脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――視界一面を覆う青白い光、やがて徐々に視界が晴れると、ウルとリリーは見慣れない屋敷の中庭にいた。
「ここは……?」
「案ずる事は無い、ここが私の屋敷だ」
「へぇ……すっごい大きい……。 あれ?」
ウルはさっきまで一緒にいた筈のマーシアの姿がいない事に気づき、目の前のドレイクを見上げる。
「心配する必要はないぞウル君。 聖女は司祭に会いやすいよう、街の南西区画へと送っておいた」
「そうなんだ……」
「便利なものですわね、転移魔法って。 それにしても……」
リリーはそう言って大きく周囲を見渡した。
そうして最初に目に飛び込んでくるのは、2mはあろう大きな塀に取り囲まれた、手入れの行き届いた広大な中庭。 その奥には天井の高い2階建ての巨大な屋敷が聳え立っている。 そして所々に配置された、グリフォンを象った全身鎧に身を包んだ兵士達。 その中の1人、背の高い屈強な体躯の兵士がすぐさまドレイクのもとへと駆け寄ってきた。
「おかえりなさいませ、主様」
「うむ。 いつも退屈な任務をさせてすまないな、ビル」
「いえ、滅相もございません。 ときに主様、その方達は……例の冒険者達でありますか?」
「その通りだ。 マスターにこの者達の稽古を頼まれてしまってな……ウワッハッハ」
そう言って高らかに笑うドレイクを、ウルとリリーは困惑した様子で眺めている。
「かしこまりました。 すぐに準備致します」
「いつもすまないな。 せっかくだ、ビル。 皆と一緒に見学していったらどうだ?」
「しかし、警備を疎かにするわけには……」
そう言うビルは、何処かそわそわとした様子を隠しきれずにいた。
「もっと素直になってはどうだ?」
「はい……見学させていただきます」
「うむ」
そう言ってドレイクは満足気味に頷くと、そのまま大きな塀に囲われた区画へと足を運んでいく。
ドレイクの後を追うようにその中へと足を踏み入れたリリー達は、そこに広がる景色を前に声を漏らした。
「広い……凄い……」
「これは……訓練場ですの?」
そこは円状に大きく芝が刈り取られ、様々な木製の武器が壁際に立て掛けられた貴族の屋敷には似つかわしくない空間であった。
「その通り。 私も兵達も皆戦闘が好きでな。 皆の憩いの場になればと思い作らせたのだ」
「憩いって……血気盛んじゃありませんこと?」
「私は長いこと戦いに身を投じすぎたのかもしれんな、じっとしている事が逆に落ち着かないのだよ」
そういいながらドレイクは、壁際に立て掛けられた武器の中から木製の長槍と、ゆうにリリーの身の丈程はあろう木の大盾を手にした。
「さあ、さっそくだが稽古を始めようか」
「ええ……ではワタクシ達も武器をお借りしますわよ」
「いや、君達はそのままの装備で構わん」
それを聞いたリリーは、兜の中から驚いたような声を上げる。
「えぇ……? 流石にそれは気が引けますわ……」
「なあに遠慮する事は無い。 むしろ殺す気でかかって来なければ勝負にならないと思うが?」
それを聞いて、リリーは若干苛立ちの混じった声音で返した。
「フフフ……舐められたものですわね。 いいでしょう、本気でいかせていただきますわ。 ウルも構いませんわよね?」
「こくっ」
そう言ってウルとリリーは、ドレイクから10m程離れた所に立つ。
「全力で……行く」
ウルはラルゴから預かった真紅のマフラーを靡かせながら、両手を左右に広げる。
右手には、刃の根元から伸びる鎖分銅を持ち手に巻いた、黒い鎖鎌。
左手には霊銀製のナイフ、
「ふむ、変わった武器を使うようだな」
そしてその横で、全身を山羊の意匠が象られた白金のフルプレートを纏ったリリーが、右手の自身の身の丈程はあろう白と金のランスを静かに水平に構える。
その持ち手からは太く長い赤い紐が伸びており、そのままリリーの右腕にぐるぐると巻かれていた。
そして反対の手には、マルレーンの
「準備はできたか?」
「ええ。 では、まずはワタクシから……」
そう言って勇むリリーに、ドレイクは刺すように声をかけた。
「いや、二人同時で構わん」
それを聞いたリリーは、素っ頓狂な声を上げる。
「はぁっ!? 本気で言っていますの!?」
「無論だ。 二人とも全力でかかって来るといい」
リリーはますます苛立ちを含んだ声音で、ウルに静かに告げた。
「わかりましたわ……。 ウル、全力で勝ちに行きますわよ」
「……こくっ」
「では、せっかくだ。 ビル、開始の合図を頼む」
「はっ! では、両サイドとも準備はよろしいですか?」
その問いかけに3人は静かに頷く。
僅かな静寂が訓練場を包む中、目の前の巨大な相手を見据えながらウルとリリーは静かに呼吸を整えた。
間もなくして、ビルが右手を上げながら声を張り上げる。
「
敷地一帯に響くような高らかな宣言と同時に、ウルは静かに地面を蹴って走り出した。
「おねえちゃん、わたしが先に仕掛ける」
「ええ、合わせますわ」
対するドレイクは槍の石突を地面に打ち鳴らすと、木製の大盾を左半身を覆うようにゆっくりと構える。
「……っ」
ウルは砂埃を巻き上げながら、ドレイクの周りを目にも留まらぬ速さで駆け回り、攻撃の機会を窺う。
しかしドレイクはそんなウルを余所に、リリーに注意を集中していた。
「なんなの? この威圧感……対峙しているだけなのに、重圧で息が詰ってしまいそう……」
僅かに竦む様子を見せるリリーであったが、懸命にドレイクに向かい続けるウルの姿を見て、すぐに覚悟を決める。
「ええい……やってやりますわ!」
そう言うとリリーは、ランスを水平に構えてドレイク目掛けて進みだした。
そのまま、背面から風の魔力を放出しながら、猛烈な勢いで地面を駆けて行く。
「――ブラスト・チャージ!」
そうして、凄まじいスピードで槍を突き出したまま迫り来るリリーを前に、ドレイクはただ静かに盾を前に出して迎え撃とうとした。
「……今っ!」
ドレイクの意識が完全にリリーに向かったのを確信した瞬間、ウルは死角からドレイクの槍を持つ右腕を塞ぐべく、鎖分銅を投げ放つ。
――ジャラッ!
そのまま思惑通りドレイクの右腕に鎖分銅が絡まると、ウルはすかさず鎖に練り上げた雷の魔力を流し込んだ。
「――パラライザー!」
青白い雷が迸り、ドレイクの身体が僅かに弛緩する。
そこに有無を言わさず、最高速で駆けて来たリリーがドレイクに突貫した。
「死んでも恨まないでくださいまし!」
完全に相手を殺す気で繰り出されるリリーの強烈無比な突き。
「ふむ、いいコンビネーションだ。 だが……」
次の瞬間、まるで電流を物ともしないように動き出したドレイクが、巨大な大盾を、まるで鍋の蓋を扱うかのように軽々とかち上げた。
――カスッ
勢いよく繰り出されたリリーの一撃は軽々といなされ、完全に勢いを殺されたままランスの切っ先が宙を泳ぐ。
「なっ!?」
そして気づけば、リリーの喉元にはドレイクが右手に持った槍の切っ先が突き付けられていた。
「うぅ……ワゥッ!」
その様子を目の当たりにしたウルは、依然として鎖に雷を流し続けたまま、地面を駆けて素早く距離を詰める。
そして即座に飛び上がり、両手に持った武器でドレイクに切りかかった。
「ぐるるるる!」
――キンッ!
「ぐぅッ!?」
しかし、即座に割り込まされた大盾に阻まれたかと思うと……
「中々の身体能力だ。 これは将来有望な人材になるに違いない」
――ドガッ!
そのまま容赦なく大盾を叩きつけられ、ウルは地面に転がされた。
「わぅん!」
「ウルッ!」
心配したリリーがウルに声を掛けると同時に、ビルの大きな声で戦闘の中止が宣言される。
「止めっ!」
それを聞いて、ドレイクは静かに武器を下ろしていく。
「大丈夫かウル君? これでもかなり加減はしたのだが……」
その問いかけに、ウルはすぐさま立ち上がる。
「まだまだ……!」
すると、リリーは心配そうにウルに近づいて問いかけた。
「ウル、本当に大丈夫ですの? かなり手痛い一撃をもらっていたように見えたけど……」
「うん、これくらいなんともない」
そう言ってウルは、自分が全然平気である事を示す為にリリーの前で俊敏な動きをとってみせた。
すると、その二人の様子を見ていたドレイクが嬉しそうに声をあげる。
「ウワッハッハ、その意気だ。 どうだ? 先ほどの私の言葉の意味……理解してもらえたかな?」
「ええ。 悔しいけれど……まさかここまで力に開きがあるなんて……」
「なあに、気負う事は無い。 君達はまだまだ若い、いくらでも強くなれる余地があるのだからな」
「ええ」
そうリリーが答えると、ドレイクは再び距離を開け、静かに武器を構えた。
「時間はまだまだあるぞ。 無論、続けるだろう?」
「ええ……勿論ですわ!」
――それからも、実戦形式のドレイクの稽古は続いた。
気づけば日は傾き始めており、休み無く戦い続けたウルとリリーは肩で息をしている。
対して、ドレイクは疲れなど全く感じさせない様子で、未だ平然と二人の前に立ちはだかっていた。
「駄目……全然歯が立ちませんわ……。 それに公爵と来たら、その気になれば避けれる攻撃だって、こちらの戦意が削がれないようにとわざわざ受けて……その気遣いが逆に腹立たしいですわ!」
長々と弄ばれたような感覚に陥っていたリリーは、苛立つ内心を吐露する。
「ウワッハッハ、血の気の多い女は嫌いではないぞ」
「はぁ……はぁ……馬鹿にして。 ウル? まだいけますわよね?」
「……うん。 まだまだ……」
そう言って、ウルは疲れた様子で武器を構える。
すると、不意にエアがリリーの中から言葉をかけてきた。
『リリー、冷静になって? さっきから公爵のペースに呑まれて、ずっとあなたの持ち味を活かせていませんわよ?』
「ワタクシの持ち味……?」
『あなたのアーティファクト……その重力干渉の秘儀……まさか鎧とランスの重量を軽減する為だけに持っているわけじゃありませんわよね?』
「えっ……」
それを聞いたリリーは、言葉を詰らせる。
すると、エアはしこたま残念そうに声を漏らした。
『はぁ……なんて勿体無い。 重さなんて、器を鍛えればいくらでも克服できますでしょう? なのにあなたときたら、杖の性能に甘んじて本来の特性をおろそかにしていただなんて……』
「ですがエア様……今の私にはまだ、この鎧は重すぎて……」
『リリー、ワタクシがお手本を見せますわ。 変わってもよろしくて?』
「ええ……わかりましたわ」
そう言うと、リリーは被っていた山羊の兜を投げ捨てた。
「ほう……?」
露わになった薄緑色のウェーブヘアーを風に揺らしながら、リリーが緑の瞳をゆっくりと見開いていく。
「――
――ビュウ!
次の瞬間、大きな風がリリーを包み込んだ。
「これは……」
目の前で起こる事態に、ドレイクは静かに息を呑む。
――ヒュウウ……
やがて風が吹き止むと、中から小さな三日月型の角を生やした、赤い瞳のリリーが姿を現した。
「ウワッハッハ、シオンの娘が相手か。 面白い」
「確かに……この身体ではこの鎧は重過ぎますわね……」
そう言うとリリー、もといエアは静かに魔力を練り上げていく。
『エア様……一体何を!?』
「許せとは言いませんわ。 ですが、これはあなたの為なんですの」
『えっ……?』
すると、エアは両手を大きく広げ、溜め込んだ魔力を一気に解き放った。
「――パージ!」
同時に、リリーが纏っていた白金のフルプレートが、そのままドレイク目掛けて勢い良く弾け飛んだ。
――ガンッ!
即座に大盾を構えてドレイクはこれを凌ぐ。
やがて視線をエアに戻すと、そこには白いビキニ姿になったエアの姿があった。
『ああっ! 代々我が家に伝わる由緒正しき鎧が!』
「流石にこれじゃあ破廉恥すぎますわね……。 ――
そして、エアの身体を黒い魔力の生地が覆っていく。
「ふぅ。 これでよし、と」
そうして、肌を余すことなく黒い魔力の生地で覆ったエアは満足げに呟いた。
「おねえちゃん……」
エアなったリリーを見て、ウルが困惑した様子で尋ねる。
「ウル。 あなたが仕掛けるタイミング、ワタクシが指示してもよろしくて?」
「う、うん……わかった」
「ありがとう。 では……いきますわよ。 ――ブラスト!」
そう言うや否や、風の魔力を吹き出しながら、鎧を纏っていた時よりも遥かに速いスピードでランスを構えて突っ込んでいく。
「速いな、だが」
――ガンッ!
しかし先ほどと同じように、ドレイクは大盾をぶつけてランスをいなした。
ランスの切っ先が宙を泳ぎ体勢が不安定になったエアに向かって、ドレイクは再び槍を突き出そうとする。
「――
即座に、アーティファクトにより身体をより軽くさせたエアが、遥か高くへと跳躍してこれをかわす。
『なるほど……上手いですわ!』
そしてそのまま、ランスの切っ先に魔力を込めていく。
「まだまだ……。 ――ランサーダート!」
そのまま、空中からドレイク目掛けて巨大な風の塊を解き放った。
――ゴォッ!
押し寄せる風の塊を、ドレイクは絶妙な角度で大盾を構え威力を最低限に抑える。
衝撃で周囲に土煙が舞う中、ドレイクは未だずっしりと地面に大盾を構え続けていた。
しかし、何度も攻撃を受け続けた木製の大盾の耐久は既に限界を迎えようとしている。
「――スローイング・ランス!」
そこに、続けざまにエアが手にしたランスを投げつける。
「む……いかんな」
ドレイクは即座に大盾をランス目掛けて放り投げる。
――グッシャア!
そして、空中でぶつかり合った後、木製の大盾はバラバラに砕け散った。
「おねえちゃん!」
勢いを殺され軌道が逸れたランスは、ドレイクの僅か横の地面へと突き刺さる。
しかし、その持ち手からは大きく長く太い赤い紐が、エアの右手に向かって伸びていた。
「まだですわ!」
エアは即座に紐を手繰り、自身の身体がドレイク目掛けて落ちるよう調整する。
「むっ……来るか!」
そのまま斜めに落下しながら、エアはアーティファクトに魔力を込めた。
「――
そのまま自身の重量を増やしたエアが、ドレイク目掛けて勢い良く突っ込んでいく。
対するドレイクも、そのまま大盾を失い空いた左腕を突き出した。
「ウル! 今ですわ!」
「ゎふっ!」
ウルは即座に指示を聞き取り、ドレイク目掛けて駆け出す。
ドレイクはすぐに反応するものの、目の前には既に勢いを増しに増したエアが肉迫していた。
「ウワッハッハ、面白い!」
「どうですの!」
エアが勢い良く繰り出した右脚と、ドレイクの左腕が交錯する。
――ドガァッ!
そして、エアは弾き飛ばされ、宙を鮮やかに回転しながら着地する。
迎え撃ったドレイクも、左腕を弾き飛ばされ姿勢を僅かに崩した。
「……とった!」
そしてその首筋には、即座に潜り込んだウルにより、鎖鎌とソウルフリーザーがが突きつけられている。
「止め!」
ビルの大きな声が響き、初めてウル達に白星があがった。
『すごい! やりましたわね、エア様!』
エアの頭の中で、リリーが喜びの声をあげる。
「ウワッハッハ! よくやった」
そう言ってドレイクは、機嫌良さそうに両手を打ち鳴らす。
それをエアは怪訝な表情で見つめ返した。
「……ここまで手加減されてかろうじて勝てたところで、手放しでは喜べませんわね……」
「まあそう言うな、様々な要因はあったにせよ、紛れも無く君達の手で掴んだ勝利だ」
「主様相手に1本取れるだなんて、相当なものですよ!」
そう言って、ずっと3人の戦いを見守っていたビルは大きく賞賛の意を示した。
「さて、日も落ち始めたようだし、稽古はここまでにするとしよう」
「うん……ありがとう、おじさん」
「ありがとう公爵様。 勉強になりましたわ」
そう言うとエアは静かに光を放ち、次の瞬間には三日月型の角は消失し、瞳の色も緑に戻っていた。
「ウワッハッハ。 気にする事はない、私も楽しかったよ。 君も混ざれば良かったのではないかね?」
「えっ?」
そうドレイクが問いかけた先には、別の兵士に連れられたマーシアの姿があった。
「いえ、私は大丈夫ですよ……あまり戦いは得意ではないですから」
そう言って、マーシアは静かに笑う。
「おねえちゃん!」
「マーシア!? いつからそこにいましたの?」
「いえ、今来たばかりですよ。 それにしても皆さん、凄い戦いぶりでしたね」
そう言ってマーシアは感心した様子を見せた。。
「さて、3人とも、今日は疲れただろう? 屋敷の中に作らせた温泉がある。 まずは湯浴みでもしながら、ゆっくりしてきたらどうだ?」
それを聞いたリリーの目が、一段と輝きを増した。
「お、温泉!? それは凄いですわね!」
「わふ?」
聞きなれないワードに、ウルが頭の上にはてなを浮かべる。
「ウルさん、温泉っていうのは、暖かい水浴び場みたいなものですよ」
「なるほど!」
そう言ってウルは納得したような表情を浮かべた。
「まあ、間違っては無いけれど……なんともいえない例えですわね」
複雑そうな表情を浮かべるリリーの横で、マーシアはドレイクに静かに問いかける。
「ところでドレイクさん。 ラルゴさんは……?」
「彼は未だマスターのところで召喚を会得する為の下準備を行っているところだ。 きっと、帰りは夜遅くになるだろうな」
「そうですか……」
それを聞いたマーシアは、残念そうに息を漏らす。
「なにはともあれ、明日からは大事な霊脈復旧の任があるからな。 今日はゆっくり休むといい。 ビル、後は頼んだぞ」
「はっ!」
そう言ってドレイクはゆっくりと屋敷に向かって歩き出した。
「行ってしまいましたわ……戦闘の反省点など、色々聞きたかったのだけれど……」
「大丈夫ですよリリーさん。 主様はそう言った話は食事の席でするのを好まれるのです」
「うっ……食事に集中できそうもありませんわね」
それを聞いて、ビルは大きく笑った。
「はっはっは。 それでは御三方、浴場までご案内いたします。 どうぞこちらへ」
「わーい」
「うふふ、どんな立派な浴場なのでしょう……わくわくしますね」
そう言って先を行くビルの後を追って、3人は歩いていく。
「うふふ~、楽しみですわ~」
『随分切り替えが早いですのね、リリー』
「あれはあれ、これはこれですわ。 正直、いきなり鎧を弾き飛ばしたのを見たときは卒倒するかと思いましたけれど……おかげで気づく事ができましたわ。 全部を1人でやろうとしても、結局全てをカバーする事はできないのだって」
そう言って立ち止まると、リリーは静かに笑う。
「それに、手加減されていたとはいえ、公爵相手に1本取れたんですもの。 ワタクシもまだまだ強くなれるのだと思うと、とてもワクワクしてきましたわ」
『ええ……そうですわね。 その意気ですよ、リリー』
「リリーさん?」
「おねえちゃーん、どうしたの?」
立ち止まったリリーを、ウルとマーシアが心配そうに見つめている。
「なんでもありません……今行きますわ!」
リリーは慌てて3人の後を追って屋敷の中へと入っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――モノクロの細長い廊下を、白金のローブを纏った冒険者ギルドの創設者カマリと、妖艶な魔女装束に身を包んだグラマーな魔術学院の長フォーチュンが、ヒールの音をカツカツと鳴らしながら歩いている。
二人は小休憩を終え、ラルゴを監禁した研究室へと戻ろうとしているところであった。
「で、結局のところ……どうなの?」
「どうって、何が?」
フォーチュンの問いかけに対して、カマリは何食わぬ顔で聞き返す。
「もう、マスターったら。 わざわざ聞き返さずとも解るでしょう? ワタシの考えてる事」
「だからって会話は大事だよ? 何でもかんでも言葉にせずとも伝え合うなんて、そんな味気ない事ったらないじゃん!」
そう熱弁するカマリに、フォーチュンは溜息混じりに口を開いた。
「あの子達に対する期待値よ。 実際、マスターの権能を分けてはいたけど、それもほんの少しだし……それに何よりあのボウヤ、とても危険な気がするのよねぇ」
「まあ、強すぎる力を持っている割には、如何せん意識が甘いというか、何処かなあなあだよね。 それ言っちゃうと、魔神の脅威を目の当たりにしてない人達全般に言えちゃう事なんだけど」
「あら、そう言われるとワタシも困っちゃうわ」
そう口を噤むフォーチュンに対して、カマリはばつが悪いような顔で返した。
「ごめんごめん、別にそういう意味で言ったわけじゃないよ。 僕が言ってるのは今も呑気に私利私欲の為に行動してる人達のこと。 メアリーは十分過ぎるほど貢献してくれてるじゃん」
「もう、冗談だってば。 マスターはちょっと良い子すぎるところがあるわよねぇ」
そう言ってフォーチュンは心配そうにカマリを見つめ返した。
「僕が良い子? 冗談でしょ、僕がこの国を作り上げるのに一体どれだけ犠牲にしたと思ってるの」
「そうやってちゃんと振り返れるところが良い子の証よ。 何百年生き続けようと、そこは変わらないのねぇ」
「……褒め言葉と受け取っておくよ。 それで、ラルゴ達に対する期待値の話だっけ?」
そう言うと、カマリはゆっくりと息を整えた。
「正直、僕はかなり期待してるんだ。 実際、レガリアの兵力の補充の速さは異常じゃない? あんな質の高い兵士が、毎回毎回何処かに送り込まれてきてさ……それに加え、
「確かに、このままじゃ不味いわよねぇ。 でも、彼が持ち帰ってきた
「へぇ、どんな内容だったの?」
それを聞いたフォーチュンは、さも楽しそうに語りだした。
「もう、倫理観の問題でワタシ達が手を出せなかった実験の結果がこれでもかと記されていたわ。 これを上手く紐解いていけば、より質の高い冒険者を仕立て上げる事ができること間違いなしよ」
「……それは凄いね。 ただ、解ってるとは思うけど……一線は越えちゃ駄目だよ? 僕にだって、やっていい事といけない事のラインくらいは弁えてるつもりだから」
そうカマリが僅かに低い言葉を出すと、フォーチュンはそっとカマリの唇の上に指を置いた。
「むぅ」
「もう、心配性なんだから。 ちゃあんと弁えてるわよ」
「うん、それならいいんだけど……っと。 ついちゃったね」
気がつけば二人は、再び研究室の扉の前へと辿り着いている。
「いつもはあんなに時間が長く感じるのに、マスターといると一瞬に感じちゃうわねぇ」
「別にお世辞言っても何も出ないよ?」
「もう、そんなんじゃないわよ。 それじゃ気を取り直して、ボウヤの潤沢な魔力の素はどれくらい採取できたのかしら、楽しみね~」
そう言ってフォーチュンは研究室のドアノブに手をかけ、そのままゆっくりと開いていく。
――キィ……
「キュぅぅン!」
すると、ピンクの紋様の走った大きな黒い蛸のような生物がフォーチュンに絡み付いてきた。
「ド、ドレイン・テンタクラーちゃん!? 一体どうしたの!?」
「キュぅぅン……」
カマリが脅えた様子を見せるドレイン・テンタクラーを観察すると、ある変化に気づく。
「わわっ、足が一本千切られてる! この感じ、ラルゴに食いちぎられたのかな……」
そう言ってカマリが扉を開き、照明をつける。
――ガチャン!
すると、中では壊れた反魔紋が施された椅子の残骸の中、魔力で編んだ黒い生地を全身に纏ったラルゴが1人佇んでいた。
「嘘? あの拘束を破ったっていうの?」
「うわぁ……この展開はちょっと予想外かな……」
そう言って二人は静かに構え、静かに魔力を練り上げていく。
すると、その様子に気づいたラルゴが慌てて声をかけた。
「うおぉい待て待て待て! 戻って来て早々そりゃあねぇだろ!」
その様子を見て、二人はぽかんと口を開いた。
「ん? 僕達がやった事に腹立ててたんじゃないの?」
「ちげぇって……いや、違くはねぇけど! あの蛸が絡み付いてきた拍子につい力を入れたら、そのまま噛み千切っちまってよ……ご丁寧に吸収できたと思ったら、その余波であのポンコツ椅子が吹き飛んだんだ。 しかし身体は自由になったが、二人とも中々戻ってこねーし、扉は開かねーけど壊したら怒られそうだしで、どうしたもんかと困ってたところだ」
それを聞いて、フォーチュンは訝しげな顔でカマリを見た。
「う、嘘は言ってないみたい……。 でもこれじゃ困ったな、罰ゲームにならないじゃん」
「もう十分堪能したよ……いい加減、本題に移っちゃくれねぇかな?」
それを聞いたフォーチュンは、涙目のドレイン・テンタクラーを抱え上げると、そっと意識を集中した。
「枯れるまで搾精……とまでは行かなかったみたいだけれど、術を施すには十分な情報が読み取れたみたいね……いいわ、後はゆっくりお休みなさい」
「キュぅぅン……」
そう言ってフォーチュンがドレイン・テンタクラーを床に降ろすと、そのまま地を這いながらそそくさと部屋を出て行った。
「良いわ、ボウヤ。 召喚補助用の
フォーチュンは舌なめずりしながら、ゆっくりとラルゴに近づいていく。
「お、おう……お手柔らかに頼むぞ……」
「勿論よ。 さあ、そこの寝台に横になって」
「あ、ああ……」
ラルゴは促されるまま、研究室の奥にある寝台へと横たわった。
「その防具を纏ったままじゃ施術できないわよ?」
「やっぱそうか……? 仕方ない……」
ラルゴは渋々魔力の生地を納めると、瞬く間に全裸になった。
それと同時に、研究室内にピンク色のモヤが立ち込め始める。
「なんてこと……さっきより淫臭が強くなってるわ!」
「うわっ! マスクマスク!」
慌てて二人が手にしていた黒いマスクで口元を覆う。
「ボウヤ、ドレイン・テンタクラーちゃんを吸収した事により益々こっち方面の力が増してるわね……」
「ひょっとして、あわよくば僕たちに手を出そうなんて考えてないよね?」
「無意識だっつの……読めばわかるだろ?」
そう言い放つラルゴを、カマリは怪訝な表情で見下ろす。
「うん……相変わらず嘘は言ってないみたい。 でもその力、早く制御してくれないと僕達も困っちゃうよ?」
「俺だってできるならそうしたいが……如何せん不器用でな……」
「そう? ならオンオフができるように専用の魔術紋も彫ってあげるわ」
そう言うと、フォーチュンは禍々しい紋様の走った黒い手袋を左右の手に嵌め、にぎにぎと指を動かしだした。
「そんなんでやるのか……?」
「侮っちゃ駄目よ? ちゃちゃっと終わらせるからじっとして」
「あ、ああ……」
するとフォーチュンは、ラルゴの左腕全体にまるで一枚の壮大な絵を仕上げるかのごとく、両の手で繊細になぞりあげていく。
「さ、終わったわよ」
「え? 早っ……というか、特に何か刻まれたようには見えないんだが」
そう言ってラルゴは、自分の左腕を不思議そうに見つめた。
「魔術紋をファッションの一部にするのなら、目視できるようにするのもアリなんだけど……これって結構な技術だから、あまり見せびらかされても困るのよね。 だから魔力を込めないと紋が浮き上がらないようにしたわ」
「なるほどな……んじゃ早速……」
そう言ってラルゴが左腕に魔力を込めると、夥しいほどの魔術紋が浮かび上がった。
「おお! こいつは凄いな……」
「淫臭の魔力紋は掌に彫っておいたわ。 そこに意識を集中すれば発現するはずよ」
「なるほどな……」
そう言ってラルゴは、カマリが目の前に立っているのにも関わらず左の掌に魔力を込めていく。
「わ、ちょっ!」
――ボフッ!
指向性を持ったピンク色の靄が、カマリ目掛けて勢い良く解き放たれた。
「うおっ! すまん!」
――ドゴォッ!
すかさず鳩尾に手痛い一撃をもらい、ラルゴは痛そうに腹を抱える。
「ぐほぉぁっ!?」
「もう! 絶対わざとやったでしょ!? 次やったら、追放処分だからね!」
「す、すまん……小さくて気づかなかっ」
――ゴスッ!
再び重い一撃を腹に叩き込まれ、ラルゴは静かに床に蹲った。
「ボウヤ、マスターに小さいは禁句よ? 思っても駄目だけど……」
「そういうこと。 覚えておいてよね!」
「ひゃ、ひゃい……」
そう言ってラルゴはよろよろと立ち上がる。
「さて、なにはともあれ下準備は済んだみたいだね。 それじゃあ念願の契約タイムだ」
「うふふ、どんな子が呼び出されるのか楽しみねーボウヤ」
「あ、ああ……」
何処か力なく答えるラルゴに構わず、カマリは首に掛けた虹色に輝くペンダントに魔力を込め始める。
「それじゃ、行くよー!」
そのままカマリがペンダントを掲げると、光が辺り一面を包み込んでいく。
すると、一行は瞬く間に巨大な魔方陣の描かれた、一面青に包まれた部屋へと移動していた。
「な、なんだここは……?」
殺風景ながら、何処か神秘的なその部屋の中を見渡しながらラルゴは静かに尋ねる。
「ここはヴァリスの霊脈の直上だよ。 ここなら召喚に失敗することはまずないだろうね」
「口外無用、国家機密中の国家機密よ」
そう言ってフォーチュンは、静かにラルゴの唇に指を乗せた。
「なるほどな……。 とりあえず……もう着てもいいか?」
「あ、そうだったわね。 構わないわよ」
「……。 ――
そう言ってラルゴが魔力を放つと、全身を覆うように黒い魔力の生地が滲み出していく。
「にしてもボウヤ、変わった術を使うのねぇ」
「なんだ? 魔術学院の長から見てもこの術は変わってるのか?」
「ええ、とても魅力的だけど、残念ながらワタシには扱えそうもないわね」
そう言ってフォーチュンは静かに溜息を漏らした。
「ほぉ……そいつは驚きだ。 魔術学院の長でも使えない魔術なんてもんがあるのか」
「メアリーの才能は属性魔法に特化してるからねぇ。 あんまり多くは言えないけど、本人が出来ない事は使い魔が補ってるんだ」
「もう、マスター! 余計な事は言わなくていいから」
メアリーは若干不機嫌そうにカマリに釘を刺す。
「使い魔って言うと、これから召喚で呼び出す奴の事か?」
「いいや、召喚で呼び出すのは召喚獣だよ。 使い魔っていうのは……まあ、言うなればすごーく規模の小さい召喚獣……かな?」
「なるほどな……」
「ちなみに召喚獣は、君の魂に惹かれた存在が神界から呼び出されるんだ」
それを聞いて、ラルゴはまたも疑問を浮かべる。
「神界?」
「ちょっとマスター!」
フォーチュンが驚いた様子でカマリを見つめた。
それと同時に、カマリがはっとした表情を浮かべる。
「あっ……なんでもないや、今の忘れて?」
「いや……気になるだろ。 なんなんだ、しんかいって?」
「忘れて? 世の中には、知らないほうがいい事だってたくさんあるんだよ?」
そう言ってカマリが向けた視線は、今までにない、ラルゴに底知れない何かを感じさせた。
「あ、ああ……忘れる……」
「それでよし!」
すると、さっきまでの威圧感が嘘のように、瞬く間にカマリの表情は晴れやかなものへと変わっていく。
「さあ気を取り直して……いざ、召喚術式を始めよう!」
「うふふ、楽しみねぇーボウヤ」
「うおおおお、わくわくしてきたぞ……。 で、具体的に俺は何をすればいいんだ?」
「それじゃあ、ボウヤは魔方陣の真ん中に立って。 そしたらワタシが勝手に準備を進めるから」
「ああ……」
そう言ってラルゴは1人、50mはあろう巨大な魔方陣の真ん中へと歩いていく。
「これでいいかー?」
「ええ。 それじゃあ、少しそこで待っていてちょうだい」
そう言うと、メアリーはぶつぶつと呪文を唱えながら魔方陣の周りを歩き回りだした。
そのまま魔方陣の周りを1周すると、部屋の中が揺れ始め、魔法陣がうっすらと輝きを放っていく。
「ラルゴ、今だよ! 魔方陣に魔力を込めて!」
「何!? こうか!」
ラルゴはカマリの指示に合わせ、魔力を両手に纏わせると、それを魔方陣へと流し込んだ。
途端に、魔方陣が眩い輝きを放ち出す。
「うおおお!? こいつは!?」
「わあ! 凄い光!」
「なんて魔力なの!? これは……とんでもないわよ!」
――そして、凄まじい魔力の放出音と共に地面は大きく揺れ動き、ラルゴ達は強烈な光の中へと飲み込まれていった。
複数回(3回以上くらい?)HシーンがあるキャラのH描写について。
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端折るな。
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端折っても良い。
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テンポ悪くなるからいらん。
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どっちでもいい。