月。
それはつまり衛星。
惑星の周りを公転する、天然の天体。
夜の空を見上げれば、そこにはきれいなお月様。
日によって、見せる姿を変える気分屋。
ご存じの方も多いとは思うが、月が地球に見せる面は常に同じである。
あの、女の顔だか、鋏を持ち上げる蟹だか、餅をついてる兎だか知らないけど。
兎に角、それを顔だと見るなら、
いつも地球のほうを向いて、クルクル周りを回るというわけだ。月は。
そう考えてみると、月ってやつが案外かわいく見えてくる。なんて微笑ましくて、いじらしい存在なんだろうか。
月と地球。二つは引力で繋がりあっていて、いつも一緒。
これからもずっと一緒。離れる事なんて無いんだろう。
あーあ、なんてロマンチックな存在なんだろう。
告白の言葉に使われるわけだよ、これじゃ。
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「月が、綺麗ね」
なんて、柄にもなく『彼』に言ってみた。
「ああ、そうだな。きれいな満月だ。」
私の隣でそう言う彼は、一糸纏わぬ、生まれたままの姿。
女の情欲を突き動かす、淫靡な身体。
先程まで、自分が彼の体に乗っていたと思うと、また下腹部が熱くなってくる。
それだけ魅力的。
窓から差し込む月明かりに照らされた彼は、妖しく、艶めかしい雰囲気を纏う。
自制心のない女なら、見ただけで理性のタガが外れるでしょうね。
普段の無邪気な彼からは想像もつかない艶姿に、思わず見惚れてしまう。
「永琳はさ・・・満月が好きか?」
ふと、彼がそんなことを聞いてくる。
「ええ、月の中では満月が一番ね。」
「そっか。」
彼は一呼吸置く
「俺は、満月は嫌いなんだ。」
彼がそう言ったことに対して、私が特に思うところはない。
十人十色。人はそれぞれ、好きなものも嫌いなものも違う。
彼と好みが分かれたからといって、拗ねたりするのは子供のやり方だろう。
それに、凸凹な二人ほど相性がいいともいう。私と彼の相性の良さは、先ほど確認済みだった。
だから私が彼に尋ねたのは、単純な興味。
「どうして嫌いなのかしら?」
彼が、窓の外の月を、ニヒリズムに満ちた顔で見つめる。
次の彼の言葉を待つ。
「明るいと・・・眠れないからな・・・」
・・・・・・え?
眠れない? そんな理由?
これが普段の彼が言ったのなら、なんともないけど。・・・いや、ごめんまさかそんなにマジメなキメ顔でいわれると思ってなかったから笑いが
「・・・くっ・・・ふふっ、ふ・・・・あはははは!!!」
突然笑い始めた私を見て、彼が目を丸くする。
「・・・そんなに可笑しいこと言ったかな?」
「ふふっ・・・くくく・・・・・ハァーーーッ、だってあなたがあんまり格好つけて言うから、どんなカッコイイ台詞が出るかと思うじゃない。」
それで、眠れないからって。可笑しいに決まってるじゃない。
ああ、疲れた。
笑い過ぎておなかが痛い。
「貴方はもっとロマンチストだと思ってたんだけど。」
「そう見えるか?」
「ええ。」
特に今の貴方はね。
出会ったばかりの頃は、子供っぽくて、自分の置かれてる状況がよくわかってない男だと思ってた。
だってそうでしょう?初対面の女に、助手になって一緒に住んでくれって言われて、即答で首を縦に振る男は、襲ってくれって言ってるようなものだもの。
一緒に生活してるうちに、その認識は改まっていった。
彼は物事をよく考えている。そして、観察眼が鋭い。
私が研究で疲れてるのを直ぐに察知して、無理をさせないようにしてくる。お陰で、以前ほど研究が進まなくなったけど。
確かに彼は無防備で、女に警戒心を全然持ってなくて、自分の欲望にも忠実に生きている。でもそれは彼が子供なんじゃない。
寧ろ、清濁併せのんだ大人が自分の生き方を確立して、その結果、自分に素直に生きているように見える。
そのギャップに自分は惚れたのか、
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる存在に惹かれたのか、
疲れた時に癒してくれる彼を愛おしく思ったのか、
多分、その全てが積もった結果、
私は、彼に想いを伝えた。
関係を変える事への恐れは無かった。・・・今思えば、彼の、私しか頼るものが居ないという状況を笠に着ていたかもしれない。酷い女だ。
兎も角、初めて会った日の、家主と不審者という関係から、
互いに体を重ねあう・・・・・・蜜月な関係になる事ができた。
彼は想いを受け止めてくれた。ゆったりと、大きく、優しく。
単なる推測の域を出ないけれど、私は彼の事を大人だと思う。
「・・ああ、そうだ。貴方に話しておかなきゃいけないことがあったわ。」
「なんだ?」
月の事で思い出した。
「一週間後、月に移住するわ。」
「・・・え?」
彼の驚いた顔。
「結界があるとはいえ、この都市は常に妖怪に襲われる危険があるの。結界を破ることのできる妖怪が出てこないという保証はないわ。
だから都市ごと移転するのよ。月の、裏側にね。」
「・・・・・・そうか。」
彼のその言葉を、私は承諾だと受け取った。
この時の私は、彼の表情に少しの陰りがあることに気付かなかった。
彼が一緒に月に来てくれると信じていたから。
彼が私に着いて来てくれると思い込んでいたから。
彼が私にとっての
月だと、思ってたから。
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「・・・・・・ほぼ完璧ね」
月に行く準備は整った。私一人だけの指令室でそう呟く。
後はこのボタンを私が押せば、この都市ごと月に転移する。
月の裏に無人機を送って、人間が生活できる環境はすでに整えた。
今日も朝から都市全体に勧告を行ったからか、家から出ている住民は一人もいない。
結界の外には無人戦闘機を配備し、万が一の状況にも対応できる構え。
私が最終チェックを行う、その時だった。
ビーーーー!!! ビーーーー!!!
けたたましくレーダーが鳴る。
外の森。その中に異様な数の反応。
無数の妖怪達。明らかにここを襲撃する腹積もりだろう。
この日を狙ったのは、恐らく意図的。
どうして月に行く計画を妖怪に知られたのかは分からない。
情報収集に長けた妖怪が居たのか、予知能力の類を持つ妖怪が居たか。
妖怪側も私達を月に行かせまいと必死なのだろう。
しかし、どう転んでも勝つのはこちら側。
私の判断一つで、今すぐにでも都市ごと転移はできる。後には何も残さない。
少し出発の予定を早めようかしら。
そう思いながら、レーダーを見る。
その時、違和感に気付いた。
「・・・人?」
結界のすぐ外に、人間の反応。
有り得ない。私はすぐに機械の故障を疑った。
有り得ない。有り得ないのだ。
だって、都市の人間、つまり住民登録をしている者は皆、その登録システムによって現在位置が正確に分かるから、全員都市の内部にいることは確認済みで・・・一人として都市の外に出てるなんてことは有り得ない。
『都市の人間なら』・・・・・・・・・・・・・・・まさか。
私は急いで手元の端末を操作し、ナノロボットの映像を確認する。
『彼』に内緒でつけている、監視用ナノロボット。
それが写した映像には、彼の後ろ姿。そして彼のいる場所は――――――――――
案の定、最悪なことに、結界の外。
都市内部では見られない地面の土、森の植物が、彼の周りに映るそれらが
無情にも、彼が安全地帯にいないことを示す。
――――――――――なんで、どうして彼が。
余りにも信じがたい光景に、思考が停止する。
手元の映像が、自分に何の関係もない、別世界のものに見えた。
実際そうならどれだけ良かっただろう。
しかし、残酷にも時間は流れて
一匹の妖怪が
彼に襲い掛かって――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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月の裏側に行くの。
そう聞いたときに、嫌だ。と思った。
だからこの一週間を、『観察』に充てた。
もちろん永琳に気付かれないように。
そして、その努力は、実ったらしい。
「・・・外だ。」
永琳の屋敷の外。懐かしい、塀の外。
永琳は優しい。
俺が研究の邪魔をしても、最後にはなんだかんだ許してくれるぐらい心が広い。
そんな彼女が、唯一許してくれなかった事がある。
外出。
俺が家の外に出ることだけは、絶対に許してもらえなかった。
俺自身、永琳以外の都市の住民にいい思いを抱いていなかったし、永琳との生活が楽しくて、外に出たいとも思わなかったけど。
窓は開けられず、玄関の扉も永琳の許可がないと開かない。壁は何の素材かは知らないけど、壊れる気がしなかった。永琳曰く、隕石が落ちてきても傷一つつかない家らしいから、永琳の作った摩訶不思議な道具達でも歯が立たないだろう。
じゃあどうやって出るか。
俺は、永琳に捕まった時の事を思い出した。・・・あの転移装置。
門の外から、研究室まで俺を瞬間移動させたあの装置で、外に出れないだろうか。
そこからの一週間は観察期間。
永琳の目を盗んで調べる。
ある日の夕食で永琳が月に行く方法について教えてくれた。
「月にはね、転移装置で行くのよ。ほら、貴方と初めて出会った時に、貴方を捕まえた機械があったじゃない?あれの規模が大きくなったものでね・・・・・・・」
僥倖だった。
彼女の話によると、別々の地点を二ヵ所ポイントし、その間を行き返りできる装置らしい。
彼女の話で外に出られることに確信を持った俺は、調査を進め、
月に発つ、まさにその当日に計画を決行した。
当日は、永琳が家に居ないと聞いた時に、この日しかない、と思った。
中々操作の難しい装置ではあったが、無事に家を出ることに成功。
この一週間で、都市の地理を頭に叩き込んだ俺の歩みは、何の迷いもなかった。
「遂に、外だ・・・」
俺は結界の外に出た。
踏み心地のいい土の地面。生ける草木の匂い。
やっぱり俺は、地上を捨てることができない。
戦闘機が一機、滞空していた。妖怪に備えての配備だろう。
妖怪と人間の区別がちゃんとつくようで、俺を見つけても何もしてこなかった。
永琳の作るものはやはり性能が高い。
永琳・・・心残りがあるとすれば、彼女の事だけだ。
彼女の元から逃げ出すような形になってしまったが、決して彼女を嫌いだったわけじゃあない。そこは分かってくれると信じてる。
二人とも寿命がないんだ。いつかまたどこかで・・・ってのは、少し楽観が過ぎるだろうか。また会いたいと、切に思う。
あぁでも、永琳がずっと月にいるなら無理かな。
やっぱり俺は月が・・・というより、満月が嫌いだ。どうしても。
『彼女』の好みが移ったのかな。
・・・・・・ダメだ。此処に居ると、あの戦闘機を見てると、永琳の事を考えてしまう。早く行こう。後ろ髪を引かれるのは慣れてない。
ガサッ
目の前の茂みから、化け物が現れた。
デカいその顔は人に似て、肌色。
頭の天辺は歪んだ形。
丸くて大きく、角膜も瞳孔も無い目は、まるで眼鏡をかけているようで。
人と違うのが、鼻から下の顎。カミキリムシのようなそれは、俺の体なんて簡単に切断してしまいそうだ。
体は虫。まさに甲虫のソレだった。
一目見て、化生の者と判るそいつは俺より体躯はデカく、素早い動きで俺に向かってくる。
運の悪いことに、戦闘機は他の妖怪を狙っていたようで、
その気色悪い妖怪が接近し、
その強靭な顎が俺を噛み切――――――――――――――――――――
俺の視界は、黒く染まった。
比喩じゃない。死んでもいない。
黒が、『闇』が、化け物を轢いていった。
闇が通り過ぎた跡には――――――――――――――――――
「・・・ルーミア」
久しぶりに、彼女の名を呼んだ。
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端末の画面には、『彼』と彼を助けた女が映っている。
《・・・ルーミア》
彼が女の名前を呼ぶ。
女は、彼に近づいて・・・あろうことか、彼に、抱き着いた。
脳が、理解を、拒否する。
止めろ。 そこは、 私の、
《・・・・・・貴方に、会いたかった》
やめて 言うな
《もう、離れたくない》
ヤメロ ヤメテ ソレハ ワタシノ わたしの 私の
私の――――――――――――――――――――
《俺もだ、ルーミア》
私の右手が、ボタンを、押した。
端末の映像が、途切れる。
【圏外】
月に、着いた。
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月。
それはつまり衛星。
惑星の周りを公転する、天然の天体。
ご存じの方が、いらっしゃるだろうか。
月というのは、地球に限定のモノではない。
他の惑星を見ても、その周りを回る衛星の存在は見受けられる。
それも複数。惑星によっては、一つにつき数十個あるものも。
成る程、確かに月にとっては、惑星は一つだけかもしれない。
でも、惑星にとっては?
月の私は地球を想う。
月の裏側から。
裏側だから、地球の姿は見えないけど。
それでも想い続けるから。
地球を、貴方を。 貴方だけを。
たまに、月を見て言ってほしいの。
月が、綺麗ですねって。
どーも。
作者のつゆだくめしべです。
まず、読者の皆さんに謝ることがあります。
今回、エロシーンが全然なくて、すみませんでした。
昨日投稿した作品を、今日見直したら、何かアレだったので
説明をさせて下さい。
今回の話で、ルーミアと永琳の対比も書きました。
ルーミアは満月が嫌いで
永琳は満月が好きで
ルーミアは主人公を助け
永琳の作った戦闘機は主人公を助けられず
三話の最後でルーミアは自分から愛を伝えましたが
永琳は最後に主人公からの愛を求めました
ざっとこんな感じです
あとついでに、今回登場した虫の化け物は
ゲゲゲの鬼太郎に登場した妖怪をモデルにしてたりします。
そのことにメッセージ性は、有ったり無かったりします。
以上、説明という名のただの自己満足でした。
・・・すんません、忘れてください。