妹という魔力に魅了される男(あに)達 作:チャンドラ=グプタ
エピソード1
幼い頃の妹が眩しい笑顔を見せている。
「お兄ちゃん! 私、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」
「ああ、楽しみに待ってるよ。それじゃ指切りげんまんな」
「うん。ゆっびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ーまっす。指切った!」
※※※
「夢か……すごい夢だったな」
さっき見た夢は昔、俺と妹がまだ仲が良かった頃の記憶であった。
この俺、柏木純也(かしわぎじゅんや)には妹がいる。
俺より二つ下の妹は中学三年であり、成績優秀、運動神経抜群さらに生徒会長も務めていたりと俺とは似ても似つかない。
扉から『ドンドン』と激しいノック音が鳴り響いた。俺は重い瞼を擦りながら扉を開ける。
「はーい」
「お兄様! 朝ごはんですよ。早く来てください」
妹の柏木神奈(かしわぎかんな)が不機嫌そうな表情で見上げていた。
「あ、あぁ……」
「全くもう。さっきから起こしているのに」
神奈は茶色いロングの髪をかきあげながらぼやいた。やはり現実の妹の俺への態度はそっけないな。
リビングに向かうと、テーブルにはサラダ、フレンチエッグ、ポトフといった美味しそうな料理が並べられていた。朝食は毎朝、神奈が作ってくれている。
母親は十年前に病気で他界しており、父親は海外赴任中であるため、俺と神奈は二人暮らしをしている状態であった。
「いただきます」
早速、朝ごはんを食べることにした。神奈の料理はとても美味しい。毎日違う料理を提供してくれ、料理のレパートリーの多さには驚かされる。
「お兄様、今日は何時にお帰りになりますか?」
「えっと、そうだな……七時くらいかな」
「七時ですか。何か特別な予定があるんですか?」
「い、いや……別に特別ってわけじゃないけど」
今日は友達とカラオケに行く約束をしていた。一週間ほど前から誘われており、快く承諾した。
「では、一体何をするのでしょうか?」
「ちょっと、カラオケに行こうと思ってな。友達と」
「ほう。友達ですか。それは男性のみ、という認識でよろしいでしょうか?」
まるで尋問のように聞いてくる神奈。何とも言えない圧迫感がある。
「ああ。そ、そうだよ……」
実を言うと、女子も何人か来るのだが面倒くさくなりそうなので、本当のことは伏せておくことにした。
なぜか神奈は俺が女性と遊ぶのを快く思わない。
「そうですか。では、夕食を作って待っていますからあまり遅くならないようにしてくださいね」
「いや、いいよ。別に先に食べても」
「ダメです! お食事は二人揃って食べなきゃいけません。そのことはちゃんと理解してください。お兄様!」
「わ、分かったよ」
はぁ……気のせいか何だか最近、神奈は俺への当たりがきついな。やはり嫌われているのだろうか。
俺はイヤホンを耳に差し、音楽を聴きながら学校へと向かった。
「やっぱりいいな、この曲は」
今ハマっているのは与根塚剣士のハイレモンという曲。歌詞、メロディ共に素晴らしく耳が幸せになる。
学校に着くと、教室へと向かい自分の席に向かう。
学校というのは全くもってめんどくさいものである。毎日同じ時間に向かい、大して面白くない授業を聞かなければならない。
そして嫌が応にも強いられる大学受験。一応俺は進学する気でいるが、一体自分が何をしたいのか分からないでいる。
「おっはよー!」
同じクラスの浅沼藍(あさぬまあい)が話しかけてきた。彼女とは共通の趣味が多く、数少ない友人の一人である。
彼女は今日のカラオケにも参加する予定だ。
「ああ、おはよう」
今日も藍は元気である。藍はクラスでも人気が高い生徒である。共通の趣味が多いとはいえ、どうして隠キャである俺にこんなに絡んでくるのか未だに不思議だ。
「今日のカラオケすっごい楽しみだね!」
「そうだな」
「なんか最近聴いてるオススメの曲とかある? 私、最近アライナミっていうアニソンを聴いてるよ!」
藍は短めの青髪を弄りながらアニソンについて語り始めた。
「そうか。俺はまぁ……与根塚剣士の曲を中心に聴いてるよ」
「そっかー。相変わらず与根塚剣士好きだねー」
参加する男子生徒の大半の目当てのほとんどは藍だろう。他の生徒と特段仲が悪いわけではないが、きっと俺と藍が仲が良いのを快く思ってはいないだろう。
しばらく藍と会話した後、一時間目の数学の授業が始まった。
「えー、円の方程式の導き方だがな、点Pの座標をx、yと置き……」
俺は理解不能の数学の授業を半ば上の空で聞いていた。
しかし、いつから俺と神奈の仲は悪くなったのだろうか。小さい頃はよく俺のことを慕っていたのだが。
記憶では俺が中学に上がってからだった気がする。確か……
「おい純也。ちゃんと聞いているのか?」
突然先生に話しかけられ、思わず身体を震わせる。
やばい、もっとちゃんと聞いているフリをするべきだった。
しかも、よりによってこの先生の授業に。
「は、はい……」
「それじゃ、この問題を解いてみなさい」
俺は黒板の前へと向かい、チョークを持つ。しかし、きちんと授業を受けていないため解けるはずがなかった。
「す、すみません……分かりません」
「全く……ちゃんと授業を聞きなさい。もう二年生なんだぞ。油断してればあっという間に受験がやってくるんだからな」
「はい」
「というわけで、放課後職員室に来るように」
ま、マジか。授業が終わったらまっすぐカラオケに向かう予定だったのに……いや、問題はそこではない。
「それじゃ純也。俺達先に行くから」
友人達が帰りの準備を整え、カラオケに向かおうとしていた。
「ああ。俺も後から行くよ」
「純也君。私、待ってるから早く来てね! 校門で待ってるから」
「いや、いいよ藍。そこまでしなくても」
「ううん。いいの。待ってるから!」
明らかに男子の友人達が俺のことを険しい目で見てきた。ちょっと殺意的なものを感じるな。
「そ、そうか……分かった」
俺は早速、職員室に向かうことにした。相変わらず職員室というのは入るのに緊張するものである。
「失礼します」
挨拶をし、職員室の中へと入る。真っ直ぐ先生の元へと向かった。
「おう、来たな」
数学を担当している氷川冷子(ひかわれいこ)先生が微笑を浮かべながら俺を見つめる。
セミロングの綺麗な黒髪、大きい胸、泣きぼくろといった目を引く容姿をしたこの先生は超絶美人と学内でも噂になっており、男子生徒からの人気も高いのだが俺はこの人に苦手意識を抱いていた。
なぜかというと――
「今回は本当にすみませんでした。以後、気を付けます!」
俺は頭を大きく下げた。一刻も早くこの場から立ち去りたい。
「ああ。以後気を付けるようにな。それじゃ、悪いがちょっと別の部屋に来てもらってもいいか?」
「えっと……一体、何をするのでしょうか?」
「来れば分かる。付いてきてくれ」
うわぁ……嫌な予感しかしない。冷子先生に案内されたのは職員室から大分離れたところにある倉庫であった。
「それじゃ、入りなさい」
「えっと、その……変なことはしないですよね?」
「勿論だ。ほら早く!」
「うわ! ちょ、ちょっと……」
冷子先生は俺の腕を掴み強引に倉庫の中へと連れ込んだ。そして、俺が逃げる間も無く扉の鍵を閉める。
「さて、説教といこうか。純也、脱ぎなさい」
「い、いやです」
「ほう、教師に逆らうというんだな」
「だってそれ、もはや体罰じゃないですかそれ」
バレたら間違いなく大問題になるぞ。
「わ、分かった! それじゃ、こうしよう。私から先に脱ぐ。私の身体を好きにしてくれてもいい。だから純也も脱いでくれ。これならいいだろう?」
「よくないですよ! なんでいいと思ったんですか!」
以前にもこうして先生にこんな風に案内されたことがあった。以前は確か視聴覚室だったか……
話があると視聴覚室に連れられ、今のようなやり取りを行い、俺は必死になって逃げ出した。
何でも俺が冷子先生の元彼にそっくりらしい。
その元彼は一年前に事故で亡くなってしまい、冷子先生は今でも元彼のことを忘れられないでいる。
こんなの付き合ってられるか、今すぐにでも出て行こう。俺は扉に手を掛けた。
「あ、開かない……」
「ふふふ……驚いたか。ちょっと扉に細工しておいてな。この鍵を使わなきゃ出られないようになっているんだ」
「な、何だと……」
そこまでするのか。俺の貞操が大ピンチだ。こんなことなら最初からバックれておくべきだった。
しかし、冷子先生は特段何もしようとはせず倉庫の中にある椅子に腰を掛けた。
「まぁあれだ。とりあえず座りなさい。何もしないから」
現状、何もできない俺は大人しく先生の言う通りにした。先生の近くにある椅子に座る。
隙を見て先生から鍵を奪ってやろうと思った。
「純也。最近はどうだ? 何か悩みごととかないか?」
「……特にはないですね」
強いて言うのならここから出られないことである。
「本当か? 困ったことがあったら何でも言ってくれ。私にできることがあるなら協力しよう」
「なら今すぐここから出してくれませんかね」
「それは無理な相談だ。なぁ、純也。君は私のことが嫌いか?」
冷子先生が立ち上がった。あかん、何かしてきそうである。俺は思わず身構えた。
「い、いや……嫌いというか。先生は教師という立場なんだから生徒に手を出しちゃダメでしょ」
圧倒的正論を告げた。すると、冷子先生は額に手を当て顔を俯かせた。
「分かっている……頭の中では分かっているんだ。だが、どうしても我慢できない……純也、君はあまりにも似すぎている!」
ワイシャツのボタンを外し始めた。豊満な二つの果実が見え始める。
「ちょっと先生!」
俺が止める間も無く、ワイシャツを脱ぐ。白いブラに包まれた大きな胸が俺の前に現れる。
おお、でかいな。こりゃすごい……いや、そんなことを考えている場合ではない。
「私と彼は身体の相性は抜群だったんだ。彼とのセックスを思い出すと身体が疼いて仕方がないんだ。なぁ……一回だけ。一回だけでいいから。いいだろう?」
俺の予想だがとても一回で済む気がしない。
「嫌です!」
身の危険を感じた俺は一目散に扉へと駆け出そうとした。こうなりゃ扉を叩きまくって誰かに助けてもらうしかない。
「ちょっと! 待ちなさい!」
冷子先生が俺の肩を掴む。ジタバタと暴れるも、振りほどくことができない。女性とは思えないほどの強い力である。
「だ、誰かー!」
「ふふふ……無駄だ。この部屋は防音になっている。叫んだところで誰も助けにはこない。早速、君の童貞をいただくぞ」
冷子先生が首筋を舐めてきた。体中にゾクゾクと鳥肌が立った。背中からは冷子先生の柔らかく大きい胸の感触を感じる。
香水のいい香りが鼻腔を突き、くらくらしてきた。
「せ、先生……本当にやめてください」
「悪いがそういうわけにはいかない。君だって本当は私としたくてしょうがないのだろう? 本当に嫌ならそのまま帰れば良かったじゃないか。心の奥底では君は私のことを求めているんだ」
冷子先生は俺の頬を掴み、唇を近づけ、キスしようとしてきた。
俺の唇と冷子先生の唇が今まさに重なろうとした瞬間だった。
「そこまでです! 先生」
なんと、倉庫の中に藍が入ってきた。藍はスマホで俺達の様子を撮影する。
「先生の奇行はバッチリと撮影しておきました。クビになりたくなければ純也君を離してください」
「浅沼藍……しょうがない。言う通りにしよう」
冷子先生はものすごい形相で藍を睨みつけた。控えめに言って超怖い。
「ところでどうやってこの部屋に入った? 鍵は私が持っているのだが」
「企業秘密です。今度、純也君に手を出そうとしたらさっきの写真、ばら撒きますから覚悟しておいてくださいね」
「……! 分かった」
俺と藍は倉庫室を後にし、二人でカラオケに向かうことにした。
「た、助かったよ藍! さっきは一体どうなることかと……」
「礼には及ばないよ。校門に向かう途中で純也君が倉庫に入っていくのを見かけてね」
「扉の外から俺達の様子が見えたのか?」
「……そうだね。扉にほんの少しだけ隙間があったからそこから見てたんだ」
「しかし、どうやって鍵を開けたんだ? 鍵は先生が持ってたんだろ?」
「まぁ、それは色々とね……あ、そっちじゃないよ純也君」
藍は俺の手首を掴むと、目的のカラオケ店とは真逆の方へと連れ出した。
「お、おい! そっちじゃないだろ?」
「……いやあってるよ」
疑問に思いつつも、藍の進む方についていくことにした。
「着いた。ほらここだよ」
俺達の前にあるのはどう見てもラブホテルであった。いやいやおかしいだろ。
「おい、ここ絶対違うだろ。何だってこんなところに……」
「ねぇ、純也君?」
藍は不気味な笑みを浮かべる。背筋にぞくりと悪寒がした。
「な、なんでしょう……?」
「さっき撮ったこの写真さ。ばら撒かれと純也君も困ると思わない? 見方によっちゃ女教師と卑猥なことをしてるようにも見えるよね」
「ま、まぁな……けど、藍はそんなことはしないだろ?」
「それは純也君次第だよ」
「それは一体、どういう……」
藍は俺の肩を掴むと、急に息遣いが荒くなった。
「実は前々から純也君とエッチしたいって思ってたんだ……だから、今から一緒にホテルでしようよ。ねぇ、いいでしょう?」
「ちょ、ちょっと待て藍。一体どうしたんだ? おかしいぞ」
「私は普通だよ。前から純也君のことが好きだったんだ。今日、告白するつもりだったけどさっきの見て、私も我慢できなくなっちゃった。今すぐにでもしたい」
「き、気持ちは嬉しいがさすがにいきなりそのエッチってのはその……」
「ばら撒くよばら撒ばら撒くよ? いいのいいのいいの?」
こ、怖い! 気のせいか目の光が消えているように見えた。
「マジで落ち着けって。自分が何を言っているのか分かってるのか?」
藍は俺に抱きつくと、胸に顔を埋めてきた。
「はぁ……純也君の匂いがする……ちょくちょく純也君の体育着とか漁ってたけど、こうして直接嗅いだ方が落ち着くなぁ……」
こいつそんなことしてたのか! というか、周りの人が好奇の目で俺達を見ている。
「お兄様から離れてください!」
声がする方を向くと――なんと視線の先には神奈がいた。