食事というものはどのような意味を持つだろうか。
生きるための栄養摂取?まあ確かにその通りだと思う。
でも、そのためだけの行為だとしたら、敢えて味付けだとか、おいしく食べるための工夫なんてしなくていいわけで・・・・・その栄養摂取すら必要なくなった今の自分は、食事という行為に、果たしてどれほどの価値を見出せるだろうか。
案外、食事ってやつは娯楽だとか、メンタルケアの側面が強いのかもしれない。・・・・・
・・・・一つだけ心配事があるとすれば、『タベル』こと自体に極上の快楽を感じるようになった者は、『空腹』に耐えられるのかってことだ。
「あー疲れた」
城の外に出てみたい。そう思ってしまったのが運の尽きだったのか、そうでないのか。今となっては判らないが、絶賛五里霧中で迷子である。
ちょっとした好奇心が積もりに積もって、どうしようもなくなって、どうしようかと思っていたところで、気が付いたらここにいた。ありのまま先日起こったことを話そう。
「おれは神綺と一緒に寝ていたと思ったら、いつのまにか森にいた。」催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・
「いやー、それにしても」
森。どこまで行っても森である。初めて見る植物や動物に心を動かされていたのも初めの数日だけで、そこから先は心細さの方が大きくなって、神綺が恋しくなる一方だった。
自分より体躯の大きい獣や妖怪もたまに見かけたし、今まで襲われなかったのが奇跡というかいつでも死ぬ危険がある絶望というか。神綺が頑なに城の外に出してくれなかった理由が、今ならわかる気がする。
「腹、減ったなあ。」
厳密にいうと減ってない。不蝕の術はどうやら空腹感もあまり感じなくなるようだ。なので肉体的な面ではなく、精神的な面で。とにかく何でもいいから口にしたい。食べられるもので、毒がないなら何でもいい。一昨日あたりにそこら辺に自生しているキノコを口にしたところ、地獄を見たのでできるならキノコ以外がいい。
「そこら辺に、神綺の手料理でも落ちてないかな・・・ん?なんだ、あれ」
その時俺が見たのは・・・何といえばいいか・・・黒。 でかくて、まるい、黒の玉。
そいつが、真っ昼間にもかかわらず夜を連れてきたような、月の出てない闇夜を切り取ってきたかのような。ともかく、そんな風に錯覚するものがこちらに向かってきた。
ふわふわと、という生易しい感じじゃなく、ゴリゴリと、ズリズリと、周りの木々や地面を飲み込んでいるかのように――――後から考えてみれば、実際に飲み込んでいたんだろうけど―――――その時の恐怖ったらなかったね。恥ずかしい話、俺は腰が抜けて動けなかった。神綺との、ぬるま湯のような生活をずっと続けてきた俺には刺激が強すぎたのだ。
「な・・・・な・・・・・・」
「あら?」
声が聞こえた。女の声。
すぐに声の主が姿を現した。闇の中から。宙に浮いて。
その女は、まず、黒とのコントラストが映える金髪のボブ。次に、宝石かと見紛うほどの真紅の瞳、同色のネクタイ。そして、白黒の洋服に黒のロングスカート、足には黒い靴と白いソックスを履いた・・・それはそれは美しい女だった。この際だからはっきり言うが、俺は一目見た瞬間その美少女に惚れた。これは俺が惚れっぽいというわけじゃあなくて・・・さっきまで恐怖の象徴であった黒球から、絶世の美女が出てきたというあまりのギャップに魅せられたのだ、ということにしておく。
「人間とあうなんて、珍しいこともあるものね。」
そう言って美少女は俺に近づいてきた。今までの言動から分かったが、やはり、人間ではないようだ。
「それじゃあ、いただきま~す。」
彼女はほぼ間違いなく妖怪だろう。そして妖怪なら人間と会えば、とる行動は一つ。
彼女はいまだに動けない俺の上にのしかかってきた。所謂マウントポジションとでもいうのか。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一応、この後の俺の反応についての誤解を防ぐために、皆さんに、前もって知っておいてほしいことがある。予備知識というやつだ。是非とも聴いてもらいたい。
生物というのは自身が命の危機に瀕したときに、生殖本能が働くらしい。自分の子孫を残そうとするのだという。個体として見ればいずれは終わりを迎えるため、自分の種を存続させようとするのは、当然と言って然るべきだ。つまりだ、何が言いたいかっていうと、まあ、不老の体になったとはいえ、生体反応がないかといわれると違うので、俺の体にもソレが起こった、というか・・・起った、というか・・・まあその・・・ナニが、アレなもんで、コレが、アレしたのだった・・・・・・・――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あら?・・・フフフ・・・」
「・・・」
マズイ、不味い、気まずい・・・よりにもよってこの状況で自己主張し始めた俺のムスコは、それはもう立派に隆起して、彼女の黒いロングスカートを持ち上げ、堂々と、その存在感を放つのであった。
その上、最悪なことに、彼女はソレを目敏く見つけると、少し笑ったのだった。あ、笑った顔もやっぱりかわいいんだな。・・・いやいやそうじゃねー!!!!
残念なことに、人生経験の不足している俺は、この状況を上手く切り抜ける術を持ち合わせていない。人生経験豊富な人に任せられるのなら任せたいところだ・・・・・・・・・そもそも論として、「初対面の妖怪女子に襲われたときに、不意の勃起を見られる」という状況は、人生経験の有無で何とかなる問題だろうか?仮に何とかなったとして、そいつの人生経験を指して『豊か』と表現していいのか分からない。
(じ――――――――)
「・・・」
あああ、すごい見られてる・・・注視している・・・
もうこの状況に耐えられなくなった俺は
「あの・・・そろそろ、一思いに・・・」
「・・・・・・そうね。」
良かった。彼女も無事に俺を殺してくれるみたいだ。ああ、俺、とうとう死ぬのか。
まあでもこんな美人に食われるならそれもそれで・・・・・・とか心のどこかで思ってしまっている俺は、本物の馬鹿なんだろう。末期だ。
じゃあ、殺ってください。
「ええ、言われなくてもヤッてあげる」
彼女と俺のすれ違いに気付くのは、その直後だった・・・・・・・・・・・
そのあとのことは敢えては語るまい。
「・・・」
「・・・」
男と女の裸体が森の中で重なっていた。
いやぁまさかやれると思ってなかった。別の意味で食べられちゃったよ。ハハハ。
・・・眼下には俺の体に身を預けている彼女の金髪が。・・・とても綺麗だ。なんか甘くていい匂いもするし、手触りもサラサラしている。なめたりしたらさすがに怒られるだろうか?
髪だけじゃない。彼女の肌もシミ一つなくスベスベだったし、何より言及すべきはその抜群のプロポーションである。どうしたらそんなにメリハリのある体に育つのだろうか?
あれか?妖怪だからか?妖怪ってみんなそうなのか?
いやぁまったくもってけしからん。特に俺の腹部に密着しているこの双丘。神綺とはまるで比べ物になら・・・どこからか殺意の波動が飛んできたのでこの辺にしておこう。
そうすると彼女は突然スクッと立ち上がった。
なんだろう、あ、もしかしてこれそのまま立ち去る流れじゃないか?
彼女ともう会えなくなるのは大変心苦しいが、俺の命は助かるのでよしとする。
「決めたわ」
「・・・・・何を?」
「人間。あなたを飼ってあげる。」
・・・それは飼育するということですか。家畜のように。
それともそういうプレイですか。
「肉棒として使ってあげるからしっかり動いてね。逃げ出そうとしたら・・・食べちゃうから。」
それはどっちの意味で・・・とは、聞くまでもないか・・・
「心配無いわ。足の一本ぐらい無くなっても、性行為に支障はないからそのまま捨てることなく使ってあげる。」
言った後、彼女の足元から巨大な漆黒の手が出てきて、俺の体をむんずと掴み上げた。
「まあ、貴方は逃げ出したりしないだろうけど。相当な物好きみたいだし・・・ね?」
「・・・否定はしない」
こうして俺は彼女への恋慕と恐怖の情を抱え、彼女の塒に連れていかれるのだった・・・
・・・・・・・これってお持ち帰りじゃね?
彼女の寝床は洞窟だった。
切り立った断崖に不自然なくらいきれいに穴が開いていたので、おそらく彼女が作った洞窟だろう。まあそれはいいとして・・・
「なんだこの血生臭い匂い・・・・」
鉄臭の正体は洞窟の入り口に放置してあった獣の死体だ。死んでそこまで日が経ってないのか、血液を傷口から流している。おそらく彼女が殺したものとみていいだろう。
「なんで放置してるんだ?」
「後で食べるつもりだったのよ。あなたも食べる?」
「いや、俺は・・・」
一瞬断ろうと思ったが、ここ数日何も食べてないことを思い出し
「ああ、食べる」
というが早いか、彼女は
「そう、じゃあ、はい。」
と、死体の一部を素手で引き千切って、あろうことか俺にそのまま差し出してきた。
「・・・えっと、焼いたりはしないのか?」
「焼く?どうして?」
「―――――――――――」
うん・・・妖怪だもんな・・・・生で食うよな・・・・・・・
その後、彼女に焼いたほうが肉が旨くなるということを教え、俺一人で準備して肉を焼く運びとなった。
「うん!うまい!!!」
久しぶりに肉を食った。火をおこす作業は死ぬほど大変だったし、何の獣の肉かサッパリ分からんけど、うまいのは間違いない。頑張ってよかった。
「そんなにおいしいの・・?これ。」
彼女は手に持った焼けてる肉を不思議そうに見つめている。
首を傾げるその仕草はかなり可愛いけど、早く食わないと冷めるぞ。
「もぐ・・・んぐ・・・・・」
「どうだ?」
「・・・ん。まあ悪くないんじゃない?」
よっしゃ!
彼女に満足してもらえたようで良かった。字面だけ捉えればあまり気に行ってなさそうにも見えるが、その実、早くも次の肉を焼こうとしているところを俺は見逃さなかった。
上機嫌で俺が肉にかぶりついていると、彼女が突然
「ルーミア・・よ。」
「・・・え?」
「私の名前」
これは・・・予想以上に満足してもらってるかもしれない・・・
「ルーミア」
「・・・何」
「肉、旨いか」
「・・・まあまあね」