男の子って銀髪ロングヘアー紅目古傷有り安産型ロリが好きなんでしょ?(次郎系)
えちち回は次なので待ってて
──トール・サッズの朝は早い。
天気の変化で疼く古傷を掻きながら、布団をめくって起き上がる。しかし、妙な頭の重さと同時に、ある違和感が浮かび上がった。先ず、古傷を掻いた指が細くて短い。
「……どーなってんだこりゃ」
そして、起きてすぐ目の前にある机に備わった姿見に、自分ではなく一人の美少女が写っていたからだ。腰まである銀髪はカーテンの隙間から差し込む朝日を反射して煌めき、深紅の瞳は鏡越しに吸い込まれそうな魅力がある。
──だが、それら全ての魅力を差し引くだけの要素が顔や体のあちこちに刻まれている。刃物で引き裂かれたような歪な古傷が左眉から左の頬までを縦一直線に駆け抜け、目と目の間と鼻の上を通って、右の頬までに斜めの切り傷があった。
こんな傷がある人間を、二人と見たことは無い。つまり、これこそが、鏡の向こうにいる
「俺、昨日まで男だったよな……?」
舌っ足らずの声は鈴を転がしたように耳に心地好く、本人である自分から出た声のせいで、ますます寝起きの頭が混乱を極めた。
「……いや、まて、やべえ。あいつが起きる頃じゃねえか……誤魔化せねえだろ、これ」
体を見下ろして、男物の衣服を着た美少女のが視界に入る。胸には僅かな膨らみがあり、視線は徐々に下に向かう。
──そうつまり、凹凸のうち
小さな体に相応の大きさの心音がトクトクと早鐘を打つ。ふに、と触って────無かった。そもそも感覚からして無いのが分かっていただけに、改めて確認した事の精神的ダメージは大きい。
「──嘘だろぉ……っ」
女になったことよりも、男の象徴を失った事の方が辛かった。なにせ
──と、不意に部屋と廊下を隔てる扉を叩く音がした。布団を頭から被って尻を隠せていないトールはびくりと体を震わせる。友人兼仕事仲間が起きてきて、自分の部屋を訪ねてきたのだ。
「トール? 起きてる?」
「だ、ばっ……入んな!」
「…………女の子……?」
ハッとして口を押さえるが、時既に遅し。体が少女なら、声だって女だ。扉の奥で「まさか女連れ……?」と呟いている友人にどう言い訳するべきかと考えるトールは、無遠慮に開け放たれた扉を見ていることしか出来ない。
「トール! 明日は仕事だからさっさと寝ろって言っただ、ろ……」
「……よ、よう」
怒り一色の友人──ロイドは、丈の合っていない男物の上着を着て、手を上げて挨拶する少女を見て怒りが霧散する。
腰まである銀髪も、吸い込まれそうな深紅の瞳も、いつの間にかズボンが脱げ落ちて露出している艶かしいおみ足も視界に入ったが、その全てが印象には残らなかった。
それ以上に──顔に刻まれた美顔を台無しにする古傷を見て、ロイドは眼前の少女が誰なのかを認識した。驚いた様子で、確かめるように言う。
「もしかして、君が、トール?」
「いや、なんで分かんだよ」
「そりゃあ、そんな見てるだけで夢に出そうな古傷を顔に作ってる奴なんて君くらいじゃないか。なんで女の子になってるの?」
──俺が知りてぇよ!! という怒号が、ギルドの二階に増築された宿屋の一室から響いた。
──くすくす、と。上品な笑い声が一回の酒場近くに置かれたテーブルから聞こえてきた。紐で無理やり腰回りを縛ってズボンを固定したトールを見て、鍔の広い三角帽子から水色の髪を垂らした女性が漏らした声である。
「……んで、なんか分かったのかよ」
「ぜーんぜん? 『何も分からない』という事だけか判明したところよ」
「使えねー。
指先でカールした髪を弄る女性──レヴェナント・エリザベス・アルタイルは、魔女と呼ばれムッとした表情を向ける。
「魔女ならなんでも知ってるなんて、そんなわけないでしょ。そもそも私の専売特許は氷魔法と空間干渉。この手の問題は専門外よ」
そう言って、フォークで腸詰めを刺して口に持って行く。パリ、と腸詰めが割れる音がして、濃厚な肉汁が口内に溢れた。
「レヴィさん、呪いの線とかはどうですか? トールがこんな可愛くなっちゃう呪いなんて有ったりしません?」
「誰が可愛いんだ血液沸騰させんぞゴラ」
「トールちゃんの体にはどこにも不調が無かったわね。逆に言うと『こんなことになったのに不自然なくらい健康体』な訳だけど」
飲み込んで続けたレヴィにちゃん付けすんなと言いながら、トールは手のひらに電気を迸らせる。すると、トールの口から可愛らしい疑問系の声が漏れて電気が消えた。
「……んぉ?」
「どうした?」
「いや、あれ。こんなスムーズに魔力を属性に変換できたっけ、って」
「ああ、今の体が女の子だからよ。男と違って筋肉とか皮膚が固くないから、体外に比較的だけど魔力を放出しやすいの」
「へぇ、良かったねトール」
「全くよかねーけどな」
はぁとため息をついて、苛立ちながら懐からタバコの箱を取り出す。
指先の電気で火を付けようとした瞬間、横から伸びたロイドの手に奪われる。
「……おい」
「折角だから禁煙しなよ」
「チッ」
眉を潜めて舌打ちをする。そんな二人の顔を見て、レヴィは再度小さく笑う。
「それじゃあ、私はそろそろ行くけれど、一つだけ忠告しておくわね」
「……んだよ」
「私の知り合いの魔女、何十年歳を重ねてもイタズラ好きなの。なんでかわかる?」
「えーっと……性根が腐ってるから?」
「親のしつけがなってねぇんだろ」
「ロイドくんの方が酷い回答なのはなんで? ──正解は見た目が子供だからよ。
トールちゃんにも言えるけど、心の年齢ってね、見た目に引っ張られるの」
ちらりと足を見て、レヴィは続けた。
「ほら、もう女の子っぽさが出てる」
まるで女のように膝をくっ付けて足を揃えて椅子に座っているトールは、
「は、うお──!?」
「気を付けなさいな。そのうち、身も心も見た目相応の女の子になっちゃうかも」
「じょ、冗談じゃねえ……誰が女になんかなるか! 俺は男だ馬鹿野郎!」
「おほほほほほ」
「なに笑ってんだ、よォ!」
トールは骨付き肉の食べ終えた骨を咄嗟に投げる。だが、立ち上がり出入口の扉に歩いていったレヴィは、突然周囲に現れた黒い枠組みに囲まれると、回転した枠組みの裏側にするりと姿を消した。
「……相変わらず凄い精度の力だなぁ」
「逃げやがったあのクソババア……!」
その場から刹那の内に消えたレヴィを狙ったが外れた骨はカラカラと床を滑る。ふと、よし! と言って、立ち上がったロイドは肩で息をして分かりやすく怒っているトールに言った。
「服、買おうか!」
「なんで?」
「だって何時までも男だったときの服を着るわけにはいかないでしょ、魔物退治にそんなブカブカの格好で出る気?」
つい寝る前までに着ていた服と、ずれる為に紐で縛ったズボン。こんなものを着続けていたら、いずれ大変なことになるだろう。
「……ぐ、ぬぬぬ」
「ほら、外行くよ。西区域に服屋があった筈だし、体格に合わせた下着も買わないと」
「──すげー嫌なんだが」
げんなりとした顔で言い放つ。食事の料金を払って席を立ったロイドのあとを追い掛けて小走りしたトールは、躓きそうになってロイドの腰辺りに抱きつく形で止まった。
「ぷぎゅ」
「……大丈夫?」
手、繋ごっか。そんなあまりにも屈辱的な優しい声色に、トールは怒りと羞恥で顔を真っ赤にしながら頷いた。その左手を包むロイドの右手に、言い様の無い安心感を覚えながら。
・魔力
血管の中を血液と同じように流れる未知のエネルギー。この世界の人間は『魔力を持つことが当然である』ため、血液と一緒に血管内を流れる魔力の存在に疑問を持つものは居ない。
・属性
個々人の血管の太さ、長さ、神経の形そのもので変わる『魔力の変換先』の総称。『魔法とは自然現象の再現である』という前提から、基本的に地水火風のいずれかにしか変換できない。ちなみにトールの雷属性はかなり特殊で、他の使い手は5人と居ない。何故なら体内を電気が駆け巡って無事な人間など先ず居ないからだ。
・魔女
なにかしらの切っ掛けで人体が過剰に魔力を生産した際、パンクすることを恐れた防衛本能から肉体を進化させた生命体。亜人種のエルフや獣人に近い。進化の原因である膨大な魔力が要因でかなりの長命で、尚且つ思考回路や倫理観は人間から大きくかけ離れて行く。
余談だが、空間干渉による別座標への瞬間移動や他者への強制移動は魔法ではなくこの魔女の固有能力である。