妹という魔力に魅了される男(あに)達 作:チャンドラ=グプタ
妹との再会 ⓵
「うあぁ、疲れた……」
夜遅くまで仕事をしていたこの俺、樋渡悟(ひわたりさとる)は職場を後にした。
重たい足をひきづりながら、家へと帰路を進める。
今の会社に入社してから二年以上が立ち、年齢は今年で二十五歳になる。会社では営業を担当しており、日々厳しいいノルマが課さられ、毎日のように夜遅くまで仕事をしている。
その為、プライベートの時間はほとんどなく、帰ってくると死んだように眠りこけるため、彼女もおらず独り身の状態が続いていた。
「彼女でもいればなぁ……」
彼女がいれば、毎日が少しは楽しくなるかもしれないが、できる気がしない。
暗い道を通りながら、そんなことを呟くも脳裏に過るのは妹ととの濃密な時であった。
俺は高校時代まで妹と一緒に暮らしていた。そう、高校時代までは何も変わらないごくごく普通の生活を送っていたのであった。
だがある時、俺は誤りを犯してしまったのである。
妹と一線を超えるという兄として、禁忌(タブー)とも呼べる行為をしてしまったのである。
帰り道を歩いていると、コンクリート塀に寄り掛かっている一人の女性を見かけた。
「うーん……」
サラサラとした茶色い髪に白いワイシャツを大きく押し上げている大きい胸を持つその女性は思わず目を見張るような美貌を持っていた。
女性に近づいてみると、眠っているのか目を閉じており、コクリコクリと頭を上下に動かしている。さらに、短めのスカーを履いているのにも関わらず、足を大きく開いており、白い下着が丸見えである。
疲れと合間ってか、一気に自分の血が股間に集まっていくのが感じられ、思わず生唾を飲み込む。
とても綺麗な女性なのにこれじゃ、痴女もいいところである。俺は放っておこうとも考えたが、軽く彼女の肩を叩いた。
なんというか、その……放っておく気にならなかったのである。どこか面影が妹と似ていた。
「君、大丈夫か?」
「うーん……もうこんなの無理……やりたくないよぉ」
女性は何やら訳の分からないことを呟いていた。何をやりたくないのだろうか。
「全くしょうがないな……」
俺は彼女に肩を貸すと、ゆっくりと立ち上がり、歩き出す事にした。
「君の家はどっち?」
「右に二百歩、左に六十三歩、そこで穴を掘る……」
彼女はまるで某ポケットにファンタジーのゲームにありそうな裏技的方法を呟き出した。だめだこりゃ。
悩んだ挙句、俺は彼女を自分の家に連れて行くことにした。
家に到着すると、玄関先で彼女を抱きかかえ、ソファーの上に置いた。
「うーん。無理だよ。こんなに描けないって……締め切りは破るためにあるの……」
本当……彼女はどんな夢を見ているのだろうか。寝言を呟く彼女を見つめながら、俺は明日になって彼女が正気になったら何と説明すべきだろうかと考えを駆け巡らせた。
――あなたが酔っ払って倒れていたので、家に連れて来ました。
だめだ、通報されてしまう気がしてならない。考えれば考えるほどナーバスな気分になってきた。こんなことなら、放っておくんだった。
気分を紛らわせるべく、シャワーを浴びる。シャワーを終えると、冷蔵庫に入っていた冷凍食品をレンジで温め、遅めの夕食を摂ることにした。
夕食を食べ終えた俺はスヤスヤと深い眠りに落ちている彼女の顔を覗き込んだ。
「……結衣にそっくりだな」
改めて彼女の表情を確認すると、俺の実の妹である樋渡結衣(ひわたりゆい)に似ていた。
結衣と一線を超えてしまった日。
俺は結衣が自分の部屋で自慰行為(オナニー)に耽っているのを覗き見てしまった。それがキッカケで性欲に歯止めが効かなくなり、妹に手を出してしまったのである。
「お兄ちゃん……」
彼女は『お兄ちゃん』という寝言を呟いた。まさか……この女性、結衣なのか。
「いや、それは流石に考えすぎか」
いくらなんでも早計であった。たまたまこの女性に兄がいたというだけだろう。しかし、彼女のことをじっと見ていると結衣のことを思い出し、間違いを起こしてしましそうだ。(家に連れてきている時点ですでに間違いを犯しているだろうというツッコミは控えていただきたい。)
彼女に触れてみたいという邪な考えが浮かび始めている。綺麗なブラウンの髪と大きい胸――触るととても気持ち良さそうである。
俺は彼女から離れ、歯を磨き終えるとベッドへと向かい、寝ることにした。
その日の夜、俺は結衣と過ごしていた時の夢を見た。
「お兄さんは私のこと好き?」
好きだ――そう言おうとして、目が覚めた。あの時も俺は好きだと伝えた。それが正解だったのかどうか分からない……いや、おそらく不正解だったのだろう。
結衣とは妹として、適度な距離を保っておけば良かったのである。そうしておけば、両親も離婚することなく、ごくごく普通に暮らしていくことができただろう。
「朝か……」
スマホで時刻を確認すると、すでに十時を過ぎていた。休日とは言え、少し寝すぎてしまったようである。昨日、家に連れてきた彼女も起きているかもしれない。というか、もう帰っているかもしれないな。
リビングに向かうと、何やら美味しそうな匂いがした。
「これは……」
テーブルに上には料理が並べられており、昨日連れてきた彼女はソファーに座り、テレビを視聴していた。
「あ、おはよう」
彼女は特段警戒する様子もなく、話しかけてきた。
「おはよう……それ、君が作ったくれたのか?」
テーブルの上にある料理を指差し、訊いた。
「うん。冷蔵庫にあった食材で適当に作ってみたんだけど、良かったら食べて」
俺は椅子に座り、彼女が作ってくれた卵焼きを一口食べてみた。
「どう?」
「うん、美味しいよ」
「そっか。良かった」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。その表情は結衣とピッタリと重なった。
「なぁ……その」
「ねぇ、昨日さ。私、ヤったの? 昨日、店で飲んだ後のこと全然覚えてないんだよね」
さらりと彼女はとんでもないことを訊いてきた。
「はぁ!?」
質問に驚いた俺は間抜けな声を上げてしまった。
「いやぁ、昨日の記憶が全然記憶がなくてさ、ヤっちゃったのかなーって」
彼女は屈託無い笑顔を見せる。それと同時にやるせない気持ちになった。なんだろう……俺はショックを受けているのだろうか。
「や、ヤってないよ。昨日、道端で君が気を失っていたから、とりあえずここに連れてきたんだ」
「そっかぁ。ヤらなかったんだー」
すると、彼女は立ち上がり椅子に座る。テーブルに肘を付き、掌に顔を乗せ、ニヤケながらで俺を見つめる。
「な、何だよ……」
俺は味噌汁を啜った。ダシが効いており、なかなか美味しかった。
「ねぇ、もしかして……童貞だったりするの?」
思わず、口から味噌汁を吹き出しそうになった。いきなりぶっ込みすぎだろう。
「ち、ちげーよ!」
俺は童貞であることを否定する。嘘ではない。一回だけであるが経験はある。もっとも、その相手というのは実の妹であるが。
「ふーん、そっかぁ……」
彼女は立ち上がると、扉の方に歩き始めた。
「どこに行くんだ?」
「帰るんだよ。わざわざ介抱してくれてありがとうね」
彼女は礼を言うと、家の外に出ようとした。俺は慌てて彼女を追いかける。
「ちょっと待ってくれ。名前を君の名前を訊いてもいいか?」
「ふふ、それは秘密。あと、これはお礼」
彼女は自身の唇を俺の唇に重ね合わせてきた。酒の匂いは全く残っておらず、フワリとした甘い桃のような匂いが鼻腔を突いた。
時間にして僅か数秒程のキスを終えると、彼女は家を後にした。
しばらくの間、心臓がバクバクと激しく脈打っていたが徐々に落ち着きを取り戻してきた。
もう彼女と会うこともないだろう。俺は再び彼女が作ってくれた料理を食べることにした。