「ビッチーネ……!? どうして……」
言いかけた俺の前に、盾になるように取り調べ官が入り込む。
「こいつを取り戻しに来たのか」
それを見てビッチーネはくすりと笑う。
「……そうだとしたらぁ? どうしますぅ?」
剣を構える取り調べ官。
「こいつは城の大事な女捕虜だ。 また渡す訳にはいかんな」
「あら、サキュバスのだーじな姫様なのですけど」
何だか不穏な雰囲気になりそうだったので、俺は慌てて声をあげた。
「ビ、ビッチーネは私を連れ戻しに来たの? 私、いずれはちゃんと戻ろうと……」
「うふふ……すぐにでも姫様が戻ってきてくれれば喜ばしいことですが……。 今回お邪魔したのは、連れ戻しに来たわけではありません」
ビッチーネが含みのある微笑みを見せる。
連れ戻しに来たわけではない、とのことで、俺は少し胸を撫で下ろした。
少なくとも、ここで知り合い二人が争いを始めるのは見たくない。
「では、どういった用件で?」
剣は下ろしたものの、いぶかし気に尋ねる取り調べ官。
「私が用事があるのは……むしろ姫様以外の人間」
「どういうことだ?」
「人間側に提案しに来たのですよ」
「提案?」
「人間側が……生き残るための、ね?」
「……つまりどういうことだ」
「魔王軍から、人間側が生き残るための知恵を授けようというわけです」
「魔王軍!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
───
ビッチーネは言った。
魔王軍から人間側が生き残るための方法を提案したいと。
つまりは、サキュバス側が魔王軍を裏切るということだ。
流石の俺にも、ことの大きさは分かった。
そして、人間側としてもありがたいことのはずだ。
俺は取り調べ官を見る。
が、当の取り調べ官は難しい顔をして顎をさすっている。
「なんでそんな難しい顔をしてるの? ビッチーネは人間側の味方をしてくれるっていうのに……」
「……サキュバス側が、急に魔王軍を裏切るというのが唐突すぎる。 理由を聞かせてもらえないか。そうでなければ納得できない」
それを聞いたビッチーネが口を開く。
「理由?」
両手を広げ、小馬鹿にしたように答える。
「だって……人間が滅ぶということは、姫様もいなくなってしまうということでしょう?」
分かり切ったことを聞くなというような口調だ。
「え、私?」
急に名前を挙げられ、俺は戸惑いながら尋ね返す。
「ええ。 姫様がいなくなってしまったら、サキュバス界にとって大きな損失です」
「サキュバス界?」
「こんな上質のペニスを持った美少女なんて……この先千年経とうとも現れないでしょう。この存在を護るため……我々サキュバスは人間側に就きます」
「そんな理由!?」
俺は驚愕する。
「なるほど。納得した」
頷く取り調べ官。
「納得するの!?」
騒いでいるのは俺だけで、既に二人の間には妙な共感が通じているようだった。
つづく