※この作品はR-18です。

脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~   作:ターキン

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第8話  核心

――ここは……何処だ?

 目の前に広がるのは白黒の景色……海が見える……岬に点々と建てられた簡素な墓……

 俺は、まるで時間が止まったかのような、風も音も無い岬を歩いている。

 

 ここは……ノトスの岬? 

 これも夢なのか?

 

 ふと、墓の前に立つ、大きな男のような異形の姿が目に入った。

 その後ろ姿は、何処か物寂しい雰囲気を漂わせている。

 

 この墓は……リックの? 

 こいつは何をしている?

 

「……リナイ……ット……シイ」

 

 その異形は、ただ墓に向かってぶつぶつと言葉を呟いている。

 

「なんだ? 頭に……響く……」

 

 こいつを知っている?

 

 俺は無意識にそれに近づき、静かに問いかけた。

 

「お前は……何だ?」

 

――ゆっくりと、影が振り返る。

 

 その顔は黒く塗り潰されていた。

 

「オレハ……オ前ダ……」

 

――グッ

 

 異形の右手が俺の首を掴んだ。

 

 まるで意識を吸い取られるかのように、意識が朦朧とする。

 

「やめろ……離せ!」

 

 苦しさに目を見開くと、異形は俺の姿をしていた――

 

 

――ヨコセ!!!

 

 

「ッ!!!」

 

 意識が覚醒すると、俺は1人、燃え盛る大部屋の中に立っていた。

 周りには何かの骨が転がっており、部屋の中には肉の焦げたような臭いが充満している。

 

「臭せぇ……なんだこれは?」

 

 最初に感じたのは、俺の中に渦巻く異常な程の魔力だ。

 

 身体が重い……肉がはち切れそうな……

 

 俺は身体を支えきれず、大きく膝をついてしまった。

 

「息苦しい……誰か……」

 

 俺はそのまま、力なく地面に崩れ落ちた。

 

 

――朦朧とする意識の中、声が聞こえてくる。

 

 

「……ルゴ! ……ラルゴ!」

 

(エ……ア……?)

 

 遠くの大扉が蹴破られ、外から見知った少女の姿が飛び込んでくる。

 

「っ! ここにいましたのね!」

 

(俺を助けに来てくれたのか? ……良かった)

 

「ラルゴ! 無事でして?」

 

 駆け込んできたエアが……俺に触れた。

 

 頭の中が……燃え上がるような感覚。

 

 目の前にあるのは……極上の魂……

 

「あアア……欲しイ!!!」

 

 俺は、反射的にその首を掴んだ。

 

「うっ! ラルゴッ!?」

 

 ああ……美味い、この腕を通して、身体の中に力が流れ込んでくる。

 

「もっと……もっト……ヨコセ!!!」」

 

 

――閃光が広がると同時に、頭の中に広がった意識が収束していく。

 

 

「吸収(アブソーブ)――」

 

 気づけば、俺から立ち上った濃い魔力の渦がエアの掌中に吸い込まれていた。

 倒れた俺を抱えながら、エアは静かに呟く。

 

「こんなにたくさん……今のあなたには荷が勝ちすぎましてよ」

 

 その言葉を最後に、俺の意識が途切れた。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 エアは倒れたラルゴの胸に静かに触れると、静かに呟いた。

 

「そう……目覚めてしまいましたのね」

 

 

――ふと、遠くから大勢の足音が近づいてくるのを感じる。

 

 

「こっちだ! 急げーっ!」

「早く消火しろー!」

 

「いけない、人が来てしまいましたわ」

 

 エアは倒れたラルゴを軽々と持ち上げると、声とは反対の方向に風のように駆けて行く。

 

 遅れて、大勢の伯爵の私兵達が部屋に到着した。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 燃え盛る大部屋を前に、兵士達がたじろぐ。

 

「司祭たちは無事か!?」

「姿が見えない……あの冒険者はどうした?!」

「ええい、急ぎ伯爵に報告せよ!」

「傭兵達は何をしている!」

 

 兵士達は慌しく騒ぎ立てる。

 その後ろから、悠々とした足取りで1人の男が到着した。

 

 金と黒の髪が、ゆっくりと炎に照らし出される。

 

「こいつは……とんでもねぇ爆弾をお招きしちまったかもしれねぇなぁ、オイ」

 

 男はそう呟きながら静かにほくそ笑んだ。

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「……ルゴ……ラルゴ? 聞こえまして?」

 

 エアの声に目を覚ますと、俺達は冷たい部屋の一室にいた。

 光の差し込まない牢屋に、石作りの床、壁から伸びた鉄枷に立派な鉄格子……

 

 ここは……伯爵の屋敷の地下牢だろうか?

 

「エア、すまん……頭の整理が追いつかん」

「ええ……順を追って説明しますわ」

 

 エアはそう言って咳払いすると、ゆっくりと喋りだした。

 

「あなた、昨夜の宴会で何か盛られましてよ?」

「盛られた……?」

 

 そうだ、エアが席を立った後に飲まされたあのワイン……

 

「お前……気づいていたのか?」

「当たり前でしょう? あの伯爵の目……あれは獲物を狩る者の視線でしたわ」

「そうだったのか……全然気づかなかった」

「もう、鈍感ですのね。 それであの後、違和感のないよう色々と屋敷の中を1人で探っておりましたの。 まだ全部は回りきってはいないけれど、それなりの収穫はありましたわ」

「そうか、それは良かった」

 

(エアは最初から伯爵の思惑に気づいていたのか。 なら俺にも伝えてくれれば良かっ……)

 

「待てよ。 ということは、俺を囮に使ったってことか?」

「人聞きの悪いことを言うのはやめてくださる? ちゃんと助けるつもりでしたわ。 ただ……」

「ただ?」

「あなたったら、魔力の気配が全くないから、見つけ出すのに苦労しましたわ」

「俺の気配が無い?」

「ええ、最初に会った時から感じていましたけれど、こう……実際に触れるまで」

 

 そう言ってエアが俺に触れると、またも頭の中に燃え上がるような感覚が広がった。

 

「ぐっ!」

「まあ! まだ慣れておりませんのね……」

「慣れる? ……そうだ、あいつらはどうなった!?」

「あいつら?」

「俺を捕らえていた邪教徒みたいな奴らだ! お前が倒してくれたのか?」

 

 そう口走った瞬間、エアは怪訝な面持ちで俺を見た。

 

「あなたがやったんでしょう?」

「え……俺?」

 

 ……思えば、エアが来た時に奴らの姿は無かった。

 

 だが思い出せない、俺は一体何をしたんだ?

 

「初めてあなたと額を合わせた時に気づきましたの。 あなたの中にある、もう1つの強い魂に」

「強い……魂?」

「ええ、心当たりはありませんの?」

「まさか……夢で見たあの異形……? あいつが俺に何かしてるってことなのか!?」

「あなたは突然ワタクシに掴みかかりながら言いましたわ……欲しいと。 それはただ純粋な魂の願いなのでしょう。 そして求めているのは恐らく強い力……魔力、そして魂。 でも、今のあなたにはそれを受け入れるだけの容量が無い。 だから何か強い力に触れる度、それを受け入れられないあなたの身体が不具合を起こしたのでしょう」

 

 そうか……そういうことか!

 あの依頼(クエスト)の時……昇格試験の時……俺が動けなくなったのは、決まって強い奴らと接した時だ。

 

「恐らくワタクシが到着する前に、あなたは幾許かのデーモンに連なる者の魂を平らげましたわ。 それは無意識のうちに、あなたの中のもう1人がしたことなのでしょう」

「無意識に俺はデーモンを取り込んだのか……待て、デーモンと言ったか?」

「ええ、それが何か?」

「デーモンと言えば、金級冒険者じゃ手に余るような危険な魔物だと聞いている。 そんな奴らがこんな僻地にのさばってたっていうのか?」

「のようですわね。 彼らはここで、自らの器となる生物を探していたみたいですわ」

「器……? 何故そんなことをする必要がある?」

「本来デーモンはこの世界で形を保てる存在ではありませんもの」

「この世界……? それで、その為に俺達人間を使うってのか?」

「近いですわね。 より正確に言えば、強い肉体と魂が必要ですの。 これにデーモン自身の魂を上書きする事で、晴れてこの世界に定着することができるのですわ」

「それだ……さっきからこの世界この世界って、一体どういうことなんだ?」

 

 その言葉を口にした瞬間、エアは口を止めた。

 

「どうした? 何故黙る?」

「いえ……本来デーモンのような魔物は、こちらの世界で生まれる物ではありませんもの」

「じゃあ何か? デーモン達が生まれる世界が別にあって、そっから俺達の世界に流れ込んできてるってことか?」

「概ね、その通りですわね」

「エア、お前はどうしてそんな事に詳しいんだ? 今までの話、金級程度の冒険者じゃ知る由も無いような情報ばかりだぞ? かといってお前は冒険者について何も知らなかった。 まさか……」

「……ラルゴ」

 

(何故そんな顔をする? 俺に正体がばれると何か困る事でもあるのか?)

 

「ワタクシは恐れていますの。 この世界で初めての供となったあなたが、ワタクシの正体を知った途端に掌を返してしまわないか、余所余所しくなってしまわないか、恐れてしまわないか、逃げ出してしまわないかと。 だから……言いたくないですわ」

 

 似ている。

 

 俺も、PTを組む時いつも似たような事を考えていたからな。

 

「なんで笑いますの?」

「なんだか昔の俺を見ているみたいでな。 良いさ……言える時が来たら言ってくれ」

「ふふ、その時が来たらそうしますわね」

 

 エアはどこか安心したような様子で笑った。

 

「話を戻すが……デーモンは自身の魂を上書きすると言ったな。 なら元の魂はどうなる?」

「上書きされてしまう以上、元の魂……人格は消滅してしまいますわね」

 

 ということは……

 

「……俺はどうなる? もう1つの俺に食われて無くなっちまうのか?」

「このまま放っておけば、そうなりますわね。 或いは器が耐え切れなくなるか……」

「くっ……」

 

 やはり……そうなるのか……

 このまま俺は、俺じゃ無くなるのを黙って待つことしかできないのか……

 

 エア、何故そんな楽しそうな顔で俺を見るんだ……

 

「そんな顔しないでくださる? 放っておけばと言いましたでしょう?」

「――ッ! 何か方法があるのか??」

「流石にくどいですわね、ラルゴ。 最初にお会いした時から言っているでしょう?

「どうすればいい?!?」

「簡単ですわ。 あなたの器を、そしてあなた自身の魂を強くすればいいのです。 良質な魂を貪り、糧となさい。 そうすることが、器を鍛える最も合理的な手段……そして、あなた自身の意志を強く持ちなさい。 それこそが、あなたの魂の強さの源なのだから」

「魂を貪り、意思を強く持つ……後者はともかく、前者はどうすればいい?」

「先程あなたに襲われて解りましたわ。 あなたの右手には、魂を吸収する性質がある。 それはデーモンのような、魂だけで成り立つことができる存在にとって脅威になるでしょう」

「俺の右手にそんな力が……」

「さしずめ、略奪者(スティーラー)といったところですわね」

「略奪者か……こいつでデーモン共の魂を食らいまくれば……また這い上がれる」

「その意気ですわラルゴ」

 

 ふと思い出す。

 俺たちと一緒に依頼を受注した冒険者の二人だ。

 あいつらも俺と同じ目に合ったのだろうか、或いは……

 

「エア、シーマとグローリオはどうした?」

「残念ながら……あの方達も共犯者ですわね」

「やはりか……俺達は依頼を受ける前から、こうなるように仕向けられてたって事か」

「中々手が込んでおりますでしょう? 恐らくあなた達が懸念していた冒険者狩り、その正体こそが伯爵に取り憑いたデーモン一派の仕業なのでしょう」

「なら、これを解決できるのは俺たちしかいないというわけだな」

「ええ。 そして待っているのは上質な魂……ラルゴ、その右手に食らわせてあげなさい」

「臨むところだ。 それで、あの二人はどうした?」

「ワタクシに無礼を働きましたので、少し解らせてさしあげましてよ?」

「そうか……デーモンなんかよりお前の方がよっぽど恐ろしいな」

 

――ゴチン!

 

 突然、エアの拳骨が俺の頭頂部に落ちた。

 まるで頭蓋骨が陥没するような痛みが走る。

 

「痛ってェ!」」

「冗談でも今のは傷つきましたわ、ラルゴ」

 

 エアは怖がられる事に対して人一倍敏感なようだ。

 流石に今のはよくなかったな……

 

「わ、悪かったよ。 この通りだ」

「わかればよろしいですわ。 ではラルゴ、そろそろ行きましょうか」

「ああそうだな……うえっ! ……なんだこれは!?」

 

 今更気づいた。

 俺は見慣れない黒のラバースーツのようなものに身を包んでいた。

 そう言えば初めて会った時のエアも似たような姿をしていたような……

 

「即席でワタクシが編みましたの。 下着一枚では余りにもその……あれでしょう?」

「これも相当だぞ?! というか俺は腹を貫かれていたはずだ、どう処置したんだ?」

「傷? そんなものは見当たりませんでしたわね」

「何だと? あれは俺の気のせいだった……のか……? そういえば俺の装備は?」

「今のところは、それらしいものはありませんでしたわ。 屋敷の何処かに保管されているかもしれませんわね」

「よし、ならばまずは俺の装備を取り返すぞ! その次はデーモンの魂(タマ)を獲る!」

「ふふっ」

 

 エアが楽しそうに笑った。

 

「どうした?」

「何だか憑き物が落ちたようですわね」

「そうか? そりゃあ解決策が判ったからな! 後はまっすぐに突き進むだけだぜ」

「その調子ですわ、さあ行きましょう」

 

 

――俺たちは颯爽と駆け出す。

 解決策事態は判ったが状況は、はっきり言って良くはないだろう。

 だというのに、俺は妙に晴れ晴れとした気分だった。

 

 

 

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