コホン、とビッチーネが咳払いをする。
「というわけで」
俺と取り調べ官に向かい合うように、ソファに腰かけているサキュバスの長。
「魔王軍が人間に侵攻している現状……これを止めることです」
それを聞いて、取り調べ官は渋い顔をしてみせる。
「そんなことは分かっている」
「まあ聞いてください」
微笑みを崩さずに続けるビッチーネ。
「まず、魔王様がなぜ人間界を侵略しようとしているのか……それは……」
「それは?」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
「気まぐれです」
「気まぐれ!!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「ええ。魔王様は何千年も生きている存在……たまにこうして気まぐれの思い付きを実行しては、暇を潰しているのです」
「暇つぶしで侵略すんなよ……」
俺は顔を手で覆った。
「ですが……いえ、だからこそ……」
ビッチーネが口に指を当て、こちらを見据えた。
「魔王様の興味をそらせば、人間界への侵攻が止まる可能性があります」
「興味をそらす?」
取り調べ官が身を乗り出した。
「はい」
「つまり……どういうことだ?」
「魔王様にとってのマイブームが人間侵略なら、その関心を薄れさせれば良いのです。例えば、新たに別の何かに興味を持ってもらうなど」
「はあ、まあ……理屈の上ではそうだろうが」
取り調べ官はなおも渋い顔だ。実現のビジョンが見えてこないのだろう。
「そして……その方法は」
「方法は?」
俺たちは二人揃って身を乗り出した。
「直接、プレゼンするのです。魔王様に」
「直接?」
「プレゼン?」
間抜けな声が重なり合う。
「そうです。」
「いやいやいや、直接って……無理でしょ」
俺は魔王にたどり着くまでの決して平穏では無いであろう道中を思い起こし、首を振った。
「いえ。 私の"どこでもドヤァ"の魔法ゲートは、直接魔王様の部屋に展開することができます」
「えっ!? スゴっ!?」
俺は驚嘆した。
それってラスボスの目の前にショートカットを出現させられるようなものだ。
ビッチーネの魔力というのは相当なものなのだろう。
「なので、それを使い、魔王様に直接面会し、新たに別のものに興味を持ってもらうのです」
「待った。 そんなショートカットがあるのなら、人間軍の総力を挙げて魔王を攻めれば良いのではないか?」
取り調べ官が顎髭を撫でながら提案する。
が、ビッチーネは微笑みを崩さぬまま、首を振った。
「いえ、例え人間軍と魔王軍が力を合わせ、総力を挙げて戦おうとも、魔王様には敵わないでしょう。それ程強大なのです、魔王の力というのは」
俺はその情報に絶望しか感じなかった。
圧倒的すぎる。
「……それで、その興味をそらす方法というのがですね……」
ビッチーネが声を潜める。
ヒソヒソとした話がしばらく続いた。
「そんなぁ!」
話が終わり、俺は声を上げる。
そのブッ飛んだ提案が、とても成功するとは思えなかった。
つづく