そして作者の中二病全開でキャラ崩壊発生していたり。
現在、私はゾーラの里を歩いております。
流れ落ちる大きな滝、透き通る水、煌めく水面、素晴らしい景観と言えましょう。
さて、この神秘的にして美しいゾーラの里を歩いている私の気分は、ここまで素晴らしいモノを見ていると言うのに絶賛曇り空です。
理由はルト姫が私も家へ連れて行くとお持ち帰り宣言した事に有ります。
はぐれと思われているであろう私が、共同体総本山とも言えるゾーラの里に入ったならば、当然トップであるゾーラ王に挨拶する必要があります。
その時に襤褸を出さないか不安で仕方が有りません。
どう言えば良いのでしょう、「お宅のお子さん、美味しかったですよ?」とでも言えというのですか。
レベルが高すぎるでしょう。
「どうじゃ先生、ゾーラの里は」
「ええ、綺麗な所ですね。水も澄んでいて美しい……」
「うむ、気に入って貰えて何よりじゃ」
私の右腕を引いて歩くルト姫の顔には満面の笑みが浮かんでおります。
楽しそう且つ幸せそうなその表情は、普段ならば見ているだけで和むモノなのでしょうが、今の私にはそんな余裕ありません。
「それにしても、ルト姫。何故私をゾーラの里へ? 一端帰ってから招待状を送るなりすれば面倒事も少ないでしょうに……」
主に私の面倒事が。
「う、む。先生には悪いと思っておる、本当じゃぞ? だがな、惜しいのじゃよ時間が。水が高い所から低い所へ流れるのと同じように、時も流れ去る。妾は、先生と共に出来る時間を無駄にしとうない」
「面倒の回避は時間の無駄?」
「無駄じゃよ。妾ならばそんなモノどうとでも出来る、力は使ってこそのモノじゃ」
胸を張り、自信満々に言いきるルト姫には堂々とした風格が渦巻いている様に見えます。
後ろを付いて来ている近衛さんなんか再び顔を青褪めさせてますよ。
ほら、他の里の人も驚いて振り向き、あ、ルト姫が出したものと知って驚いている様です。
やはり普段からこんな風に覇道を撒き散らしている訳ではないようですね。
「のう先生?」
「はい、なんでしょう?」
突如足を止めて、振り返ったルト姫が身長差に伴う上目使いにて私を見上げます。
心なしか、その視線には不安の色が見え隠れしていますね。
「……先生は、妾の味方でいてくれるかえ?」
「勿論、味方ですよ」
「妾が、先生に迷惑が掛かる様な事をしてもかの?」
その前ふりは「今からアンタに迷惑ぶっかけるぜ!!」という宣言なのでしょうか。
ルト姫の決意は固いようです、私がこの場でなんと言おうとも己の目的を強行するつもりでしょう。
「……そう、ですね」
少し考えましょう。
一先ず、ルト姫は私を嫌っている訳では無い。
それはもう一目瞭然と言える程に懐かれていますからね、これについては無問題と言えましょう。そこから考えるに、少なくとも命に係わる様な事はしない筈です。
ならばどういった面倒事でしょうか。
先生と呼ばれているだけあって、「げへへ、先生お願いしやす!!」なんて事に成らなければ良いのですが。
いや、まずないか。
まあ、何か途轍もない事をやらかすのならば私も拒否をするでしょうが、ルト姫は嫌いじゃありませんし大概の事では怒りませんとも。
「命に関わるようなことでなければ」
「先生、妾は先生に死んでほしいなどと願う事は無いぞ。恐らく、これから一生な。己の命を助けられて、その助けた相手の命を取る程、妾は非道ではない。……しかし、そうか。味方でいてくれるか。ならば安心じゃの」
「一体何をやらかす御積りで?」
「ひ・み・つ、というものじゃ」
人差し指を口元へ持ってくる仕草が愛らしい為に、私は誤魔化されてしまうのでした。
◇
その日、ゾーラの里にて異例の事態が起きた。
家出をしていたルト姫が、肌の黒いゾーラを連れて来たのだ。
里の者が黒いゾーラを訝しむ中、ゾーラ王は一先ず顔を見ようと決めて謁見の間にその者を招こうと思った。
話に聞く限りでは、その者がルトの危機を救ったという話だからだ。
眼に入れても居たくない愛娘の恩人に対し、挨拶も無い様ではいけないという思いがゾーラ王にそのような決定をさせていた。
だが、その前に。
客人との顔合わせの前に無事な愛娘の顔を見て、少々の説教などを行おうとゾーラ王は考えていた。
しかし、その考えはルトによって破綻する。
「先生と共に行く」
ルトはその一点張りだったそうだ。
聞くに、その様子に先生と呼ばれていた黒い恩人も頭を掻いて苦笑いを浮かべていたそうだ。
またいつもの我儘であろう、ゾーラ王はそう考えた。
身内の恥を晒すようで心苦しいと思いながらルトの意見を飲むゾーラ王。
しかしその温い考えは謁見の間に現れた黒い青年を見る事で改められる事となる。
(こ、これはッ!?)
内心での驚愕を表に表さないのは流石に王であると言えよう。
ゾーラ王は青年に驚いていた。その肌の黒さにではなく、その在り方にである。
ゾーラの一族は、水と共に生きる水の民だ。
当然ながら神秘的な力、或いは存在と対峙するならばそれは水に纏わるモノであり、自然とゾーラ族の気質にもそれは反映されていく。
水の神秘を纏う種族。それがゾーラだ。
では、眼の前の青年を見てみよう。
青年の身体的特徴は紛う事無くゾーラ族のモノだ。
若干ながら先鋭的過ぎるフォルムではあるが、種族からはぐれ日常的に戦闘を行っていたのならばその様な成長を遂げていたとしてもなんら不思議な話ではない。
他のゾーラ族と決定的に異なるのは、その身に纏う力の質だ。
真っ先に感じ取ったモノは燃え盛る炎だ。
赤熱化する大気が一つの意志の下に付き従っているかの様な支配的ビジョン。
その癖、何かあれば辺り一面を焦土へ変えようと揺らめく炎を従える青年は、その中心にて朗らかな笑みを浮かべている。
この事から、ゾーラ王はまず青年は只者ではないと判断した。
水に適した身体機構を持ちながら、その内から湧き上がる力は青年の水を干上がらせかねない。
しかし、干上がっていないのだ。これだけの力をゾーラ族が内包すれば即座にゾーラの干物が出来上がるだろう。
故の異常。
それだけの力を秘めながら、青年は力に影響されず己の中に水の気質を保持している。
そこまで見て、ゾーラ王には眼の前の青年が忽ち恐ろしい者に見えてしまっていた。
おそらく、この者がルトを助けたのは気紛れなのだろう。でなければ何らかの目的が有る筈だ。
そう考え、ゾーラ王は鋭く青年を見極めはじめるのだった。
◇
「ただ今帰ったぞ、父上よ」
「よく、無事で戻ったの、ルトよ」
ルト姫は、何でもない事の様にゾーラ王へと言いました。
いや、でかいでかい。
何か若干蛙に似ている気がするけどホントにデカいですよ、ゾーラ王。
眼前に立って初めて解る事ですが、ゲーム内で見れる間の抜けた馬鹿殿とは違い、正しく王と呼べるだけの風格を醸し出しています。
「帰って早々にで申し訳ないのじゃが父上、一つ提案が有る」
「何であるか? 申してみよ」
ルト姫は不敵な笑みを浮かべて口を開きます。
そして言葉が発せられる直前、私の背中を嫌な予感が駆け巡ります。
「この御方を妾のフィアンセにしようと思うのじゃ」
「なん、じゃと……?」
……OH、この小さいお姫様ったらとんでもない事言っちゃったよ。
てか、友達とか恋人の関係を抜かして結婚ですか。いや、私も大概段飛ばしな関わりかたしましたけども。
ひょっとして、責任とってもらう的な事なのでしょうか。
しかし、面倒事になったという自覚が有るにも関わらずルト姫に対する嫌悪感が湧かないのは流石というべきでしょうか。
きっとこれがカリスマというモノでしょう。
……いや、でもどうしよう、これ。
◇
対峙する親と娘。
その視線の交点にて弾ける覇気がそこにいるゾーラ族へ多大な負担を強いる。
重力がの作用を大きく受けているのか、はたまた重石を背負わされたのか。その様な錯覚に、ゾーラ達は後退った。
例外は中心に居る三者。ゾーラ王、ルト姫、そして黒い肌を持つゾーラの青年だ。
ゾーラ王とルト姫に関してはまだ良い。彼等は一族の王であり、その覇気の強さとは己が一族の象徴として誇れるモノなのだから。
だとすれば、その二者と同じ場所に立ち、この覇気を苦笑い程度で受け流しているこの黒色の青年は一体何だ。
謁見の間にて三者を囲んでいた里の者達は背筋を凍らせる。
その事実は、目前の青年が己が種族の王族と同程度の力を持っていると言う証明に他ならないからだ。
ふと、青年が周囲へと視線を配った。
『ッ!?』
驚愕。
ゾーラ達は驚いた。
二者の放つ覇気を受けていながら、青年は周囲に済まなそうな視線を向けていたのだ。
苦い微笑みだ。
己がいるからこそ、この事態が引き起こされている。その自覚が青年にそのような表情をさせるのだ。
なんと慈悲深き事か。
元来覇王とは、覇道とは省みぬモノだ。
周囲を己の支配下に置き、意のままに操る彼らは周囲に気を配るのではなく周囲こそが気を配るモノなのだ。
それを、この青年はその気配りが当然だとでも言う様に振る舞っている。
その事に、ゾーラ族は驚かずにいられなかった。
「……ルトよ。何故にその者をお前の夫とする?」
「そんなモノ決まっておりまする。妾が、このお方に心奪われたから、ただその一言に尽きましょうよ」
「――――――――」
ゾーラ王から濃縮された魔力が発せられる。
言うなれば汚染物質。その魔力に反応し周囲の水面がざわめいた。
「おいおい父上よ、王ともあろう者がなんじゃその為体は。感情を御しきる事も出来ぬか?」
「青臭いガキが抜かすでないわ」
「ぬっ」
その言葉は最早投げられた槍に等しい。
放たれたならば、その切っ先が相手の精神を抉る。
周囲のゾーラ達は身震いをした。
あんなモノが己へ叩きつけられたなら、自分は無事でいられるだろうかと。
自己投影とは知能を持ってしまった生物の利点であり最大の汚点である。
たとえば、高層ビルで働く者が飛び降り自殺者の話を聞いたとする。そしてその者は仕事中にふと窓から下を見下ろすのだ。飛んだ者は、一体どのような気持ちだったのか、どのような映像を見たのかと。
そして己が同じ立場に立たされた時を想像する。それも、ごく自然に、だ。
自動的に想像される落下視点に、その脚の付かない浮遊感と後に訪れるだろう粉砕という死を感じ震え上がるのだ。
己を制御できる者は態と思考を軽量化し、物事を深く考えない事で己の精神を防衛する。
だが、現状のゾーラ族にはその手段はない。
何故ならば、彼らのその恐怖は余りにも身近で、且つ抗い様のない存在が根源となっているからだ。
「なんじゃ、父上。娘が好いた者を認められぬのですか?」
「お客人には悪いがのぅ、生憎とどこの馬の骨とも知れぬ奴を娘の夫には出来んよ」
「―――――馬の骨、じゃと?」
何気ない一言だ。
客人に対する断りを入れ、客人が己にとってどのような立ち位置かを説明するのに適した言葉である。些か失礼ではあるが、娘の連れてきた顔も知らぬ男に対しての認識などその程度のものである。
ただ、その言葉が年頃の娘にどの様な影響を及ぼすかまでは予想していなかったようだ。
憤怒に起因する魔力の渦がルト姫を中心に形成される。
呼応する水面はゾーラ王のそれと敵対するかのように波を荒げた。
変化が訪れる。
ルト姫の腕にあるヒレが変形し、その先端が牛の角の様に湾曲し掌と同じ方向へと顔を向けた。
まるで鎌が腕から生えたかの様な姿。
その様子にゾーラ王が鼻を鳴らす。
「フィンブレイドか。ふん、一人前となったゾーラ族の戦士ですら扱える者が少ない技術を体得する辺り、流石は余の娘と言えよう。じゃがな……」
聞き分けのない子供を叱り付ける様に、ゾーラ王の覇気が叩き付けられる。
開いたその掌に水が逆巻き、氷の槍が姿を現す。
煌びやかにして神秘的なその様子は正に聖槍と呼ぶに相応しい出で立ちだ。
「――――実の親に、その切っ先を向けたな?」
「ハッ、父上が妾にした事など拘束程度のモノではないか。まるで家畜じゃ。そんな扱いを行っておいて、今さら父親面じゃと? 冗談も休み休み言えよ、耄碌爺。良い機会じゃ、親子喧嘩と洒落込もうではないか?」
「舐めるなよ小娘。貴様なぞ、相手にする価値もないわい」
「ご自慢の槍を抜いておきながらそれか、よぉ!!」
跳躍。
謁見の壇上より跳躍したルトは空中で回転し、右腕のフィンブレイドの切っ先をゾーラ王目掛けて振るう。
対するゾーラ王も己の聖槍にてその一撃を払い退けようと腕を動かす。
恐るべき衝撃が訪れる。
一寸先の未来を予想したゾーラ達は頭を押さえて体制を低くした。
対ショック姿勢とでも言おうか。やはり頭部は生物にとって欠かせない器官であった。
「――――待たれよ、お二方。親と子が感情の昂ぶりにより刃を交える姿など、客の視点で言えば無様極まりない」
「ぬぅっ」
「なっ!?」
その場に居る全員が驚愕した。
親と娘の攻撃が接触しようとした正にその時、その中間へと瞬時に割り込んだ存在が居たからだ。
腕の回転運動から繰り出される一撃を、腕の動きを止める事により停止させ、その腕に炎の小手を形成しゾーラ王の持つ聖槍の矛先を撮んで止めていた。
そんな動きが出来る可能性を持つ者など、この場において黒い青年しかいない。
「せん、せい……」
「ルト姫、抑えられよ。貴女は本当に、実の親に対し殺したい程の憎しみを抱いているのかね?」
「それ、は……」
違う。
そう言う事は憚られた。
その行動の根底には、己の親ならばこの一撃程度払い除けるだろうと言う一方的な信頼が有った。
しかし、何が起こるか解らないのが世の中だ。
例えば、何らかの偶然により先の一撃がゾーラ王の急所を抉ってうたかもしれない。そう考えるとルトは震えが止まらなかった。
抑えられた腕のフィンブレイドが闘志の減退と共に元の形状へと戻る。
「……やれやれ、躾を行う手間が減ったと喜ぶべきか悲しむべきか」
「それは解りかねまする。しかしこの年頃の子は複雑な心理状況に有る故迂闊な発言は避けた方が宜しいかと」
「一理ある、か」
ゾーラ王は手の中の聖槍をただの水へ戻し溜息を一つ付いた。
「凄まじい力の槍でしたね」
「うむ、先々代辺りが『何れ世界が水で満たされるゾラ!! 夢で見たから間違いないゾラ!!』と叫んで突然作り出したモノなのだが……。流石に本体を持ち出すわけにはいかぬからの。ジャブジャブ様の腹の中へ納め、王の権限によってその力を拝借しているのじゃ」
青年の顔が若干引き攣っているが、その理由を知る者はその場に居なかった。
「しかし、今さらなんじゃが、お主如何にして浮遊などという芸当を獲得した?」
「浮遊? 何を馬鹿な。私は浮いて、など、……」
ゾーラ王の言葉に青年は下を見下ろした。
青年は、己が浮いている事に気が付いていなかったのだ。
「のぉ!?」
「わきゃ!?」
青年に手を押さえられていたルトが青年と共に水の中へ落下した。
立ち上る水しぶきは先程の闘気を洗い流すように辺りへと散らばる。
「なんじゃ、無意識だったのか。てっきり魔法でも扱えるのか期待したのだがのぅ」
「はは、いやいや、私に魔法は使えませんよ。……ルト姫、お手を」
「うむ」
立ち上がり、まだ尻餅を付いているルト姫へと手を伸ばす。
ルト姫はそれを迷いなく握り助け起こされるのを良しとした。
それを、ゾーラ王が静かに見つめている。
その眼に怒りの感情はない。
客観的に青年を観察する視線のみがそこから発せられていた。
「……のう客人」
「はい、なんでしょう?」
「お主、名はなんというのだ?」
「解りません」
「……なに?」
問いに対する返答は予想外のモノだった。
ゾーラ王だけでなく、ルトですら唖然としている。
「そもそも名前を必要とする環境に居なかった者でして……。まあ、敷いて名乗るなら」
青年は顎に手を当て数秒考えた後にその言葉を発した。
「……田中、とでも名乗りましょうか」
◇
現在、私は用意された部屋にて休んでおります。
いや、驚きましたとも。何故かゾーラ王とルト姫が勇者VS魔王ばりの最終決戦をやり始めようとしたものですから思わず割り込んでしまいました。
しかし、実は私浮くことが出来たようで。
舞空術とか使えたりするのでしょうか。私にホバーブーツはいりませんね。
……舞空術、ということは○めはめ波とかも使えるのでしょうか。
興味深い限りです。
さて、現在の状況を説明すると、ルト姫が男を連れてきて紹介した、お父さんは許しません、始まる前に親子喧嘩を仲裁、といった感じなのですが。
その後、何故かゾーラ王に見極めるとの一言を頂きました。
どういう意味でしょうか。
……まさか、ルト姫の発言を本気になって考えているのでしょうか。
いや、ないない、そんな筈ありませんとも。
「……先生、まだ起きておるかの?」
部屋の外からルト姫の声が聞こえます。
晩餐の時も一人黙々と焼き魚を食べ、話しかけられる雰囲気ではなかったのですが。
まあ、あちらから訪ねてくれるという事は有り難い限りです。
「はい、起きていますよ。何か御用で?」
「う、うむ、少し話でも、と……」
「どうぞお入りくださいな」
「……邪魔するぞ」
扉を開けてルト姫が姿を現します。
礼装なのか、その身に羽衣の様なひらひらとした薄桃色の布を纏い、若干恥ずかしそうに頬を赤く染めながら部屋へ入ってきた。
「礼装ですか? とてもお似合いですよ。淡い桃色がルト姫の純白の肌を彩りとても愛らしいです」
「あ、ありがとう。……って、先生はこの羽衣の意味を知らぬのか?」
「? はい、存じませんが……」
「……あ、しもうた、先生はゾーラの格好をしたライクライクじゃった」
あちゃー、と声を出しながら頭を抱えるルト姫。
なんというか、落ち込みつつも照れくさいといった感じの表情です。
「これはの、ゾーラ族なりの求愛なんじゃよ。言うなれば、そう花嫁衣裳というモノじゃ」
「花嫁衣裳、ですか」
ウェディングドレス的なモノなのだろうか。
とすると、わざわざそれを来て前に現れるという事はプロポーズととってもよいのでしょうか。
……何と言うか、ルト姫は余りにも事を急ぎ過ぎている。
「ルト姫、何故そこまで事を急ぐのでしょう? 私達は出会ってから一週間も経っていないのですよ?」
「共に過ごした期間が長ければ長い程仲が良い、などというのは嘘じゃよ先生。現に、先生よりも長い間共に時を過ごした他のゾーラ族や父上などこの様ではないか。助けられた為に、というものは若干ある。じゃがな? それで十分なのじゃよ、妾は」
己の心情を吐露するルト姫は、とても不安げな表情でこちらを見つめている。
その視線から、逃げてはいけないなどと私は漠然に思いました。
「ひょっとして先生は、妾に拘束される事を嫌っておるのか? ならば問題ない、妾は先生を拘束するつもりなどないよ」
「は? それは、どういう……」
「言葉通りの意味じゃ。妾は父上とは違う、先生を囲って籠の鳥に等せぬ。旅がしたいのであれば存分に、他の種族と交流を持ちたいと言うのであれば意のままに行えばよい。最後に妾の下へと戻って来てくれればそれでいいのじゃ」
「…………」
私は言葉を失ってしまいました。
この小さな姫は、我がままを言いつつも、それでいて相手への配慮を忘れていない。
束縛の辛さが解るからこそそれを他者へ強要したりはしない。
怪我の功名と言えばそれまでですが、こんなに小さな子供がそんな事を出来るでしょうか。
考えるまでも無い事です、出来る訳がありません。
ルト姫は、事此処に至り最大の欲求以外を捨て去っているのでしょう。
拘束もしたい事でしょう、独り占めにしたい事でしょう、しかしそれを行わない。嫌われてしまったらそれまでだと考えているからに違いありません。何故なら、拘束という一点に関して言えばルト姫は己の尊敬する父親すらも蛇蝎の如く扱き下ろすのだから。
故に、己との確かな繋がりを欲しているのです。
一時の別れが永遠と成らぬように、いつか己の下へ再び訪れる様に。愛が帰還する様に。
そんな思考を私はこの小さな姫に行わせてしまっていたのです。
今でも、内心では怯えているに違いない。
顔に書いてあるではないですか、不安だと。寂しいと。
「……それが、ルト姫の最優先事項なのですね?」
「ふふっ、そうじゃよ先生。今時ここまで都合の良い女なぞ居らんぞよ?」
「…………自分で、都合が良いとまでっ、自覚していながらっ」
「先生が辛そうにする事はないのじゃよ? これは妾が行える最大の駆け引きじゃ。それで、先生はこのような良きおなごを放って置くのかえ?」
私は、言葉を投げかけようとして口を噤みました。
何を言って良いかが判然としないからです。
様々な感情が交差し捩じれ複雑に絡み合っていきます。
一つの感情について言及すれば、それに絡まっているモノまで引きずり出されそうです。
嬉しさを述べれば悔しさが引きずられ、悲しさを述べれば怒りが引きずり出されるでしょう。
故に、迂闊に口を開く事は出来ません。
◇
「ひよっとして先生は、妾に拘束される事を嫌っておるのか?」
ゾーラ王は物陰にてその一言を聞いた。
何故こんな所に居るかと言えば、部下が花嫁衣装をまとうルト姫を見かけたと報告したからだ。
その部下は謁見の場に居なかった為に大した風もなく感想を述べていたが、聞いたゾーラ王の方は堪ったモノでは無い。
早まるな。
その一念のみでゾーラ王は己の重い身体を動かす。
活発に動く事が無くなった脚の筋肉は、その巨体を支えるのに大層苦労した。
額に汗を流しながら、客人の青年が居るであろう部屋へと辿り着いたゾーラ王は、そこで初めて娘の心を聞く。
そして、自らを売り込む様に言う己の娘に戦慄した。
一体誰だ、このルトを我儘姫などと抜かした奴は。
小一時間前の自分を殴りたい衝動に駆られた。
己の娘はここまでして彼を求めたのだ。
彼の青年の価値は謁見の場にて片鱗を見せていた。
それ以上を娘は見出しているのではないか。
ゾーラ王はそんな事を考えた。
都合の良い存在に成り下がってでも青年の何かを欲していた。
ゾーラ王はその何かを理解できてない己に怒りを募らせる。
何故娘を理解できない、何故私を理解できない。
そして、震えた声でルトへと問う青年の声を聴いて何となく理解が出来た。
この青年は身勝手な心配ではなくルト自身に寄り添いながら心配していたのだと。
外敵が多いから外へ出さなかった、悪影響を受けぬように外界の情報を制限した。
それらが、果たして心配と言えるだろうか。
青年は、様々な事をルトに教えたのだろう。
それこそ親の教えるべき事を。ルトはあんなに魚を食べるのが上手だっただろうか。ルトはあそこまで物解りが良かっただろうか。
故の先生という呼称であろう。ルトにとって、彼の青年は世界の素晴らしさを教える水先案内人だったのだ。
その人柄も良いのだろう。でなければルト姫の提案を利用して王位に付く事は容易かった。切り捨てて去る事も出来た筈だ。
そして、ルトの決断に心を震わせていた。
それだけで、この者には絶大な価値が有った筈だ。
その価値を、己の我儘で切り捨てるのだろうか。娘の初恋である、娘の世界である、心の支えである。
それを切り捨てる事がどうして出来ようか。
やったとして、娘はその後どうなるだろうか。
世を儚んで死ぬだろうか、はたまた復讐として己の父親を殺すだろうか。
解らなかった。
何せ、ゾーラ王は今までルトの心情すら理解しようとしていなかったのだから。
そして、その心内に芽生えたのはこれ以上嫌われたくないという原初的にして解り易く、そして強い思いだった。
それが、ゾーラ王の重い身体を突き動かした。
「話は聞かせてもらった、娘よ」
「っ!? 父上……」
「ゾーラ、王……」
やはり。
それが青年を見てゾーラ王が改めて考えた事だった。
青年は泣いていた。
嗚咽など出さず、静かに己の持つ真紅の眼から涙を流していたのだ。
それを綺麗だと、ゾーラ王は思った。
ならば、娘を信じてみるのもいいかも知れない。そう考えた。
「ルトよ」
「……はい」
「お主の望むままにせい」
「……ちち、うえ?」
何を言われたのか理解できない。
ルトの表情はそんな素っ頓狂なモノだった。
見れば青年も口を開いて驚いている。
「それは、どういう……」
「言葉通りの意味じゃよ。余はルトの心を理解できていなかった。脅威を遠ざける事に全力を注ぐあまり、ルトの心を知らぬままじゃった。……お主は、ルトに寄り添っていたのじゃな」
青年へ向ける視線には羨望が含まれていた。
青年の姿は、本来ならば自分が担当し、そして来る時に娘は離れていく筈だった。
それが、離れる必要のないものとなってしまった。青年は、親では無い故に。
「余に言える事はこれだけじゃ。そもそも、余の娘なのじゃから心配する必要も無かろうにな。すまんの、ルトよ」
「……いえ、ありがとう、ございますっ」
涙交じりの声でルトは言った。
それを聞いてゾーラ王は立ち去る。己がしてやれる事など、殆どないではないか。そう悔しそうに呟きながら。
◇
ゾーラ王が去った部屋に二人は残されていた。
青年の方は未だに事態が呑み込めておらず、珍妙な表情のまま固まっている。
その表情を見て、先程まで交じりに涙を浮かべていたルトが笑った。
親が己を認める言葉を放った事が嬉しく、今まで届かなかった言葉が届いた事への満足感が心の底から笑顔を引き出したのだ。
ルトは、いきなり現れて言葉少なに去って行ったゾーラ王の言葉を深読みしようとする青年に抱き着く。
「る、ルト姫?」
「そんなに難しく考える事ではないのじゃ。ただ、あの人はいつも言葉が足らぬ故、聞く方は苦労する、人の話もろくに聞かぬしのぉ。……じゃが、その父上が好きにしろと、そう口にした。いつも縛り付けるだけであったあの男がじゃ。のう先生。先生にはこれがどれだけ凄い事か解らぬかもしれぬ、けどな? それはとても大きな事なのじゃよ?」
耳元で語りかけるルトの言葉に対して、しかしそれでも青年の表情は困惑の色が強い。
「……貴女の父上に進歩が有ったとして、それで貴女が己を安売りする理由にはならないでしょう」
「何じゃ、先生は自分が安いと思っておったのか? 妾が安売りしていると、そう言いたいのかの?」
「はい。そもそも、私はハイリア人でもなければゾーラ族でもない。貴方達と交わり生きることが出来るかどうかも判然としないのです」
「…………はぁ」
青年の言葉に、ルトは溜息を一つ吐いた。
青年は、ルトが先生と慕う者はどれだけのモノをルトへ与えたのかまるで自覚していないのだ。それがどれだけルトの心へ色を付けたかをまるで解っていないのだ。
その事がルトにはもどかしくて仕方がなかった。
青年は青年で、自信に対する悩みが強くなっていた。
人恋しい。そう思ってきたが、人と実際に接してみれば自分がその者の隣に居て良いのか解らない。己が愛する者を不幸にするのではないか、そんな不安は尽きる事を知らない。
青年には力が有り、それを上回り掌握するだけの知恵も確かに有る。だが、勇気が有るのかと言えば違う。青年は、臆病だった。
「解っておらん、先生は何も解っておらぬようじゃの、先生の癖に。良いか? 先生。妾はな? テクタイトがあの様にほろ甘い味わいを出す事など知らなかったのじゃぞ?」
「……?」
突如語り始めたルトの言葉に、青年は疑問符を浮かべる。
その疑問に答える事無く、ルトの語りが続く。
「サカナの焼き加減だって知らなかった、風呂と言う極楽がある事など想像もしなかった。それを妾に齎したのは、他でもない先生じゃ」
「……それに価値が有るとでも? そんなモノ、私でなくとも知っていれば教えられるではないですか」
「じゃから、先生は化け物じゃろう?」
「……っ」
その言葉に青年が息を詰らせる。
化け物、青年にとってその言葉は拒絶の前触れに等しい。
だが、拒絶の言葉は吐かれない。ルトはただただ優しげな笑みを浮かべるばかりだ。
「ライクライクは基本的になんでも喰らう。衣服や盾を何故か好むが、ゾーラ族の中にも喰われた者はおる。そのライクライクがじゃぞ? 何と妾を助けるではないか。まずその時点で他と違う。この里の誰が、いったいどうやって妾を助けられた? 家出をした妾自身が言うのもアレじゃが、妾が里を出る原因となったのは里の者共じゃ。先生はな? ずぅっと妾の傍に居ったではないか」
抱き締める力を強め、青年の後頭部を撫でながらルトが言う。
「放って置こうと思えば出来た、喰らう事だって容易じゃろうて。だとい言うに、先生は妾の傍に居った。熱乏しい時、風呂で温めてくれた。耳寂しい時、物語を聞かせてくれた。人恋しい時、一緒に眠ってくれた。それはな? 誰も妾にしてくれなかった事なのじゃぞ?」
「いや、それぐらいやれよ!! 何やってんだ、この里の人!?」
青年は驚きと怒りに叫んだ。
王族とはいえ、ルトは幼い子供だ。その心を育むのは人との触れ合いであり、遊びであり、物語であり、体験だ。
ルトの体験は寂しさと退屈しかない。青年は己の行動を幼子にとっては当然だろうと思っており、故にルトが何故己に懐くのかをまるで理解していなかった。
だが、青年はその理由を理解した。
未知だったのだ。ルトにとって、それら世界中に満ち溢れる簡単な娯楽や人の温もりが息衝く物語は全く経験のない事だったのだ。
思考が赤熱化する錯覚を青年は覚える。原動力は無論怒りだ。
誰でも与えられたのだ。少し、顔を突き合わせたらこんな話が有りましてと世間話をする程度でも良かった筈だ。それを出来なかったなどと言わせない。
歯ぎしりが鳴り響く。
幼子が愛を欲しているのに誰も与えなかった。その事実が青年の心をどうしようもなく抉る。
「ふふっ、なんじゃ、そんな素っ頓狂な声も出せるのか?」
「あ、いや、これは……」
「嬉しいぞ、先生。先生の新たな一面を知れた事も、先生が妾の為に怒りを覚えてくれた事も、な」
青年の首筋にその顔を埋め、静かにルトが言う。
「じゃからな、先生。妾は知りたいのじゃ。先生の事も、先生と共に歩む未来の事も」
「ぅ……、ぁ……」
ルトの言葉は、どこまでも青年を欲していた。
それは、己の不定形さに悩む青年にとって希望の光に等しい。誰しもが、誰かに認めてもらう事で己の形を確立する様に。
こんな事は間違っている、と青年は未だに思い考える。
しかしそれでも、ルトが己へ向ける欲求に答えたいという思いが胸の底から湧き上がっていた。
ルトが己の居場所となってくれるのではないか、そう考えてしまう。そして、青年は己のその考えを身勝手な依存と認定する。認定しつつも、その考えを捨てられない。
「……私は、貴女の隣に居ても良いのでしょうか? 貴女を、私の居場所と感じても良いのでしょうか?」
「違うぞ先生。妾は先生の居場所ではない。初めて出会った、先生の腹の中こそが妾達の居場所なのじゃ」
その言葉に、青年は静かに涙を流す。
そして、青年の思いは決まる。金輪際、この小さな姫を悲しませる事だけはすまい、と。
「私で、良いのですか?」
「言うておる、先生が良いと」
「……解りました」
青年はルトを抱き返し、抱え、耳元に口を寄せて囁く。
「私は貴女と共にありましょう。貴女が望むのならハイリアを海に沈めても構わない、落ちる月とて砕きましょう」
「ならんよ、傍に居れ。貴方と共に過ごす時間、それこそが我が望みと知れ」
「……存分に」
「ふふっ、なれば早速やらしい事でもしようではないか?」
青年の返答と共に、ルトは己と青年の額を密着させて言う。
言葉を放つルトの表情は妖艶なモノであり、その曝け出された色気を前に青年は思わず赤面した。
「それは、些か急ぎ過ぎの様な……」
「知らぬよ。そんな事より、先生と触れ合いたい」
「……では、全力で」
「きゃっ」
背中、胸板、その他身体の様々な所を優しく撫でられ誘いの言葉を掛けられた青年は、とても我慢など出来る状態ではなかった。
ベッドにルトを押し倒し、その潤んだ唇へ己の唇を重ね合わせる。
壊れぬよう、割れ物を扱うが如き口付けは、最初の内こそルトも夢心地に堪能していたがやがて物足りなさから動きを見せる。
「!?」
「ふぁらぬお(足らぬよ)」
足りないと告げるルトは、舌を青年の口内へ突き入れより深い所から青年を求めていく。
青年は負けじと侵入者を迎撃し、絡め捕り、支配下へ置こうと反撃に出る。
それに満足げに、楽しげに微笑みながらルトは時に舌を引っ込め己の内へ誘い、時に突き入れ度肝を抜いたりと、愛の遊戯を満喫する。
息をするのも忘れて、二人は互いを啄ばんだ。
暫らくして、二人はどちらから共なく離れた。
上気した顔で微笑み合う二人。先に仕掛けるのは青年の方だった。
「あ……」
短く、ルトが鳴く。
覆い被さった青年はルトの唇に短く口付けを落とすとそのまま舌を這わながら下へ移動し、首筋を伝い、そして胸へたどり着くとその平原を蹂躙し始めた。
「あ、んぅ、せんせい、まるで乳飲み子のようではないか。恋しいのかの?」
「恋しくもなりますとも。貴女の平原は寝そべれと、或いは駆け回れと言わんばかりにこちらを誘惑している」
「ふふっ、ん、言ってる事が小難しい、が、あ、やっん、やってる、事が、赤ん坊、の様じゃぞ? ひあっ」
「御嫌いで?」
「いや、愛らしくての」
「…………」
「んにゃ!? ちょ、こりゃ、なぜさきっぽばかりを、あ、ああっ、やめっ、激しっ、いぃ!?」
愛らしいと言われたのが気に食わないのか、青年はルトの敏感な突起を重点的に責めはじめる。
甘噛みし、勢い良く吸い付き、舐り、堪能する。
堪らないルトは青年の頭を掻き抱き、嵐の海原を彷彿とさせる責めに耐える。溺れる者が丸太にしがみ付く様に、快楽の大波を渡っていく。
しかし何事にも限界はあり、
「ああっ、むりっ、りゃめ、あ、あああっ!?」
ルトはその幼さもあり呆気なく絶頂へと達する。秘所より、達した際の分泌液が溢れ出す。その感触にルトは頬の赤さを濃くする。
しかし、青年の猛攻は止まらない。
むしろこれからが本番だ、そう言う様に左腕でルトの背中を抱き、右手でルトの太腿を摩る。
引き出された快楽により敏感になったルトは、その刺激に大きく太腿を震わせた。
「せ、せんせい?」
「…………行きますよ?」
若干の恐怖に口元を引き攣らせながら青年を呼ぶルト。しかし青年は容赦などするつもりはない。眼の前の女を屈服させようとその手を動かし始める。
二度三度と太腿の内側を撫で、そして秘所へそのてを運ぶと、綺麗に整った一本筋を指で撫でた。
「にゃひっ!?」
甲高い声を発するルトに少し機嫌を良くしながら、青年はゆっくりとその裂け目をなぞる。
時に押し込む様に、時に揺らす様に。快楽を享受する者を飽きさせぬようにと気遣いながら、様々な刺激を教え込んでいく。
「あぅ、んぅ。せんせい、これっ、やじゃ、何か、恥ずかしい……」
「恥ずかしがる事は有りませんよ? ルト姫が快楽に震える際の表情はとても愛らしく見ていて飽きない」
「!? み、見るでないわ!!」
青年の言葉に、ルトは熱を帯びた己の顔を両手覆い隠す。
それを見た青年は、悪戯を思い付いたのか口の端を釣り上げて笑う。
「見れないのですか、ならば仕方がない。表情ではなく、声を楽しむ事としましょう」
呟き、青年は己の指を秘所の内側へ挿入した。
「う、ぁ、あ?」
体験した事のない刺激に、ルトは覚束ない声を発する。
青年の指はルトの膜の隙間を通り、その性器の内側の形状を確かめる様になぞる。
膣内の襞を、指が掻き分け押し潰す。その感触がルトの性感を否応なく高める。
「あ、ああ、んん、うち、がわ、がっ」
「まだまだ序の口ですよ?」
分泌される愛液と共に快楽まで掻き出しているのではないか。ルトは己の下腹部を襲う快楽の嵐にそんな事を考えた。
己の意図しない所で体全体が打ち震える。
入口を刺激する事はあれど、その内側を刺激される事はなかった。
その感じ方に耐性が出来ていないルトは、快楽で赤く染まる顔を隠すしか為す術がない。
「あっ、んああっ、や、ひっ、せ、せんせぇ、まって、だめぇ」
「では、そのお顔を拝見致しましょうか」
顔を隠す両腕。
青年はその肘の隙間へ己の頭を割り込ませると、そのまま無理矢理にこじ開けた。
まるで獣が頭を擦りつけてスキンシップを図る時の様な挙動で腕を排除した青年はルトの顔を見る。
定まらない視線と蕩けた口元。快楽によって茹で上がった少女の貌がそこには有った。
それを見て、青年の中で白い欲望が過熱する。
己の快楽に喘ぐ表情を見られ羞恥の余り固まってしまったルトの陰核を、青年は親指で押し潰した。
「あぃっ、ひぁあああああああっ!!」
押し寄せる快楽に、ルトは眼を閉じ口を大きく広げて叫ぶ。
そうする事によって絶頂に伴う巨大な快楽の波を受け流そうとしたのだ。
だが、青年は動きを止めない。もっと鳴け、そう言わんばかりに陰核を左右に揺らしルトへ刺激を与え続ける。
「んああああっ!? せ、せんせっ、もう、ムリ、やめぇぇぇぇ!?」
それから暫く、部屋の中にルトの嬌声が響き渡った。
◇
息も絶え絶えにベッドで寝そべるルト。
青年はその頭を優しく撫でていた。
これまでの苛烈な責めが嘘の様な、慈しみに満ちた撫で方だ。
「ん、んう」
その掌へ、ルトは自ら己の頭を擦り付けに行く。
猫みたいだ、そんな感想を抱きながら青年は静かに笑った。
「さて、これで具合も頃合いだろう。ルト姫、宜しいかな?」
「ァ……」
青年が己の男性器をルトに見せる。
それを見たルトは、恥ずかしげに視線を泳がせながらも頷き脚を開く。
その背徳的な光景に青年の興奮は鰻登りだ。
そして青年は、有ろう事か足が開かれた事で晒されたその秘所へ齧り付いた。
「にゃああああっ!? 何しとるんじゃ先生っ!?」
「いえ、最終チェックと言うか、頂きますと言うか」
「何言って、んにゃっ!? やめ、きたない、から、なめるな、なめるなぁっ」
「はっはっはっ、ルト姫に汚い場所? 冗談も休み休み言われた方が宜しい」
「~~~~ッ、ばかばかばかっ、せんせいのばっ、ひあっ!? だめ、よさぬかぁ!?」
青年は舌先にてルトの入口を探索する。
しっかりと解れている事を確認し、それだけではなんだと考えたのか、秘所全体を口で囲い舌で舐め回す。
唾液に濡れた舌が己の最も敏感と言える箇所を這い回る感触に、ルトは背筋をざわつかせながら快感を感じ、そして達した。
「あっ、はっ、あ、ぁぁ」
「お疲れ様です」
「う、ううー」
恨めしげに睨むルトを見て、それを愛らしいと思いながら青年はその秘所へ己の逸物を宛がう。
「あ……」
「それでは、宜しいですね?」
「うむ、来てたもれ?」
その言葉を聞き届けると同時に、青年はゆっくりと挿入を開始した。
解された膜の間を青年の硬化した逸物が通過する。
しかし、やはりサイズが違うためか膜が裂け微量の出血により秘所が血で滲んだ。
「いっ」
「痛いですか?」
「うむ、痛い。じゃから、抱きしめい。ほれ」
「畏まりましたとも」
「ん」
痛みに顔を顰めるルトを優しく抱きしめその頭を撫でる。
数十秒ほどそうしていただろうか。
時間の経過と共にルトが自ら腰を動かし始める。
どことなく落ち着かない様子で行うそれは、青年の逸物へ緩やかな刺激を与えてきた。
「もう、宜しいので?」
「うむ、動いて良いぞ?」
「では……」
「ひゃぅん!? あ、んっ」
ゆっくりと、内部構造を確かめるような動きで以て青年はルトの内側を突く。
最初に短い悲鳴を上げたルトはその快感が気に入ったのか、眼を閉じその感覚を確かめながら吐息を漏らした。
低速にて、ルトの内側で発生する快楽が蠢く。快楽は熱へ繋がり、顔だけではなくルトの身体全体がほんのりと赤く染まっていく。
ルトの眼は潤んでいた。
己が望んで止まない異性が己の内側に入り込み、より一層その距離を近付けた事に僅かながらの感動を覚えているからか。はたまた快楽により感情の制御が効かなくなっているからか。
入り込んだソレを逃すまいとルトの膣内が収縮する。
より一層密着した襞が青年の逸物に抉られ強烈な快楽をルトの脳へ伝播させた。
「ふぁ、あにゅ、ん、んぅ」
「如何ですか?」
「よい、よいぞ、せんせぇ。……ん、じゃが、せんせいの方は、あ、我慢、しておらぬか?」
青年は己の内心を言い当てられ額から汗を流した。
ルトの内側に侵入した際、青年が感じたのは脆いという印象だ。華奢な身体、滑らかな肌、そして小規模な女性器は青年の思考に不安を生んだ。
己が欲望のままに動いたのなら、この少女は壊れてしまわないだろうか。
その考えが青年の動きを緩やかなものとしている。
それがルトにとって丁度良い塩梅になったのは何とも皮肉な話だ。
「い、いえ、我慢など……」
「しとるじゃろ? まったく、気にせんでも良い。そなたの欲を、全て受け入れて見せようではないか」
「しかし……」
「くどいぞ。それとも、気に召さぬか? 妾の中は」
その言葉を聞いた瞬間、青年の中で理性と本能がシフトした。
情事の最中で互いが互いを思いやり高みへ至れ無いなど滑稽だ。告げる本能は只管荒々しい思考を編み出し垂れ流す。
青年の手が、ルトの細い腰を掴んだ。大きな両手で掴まれたルトは少量の空気を口から漏らした。
そして、青年が勢い良く己の逸物をルトの中へ突き入れた。
「い、あ、あぁっ!?」
奥を抉られたルトが嬌声を漏らす。
そのルトの様子を無視する様に青年はその内側を何度も抉る。己が欲望により、その内側を堪能する。振られる腰の速度は先程までの五倍か六倍か。
突かれる側のルトは堪ったモノではない。それは、紛れもなく侵略だ。相方の雌を己が与える快楽にて染め上げようと企む原初的な行軍だ。
往復する逸物にルトの認識と肉体が追い付かない。叩きつけられる快楽に、ルトは己が今どんな状態なのかを把握できず、往復する逸物の速さに、膣内の襞は収縮したままである。
「っ、っっ、っあ、かぁ、あ」
水中にて酸素不足から口を忙しなく開閉させる金魚の様に、快楽によってルトは呼吸が出来ずにいる。
その呼吸が戻り、今まで上げられなかった悲鳴を力の限り上げた。
「ひ、あ、ああああああっ、せんせい、せんせぇ!! 妾、わらわの中っ、けずれてぇぇぇっ!? びくって、ふるえ、とまらにゃ!?」
「機嫌、良さそうじゃないかっ」
「っ!?」
ルトが息を飲んだ。
忘我の果てから舞い戻ったルトの眼に映る青年の表情は、愛しさと嗜虐心が綯交ぜになった笑顔だった。
その笑顔を認識した途端、これまで類を見ない程の勢いでルトの性感が膨れ上がる。例えるならば爆発だ。ルトの中の火薬に青年の嗜虐的な笑顔が火を付ける。着火された火薬は即座に反応し瞬く間に周囲へその熱を伝播させた。
「~~~~~~~~ッッ!?!?」
ルトが絶頂した。
膣はより力強く収縮し、青年の逸物を締め上げる。
それは青年の性感をどこまでも高める。が、絶頂には至らない。故に止まらない。達したルトをその更に先へ引き摺る様に、己の絶頂へと向けて青年は腰を振る。
「うぅうううううう、あああっ、やめ、せんせっ、だめ、これいじょっ、むりっ!? や、やあああああああああ!!」
「我慢をっ、もう少し、あと少しでっ」
「せんせっ、せんせい、せんせぇ!!」
両腕を青年の胴に回し、両足を青年の腰に回し、その肌を密着させながらルトはしがみ付き耐える。
突き上げられる快感に口の端から涎が毀れた。それが青年の胸板を濡らす。
その様子を見て取ったルトは青年の胸板へ齧り付いた。そうでもしないと、己を襲う快楽をどうも出来なかったのだ。
「ぐっ、ああっ!?」
青年が唸る。
下腹部にて渦巻いていた白熱が、ルトの内部へ放出されようとしているのだ。
青年は己にしがみ付くルトを抱き寄せ逸物を最奥へと付き込む。幼い子宮を押し込む様に突き上げ、塗りつぶそうと揺らす。
「い、いきますよ、ルトッ」
「っ!? あ、があ、あああああっ」
昂ぶり余裕の無かった青年が思わず行った呼び捨てがルトの心の最奥を貫いた。
その瞬間の、青年に所有されたという錯覚がルトをどうしようもない高みへと誘ったのだ。
青年が絶頂に至る。
逸物の先から放出される液体がルトの子宮口を叩き容赦なく染め上げた。
「~~~~ッ!!」
その熱に、ルトは再び青年の胸板を被り快楽を堪える。
青年の腕の中、放出される時間は二人にとって長かった。
やがて放出が終わり、二人の腕から力が抜ける。
どちらから共なく視線を合わせた二人は、求め合う様に互いを啄ばんだ。