脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
第48話 新たなる旅路
――氾濫する悪意
それを振り払うのはただ一つ、大いなる力のみ
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――朝、眩しい陽射しと共に俺たちは自由都市ヴァリスの南門を発った。
吹き抜ける、冷やりとした風が心地よい。
以前、俺がここを発ったのは約10日前。
あの時の、呆れるほどに沈んでいた俺はもういない。
仲間達がいるおかげで心細さを感じる事もないし、原因不明の病で将来を憂う事も無いからだ。
心配事があるとすれば、俺のもう1つの魂……アレグロの目的が不明瞭な事と、ラスターの奴らが今何をしてるか心配だってことくらいだろう。
「なんだか嬉しそうですね、ラルゴさん」
マーシアが微笑みながら俺に語りかけてくる。
「ふっふっふ。 お前達のおかげかもな」
「……え?」
そう返すと、マーシアは間の抜けた顔をした。
と思ったら、今度リリーがわざとらしく嫌味を挟んでくる。
「まあ! 随分くさい事を口にするんですのね」
「だって事実だもんよ。 以前1人でこの町を逃げ出した時からは想像もできない程充実してるんだ。 少しぐらい良い気分に浸らせてくれたっていいじゃねぇか」
「ふんっ。 ま、あまり気を抜きすぎないことね」
そう言うと、リリーはスタスタと街道を進んでいく。
「あいつも忙しい奴だな。 いちいち嫌味を言わなければ気が済まんのか」
「うふふ、きっと素直じゃないだけですよ」
「ふっ、なんか俺もそんな気がしてきた……ってあれ?」
ふとリリーの後ろ姿を見て思った。
そういえば今日は厳つい全身鎧姿ではなく、見慣れない露出を極力抑えた黒地の布防具に、いつもの白と金の鎧は前腕部、膝下、胸と股だけに留まっている。。
より女性らしいシルエットが表に出るようになったせいか、不覚にも色っぽさを覚えてしまった。
「リリー、その格好はどうしたんだ? やっぱ今までの防具は重すぎて動きづらかったか?」
「い、今更ですの!? てっきり、ワタクシの事なんて興味無いのかと思ってましたわ」
なるほど、妙な突っかかり方をしてきたのはそのせいか……。
マーシアの言う通り、本当に素直じゃないだけみたいだ。
「わりぃわりぃ、別にそういうつもりじゃないんだ。 それに、今の方が俺は好きだぜ」
「ふんっ、どうせいかがわしい事でも考えてるに違いありませんわ!」
そう言ってリリーはぷりぷりと怒りながら、再び街道を早足で進んでいく。
「こうして見ると、あいつ良いスタイルしてるよなぁ……」
思わず本音をこぼすと、それを聞いていたウルが俺に問いかけてきた。
「わたしも、おねえちゃんみたいになれるかな?」
「ああ……よく食べてよく寝れば間違いない。 あ、でも酒はほどほどにしといたほうがいいぞ」
「わたしお酒飲めないから……。 でも、わかった。 頑張る!」
そんな他愛無いやり取りを、マーシアは横から笑顔で見つめていた。
――それから、ノトスへ続く街道を進む事、約半日。
途中、魔物と遭遇する事も無く、道端で小休憩を挟みながらも、順調に進み続けてこれだ。
新調した金の懐中時計を確認すると、時刻は既に20時を回っている。
馬車やハーピー達の利便性が伝わると同時に、徒歩の移動が如何に効率悪いかがわかった。
なんせ、未だにエルプルの森にすら辿り着いていないのだから。
「お前達、今日はここらで野宿でもするとしようか」
「そうですわね……それにしても、馬車が無いのがここまで不便だとは思いませんでしたわ」
「霊脈も今のところは道なりに続いてるだけみたいですしね……」
「わぅ……」
全員が顔に疲れを浮かべている。
いくら熟練の冒険者だって、ずっと歩き続けてればこうもなろう。
「こんな事になるなら、ノトス行きの行商人の馬車にでも乗せてってもらえば良かったな」
「今更そんな事を言い出したって仕方ありませんわよ。 とりあえず、水場を確保しましょう」
「そうだな。 ここからならヴァリス川が近いだろう」
ヴァリス川はその名の通り、自由都市ヴァリスから南東に向かって続く、幅100~200m程のそこそこの川だ。
俺達リベルタス出身者から馴染み深いエルプル川に比べると、その大きさは半分程しかないが、魔物も少なく水も綺麗なんで、地元の釣り人には評判らしい。
そんなこんなで俺たちは、緩やかに流れるヴァリス川の河川敷にやってきた。
保存食も大量に買いこんでは来たのだが、この任務もどれだけ長くなるかは見通しがつかない。
暫く補給も出来ないだろうし、自給自足出来るならそれをするに越したことは無いのだ。
「それじゃあマーシア、万が一雨で増水した時の為に少し高いところにテントを建ててくれ」
「わかりました」
思えば、マーシアには重い荷物を持たせてばかりだ。
聖女にこんな事をさせるのもあれな気がするが、かといってマーシアを前に出すわけにもいかない。
幸い、以前のエルプル登攀でマーシアの力の強さは確認できている。
なら、一番安全なポジションにいるべきマーシアが大事な荷物を預かるというのは、案外理に適っているのか……そう考えれば別におかしい話でもないな、今後も頑張ってもらおう。
「それじゃあ、俺とウルは食糧確保、リリーはマーシアの警護を……」
「任せてくださいまし! ワタクシがソロで磨き上げたサバイバル技術の真髄、今こそ見せてあげますわよ!」
「リリーはマーシアの警……いや、俺が警護を担当しよう」
なぜかここに来てテンションを上げるリリーに困惑するが、別に俺がマーシアの護衛に回ったところで何も問題はないか。
それに、釣竿もなしにどうやって食料を確保するのかも気になるところだ。
白金級冒険者様のサバイバル技術とやらの真髄、見せてもらうとしよう。
「行きますわよ、ウル! 競争ですわ!」
「わふっ!」
そう行って二人は、意気揚々と川に向かって走って行った。
呑気なものだが、たまにはこういうのも悪く無い。
「うふふ、まるでピクニックみたいですね、ラルゴさん」
「あまり気を抜かれても困るんだがな……」
「でも私、いつも1人でしたからこういうの初めてで……なんだか新鮮です」
そう言うマーシアはとても嬉しそうだ。
「こういう冒険者らしい体験も、もっとできるようになるといいな」
「……ありがとうございます」
「なんだ、改まって?」
「い、いえ、なんでもないです」
そう言ってマーシアは照れくさそうに視線をそらした。
ふと川の方を見やると、ウルとリリーが盛り上がってるのがわかる。
「わふっ! わふっ!」
「負けませんわよー! それ! それ!」
亜人のウルはともかく……あのリリーが、熊のように川から直接魚を手で掬い上げるとは。
「ラルゴさーん、準備できました!」
「おお、って早いな!」
ふと振り向けば、瞬く間にテントが設営されている。
ここまでの早さで設営するのは不器用な俺にはとても無理だろう。
流石は聖女、素直に尊敬せざるを得ない。
「えへへ、経験が活きました」
「こんなに早いなら、今後もテントの設営はマーシアに任せようかな」
「えー、たまには私だって食料の確保とかしたいですー」
「はっはっは、冗談だ」
二人で何気ない会話で盛り上がっていると、遠くからリリーが呼んでくる声が聞こえた。
「ラルゴー、マーシアー、夕食にしますわよー!」
「はっはっは、リリーの奴、まるで母ちゃんみてーだな」
「あはは、そうですね」
ふとそんな事を口走った途端、自分を捨てて家を出て行った母の事が頭をよぎる。
俺がこうして金級冒険者までなれたのは間違いなく母の教育の賜物だ。
しかし、多少逆う事があったとはいえ、俺は捨てられなきゃいけない程の事をしたのだろうか?
あの人にとって、俺の父と呼べる人物の存在は、一体どれだけ大きかったというのだろう。
「ラルゴさん?」
ふと前を見ると、マーシアが心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
「いや、なんでもない。 今日の飯は魚三昧だろうな!」
「はい、楽しみですね」
嬉々としてリリー達のもとへ向かうマーシアに手を引かれる。
こうしていると、過去の事なんてどうでもよくなってきた。
「さ、ご覧なさい! この獲物の数!」
リリーの言う通り、川原には二人で捕まえたであろう大量のヴァリス・トラウトがびちびちと跳ね回っている。
ヴァリス・トラウトは1匹でもかなり腹いっぱいになるのだが、この数は流石に乱獲しすぎなのではないか。
「で、勝負の行方はどうなったんだ?」
「当然、食料確保対決はワタクシの勝ちですわ!」
「ちがう。 わたしの方がいっぱい獲った」
「確かに数ではウルの方が上ですけれど、ワタクシはしっかりと脂の乗った個体を厳選していましたのよ? 当然、ワタクシの勝ちですわ!」
仮にその話が本当だとすると、リリーの視力は凄まじい。
しかしウル相手にこんなにマジになるとは、負けず嫌いというか、少しガキすぎるというか……。
「んで、こんなに獲ってどうすんだ? 俺は2匹も食えれば十分だぞ」
「私もそこまで食欲旺盛ではないので」
困惑した姿勢を示すと、ウルが少し拗ねた様子で同意を示してきた。
「わたしも」
「そんな、ウルまでそんな事言うんですの? そんなんじゃ大きくなれませんわよ?」
「2匹も食べれば十分だと思う」
そうウルが言い放った途端、リリーが硬直した。
「そうだぞリリー。 あんまり魚を乱獲して川の生態系を乱すんじゃない」
「おかしいですわ……数はウルの方が獲っていた筈なのにワタクシが責められていますの……」
そう言ってリリーは、しょんぼりした様子でどう見ても過剰に獲った魚達を川に返していく。
それでも、俺達はせいぜい2匹が関の山なのに対して、リリーは怒涛の5匹である。
一体どんな育ち方をしたらここまでの量が胃袋の中に納まるのだろうか。
「それじゃあラルゴ、火を付けてくださる?」
「あ、ああ……」
――ボッ
そうして、いつの間にかウル達が拾ってきた枝の束に火をつける。
思えばこのパーティ、炎の属性を持っているのが俺しかいない。
リリーとウルは風だし、マーシアは……光だろうか?
まあ普通に魔法なんかに頼らなくても、火を起こすぐらいなら3人ならわけないだろうが……
「流石の火力ですわねぇ、これならすぐに焼けそうですわ」
そう言って、豪快に木をぶっ刺したヴァリス・トラウトに火を通していく。
「おお……」
「便利ですね、炎魔法」
「ああ。 お前達も使えたらいいのにな、炎」
「……♡」
そう言うと突然、マーシアが妖艶な表情で俺に視線を送ってきた。
「……っ!」
久々に見た気がするせいか、妙にドキっとしてしまう。
そういうつもりでは断じてなかったのだが……。
「ドレイクさんに聞きましたよ。 ラルゴさんには、素質を分け与える力があるとか」
「おっ……耳が早いな」
あの野朗、カマリ伝手に俺の力を把握してやがったのか……。
いずれは俺の口から告げるつもりではいたが、予定が狂っちまった。
「私にもその……分けてもらってもいいですか? ラルゴさんの力」
「……ああ、そうだな」
それ自体は別に構わないというか、むしろ歓迎なのだが、問題はテントが1つしかないこと、そして夜盗や魔物の襲撃が無いとも言い切れない事だ。
「にしても美味いな。 ただの丸焼きと言っちゃそれまでだが……本当に美味い」
「ふふふ、あなた達、本当にそれだけで足りますの?」
いつの間にか5匹平らげたリリーが得意げに笑う。
「逆にそれだけ食って支障ないのかお前は?」
「これでも腹八分目くらいですわよ?」
「そうか……」
最早何も言うまい。
そうこうしてる内に皆食事を終えたようだ。
「それじゃあ、皆飯はこんなもんで良いか?」
「はい、問題ありません♡」
「わたしも」
「それじゃあ、今日の所は早めに休みをとって早朝また動き出す事にしよう」
そう言って起こした火を消していく。
にしても、リリーの影に隠れがちだが、マーシアもウルも良い食べっぷりだ。
女の身でありながらヴァリス・トラウトを丸々2匹食べきれる奴はそうはいない。
良く食べる冒険者は育ちやすいというジンクスどおり、二人共冒険者だったらきっと大成するぞ。
「寝る前に湯浴みをしたいですわね……ずっと歩きっぱなしで、汗もかきましたし」
「生憎近くで身体を洗える場所と言うと……冷たい川の水ぐらいしかないな。 俺と一緒に入れば温水を楽しめるが……どうだ?」
「……」
リリーが冷たい視線を飛ばしてくる。
人が親切心で言ってやってるというのに、酷い女だ。
「おにいちゃん、わたし入る」
「私もご一緒してもいいですか?」
「ちょ、ちょっとあなた達!? 正気ですの!?」
目を丸くしたリリーが問いかけてくるが、こいつは一体何を想像しているんだろうか。
「別に全裸になるわけじゃあるまいし、何を如何わしい事考えてるんだ?」
「リリーさんも溜まっているんですね……♡」
「ばっ、そういう意味じゃありませんわよ! まったく、ワタクシは見張りをさせてもらいますわ!」
そう言ってリリーはランスを片手に遠くへと歩いていった。
「ちょっと意地悪しすぎたか?」
「ふふふ、可愛らしいですね、リリーさんは。 それじゃラルゴさん、お身体流しましょうか」
「俺は文字通り川に浸かってるだけだ。 流れも弱いし、深さも調度いい。 あんまり離れると冷えるから気をつけろよ」
そう言って腰程の深さのところまで川の中を進み、ゆっくりと腰を落とす。
以前はウルと水浴びしてた所を、丸腰の状態でオークの群れに襲われるという失態を招いてしまったが、最早今の俺の前じゃ、あの程度相手にもならんだろうな。
そう思いながら炎の魔法で川を暖めていると、川原で服を洗い終え、丸裸になったマーシアとウルがくっついてきた。
――ぴとっ
「うーん……」
リリーから見れば、かなりシュールな絵面になっているのは間違いない。
別に全裸になるわけじゃあるまいし、って言うのは生成が使える俺とリリー限定の話だったな。
「なんか、野生的ですね……♡」
「でも、気持ちいいね……」
「解ってるとは思うが……ここじゃやらないぞ」
「もぉ、そこまで節操無くないですよ♡」
――コツッ
そう言ってマーシアが肩を小突いてくるが、正直怪しい所だ。
毎回解消させてるつもりではいるが、未だマーシアの性欲の深さは底が知れない。
それに比べて、発情してないウルは大人しいものだ。
無邪気に川の中をばたつきながら、時折犬のように身体を振って飛沫を飛ばしてくる。
「まあ、こんなもんでいいか? 十分さっぱりしたろ」
「そうですね。 早くテントに参りましょう♡」
「わふ……」
積極的なマーシアの影で、ウルが物欲しそうな瞳で俺を見つめてくる。
結局、この流れ的にはウルともする事になるのだろう。
自分の能力を知った後だと、どうもそちらの事ばかり気がいってしまって、今までのような情欲的なものが薄れてしまっている気もする。
「それじゃあ、あがるぞ。 お前達の服を乾かすから少し待っててくれ」
「はい」
改めてマーシアとウルが着ていた物を手に取る。
マーシアなんて、この邪なローブの下は殆ど青ビキニ一丁ではないか。
いくら魔法の包帯で身体を覆っているからと言って……いや、それを言ったら俺は全裸になってしまうな。
ウルもウルだ、いくらアマナの女忍者様式の防具だからといって……これはこれで、逆に全裸より……。
「おにいちゃん?」
「どうかしましたか? 私達の服をそんな熱心に見つめて……♡」
「いや、なんでもない。 ほら、乾いたぞ」
「ありがとうございます……♡」
そう言って二人は、特に恥ずかしがる様子も無く俺の目の前で着替えていく。
よくよく考えれば、他にもここを通る冒険者がいないとも言い切れない。
いくら火を消してるとはいえ、些か軽率だったか?
「さ、行きましょうラルゴさん♡ 私にください、あなたの炎」
「おにいちゃん、わたしも……」
「ああ……わかったわかった」
こう積極的に来られるとどうにも調子が狂うな。
やっぱり俺は自分から仕掛ける方が性に合うんだろう。
「待たせたなリリー。 警護ご苦労」
「別に……大した事ありませんわよ」
そう言うリリーの表情は、どこか赤みを帯びている。
「悪いんだが、引き続き警護を頼めるか? その、なんだ……」
「皆まで言わなくてもわかっていますわよ! ただ、流石にずーっとは無理ですわよ?」
「勿論だ。 途中で俺が変わろう」
そう言う事ならと、リリーは小さく溜息をつき、とぼとぼと歩いていった。
その様子を見送りながら、俺達はテントの中へと入り込む。
中には簡易的な敷物があるだけで、正直俺がいなかったらこの季節ではかなり厳しい。
「それじゃあマーシア、ウル。 今夜は俺の炎の素質を、お前達に分与したいと思う」
「はい……お願いします……♡」
「わふーん……♡」
既に二人の受け入れ態勢はばっちりのようだ。
リリーには悪いが、今夜は楽しませてもらうとしよう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――目を覚ますと俺は、誰もいない質素な小屋の中で横たわっていた。
小さな小窓からは眩しい陽射しが差し込んでおり、時折外から小鳥の囀りが聞こえてくる。
「ここは何処だ? 俺は確か、エルプル大橋でレガリアの手先と戦って……っ……」
ふと空間が歪み、目の前に見知った影が姿を現した。
黄金の瞳に、腰まで伸ばした癖のある金髪……どこか神秘的な美しさを漂わせる、戦士とも魔道師ともつかない妙な格好を少女……。
『やぁ、気づいたようだねグレン。 いや失礼、今はフリントだった』
「……アムリスタか。 何の用だ?」
国家の機密に触れ、民衆の前でギロチンにかけられた筈の俺がこうしているのは、この女のおかげだ。
どういう原理が働いたらそうなるのかはわからない。
ただわかるのは、今この俺の胸の中にはアムリスタの心臓が埋め込まれているということだけ。
そしてこの女が俺に何をさせたいのかは、未だに解っていない。
『何の用だって? 相変わらず愛想無いな君はー。 人がせっかく心配で見にきてあげたっていうのに』
アムリスタはいつものようにを軽口を叩いてくる。
「俺が不死身なのはお前が一番わかっているだろう? 今更心配もクソもあるか」
『おっ、ようやく死ぬのにも違和感無くなってきた? その調子その調子!』
「……わざわざ姿を見せたって事は、何か用件があるんだろ? 早く話したらどうだ」
そう言うと、アムリスタは愉快そうに笑った。
『ねぇ、そろそろ自分の限界にも気づいてきたんじゃない?』
「……」
『確かに君は強いとは思うよ? こんな短期間で、たった1人で白金冒険者? にまで登り詰めたのは本当に凄いと思う。 でも、正直それを越える化け物なんてのはいくらでもいるんだよ。 君がやられたあいつのような奴がさ、それはまぁいっぱい』
いつも軽口を叩いてくるアムリスタだが、今回に限ってはいつもと少し様子が違う。
「……所詮俺1人の力なんてその程度だと、笑いに来たのか?」
『またまた、憎まれ口が好きだなぁ君は。 そんなんで、故郷に残してきた君の仲間達を助け出せると……本気で思ってる?』
「……っ」
アムリスタの指摘は当たっている。
本当ならこんなところで油を売ってないで、仲間達を助けにレガリアに向かうべきだ。
だが、この程度の力では仲間達を助けることなど到底不可能だと、アムリスタは言う。
そんな事は俺だってわかっている。
だから力を証明する為に、死に物狂いで白金冒険者まで昇格した……というのに。
現実は、レガリアの手先1人満足に倒せないていないではないか。
「アムリスタ……教えてくれ」
『ん? なぁに?』
「これ以上、俺はどうやって強くなればいいんだ?」
言った途端、アムリスタの表情が急に蔑みを帯びたものへと変わった。
『うっわー情けな、あんなに意地張ってたのにもう折れちゃったの?』
少しでも泣き言を漏らせばこれだ。
さっきようのに優しげな声をかけてきたと思えば、急に心底意地悪な面を覗かせる。
最初からそうだ。
こいつは俺の願望を知りながら、直接手を貸してくれた事は一度もない。
まるで、無限に足掻き続ける俺を見て楽しんでいるようだ。
……この女の性根は、心底腐っているんじゃないだろうか。
「頼む、教えてくれアムリスタ……。 俺はこれ以上、どうやってお前に力を示せばいい?」
『えー、知らないよ。 次は特級冒険者? でも目指したらー?』
「……くっ」
特級冒険者か……簡単に言う。
俺はあいつらを一目見てわかった……次元が違うと。
仮に俺がその域に到達できると仮定してもだ、その為に費やす時間は計り知れない。
俺の願望が果たされる事など、到底無理な話だろう。
それをわかっていて、こういう提案をしてくるのだ、この女は……。
「くそッ!」
――ガンッ!
感情のあまり、拳を床に叩きつけてしまった。
……床に拳の形の焦げ痕が残っている。
「ひぃィっ!?」
「っ!?」
ふと視線の先で、2つの小さな影がこちらを見つめている事に気づいた。
今ので驚かせてしまったらしく。
ここからでも身体の震えが見て取れる。
「す、すまない……驚かせてしまったか……。 このとおり、敵意は無い。 安心してくれ」
そう言うと、2つの小さな影はゆっくりとこちらに近づいてきた。
すると、その姿が日に照らし出されて徐々に露わになる。
背丈は俺の腹ほどの高さで、オレンジ色に白と黒の模様が走った特徴的な髪。
黄緑色の瞳と、あどけない顔立ち、そして頭から生えた猫科の耳と、腰から生えた白黒模様の猫尻尾。
おそらくは
「にいちゃん、誰と喋ってたの……?」
そう言って、虎の亜人の子供が恐る恐る俺に尋ねてくる。
少し視線をずらすと、アムリスタが壁に寄りかかりながら面倒くさそうな顔でこちらを見つめていた。
やはりそうだ。
アムリスタを認識できるのは、俺だけらしい。
「なんでもない……ただの独り言だ」
「ええ……独り言にしてはやけに熱が入ってたみたいだけど……」
「……俺は……演技派なんだ……」
『ぷっ』
それを聞いたアムリスタが口を抑えた。
「……もう、大丈夫なの?」
背中に隠れていた、もう片方の亜人の子供が口を開いてくる。
どうやら、この二人は兄妹? のようだ。
顔はよく似ているが、よく見れば前の子の方が筋肉質に見える。
「お前達が俺を助けてくれたのか? 礼を言おう、身体は……この通りだ」
そう言って俺は床から起き上がり、軽く手足を動かして見せた。
「すごい……昨日まで全身酷い傷ばかりだったのに……」
そう言う妹? の手には、大量の薬草が詰められた木の篭がある。
「こんなに丈夫なヒト、初めて見た」
兄の方が目を丸くしているが、冷静に考えればそんな人間いる筈も無い。
話を聞くに相当重傷だったのだろうが、この子達なりに何とかしようとしてくれたのだろう。
『亜人って迫害されてるんじゃなかったっけ? 憎むべき人間相手にここまでしてくれるなんて、変わった子達だね』
二人に聞こえないのをいい事に、アムリスタが俺に嫌味を飛ばしてくる。
こんなんでよく、人に憎まれ口がどうのと言えたものだ。
「……俺の名前はフリントと言う。 お前達の名前を教えてくれないか?」
そう言うと、二人は嬉しそうに名乗りだした。
「おれはガル!」
「わたしはベル……って言います」
「ガルとベルか……。 二人は兄妹なのか?」
「うん、おれのほうがおにいちゃんだから、妹を守ってあげなきゃいけないんだ」
あまり亜人と関わる機会がなかったから知らなかったが、実際目の前にしてみれば人間と変わらないじゃないか。
何故南部では彼らを嫌う者が多いのだろう。
「立派だな、ガル。 ところで、ここはどこだ?」
「リベルタスの南東部だよ。 昔は村だったけど、魔物に滅ぼされちゃったんだ」
自衛手段に乏しい村が魔物の襲撃で壊滅するのはレガリアでもよくあった話だ。
これ事態は別に珍しい話でもない。
「他に住人はいないのか?」
「いないよ。 ここにいるのはおれたちだけ」
ガルはどこか力なく答えた。
「……そうか。 ところで、お前達は戦えるのか?」
「ゴブリン1匹くらいならなんとか……」
「それは……心もとないな……。 もっと人がいる街に逃げた方が良いんじゃないか?」
そう聞き返すと、ベルが弱々しく答えた。
「わたしたちはあじん? だから、人の多い街にいっても、きっとひどいことされるもん」
「だが、ここに二人でいるのも危険だろう? またいつ魔物が襲いに来るとも限らない」
「だいじょうぶ! おれたち、気配を察知する力だけは自信があるんだ! だから、魔物が来たらどこか別の所に逃げればいいんだよ」
ガルは自信げにそう答える。
きっと今まで何度もそうやって来たのだろう。
だが……これはあまりにも……
『逞しいねー、いやぁ逞しい。 人間達にはこの子達のような、謙虚さが足りないよねー』
俺はアムリスタの言葉など耳に届かなかったふりをして、二人に言葉をかけた。
「……危険すぎる。 それじゃあいつか命を落としたっておかしくない」
「でも……ほかにどうしたらいいかわからないし……」
『そのとおり! 口で言うだけなら簡単だよフリント、ちょっと無責任なんじゃないのー?』
アムリスタは尚も意地の悪い笑みを浮かべる。
このままこの子達を見放すのだとしたら、確かにその通りだろう。
「……俺がお前達を安住の地へ連れて行く……というのはどうだ?」
そう言うと、アムリスタが驚いたように目を見開いた。
『おいおいまじかー。 他人を巻き込みたくないからソロ続けてたんじゃないのかよー?」
そうは言うがな、ここでこの子達を見捨てたら実質見殺ししたも同然だ。
俺は……そうはなりたくない。
「わるいよ……にいちゃんにだって都合があるだろうし」
「良いんだ、俺にはお前達に救ってもらった恩がある。 やらせてくれ」
「うぅ……」
そう言うと、ベルが涙を浮かべて俺の脚に抱きついてきた。
「ありがとう……おにいさん……」
「ああ……気にするな」
今まで余程二人で辛い場面を潜り抜けてきたのだだろう。
その心の内は想像するに難くない。
「ほんとうに……いいの?」
「何度も言わせるな。 必ず見つけ出してやる」
「ありがとう! にいちゃん!」
そう言うと、ガルももう片方の足に飛びついてきた。
こうしてみると本当に、二人共ただの幼い子供である事を認識させられる。
『ちっ、甘ちゃんがよぉ……精々責任持って臨むこった! じゃあな!』
そう捨て台詞を残すと、アムリスタは煙のように消えて行った。
つくづく、よくわからない奴だ……。
「とりあえずだ、まずは近くの町から回ってみよう」
「で、でも……」
「大丈夫だ、俺はこう見えて、白金級冒険者なんだ。 きっと話を聞いてくれるだろう」
そう言うと、二人はどこか力なく頷いた。
「う、うん……」
「安心しろ。 お前達は俺が守る」
「……ありがとう!」
――そうして、俺は2人の虎の亜人の子供、ガルとベルを伴って廃墟となった村を出た。
快く二人を受け入れてくれる町があると良いが……
複数回(3回以上くらい?)HシーンがあるキャラのH描写について。
-
端折るな。
-
端折っても良い。
-
テンポ悪くなるからいらん。
-
どっちでもいい。