あれば一日七千字とかできそう……。
でも絶対途中で腐りそう……。
「先生、話があるゾラ」
夜中。
同じベッドの上で向き合う私に向かいルト姫が言う。
最近は牧場での生活にも慣れてきた。
インゴーさんは力仕事の出来る私を歓迎し、ルト姫は牧場での様々な手伝いや同年代のマロン嬢との触れ合いや遊びが新鮮なのかとても満足げな笑みを浮かべる様になり、私達はとても充実した時間過ごしていたと言えましょう。
そして今夜、ルト姫は何やら固い決意を胸にしているのでしょう、私へ強い意志の籠った視線を向けてきます。
私は、彼女が何を言うのか把握していませんが、何を言われようとも真摯に聞き言葉を交わそうと心に決めるのでした。
ちなみに、タロンさんとインゴーさんは今日城下町へ商品を届け、宿屋で一泊するそうです。
「なんでしょうか」
「この牧場に来た時の様に、ライクライクになって妾を包んでほしいゾラ」
……………………。
えー……。
何を言ってるんでしょうか、このお姫様。
詳しく話を聞くに、ルト姫はあの時、類を見ない程の快感と安堵感に包まれていたそうなのです。顔面活火山にしながら告白してくれました。
それで、その快感等の正体を見極めたいと思い提案したそうです。
「だめ、かの……?」
「いいえ、その様な事ならばお安い御用です」
「本当か? ……ありがとう、先生」
穏やかな笑顔で言うと、ルト姫は纏っていた服を脱ぎ去りゾーラの里でそうしていたように、全裸になる。
そして私の方へ両手を広げた。
「準備は出来た。さ、してたもれ?」
「ええ、解りました」
形状を変化させる。
まずはゲル状になりルト姫の周囲を空間ごと包囲し、それが終わるとライクライクの形態へと移行する。
ルト姫は、瞬く間に私の中へと納まってしまった。
「……うむ。もっときつく、じゃ」
『解りました』
「……ん、あ」
内部を収縮させると、ルト姫はか細い吐息を漏らしました。
その後は私の中で己の手や足を動かし何過を確かめている様です。
暫くそうしていると、ルト姫は私の内壁へ顔を埋めぐりぐりと擦り付け始めました。
『如何ですか?』
「やはりじゃ。落ち着く。何の憂いも無い様な、そんな安心感に包まれている。幾つか、要素があるんじゃろう。先生が妾を大切に扱ってくれること。そんな存在の内部が妾を傷付けるはずがない。そう、無意識に考えてしまうのじゃろうな。そして、その温もりを一番近い場所で享受しておる。ずっとこのままでよいとすら思えてしまう……」
ルト姫はうっとりとした声音で言います。
そして内壁の襞を手で弄び、幼子が巨大なテディベアにそうするが如く、顔を強く押し付けてきます。
「のぅ、先生……」
『なんでしょうか?』
「妾、ずっとこのまま先生の中に居ても、良いか、の?」
『――――絶対にダメです』
私はルト姫の吐いたその言葉を即座に叩き捨てました。
◇
肉襞に埋めていた顔を勢い良く上げたルトは、驚きに目を見開く。
それ程までに、タナカの言葉にはルトの発言を拒絶するという意志が込められていた。愛しいモノからの明確な拒絶。それはルトにとって初めての経験だった。
心の拉げる音が聞こえた。
ルトは、心のどこかでタナカは全てを受け入れてくれると思っていたのだ。
それは甘えである。ルトはタナカを甘えても良い存在なのだと認識していたのだ。
言うなれば絶対的な味方。
そんな存在が強い拒絶の言葉を吐き出す。
ルトの思考は瞬時に混乱の坩堝と化す。
「せん、せい……?」
『おや、意外ですか? 私が貴方の言葉を拒絶する事が』
「え、あ、いや、その……」
いつもの活気はどこへやら、ルトは弱々しい言葉遣いと態度を晒す。
まるで、初対面の相手が唐突に何かを問いかけて来たかのように。それ程までに、今のタナカはルトの描く先生とはかけ離れていた。
『理由は幾つか有ります。ルト姫の事を考えていたり、自分本位の事だったりとまあ色々ありますが』
「……聞こう」
つばを飲み込み、ルトはタナカへ拒絶の理由を尋ねる。
その身体は無意識にタナカの内壁へ縋りついていた。
ルトの混乱した脳内は疑問を吐き出し続けるが、その疑問への回答は拒否していた。解答に辿り着いてしまえば、拒絶されたという現実を確定させてしまう様な気がしてならなかったのだ。
『……ちょっと、失礼。中に目玉作りますね。……やっぱり。声がいつもと違うから多分捨てられた子犬みたいな顔してると思ったら、案の定ですね』
「う、うるさいっ!! ……というか、いつもの先生とは、その、随分違うの」
突如眼前に生まれた眼球が呆れの色を宿した視線をルトに向けていた。
そしてルトの心境をズバリ言い当てたタナカに対し文句を言うも、やはりこれ以上の拒絶を恐れて言葉がしぼむ。
『勘違いしている様だから改めて言って置きましょうか。いいですか? 私はルト姫が好きです。大好きです。愛しています』
「……………………え?」
突然の愛告にルトは間の抜けた声を上げる。
拒絶とは即ち、嫌われる事と同義なのではないのか。
そんな疑問が頭を過る。
『お望みなら何度だって言いましょう。好きです、愛してます。……これだけの愛を直接的に伝える言葉が欲しい所ですが、この愛を伝えるのにもっとも適した言葉は、やはり愛しているの一言をおいて他にないでしょう。だから言います、貴女を愛している』
「…………う、あ」
タナカの中に居るルトは己の顔が赤く染まっていく様子を自覚した。
顔を埋めて隠そうにも、タナカの目玉はルトの眼前から見詰めて来るので、ルトは仕方なく己の手で顔を隠す。
『それでは、私が貴女をとても愛している事を前提としてお聞きください。何故、ルト姫がずっと私の中に居る事を拒否するのかを』
「……うむ」
タナカの愛告により、先程までの泥沼の様な気分がどこかへ吹き飛んでしまったルト姫。
しかしその頭はまだ混乱の渦中にあり、それ故ルト姫は神妙にタナカの言葉を待つ。顔を真っ赤にしながら。
『まずルト姫。貴女はあまりにも世界を知らな過ぎる。全てと言わずとも、せめて己の周辺ぐらいは把握しなさい。そして把握して尚私の中が良いと言うのであれば私も一考しましょう』
「……先生よりも、安心できる存在など有る訳が」
『その決めつけは可笑しいです。間違っています。貴女の父上がルトという少女を理解できていなかったのと同様に、貴女は世界を己の認識だけで捉えようとしています。それも、直接その眼で見たと言う訳でも無いのに。まるで伝わってきた噂のみで個人を色眼鏡で見るかの様な考え方です。貴女の言葉を借りましょうか。――――無礼にも程が有ろう?』
「うぐっ……」
先日、己の家臣に対して放った言葉がそのまま己に帰ってきたルトは呻き声を上げた。
どうにも居心地が悪いのか視線をあちらこちらへ泳がせている。
『それにルト姫、貴女は楽しんでいたではありませんか。外界を、未知を。見た事も無いモノを見て、知らない事を知る事に充実感を覚えた筈だ。……それとも、貴女と共に過ごす時間を楽しんでいたのは私だけですか? ルト姫は、外を見ても何も感じなかったのですか?』
「違う!! 楽しかった、嬉しかった!! 先生と共に過ごす時間はとても、……っ!? …………ぁぁ」
ルトは己の中から溢れ出す感情を言葉にして吐き出す最中に悟る。己の放った言葉が、タナカに対してどのような意味を持つのかという事を。
ルトと時間を共有し、二人で笑い合っていたというのなら、ルトがタナカに望んだモノは余りにも手前勝手なモノだった。
第一に、タナカは一人である事を恐れている。
タナカの中にルトが居れば孤独ではないだろう。だが、それは果たして共にあると言えるのだろうか。
同じモノを見て様々な考えをやり取りするという場が失われるというのは、大切な何かを一つ捨てる事ではないだろうか。
否、とそこまで考えたルト姫が思考を区切り、そして破棄する。
だろうか、ではない。そのものではないか。
――――己は捨てようとしていたのだ。目先の安息を求めて、心を温めてくれる場を失う所だったのだ。
ルトの背中を寒気が襲った。
自分の大切なモノを捨てようとしていた己に。何より、愛する者の恐れる孤独を与えようとしていた事に。
「……せん、せい」
『なんですか? 私の話はまだ』「すまな、かった」
『……なんで、謝るんですか?』
「妾は、先生と共に過ごす時間が好きじゃ。様々な物を見て共に笑い、時に教えを乞うのがとても大切だと気付いた。……そして、先生に孤独を与えてしまうかもしれない事を考えもしなかった。真に、身勝手極まる考え方だっ……!!」
ルトは己の目尻より涙が溢れ出す感覚に涙を拭う。しかし涙は止め処なく溢れ、拭えど拭えど顔を濡らし続ける。
やがてその小さな口からは嗚咽が漏れだす。
自己嫌悪と罪悪感に苛まれ、ルトは心に痛みを感じた。
タナカは己の内部を収縮させる。宛も、恋人を抱擁するかの様に。
「せんせぇぇぇ…………」
『ああもう、何を泣いているんですか。そもそも、ルト姫くらいの年齢ならば食って掛かるのが普通でしょうに。何を人の事を考えているんですか、貴女は』
「せんせいっ、止めるのじゃっ……。抱擁するでない。安息を感じる事に、嫌気がさすっ……」
この期に及んで、タナカの中に安息を感じる己が嫌になり、ルトはまた己を嫌う。
それでも、タナカは抱擁を止めない。
『嫌です。愛しい人が泣いているのに抱きしめない訳ないでしょう。もっとも、私が泣かせたようなものですが』
「すまぬ、すまぬ……っ。う、うぅぅぅぅ……」
ルトは呻く様に泣き、タナカは困りながらも慈しむ。
◇
「……先生」
『なんですか?』
「妾は、ずーっと先生の中に居ようとはもう思わん。じゃが、たまにこうしても良いか?」
『勿論ですよ』
暫らく泣いた後、ルトはタナカに要望する。
ルトは痛感していた。例えどれだけ己を嫌おうとも、この安堵を永遠に手放す事は出来ないだろうと。
そしてタナカの言葉を己の内で整理し、タナカは外界について何も知らない現状で引き籠る事を良しとしないのであり、定期的にこうするのなら問題ないだろうと判断し、言葉を紡いだのだ。
結果として要望は受け入れられた。
あまり普通ではない場所に安堵を覚えながら、ルトはタナカへと話しかける。
「のう先生。先の話、先生の個人的要望はどれだけ反映されていた?」
『えー、と。……半分より、少し多いくらい、ですかね? いや、お恥ずかしい。あれだけ説教くさい事を言いながら、結局の所私は貴女と触れ合い語り合う時間が失われる事を恐れています。それこそ、貴女の望みをもっともらしい理由で拒否するほどに』
「よいよ、先生。それだけ先生が妾を求めているという証じゃ。女冥利に尽きるものゾラ」
そう言うと、ルトは再び肉襞の中へ顔を埋めた。
(色々と、解った。妾が基本的に自分勝手な者だという事。その自分勝手は愛する者すら傷つける可能性を持つという事。先生は妾との旅を楽しく思っている事。……いや、それは妾も同じじゃ。ただ、見失っていただけに過ぎない)
二度と見失うものか。
固く決意を結び、ルトは顔を上げた。
「……もう、よい。ゾーラの姿に戻ってよいぞ?」
『ほんとうに?』
「正直、名残惜しくはある。じゃが、まぁ、ゾーラの姿をとった先生も先生であるし、それは即ち妾が愛する姿でもあるという事じゃ。――――愛している。はっきりと言おう、先生にも負けていないくらい好きじゃ」
『そうですか』
納得し、タナカは己の姿をゾーラのモノへ変える。
そして再びルトを抱き締め様として、逆にルトに抱きしめられた。
「……えっ?」
ルトはタナカの後頭部に手を回すと、その頭を己の胸へと抱き寄せた。
タナカはルトの生命が脈動する音を聞き、その人間と比べて若干低めな体温を感じる。
「じゃから、妾もこうして先生を愛する。不服かの?」
「……ああ、いえ。そうですね、正直言うとですね、恥ずかしいんですが、……癖になりそうです」
尻すぼみにそう言い、タナカは赤面する顔をルトの小さな胸へと埋めた。
その様子に、ルトは今までとは違う胸のときめきを覚える。
愛されるのではなく、自ら愛しに行く姿勢。受動的ではなく能動的な愛。
自らの手で愛する者に触れ、愛でる事の何と心躍る事か。
そんな事を考え、やはりタナカに拒否されて良かったとルトは思う。
確かに、まだまだ知らない事が有る様だ。
それを知ってからでも遅くはないという言葉は至極もっともである。
また、己の味わった充足感の片鱗でもタナカに味わってもらいたいと言う願望が胸に湧いて出る。
その願望のままに、抱きしめるタナカの頭を優しく撫でるルト。
タナカはただ大人しく、成すがままにされていた。
◇
「わー……。何か夜中の牧場にすすり泣きが響いて怖いわーと思って来てみたら……。ルトちゃんって大人ー」
タナカとルトの部屋の前にて。
マロンはルトがタナカの頭を絵抱き寄せる瞬間を扉の隙間から見ていた。
既にマロンはルトが異なる種族の高貴なる者である事を知っており、それに付き従うタナカを見て御忍びの旅か何かだろうと結論付けつつ、毎日この二人から目が離せなかった。
お姫様への憧れと言うのもあるが、何より少女と大人の男性が二人きりで旅をして見識を深めるという展開はマロンの中にある少女の琴線をこれでもかとばかりにかき鳴らしていたのだ。
そして抱える愛情が滲み出ている様なルトの顔はマロンにとって正に大人の女性が浮かべるソレに見えた。
端的に言ってしまえば、マロンはその顔を綺麗だと思ったのだ。
「ぬぬぬっ、ちょっと、見ずらい……。もう少し、広げて」
マロンは頬を紅潮させながらも、その己の奥底に語りかけてくるような二人の光景を眼に焼き付けようと、二人に気付かれる可能性を忘却し手に力を込める。
すると、マロンの足が滑った。
良く見れば床が何かの液体で濡れている。
興奮状態のマロンは気が付かない。それが己の分泌したものだと。
「ちょ、わ、あきゃん!?」
「ぬぉっ!? マロン!?」
「ファッ!?」
足を滑らせたマロンは勢い良く部屋へと突貫する。
ちなみに言うと、この状況で最も素っ頓狂な声を出したのはタナカだった。