扉の向こう側から声が聴こえる。内容までは解らないが、どうやら二人居るらしいことが判った。
「失礼しまーす」
兎の子が、犬のような耳を生やした女の子の手を引いて入ってきた。
この子が影狼さんなのだろう。まさか女の子だとは思っていなかった。
「それでは」
兎の子が部屋から出ていく。僕とこの女の子だけが残され、かなり妙な空気が漂う。
「...とりあえず座って」
ベッドの側にあった丸椅子に女の子を座らせる。
女の子は顔を俯かせ、尻尾は感情を表すかのように垂れていた。快活な表情が似合いそうな整った顔は、今は昏くなっている。
「君が影狼さん、でいいんだよね」
こくり、と彼女が小さく頷いた。
「...ありがとう」
僕は上半身だけを倒して礼をした。それだけの行為でも脇腹に痛みが走ったが、耐えれるくらいの痛みだった。
「ちょ、ちょっと!何で貴方が御礼なんて...」
「君が僕を此処に運んでくれたんだろう?なら御礼くらい言うさ」
「でも!私が、貴方を噛んだせいで...」
「あぁ、其についても」
僕は顔を上げ、彼女に向き直る。彼女の顔からは、驚きと困惑が見てとれた。
「僕達人間が、君等にやった行為を此処で謝罪させて欲しい」
「...え?」
「僕達は狼を駆除しようとした。此方の一方的な都合でね」
「......」
「その事を、謝罪させてくれ」
再度深く頭を下げる。するとすすり泣く声が聴こえた。影狼さんが泣いているのだ。
「え?な、何かした?」
「ごめんなさいぃぃ...」
最後には大粒の涙を溢しながら謝られてしまった。
「落ち着いた?」
「...うん」
「君が僕に負い目を感じる必要は無い。そんなに気にしないでくれ」
僕としてはこれで終わっていいのだが、影狼さんはやはり気にしてしまうようだ。
しゅん、としている彼女の頭を撫でようとしたのだが、いかんせんベッドに寝ている格好からでは届かない。
彼女に向かって差し出された右手は、彼女の両手に包まれた。
「...ありがとう」
彼女は御礼を言って手を離す。右手はシーツの中に潜っていった。
影狼さんは僕の顔に手を差し伸べ、頬を撫でる。
彼女の舌が僕の唇を舐める。存分に味あわれたあと唇が重ねられた。
僕の唇を割って入ってきた舌は、控え目な動きでじっくりと口内をねぶり、熱い吐息が僕の肺を満たしていく。
送り込まれた唾液が喉を通り、彼女の温かさを感じさせた。
僕もまた舌を絡ませ、彼女の舌を味わう。
その内彼女の方に熱が入り、口内の唾液はすべて彼女に吸いとられた。
そして彼女の唾液が僕を溺れさせる。
情熱的なこのキスは永く続き、唇が離れたときに僕はようやく理性を取り戻した。
「ひょうひょうと」好きです。格好いい。