対女性用生物兵器『E.O.W』 実験データ記録 作:ガルロス
「う、うぅ……ここ、は……!?」
尋常ではない疲労感を感じながら意識を覚醒させた私は、ベッドの上で体を起き上がらせて首を振った。
体の節々が軋むように痛む。股間と胸が、ジンジンと甘く切ない疼きを響かせている。
ああ、間違いない……さっきのあれは、悪夢なんかじゃなかった。私は現実にゾンビたちに犯され、慰み物となったのだ。
であるならば、どうして私はここにいるのだろうか? 夥しい量の精液を浴びた体もすっかり綺麗になっており、苛烈なレイプを受けた痕跡はほぼほぼ残っていない。
何者かが私をここに連れてきて、手当をしてくれたと考えるべきだが……その人物の姿は何処にも見受けられなかった。
「ん? これは……!」
簡素で粗末な木製の部屋を見回した私は、ベッドの横にあるサイドボードにファイルが置かれていることに気が付く。
それを手に取り、表紙を捲ってみれば、そこには私をここに連れてきた何者からのメッセージが書かれていた。
『親愛なるジル・バレンタイン殿へ』
『我々からの最初の贈り物はお気に召してくれたかな? 気を失うまでセックスに没頭したのだから、その答えは聞くまでもないと思うがね』
私を嘲るような、悪趣味なその文章に悔しさを覚える。
やはり、私をラクーンシティから連れ去った何者かの手引きによって、先ほどのゾンビはけしかけられたようだ。
その目的まではまだ想像がつかないが、手掛かりがこのメッセージの中に隠されているかもしれないと考えた私は、そのままファイルを読み進める。
『さて、我々が君を地獄と化したラクーンシティから救い出したのは、何も慈善事業のためではない。君には、我々アンブレラが開発した新型生物兵器の実験台となってもらうつもりだ。先ほど君が交戦……失礼、
「新型生物兵器の実験台ですって……!?」
いきなり、黒幕の狙いどころか、正体にまで辿り着いてしまった。
やはり敵はアンブレラ……ラクーンシティ消滅のきっかけを作った、悪魔の製薬企業だったのだ。
彼らが作ったウィルスに感染した人間は、死した後に理性を失ったゾンビと化す。そして、そのウィルスを用いた生物兵器をアンブレラが開発していることを察知した私は、仲間たちと共にその陰謀に立ち向かおうとしていたのだが、その前にラクーンシティでのウィルス漏洩事故が起き、私はそれに巻き込まれてしまった。
そして、アンブレラはラクーンシティからの脱出に失敗した私を拉致し、その死を偽装しつつ生物兵器の実験台として選んだのであろう。
都合の悪い事実を知る人間を表舞台から抹消しつつ、自社の製品のテスターも確保出来る。一石二鳥の良い案ではないか。
しかし、私をそのまま生かしておくというのは致命的なミスだ。必ずここから脱出して、この借りを返してやる。
と、意気込んだ私の思考を読んでいたのか、次のページには私への反抗防止の策が記載されてあった。
『ああ、一応言っておくが、ここから逃げようだなんて馬鹿な考えは捨てておくことだ。君がぐっすりと眠っている間に、君に反抗防止の首輪を装着させてもらった。主な目的は君のバイタルチェックではあるが、人間を動けなくするくらいの電気ショックを流すことは出来るし、鎮静剤を打って意識を混濁させることも出来る。この機能の発動には我々が関与する必要は無い。君が、我々に反抗しようとした瞬間、その意思を察知した首輪が勝手に反逆防止の措置を取ってくれるからね』
ちっ、と舌打ちを鳴らした私が自身の首を触れてみれば、そこには確かにぴったりとフィットする銀色の機械製の首輪がセットされている。
あまりにも違和感のないつけ心地だったから気が付かなかったが、自分がアンブレラの飼い犬になったような気分がして、意識するととても嫌な気分になってしまう。
『それに、聡明な君ならば当然気が付いているだろうが、新型ウィルスに感染したゾンビたちの精液を浴びる程摂取した君もまた、そのウィルスに感染しているのだよ。どうにかして自殺を図ろうとすれば、体内で眠っているウィルスが一気に活性化してゾンビの仲間入りだ。我々はそれでも構わないが、そんな無残な末路を迎えたくないのであれば、素直に従った方が君のためだと思うがね』
そこまでの注釈を読んだ私は、自分にはこの状況をどうにかする手立てがないことを悟った。
反抗も自殺も封じられたとあれば、外部からの救出を待つしかない。仲間たちが私が生きていることを知り、救出に来てくれる日まで耐え忍ぶしかないのだ。
しかし……あの大惨事に巻き込まれた私が生きているだなんて、誰が信じられる?
全ての証拠はミサイルが焼き尽くしてしまった。私が生存している証など、この世の何処にも残っていない。私自身が、どうにかして仲間に伝えなければ誰も知りようがないのだ。
つまり、詰み。本物の奇跡が起きない限り、私はここから逃げられない。
そんな絶望的な状況に放り込まれつつも、私は決して諦めるつもりはなかった。最後の最後まで抗って、何としてでもチャンスを待つ。その覚悟を固めた私の前に、それすらも嘲笑う黒幕からのプレゼントが贈られる。
『さあ、説明は以上だ。休息が済んだら、この部屋から出て次のステージに向かえ。それと、先ほどの君の痴態は非常にそそるものだったよ。君もいい表情をしていたから、スナップ写真を贈らせてもらおう。それを見て、自分が如何に浅ましい姿であったかを理解してくれ』
「っっ……!!」
ファイルの最終ページに挟まれていた数枚の写真を見た私は、愕然とした思いに眼を見開く。
そこにはゾンビたちに犯され、意識を朦朧とさせた私が、だらしのない表情で快楽に喘いでいる姿が写し出されていた。
体の至る所に精液を付着させ、股間にゾンビたちの肉棒を突き入れられ、乳首もクリトリスも痛いほどに勃起させた私が、無様なアヘ顔を浮かべて快感に酔い痴れている。
これが自分だなんて、到底信じたくはない。だが、そこにあるのは間違いなく自分自身、ジル・バレンタインの姿だ。
「クソッ! この変態共めっ!!」
悔しい、悔しい、悔しい……!
私は今、黒幕たちの掌の上で踊らされ、玩具にされている。実験体としてたっぷりと利用され、彼らを楽しませるための駒に成り下がっているのだ。
今も何処かで私の反応を伺っているであろうそいつらに思い切り悪態をついても、屈辱感が込み上げてくるだけ……結局、自分は何も出来ないという思いだけが沸き上がり、無力感に涙が溢れ出てくる。
「見ていなさい……絶対に、ここから脱出してやる。あんたたちに目にもの見せてやる!!」
ただ一つ、私に出来るのは、せいぜい強がって反抗的な言葉を口にすることくらいだ。
それをやめてしまったら心が完全に折れてしまう。細やかな最後の抵抗だけを頼りに、私はベッドから立ち上がり、粗末な小屋に取り付けられているドアを見やる。
「上等よ。行ってやろうじゃない……! 次のステージとやらに、挑戦してやるわよ!」
素裸で、救援も望めず、武器もない。絶望的な状況だが、前に進む気概だけは忘れてはならない。
私を嘲笑っている奴らの鼻を明かすために、この先のステージとやらをクリアすること、それが今の私に出来る最大級の反抗だ。
そう思い直し、手に入れたファイルを近くにあったアイテムボックスに叩きこんだ後、私は小屋の外に出る。
この先に何が待っていようとも、私は負けない。絶対に乗り越えてみせる。決意を新たに、私は荒廃した街を歩む。
……だが、この時の私は気が付かないふりをしていた。自分の中に、あってはならない感情が芽生えつつあることを。
ゾンビに犯される自分の姿を見て、その時の感覚を思い返した時、私の体は甘い震えと共に熱を帯びたのだ。
それは紛れもなく興奮であった。雌の快楽を暴力的なまでに叩きつけられた経験を思い返した私は、怪物に犯される自分の姿を想像して官能に耽ってしまったのである。
それは、ほんの一瞬のことであった。だから、見ないふりが出来た。気が付いていないふりが出来た。
しかし、そんな私の心身の変化を首輪を通じて把握している黒幕たちには全てがお見通しであり、私の情けない演技など何の意味もなかったのである。
そして何より、この先に待ち受けている第二の刺客によって、自分の浅ましく醜いその欲望を剥き出しにされることとなることを、この時の私は知る由もなかった。
1998年10月6日 記録者 ジル・バレンタイン