妹という魔力に魅了される男(あに)達 作:チャンドラ=グプタ
「な、なんですか。あなたは……」
藍は突然として現れた神奈を訝しんだ様子で凝視した。俺もどうしてここに神奈がいるのか分からない。
「初めまして、私は柏木純也の妹の柏木神奈です。学校の帰り道、偶然兄の姿を見かけたので気になって尾行させていただいたところ、今のような蛮行を見かけたのでこうして助けに現れたという訳です」
説明口調で神奈はこの場にいる理由を答えた。
「じゅ、純也くんの妹さん……!?」
藍もさすがに驚きを隠せないようであった。
しかし、まさか偶然神奈が俺を見かけて助けに来てくれるなんて、なんてツいてることだろうか。
ん? 待てよ。ここから神奈の学校で方向真逆だったはずだが……
「そうです。話を聞く限りではあなたは学校の先生から兄の貞操を守ってくれたみたいですね。そのことについては感謝いたします。ですが……それを利用し、あまつさえも兄の貞操を奪おうとするなんて外道です! 非道です! キ○ガイです! 人間の屑です! 吐き気を催す邪悪です! この世に存在してはいけない何かです! 某漫画に出てくる鬼の王です!」
罵詈雑言の嵐である。もしも俺が神奈同じことを言われたら多分泣くな……ってか、結構漫画に詳しいな。
「な、なんだと……?」
藍がプルプルと身体を震わせ、恐ろしい表情で神奈を睨みつける。ものすごく怖い。
「これを見てください!」
神奈はスマホを取り出した。スクリーンをタッチし、とある動画を再生した。
「さっき撮ったこの写真さ。ばら撒かれと純也君も困ると思わない? 見方によっちゃ女教師と卑猥なことをしてるようにも見えるよね」
「ま、まぁな……けど、藍はそんなことはしないだろ?」
「それは純也君次第だよ」
「それは一体、どういう……」
「実は前々から純也君とエッチしたいって思ってたんだ……だから、今から一緒にホテルでしようよ。ねぇ、いいでしょう?」
「ちょ、ちょっと待て藍。一体どうしたんだ? おかしいぞ」
「私は普通だよ。前から純也君のことが好きだったんだ。今日、告白するつもりだったけどさっきの見て、私も我慢できなくなっちゃった。今すぐにでもしたい」
「き、気持ちは嬉しいがさすがにいきなりそのエッチってのはその……」
「ばら撒くよばら撒ばら撒くよ? いいのいいのいいの?」
さっきの藍とのやり取りが高画質で映し出されていた。
「これがあれば例えあなたが持っている動画を流そうとも、兄の無罪を証明できるでしょう。それどころか、あなたの方が社会的に危うくなる。違いますか?」
「ぐ……!」
藍はギリギリと歯ぎしりをした。
「今後、金輪際兄とは関わらないでください。そうすればこの動画は拡散しないでおいてあげます」
「……」
無言のままその場を立ち去る藍。俺はそんな藍の背中を呆然と立ち尽くしながら見つめた。
藍は突然振り向き、鋭い目つきと俺と神奈を見つめた。超こええ!
「このままで終わると思わないでよ」
小さい声であったが、確かにそう聞こえた気がした。
「お兄様。大丈夫でしたか?」
「あ、あぁ……」
「それにしても、どうしてあのような事態に? 今日はカラオケに行く予定だったのでは?」
「俺もそのつもりだったんだがな……藍に連れてこられたんだ」
「そうですか……それは災難でしたね」
神奈は努めて冷静に話しているようであった。さっきの神奈はいつもと違ってかなり激昂しているように見えた。
あんな神奈をみるのは初めてである。
「まぁな。さっきは本当に助かったよ。ありがとうな」
「礼には及びません。それより、カラオケに行かなくてもよろしいのですか?」
「そうだな! それじゃ、ちょっと行ってくる!」
俺は急いでカラオケ店へと向かった。藍は来ておらず、友達には急用で来られなくなったと伝えることにした。
カラオケが終わると真っ直ぐ家へと帰宅した。神奈と約束していた七時前に帰ることができた。
「ただいまー」
「おかえりなさいお兄様。夕食の準備できてますから食べましょう」
「ああ、そうだな」
椅子に座り、神奈と食卓を囲む。神奈は無表情のまま夕食を食べ始める。
「お兄様、カラオケはいかがでしたか?」
「ああ、まぁ……楽しかったよ」
「そうでしたか。それは良かったです。それと明日は十分に気をつけて登校してくださいね。さっきの方が襲いかかってくるかもしれませんから」
「分かった。気をつけるよ」
確かに藍のやつ、まだ諦めていないような雰囲気があった。いつでも逃げ出せるようにしておかなければならない。
それに、氷川先生にも要注意だ。
「はい。それと今度の土曜日、何か予定はありますか?」
「いや、特には何もないが……」
「そうですか。少しお買い物に付き合って欲しいのですが……」
神奈が俺に頼むなんて珍しいと思った。誰かに渡すプレゼント選びにでも手伝って欲しいのだろうか。
「ああ。別にいいぞ」
「ありがとうございます。それじゃ、よろしくお願いしますね。お兄様」
次の日、学校で藍は俺に話しかけてくることはなかった。氷川先生も俺に絡んでくることはなく、平穏に過ごすことができた。
「さてと、帰るとするか」
鞄を持って玄関へと向かう。
今日は帰って定期テストの勉強をする予定である。すると、校門にて神奈が立っているのが見えた。
「あ! お兄様。お疲れ様です」
「神奈。どうしてここに?」
「昨日の方に絡まれてないかと心配で来てしまいました」
「そうか、ありがとう。別に大丈夫だよ」
「そうでしたか。それなら何よりです。それじゃ、一緒に帰りましょう」
「あ、あぁ……」
なんだか成り行きで神奈と一緒に帰ることになった。なんだか少し恥ずかしい。
「お兄様。今日は何か食べたいものはありますか?」
「そうだな……唐揚げとかかな」
「唐揚げですか……であればあとで必要な材料を買いに行きますね」
「いや、いいよ。そこまでしなくても」
「遠慮しないでください。それくらいどうってことありませんから」
「そ、そうか……」
なんだか今日の神奈は妙に優しいな。すると、背後から誰かに肩を叩かれた。
「ちょっといいかな」
背後を振り向くと、ガタイのいい男三人と黒いマスクを付けた藍が立っていた。
「な、なんでしょう……?」
恐る恐る尋ねると一人の男が指をボキボキと鳴らし始めた。
「姉御からお前を拉致るように言われてな。悪いが付いてきてもらえるか? あと、そこのお嬢ちゃんも」
「……」
神奈は無表情で藍を見据えている。これは一体、どういう状態なんだ……
「姉御。このお嬢ちゃんは俺たちで遊んでいいんでしょう?」
「ああ。好きにしな。悪いね、純也君。ちょっと来てもらおうか。それにしても妹さんも一緒とはね。驚いたよ。ま、おかげで呼び出す手間も省けたけど」
「藍。これは一体……」
「こう見えても昔ちょっとヤンチャしててね。こいつらは私の元舎弟ってとこかな」
「元なんてとんでもございません、姉御! 俺たちは生涯姉御の舎弟です」
「そうですぜ姉御! 俺たちは一生、姉御に付いてきます!」
「姉御の為なら俺達、何でもする覚悟です!」
この三人、随分と姉御……じゃない、藍への忠誠心を持っているようだ。
「……とまぁ、こんな風に私を慕ってくれてるわけさ。私の恋愛の為に協力して欲しいってお願いしたら快く引き受けてくれてね」
それでこんな脅しのような卑劣な手を……昨日、神奈の言った通りなんという外道だろうか。
「お、俺なら何でも言うことを聞く! だから、妹のことは見逃してくれ!」
「悪いがそれはできない相談だよ。なんせ、純也君の妹さんは例の動画を持ってるからね。そいつを渡してもらわないといけないのさ。それに、誰かに助けを呼ばれても面倒だ。妹さんにも付いてきてもらうよ」
藍の威圧感に思わずたじろいだ。くそ、一体どうすれば……せめて神奈だけでも逃がせれば。
「ここは言う通りにしましょう。お兄様」
「お、お前……何言ってるんだ」
俺はおろか神奈だって危ない目に合うかもしれないのに言うことを聞くなんて、神奈はトチ狂ってしまったのかと思った。
「私なら大丈夫です。それで、私達はどこに行けばいいんですか?」
「へへへ……いい度胸だな。お嬢ちゃん。それじゃ付いてきな。たくさん楽しんであげるから」
背の高い男が気味の悪い笑みを受けべる。
俺たちが連れていかれたのは廃工場であった。廃工場の中は薄暗く、使われていない工具や機械などが置かれていた。
「ここなら一目は付かない。それじゃ、純也君の妹さん。まずはスマホを渡してもらおうか」
「お断りします」
神奈がスマホの提供を拒否すると、男の一人が神奈の肩に手を置く。
「おいおいお嬢ちゃん。冗談言っちゃいけねぇよ。早く渡しな。その後すぐに俺達が気持ちの良いことしてあげるからさ」
「おい、お前らいい加減に……」
我慢の限界に達した俺は神奈に絡んでいる男に飛び掛かろうとした
「が……!」
しかし、その男は顔を股間を抑え、青くして倒れ込んだ。神奈は右足を上げている。どうやら神奈がやったようだ。
「たった一撃で沈むなんて随分と軟弱なちんぽですね。そんなんで私をどうやって楽しませるつもりだったんでしょうか?」
し、信じられない……神奈の戦闘力にも驚かされたが、まさか神奈の口から『ちんぽ』という言葉が飛び出るなんて……
「てめぇ!」
もう一人が神奈に殴りかかった。しかし、神奈はあっさりと躱して背後を取り、股の間から見事な金的を決める。
「……」
男は無言のまま倒れる。神奈は残った最後の一人にゆっくりと近く。
「ひ、ひぃいいぃぃいい!」
戦意を失った最後の一人は逃げ出してしまった。
「姉御すみません!」「俺達には荷が重いっす!」
神奈から金的を食らった二人も立ち上がると、すぐさま廃工場から逃げ出してしまった。
「ちょ、ちょっとお前達!」
すごい神奈のやつ……たった一人で、それも二発でこのピンチを切り抜けた。
「で、誰が私を楽しませるんでしょうか? あなたですか? 女性の方を弄ぶのはあまり趣味じゃないんですけど……」
「……随分と強いんだね。純也君の妹さん。それじゃ、『シャロー・スワム・ラバーズ』の元リーダーであるこの浅沼藍が直々に相手をしてやろう!」
神奈と藍が互いにじっと見つめあった。廃工場の壁の隙間からピューという風が吹き込む。
「はあ!」「せいあ!」
互いの拳がぶつかり合う。二人は次から次へと技を繰り出した。見事な技の応酬である。神奈のやつ、こんなに強かったのか……
二人はスカートを着用しているため、普通に下着が見えてしまっているが全く気にしていないようである。
神奈がピンク色の無地のを履いているのに対して、藍は青を貴重としたストライプのものであった。
二人の脚、すごい綺麗だなという邪(よこしま)なことを考えてしまっていた自分がいた。
「隙ありです!」
五分近く互角の戦いを繰り広げていた二人だったが、ついに神奈のアッパーカットがクリーンヒットした。
「あが!」
藍はバタンと地面に倒れ込んだ。
「しばらくの間は動くことはできないでしょう……さてと、お兄様は外で待っていてください。いいですか? 絶対に中には入らないでください。覗くのもダメですからね!」
「え……でも」
「大丈夫ですから。それじゃお願いします!」
「わ、分かった……」
勢いに押され、俺は建物の外で神奈が戻って来るのを待つことにした。
「ら、らめぇ〜〜〜〜! お、おかしくなっちゃう〜〜〜!」
藍の大声が聞こえてきた。い、一体何してるんだ。
「ほらほら、ここが気持ち良いんでしょう? 分かりますよ。だってこんなにここ、濡れてるじゃないですか……」
「ひゃん! だめなの……そ、そこは弱いの……もう許してぇ……」
何やら『ピチャピチャ』という水音が聞こえてくる。何の音だ。
「あん! も、もう。む、無理。私……い、あ……」
声がピタリと止まり、しばらく経つと神奈が外から出てきた。何やら額に大粒の汗をかいており、神奈はそれを手の甲で拭った。
「ふー、やっと終わりました。それじゃお兄様。帰りましょう」
「えっとその……藍は?」
「時期に元に戻るでしょう。ちょっと懲らしめてやりました。多分、もうお兄様に絡んでくることはないんじゃないでしょうか」
「そ、そうか……」
一体、何をしたんだ。神奈のやつ。
「なぁ……一体、何をしたんだ?」
聞くのはとても怖かったが恐る恐る尋ねると、
「ふふ、それは企業秘密です!」
意味深な笑顔で神奈が答えた。