「いらっしゃいませー」
鈴奈庵に来た。借りていた本を返し、新しい本を借りる。
何気なく黒いマリアがおいてあったので、借りてみる。それなりの貸し値はしたが、期待も膨らむ。
「はい、ありがとうございます。それじゃあ、今日も...」
鈴奈庵に来る度に、小一時間ほど小鈴に外の世界の話をする。目を輝かせながら話を聞くその姿に、少なからずプレッシャーがかかる。何かを詳しく話せる訳でもないので、それなりに気を使いながら話しているのである。
「じゃあ、外の世界では顎が弱くなっていってるんですか?」
「柔かい物ばかり食べているからね。野菜を砕いて飲んでるし」
「え?食べないんですか?」
「手軽に栄養補給、だって。笑っちゃうよね」
「あとあと、お酒をあんまり飲まないって本当ですか?」
「残念ながら。薬を甘いので包んじゃってるしなぁ」
「薬師さんと同じこと言ってますね」
基本は僕が話して小鈴が質問をするだけだ。時々阿求が来て一緒に話を聞いたりもする。真剣みが小鈴と同じかそれ以上にあるので、更にプレッシャーがかかるのだが。
「ん?」
こんこん、と扉がノックされた。本に夢中になっていて気づかなかったが、もうかなり夜は更けていた。引き戸を開けると、見覚えの無い女性が立っていた。
「夜分遅くに失礼します。少々お話したいことがありまして...」
「はぁ」
とりあえず部屋に上げる。誰にも見られていないことを確認してから。
あまりいい話ではなさそうだ。こんな夜に来たのもそうだし、何より胡散臭すぎる。逃げる準備をしておいた方がいいかもしれない。
「大丈夫ですよ。捕って食べたりしませんから」
「そんな心配はしていませんよ」
うふふ、と胡散臭く笑う女性。見え見えの嘘などお見通しだ、ということだろうか。
「それで、一体どんなお話で?」
「ちょっとしたお願いですよ」
ちらり、と金色の目が此方を覗く。とりあえず目は合わせないようにした。沈みこんでしまいそうになる。
「私にも外の世界のお話をしてもらえないかしら、と」
「...時間に余裕がある時にでも」
じっ、と女性が見据える。目を合わせないようにしてるのに、引き寄せられるように視線が相手の目へと移動してしまう。
「あまり聞かれたくないお話なの」
「どういったお話を望んでいるのでしょう?」
「具体的には重火器等々」
「...残念ながら、私はそういった物は」
「詳しくないとでも?」
目を合わせたままだと、嘘をつくことも儘ならない。
「少しだけでいいの。人里の人達には黙っていて欲しいけど」
「最初から話そうなんて思ってないですよ」
厄介そうな人に目をつけられた。間違いない。
だから軍隊だけは嫌だったんだ。
針音アンバランス好き。