたら貴方の信じるやり方を貫いてください。 応援してますよ、聖女マーシア」
「ありがとうございますメリク様……少し自信が持てました。 私は、私の信じる人の助けになりたいと思います」
「ええ、その意気ですよ」
そう言ってメリクは静かに親指を立てた。
「また何かあったら、こちらに相談しに来てもよろしいですか?」
「ええ、是非いらしてください。 教会の門戸はいつでも開かれておりますから」
「ありがとうございます。 それでは、失礼致します」
そうして去ろうとするマーシアを、メリクは静かに呼び止める。
「お待ちください」
「はい……?」
「……それ」
そう言って、メリクはマーシアが首に掛けた手作り感満載の銀製のロケットペンダントを指差した。
「このペンダントですか? 先日、バザーで友人と買い物をした際に気になって購入したんです」
「そうですか……とても、よく似合っていますよ」
「本当ですか?! ありがとうございます!」
それを聞いたマーシアは、この時初めてメリクに対して笑顔を見せた。
「ええ……。 すいません、こんなことで呼び止めてしまって」
「いえ、そんな事ないですよ。 ご用件は以上ですか?」
「ええ。 ではまた」
「はい。 それでは失礼します、メリク様」
そう言って、マーシアはメリクに見送られながら教会を後にする。
やがてマーシアの姿が完全に見えなくなると、メリクは誰にも聞こえないような声で静かに呟いた。
「あんな他愛のない私の作品を嬉しそうにつけて……。 ふふふ……聖女マーシア、貴方の行く道に幸あらん事を……」
メリクは、遠ざかる少女の背中を見送りながら静かに祈った。
複数回(3回以上くらい?)HシーンがあるキャラのH描写について。
-
端折るな。
-
端折っても良い。
-
テンポ悪くなるからいらん。
-
どっちでもいい。