目は覚めたが、まだまだ眠い。瞼を下ろせば簡単に寝入ってしまいそうだ。
だがそれは良くない。何しろ状況がまるで解らないのだ。
まず、僕は今生きている。そして清潔さを感じる白いシーツに包まれて、もとい被っている。顔まで被ってしまっていたのか、唇が乾燥している。
つまり、誰かに介抱されていた可能性が高い。右腕の肘にチューブが繋がっている。チューブの出所には、血液が蓄えられた袋があった。
つまり病院に居るのだ。
「失礼しまーす...」
誰かが静かな身振りで入ってきた。
一応眠ったふりをしておく。ちょっと前に完全に覚醒していたので、目を閉じたからといって眠るようなことは無かった。
「あの、汗拭きますよ」
どうやら入ってきたのは看護師のようだ。しかし、この郷にも病院があるとは思っていなかった。
「少し体起こしてくださいねー」
どうやら僕の狸寝入りはバレているようだ。しかし体がうまく起き上がらない。
目を開くと、兎の耳が頭についている女の子が居た。
「無理しなくていいですよー」
彼女は手慣れた様子で僕の服を脱がし、汗を拭う。柔らかなタオルの感触が、いやに心地良かった。
背中が拭かれ、前も同様に拭かれる。意識しているのは僕だけのようで、彼女は照れた様子を見せることもなく、淡々と丁寧に拭ってくれた。
「下はどうされますー?」
「あぁ、自分でやります」
久しぶりに声を出したせいか、ひどい声だった。とても自分の声とは思えない。
タオルを受け取ろうと体を無理やり動かすが、左の脇腹からそれなりの痛みを感じる。
「いっ...」
「大丈夫ですか?」
思わず声を出してしまった。どうやらかなり酷い傷だったようだ。
「やっぱり私が拭きますねー」
ズルリ、とズボンが下ろされる。当然僕の下着が兎の子の前に曝されるのだが、まるで動じなかった。
足の下の方から拭かれ、ゆっくり着実に上ってくる。
「えーと、この下は」
「大丈夫です」
少し食い気味に答える。流石にそれは不味いだろう。先ほどから必死になって抑えているのに。
「でも、気持ち悪いでしょう?」
「あまり気にしない方なので」
出来ればあっさりと了承してほしかったのだが、兎の子はそれを許してくれない。
結局下着を換えてもらった。とはいえ目は塞いでいたが。
「今に至る経緯を教えて欲しいのですが」
「あれ、覚えてないんですか?」
「狼に噛まれたあたりから」
「成程」
曰く僕に嚙み付いた狼は妖怪だったらしく、この永遠亭という場所まで運んでくれたらしい。
だが、何故運んでくれたのだろう?僕のことなど放っておきそうなものだが。
「影狼さんがお見舞いに来ると思いますよ」
その時に聞いてみるといい、ということになった。
とりあえず寝た方が良いとのことなので、寝ることにした。
思ったより簡単に眠ることが出来た。
「...思ったより逞しい体なのね」
永遠亭に入院する者なんてそうはいない。そのお蔭で一人に集中して治療できるのだが。
私は仕事柄、入院した者に頻繁に顔を合わせることになる。
「...ふーん」
前にも書いたけど、やっぱりC-claysはいいですね。