脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――ラルゴ・アシュクラフトの生い立ちを一言で表すなら、希薄という言葉に形容される。
物心つく頃には既に父の姿は無く、ただその幻想を追い続ける母の背中を見て育った。
何時しか母はラルゴに学問を推し進めるようになる。
特に夢を持たなかったラルゴは、自分を必要としてくれる母の為だけに学問を学んだ。
しかしラルゴが大人になるにつれ、父に会う為に自分を利用しているのだと考えるようになったラルゴは母に従うのを止めた。
それから間もなくして、母はラルゴを置いてノトスを去る。
この時、ラルゴは初めて自由を実感したのと同時に、どうしようもない
18歳になったラルゴは、ギルドの人手が足りないという理由だけで冒険者になった。
ただ、過疎地であるノトスのギルドではロクに交友関係も築けず、1人黙々と安定する依頼をこなし続ける。
稼いだ金の殆どは、稀に立候補する新人冒険者の教育の為に費やしたが、どんなに新人冒険者に目をかけようと、皆いつの間にかラルゴを置いてノトスを去って行ってしまう。
その度にラルゴは深く心を痛めたが、それでも彼は思い出の詰まったノトスを出ようとはしなかった。
21歳になった頃、ラルゴは新米冒険者のリックを依頼中に偶然に助ける。リックはラルゴより5歳も年下で、冒険者の中でもとりわけ若い部類であった。
それ以降、リックはラルゴに付き纏いながら共に依頼をこなすようになる。ラルゴにとっては初めての、積極的な後輩冒険者であった。初めは鬱陶しく思っていたラルゴだったが、次第にリックとの時間の中で憑き物が落ちていくのを感じた。
しかし、リックには冒険者の才能が無かった。それは最早、ギルドで彼を知っている者達の共通認識である。
それでも決して諦めなかったリックは、ラルゴと共に最上級である特級冒険者(ブリンク)になろうと約束する。
ラルゴはリックが少しでも強くなれるよう、学問を通じて得た知識を用いて様々な技術を身につけさせようと奔走した。
ある時は剣術を、またある時は弓術を、そして時には魔術を。
そうして学んだ経験はラルゴを一際強くしたが、逆にリックとの差を大きく開かせてしまう。
ラルゴが23歳になった頃、ようやく二人は銀級冒険者へと昇格を果たす。
それから間もなくして、一向に冒険者としての実績が実らないリックは、自身が成長できない原因がラルゴにあるのではないかと考え始めるようになった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おーいリック! 美味そうな依頼があったぜ、早速行こう」
俺はいつものようにリックに揚々と話しかけるが、それに対する反応は冷たかった。
リックの傍らには、見慣れない冒険者がいる。
「……紹介するよラルゴ、ヴァリスから来たゼットさんだ」
「ウィ、よろしく」
「……ヴァリスの冒険者? ああ……よろしく」
ヴァリスからノトスに来る冒険者など、殆ど聴いたことがない。こんな田舎に何の用があるのだろうか。
それから妙な静寂が辺りを包んだ後、ゆっくりとリックが口を開いた。
「悪いラルゴ。 暫くお前とは組まない」
「??? ……何故今になってそんな事を言う? やっと銀に上がれたってのに」
「俺はもっと広い世界を見たいんだ。 このままじゃお前の腰巾着で終わっちまう」
「何言ってんだリック……銀になれたのだってお前と今まで頑張ってきたからだろ?」
「ずっとお前と組んでて解ったよ……お前はその気になればすぐに金級にだってなれる! なのにいつまでも俺にまとわりつきやがって」
「まとわりつく? 何言ってんだ……お前1人じゃ危なっかしいから、俺が必要かと思って」
「白々しいんだよ……お前は自分より弱い奴と組んで悦に浸っていたいだけなんだ」
「な……俺が自己満足でお前と組んでたっていうのか?」
「そうだよ!!! 自覚ないのか!? なら尚更
その言葉に、俺は何も言い返せなかった。
本当はリックの言う通りなのかもしれない。
俺はただ、自分の不満を紛らわしたい一心でこいつと組んでいたのか?
「言うねーオイ、いいのか? 相棒なんだろ?」
「いいんだ……行こう」
「ウィ、じゃそういうことで。 悪いなラルゴさんよ」
こんな得体の知れない奴と行かせてしまって本当に良いのか?
……本当に?
「おい、リック!」
――俺が去り行くリックに向かって手を伸ばした時、突然雷に打たれたかのような衝撃が全身に走った。
「――ッッッ!!!」
凄まじい激痛で目が覚める。
辺りを見回すと、そこは松明に照らされた殺風景な部屋だった。
いつの間にか俺は下着1枚になっており、手足には鉄枷が嵌められ、身動きが取れない。
床には大規模な魔方陣がうっすらと光を放っており、俺はその中心に寝かされていた。
ふと視線を上げれば、周りには円錐型に尖った覆面を被った、邪教徒のような身なりの者達が5人立っている。
そのシルエットは所々歪んでおり、人間にしては何処か不自然だった。
邪教徒達は異形じみた眼で俺を見下しながら、抑揚の無い低い声で呟いた。
「おお、今度の器は骨があると聞いていたが、なるほど」
「あの男、中々良い仕事をするではないか」
「ここまで活きが良いと貴様達には手に余ろう。 私が頂くとしよう」
そう言って、一番背の高い邪教徒が俺の前に乗り出した。
その手には山羊の装飾の施された禍々しい黒い槍が握られている。
何かとてつもなくヤバい気配を感じた俺は、手先に魔力を込める。
その瞬間、またしても身体中に激痛が走った。
「ぐあああああ!!!」
「おっと、まだ戦意が残っておったか」
そう言うと、大きな邪教徒は手にした槍を俺の腹に突き立てた。
「ぐッ――!!!」
自身の腹部を見やると、刺さった槍からじわじわと鮮血が広がっていくのがわかる。
野朗……刺しやがった……
遅れて口から血が吹き出るのと同時に、心臓の鼓動が速まるのを感じた。
……嘘だろ……こんな時に?
「さあ、始めるぞ」
大きな邪教徒の槍を握る歪な両手が光ると、槍を通じて俺に赤黒い光が流れ込んでくる。
部屋の中に魔力が充満すると共に、床に書かれた魔方陣がより一層輝きを増した。
「おお、これは凄い」
「この器、あの伯爵めに匹敵するやもしれん」
周りの邪教徒達がざわつきだす中、鎖に繋がれた俺の身体が痙攣したように跳ねる。
そして、徐々に俺の身体から赤黒い炎のようなオーラが立ち上った。
俺の頭の中は、1つの感情でいっぱいだった。
――欲シイ……
「むっ……!」
「ど、どうした?」
「既に何か……何だ此奴は?」
「まずい、今すぐ儀式を中止しろ!」
「う、うおお、動けん!」
――ヨコセ……
「いかん、奴から離れろ!」
――全テヨコセ!!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――壁に等間隔に掛けられた松明が照らす、長く暗い石畳の廊下をエアは1人で歩いていた。
ふと、厳重に錠の掛けられた鉄製の大扉の前で足を止める。
「ここかしら? 大きな魔力の気配……」
エアはゆっくりと大扉に手を当てる。
同時に、暗闇の中から低い男の声が木霊した。
「お嬢ちゃん、トイレならこっちじゃないぜ」
廊下の奥からコツコツと、踵を打つ音が響く。
「あら、ワタクシとしたことが迷ってしまいましたわ」
エアは暗闇に向かって、わざとらしくおどけた表情を作る。
「ふんっ、よく言うよ」
言葉と共に、闇の中から装備を十全にしたシーマとグローリオが現れた。
二人の首元に巻かれた菱形のネックレスが、松明の光を反射して怪しく輝いている。
「あらあら物騒ですわね。 何かありましたの?」
「アンタを連れ戻しにきたんだよ」
そう言って二人は、得物にゆっくりと手を掛ける。
「ワタクシを呼び戻すのにそんな大層な準備が必要ありまして? ただお花を積みに来ただけですのに」
「いいや違うね、アンタはその扉の奥にある物に惹かれてきたんだろ?」
そうシーマが呟いた途端、エアのマフラーが小さく
「……だとしたら、どうしますの?」
エアが呟いた瞬間、双剣を抜いたグローリオが飛び掛かった。
「こうするのさ!!」
――ガキン!
甲高い音と共に、扉の錠が弾け飛ぶ。
エア目掛けて一瞬で振り下ろされた双剣は、鉄扉に叩き付けらていた。
「チッ、どこへ行った?」
――ギィ
大扉は低い音を立てながら開き、中から大量の魔鉱石の輝きが溢れ出した。
グローリオは剣を構えなおすと、辺りを見回す。
ふと、空気が震えるのを感じた。
「ご冗談でしょう?」
グローリオの後方にいたシーマの耳元に囁きながら、エアが闇の中から現れる。
「なっ、何時の間に!?」
シーマは即座にグローリオの傍に飛び退き、魔法弓をつがえる。
「貴方達、今すぐ武器を捨てて跪くのなら、共に依頼をこなしたよしみで許してあげましてよ?」
エアは怒りを含んだ声音で、ゆっくりとそう告げた。
「はっ、なめんじゃないよ!」
ギリリと歯軋りをしながら、シーマは首元のネックレスに魔力を込め始める。
「やるのかシーマ?」
「手抜いたらやられるよ、アンタも覚悟を決めな」
「ッ……付き合うぜ」
――カッ!
放たれた魔力と共に、首元のネックレスが弾け飛ぶ。
その瞬間、二人を黒い魔力の渦が包み込んだ。
「ぐ、グおオおオ!」
咆哮と共に二人の身体が黒く変色し、ゆっくりと身体が膨張する。
二人の緑の髪には黒が混じり、額からは山羊のような角が生え始めた。
「コれなら……イける!」
変異した自分の手を動かしながら、グローリオは静かに笑う。
シーマも同じように自分の身体を軽く動かした後、エアを睨んだ。
「あア……ヤってヤろウじゃナいカ」
より低くなった声でそう呟くと、共に強く大地を蹴り出した。
エアは、ただ静かに溜息をこぼす。
「力量の差も測れないなんて……つくづく愚かですわね……」
――少女の瞳が、赤い輝きを放った。
会話(特にHシーン)の♡マークについて
-
絶対いる。 今後も続けて欲しい。
-
あったほうがいい。
-
ないほうがいい。
-
絶対いらない。 今までのも修正しろ。
-
どっちでもいい