※この作品はR-18です。

TS転生者inFGO   作:レシプロ至上主義者

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 どうにか年内に投稿できました。
 
 来年もFGO、そしてFateシリーズがさらに盛り上がることを祈りつつ、皆様よいお年を!


消せぬ願い、霧中の決断

 藤丸視点

 

 客を呼び込む売り子の声、行きかう人々の明るい声と表情、今も昼夜兼行で行われている工事の騒音――それらが一つとなって活気に満ちた空気となる。

 腕章をつけた警備と思わしき人物たちが、あちこちを巡回して治安維持にあたっている。グレイがいうには、彼らはみなホムンクルスらしいが、地上で見かけたものとは比較にならないほど人間らしい外見をしていることに驚きを隠せない。

 グレイの案内で無事たどり着いた地下街は、九龍城砦をイメージしていた俺の想像を木端微塵に打ち砕く、健全かつ安全な街だった。

 

 「すごい……! 地上があんなになってるのに、活気がある! それに物資もあるし治安が保たれてるなんて……」

 「活気に関しては、むしろ地上がああなっているからここが盛況になったのかと。ここは生活物資だけでなく娯楽も充実してますから」

 

 感嘆の念に満ちた俺の言葉にはにかみながら説明するグレイは、どこか自慢げに見える。主が築き上げた街を褒められて嬉しいのだろう。

 フードをかぶっていても隠し切れない端正な顔――そこに、俺は妙な既視感を覚える。

 出会った当初は器薄のことに意識が向いていたから気が付かなかったが、改めて見るとグレイと瓜二つの人間と会っていたような気がする。髪の色や雰囲気はまるで違うけど、顔の造形は完璧に一致する。確かローマかどこかで――。

 

 「あ、あの? 拙に何か?」

 「へっ? あ、いや、その……」

 

 既視感の答えを探るべく記憶を紐解いていると、グレイの声で意識が過去から現在に戻る。

 グレイは俺から数歩離れた位置で、怯えた目でこちらを見ている。小柄な体格と相まって小動物をいじめているような気分になってしまう。

 我に返って彼女を凝視していたことに気が付き、気まずさと気恥ずかしさからしどろもどろになっていると――

 

 「ふ~じ~ま~る~?」

 

 耳に入る、普段聞くと心が温かくなるのに、今日に限って寒気がする愛しい人の声。

 

 「き、器薄……」

 

 声がしたほうを向くと腰に手を当て、にっこりと笑ってらっしゃる恋人様。

 後ろではマシュが気まずそうに視線をそらしている。助けは期待できそうにない。

 

 「マシュとともに出口の見えぬ地下迷路を這いずりまわること4日。ようやく会えたかと思えば女の子の顔を凝視して怯えさせているとは、いやはやあの純真で可愛らしかった藤丸立香くんは一体どこへ行ってしまったのやら」

 「ま、待って、いや待ってください器薄さま。違うんです、これは……」

 「悲しいなぁ……、私の大好きだった藤丸は以前、離れ離れになったあと再会できたとき、私の名前を呼びながら抱きしめてくれたのに――」

 「ごめんなさい! 好きです! 大好きです! 私、藤丸立香は今でも沙条器薄のことを世界で一番愛しています!」

 

 大声で必死に愛を叫ぶと、押しつぶされそうな威圧感が薄まった。が、相変わらず目は細めたままだ。

 結局、機嫌を直すのに1時間かかった。

 

 

 

 

 

 主人公視点

 

 やっと合流できた恋人が赤の他人とラブコメしてやがったので、つい大人げないことをしてしまった。後悔はしていない。

 気が済むまで藤丸をいじめたあと、俺たちは街の中央に位置する館。その内にある執務室とプレートに刻まれた扉の前にいる。

 ここに俺の原作知識にない、グレイを含め複数の英霊のマスター(と思われる人物)がいる……、そう思うと緊張を隠せない。

  

 「器薄、緊張してる?」

 「……まあね。短期間であれだけの街を作って、運営までやって、その上多くの英霊を従えてる……こんなの、人並外れた才能がなければできない」

 

 原作知識にない存在だけでも恐ろしいのに、これまで見聞きした情報でも優秀なことが分かる相手を警戒しないほうが無理だ。

 

 「大丈夫だよ。グレイにここまで案内させたってことは、少なくとも今すぐどうにかしようってつもりはないはずだから」

 「……まあメンタルが強くて、理性的な人ではあるんだろうね。人理焼却を知っても今を生き残るためにこうやってあれこれ手を打ってるみたいだし」

 「皆さん、お待たせ致しました。拙の主がお会いになるそうです」

  

 藤丸の励ましに少し気が軽くなったそのとき、扉からひょっこり顔を出したグレイが入室の許可が下りたことを告げる。

 

 「「失礼します」」

  

 藤丸と声を合わせて入室する。

 落ち着いた色合いの品の良さを感じさせる内装の部屋。俺たちから見て真正面にある机に彼女はいた。

 

 「やあ、初めまして。私がこの街の管理者であり、君たちの迎えにグレイを寄越した英霊、真名を――ライネス・エルメロイ・アーチゾルテという。以後お見知りおきを、人類に残された2人のマスター」

 

 西洋人形のように整った容姿をした少女は礼儀正しく一礼する。洗練された所作は彼女の教育水準の高さを物語っている。

 というか、ライネス? ライネスは司馬懿の依り代として現界した疑似サーヴァントのはずなんだが、隠してるのか? だとしたらなぜ?

  

 「……エルメロイ? ドクター、知ってる?」

 『ああ、エルメロイの名は有名だよ。魔術の総本山、時計塔のロードを輩出してきた名門だ。だが英霊に至れるような人物はいないはず……、あなたがなぜ英霊となったのか、教えていただけますか? レディ・エルメロイ』

 「君たちからしてみれば当然の疑問だね、もちろんいいとも。まず最初に言っておくが、私は正規の英霊ではない。この地に縁のあった人間のデータを基にして生まれた、いわば英霊のようなナニカだ」

 

 あ、なるほど。つまり自然発生した贋作英霊みたいなものだからFGOのライネスと違って疑似サーヴァントじゃないのか。

 だがそうなると次の疑問が生まれる。原作にいなかった彼女がどうしてこの世界では現れたのか、贋作とはいえ英霊である彼女がどうやってグレイたちに魔力を供給してきたのか、だ。

 これに関してはほぼ答えが出ている。

 

 「あなたがどんな存在なのかは分かったけど、ならどうやって、あなたはそんな曖昧な存在である自分を維持しているんですか?」

 「…………そうか、英霊はマスターから魔力を供給されるのが普通。グレイたちに魔力を供給しているのがライネスさんならそんな魔力をどこから得て……」

 「ふむ、君たちのお探しの品は、もしかしてこれのことかな?」

 

 彼女は手のひらに虚空より取り出してみせる。――莫大な魔力を貯蓄した黄金の杯を。

 

 「それは……!」

 『この反応……! 間違いない、彼女が保有しているのは聖杯だ!』

 

 やっぱ持ってたよ聖杯。贋作英霊1騎と複数の英霊の維持できる魔力なんて一部例外を除けば聖杯じゃなきゃ無理だからな。

 

 「ふふっ、やはりこれをお求めか。まあ魔術師ならばこれを求めるのも分かるがね。しかしこれは私がこの街を維持するのに欠かせない代物だ。はいそうですかと譲るわけにはいかない。――なのでこうしよう。いま私が抱えている問題のいくつかを解決し、このロンドンの地下、その最奥にて霧を発生させている装置・アングルボダを止めてくれるのであれば……この杯を譲ることも吝かではない」

 

 それ、この特異点のストーリー上、お使いやって特異点クリアしたらあげるよって言ってるのと同じなんですが……。というか、

 

 「問題のいくつか、とおっしゃいましたが、どの程度なんですか? 上限かなにかを決めていただかないと受けることはできません」

 「うん、確かにその通りだ。ではこうしよう、5つ。いま私が直面している5つの難題を解決し、アングルボダを止めたらこの魔力タンクは君たちに譲ろう。それでどうだね?」

 「……藤丸、どう思う?」

 「……正直、裏があるとは思うけど、迷ってはいられない。特異点攻略のためにも聖杯を手に入れないと」

 

 それなんだよなぁ……。何故かこの偽ライネスが手にしているこの特異点の(・・・・)聖杯を無視することはカルデアとしては絶対にできない。人理定礎復元のためだけでない、聖杯は魔力リソースとしても非常に魅力的な代物だからだ。

 まあ、それを今回横からかすめ取るわけですが。あれ? 俺ってばカルデアっていうか、下手したら人類の敵? いや恋人として藤丸支えてるし特異点攻略にもしっかり貢献しているからセーフセーフ。

  

 「話は決まったようだね。ではこれから(・・・・)色々と(・・・)お願いするよ、藤丸立香」

 「……よろしく」

 

 上品にほほ笑むと右手を藤丸に差し出す。藤丸も握手に応じるがあまり気分がよさそうには見えない。

 まあ理由は何となく分かる。表面上は品のよさそうな令嬢の笑みだけど、勘のいい奴にはおもちゃを見つけた悪魔の笑みに見えてしまう、ライネスが浮かべているのはそんな笑みだ。流石愉悦部。

 とか考えていたら笑顔のままこっち見てきた。読心かなにかできるんですか?

 

 「沙条器薄、君にも是非お願いしたい仕事があるんだ。だから……ここを去るまでの間、よろしく」

 「…………はい」

 「ああ、そちらのマシュ・キリエライトも沙条器薄とともに励んでほしい」

 「はっはい! 分かりました!」

 「結構、では退室してよろしい」

 『待ってほしい、レディ・エルメロイ。最後に貴方を召還した魔術師について教えてほしい。グレイの話では召喚者・沙条愛歌から僕たちが来ることと、その座標まで教わっていた。彼女について知っていることを教えてもらいたい』

 

 流れるようにくぎを刺されてから退室を促されたところでロマニが待ったをかける。

 いや待って、沙条愛歌? あの根源接続者がいんの? もしいたら史実通り男のほうのアーサー王呼ぶしかないんだけど。

 

 「ああ、彼女のことか。……彼女については私もよく知らない。私のようなまがい物を作ったかと思ったら、君たちカルデアの情報を寄越して『彼らがここに来るまでこの特異点を持たせろ』の一言言ったら消えてしまった。だから君たちの知りたいことの多くは答えたくとも答えられない」

 『……そうですか』

 

 疑わしい。疑わしいが追及しても白を切られればどうしようもない。追及できるだけの情報の類をこちらは持っていないのだから。

 この場はとりあえず解散ということで、今度こそ退室すべく俺たちは背を向ける。

 

 「ああそうだ藤丸、1ついいかな?」

 「えっ何ですか?」

 

 扉をくぐる直前に呼び止められる。

 戦々恐々としている藤丸にライネスは先ほどとは違う、温かみに満ちた笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 「そう身構えなくてもいい。簡単なことだよ――グレイと仲良くしてやってくれ。ただそれだけさ」

 

 

 

 

 

 俺たちの拠点として宛がわれた一軒家にて今後の方針を決めるべく会議が始まる。なおロマニたちは不参加。理由は通信が安定しないから。

 口火を切ったのは藤丸だ。

 

 「今後についてだけど、とりあえずライネスから連絡があるまでは地上に取り残された人を街に避難させるのを手伝うのはどうかな? グレイに聞いたんだけど、日雇いのバイトみたいなのにそういうのがあるらしいんだ」

  

 優しくてお人好しの藤丸らしい意見だ。

 俺としてもあの2人は助けてやりたいし、藤丸の言うとおりライネスからの連絡を待ちつつ、それまでは日雇いのバイトをするのが妥当だろう。

 

 「いいよ。私もここに来るまでにお世話になった人がいるから。それにここで生活するにはここの通貨が必須だし。マシュもそれでいい?」

 「………………」

 

 隣の後輩系デミ・サーヴァントに同意を求めると、何やら考え込んでいるご様子。

 

 「マシュ?」

 「……先輩、器薄さん。少しよろしいでしょうか?」

 

 何だろう、嫌な予感がする。このマシュが賢くなる時って基本、エロが絡むときだから。

 

 「ええと、どうかしたの?」

 「今気が付いたのですが……もしかすると、もうライネスさんは我々に5つの難題の1つを依頼しているかもしれません」

 「うぇ?」

 

 驚きのあまり変な声が出てしまった。

 つーかいつそんなイベントあったよ?

 

 「先輩はライネスさんに別れ際、グレイさんと仲良くしてほしいとお願いされましたよね。あれがライネスさんのおっしゃっていた難題の1つではないでしょうか?」

 「……でもライネスは難題とは一言も言ってなかったし、それならそうときちんと説明してお願いすると思うんだけど……」

 「憶測ですが、ライネスさんはおそらく詳しい説明などはしない方です。あの聖杯に関する説明からそう判断します」

 

 聖杯の説明って普通に………………あっ、

 

 「あの聖杯をどこで、どうやって手に入れたのかを全然話してない……! っていうか、そもそもあれを聖杯とすら言ってない!」

 「はい。彼女はあの聖杯を一度も『聖杯』とは言っていません。ただ魔力を溜めこんだ杯である、としか。付け加えるならこの特異点の聖杯とも言っていません。第3特異点のドレイクさんの例もありますので……」

 「……性格が悪い、なんてものじゃないね」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする藤丸。多分、俺も似たような顔してるんだろうなーと思いつつ、ライネスってそんな性格だったけ? と記憶の海へ手を突っ込む。

 内面はまあ、その、愉悦部だし「人の嫌がることを積極的にやるのが好きだ」とかなんとか言っちゃう人だけど、何となく違和感を感じる。贋作だからと言われれば、そこまでなんだが。

 まあそこは置いといて、だ。

 

 「何かを隠してる……? でもなにを?」

 「分かりません。ですが、彼女の聖杯は特異点の原因とは無関係と見たほうがいいと思います。特異点の聖杯が関係しているのは、アングルボダかと」

 「……とりあえず、今後の予定としてはグレイと仲良くしつつライネスからの指示待ち、でいいかな?」

 「それと並列して情報収集を進めていきましょう」

 

 藤丸・マシュの案が採用された。俺? 反対する理由もないので賛成です。

 

 

 

 

 

 藤丸視点

 

 会議の結果、ライネスの依頼を遂行すべく、俺はできるだけグレイと一緒に行動するようになった。

 最初は器薄やマシュが一緒にいたけど、ライネスが俺を指定してきたことから、2人がいると何かしらちょっかいをかけてくる可能性を危惧したために段階的に2人きりの時間を増やしていった。

  

 具体的には、

 

 「バイト先からライブのペアチケットを貰ったんだけど、グレイも一緒に行かない?」

 「ええと、……2枚目のほうでよければ、ぜひ」

 「1枚目はだめなの?」

 「そっちはその、命の危険があるので……」

 「命の、危険」

 「はい」

 

 グレイの忠告に従い、「エリちゃんとネロちゃまのスペシャルライブ」なる方へは行かず、「マリーと動物たちの音楽会」に行った。マリーと動物たちが音楽に合わせて一緒に歌う姿はとても可愛らしく、隣にいたグレイも笑顔を浮かべながら一緒に音楽会を楽しんだ。

 ……なおスペシャルライブのほうは地獄絵図だった、らしい。らしいというのは直接見たわけじゃないからだけど、音楽会終了後に参加した救助活動で見た会場内の死屍累々の惨状からして事実だろう。

 

 とデートみたいなことしたりして、気が付けば1週間。

 グレイにアプローチを始めて7日目となる今日は久しぶりに器薄とマシュの3人で休日を過ごそうしていた。

 が、その予定はグレイからの一報で崩れ去った。

 

 「ライネスからの依頼?」

 「皆さんにお願いする5つの難題の1つだそうです」

 

 朝食を食べ終わったタイミングで、見計らったように現れたグレイによると地下湖――街に侵入しようとした敵サーヴァントを討伐する際に出来てしまったその周囲に大量の死霊系エネミーが出現しているらしい。

 なので死霊を一掃してほしい。ついでに地下湖の周りには何人か人が住みついているので彼らの保護もお願いする――これが正式にライネスに依頼された難題の内容だった。

 ようやく来た難題。休日が潰れるのはつらいが、後日に回すことにして早速現地に向かった。

  

 「ここか……」

  

 この1週間でナビゲーターとしての技量を上げたグレイの案内で着いた地底湖は霧がかかっており、カビや腐敗などの臭いも合わさってホラーな雰囲気が出来上がっている。

  

 「あばら家がいくつか建ってるけど、ここにも悪霊とかが来るのよね?」

 「はい、霊除けの魔術礼装もあるそうですが、強力な霊には効果が薄いんです」

  

 家が足りないために街に入りたくとも入れない者たちの住み家。今も開発は急ピッチで進められているが、それでも生き残った住人全てを受け入れることはできていない。

 

「初めに沙条さんたちにお願いしたいことがあります。これは拙の主の願いでもあります」

「お願い?」

 「はい――拙たちが戻ってくるまで、沙条さんたちはここで待機していてください」

 

 有無を言わさぬ強い意志が込められた言葉と瞳。気圧されて思わず頷いてしまう。

 

 「ありがとうございます。――藤丸さん、行きましょう」

 「う、うん分かった。器薄、マシュ、気をつけて」

 「それはこっちの台詞だよ藤丸……。うん、気をつけて」

 「先輩、何かあったらすぐに連絡を。沙条さんとすぐに駆け付けます」

 

 グレイに手を引かれ、霧の迷宮に侵入する。

 背筋に寒気が走ったのは、入り口からすでにおぞましい気配が感じ取れたせいだと、この時はそう思っていた。

 

 

 

 

 死霊退治開始から3時間。

 

 「これで……! 最後!」

 

 グレイの一撃で消滅する死霊。これでこのあたりの死霊は一掃できたはずだ。

 心なしか、周囲の空気が軽くなった気がする。

 

 「お疲れ、グレイ。じゃあ器薄たちに連絡したら帰ろうか」

 「いえ……藤丸さん、申し訳ありませんがまだ仕事が残っています」

 「えっ? でももう死霊は全部倒したし……」

 「死霊はもういませんが、人はまだいるかもしれません。あそこです」

 

 あそこと指をさした先には、地下湖入り口で見たものより頑丈そうな小屋がある。窓からは薄っすら明かりのようなものも。

 

 「あそこには管理人の方が住んでいたんです。……生存は絶望的かもしれませんが、主はできうる限り助けてほしいと言っておられました。あの小屋を念のため調べたいのですが……よろしいですか?」

 「そういうことなら、喜んでやるよ。見捨てるわけにはいかないからね」

 

 生きているなら是が非でも助けないといけないし、死んでいたとしても遺品を家族に届け、遺体を埋葬してあげなければ。

 死霊の生き残りに警戒しつつ扉を開けて――強烈な違和感を感じた。

 

 「……? っ!? こ、れって……」

 

 部屋に入った瞬間にまるで全身を泥に包まれているように動きが鈍くなり、視界は歪んだガラスを通して見ているように不鮮明になった。

 背中を小さな手で押されて進むごとに動悸が激しくなり、頭がゆだっていく。

 この感覚を俺は知っている。前に魔術の勉強の際、器薄に魅了の魔術をかけられたときと同じ……。

 

 「えいっ」

 

 可愛らしい掛け声とともにベッドに押し倒される。

 下手人のグレイは喜色と後悔が一緒くたになった表情でこちらを見下ろしている。

 ――嵌められた。ほとんど働かなくなった脳でそれを理解する。

 

 「グ……レ、イ……。どう、して……?」

 「………………」

  

 灰色の少女は答えることなく俺に馬乗りとなる。

 

 「グレイ、まって……。こんなことしちゃいけない」

 「ごめんなさい」

 

 くしゃくしゃになった顔で、言葉にかぶせるように謝罪する。

 

 「これが許されないことだと、分かっています。でも、これは拙の譲れない願いなんです」

 「……? どういう、こと……?」

 「拙は……拙たちはもう終わった者です(・・・・・・・・・・・・・)。ですが、諦めきれない、諦めたくない。そんな想いを抱く拙たちが区切りをつけるために、拙は貴方とシたいんです」

 

 これ以上は言葉は不要とばかりにグレイは俺の上着を脱がす。そこそこ鍛えられた俺の上半身にねっとりと舌を這わせてきた。

 

 「ん……れろ、んあ……」

 

 グレイの唾液と俺の汗が混ざって舌が這ったあとに道を作る。

 鎖骨、乳首、鳩尾、腹筋、脇腹……順序良く丁寧に舐めていく。温かい舌と唾液の感触に愚息は素直に反応する。

 

 「ふふっ……。大きく、なりましたね……」

 「っ! それは……!」

 「拙の魅了のせい、ですよね? 分かっています」

 

 ズボンを押し上げるそれについて言及され、とっさに反論しようとするも全てを見透かしたかのような笑みを前に口ごもってしまう。

 

 「……本当はもっと前戯に時間を割きたかったのですが、彼女たちのこともありますし…………本番、シましょうか。……でもその前に」

 

 ズボンを脱がし、自分も服を脱いでいたグレイは身を乗り出して顔を近づけて、

 

 「んっ……、んちゅ」

 「んぐーっ!?」

 

 キスしてきた。

 ふにっと柔らかい感触。押し付けては離してを繰り返し、唇の感触を余すことなくこちらに伝えてくる。

 

 「やっぱりキスはいいですね……」

 

 幸せそうに微笑みながら残った服を脱ぎ捨てて、本番に挑む彼女が選んだ服装はフードとニーソを残した倒錯的な恰好。

 これまで接してきた大人しく彼女からは想像できない淫らでそそるその姿に、さっきからいうことを聞かない愚息はもう暴発寸前である。

  

 「――ふっ、ぐっ!? ああああ……っ!」

  

 無垢なワレメに俺の肉棒が飲み込まれていく。

 苦しげな声を上げながらも最後まで捕食しきったグレイは休むことなく腰を動かす。ぬちゃぬちゃと膣と肉棒を保護する愛液が音を立て、俺たち2人の生殖行動をサポートする。

 対するこちらはグレイを止めるでもなく、自分から腰を動かすこともなく、ただ動かず耐えることしかできない。魅了の魔術で盛っている体は、ちょっとでも動かせばグレイの膣内に吐精する状態なのだ。

 最初の挿入で暴発しなかった己の肉棒を褒めてやりたいが、このままではその努力も水泡に帰すだろう。何とかしてグレイの止めなければならないのだが……、

 

 「はっ、はあっ……! 藤丸さん……どう、でしょうか? んっ! 拙の膣内は……? 藤丸さんのお、おちんちん……気持ちよく、んんっ! できてますか……?」

 

 涙を流しながらも動きを止めず、こちらを気遣う少女の健気さに自分が逆レイプされていることを忘れそうになる。そんな状態だから止めることはできそうにない。

 魅了の影響なのか、グレイの裸体が目に焼き付いて離れない。揺れる小ぶりな乳房と先端のピンクの突起も、可愛らしいへその緒も、魅力的な脚線美を描く足も、まるで器薄とセックスしてるように彼女の全てを愛おしく思ってしまう。

 

 「あっ! いまビクッてしましたよね? もしかして、ふあっ! ん、出そう……なんですか? …………遠慮なさらず、出して、ください。我慢しないで、拙の膣内に全部……!」

 

 切なげにきゅううっと締まる膣に俺は耐えることができなかった。

 ぶびゅるううっ! とダムが決壊したかのような大量の精液がグレイの子宮に放出され、逆流した精液が2人の結合部を汚す。

 グレイは両手を握りしめ、下唇を嚙みながらぷるぷる震えている。絶頂したのだろう、これまでの性経験からそのくらいは察せる。

 これで終わりかと安堵していたら、グレイが腰を揺らし始めた。精液でぬめり気が増した膣壁に擦られた愚息が再び立ち上がる。

  

 「……もう一度、お願いしますね……?」

 

 艶やかな表情で告げると、魅惑的な肢体が踊りだした。

 

 

 

 

 

 主人公視点

 

 「沙条さん…………いいんですか?」

 「マシュ。いいもなにも、ここの人たちを放っておくわけにもいかないでしょ?」

 「それはそうですが、もう夜になります。朝に出撃したことを考えると遅すぎます。何かあったと見るべきです」

 「………………」

 「先輩からの連絡は一切ありません。こちらの呼びかけに応じることもない。これを異常事態と判断しないのには無理があります」

 「……………………」

 「沙条さん、決断を。不肖、マシュ・キリエライトはいつでもいけます」

 

 マシュの言っていることは分かる。俺も藤丸の身に何かあったのかと思うと今にでも霧の中に飛び込みそうになる。

 だが、霧の内に消える前に聞いたグレイの言葉が俺の頭の中で反すうする。

 

 『――拙たちが戻ってくるまで、沙条さんたちはここで待機していてください』

 

 あれは「危険だからここで待っていろ」という意味だけでなく、自分たちを遠ざけたいがための言葉ではないか?

 もしそうなら、あの言葉は警告の可能性が高い。

 そうだった場合、ここで動けば俺たちだけでなく、藤丸にも危害が加えられるだろう。

 だが動かなければ…………とうだうだ考え続け、俺は決断を下す。

 

「決めたよ、マシュ。私は――」

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