※この作品はR-18です。

東方生留性   作:転箸 笑

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8話

とにかく、暇なのだ。

何しろずっと布団の中に居なければいけない。暇潰しがあれば違ったのだろうが、今は持っていない。今は。

 

 

 

 

今日の朝、洗顔ついでに髭を剃ろうとしたのだが、洗面台にあったのは剃刀だった。

今まで髭剃りしか使ったことがないので面食らったが、よく考えれば女の子ばかりの永遠亭に髭剃りがある訳がない。髭を剃れるだけ儲けものだと考え、鏡を見ながら慎重に剃ったのだった。

その後は部屋に戻り、ひたすらぼーっとしていた。暇だから。すると慧音が水菓子と本を持ってきてくれた。かなり嬉しい。

そして、その時に言われた。

「私のために生きてくれ」

 

 

 

 

「......」

考え事をしながらの読書なので、内容などまるで頭に入って来ない。ただ文字を読みページを捲るだけの単純作業になってしまっている。

僕はぱたん、と本を閉じた。そして本を持ったまま部屋の外に出る。

永遠亭はかなり広いし、明らかに内部構造がおかしい。何処をどう行けば戻れるのか解らなくなった。つまり、迷子だ。

「ん?」

目の端に、艶やかな黒髪が揺れるのが映った。

顔を向けると、横顔だけでも判るほどの美しい少女がいた。

「......」

見惚れた。それは絶対的に抗えない、必然的なことに思える。

ちらり、と少女が此方を見た。目が合った途端、金縛りにあったかのように体が動かなくなってしまった。

少女は微笑を浮かべたまま僕の方へと寄ってきた。

「貴方、此所に入院してるの?」

「ええ」

「それはそれは。退屈な場所でしょう?」

「愛する人に本を届けてもらったので、今のところは」

「あら、ちょっと見せてもらえる?」

少女は僕が持っていた本を手に取り、表紙をまじまじと見つめる。

「面白そうね。借りるわ」

「え?」

少女は背を向け歩き去ろうとする。慌ててその背中を追ったが、ついぞ追いつくことは出来なかった。

そして気がつくと、僕のすぐ側には病室のドアがあった。

「...本のお返しかな?」

独りごちて、ドアを開ける。兎の耳を生やした少女が、見舞品の水菓子に手を伸ばしていた。

 

「...ごめんなさい」

「まぁ、いいけどさ」

まさか患者の見舞品に手をつける者がいるとは思わなかった。この兎の少女は手癖が悪いのだろうか。

「林檎と桃、どっちが好き?」

「林檎!」

どうやら遠慮を知らないようだ。まぁ見た目通りではあるか。

林檎を一つ渡すと、兎の少女はどこからかナイフを取り出し、綺麗な兎形に切り分けていく。随分と慣れた手つきなので、普段からやっているのかもしれない。

「はい、あーん」

兎の少女は林檎の兎を口に咥えたまま、器用に喋る。言われたまま口を開けると、林檎の兎のお尻が僕の口に押し込まれた。

しゃくしゃく、と食べ進めていく。兎の少女の柔らかい唇が僕の唇に当たった。

どうせだからと唇も丹念に味わっておいた。

「じゃ、お大事にー」

そして、またこの部屋に独りになったのだ。暇潰しの無くなった状態で。

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