「煙草止めた方がいいよ」
「いいんだって」
そう言って、彼女はまた煙草を咥え、煙を吐き出す。
こんな優しい人に早死にして欲しくないな、と思って注意してるのだけど、まるで聞いてくれない。
僕は変な郷に迷い込み、そして彼女-藤原妹紅-に保護してもらった。彼女から帰れると教えてもらった時は、それなりに喜んだものだ。
が、僕は今この郷に留まっている。
この郷においての管理者のような少女-博麗の巫女と言うらしい-からOKサインが出なかったのだ。理由をきいても何も答えてくれなかった。
今は人里と呼ばれる場所で教師のような仕事をしている。人里で落ち込んでいた僕を妹紅が発見してくれて、しかも僕が帰れなくなったということを知ると仕事を手当してくれたのだ。
まだ仕事を始めて一ヶ月ほどなのだが、それなりに様になっていると自分では思っている。
「
「あぁ、ありがとう慧音先生」
この慧音先生が、僕に仕事を恵んでくれたその人だ。住居についても御世話してくれて、まるで頭が上がらない。
作りすぎてしまったから、と食事を持ってきてくれることもある。今の僕は彼女によって生かされている気がする。
今日もまた料理を持ってきてくれた。鍋の中身は色んな野菜が入った煮物だった。
「いつも有難う御座います、慧音せ...」
お礼の言葉を言おうとすると、白魚のような指が僕の唇に当てられた。
「仕事以外では敬語は禁止。昨日言ったばかりだろう?」
「...ああ、ごめん慧音。うっかりしてた」
彼女が満足そうに頷きながら指を離す。僕がその指を見つめていることに気づくと、彼女はその美しい指を自らの唇に当てた。
「それでは、頂きます」
「...頂きます」
「......」
眠れない。眠れる訳がないのだ。
隣に慧音が寝ているのだから。
彼女は今僕の方に背を向けて、規則正しく寝息を立てている。
いくらなんでも無防備すぎやしないだろうか。知った顔だからといって、一緒の布団で寝ないだろう普通。
一つの布団で眠ることを了承した理由を考えてみても、僕の頭では思いつかない。先程から浮かぶ考えについても、自惚れるなと自分で思う。
「ん...」
彼女が体を少し動かす。腕が僕の左肩に当たった。
依然として僕の方を向いている彼女の背中に手が伸びる。
止めたいのだが、どうしても止まってくれない。僕の意思に反して、僕の身体は彼女に触れたがっている。
指先が触れる。
そして気づいた。身体は、意思に反してなんていなかった。僕自身が、彼女に触れたかっていたのだと。
「......」
女性にしては逞しい背中の感触。だがそれは女性的なある種の柔かさも内包している。弛く温かく刻む鼓動が、僕の指で感じられる。
ふと、何か感じた。何に寄るものか、自分が何を感じたのかは判らない。漠然と何かを感じたのだ。
そしてふと、彼女が寝惚けた眼で此方を見ていることに気づく。