妹という魔力に魅了される男(あに)達 作:チャンドラ=グプタ
りんかい線の電車に揺すられながら、俺は窓の外の景色を眺める。
現在、電車はレインボーブリッジを通り始め、お台場の象徴であるフジテレビ本社ビルが見えてきた。
お台場海浜公園ではたくさんの人で賑わっているのが確認できる。
「お台場すっごい楽しみだね。お兄ちゃん!」
「そうだな」
人生初となる妹とのお出掛け。今日はとことん楽しむつもりである。
十五分ほど電車に乗っていたが、やがて目的地である台場駅に到着した。
改札を潜り、徒歩でとある場所へと向かう。
「お兄ちゃん、もうどこに行くか決めてるの?」
「ああ。映画を見ようと思うんだがいいか?」
実は前々から見たいと思っていた映画があったのである。
その映画のジャンルは恋愛映画で、俺達が見るにはうってつけではないかと思った。
「うん!」
ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて、映画のチケットを二枚購入した。
さらにキャラメルポップコーンLサイズとジュースを二人分確保した。
俺達が視聴する映画は兄と妹が禁断の恋に落ちるという内容の映画である。
館内は比較的空いており、俺達は指定席に座ることにした。
上映が始まるのを花音と小さな声で雑談しながら待っていると、やがて会場内が薄暗くなってきた。
そして、スクリーンには映画の予告が流れ始める。
「すごい面白そうな映画だね!」
「うん、面白そうだ」
とりあえずは花音の意見に同意することにした。
予告の映画は突如として現れた悪魔族が人類の前に現れ、人類への宣戦布告をしてくるが、そこで世界各地のエクソシスト達が立ち上がり、悪魔族と壮絶な戦いを繰り広げるといったありきたりなもの。
実際のところ、面白いのかどうかは不明なところだ。上映は来月だし、その頃には花音はもう返却されている。
俺がこの映画を見ることはないだろう。
その後も次々と映画の予告が流れる。
あらかじめ断っておくと、俺は映画の予告時間がとても嫌いだ。
高いお金を払っているのだからとっとと本編を流せと思っている。
まぁ、他にも理由があるのだが……
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
ゾクッとした。ホラー映画の予告が流れると、主人公と思われる女性が恐ろしい形相をした悪霊に襲われるシーンが盛大にスクリーンに映った。
「お、お兄ちゃん……怖いよぉ」
花音が不安そうな表情で俺の手を握ってきた。
「大丈夫だ。俺がそばにいるから」
俺は虚勢を張ったがマジで心臓が止まるかと思った。
俺が映画の予告が嫌いな一番の理由――それはホラー映画の予告に耐性がないことであった。
コメディ映画を見る人にはコメディ映画の予告、SF映画を見る人にはSF映画の予告、そしてホラー映画を見る人にはホラー映画の予告のみを流して欲しいものだ。
こちとら恋愛映画を見に来ているのである。映画の予告を流すのならば恋愛映画の予告のみにして欲しい……もしくは、アニメ映画の予告とか。
ホラー映画がものすごく苦手な人間だっているんだぞ……ここに一人な。
やがて、『違法アップロードは犯罪です!』といういつもの注意事項が終わった後、ようやく本編が開始した。
「……面白いな」
映画に感銘を受けた俺は思わずそんな感想を漏らす。
最初こそポップコーンを食べたり、ジュースを飲んだりしながら映画を視聴していたが、どんどんその映画に引き込まれていった。
まず、出演者の演技力の高さが軒並み高い。主人公である兄の役者が熱演っぷりがすごかった。
また、妹役の女優の妹っぷりも高い演技力で良く表現できている。見ていて『こんな妹が欲しい!』と思ってしまう。
もっとも、今の俺には充分素晴らしい妹がいるのだが。
さらに映画のシナリオがとても良い。兄と妹が恋に落ちるまでの過程が丁寧に描かれており、どうして妹が兄のことを好きになったのかが説得力がある。
兄と妹の恋愛に対する障害の発生、それを乗り越える為に四苦八苦する様子が見ていてハラハラさせられ、全く飽きることがなかった。
映画のクライマックスである兄と妹の恋愛が無事成就し、ハッピーエンドを迎えるシーンでは思わず泣き出しそうになってしまった。
「いやー、すっごく面白かったね! お兄ちゃん! 私、感動しちゃったよ」
「ああ、そうだな」
映画を見終わった後、アクアシティお台場内のとあるレストランに入った。
花音と共に食事を嗜みながら、先ほどの映画について語り合った。
「あの、『妹は俺の最愛の人だ!』っていうセリフ、超痺れたよ!」
「俺もあのシーンは感動したな」
主人公が両親達に妹への愛情を打ち明けるシーン、胸にグッときた。
「お兄ちゃんも私にああいうセリフ、言ってくれる?」
「そ、それは……」
幾ら何でもああ言ったセリフを花音に面と向かって言うのは抵抗がある。
「えー、もしかして嫌なの?」
花音は少し悲しげな表情を浮かべた。
「嫌じゃないよ。少し恥ずかしいけど後で必ず言ってやるさ!」
「うん! 約束だよ!」
レストランから出た後、俺達はショッピングを楽しむことにした。
「わー! お兄ちゃん、すっごい似合う!」
花音が試着室の手前でパチパチパチと拍手を送る。
とある洋服屋に入り、花音が勧めてくれた服を試着してみたのである。
「そ、そうかな……」
「うん! すっごくかっこいいよ!」
気を良くした俺は値段もなかなかリーズナブルであるこの服を購入することにした。
「お兄ちゃん! 私にもなんか服を勧めてくれる?」
「そうだな……」
俺は花音の服を見繕うことにした。ベージュを基調としたシャツワンピースとワイドパンツを手に取る。
「これとかどうかな?」
「おお、良さそう。早速、試着してみるね!」
俺から服を受け取り、花音は試着室の中へと入りカーテンを閉める。
三分ほど試着室の外で待っていたがやがてカーテンが開いた。
「ど、どうかな……?」
「おぉ……!」
思わず感嘆の声が溢れる。俺が提案した服は花音によく似合っていた。
まぁ、容姿も良くスタイルも抜群の花音ならどの服を着ても似合うのだろうが。
「いい! すっごく良いよ。超似合ってる!」
「そっか……嬉しいな」
「花音はこの服欲しいか?」
「え、うん。お兄ちゃんが勧めてくれた服だし。けど、この服結構高いからちょっと買うのは厳しいかな……」
確かに花音の言う通り、俺が勧めたその服は結構な値段である。
「気にするな。花音の為だ。買ってやるよ」
「え? けど……いいの?」
「ああ」
普段、俺はお金を使う機会がほとんどない。その為、払えないことはなかった。
「ありがとう! お兄ちゃん!」
洋服屋を出た後は日本化学未来館、葛西臨海公園水族園、デックス東京ビーチといったデートスポットを見て回ることにした。
普段だと一人で来ることがない場所である為、俺自身もかなり楽しめた。
「そろそろ暗くなってきたね、お兄ちゃん」
「そうだな。なぁ、自由の女神像を見に行かないか? そろそろライトアップされる時間なんだが……」
「うん! 行こう!」
お台場海浜公園にある自由の女神像の近くに向かうことにした。
そこでは数多のカップル達がパートナーと肩を寄せ合いながらライトアップされている自由の女神像を眺めている。
「綺麗だね、お兄ちゃん」
「ああ」
自由の女神像は赤、青、紫と次々に色を変えながらライトアップされる。
しかし、俺はそんな自由の女神像よりも人間離れした美貌を誇る花音の方に目を奪われていた。
電灯が花音の金髪のツインテールを照らし、綺麗に輝いておりとても神々しい。
「お兄ちゃん、今日はすっごい楽しかったよ」
「俺もだ。こんなに楽しい日は初めてだよ」
思い返せば、俺の毎日は大して楽しくなかった。
高校時代は今の大学に入るべく必死に勉強していた為、遊んだりしたことはほとんどない。
大学に入学してからも授業に一人で出来るアプリ開発のバイトとエロゲに勤しむ毎日で他人と関わることはほとんどなかった。
しかし、今日花音と一緒にお出掛けをしてこんな楽しい世界があったのかと気づくことができた。
「ねぇ……お兄ちゃん。私、お兄ちゃんのことが好きだよ」
花音が俺の肩にそっと頭を乗せてきた。肩に軽い重力が感じられる。
「そ、そっか……嬉しいよ」
「お兄ちゃんとならその……してもいいと思ってるよ」
「お、おい花音。何を言って……」
すると、花音は俺の肩を掴み、じっと見つめてきた。
「ねぇ、今日さ。良かったらホテルに泊まらない?」
花音のとんでもない提案に俺は思考がフリーズしそうであった。
ホテルってあれだよな……ラブホテル……つまりエッチするってことか?
妹とエッチするだと? いや、花音は血の繋がった妹じゃないし、というかロボットである。
そもそもロボットとエッチすることなんて出来るんだろうか? エッチして故障などしたりしないのだろうか。
「えっと、その……」
「やっぱり……いや?」
花音が上目遣いで訊いてきた。だめだ、めちゃくちゃ可愛い。
こうなりゃもうどうとでもなれだ。
「もちろん良いよ」
新橋駅を降り、駅の近くにあるラブホテルへと入る。当然ながら、俺はこういったところには一度足りとも入ったことはない。
フロントで手続きを済ませ、キーを受け取る。そこで驚いたのがフロントの受付部分は目隠し用のカバーがついており、受付の人と顔を合わせずに済むようになっていた。
部屋の中には豪華そうなベッドとテレビやソファーなどが備え付けられていた。
「わー、すっごい!」
花音は靴を脱ぐとベッドの上にダイブした。
「えへへへ……すっごい。ベッドふっかふか」
花音はベッドの感触を確かめている。そんな花音の様子を見て、すでに俺の頭の中はピンク色に染まっている。
あかん……これは少し気分を落ち着けねば。
「花音、先にシャワー浴びて来てもいいか?」
俺が訊くと、花音が「ちょっと待って!」と言い、ベッドから立ち上がった。
花音は俺に近づき、腕を絡ませてくる。
「せっかくだし……一緒にシャワー浴びようよ。いいでしょ、お兄ちゃん!」
「あ、あぁ……」
俺は内心とてもドキドキしながら花音とともに浴室へと向かった。