※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第47話 己が望み

――ドレイクに導かれるまま、俺は馬鹿でかい屋敷の中へと足を踏み入れる。

 導かれるまま、長い大理石の廊下を進んでいくと、やがて屋敷の一角にある浴場の入り口へと辿り着いた。

 入り口は二つあり、それぞれ青い暖簾(のれん)と赤い暖簾(のれん)が掛かっている。

 

「これはなんだ?」

「ああ、馴染み無いか? 青は男性用、赤は女性用という意味だ。 アマナではこうするのが様式美らしくてな、私もそれに倣わせたのだ」

「なるほど……」

 

 確かに、これだけでかい屋敷だと、兵や使用人の数もかなりのものだろう。

 部下の為にこのような施設を設けるのは、流石ギルドマスターといったところか。

 いや、ただの趣味の線も捨て切れないが……

 

「んじゃあ、失礼して……」

 

 俺が青い暖簾を潜ろうとすると、ドレイクが声を掛けてきた。

 

「む、そっちでいいのか?」

「……? どういう意味だ?」

「いや、てっきり女風呂に入る物だと思ってな」

 

 思わず溜息が出る。

 いくらスケベだからといっても、上司の家でいきなり女風呂に突貫はしないだろう。

 ……精々覗くくらいが関の山だ。

 

「そう気を悪くするな、只の冗談だ。 ウワッハッハ!」

「冗談に聞こえないんだよ……」

 

 気を取り直して中に入ると、悠に20人は入れるであろう広い脱衣場があった。

 仄かに香るヒノキの臭いが心地よく、手入れも当然のように行き届いている。

 壁沿いには、3段に分けられた高級そうな木製の棚があり、そこには大きな木の篭が整然と並べられていた。

 恐らくはこの中に荷物を置くのだろう。

 といっても、今の俺に荷物と呼べる物はこの愛剣トリリオンぐらいしかないが。

 

「ここ……で間違ってないよな?」

「ああ、着替えの場合はそうだな。 武器類は浴場の入り口横にホルダーがあるから、そちらを使ってくれ」

 

 言われて浴場へ続く扉の横を見ると、確かに武器を立て掛ける為の壁掛けのような物があった。

 既にいくつか、ハルバードやスピアなどの長柄の武器が置かれている。

 

「こんな時間に、他に利用者がいるのか?」 

「いや、それは有事の際に対応できるよう予め置いてあるだけだ。 今のところそれらが使われた事はないが、まあ備えあれば憂い無しと言うだろう」

 

 今のところは屋敷を襲撃するような不届き者は現れた事はないということか。

 そういえばヴァリスで大規模な襲撃事件が起こったという話は聞いたことが無いな。

 これも日頃のギルドの活動の賜物か、治安が良いのはなによりだ。

 

「じゃあ、俺のもここに置かせてもらうぜ」

 

 そう言ってトリリオンを恐る恐る壁に掛ける。

 こうして他の武器と並べてみると、ブリギッドの仕事の良さがひしひしと伝わってくるな。

 

「随分立派に鍛えられたものだ。 どうだった? 君から見てブリギッドは?」

「どうだったって……まぁ、想像以上に良い奴だったぞ。 てっきりとんだ偏屈鍛冶屋爺が出てくるものだと身構えていたものだから、びっくりしたよ」

 

 つい流れで致してしまった事については……別に話す必要もないか。

 

「ウワッハッハ! それは良かった。 彼女もあれで中々の曲者だからな、たまには気に掛けてやってくれ」

「……言われなくてもそのつもりだ。 次ヴァリスに来るのはいつになるかはわからないけどな」

 

 さて、話込むとつい長くなってしまうし、ドレイクが話し好きなせいもあってキリがない。

 さっさとひとっ風呂浴びてしまおう。

 

「そろそろ入らせてもらってもいいか?」

「ああ、つい話しこんでしまったな。 私は準備に時間がかかるのでね、先に入っていてくれたまえ」

「ああ……んじゃ、お先に」

 

 そう言うと、ドレイクは青金の甲冑を少しずつ取り外していく。

 確かに、ドレイクやリリーが着てるような全身防具は、着けるだけじゃなく脱ぐのも時間がかかりそうだ。

 色々とめんど臭そうで、そのうち着るのに手を抜いちまいそうな……毎日律儀に重装備をしてる奴なんかは、きっと根が真面目なんだろうな。

 ブリギッドはその点もきちんと考慮して防具を作ってくれているだろうか……まあ、これはただの高望みだな、あまり期待しすぎないようにしよう。

 そう考えるとエアの生成魔法は便利だな、一々着替えを挟む必要がない。

 

「どうした? 私を待ってくれているのか?」

「い、いやそういうわけじゃない。 ちょっと長考しちまっただけだ」

「そうか……」

 

 若干残念そうに漏らすドレイクを尻目に、浴場へと続くスライド式の扉に手を掛けていく。

 

――ガラガラッ

 

 扉を開くと、そこに広がるのはアマナ様式、通称ア風と言われる、独特の風情ある露天風呂だった。

 白い湯気と共に、温泉の独特な心地よい匂いが香ってくる。 

 そして、この屋敷はヴァリスの中でもかなり高い位置にあるらしく、満点の星空の下、ヴァリスの町並みが一望できるようになっていた。

 

「おお……こいつは良い」 

 

 俺は備え付けの風呂桶にお湯を汲み、浴場の端にある蛇口の前の低い木製の椅子に腰をかける。

 そして、纏っていた魔力の生地を解き、蛇口の傍に備え付けられていた石鹸で黙々と身体を洗った。

 

「あれから、ラスターの皆は上手くやれているのだろうか。 思えば、あいつらに甘えてあのままヴァリスに残っていたら、俺はエアに出会うことも無くゆっくりと朽ち果てていたのだろう。 選択としては最良だったと思う。 だがどうにも、あのような別れ方をしてしまったのは腑に落ちない。 それに、今はこうして心配の欠片も残さないほどに容態も回復した……というより、大分人間の範疇を飛び越えた気もするが、そんな事は大した問題ではないだろう。 早く会って報告したいものだ……っと、1人の空間になるとつい独り事を言ってしまうな……傍から見たら中々気持ち悪いぞ俺」

 

 そうして身体を一通り洗い終え、巨大な岩を切り分けたような湯気立つ広い風呂の前へと移る。

 

「にしても立派な風呂だ……。 今は他に誰もいないし、ちょっとはっちゃけちまうか」

 

 そして、行儀悪くも風呂に向かって思いっきり飛び込む。

 

「ひゃっほぉ!」

 

――ドボボォッ!

 

「ぬおっ……深いッ!」 

 

 完全に油断していたせいか、あまりの風呂の深さに度肝を抜かれた。

 俺の身長でも底に足が届かない……こんなの普通の身長の奴が入ったら溺れてしまうぞ。

 

「ぶはぁっ!」

 

 慌てて泳ぎながら頭を出す。

 確かに、ドレイクの身長を基準にするとこれくらいの深さは必要かもしれないが、そうなるとさっきの部下が云々のくだりに疑問が浮かんでくる。

 先ほどちらっと屋敷の兵士を見た感じ、そこらの冒険者と体格は大差なかった。

 つまり、体躯がずば抜けてるのはドレイクだけだということ。

 やはり只の趣味説が濃厚だったか。

 まあ、そのせいもあってか足先から頭まで温泉の熱が行き渡って……これでは早々に逆上せてしまう。

 

「足場足場……うっ!」

 

 泳ぎながら風呂の中を移動していると、腰を駆けられそうな岩の出っ張りを見つける。

 そこに腰を落ち着けると、ようやく良い感じに浸かる形に持っていけた。

 

「はぁぁ……生き返る……」

 

 夜空を見上げながら、ふと思いを馳せる。

 それはここ最近の俺の戦闘についてだ。

 

「エルプルの山頂ではマーシアの従者、聖騎士バランにぼこぼこにされ、下山した直後に謎の爆弾で死に掛ける。 そしてヴァリスに到着して早々、カマリにテストとは名ばかりのかわいがりを受け……おかしい、確実に強くなっているはずなのに、あまり実感が沸かないのは相手が悪かったからか……? アレグロの件もある……こんな調子で、俺はマーシアを守り抜けるのか……? いや、その為にカマリに強くなる為の手解きを受けたんだ……ここからだ。 ラルゴ、お前はここから強くなる、スロースターターなだけだ、もっと自身を持て!」

 

――ガラララッ……

 

 自己嫌悪に陥ってる俺の耳に、独特なスライドドアの音が飛び込んできた。

 

「遅くなってしまってすまないな、ラルゴ君」

 

「ああ、別に問題な……」

「とうっ!」

 

 掛け声と共に、跳躍する巨大な影。

 そして次の瞬間……

 

――ザッパーン!

 

 目の前に巨大な影が落ち、大きく水しぶきをあげた。

 そのまま押し寄せてきた波に流され、再び深い風呂の中に沈められる。

 

「ぶはぁ! 殺す気かこの……」

 

 慌てて体勢を立て直すと、目の前には筋骨隆々を極めたと言わんばかりの、巨躯の男が何食わぬ顔で風呂に浸かっている。

 そして、はじめて見るグリフォンの兜の下の素顔……厳つい壮年といった顔立ちで、肩まで伸びた銀色の髪が一際目を引いた。

 そしてその顔の中心には、斜めに走った大きな傷跡がある。

 

「ウワッハッハ! 許せラルゴ君、風呂に入る時の私の日課なのだ。」

「まったく、どんな日課だよ……聞いたことねぇ……ぞ?」

 

 高らかに笑うドレイクの身体をよく見れば、その身体にも、夥しい程の傷痕がある。

 それは潜り抜けてきた戦いの熾烈さを感じさせるが、常に鎧を纏っているのは、この傷を隠す為でもあるのだろうか。

 

「……私の身体の傷が気になるか?」

「い、いやまぁ……貫禄あるなって思ってな」

「ウワッハッハ! ずっと冒険し続けてればこうもなろう。 私はこれを、勲章だと思っているがね」

「勲章か……」

 

 そう言って俺は自分の身体を見る。

 ドレイクとはまるで違う。

 あらゆる傷の無い、ピカピカの新品みたいな身体だ。

 

「ラルゴ君、私にはなんとなくだが、解るのだ」

「わかる……? 何の話だ?」

 

 そう俺が問い返すと、ドレイクは神妙な顔をしながら口を開いてきた。

 

「君はこれまで、様々な傷を負ってきたのだろう?」

「……? まあそうだが……別にそれは俺に限った話じゃないだろ」

「まあ、その通りではあるのだが。 君は見かけは傷一つない綺麗な身体をしているが、その内心は……察するに、傷だらけだ。 この私の身体ようにな。 それを君は、ごまかしている」

「……? 突然どうした?」

 

 意識してるしてないに関わらず、ごまかさなきゃいけないというのはそうしないとやっていられないからだ。

 いくらドレイクだとはいえ、この事に関してはあまり触れられたくは無いな……。

 

「仮にごまかしていたとして、だ。 それが何か問題か?」

「ああ。 いつか君の心が壊れてしまった時、その力をどう振るうのかが気になるのだよ」

「……なんだそんな事か。 安心してくれよ、俺はメンタルにだけは自信あるんだ。 普通の奴ならとっくに駄目になっちまってる事だって、俺だったら耐えられる。 それは俺が力を得たから出来ることじゃない。 元々こういう人間だからだ」

「ほう……だといいがな」

 

 そう言ってドレイクは俺の心を見透かしたように、静かに笑った。

 

「その自信が空元気じゃないといいが」

「さっきから、一体何が言いたいんだ?」

「私は以前、今の君のような冒険者が非道に落ちる事を止める事ができなかった。 その事を私は未だに悔いている。 それによって負った傷は、こんな身体の傷とは比べ物にならない程に深いものだ」

 

 要は俺が悪に落ちるのが心配で心配でたまらないということか。

 鎧がないせいか、いつもより弱弱しく見えるぞ。

 

「だが私はギルドマスターだ。 歩みを止める事などできない。 そしてそれは、君も同じだ。 その力を持っている限り、停滞は許されないだろう。 君にとって実感は薄いかもしれないが、世界は今、そういう所まで来ている」

「……どうしろってんだ?」

 

 そう問いかけると、ドレイクはにっこりと笑って言った。

 

「1人でやろうとするな。 仲間を頼れ。 その為に私達冒険者がいる。 それに、君には素敵な仲間がいるだろう?」

「っ……」

 

 盲点だった。

 思えば、俺は何にしたって自分で解決しようと動いてきた。

 そうやって1人で抱え続けた結果、手に負えない事態を招くということも少なからずあった気がする。

 その度にラスターの皆に窘(たしな)められたが、気づけばまた、同じ過ちを犯していた。

 俺が勝手にヴァリスを発ったのも、あいつらに迷惑かけまいと独断で先走った結果でしかない。

 ドレイクの言葉通り、これからはもっと仲間を頼るべきだろう。

 

「すまんな、突然説教じみた事を言い出してしまって」

「いや……その通りだなって思ったよ、ありがとう」

 

 改めて心に誓おう、全て1人でやろうとしないと。

 

「そうか」

 

 そう言ってドレイクは静かに微笑んだ。

 表情が見えるだけでこうも、距離が近く感じるのは嬉しい事かもしれない。

 

「話を変えようか。 君には夢があるか?」

「夢か……昔、リック……仲間と特級冒険者を目指すという約束はした。 ただ、それは別に俺自身の願いではない……人の夢の延長だ。 そして肝心の奴はもう……」

 

 そう落ち込む俺を見て、ドレイクはまたも神妙な表情をした。

 

「別に人の為に何かをするのは構わん。 だがな、自分自身の願いというのを持つのも大事だと、私は思う」

 

 そう言われ、改めて自分の夢について考えてみる。

 

「自分自身の願いか……これだけの力を得てなお、とくにこれといった願いってのがない。 強いて言えば、インフェルノの野望を食い止めるってのが願いか」

「それは願いではなく、使命というやつだ。 もっと、君にしかできない事を探してみたらどうだ?」

 

 難しい事を言う。

 こんな大層な力が無いと出来ない事……

 

「真っ先に思い浮かんだのは、この分与の力を使って、有力な冒険者を育てる事だ。 元々人付き合いは好きだし、それで敬われるなら尚の事良い。 問題は分与する手段だが……それを考慮すると、どうしても女限定になってしまう。 倫理的にも疑問が浮かぶし、何よりそれで生じるトラブルを鑑みると、とてもじゃないが現実的とは言えないな……」

「ウワッハッハ! なあに、英雄色を好むと言うだろう。 ギルドはただでさえ人手不足なんだ、君がその力を使って有能な人材を発掘するということは、ヴァリスの……ひいてはミドラシアの為にもなる。 私は悪い事だとは思わんがな」

「理解を示してくれるのは嬉しいが……」

 

 そう言うと、ドレイクはさも楽しそうに笑った。

 

「それが許される方法はいくらでもあるぞ、ラルゴ君。 例えば、君が実力を示してより高い地位に付くことだ。 そうすれば、何人もの女を侍らせたところで、誰も疑問には思わないだろう。 無論女同士のトラブルはあるかもしれないが、そこは君の腕の見せ所だ」

「実際に地位のある奴に言われると説得力が違うな……こんな事を提案してくるギルドマスターもどうかとは思うが」

「ウワッハッハ! 弱肉強食の世界では珍しくない話だぞ。 もう少し世界を見て、視野を培ったらどうだ?」

 

 偉大なる先駆者様にそれを言われたら何も言い返せないが……思ったよりも俗物的な考えを持ってるようだ。

 一体どんな過酷な世界を生き抜いてきたらこういう思考回路になるのだろうか、今の俺では理解できない。

 

「ラルゴ君、私はこう考えている。 力を持つ者は、その力を持って弱者を導かねばならない、と。 しかしそれだけでは駄目だ。 苦労に見合った対価を、力ある者は要求せねばならない。 そうやって等価交換でいられる関係こそが、真に世界が上手く成り立つ為の秘訣なのだとな」

「大層な考えだ。 何はともあれ、そうなるにはまず成果を示さなきゃだがな……面白そうだ、より高い地位につけるよう、努力した方がやり甲斐もありそうだしな……って、結局俺が目指すとなると特級冒険者になるんじゃねぇか?」

「ウワッハッハ! それは良い! 只の人の夢の延長が今、君自身の望みに変わったというわけだ。 後は努々(ゆめゆめ)、その気持ちを忘れぬ事だな」

 

 この話をしだしてからというもの、ドレイクは終始機嫌が良さそうだ。

 こちらとしては上手く誘導されたような気がしなくも無いが、別に悪い話でもないだろう。

 

「特級冒険者と言えば、君から見て我らがマスターはどんな感じだ?」

「うーん、まぁ一言で言えば変わり者だな。 なんつーか、底が知れない感じはした。 ただ、時折人間臭い部分も感じられてな、思ったより近くに感じられる事もある……不思議な感覚だな。 まあ、たまに変な事してくるけどよ」

「ウワッハッハ。 そうか、それは良かった。 実を言うとな、あれ程楽しそうなマスターは久々に見たのだ」

「嬉しそう? 普段からあんな感じじゃないのか?」

 

 そう問いかけると、ドレイクは複雑な表情を浮かべた。

 

「マスターはああ見えて、かなりの人見知りでな。 普段ならばロクに人に会おうともしないのだ。 まあ、なまじ人の心が読めると言うのも、楽じゃないということだろう」

「確かにな……見たくもねー人の心の内が勝手に見えちまうなんて、俺だったらどうにかなっちまうかもな……」

「或いは、とっくにどうかしてしまっているのかもしれん」

 

 返答に困る事をさらっと言いやがる。

 俺にはカマリがどう考えてるのかなんて知る由もねーが、想像以上に評価されていると見て間違いないのだろうか。

 なら、地位向上の為にも、今回の指令は最善の結果を持ち帰ってやりたい。

 

「なんか長々と話してたらのぼせてきたな……ここらで上がってもいいか?」

「そうか。 君用の部屋も用意してある。 今日はゆっくり休むといいだろう」

「気が利くな。 あんたはどうするんだ?」

 

 その問いに、ドレイクは落ち着いた様子で答えた。

 

「私はもう少し、ここから見える月を楽しむとしよう」

「そうかい。 それじゃあ、お先に」

 

 そう言って脱衣所に戻ると、ご丁寧に俺用の寝巻きと部屋の鍵が置かれていた。

 たまには1人で寝るのも悪くないか……あいつらと寝ると、また何しでかしちまうかもわからねーしな。

 

――そして、結局この日は何事も無く、用意された豪華な寝室で1人静かに眠る事ができた。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

――翌朝、公爵の屋敷の食堂には、青金の鎧を纏ったドレイクと、準備を整えた俺たち名も無きパーティ4人が集まっていた。

 部屋の半分以上を占める白いクロスの敷かれた長テーブル、その真ん中にドレイクが座り、俺とマーシア、そして迎え側にはリリーとウルが座っている。

 テーブルの上には、朝食の定番メニューであるブレッドに牛乳、チーズにハムにサラダに、スクランブルエッグ……

 

「マーシア、これあげるよ」

 

 俺は目の前のスクランブルエッグが盛られた皿をそっとマーシアに渡した。

 

「……? いいんですか? ラルゴさん」

「うん、好きだろう? スクランブルエッグ」

 

 などとのたまったが、正直どうしてもこの食べ物だけは好きになれない。

 そういう時は、必要としている者に渡せばいいのだ。

 そうやって世界は回っていく、それが一番美しい。 

 

「意外と子供っぽいんですね」

 

 恐らくは見抜かれているのだろう、マーシアは子供でもあやすかのようににっこりと笑った。

 

「まあ、それはそうと……」

 

 どうしても、席の半分以上が空いているのが妙に気になって仕方が無い。

 

「ドレイク、いつもは誰と食ってるんだ?」

「もっぱら、兵達とだな。 今日は君達がいるから外してもらっているが」

「そうなのか……奥さんとか子供とかは?」

 

 それを問いかけると、一瞬ドレイクは言葉を詰らせる様子を見せた。

 

「ふふふ、痛いところを突いてくるな君は。 生憎だが、今はこの屋敷にはいないのだよ」

「そ、そうか……深くは聞かないでおこう」

「そういえば、せっかくだ。 リリーにウル君。 昨日の稽古の反省点でも話そうか」

 

 すると、リリーが若干嫌そうに表情を歪めた。

 

「えっと……ここでですの? どうせなら、稽古が終わってすぐが良かったのですけれど……」

「どうせならパーティ全員がいる所で話したほうが、今後の参考になると思ってな。 嫌だったか?」

「いえ、そんな事は……」

 

 恐らくは飯が不味くなるとか、そんな事を考えているに違いない。

 

「ではまずウル君からいこうか」

「わふっ」

 

 そう言ってウルは、律儀に食事を取る手を止めた。

 あまり意識していなかったが、思ったよりウルは戦闘に掛ける意欲が強いらしい。

 ドレイク相手に、稽古ではどのように立ち回ったのだろうか。

 

「まずはウル君から見て、先の稽古での反省点はなんだったと思う?」

 

 なるほど、先に答えを提示せずに順を追って追求していく方式か。

 自分で考える分、より効果がありそうだな。

 

「うーんと……仕掛けるタイミングが良くなかった……のかな? 他にも、あまり効果がないのに鎖を絡めたとか、いっぱいありすぎる……」

「ウワッハッハ! 良く理解できているではないか。 これはますます今後に期待出来るというものだ」 

「ありが……とう?」

 

 ドレイクの反応を見るに、ウルは戦いを自分で振り返られるくらいには考えて動いているってことだな。

 

「まあ概ね、君の言う通りだ。 力量差も考えずに鎖を絡めるものではない。 逆に相手に利用されて窮地に陥る事もある。 訓練だからと、私はそうしなかったがね……君も気づいてはいたのだろう?」

「……うん」

 

 若干しょんぼりしたウルに反して、ドレイクは楽しそうに言葉を続けていく。

 

「ただ仕掛けるタイミングの取り方自体は、苦しい中良く見極められていたと思う。 鎖鎌と短剣の二刀流という変わったスタイルも、上手く使いこなせていた。 とても戦闘経験が浅いとは思えない、流石はネブラスカの娘だと感心したものだ。 磨けばより光るものになるだろうな」

「そう……? ありがとう!」

「あとは、搦め手をもっと増やす事だな。 見るに、君は風属性の魔法と相性がいい。 鎖から伝わらせる以外にも、直接雷を浴びせられる魔法を修練すると良いだろう。 他にもナイフなどの投擲技術を培うのもありかもしれないな。 ちょうど、リリーという良いお手本もいるしな、参考にすると良いだろう」

「……わかった!」

 

 そう言ってウルは元気良く頷いた。

 結構ボロクソ言われるかと思ったが、案外と優しい評価だな。

 ドレイクは褒めて伸ばすタイプなのだろうか……まあ、教えを乞う側からすれば、その方が気分が良さそうだ。

 

「続いてはリリーだが……君はどうだ?」

 

 言われて、リリーはぴたりと食べ物を口に運ぶ手を止めた。

 

「ワタクシは……家宝の杖の性能に甘えて、他を疎かにしていた事に気づかされましたわ。 エア様にも言われましたが、防御と攻撃を両立しようとするが余り、ちぐはぐな戦闘スタイルを取っていたことを認めざるを得ません」

「まあ、概ねその通りだな。 だがリリーよ、両立しようとするのは何も悪いことではない。 どちらも習熟しない内に両方ともこなそうとするから、中途半端になるのだ。 筋道を立てて技術を培っていけば、何も君がやろうとしていた事は実現不可能な事ではない」

「……ありがとうございます、公爵。 暫くは防御を捨て、攻撃偏重で立ち回れるよう努めていきたいと思いますわ」

 

 リリーにとっても、今回の稽古はより良い気づきを得られる場所だったらしい。

 今後の活躍に期待だな。

 

「うむ。 精進すると良い。 まずは杖無しでも、全身鎧を着て俊敏に動ける所から始めると良いだろう」

「……お言葉ですが公爵……ただの人間にそんな事が可能なんですの?」

「それは君の努力次第だ。 ポテンシャルはあるのだ、後はそれを為そうとし続けられるか、それが肝心だ」

「が、頑張りますわ……」

 

 そう言ってリリーは力なく頷いた。

 確かに、ドレイクの提案はかなり難しいものだが、努力家っぽいリリーならきっと乗り越えられると俺は信じよう。

 しかし仮にできるようになったとして、今のリリーの凛々しい美貌が保たれるかが気がかりだ。

 とてつもないゴリラになってしまったらどうしよう……そうならない事を祈るしかないか。

 

――そうこうしている内に、俺たちは仕度を終え、朝日が照らす中ドレイクの屋敷の入り口までやってきた。

 律儀にもドレイクと兵士達が、これから出立する俺達を見送りに来ている。

 

「本来ならば馬車を用意しているところなのだがな、生憎霊脈を調査しながらとなると、逆に負担になりかねない。 今回は徒歩になってしまうが問題ないか?」

「問題だっつっても、やるしかないんだろう?」

「ウワッハッハ! まあ、その通りなのだがな」

 

 この高笑いも今回で聞き納めか。

 そう考えると、なんだか少し名残惜しい気がしなくもない。

 

「長旅になると思うが、諸君、くれぐれも無理はするなよ? 特にマーシア君。 自身が聖女だと言う自覚を、忘れないようにしてくれたまえ」

「はい、忠告ありがとうございます」

 

 そう言ってマーシアは、静かに一礼した。

 

「それじゃあ、世話になったな、ドレイク! 吉報を持って帰ってくるから、その時はまたよろしくな!」

「お世話になりました、ドレイクさん」

「ありがとう、おじさん!」

「次に会う時は、より成長したワタクシをご覧に入れますわ!」

 

 各々がドレイクに向けて挨拶を告げる。

 

「ウワッハッハ! では行くが良い。 諸君らの旅の無事を祈っているぞ」

「ああ! 行くぞ皆!」

 

――そう言って、俺たちはドレイクに見送られながらヴァリスの南門に向かって歩き出した。

 そして今ここより、偉大なる指令、ヘリオスの霊脈修復の旅路が始まろうしている。

 鮮やかな朝日が照らし出す俺達の旅路、その先に待ち受けるのは希望に満ちた未来か、はたまた想像を絶する程の地獄か。

 その結果はまだ、誰も知らない。

 

複数回(3回以上くらい?)HシーンがあるキャラのH描写について。

  • 端折るな。
  • 端折っても良い。
  • テンポ悪くなるからいらん。
  • どっちでもいい。
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