脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――鬱蒼としたエルプルの大森林、更にその道無き道を進み続けること約3時間。
大道を逸れてからというもの、初めこそ足取りは軽やかだったが、変わり映えのしない景色と、長時間の徒歩による疲労から、皆集中力を欠いてきていた。
「見て、こんなところにムキムキタケが生えてますわよ」
そう言って先頭から2番目を歩いていたリリーは、広葉樹の根元に生えていた平たい笠の黄色いキノコを毟り取っていく。
「おいリリー、そんなよくわかんねぇもん集めてどうすんだ?」
「知りませんのラルゴ? ムキムキタケはこう見えて、栄養豊富で毒もないし、そのまま生でいただけるんですのよ。 あなた達もどうかしら?」
リリーはむしりとったキノコを齧りながら、それを俺達に勧めてくる。
お嬢様な見た目に反して、やってることがかなりワイルドだ。
「俺は遠慮しとくわ……まだ腹も減ってないしな……」
「あらそう? 見かけによらずビビリなのね。 そんなんじゃ白金級冒険者になれませんわよ?」
「そうか……」
隙あらば階級マウント、どうもリリーは俺に優位性を示さねば気がすまないらしい。
「ウル、マーシア、あなた達はどうかしら?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「ありがとう、おねえちゃん」
そう言って二人は、特に躊躇する様子も無くキノコを口の中へと放り込んでいく。
「おお……美味しいですね!」
「美味しい! あと、匂い覚えた。 今度お腹が空いたら探すから言ってね」
「ええ、口に合ったようで良かったですわ」
……マジか。
もしかしてこのパーティで一番女々しいのは俺なんじゃないかと、薄々感じてきてしまった。
「じゃ、じゃあ俺も1つもらおうかな……」
「なあにラルゴ? お腹が減っていないんじゃなかったの?」
「お前達が食べてるの見たら俺も腹減ったんだよ」
「ふふ。 それじゃあ、そういうことにしておきますわね」
リリーはそう言って俺に毟り取ったキノコを手渡そうとしてくる。
その瞬間、突然ウルが叫んだ。
「危ない!」
――ヒュッ!
「うおっ!」
咄嗟に回避行動を取ると、さっきまで俺が立っていた場所に、何本もの木の矢が突き刺さっている。
「ラルゴさん、敵襲です!」
「みんな! 対包囲陣形だ!」
「わふっ!」
「ええっ! わかったわ!」
掛け声と同時に、マーシアを三角形で囲うようにそれぞれ位置につく。
こういった開けた場所で全方位をカバーできるよう、道すがら決めておいた陣形の1つだ。
「気をつけてください、かなりの殺気を感じます」
「さっきまで物静かだったのに、急に剥き出しにしてきましたわね」
「がるるるる……」
俺には敵の気配は読めないが、姿はしっかりと確認できた。
「相手はゴブリンのようだが……普通の奴とは何か雰囲気が違うな」
「知識が高い故に、人目につかない所で着々と力を蓄えているタイプですわね。 ここは森林だから……さしずめ、フォレストゴブリンと言ったところですわ」
「なるほどな。 あいつら、距離を詰めて来る気はなさそうだがどうする?」
「そうですわねぇ……」
そうリリーが呟いた瞬間、またしても数多の矢が放たれた。
「へっ、見えてりゃこんなもん……わけねぇよ!」
俺は咄嗟に抜き放った
すると、すぐ後ろで矢を弾き飛ばす音が聞こえた。
「ちょっとラルゴ?! 後ろがお留守ですわよ!」
「気をつけてくださいラルゴさん!」
「あいつら、おにいちゃんを狙ってるみたい!」
そう言って、俺の後ろを固めるリリー達。
マーシアを守る筈だった陣形は、何故か俺を守る陣形へと様変わりしていた。
「何故だ? 俺を狙う理由がわからん。 一番強そうだからか?」
「馬鹿言うんじゃありませんわ、あなたが男だからですわよ!」
「男だから……なるほど」
つまりあのフォレストゴブリン共は、邪魔な男である俺を先に排除して、後から他の3人を捕らえて苗床にでもしようと企んでいたというわけか。
「イラッときたぜ」
「どうするつもりですの?」
「狙いが俺なら、これ程やりやすい条件も無いだろう。 俺が先行してカタをつける」
周りは大森林、下手に炎を使えば被害は計り知れないものとなる。
……が、ゴブリン程度、俺の炎を使うまでもねぇ。
この剣1つで切り伏せてやる。
「気配音痴のあなたが、この状況で全ての敵を見つけられるんですの?」
「っ……」
確かに、敵はこの環境に慣れているが俺達はそうではない。
リリーの言う通り、見落とした奴から予期せぬ被害を受ける可能性も大いに有り得る。
「この中で一番感知に優れてるのは?」
「……ウルさん、ですかね?」
「……がるるるる」
臨戦態勢をとったウルは低い唸り声を発し続けている。
確かに、狼の鼻と耳を持つウルなら、どんなに隠れたところで敵を見逃す事は無さそうだ。
「ウル、少しこっちへ」
「……?」
敵から注意を逸らさないまま、後ろ手にウルを近づけさせる。
そのまま左手に魔力を込めると、徐々に魔術紋が浮き上がっていく。
「なに……?」
「さっそく使ってみるぜ。
左手に溜め込んだ魔力を、搾り出すように目の前に放つ。
すると、眩い光と共に、左手の先からボール程の大きさをした
「なんですの……これ?」
「かわいい……あっ」
そのまま白河豚はウルの身体の中へと入り込んでいった。
「ぐっ!」
同時に、俺の体から魔力がドッと抜けていくのがわかる。
『おにいちゃん、わたしに何をしたの?』
そして、ウルの心の声が聞こえてくるようになった。
「安心してくれ、そいつは俺にウルの声を届けてくれるようにする召喚獣だ。 考えるだけでいい、もし俺がフォレストゴブリンを見落としていたら教えてくれ」
『……? わかった……?』
俺は改めて剣を構え、木の陰に潜んでいるフォレストゴブリンの群れへと突っ込んでいく。
――ヒュバッ!
同時に、再び矢の雨が降りかかってきた。
『おにいちゃん、後ろからも来てる!』
「想定済みだ。
左手に強く魔力を込め、
そしてすぐさま、楕円形の大盾へと姿を変えさせ、そのまま走り続けていく。
――カカカカンッ!
後ろに盾を構えると、背後から飛来した矢を次々と弾き飛ばしていった。
『なにあれ……すごい!』
白河豚はこのように、戦闘とは関係ないリアクションさえも拾ってしまうのは少々困り物だが、俺の弱点はほぼカバーできていると言っていい。
そうして走り続けていると、大きな樹の間から矢を構える、3匹の深緑色の肌をしたゴブリンを見つけた。
「ぎっ!」
「おっ……せぇッ!」
――ドブシュッ!
右から左へ一閃。
思い切り振りかぶった愛剣改の横凪ぎで、3匹のフォレストゴブリンは瞬く間に真っ二つになった。
『おにいちゃん、まだいる!』
「……ッ!」
ウルの言う通り、樹の陰には2体のオークと見紛うばかりの巨大な個体、ホブゴブリンが木の大槌を構えて待ち構えていた。
矢を放つゴブリンを囮に、俺が引っかかるのを待っていたというわけだ。
この狡猾さ……非常に脅威になり得る……。
「普通の冒険者にとっては……だがな」
――ドゴォ!
重い一撃が、二重に叩き込まれる。
しかし、日々強化され続ける俺と、この赤い盾の敵ではない。
「グゴッ!?」
いとも簡単に受け止められた事に、驚きを隠せないホブゴブリン達。
その隙を逃さず、弱点である喉を狙って右から左へ一閃を放つ。
――ブシュゥッ!
「ウゴォア……」
血飛沫を撒き散らしながら、2体のホブゴブリンは地面へと沈んでいく。
『まだ! 上から来てる!』
ウルの警告に従い上に目をやると、手に鋭い槍を持ったフォレストゴブリンが4匹、俺に向かって飛び降りてきていた。
「魔物しては狙いは悪くない。 だが……――フラッシュレイ!」
咄嗟に、頭から光の魔力を放出する。
「グギャアッ!?」
『うっ……眩しい……』
遠くにいるウルでさえ眩しいと感じる光だ。
目の前で俺を直視しているゴブリンが耐え切れるはずもない。
「甘かったな!」
体勢を崩したまま落ちて来るゴブリン達。
俺は、わずかに力を溜めた後……
――ズバッ!
鋭い回転斬りを繰り出す。
「ギィ!?」
「グギャッ!」
瞬く間に真っ二つになった、4体のフォレストゴブリンが地面へと転がった。
『やったみたい! おにいちゃん!』
「よしっ! サポートありがとな、ウル!」
『わふっ! おにいちゃんに褒められた……このまま頭撫で撫でしてくれないかなぁ……くぅん……♡』
おっと……ウルの奴、普段こんな事考えてんのか……。
「……
そう念じると、ウルの元から白河豚が俺の元へと帰ってきた。
「おっ!?」
俺の身体の中に白河豚が戻ると同時に、魔力が大きく湧き上がるのを感じる。
この魔力の消費量……いくら戻ってくるとはいえ、慎重に使いどころを考えたほうがよさそうだ。
「あっ、ラルゴさん! こっちです!」
「ああ、無事かみんな?」
「ええ、おかげさまで」
そうして、みんなの元へと戻る。
すると、倒れた木々と、その下敷きになるフォレストゴブリン達の姿が目に入った。
「……何だこりゃ?」
「お疲れさま、ラルゴ。 こちらはワタクシが始末しておきましたわよ」
「こちらって、後ろから俺に矢を放ってきてた奴らか?」
「ええ。 あまりにもわかりやすい場所にいるものだから、ワタクシの風の槍で薙ぎ倒してさしあげましたわ」
こうして見ると、リリーの風の魔力はかなりのものであることがわかる。
元々強かったのか、エアが一緒になったおかげかはわからないが、これじゃ消費も少なくは無いだろうな。
「にしても酷い自然破壊だ。 何の為に俺が炎を封印して戦ったと思ってる」
「こ、これでも加減しましたのよ?」
「本気出したらどうなっちまうんだろうな……気になるところだ」
「うぅ……」
若干リリーは森に対して申し訳なさそうな表情を浮かべる。
まあ、ここは仕事に来た木こりが楽できそうだと考えよう……こんな奥地まで来るかはわからんが。
「私達、あまり出番なかったですね……」
「うん……」
そう言ってマーシアとウルは肩を落としている。
「なんだ? 戦いたかったのか?」
「はい」
「……はいって、お前聖女だろ? 聖女が戦っちゃ……」
そこまで言って気づく。
マーシアの表情が、とても不満を訴えていた事に。
「私は封印の聖女、今まで何度も修羅場を潜り抜けてきました。 だというのに、こうも皆さんに守られているだけというのはもどかしいです。 それでも、ラルゴさんは私が聖女だから戦ってはいけないと言うんですか??」
マーシアの奴、こんな好戦的だったか?
俺やリリーの戦いを見て、中てられてしまったのだろうか?
「いやぁ、駄目ってことはないと思うが……護衛対象でもあるわけだし、あまり無理はしてもらいたくない」
「そうですわよマーシア? 戦わないで済むなら、それに越したことないじゃありませんの」
「でも……私にも必要だと思うんです。 慣れないスキルの、実戦での経験が」
つまりは、炎の素質を習得したから、戦いの中で使い慣れていきたいということだったのか。
「なんか思った以上に勤勉というかなんというか。 まあ、使えるスキルが多いに越したことはないもんな」
「そうです。 私は再生の素質で生半可な事じゃ死にませんので、次からはもっと戦わせてもらえると嬉しいです」
「まあ……相手を見て……な?」
「はい。 よろしくお願いします」
ようやくそれで納得してくれたのか、マーシアはいつもどおりの優しい表情へと戻った。
「ふう、にしてもあんな魔物まで出てくるようになるなんて。 ここからはもっと集中していかないといけませんわね」
「一番最初に気を抜いてたのはリリーのように思えたが……」
「……保存食の調達は集中の一部ですわ、別に気を抜いていたわけではないですのよ?」
「そうか?」
しかし、こうして魔物の奇襲が発生してくると、精神の磨耗はこれまでの非ではない。
より警戒せねばらないし、それにより足取りは目に見えて遅くなる。
カマリの奴、ここまで想定していやがったのか。
実際にやってみてわかったが、話に聞くよりも遥かにハードな任務だぜこいつは……。
「ひとまず、日が暮れる前に休める場所まで進もう。 少しペースを早めるぞ、皆集中を切らさないようにな」
「え、ええ!」
「わかった」
「霊脈はこっちに続いてるみたいです。 行きましょう」
そうして再び、マーシアが示す道なき道を俺たちは切り開いていく。
――そして、足早に進み続けること……5時間。
不定期に現れるフォレストゴブリン等の魔物の襲撃、それでなくとも毒を持っていると思われる蛇や蜘蛛、不快な虫や不安定な足場で俺達の精神は限界に達しようとしていた。
既に日は暮れ始めており、俺達の現在地は不明、森は未だ果てしなく続いているようにも見え、いよいよもってやばい状況に感じてくる。
「マーシア、道は本当にこっちで合っているのか?」
「ええ、霊脈の気配は間違いなくこちらから来ています。 ……あの、ラルゴさん?」
そう言ってマーシアは心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。
「……どうしたマーシア?」
「そろそろ休憩を挟んだ方が良いんじゃないでしょうか? ウルさんとリリーさん、かなり消耗してるみたいなので、少しだけでも……」
その言葉通り、ウルとリリーは息があがってきている。
いくら強靭な亜人や白金冒険者とはいえ、5時間も休み無しにこの森の中を進み続けていれば無理もない。
マーシアはマーシアで、この状況でも平然に見えるあたり、やはり聖女とは常軌を逸した存在なのだろう。
「全然大丈夫だよ、おにいちゃん」
「ウルの言う通りですわ。 白金級冒険者は、これくらいじゃ全然へこたれなくってよ?」
二人はこちらに気を使わせないようにしているのか、余裕の笑みを浮かべて見せる。
しかし、よく見ればその表情には疲れが滲んでいた。
こんな状態のまま進んでまた奇襲でもされたら、次は本当に危ないかもしれない。
「休憩だ。 あまりモタモタしていられないから最低限……15分くらいだな」
「……」
その言葉に、二人は何も答えない。
反応があったのは、全員の中で唯一余裕を残した様子を見せる、マーシアだけだ。
「わかりました。 すぐに準備しますね」
そう言ってマーシアは背負ったバックパックを下ろすと、中から人数分の干し肉と水筒を取り出した。
「さあ、ラルゴさんもどうぞ」
「俺は大丈夫だから、そっちに回してくれ」
「……わかりました」
今のは強がりなんかではなく、本当にその必要がないからだ。
魔力を浪費していない俺は凄まじく低燃費で、食欲どころか喉もあまり渇かない。
その気になったらいったいどれくらい保つのか、気になってすらいる。
「ラルゴ、本当に大丈夫なんですの?」
「ああ。 心配するな、駄目な時はちゃんとお前達を頼る」
「ええ……わかりましたわ」
そう言うとリリーは水筒の水を勢い良く飲み始めた。
魔力の消費で言えば、間違いなくリリーがこの中で一番だろう。
「ありがとう、おにいちゃん」
ウルだってそうだ。
この中で一番冒険経験が浅いにも関わらず、こんな長時間動きっぱなしでいる。
いくら俺の力で強化されてるとはいえ、とっくに限界を迎えていてもおかしくない。
「ねぇ、ラルゴ……ワタクシ達、今日はあとどれくらい進めばいいんですの?」
「……わからない。 安全だと思える場所に着くまでだ」
「っ……」
リリーは一瞬反論しようとする様子を見せたが、最早そんな元気すら残っていないのかすぐに口を噤んだ。
そうして、虫の鳴き声すら聞こえない暗闇の中、最低限の注意を凝らしつつも体力の回復を待つ。
手にした金の懐中時計を見つめていると、時間が経つのがやけに遅く感じたが……それでも気づけば、当初の休憩予定時間はとっくに終わっていた。
「……出発するぞ」
その言葉に、皆が疲れた顔で立ち上がる。
本当は文句の1つも垂れたいところだろうが、今はそれどころではない。
一刻も早く、安全な場所まで辿り着かねば。
「皆さん、ここからは私が先導します」
そう言ってマーシアは、先頭を歩こうとする。
「駄目だ、お前を矢面に立たせるわけには……」
「大丈夫です。 ラルゴさんはお二人のフォローをお願いします」
重い足取りのウルとリリーを見ると、そうせざるを得ないのが嫌でも伝わってくる。
護衛対象に先陣を切らせるのは心苦しいが、変に拘ってパーティが壊滅するのは最もしてはいけないことだ。
「……わかった。 頼むマーシア」
「任せてください」
そう言ってマーシアは、静かに歩を進め始めた。
――それから更に進み始める事……30分程。
予期せぬ転機が訪れる。
「皆さん! 見てください!」
「どうした!? ……っ!」
マーシアが指差す方向に視線を移すと、薄っすらと闇に浮かぶ灯りが見える。
「マーシア、交代だ。 ここからは俺が先導する」
「でも……」
「自分が護衛対象だということを忘れるな。 もしかしたら罠かもしれないし、盗賊や魔物共の巣の可能性も否めない。 わかってくれるな?」
「……はい」
そうして灯りへ向かって進んでいくと、煉瓦で舗装された道の脇に点々と置かれた、カンテラの1つだということがわかった。
「なんだこれは……妙に手が込んでやがる……」
「ちょうど霊脈の気配がする方向へと伸びているみたいですね、どうしますかラルゴさん?」
「もしかしたらだが……冒険者達が築いた拠点があるかもしれない。 行こう」
「良かった……。 やっと区切りが見えてきましたのね」
そう言ってリリーは安堵の息を漏らす。
「まだそうと決まったわけじゃない。 油断はするなよ」
「……ええ、わかってますわ」
そのまま舗装された道に出た俺たちは、やや足早に歩を進めていく。
すると、ウルがすんすんと鼻を鳴らし始めた。
「ご飯の匂いがする」
「……っ! よし、行くぞ!」
期待が膨らみ、足取りが更に速くなっていく。
そのまま道なりに進んでいくと、高い木の塀に囲まれた集落が目に入った。
大きな木の門は硬く閉じられているが、中からはウルの言う通り、香ばしい飯の匂いが漂ってきている。
「ラルゴさん、人の気配がします」
「……交渉してみる。 お前達はここにいてくれ」
「ええ、お任せします」
そうして俺は1人閉ざされた門の前に立つと、中の奴らに聞こえる声量で大きく問いかけた。
「おーい! 誰かいないか!? 俺は冒険者だ! 頼む、開けてくれ!」
「……」
暫くの静寂の後、門がゆっくりと音を立てて開き始める。
「助かった……門を開けてくれてありが……」
そしてその先には、怪しげな黒のローブに身を包んだ村人と思わしき人々がずらりと並んでいた。
これは……まずいのでは?
「は、はは……はじめまして。 俺は、冒険者のラ、ラルゴだ。 こ、これはまた手厚い歓迎ありがとう……」
そう言うと、先頭にいた一際年を取った
「これはこれは……冒険者殿。 こんな辺鄙なところまでよくぞいらっしゃいました。 どういったご用件ですかな?」
「ああ、森で遭難しかけてな……そろそろ限界ってところで運よくここに辿り着いたんだ。 金ならある、暫くの間休ませてもらえないか?」
そう言うと、老爺は二つ返事で答えた。
「おお、そういうことでしたらどうぞ。 何もない場所ではございますが、ゆっくりと休んでいってくだされ」
「本当か!? 助かった!」
最初にずらりと出てきた村民の姿を見たときは、とんだ邪教徒の村に迷い込んでしまったと思ったが、全然良い奴らじゃねぇか。
やはり人を見た目で判断するのは良くないな。
「あと3人いるんだが……構わないか?」
「ええ、3人でも30人でも構いませぬ。 どうぞゆっくりしていってくだされ」
「……助かる」
流石に親切すぎると胡散臭く感じてきたが、今はそうも言っていられない。
俺はマーシア達に向かって静かに合図を送った。
それから間もなくして、3人が木の陰から姿を現していく。
「ありがとう!」
「一時はどうなることかと思いましたけど……こんな所にこんな立派な村があるなんて、本当に助かりましたわ!」
疲れ果てていたリリーとウルも、やっと訪れた安息の予感に疲れなど吹き飛んだようだ。
「ありがとうございます、皆さん」
そうしてマーシアの姿がカンテラの灯りで浮かび上がると……
「あっ、あなたさまは……っ!」
突然村人達が一斉に頭を垂れ始める。
「きゃっ?! な、なんですか?」
「あなたさま! 名、名はなんと!?」
「マ……マミーポコです」
そうマーシアが偽名を口にすると、老爺は尚も興奮した様子でひざまづいた。
「マミーポコ様! そ、その容姿……女神様に連なるお方に間違いない!」
どうやら邪教徒染みたマーシアの格好に感化されたらしい。
「はい……?」
「皆! すぐに歓迎の準備を!」
そう老爺が声を発すると、村人達は一斉に村の中心部へ向かって走り出した。
「わふっ!?」
「ど、どういうことですの?」
「何なんだ……こりゃ?」
困惑する俺達を余所に、立ち上がった老爺がゆっくりと告げる。
「さあさ皆様。 どうぞこちらへ」
「は、はい……」
状況の良く飲み込めない俺たちは、老爺の案内に大人しく従っていく。
殺風景な村の中を進んでいると、やがて、村の中央にある大きな木製の屋敷へと辿り着いた。
「今準備を進めておりますゆえ、しばしお待ちくだされ」
「は、はい。 お構いなく……」
「なあ爺さん、この村は一体なんだ? なんでこんな辺鄙なところにある村が、魔物の襲撃も受けずに保たれている?」
そう問いかけると、老爺は嬉々とした表情で返してくる。
「この村の名はイナビスと申します。 女神様の加護を受けております故、魔物達の襲撃など脅威にはなりえませぬ」
「ふーん、女神ねぇ……」
「ラルゴ殿と申されましたかな? そなたも一度、女神様にお会いしてみてはいかがか?」
いよいよもって怪しい宗教の勧誘染みてきたが……。
「女神って会いにいけるものなのか?」
その問いに、老爺は尚も嬉々とした表情で返してくる。
「ええ! 今すぐには無理ですが、時が来れば必ず!」
「じゃあその時が来たら……会ってみようかな」
とりあえずどんな容姿をしてるのか気になる。
ひょっとしたら、今のマーシアの格好のような女神なのか?
だとすれば……あまりまともそうじゃないな……。
――それから待たされること更に30分。
時刻は夜の7時を回ろうとしていた。
「大変お待たせしました。 それでは……」
そして屋敷の扉が開かれると同時に、美味そうな肉やスープの匂いが鼻を掠める。
目の前には大テーブルに広げられた、これでもかという美味そうな料理の数々。
――ぐぎゅるるる
それを前にしたリリーの腹が、大きく唸りを上げる。
「おい」
「おっ……おほほほほ……」
「わたしも……もうぺこぺこ……」
そうして案内されるがまま俺たちは席についた。
この村の集会所のような役割なのか、内装は中々凝っており、所々によくわからない絵画やら彫像が飾られている。
それらに共通しているのは、恐らくモチーフが月だということ。
……いや、もしかしたら違うかもしれん。
「さあ、長旅でお疲れでしょう。 たらふくお召し上がりになってください」
「こんなにたくさん、良いんですか?」
「ええ、どうぞ心行くままご堪能くだされ」
「わぁっ! ありがとうございます!」
そう言って皆は思い思いに目の前の料理にありついていく。
俺もそれに倣おうとした瞬間、過去のマルレーンの屋敷での出来事が脳裏をよぎった。
「……」
「どうかしましたかな、ラルゴ殿?」
老爺は怪訝な眼差しを俺へと向けてくる。
「いや、そういえば俺あんま腹減ってなかったん」
――ぐぎゅるるるる
言った直後、俺の腹が凄まじい唸りをあげた。
「ちょっとラルゴ、こんなに美味しい料理にありつかないなんてどうかしてますわよ」
そう言ってリリーは俺の心配も余所にバクバクと料理を口へ運んでいく。
見た感じ、即効性の毒は入ってないようだ。
「ウル、何も問題ないか?」
「問題? 何が?」
ウルも無警戒で料理にありついている。
すると、マーシアがスプーンに乗せた肉を俺の口へと押し付けてきた。
「ラルゴさん、はい。 あーん♡」
「お、おい!」
――パクッ
思わず飲み込んでしまった。
と同時に、凄まじい旨味が口の中へと広がっていく。
「う、美味いッ……」
と同時に、何故か村人達が熱狂の声を上げた。
「うおおおおおお!」
「っ!?」
その視線はマーシアに注がれており、中には俺に明確な羨望の眼差しを送ってくる者すらいる。
「これ! 落ち着かんか! 女神様の眷属に失礼じゃぞ!」
「し、失礼しました……」
老爺の一声で嘘のように大人しくなる村人達。
そもそも、いつの間にかマーシアが女神の眷属として祭り上げられている。
「ささ、まだまだおかわりもございますぞ」
「おおー……まさに天国ですわね……」
最早リリーは思考停止で飯を口に運ぶだけの豚と化してしまった。
しかしこの感じ、村人達は本当に善意だけで動いているように思えてならない。
これ以上疑うのは野暮ってものだろう。
――結局、俺達は流されるまま、贅沢な夕飯に浸りつづけた。
複数回(3回以上くらい?)HシーンがあるキャラのH描写について。
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端折るな。
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端折っても良い。
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テンポ悪くなるからいらん。
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どっちでもいい。