──トク、トク、と規則正しいテンポで聞こえてくる心音が心地好く、ロイドはぼんやりとした思考と共に目を覚ます。
まぶたを開いた眼前には、色白の肌が。
そして引き裂かれたような幾つもの古傷と、等間隔に桃色が二つ。
折角買ったネグリジェを精液でドロドロにされ、結局紐のパンツだけを履いて眠ったトールが、自分の頭を抱き締めて眠っていたのだ。
「…………っ」
呼吸の度に、トールから発せられる甘い匂いが鼻腔にダイレクトで届く。
花の匂いは服からの移り香で、ハチミツを混ぜたミルクのような香りはトール本人から。
このまま二度寝出来そうなくらいに、頭の奥がくらくらする。
しかしそれ以上に、ロイドの視線は僅かに顔を上げた先にある二つの桃色に注がれる。自分が悪いとはいえ、散々弄んだ挙げ句愚息に電撃を浴びせてきたのだ。逆恨みに近いが、少しくらいは良いのではないか? そう考えて、顔を近付け──
「昨日の今日で懲りてねえなお前」
「…………おはようございます」
「おはよう変態野郎。寝込みにちんこおっ立てた次は元野郎のおっぱい狙いか、お盛んだな」
見上げた先には、桃色の乳首は無く、代わりに深紅の瞳が見下ろしていた。冷や汗を垂らして挨拶し、辛辣な言葉を浴びせかけられる。
じーっとロイドの顔を見下ろしているトールは、目線を斜め上にずらして──聖母のようにふにゃりと笑って頭を胸元に抱き寄せた。
「っ、ぁ、な──っ!?」
「ったく、ロイドくんはそんなにママのおっぱいちゅーちゅーしたかったのかな~?」
甘い匂い。血が集まって膨らむ股間。ミルクの匂い。囁く声。顔に当たるコリコリした感触の小粒。太ももに挟まるズボンの一部。一瞬で欲情したロイドは、顔を赤くしながら頷いた。
「……へっ、バーカ。俺のおっぱいは安くねーんだよ。井戸水被って目ぇ覚ましてこい。今日は俺の服の代金分は稼がねぇとな」
ぺちんと手の甲が顔を叩く。欲情とは違う、叩かれて赤くなった顔を押さえて起き上がるロイドは、先に起きてベッドを降りたトールが着替えを昨日の袋から取り出すのを見る。
「戦う用のは無骨だから助かるぜ。なんだよ普段着のヒラヒラした感じは。何がスカートだよ舐めてんのか……ったくよぉ」
等と呟きながら着替えを終わらせたトールは、ベッドの上に座りボーッとしているロイドの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「昨日は……まあその、悪かったな。俺もちょっと調子に乗ってたわ」
「いや、いいよ。先に手を出したのは僕だし」
「お前が悪いのは当然なんだよクソボケ。でも……あー……なんだ?」
サラサラの髪を掻いて、お椀型の形が整った乳房を左右から手で寄せて言う。
「頑張ったらあとで吸わせてやるよ」
「めっちゃ頑張る」
「……嘘に決まってんだろ。顔洗ってこい」
刹那の内にシャキッとした目の前の男に呆れながら、立ち上がったロイドの尻を叩いて行動を急かす。女になって二日目の朝を、トールは気味が悪い程にすんなりと受け入れていた。
「……あいつの精液まみれの寝間着、どうやって洗えばいいんだよ……」
──こっそり井戸の水で寝間着を洗い、トールとロイドは朝食を胃に流し込んでいた。
「この体で剣は振れねえし、レヴィの言うとおり本格的に魔法使い名乗るべきだよなぁ」
「トールは元々剣の腕からっきしだったでしょ。振っても当たらないからって、結局最後は魔法しか使わないじゃんか」
「うっせ」
ぬるくなったスープを飲み干して、口内のパンをふやかして飲み込む。
「じゃ、リハビリと行くかぁ。金欲しいし魔物ぶち殺しに行くぞ」
「大丈夫なの?」
「やるしかねえだろ」
楽観視しているわけではない。寧ろ、この体になってからの初めての傷が出来る可能性すらある。男から女になるというのは、体格から力まで、何もかもが切り替わることを示している。
『男だから』となけなしのプライドから慣れない剣を振り回しては失敗していた以上、いっそのこと魔法に専念できる今の方が自分に合っているのかもしれ────いやちげえよボケ、受け入れんな。と思考を切り替える。
「今やるべきは仕事して金稼ぎつつ男に戻る方法模索して解決する──だ。安いボロ家で良いから家を買うっつーのはまた今度の話になっちまうが、まあこれは後回しでいい。男女で家を買うって言うと違う意味に聞こえるしな」
「あははは」
「なに笑ってんだ」
楽観視しているのは、トールではなくロイドだろう。他人事とはいえもう少し真面目にやれと思うのも無理はない。
「──楽しそうだなぁ二人とも」
「……おん?」
「あ、オズワルドさん」
不意に聞こえてきた声に同時に振り返ると、その先に一人の青年が立っていた。
燃えるような赤毛を後ろで束ねた髪を獅子の尾のように揺らし、ロイドにオズワルドと呼ばれて快活そうに笑う。
「ようロイド、そっちのツレは誰だ?」
「俺だよ俺。トールだ」
「……へっへ……マジ?」
「信じられないだろうけど本当だよ」
冗談めかして聞いてきたオズワルドは、頬をひくつかせて聞いてくる。
「……レヴィから聞いてはいたが……マジだったのか、トールがガキに──しかも女になってるなんてなぁ」
銀髪の天辺を平手でペチペチと叩くように撫でるオズワルド。いてぇよと言いながら、トールは体に一瞬だけ電気を纏って威嚇する。
「それに関しちゃ俺も疑問に思ってるわ」
「治せねえのか?」
「知らねー」
「そもそも病気とかなのかな」
「さぁ?」
三人で首を傾げて、うんうんと唸る。結局「まあいいかぁ」と結論付け、オズワルドが口を開いた。
「んで、女になってなんか変わったこととかあんのかぁ? ションベンとか座ってやんのか?」
「あー……まあ、そうだな。便所行くたび辛くなるぜ? 未使用の息子が消息不明なんだからなぁ」
「そりゃつれぇわ……」
「なんてアホな会話なんだ」
『ガキみてえな見た目の友人に欲情してたのは誰だよ』と言わないだけ、トールは冷静だった。
そんな会話をしている男子三人のもとに、一人の少女が向かってくる。
「オズくん、オズくん」
「ん? ……どしたぁ、姫様よ」
「その呼び方きらいよ」
輝くような金の髪を揺らす少女は、オズワルドに姫様と呼ばれて膨れっ面を晒す。アダ名なのかはたまた──と考えるトールとロイドを見ると、少女が疑問符を浮かべた顔で問う。
「オズくんのお友達?」
「そうそう、トールとロイドだ」
「こんにちは」
「おーっす」
ロイドを一瞥してからトールをちらりと見た少女は、そのままオズワルドに視線を移そうとしてぎょっとした顔でトールに向き直る。
眉をひそめて小さな口を開閉したのち、慈しむような優しい眼差しで言った。
「……大変ね。トール……ちゃん?」
「は?」
なに言ってんだと聞き返す前にオズワルドの袖を引いた少女が声を上げる。
「オズくん、レヴィちゃんとアダムくんとゲンくんが待ってるよ。遅いって怒ってる」
「んげ、マジか……わーったよ。そうらしいから、俺ももう行くわ」
背中を押されてギルドから出るオズワルドが後ろ手に振って二人に挨拶を済ます。少女は一度振り返ってから、遅れて自己紹介をした。
「わたし、イーディス・ヴェルダッド。イヴって呼んで。じゃあまたね」
「おう、じゃーな」
「……嵐みたいな人たちだったね」
「──そんじゃ、俺らも仕事いくぞ」
「それよりトール、魔法以外の武器も用意しておいた方が良いんじゃない?」
机に立て掛けていた長剣を腰に差しながら問い掛けるロイド。トールはニヤリと笑って、良い考えがあると言って外に出た。
「──死ねオルァア!!」
森の奥地でそんな声が木霊した。銀髪を揺らし、黄金色の電気を纏い、地を駆ける狼には認識できない速度で放たれた蹴りが腹を捉える。
ギャンと悲鳴が聞こえる頃には、狼は木にその身を叩き付けられて絶命した。
着地したトールの死角から飛び出してきた別の狼が肩に食らいつこうとするが、周囲を漂っていた
「見え見えなんだっ、よ!」
カウンターの上段回し蹴りがふくらはぎ辺りから発生した暴風に後押しされ、さながら断頭台のギロチンのように狼の首をへし折った。
「……ふぃー、意外とやれんなぁ」
「──こらトール! また派手にやっただろ!」
草木を掻き分け合流してきたロイドが、首のない狼と頭に小振りのナイフが突き刺さった狼を担いで戻ってきた。
「肉と毛皮、骨を売るんだからなるべく傷付けず迅速に殺せって何回も言ってるでしょうが!」
「怒るなよぉ。こっちは兎も角、こいつは首を折ったから他の部位は無事だって」
トールが腹を蹴り飛ばし、首を蹴り抜いた狼は、それぞれ血反吐を撒き散らしている。尻尾を掴んで一匹を肩に担いだトールだが、二匹目をどうするかと思い悩む。
「……それも僕が持ってくから、早いところ川で血抜きしちゃおうか」
「おー、わりぃな。へっへ」
「それオズワルドさんの口癖だよね」
「移っちまった」
カラカラと笑いながら狼の死骸を運んで行く。平原に近い方向に歩いて行くと、涼しげな空気が漂う川にたどり着いた。
上流に向かってから、皮を剥いだ狼の腹を開き内臓を取り除いて川に浸ける。
「狼系の魔物って内臓食えたっけ?」
「この魔物の内臓なら、前にオズワルドさんが焼いて食べたら食中毒で一回死んでたよ」
「あいつ毒味係として優秀すぎんだろ」
「ただ、肉の方はそこそこイケた筈。東国の方から流れてきた食べ方なら美味しく食べられると思う」
皮を畳んで紐で縛りながらそんなことを言っているロイドに、川の流れを見ながら聞き返す。
「なんだっけ、肉をぐちゃぐちゃにしたのを丸めて焼く奴だろ? ……あー……なんちゃらーグ」
「確かハンバーグ。刻んだ玉ねぎとかも入れるらしいし、帰ったら買っておこうか」
やったぜぃ、と喜ぶトールは、蹴り技用に着用していた脚甲を脱いで素足になる。
そして川に入ると、ぱちゃぱちゃと水を蹴って遊び始めた。
「うへぇ……つめてぇ」
「トール、あんまりはしゃがないでね」
「うっせ。食らえコラ」
「あっちょっと! 着替え持ってきてないんだけど!?」
掛けられそうになって慌てて避難するロイドを見て笑うトール。川に入って遊んでいる眼前の
「~~~っ♪」
鼻唄混じりにくるくると回るトールを見て、本心からの言葉が口を衝いて出た。
「──綺麗だなぁ」
「──あ、魚! 焼いて食おうぜ!」
「うーん台無し」
器用にその魚だけを狙った極細の電気を川に撃ち込んで、対象のみを感電させるトール。
ぷかぷかと浮かび上がってきた魚を鷲掴みにしてロイドに向き直り、無邪気な顔をしながら近付いてくる。日の光が川と銀髪に反射してなんとも美しい光景を作ってはいるが──
「魚。魚がなぁ……」
「あれ、お前魚嫌いだったか?」
両手に握られた川魚が全てを無駄にしていた。それはそれとして、魚自体は美味しくいただいたのだが。
「……っぷぁー、旨かった~っと」
貯金を含めて収支はややプラス。その程度に落ち着いた夜、二人は昨日と同じように相部屋のベッドを使わざるを得なかった。
昨日よりは慣れたのか、一つのベッドの共有も気にしていないトールが薄着とパンツのみの格好で寝転がっている。
「さっさと寝ようぜぇ」
「あー……うん。そうだね」
「──疲れてんのか。まあそうだよな、俺のせいで出費が厳しいんだろ?」
「それは、ちが────」
違う、とは言えなかった。小さく頷いたロイドに、トールもまたそりゃそうだと笑う。
「…………仕方ねぇかぁ」
そう呟いたトールが、机に向かって背中を見せているロイドへと枕の片方を投げる。
「いたっ。な、なに……?」
「こっち来い」
「……なんで?」
「いいから来い。この格好のまま廊下で叫ばれてぇのか」
「今行きます」
社会的地位が落ちるどころか一生陽の目を拝めなくなるだろう未来を想像し、ロイドはトールが寝転がるベッドに近付く。もっと近くに来いと言われ、ベッドに上がり、仰向けに寝ているトールに覆い被さるようにうつ伏せに寝る。
「重くない?」
「問題ねーよ。……ったく、俺だってなぁ、責任は感じてんだぞ?」
「何を言ってるのさ……」
「──約束は、守ってやる」
「…………な、ちょっ──!?」
トールは不意に上着を捲り、鎖骨の辺りまで持ち上げる。布に引っ張られ、重力に沿って乳房がロイドの眼前でプルンと動く。
「──っ、ぁ」
当然、一瞬で目線を釘付けにされる。
胸や腹に出来た抉るような古傷すら、雪のごとき白い肌と鮮やかな桃色の乳頭を際立たせる材料となっていた。
「気まぐれだ。単なる、気まぐれ。
次が無いかもしれねぇって時に、なぁに我慢してんだおめぇはよお」
腕立て伏せのようにトールの両脇に手を突いて体を支えているロイドの目の前で、両手で自身の胸を脇から押し上げて言う。
「め・し・あ・が・れ」
──その紅い瞳に洗脳された、と言われたら誰もが信じるだろう魅力。
ロイドも例外ではなく、噛みつくように、歯は立てずに乳頭にしゃぶりつく。
「んっ……」
ぴくりとトールの腰が跳ねた。
口をすぼめて乳頭を吸い、乳輪を舌でなぞり、唇で挟んでこする。
「っ、ふっ、んやっ」
口から甘い吐息が漏れ、咄嗟に手で押さえる。ロイドは器用に片手で自重を支えながら、余らせた手で反対の胸を揉んだ。
桃色の粒を食みながら鼻で必死に呼吸し、膨張しテントを作るズボン越しに、カクカクと腰を揺すってトールのパンツに欲望を押し付けている。トールはあまりにも無様なその姿を──奇妙にも
どういうわけか、可愛いとすら思う。腹の奥がキュンと疼く。トールはロイドの怒張するそれを見ると、足だけでズボンをずり下ろして、指で男物のパンツを同じように膝まで下げる。
「ぅ──と、トール……っ」
「……っ。ねだるなよ、アホ」
甘えるような声色がトールの調子を狂わせる。ヘソの上で自己主張する怒張を足の指でなぞると、それだけでロイドは震えた。
「づ、ぅあっ」
びくりと腰を引いて、咄嗟に腹の下辺りに力を入れた。先端からぴゅる、と先走りを漏らし、射精感がせりあがる。
「──ふ、ぅっ、づ……」
足で器用に肉棒を扱かれ、お返しのように乳頭を吸い、舐める。ぢゅるぢゅる、くちゅくちゅと淫らな音と呼吸の音だけが響き、やがてロイドの我慢も虚しく、肉棒から白濁が吐き出された。
「ぅ、あ゛っ!」
「ひぁっ……あっつ……」
トールの腹にドロドロの白濁がぶちまけられる。牛の乳を搾るように、規則的に肉棒が脈動する度先端が震えて精を吐き出す。
ねばついた熱い体液が腹にかかり、むわりと濃厚な精の匂いが充満する。
「はーっ、はぁー……っ」
深く呼吸を繰り返すロイドは、ふと顔を上げ──宝石のように紅い瞳と目が合う。
愉快そうに目尻を緩め、トールは汗で濡れるのも構わずにロイドの頬に顔を寄せる。
「んー、んー……ふふ」
なんか、楽しくなってきたなぁ。少しずつ女体に慣れてきたトールはそんなことを考える。
セックスは勘弁だが、幼馴染が相手なら、
足の指先でくにくにと亀頭を弄りつつ、トールは、紅い双眸でロイドを見上げていた。
「もっかい出せ」
「──う゛っ」
・オズワルド
40年ちょい後くらいにどっかの異世界人に木っ端微塵にされる