脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――上弦の月が薄っすらと照らす中、潮風がそよぐノトスの岬をラルゴとエアは訪れていた。
俺は岬の上に点々と建てられた、簡素な十字架の内の一つに花を添えた。
「ラルゴ、ここはなんですの?」
「墓だ、帰らなかった冒険者達のな」
俺が花を添えた十字架には、小さくリックと刻まれている。
「久しぶりだなリック……俺はあれから金級冒険者になったよ。 ヴァリスで素敵な仲間もいっぱい作った。 だが……
そう独り事を呟く俺のを頬を、潮風が静かに撫でる。
エアは何も言わずにただ呆然と海を眺めているだけだ。
「実際に死体が埋まってるわけじゃない。 もしかしたらここに名の刻まれてる奴も、どっかで元気にやってるかもな」
「ラルゴ、あの男と何かありましたの?」
できればあの野朗の事は思い出したくない。
だが、ここで逃げていては埒が明かないだろう。
「……奴はゼット、俺の相棒を見殺しにした男さ」
そう言って、俺はエアに背を向けた。
「だが証拠がない……間違いなくリックはあいつのせいで……なのにあいつは、何故かのうのうと生きてやがる」
「そうですのね」
「正直忘れたくても忘れられないんだよ……あの時、俺があいつを止めていればって思うと、今も胸の奥が沸々としやがるんだ」
震える俺の肩に、エアの手がぽんと乗せられる。
「別に、それでいいと思いますわ。 簡単に忘れられてしまったほうが、そのリックという方も浮かばれないでしょう?」
「いや……そうだな」
俺はそう言って静かに顔を拭うと、エアに向き直った。
「正直、死体があったらどれ程楽かって思うのさ……なまじ生死も確認できねぇってのは、
「深く考えても気を病むだけですわ、エレガントになさい」
エアの言う事は至極まともな正論というやつだ。
だが、今の俺にはそれを受け入れるだけの心の強さが……いや、いい加減受け入れなければならないか。
このままでは、いつまでたっても前に進めやしない。
「そうだな……そうするよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――翌朝
――バンッ!!!
ギルドの扉を勢い良く開き、受付へと飛び込んでいく。
突然の来訪者に、コクコクと頭を垂れていた受付嬢が驚いて顔を上げた。
「ひぃっ、ラルゴさん!?」
「昨日は騒がせてすまなかった。 クエストを受けたいんだが」
「ぁーーー……」
ややあって、隈の目立つ受付嬢はむくれ顔で答える。
「ゼットさんはあれでも、このギルドの貴重な戦力ですから、あまりいざこざを起こさないようにして頂けると助かります。 後処理とかひじょーーーにめんどくさいんで」
「あぁ、反省してるよ……この通りだ」
俺が水平に頭を下げると同時に、天窓から射し込んだ光が反射した。
「まぶしっ……まぁーーー、もういいです。 次は気をつけてくださいね。 それでその様子だと、クエストを受ける気になったんですね」
「ああ。 南部のクエストを回してほしいんだ」
「ぁーーー、ラルゴさん。 申し訳ないのですが、現在南部のクエストには受注条件がございまして……金級冒険者を含んだ4人以上のPTが最低条件なんです」
「何だと!?」
4人PT?
金は俺がいるから良いとして、他に二人も必要なのか!?
いや、そもそもエアって何級だ?
慌てて周りを見渡すと、椅子に座って寛ぐエアの他に、何人かの冒険者の姿が飛び込んできた。
それに気づいた冒険者の二人組が、俺に近づいてくる。
二人は普段からペアで組んでいるのか、首元に御揃いの黒い菱形のネックレスを付けている。
「あんたラルゴだろ? 俺達もこの町出身の冒険者なんだが、人が足りなくて困ってたんだ」
えらい都合いいタイミングで声かけてきたな。
この町出身?知らない顔だ。
声をかけてきた冒険者は俺より少し年を取ったベテランの冒険者といった顔立ちで、短く切った緑の髪に、高級そうな銀製の防具を纏っていた。
「あぁ、すまない。 俺はグローリオ、横にいるのはシーマってんだ」
「よろしくね坊や」
続けて話しかけてきた女は、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。
革防具を貴重とした露出多めの防具に、髪までかかった緑色の艶のある髪が一際目を引く。
この町の出身で金級冒険者か……ちとヴァリスでクエストにかまけすぎたか……全然わからんな。
にしても妙にエロいねーちゃんだ
「すまない、ヴァリスに長い事いたせいであまり今のリベルタスには詳しくないんだ」
「それは残念だねぇ……アタシは貴方の事よく知ってるよ、ラスターの
こいつ、俺をその名で呼ぶのか……なんだか急に冷めてきたぞ。
と、気を悪くしたのに気づいたのか、グローリオが露骨に機嫌を取りに来た。
「まぁまぁ、そんなこんなであんたの事は俺たちなりに尊敬してんだ。 良かったら共に南部のクエストを受けてくれないか?」
ふとエアを見やる。
エアは特に構わないといった様子で静かに頷いた。
まあ、エアが問題ないなら良いだろう。
「……こちらも断る理由はない、よろしく頼む」
そう言って俺は二人に握手を求めた。
ふと、シーマが俺の手を掴んだ時、心臓が早鐘を打った。
「ぐっ……」
「おや、どうかしたかい坊や?」
なんだ?
こういう女は俺のタイプじゃないはずだが……実は案外いけるのか?
いや、違うだろ。
「な、なんでもない……それと、坊やっていう歳でもないんだ。 からかわないでくれると助かる」
「それは悪かったねぇ」
俺たちが他愛の無い話をしていると、不意に受付嬢が口を挟んできた。
「ところでラルゴさん、お連れ様の級はいくつでしょうか?」
レイジーの視線の先では、エアが呑気に欠伸をしていた。
俺は改めてエアについて考える。
現在解っているのは冒険者の冒の字すら知らない全くの素人で、実力も未知数、且つとてつもない箱入り娘で庶民舌……んで怪力で金食い虫で……
考えれば考えるほど、頭がおかしくなりそうだ。
そんな俺に気づいたのか、エアは重い腰を上げると受付に近寄って口を開いた。
「良いですわよラルゴ、ワタクシも金級? 冒険者として共に参りましょう」
「ぁーーー、それでは、プレートを拝見してもよろしいでしょうか?」
「ぷれーと……? なんですの、それは?」
それを聞いて、受付嬢と新たにPTに加わった二人が唖然とした表情で俺を見つめる。
やめろ、そんな目で俺を見るんじゃない。
「ぁのーーー、申し訳ないのですが、皆様銅級から始めるのがギルドの制度でして、まずは登録をしていただかないことには」
周囲の気まずい空気を察してか、エアは冷や汗を浮かべた。
「アハハハハ……ラルゴ、なんとかしてくださる?」
「登録しようか……。 そんなに時間かからないし、別に何か不自由な事もないはずだ」
エアは納得した様子で、再度受付嬢に向き直った。
「それでは、ぼうけんしゃとうろく? の手続きを進めたくてよ」
「ぁーーー、畏まりました。 ところで、気のせいでしょうか? 私、どこかで貴方を見た覚えがあるのですが」
「そうですの? きっと気のせいですわよね」
――そうしてエアの冒険者登録が始まった。
レイジーが怪訝な顔をしながら、カウンターの上で登録用紙にペンを走らせている。
「ぁーーー、お名前は?」
「エアですわ?」
「フルネームでお願いします」
「えっ、あー……アシュクラフト、だったかしら?」
そう言ってエアはちらりとラルゴを見る。
(馬鹿野朗! だったかしら? ってなんだよ! 苗字を忘れる奴がどこにいる?! そもそも俺と同じにしたら駄目だろ、夫婦かっつーの!)
「エア・アシュクラフト、と」
(通すんじゃねーよヴォケ!)
なんていい加減な受付嬢なんだ……
傍目でそれを見ていたシーマは腹を抱えて笑っている。
「あら、可愛らしい奥様ですこと、妬けちゃうわ? ねぇ、グローリオ」
「あまりからかうなよシーマ……」
俺は二人の会話が聞こえないふりをして、エアの行く末を見守った。
「ぁーーー、出身は?」
「エルプルですわ」
横の席で水を飲んでいたグローリオが思わず噴き出す。
「なぁラルゴ、あんたの新しい相棒は霊峰出身なのか?」
「あ、あぁ……俺も聞いた時はとても驚いた」
(んなわけあるか?!? もう無茶苦茶だろこれ……)
グローリオの質問に対して、俺ははぐらかす事しかできない。
それに構わず、レイジーは黙々と記入用紙にペンを走らせていく。
「ぁーーー、最後にお聞きしますね。 何か特技や特筆した才能などはございますか? 自己申告で構いません。 もしかしたら昇格試験の際に有利に働くかもしれませんよ」
「そうですわね……多すぎて何を語ったら良いのやら、わかりかねます」
(なんだこの大物感……そこは嘘でも自分の凄いところをアピールするところだぞ)
「ぁのーーー、そこをなんとかーーー、割と適当でも良いんで」
(良くねぇよ、真面目にやれよ!)
「そうですわね……でしたらそうですわねぇ……すごくつよい、とか? ……あっ! あとものづくりが得意ですわ!」
「ぁーーー、すごくつよい、ものづくり、と」
(おい受付嬢、お前は本当にそれで良いのか? 後々お偉方から叱られたりせんのか? 俺はこのギルドの未来が心配だよ)
他の冒険者達が固唾を飲んで見守る中、レイジーは無事に記入用紙を書き終える。
そうして、デタラメな冒険者の登録用紙が完成したのだった。
「はい、完成です。 プレートをお作りいたしますので、少々お時間をいただきますね」
一仕事終えたとばかりに、エアは得意げな表情で俺を見ている。
「ラルゴ、ワタクシやりましたわ!」
「ああ……良かったな、エア」
「なぁ、アンタ。 組む相手間違えたんじゃないだろうね?」
「言うなシーマ」
グローリオとシーマは、後悔したような表情で密かに顔を見合わせていた。
気持ちはわからなくもないが……ばれてんぞ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――それから待つ事数分、エア・アシュクラフトと印字された銅製のプレートが手渡された。
「ぁーーー、こちらがエア様のプレートになります。 最初なので銅製になりますね、ここから段階を踏んで銀、金、白金、行く行くは特級になれるようがんばって下さい。 本来なら冒険者のお仕事についてもっと詳しく説明をするところなのですが、ちょうどそちらにベテランの冒険者が3名もいらっしゃいますので、直接ご教授してもらってください」
「「「おい」」」
俺たち金級冒険者がレイジーを睨むが、全く動じる様子を見せずに言葉を続ける。
全く動じない……こいつ、場慣れしてやがる。
「それではラルゴさん、グローリオさん、シーマさん金級3人に銅級のエアさん1人を含めたPTですので、無事南部のクエストを受注いただけます。 受注する依頼の用紙を剥がして、こちらに持ってきてください」
受付嬢の言葉と共に、壁にでかでかと掛けられた掲示板を眺めだす俺たち金級冒険者。
そこに張り出された大量の依頼用紙を、1つ1つ吟味していく。
一歩後ろに立ったエアは、頭にハテナを浮かべたまま俺たちの動きを再現している。
「南部領内はオーク討伐、ゴブリン討伐ばかりだな……依頼主はケルゲー・マルレーン伯爵か、なるほど」
「お知り合いですの?」
「ここ出身の冒険者なら1度は会った事があるってくらいには有名だ。 貴族にしては珍しく人が良くってな、地元民には好かれてる」
「そうですのね、その伯爵様ならインフェルノについて何か知っているのではなくて?」
「なるほどな、アテにできるかもしれない」
そうエアに言い聞かせていると、興味を持ったシーマが口を挟んできた。
「おや、人を探しているのかい?」
「あぁそういえば、二人にはまだ聞いて無かったな。 インフェルノとかいう、燃え盛るような頭が特徴の男なんだが……何か情報はないか?」
二人は顔を見合わせるが、やがて困ったような顔を浮かべると小さく答えた。
「初耳だな……な、シーマ?」
「そうだねぇ、聞いたこともないねぇ、」
「正直俺にも検討付かないんだが……もっと詳しくわからないのかエア」
「こちらで判ってることはそれが全てですの」
「そうか……材料が少なすぎるぜ」
そう言って俺は何枚か依頼用紙を剥がし、傍にあるテーブルの上に並べて乗せていく。
ふと、1枚の依頼用紙が目に入った。
「魔鉱石の収集? あのオッサンは魔道の研究にでも手を出したのか?」
「ああそれなぁ、結構前からお熱らしいぜ。 魔物が抱えてる事が多いんで俺たちとしても小遣い稼ぎに助かってる」
「なるほどですの」
暫くして、俺達は何枚かの依頼用紙を持って再度カウンターを訪れた。
それを目の前に並べたレイジーは、淡々と内容を読み上げていく。
「ぁーーー、確認しますね。 クエスト内容はリベルタス南部、マルレーン領内でのゴブリン、オークの討伐並びに魔鉱石の採集。 納品先はマルレーン伯爵のお屋敷になりますね。 魔鉱石、並びに魔獣の一部を切除して納品してください。 報酬は歩合制、現在のレートでゴブリン1匹6,000ガルド、オーク1匹30,000ガルド、魔鉱石100グラムにつき10,000ガルドになります。 こちらで受注して構いませんか?」
「ガルド……?いまいちよくわかりませんわね」
(エア……きっとお前は金なんかには全く困らない生活をしていたんだな。 そうに違いない、そうだと言ってくれ)
「おいおい、ガルドも知らないのか? ……大丈夫か?」
「飛んだ箱入り娘みたいだねぇ」
グローリオとシーマは呆れた表情でエアを見やる。
それに対して、エアは呆れ顔でフッと溜息をついた。
(おい、その余裕はなんだ? 少なくとも今のお前が取っていい態度ではないぞ?)
俺の心配も余所に、エアは意気揚々と語りだした。
「皆最初は無知なもの、そのような態度では臣下の信頼は築けませんでしてよ?」
(最もらしいこと言ってるが……え、まさか臣下って俺のこと?)
あからさまに顔をしかめる二人……見かねた俺はそっとエアの耳元で呟いた。
「エア……魔鉱石100gは俺の掌くらいの大きさ、それ1つが干し肉約50個分だ」
「ま! それは素晴らしいですわね! さあ、早く参りましょう」
エアはポンと手を打ち、金色の瞳を爛々と輝かせる
「なんなんだい、このお嬢ちゃんは?」
「大丈夫かよ」
(やめろ! 耳が痛い)
ふと、返答を待ちかねた受付嬢がわざとらしく喉を鳴らした。
「コホン! こちらで受注して構いませんか?!?」
「ええ、よくってよ!」
エアだけが元気そうにそう答えた。
――それから数刻、太陽が真上に昇る頃になって俺たちはノトスの東門に集まった。
横には1頭の鹿毛の馬と、それに繋がれた木製の幌車がある。 幌車はPT全員が乗ってもややスペースが残るほどの大きさで、御者台の上には運転を買って出たグローリオが座っている。
「ま! なんだかワクワクしますわね! でしょうラルゴ」
「お前、さっきからずっとこの調子だが、ピクニックに行くわけじゃないんだぞ? わかってるのか?」
「案ずる事はありませんわ!」
「案ずる事だらけだよまったく……そういえばエア、武器とか何も用意してないけど、本当に良かったのか?」
「ええ、ワタクシはこの拳だけで戦い抜けますの」
「本業は格闘家か……いや、とてもそうは見えん。 念の為これ持ってろ」
俺は黒革のバッグから、グラントから渡された装飾の入った銀のナイフを取り出してエアに手渡した 。
「……? あなた、これをどうしましたの?」
「知り合いから貰ったんだ。 護身用に持っててくれ、失くすなよ」
「そう……これが何か判ってるわけではありませんのね」
エアはそう小声で呟くと、幌車の中に飛び乗った。
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
それに続けて、俺、シーマが幌車に乗り込む。
「さて……冒険者狩りとやらに遭遇しないと良いんだが」
「そんなこと一々気にしてたら、アタシらは商売になんないよ」
「そういうこった! 全員乗ったな? 出発するぞ、気引き締めろォ」
グローリオが勢い良く手綱を打つと、馬はゆっくりと街道を歩き出した。
さあ、これから一仕事しようじゃないか。
待っていろ、マルレーン領。
会話(特にHシーン)の♡マークについて
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絶対いる。 今後も続けて欲しい。
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あったほうがいい。
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ないほうがいい。
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絶対いらない。 今までのも修正しろ。
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どっちでもいい