「あっ、あぁっ、そこ、そこじゃよせんせぇっ」
「はいはい、マッサージ中にやらしい声を出しちゃいけません」
「や、やらしくなどっ、ふぁっ!? あ、それ、それなんじゃぁぁぁ」
現在、私はルト姫のマッサージに努めていたりします。
赤いクスリにより体力が回復していたとはいえ、筋肉などに蓄積されたダメージはまだまだ抜け切っていなかった。
それ故に今、ルト姫に寝そべってもらい凝り固まった筋肉を解す作業をしているのでした。
いやはや、ライクライクになり一から筋繊維を構成する生活を送っていた結果かどうかはしれませんが、触るとその硬度や感触により筋肉がどういった状態にあるかが解るようになってしまいました。
今は俯せに寝そべるルト姫の背中に跨り背筋周りのマッサージをしている真っ最中。
ルト姫の肌はやはり素晴らしい。こう、肌触りがしっとりとしている。
……ちょっと、いたずらでもしてみようか。そう思ってしまう。
こう、尾びれの周りの鱗が生えてる辺りを撫で回してみようかと。
「ひゃいん!? せ、せんせぇ!! それはマッサージとは……」
「いえいえ、これもマッサージですとも」
正し、人それを性感マッサージという。
一枚一枚の鱗は小さいが、そのせいかとても手に心地良い触感が帰ってきます。
鱗は硬質なモノではなく、弾力があり触ると跳ね返る様な感触が有るのです。
「ひゃややややあ~!?!?」
「ルト姫の鱗は柔らかいのですね」
「ぞ、ゾーラ族の鱗は、その時、のぉ、心持ち、でっ、っっ、変わる、のじゃっ」
「成程、詰りルト姫は今私に全てを委ねきっているという訳ですか、光栄ですね」
「にゅあっ!? や、やめ、ぞわぞわするのっ、やめぇぇ!!」
面白いくらいにビクつくルト姫を暫し堪能したら、次はゆったりと強めに肌を撫で回して行きます。
「うー、あー、おー、あー」
「ふふっ、ご気分は如何ですか?」
「うむー、苦しゅうないぞらー」
穏やかな顔で間の抜けた声を出すルト姫が愛らしくて仕方ありません。
しかし、どうにも違和感が拭えない。
私のルト姫に抱くイメージでは、この娘はもう少しとんがりちゃんだったのですが、……やはりゲームではないという事でしょうね。
「さ、次は足回りですよー」
「おうー、よきにはからえー」
ふくらはぎを圧迫します。
これにより血行とか良くなります。あと足回りの柔軟とかもさせておきましょうか。
しかし、合法全裸な一族だから仕方がないのでしょうけど、これはエロい。
こう、ふとももを鷲掴み外側に肉を持っていくと、見えるのですよ、あれが。
一本筋が変形する様がどうもこちらの情欲掻き立ててヤバげです。
でもって、外側に押していた肉を内側に戻そうとした際に閉じたりするので、もう眼福ですとも。
おまけに鷲掴むと心地良いふとももの感触が凄いです。
正に至宝ですね、ルト姫は。
◇
「……よし、マッサージ終わりです。お疲れ様」
「……おー、終わったのかのー」
「はい。あ、折角なのでお風呂など如何ですか?」
「オフロ?」
マッサージも一通り終わり、ゆったりと湯船に浸かりたくなった私は、そうルト姫に提案します。
対するルト姫は風呂がどの様なものか解らないといった反応を返します。
これはいけません。湯船の魅力を知らぬというのは人生の損失に等しい。その規模は個人によってまちまちですが。
よし、こうなったらルト姫にお風呂の心地良さを伝授してしまいましょう。
そもそも、ゾーラ族は殆どの時間を水の中で過ごすために風呂などという概念が無いのでしょう。
「それはとっても素敵なモノですよ。ルト姫もご一緒しませんか?」
「んー、良く解らんのじゃ。それはどのようなモノぞら?」
「浴槽、囲いの中に適温のお湯を入れそれに浸かる事を入浴と言い、清潔なお湯の溜まった場所を風呂と呼びます」
「お湯、……妾は煮魚に成りたくないぞよ?」
「そんなに熱くありませんよ? ひと肌よりも少し熱い程度です」
「ひと、はだ……」
ひと肌という言葉に何を想像したのか、ルト姫の顔が赤くなります。
きっとエロい事でも考えていたのでしょう。このくらいの子供が年齢に不相応と言える体験をしているのですからそれも仕方がないと言えるでしょう。
あれです、小学生の男の子が草むらでエロ本見付けてしまい、そのまま一気に覚醒する様な感じです。
次回、性戦士ルト、始まります、なんちって。
「まあ、まずは現物をお見せしましょうか」
指を鳴らし、内装を変形します。
窪みを作り出しその表面を硬質化、そこに私の中から抽出した水分を見たし、最後に魔法を使って温めます。
炎とは光と熱であり、それを操れるという事は熱だけを操る事も可能である筈です。
そして数分としない内に湯船が完成しました。
ルト姫は興味津々といった様子で見ています。
ゾーラの里では見られないモノですからね。
「温度は……、うん丁度いい」
湯船の中へ足を進めていくと、お湯の熱が少しずつにじり寄る様に体内へと伝道します。
心地良い感覚です。
これぞ風呂。
「あー、ごくらくー」
「せ、せんせい?」
「んー、どうしましたー?」
「これは、熱過ぎぬか?」
そちらを見れば、ルト姫がしゃがみ爪先にて湯船を突いては引っ込めています。
ああ、何とも微笑ましい限りです。
「恐れる事はありません。それとも、私がお手伝いしましょうか?」
「……うむ、宜しゅう頼む」
意外や意外、ルト姫が意地を張らずにこちらへ頼んできます。
それだけ信用されている、ととっても良いのでしょうか。
ルト姫の方へ歩み、その両脇へ手を入れて持ち上げると胸に猫を抱くような格好で固定します。
その際に、普段よりも体温を上昇させておきます。
この温度に慣らせば、殆ど抵抗なく湯船に入れる事でしょう。
「むぅ、先生、何時もよりも暖かいぞら?」
「ええ、湯船は大体このくらいの温度です。ただ身体や空気と違ってぴっちりと接触するから余計熱く感じるのでして。さあ、ゆっくりと入りますよ?」
「う、うむ。……ひっ」
足先が侵入した際にルト姫が声を漏らします。
現在ルト姫はふくらはぎ程まで湯船に浸かっています。
しばらくはこの地点で慣らしましょうか。
「どうです?」
「ん、平気じゃ。いつもの水よりも熱ぅて不思議な感覚じゃのぅ」
「時間が経つにつれてそれも心地良いと感じられるようになります」
数分程お湯に慣らしてから、少しずつルト姫をお湯に浸からせていきます。
臍より上まで浸かる頃には、ルト姫はお湯にすっかり慣れてしまいました。
「むふー、温かいのじゃー」
「良いモノでしょう?」
「うむー、なかなかじゃー」
……なんというか、最近私の内部がレジャー施設化しているような気がしてなりません。
まあ、ルト姫が幸せそうなのでどうでも良いですが。
「せんせぇー」
「あ、こら、湯船で泳いじゃいけません」
「ダメかの?」
「駄目です。お風呂は静かにゆったりと、これが決まりです」
「ふーむ、解ったのじゃ」
素直に聞き分けたルト姫は、段差に腰御下ろす私の膝に跨り抱き着いてきます。
おおう、入ってないけどこれ対面座位じゃないですか。
エロい事はしていませんが、お風呂の効能で赤くなった顔がとてもエロいのです。
「んふふー」
「おっと、どうしました? 随分と甘えん坊さんですね」
「別にー、ただ心地良いと思っただけなのじゃ」
「そうですか、それは良かった」
鎖骨辺りに頬ずりしてくるルト姫の頭を撫でながら、私達は暫く湯船に浸かり極楽を満喫しました。
……後にこれが、ゾーラの里の温泉街に繋がるなんて予想もしていませんでした。
◇
翌日、水の神殿が下に有る小島の上で遊んでいる時にその人達は来ました。
「姫様ッ!!」
「御無事でしたか」
「ぐぇっ、近衛のアホが来たのじゃ」
一緒に焼きテクタイトを頬張っていたルト姫が凄く嫌そうな声で言いました。
近衛というと、ルト姫の護衛を務めている人達でしょうか。
何ともご愁傷様です。
「……先生、例の件、本当じゃろうな?」
「ええ。私の余りはここに待機させておくので私が去ったとしてもご自由に使えますよ? 勿論、現在はルト姫のみです」
「むー、先生と別れるのはつらいのじゃ」
「私の余りの中ならどこにいても私と交信できますよ。何せ、それもこれも私なのですから」
「……うむ」
ルト姫とこの後の事について話している間にもゾーラ族の近衛兵は上陸を果たしていました。
しかし、護衛対象に逃げられる近衛って大丈夫なのででしょうか。
「ぬっ、怪しい奴!!」
「貴様何者だ!?」
「え、わたし?」
水かきの付いた手の指を器用に此方へと向けて近衛さんが言います。
怪しい奴ですか。
確かに私程怪しい奴はいないでしょう。
何せゾーラ族の2Pカラーですし。
里で見かけないのにルト姫と親しげですし。
「さては、貴様がルト姫を誘拐したのか!?」
「……これ、そういう状況に見えるんですかねぇ?」
「さてな、見えるのじゃろう? こやつ等には」
ルト姫に言葉を投げかけると冷たい声音で返答されます。
ここまで不機嫌そうなルト姫は邂逅してから初めてかもしれません。
「のうお主等」
「ルト姫!! 早く此方に……」
「――――無礼にも、程が有ろう?」
「ッ!?」
息を飲んだのは果たして誰だったのか。
ルト姫の中で膨大な魔力が渦巻いている。
その水に親和性を強く持つ魔力は、水色の光という形で視覚化出来るほどに強い。
これは不思議な事ではありません。ルト姫は王族なのですから、これくらいの魔力は持っていて当然と言えるでしょう。
ただし、それを現段階で扱えるかと言われれば疑問符が残ります。
恐らくは一時的な感情の高まりがルト姫の潜在魔力を暴走させているのでしょう、物凄い威圧感が辺りを包み、ゾーラ族の近衛さんは威圧感に身体を支配されているのかピクリとも動きません。
「このお方は妾の命を救ってくれた恩人だと言うのに、それを貴様等揃いも揃って怪しいだの誘拐だのとガタガタほざきよってからに……」
一歩。
たった一歩踏み出すだけで地面の草花が萎れます。
それだけの圧迫力を持つ魔力は、生物にとって既に毒と言えましょう。
「ルト姫、落ち着いてくださいな」
「先生よ、これは妾達の問題じゃ。口出しをするでない」
「そうも行きません。仮にあなた方の問題だと言うのなら、草花にすら迷惑を掛けてはいけない。ご覧なさい」
「……ぬ」
ルト姫が己の足元へ視線を映します。
そこには突如呼吸に混じった高濃度の魔力に苦しみ喘ぐ動植物の姿が有りました。
冷静さを取り戻したのか、ルト姫の魔力が平常時の状態へと移行します。
「そう、じゃな。草花に罪はない、追いつめられて止むを得ず、という訳でもない。ならば、悪戯に力を振り回してはいかん。そうじゃな? 先生」
「大変良く出来ました。貴女の先生を名乗る者として鼻が高い限りです」
「……ふふっ」
照れた様に静かな笑みを浮かべるルト姫は、怒り苛烈さを前面に持ち出していた先程とは違い、いつもの優しく活発な少女でした。
「まあ、それはそれとしてじゃ。おい役立たずつ共」
「ひぃっ!?」
「お助けをっ?!」
ああ、可哀想に。
種族の王族たるルト姫の魔力には同種族に対する支配権限の様なものが織り込まれているのでしょう。
それを間近に感じてしまった彼らは、きっと断頭台を前にする死刑囚の様な心持ちに違いありません。
「貴様等の監視は抜けるのが容易かったぞ。まさか妾の様な小娘を逃がす程度の警備しかできん輩を雇うとは、父上も年か? これは、最早妾が新たな王となるしかなさそうじゃのぉ」
……何でしょうこの幼女。
怒りのあまり覇道にでも目覚めてしまったのでしょうか。
魔力は引っ込んだと言うのに、威圧感はむしろ研ぎ澄まされています。
……ちょっと待った。
何を平然と、私は観察なんぞしているのでしょう。
仮にそれら威圧感や覇気が有ったとして、一体全体どうして私が平然としていられるのでしょうか。
どうにも、既に私も可笑しな領域へと片足を突っ込んでる気がしてなりません。
いや、既に全身可笑しいですね。
「そ、そんなっ」
「ルト姫が、大人しくしていれば私達だって……」
「ハッ、妾が大人しくしていたら貴様等は何をする? 何もせずにただ呆けているか賭け事で遊ぶだけじゃろうが。妾が、知らぬとでも思っていたのかえ? そも、貴様らがふがいない程に惰弱だからこそゾーラ王は妾に外出させぬのではないか。違うか? ええ? 違うならば何か申してみよ、ほれ」
既に近衛の方々は消沈しています。
見た感じそれなりの手練れと見受けられるのですが、それをルト姫が上回ってしまったという事でしょう。
「ふん、まあ良いわ。そこまで言うのならば帰ってやろう」
「ああ……」
「ありがとう、ございます」
疲労困憊と言った表情の近衛さん達が息を切らせながら頭を下げます。
「――――ただし、此方の先生も連れて行く事とする」
……What?
◇その頃のゾーラ王
僅かながらに鳴動したその魔力を、誰よりも速く感知した者が居た。
ゾーラ王だ。
見知った、愛する娘の魔力が増大するその原因を探りながら、ゾーラ王は戦慄とした。
(……これは、憎悪!? ルトよ、お主に何が有ったと言うのじゃ)
魔力の源泉と思われる憎悪、憤怒はルト姫の中に抑圧されたそれは、ゾーラ王の眼には暗く光すらも死に絶える深海を彷彿とさせた。
そして、それが途端にそれが消え失せた事で混乱は更に深まる。
(ルト!! ……いや、大丈夫なようじゃの。大体の居場所は解った。水の神殿の近くじゃな)
娘の居場所が知れた事、娘が無事な事を知った事でゾーラ王は深く安堵する。
そして、一転して鋭くなった娘の気配に、何が有ったのかを把握しきれていない親としての自分に苛立ちを募らせるのだった。
書いている内になぜかルト姫が覚醒していた。
きっとブーメランを聖遺物にしてイェツィラーするに違いない。