※この作品はR-18です。

愛しき花園の君へ   作:瑞穂国

3 / 3
R-18版ではお久しぶりです。私は元気です。

今回は数か月前から予告していた、パースさんと温泉旅館で浴衣えっちするお話です。
支援砲撃という名のお砂糖が多方面から届いたので、全て投入してあります。
糖分の採りすぎにはご注意ください。


ほろ酔いパースさんと温泉旅館でいちゃらぶ甘々えっちするお話

 久しぶりに取れた連休を使っての、パースとの温泉旅行は、最高の一言に尽きた。

 きっかけは、少し前の、緊急出撃命令だった。本土近海に突如現れた深海棲艦を迎撃するべく、急遽立案された作戦において、俺の指揮する基地とその艦隊は中核戦力として位置づけられ、そして赫々たる戦果を挙げた。その報酬と艦隊の休養も兼ねて、一週間ほど近海哨戒の任を別の基地が担ってくれることになった。

 これなら、二人でのんびりデートができるねと、そんなことをパースと話していた時だ。

 

――「お二人とも、たまには夫婦水入らずで、遠出されてはどうですか」

 

 そう提案してくれたのは、大淀だった。一週間の内三日ほど、基地のあれこれを引き受けるから、日帰りではない旅行をしてきては、と。

 願ってもない申し出だった。提督となってこの方、連休というものは取れた試しがない。パースとのデートも、いつも日帰りで、行けるのはせいぜい車や公共交通機関で移動できる範囲。不満はないが、もっと遠出したいとか、泊りで出かけてみたいとか、そういうことを思わなかったわけではない。

 大淀の申し出をありがたく受けることにして、二人であれこれ行き先を考えた結果が、温泉旅行だった。基地からは、電車やバスを乗り継いで五時間ほど。日帰りで行くには少し遠い。

 諸々を基地四天王――吹雪、金剛、大淀、ウォースパイトの四人に引き継ぎ、基地を出たのが今朝。車窓の風景を楽しみながら、浮き立つ心に身を任せ、たくさんのことをパースと話した。冬へ移り変わる景色の中にいるパースは、見えるもの全てに瞳を輝かせていて、それを堪らなく美しいと思いながら見つめていた。

 お昼を回るくらいで旅館につき、荷物だけを預けて、早速温泉街へ繰り出した。平日だというのに、それなりの賑わいを見せる街並み。その只中を、あちこち見回しながら、パースと歩いた。

 旅館の女将さんにおすすめされたお店で、鰻に舌鼓を打った。ふっくらと蒸されて焼かれた極厚の身と、控えめに絡められた秘伝のたれ、炊き立ての純白ご飯。堪らないハーモニー。「おいしいわ」と笑ったパースが、金砂の髪を揺らした。

 神社へと続くなだらかな石畳の坂を、かじかむ手を温めながら登った。縁日のような雰囲気、立ち並ぶ店、漂う香り。満腹中枢が無くなってしまったように、温泉饅頭を買って食べる。「熱くてふわふわ」と、パースは唇の間から湯気を吐いた。

 山々を一望できる日帰り温泉に、二人して浸かった。俺たちの他に人のいない露天風呂、冬支度を終えた景色を眺め、竹の衝立越しにパースと語り合う。流行りの歌を二人して口ずさめば、「こだまが聞こえる」と天使の声が鈴を転がした。

 温泉街の一角にあるガラス工房へ、ふらりと立ち寄った。鮮やかな色彩を反射するガラスたち。息を吹きかけ、伸ばして切って形を作る職人たち。それらを一心不乱に見つめ、心奪われて、「とても綺麗ね」とパースはうっとり呟いた。

 散々歩いて遊んで、旅館へ戻って部屋へ案内されるなり、二人して畳に寝転んだ。そのまましばらくだらりとして、それから旅館の温泉を堪能した。部屋備え付けの露天風呂から上がってきたパースの、ホカホカと湯気を上げる頬と、しっとりとした髪、そして浴衣から覗く白いうなじに、思わずドキリとした。そんな俺に、「もう、どうして今更照れているの」と、パースは微笑んでいた。

 豪華な旅館の夕食を楽しんだ。パースに注がれて日本酒を嗜み、俺もまたパースのお猪口に同じものを注いだ。

 パースに手を引かれて、夜の中庭を散歩した。冷え切る前に館内へ戻って、玄関近くの火鉢で暖を取った。そこで、明日の予定を話し合った。目星をつけていたところはいくつかあって、けれど今日新たに行きたい場所も増えて、結局計画は一から練り直しになった。そんな俺たちに、女将さんが温かなお茶を出してくれた。

 パースが飲みたがったので、夕食に出されたのと同じ日本酒を、購買で求めた。ガラス工房で買ったお揃いのお猪口を早速使ってみた。大窓の側に二人並んで腰かけ、今日の思い出と、明日の楽しみに、話を咲かせた。パースはいくつもいくつも、笑っていた。

 そうして、すでにたくさんの思い出を募らせて。俺とパースの夜が、ゆっくりと、更けていった。

 

 

 

◇

 

 

 

 冬の寒さに身を置いても、ぽかぽかと暖かいのはなぜなんだろう。

 ついさっき、温泉に入ったからだろうか。温もりにゆっくりと身を沈めて、冷え切った体の芯まで熱を伝えたからだろうか。

 出来立てで、おいしいご飯を食べたからだろうか。海の幸、山の幸、彩鮮やかな品々に舌鼓を打って、その幸せを噛み締めたからだろうか。

 注がれたお酒に、ほどよく酔ったからだろうか。きりりとした冷酒を楽しみ、その余韻が少しずつ体の隅々へ回ってきたからだろうか。

 どれも、確かに暖かさを感じる理由で……けれど、結局一番俺のことを温めているものの正体を、俺は知っている。

 

「今夜のあなた、いつもよりぽかぽかするわ」

 

 左肩のところへ預けられた存在と、その温もりを確かに感じている。コロコロと小さな笑いに合わせて揺れるのは、陽光とも、月明とも見える金糸の髪。穏やかな部屋の明かりを移す瞳が、俺を見つめる。ほんのりと染まった頬は紅葉の色を残して艶やか。形のよい桃色の唇が、へにゃりと緩んで鈴の音を奏でた。

 旅館自慢の大窓から見える景色を眺める俺とパースは、お互いを預けるようにして寄り添っている。触れた肩から、彼女の温もりが伝わってくる。その暖かさをいつもより鮮明に感じるのは、彼女が普段よりさらに積極的だからか、単に浴衣と羽織という薄い装いだからか、はたまた酒気で火照ったからなのか。いずれにしても、控えめな部屋の暖房よりも余程強く、彼女の体温に暖められている。

 ただ……どこか艶めき、色っぽく、妖艶ですらある微笑みをパースへ与えているのは、さっき飲んだ日本酒のせいで間違いない。

 別段酒が弱くないパースだが、順当に酔う。普段より言葉尻が柔らかく、甘く蕩けて、艶めかしい。何より、距離感が近くなる。天使のような微笑みがずっと側へ寄って来て、くらくらしそうだ。

 今夜も、彼女の距離感は近い。いつでも側にいるはずで、隙あらば身を寄せ合っているのに、それ以上に今の彼女は近い。ぴたりと少しの隙間もない距離から、得も言われぬ甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 

「パース、酔ってる?」

 

 苦笑いと共に尋ねてみたけれど、パースの答えは予想できた。彼女は形のない微笑みを残したまま、金砂の髪を揺すった。鼻先を撫でた毛先に動悸がする。

 

「いいえ。お酒になんて、酔ってないわ。――いつもあなたに、酔わされてるから」

 

 不確かで蕩ける瞳に微笑まれると、何も言えない。そうか、と答える以外の言葉を知らなくて、俺は頬を掻く。それを可笑しそうに、パースは細い指で頬をつついてきた。再び響く鈴の音が、耳に心地よい。

 酔ってなんていない。パースはまたそう呟いて、言葉を紡ぐ。

 

「ただ今夜はね、いつもよりちょっとだけ、あなたの近くにいたいの」

 

 しなだれかかるパースの存在を受け止める。

 

「いつもよりちょっとだけ、あなたに触れていたいの」

 

 細くしなやかな手が重なって指を絡める。

 

「いつもよりちょっとだけ、あなたのことが大好きなの」

 

 好意の告白を、桜色の唇が綴る。

 

「いつもよりちょっとだけ、あなたのことが恋しいの」

 

 恋慕の告白を、紅葉色の頬で語る。

 

「――いつもよりちょっとだけ、あなたのことが愛しいの」

 

 アメジストの瞳が告げる愛しさに、心を奪われる。

 女神の微笑みと共に言葉を編み上げたパースは、再びその身を俺に預けた。気の抜けた笑い声を零して、パースが頬を擦り付ける。買い食いした温泉饅頭みたいに柔らかいものが、俺の肩を撫でている。それが無性にむず痒い。思わず手が伸びて、肩に流れる彼女の髪を梳いていた。甘い蜜の香りに、華やぐシャンプーの香りが混じる。

 

「くすぐったいわ」

 

 吐息のような囁きで訴えて、けれどパースは俺の好きなようにさせている。サラサラと絹のように心地よい手触りを確かめ、幾度も撫でていると、色めく声が漏れた。

 

「ん、ふふ。いつまで触っているの」

「パースの髪、すごく触り心地がいいから。つい、ね」

「そう?嬉しい」

 

 今夜のパースは、いつにも増してよく笑う。いくつも花を咲かせるようにして微笑む。緩めた林檎色の頬を俺へと向けている。そうすると、ビロードのような髪が揺れて、夜に煌めきを零した。

 

「ねえ、あなた。キスしてもいい?」

 

 パースには珍しいことを問われて、俺は目を見開く。キスをしていいかなんて、いつもは聞かれることもない。彼女からされるときは、いつもその所作と瞳の輝きだけで、「キスをするわ」と告げられる。あるいは薄桃の唇が、「キスして欲しい?」と、俺の方からせがませる。時にはそれすらなく、不意に唇の感触を与えられた後、「キスしたかったの」と微笑まれる。

 そんなパースが、口づけの確認をするなんて、本当に珍しい。

 見つめるパースが、変わらない微笑みを向けている。部屋の明かりに、ほのかな揺らめきを見せる若紫の瞳。そこへ吸い込まれるような気さえした。

 

「……わざわざ訊くなんて、珍しいね。いつもは不意打ちなのに」

「……たまたま、そういう気分なの。それともなに、あなた、突然される方が好きなの?」

 

 真っ赤な頬を膨らませて、パースは拗ねる。けれど、その表情がわざとだと知っている。だから風船のような頬に指を伸ばして、強めに押し込む。唇の隙間から空気が抜けて、パースはまた微笑んだ。

 

「キスして、パース。君とのキスは、どんなキスでも嬉しい」

「もう、そうならそうと、素直に言えばいいじゃない」

 

 今度は反対に、細く白い指が俺の頬へ伸びる。ぐりぐりと詰(なじ)るような力加減に、苦笑いする他ない。

 そのまま、頬へ手のひらを重ねられた。温泉とお酒でほんのり火照ったパース。その体温が心地よい。柔らかな手に包まれる頬が、やはりぽかぽかとする。その暖かさの中に、一か所だけ冷えた部分がある。それが、俺たちの結婚指輪だと気づいた。

 繋がれた俺の左手にも、同じ結婚指輪。それを、絡めたパースの指が弄る。愛おしそうに、その存在をじっくり確かめるように、細い指が指輪を撫でて転がしていた。それからぎゅっと手を握られた。俺より一回り小さな手が、どこか懸命に指を絡め、俺の手を包もうとしているのが、何とも可愛らしく、どうしようもなく愛おしい。

 

「目を閉じて」

 

 間近に迫ったパースに囁かれるまま、俺は瞼を落とした。視覚を意図的にシャットダウンすると、より鮮明にパースの感触が伝わってくる。こちらへ近づく柔らかな気配。熱を帯びる微かな息。時折漏れる気の抜けた笑い声。

 目を開けば、きっと焦点も合わない距離で、アメジストの瞳と目が合うだろう。長い睫毛を震わせて、流れる金の髪を揺らして、俺を見つめるパースの瞳を見つけられるはずだ。けれど、「目を閉じて」と求めた言葉を違えれば、今度こそ詰られてしまうだろう。

 パースに全てを任せて、彼女のするがままになっている。

 熱を帯びた吐息が、俺の唇を撫ぜた。

 

「――ん」

 

 柔らかなものが押し付けられる。俺の唇に触れたのは、まるでマシュマロみたいなパースの唇。ふわりとして綿菓子でも詰め込んでるんじゃないかと錯覚する。しかし、そこから流れ込む彼女の熱は、俺の体を芯から温めていく。お酒の酔いなんて比べ物にならないくらい、強く火照りを感じる。たった数秒の口づけで、思考が蕩けてしまいそうだ。

 時間にすれば、十秒もない。いつもよりずっと短いキスを終えて、パースが離れていく。薔薇の残り香に鼻をくすぐられながら、目を開けた。

 相変わらず、真っ赤な顔をしたパースがそこにいる。けれど、頬に差す朱色の意味が、ほんの少し変わっていることに気づいた。

 美しい紫の宝石に、怪しい光が宿っている。

 

「ふふっ、なんだか不思議。いつものキスなのに、いつもより火照っちゃう」

 

 どこか妖艶な笑みを浮かべるパースに、俺の方が酔わされている。

 パースが目を閉じる。差し出された唇の意味は、もはや訊くまでもない。紅葉に彩られた頬へ右手を差し出し、繋いだ左手を絡めて、今度は俺から唇を重ねた。

 

「ん……ふ」

 

 そんなはずはないのに、パースの唇は瑞々しい果実のごとく潤って甘い。彼女の唾液が、あたかも濃厚な蜜のようだ。禁断の果実を手にしているかのような興奮。甘く溶けていく刺激を逃したくなくて、さらに強く貪る。そんな俺を誘うように、パースは淫靡な声を漏らした。

 重ねるだけでは飽き足らず、蜜を吸い上げる。滑らかな表面をなぞるようにすると、パースのしなやかな睫毛が震えた。穏やかな部屋の明かりを宿す睫毛が、揺れるたびにキラキラと輝く。ぼんやり見つめるその光景を、ただただ美しいと思った。

 パースの美貌をゆっくりと酔いの回る頭へ刻みながら、長いこと唇を重ねた。旅館の静かな夜には、俺と彼女が息を継ぐ音、浴衣の擦れる音以外に何もない。あたかもこの一室に、この世界に、二人きりで閉じ込められたかのような。時間は無限にあるように思えて、それならと殊更穏やかに針を刻んだ。

 どれほどそうしていただろうか。お互いの唇がふやけるほどにキスをして、ようやく顔を離した。小さな水音が名残惜しく夜闇へ溶ける。

 艶やかな朱の表情を見つめていた。数十カラットの輝きを秘めるパースの瞳は、今はとろりと蕩けて飴細工のようだ。潤んだ煌めきがこちらの心音を高鳴らせる。魔性に近い魅力に、魂を掴まれる心地がした。

 紅葉の魔女は、そんな俺の内心を知ってか知らずか、やはり妖艶に微笑んだ。どこか意地悪で、蠱惑的で、けれどとても素直で、愛らしい表情に、言葉を紡げない。息を飲むようにして、パースの笑顔に魅入られていた。

 

「……やっぱり、今夜は何だか、ぽかぽかするわ」

 

 どこか舌足らずな様子で、可愛らしい響きを口にするパース。桃色の唇が転がす言葉はただひたすらに澄んだ響き。コロコロとした音色が熱い耳をくすぐる。

 ぽすんと、気の抜けた音と共に、パースは俺の胸元へ寄り掛かる。心臓のすぐ上に、彼女の頭がある。薄いピンクの耳が俺の胸に当てられていた。命の音を、パースに聞かれている。

 すぐ顔の下にある髪を撫でる。手櫛を通すたび、くすぐったそうに声を漏らすパース。何だか猫みたいだなと、そんなことを考えて、なおも金砂の髪を梳いた。花の香りを纏う髪をひと房すくって、口づける。

 パースが顔を上げる。上目遣いにこちらを見る瞳が、まるで朝焼けの海面のように光を揺らす。穏やかな息を吐き出す薄く開いた唇と合わせて、俺へ何かを訴えかけていた。

 その色の名前を、よく知っている。きっと俺の目も、パースと同じ色を帯びているはずだ。

 

「ねえ、あなた。……シたくなっちゃった」

 

 俺の羽織を指先で摘まんで、パースが告げる。緩い浴衣の襟から覗く滑らかな肌も、部屋の光をぐにゃりと歪める瞳も、さらりと震えて流れた金糸も、潤んで半開きの唇も、そのどれもが彼女の火照りを隠すことなく伝えている。触れる指先すら熱い気がした。そして、そんなパースに見つめられて、彼女の瞳に映されている俺も、酒類とはまったく別種の熱を隠せずにいる。

 

「ねえ、お願い。私を、愛して欲しいの」

 

 女神に懇願されれば、断る術など俺は知らない。

 パースの頬に触れる。指先で軽く撫ぜただけなのに、パースは色っぽい声を吐いて、その瞳を隠した。柔らかな頬が俺の手に預けられて、すっぽりと手のひらに収まった。少し遅い紅葉の頬は、最近出番の増えたストーブのように暖かい。

 

「――愛してる。とびきり、君を愛してる。世界で一番、パースが愛おしい」

「――ええ、知っているわ」

 

 目を閉じたまま、パースは微笑む。それにまた、俺も相好を崩した。俺の笑い声を聞いたからか、アメジストの瞳が瞼の下より現れた。幾万の宝石にも勝る輝きに惹きつけられ、魅入られて、吸い込まれる。

 

「君を愛したい」

「――ええ。あなたにだけ、許します」

 

 特別よ、とそう言ってパースは目を細めた。

 並んで敷かれた布団へ移ろうと立ち上がる。けれど、手を繋いで離さないパースは、二人掛けの長椅子から一向にその腰を上げる様子がなかった。「連れて行って」と言わんばかりに愛らしく首を傾げる彼女へ、俺はおどけて畏まり、尋ねる。

 

「何をお望みですか、お嬢様」

「あら、レディにそれを言わせるの?――わかってるでしょう?」

 

 恥じらう乙女を装って、パースは両の腕を俺に差し出した。その仕種が意味するところを、そして彼女の求めるものを、俺はよく知っている。

 膝を折り、身を屈めて、パースのすぐ横に跪く。こちらを熱っぽい目で見つめる彼女に求められるまま、揃えられた脚と、細い線の背中へ腕を伸ばす。反対にパースは、そのしなやかで滑らかな腕を浴衣の裾より伸ばし、俺の首へ絡めた。彼女が俺に身を預けたことを確かめて、腕に力を込める。パースの軽やかな体は、何の抵抗もなくふわりと持ち上がった。

 胸元へ密着した柔らかい体から、甘やかな香りが漂う。火照ったパースが、浴衣越しでもわかるくらいに温かい。愛らしい彼女の感触に、どうしようもないくらい胸が高鳴った。

 

「ありがとう、私の王子様」

 

 微笑むパースが、お礼とばかりに首筋へ吸いつく。パースを両腕に抱えている今、俺はあまりにも無防備で、彼女にされるがままになる他ない。そして敏感な首筋へキスを落とされてしまえば、否応なく気分は昂る。それを知っていてなお、パースは小さな口づけを繰り返す。小さく柔らかいはずのパースの唇が残す感触は、チクリとした刺激を植え付けていった。

 首筋への執拗なキスに声と興奮を堪えながら、パースを布団へと運ぶ。俺よりも頭一つ分小柄で体の線も細い彼女は、文字通りすっぽりと俺の腕に収まっている。けれどその存在は、決して小さくはない。俺の中を占める彼女の割合は大きくなる一方で、こうして腕の中に感じるだけで愛おしくて堪らない。

 両の足を嬉しそうに揺らし、パタパタと浴衣の裾をはためかせるパース。彼女を抱える腕に少しばかり力を加えると、香りも温もりも感触も、全てがさらに鮮明になった。

 パースもまた、さらにその腕に力を込める。啄むようだった小さな口づけは、いまや押し当て吸い上げるものに変わっている。脳へ伝わる刺激もそれまでの比ではない。唇の感触が伝うたび、震えそうになる。噛み締めた唇から、いつ声が漏れるともしれない。それを知ってか知らずか、パースはキスを緩めることなく、なお激しく責め立てる。呼吸の合間に、微かなパースの笑いを聞いていた。

 並んだ布団まで辿り着いて、膝を折る。可能な限りゆっくりと、パースをその上に降ろす。ふかふかの布団の上に腰を降ろしたパースは、コロコロと笑って、最後に一つ口づけを寄越した。

 

「パースはお姫様抱っこが好きだね」

 

 彼女の正面に座りながら言った俺に、パースは大きく頷く。揺れる月明の髪の間に、緩んだ頬が見えた。

 

「ええ。あなたを一番近くに感じる気がするの。とても幸せな気分よ」

 

 そう答えて、パースは俺の方へにじり寄ってくる。月の女神だって羨むような美貌が、俺のすぐ間近へ迫った。それだけでドキドキする。高鳴る胸の鼓動を抑えることは叶わない。

 

「ねえ、あなたは?」

 

 膝をこつんと合わせたパースは、そのまま再び俺の胸にその頭を預ける。おでこを俺の心臓に当てて、その音色を聞いている。

 パースの体を抱き寄せた。今更隠したって仕方のない俺の鼓動を、もっと聞いてもらうために。

 

「幸せだよ。――わかるだろう?」

 

 君が側にいるだけで、こんなにも強く、早く、俺の心臓は打っている。

 気の抜けるような微かな笑い。顔を上げたパースは、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべていた。

 

「ええ、よくわかるわ」

 

 答えたパースの顔が、そのままさらに俺へ迫る。俺の肩へ手を置き、それを支えにして、ほんのわずかに腰を浮かせるパース。

 再び唇と唇が交わる。熟れた桃を押し付けるパースに、俺も応えていく。熱を混ぜ合わせるように、ゆっくりと唇を重ねた。火照った体から漏れる熱は、繋がった唇の間に溜まっていく。二人分の熱と唾液が混じってほのかな音色を奏で、それが一層キスの欲求を加速する。触れたところから、彼女の熱が流れ込んで、全身を巡っていくのがわかった。

 下唇がパースに甘噛みされる。瞬間、ピリリと甘い刺激が走った。あたかもそれは、少し前に煽った日本酒にも似ていた。目が覚めるような刺激と、それとは反対に蕩けていく思考。パースの感触は鮮明になるのに、彼女の存在は曖昧になっていく。それが、二人の境界が溶けあっているからだと理解する。

 馴染めば馴染むだけ、お互いが一つになる。熱も、感覚も、感情すら共有されているような。パースの素直な気持ちが、清らかな小川のように、俺の中へと流れ込んだ。

 お返しに、俺もパースの上唇を甘噛みする。もぎたてのフルーツのように潤んだ唇は、ふわりとまるで雲のように柔らかい。簡単に壊れてしまいそうな気がして、努めて丁寧に扱う。甘い吐息を漏らすパースは、甘噛みのたびに睫毛を震わせて、とろりとふやけた瞳を揺らした。

 

「んぅ……ふあぁ」

 

 唇の繋がりを解く。パースは熱っぽい喘ぎを吐いた。ふらりと力が抜けた様子で、彼女はまた俺の胸に収まる。触れた唇からわかっていたことだが、抱き留めたパースの火照りは、お酒にほろ酔いしていた時とは比べ物にならないほどだった。

 

「キス、好きだわ。ふやけちゃう」

 

 胸元の囁きがくすぐったい。

 

「俺も好きだよ。パースとするキスは、いつだって、どんなキスだって、好きだ」

 

 そう答えた時、クスリと笑うパースの声がした。今宵一番、悪戯心に満ちた声。何か良からぬ謀(はかりごと)を――あるいはあまりに可愛らしい企みを思いついた時の声。

 顔を上げると、パースはその両の手を俺の頬へ伸ばした。温かな手が頬を包んだかと思った時には、上気したパースの顔がすぐ目と鼻の先へ迫っていた。その素早い動きに反応できなかった俺は、柔らかな両の手に挟まれて、右も左も向くことができない。

 潤んだパースの瞳が、ぐにゃりと歪んで俺を映す。あたかも、獲物を絡め取り、今まさに捕食しようという蛇のよう。そして、そのあまりにも美麗で妖艶な蛇に睨まれた蛙が、俺だった。

 

「どんなキスでも、好きなの?」

「あ、ああ」

「そう。――ふふ、なら、こんなキスはどうかしら」

 

 食われる、そう思った瞬間には、パースの顔が焦点も合わない距離にあった。押し付けられた唇が、貪るように俺を求める。強引にこじ開けられた口へ、ぬるりと舌が差し込まれた。尖った舌先が俺の舌を探り当てたかと思うと、そのまま絡まり、吸い上げられる。

 

「ん……はむっ」

「んぐ、うんっ!?」

 

 脳髄を直接叩く刺激に、思わず声が漏れた。しかしその声すらも、唾液と共に彼女へ吸い上げられる。蠢く弾力のあるものが口内を蹂躙する。抗う術も、止める術もなく、俺はただパースのもたらす快感に身を任せる他なかった。痺れて言うことを聞かない体で、ただパースを抱き締め、しがみつく。

 それを知っているのだろうパースは、紫の瞳を細めて、なおも俺を責め立てる。お互いの舌がまぐわうたび、甘い声を漂わせ、深みへ誘う。耳朶を打つ蕩けた喘ぎが、麻薬のように思考をぼやけさせる。

 魂が吸い尽くされるようなディープキスを、たっぷり数分間は交わした。満足げな吐息と共にパースが唇を離した時には、すっかり息も上がっていた。全身から力が抜ける。抱き留められるのは、今度は俺の方だった。

 パースの細い肩に顎を預ける。両の腕を背中に回し、まるで子供をあやすようにしてポンポンと撫でるパース。穏やかな笑いが、敏感になった耳をくすぐった。

 

「あなた、可愛いわ」

「……パースは、時々意地悪だ」

「ふふ、ごめんなさい。今のは自分でも、そう思うわ。――許してくれる?」

 

 美しい調べが俺に許しを乞う。細い指先が毛づくろいでもするように、俺の髪を優しく梳いて撫でる。柔らかな温もりに溢れたパースに包まれれば、それだけで心も暖かい。

 

「……ああ、もちろん。言っただろう。どんなキスでも好きだよ。パースとするキスは、いつでも、どんな時でも、嬉しいんだ」

「――もう。あなた、どれだけ私をときめかせるつもり?」

「いくらでも。君が許してくれる限り、ずっと」

 

 体を起こす。何だか無性にパースの顔が見たくなって、彼女と正面で向き合った。相も変わらず、紅葉色に染まっているパースの顔。けれどそこに、少し別の色合いが混じったことに気づく。頬に差す桃色の艶は、なお一層パースの美しさを際立たせた。

 ほんの少しの照れをいろどりに加え、パースは百花にも勝る笑顔を見せていた。

 

「あなた、余程私のことが好きなのね」

「好きだよ。愛してる。君が思うよりずっと。――でも、お互い様だろう?」

 

 紫の瞳に映る感情(色)の名前を、幾度となく告げられてきた。君が、俺の考えなどお見通しと言うように。俺も、君の心がよくわかる。

 俺の言葉に、パースは微笑みだけを寄越す。それからまた、両の手を俺の頬へと伸ばした。白く透き通るほどに滑らかな、まるで陶磁器のような指先。ふと、真白に見えた指先が、ほんのりピンクに染まっていることに気づく。いつもは少し冷たい手が、今は触れられれば暖かい。指の先まで火照ったその手に、今度は俺の手を重ねた。

 

「私も大好きよ。愛しているわ。――だから、とびきり優しいキスを、してあげる」

 

 その言葉通りに、唇はとても穏やかに、柔らかく、重ねられた。ゆっくりと触れる分、パースの熱も香りも感情も、はっきりと伝わってくる。ただ口づけるだけなのに、胸の内が温かさで一杯になる。鼓膜をくすぐる微かな水音が、堪らなく愛おしい。

 十秒ほどの短いキス。唇を離すと、それを名残惜しむように、透明な橋が二人を結んだ。橋はやがて重力で途切れ、雫となって滴る。それを視界の端に捉えながら、惚けたままパースを見つめていた。同じように、朱に染まる顔のまま、霞んだ瞳でパースも俺を見ている。

 細くてしなやかで滑らかな手が、その感触で探って俺の手を握った。柔らかな指先が手の甲を撫ぜる。爪の先が肌をなぞる。パースが何かを求めていることは、深く考えるまでもなくわかった。

 

「あなた……もっと」

 

 やがてその唇も、懇願を口にする。さっきまで繋がって触れ合った桃色の唇が、雫を伝わせる熟れた果実が、熱を求めて震えている。

 彼女が何を求めているかなんて、今更尋ねる必要もなかった。

 

 

 

◇

 

 

 

「んん……ぷふぁ……はむ、ん……ん、ちゅっ……ふあぁ……」

 

 腕の中から聞こえる断続的なメロディーは、胸が苦しくなるくらいに甘ったるくて、熱っぽい。言葉なき声は魔性の歌声で、まるで水底へ誘う人魚(マーメイド)のよう。一度その声に応えてしまえば逃れる術はなくて、ただ美しい輝きを目に焼き付け、深みへ落ちていく。ただこの胸の内だけは、望外の幸福に満たされて、身体と反対に宙を舞うかのようだ。

 

「はぅ――んぅっ……ぷふぁあ……は、ぁん」

 

 脚の間に収まり、俺にあすなろ抱きされている状態のパースは、その白く艶めかしい首筋を目いっぱい伸ばして捻り、見上げるようにして唇を合わせていた。紫の瞳に怪しい色を宿し、目の端に汗とも涙ともつかない雫を溜めながら、呼吸を挟んで俺を求めるパース。さながら、エサを運ぶ親鳥と、それを啄む雛鳥のようだと、ぼんやりそんなことを思っていた。

 

「ん、ふぅわ……」

 

 首を捻るのに疲れたのか、パースが物欲しそうな表情を残して顔を離す。潤んだ瞳だけはなおも俺を見上げ続けて、その背中を俺の胸に預けた。

 ふやけた唇が、半開きのまま俺へ語りかける。

 

「あなたは、何も、しないの?」

 

 コテンと傾いだ顔に、苦笑する他なかった。パースとキスをしている間、俺はただ彼女を抱き締めるだけだった。

 

「パースがあんまり可愛いから、動けなかった」

「それじゃあ、このまま何もしないつもり?」

「……そう、だね。さすがにもう、我慢できない」

 

 一度強く抱きしめてから、腕の力を緩めた。羽織の蝶結びに指を絡め、解く。肩から羽織を外すと、日本風の上着はするりとパースの腕から抜けた。薄い浴衣だけを着たパースが腕の中に残る。俺の位置からだと、少し緩んだ浴衣の合わせ目から、彼女の豊満なものがチラリと見えた。やっぱり火照ってほんのり桃色のそれに、思わず唾を飲む。

 その音が聞こえたのか、パースはにまりと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「あなた、おっぱい見てるの、ばればれよ」

「……ばれた?」

「触りたい?」

「うん」

「――ふふ、その素直さに免じて、許します」

 

 二つの禁断の果実へ触れることを許され、俺はゆっくりと手を伸ばした。

 浴衣の上から双丘に手を重ねる。ブラを外しているせいか、布地の上から触れているのに、指が沈み込む柔らかさを感じた。感触は丁度羽毛布団かクッションのようだ。一度試したことのある、「人をダメにするソファ」の柔らかさに似ている気がした。

 少し力を強くすれば、指が簡単にパースの胸へ食い込む。浴衣の胸元に、不思議な形の皺ができた。指先が埋もれて、見えなくなる。

 

「ん、ふふっ、優しく扱ってね?」

 

 開いて閉じて、手のひらから零れる胸の感触に夢中になっていた俺に、パースはくすぐったそうな笑いを漏らしながら囁いた。けれどその言葉に、頷く以外の返事を返すことができない。この手で揉みしだくたび、あたかも一つの――いいや二つの生き物のように踊るパースの乳房。揺れた拍子に、合わせ目から谷間が零れる。あまりにも柔らかそうなその見た目に、数えるのも馬鹿らしいくらい唾を飲んだ。

 浴衣の上からでは飽き足らず、俺はその双丘へ直接触れようと、裾に指をかけた。軽く引いてやるだけで、浴衣の前は簡単に開き、はだける。

 たゆん。そんな音が聞こえた気がする。ずらした浴衣の合間から、パースの柔らかなおっぱいがまろび出た。文字通り、熟した果実が零れるように。指が沈むほどの心地よさを持つ乳房は、しかしブラという支えをなくしてなおぴんと張り、形の良さを保っている。女神の彫像もかくやと言うほどに、その光景は美しいと形容する他なかった。

 心臓が飛び出るのではという高揚と、妙な緊張感に包まれながら、俺は再びパースの胸をこの手で包む。

 

「んっ」

 

 むにゅり。指が沈み込むと、パースが甘い吐息を漏らした。声があまりにも色っぽくて、思わず背が震える。抑えきれない興奮に背骨を貫かれていた。

 浴衣越しとはまた違う感触。柔肉に埋もれていく指に、しっとりとした肌が吸いつく。パースの温かさに包まれた指が幸せだ。ふわりとまさに雲を掴んでいるような感触が堪らなくて、何度も何度もその柔らかさを確かめた。

 乳房を下から支えるようにして持ち上げる。力を込めて掴み谷間を寄せ、次の瞬間には緩めて解き放つ。俺の指と手の動きに合わせて揺れる二つの果実。それを弄んでいるのは俺のはずなのに、微かな喘ぎに踊らされてまるで子供の用に夢中になっている。意志がどこかへ飛んでしまうほど、今は手にしたおっぱいに触れること以外のことを考えられない。

 

「ふぁ……んふ、ふ……あなた、夢中ね」

 

 胸を俺の自由にしているパースが、熱くまとわりつく声で囁く。こちらを窺う上目遣いの目は慈しみに溢れ、しかしほんの少し意地の悪い色を宿す。一度目が合ってしまえば、吸い込まれて虜になってしまう。

 くすり。小さな笑いを漏らして、パースが啄むように唇を合わせた。微笑む目が「これが欲しかったの?」と問いかけている。

 確かに欲しかった。でもそれは、唇とか、キスじゃない。それだけじゃなく、今はただ、彼女の全てが欲しかった。

 今度は俺から唇を合わせる。屹立した乳首を爪で弾いた拍子に開いた微かな隙間へ、半ば強引に舌をねじ込んだ。舌先でパースの柔らかなものを探り当てる。驚いた様子のパースはけれどすぐに全てを許して、舌を絡めた。

 

「ん、ちゅっ……はう、ぅあ……んんっ」

 

 キスの合間に息を挟めば、卑猥な水音が混じる。乳首を転がせば嬌声が響く。それが欲望を加速して、なお強く唇を貪り、舌を弄んで、唾液を吸い上げた。その全てに、パースは健気にも応えてくれる。それが嬉しくて、愛しさは募り、情欲は燃え上がった。

 唇を離し、おっぱいを解放する。二人分の荒い息が混じり合った。

 余裕のない様子で、それでもパースは笑う。

 

「まだ、足りなそうね?」

「……全然、足りないよ」

 

 この熱を収めるには、まだ君が足りない。

 パースがわずかに腰を浮かし、俺の腕を離れる。それから、くるりと器用に体を捻り、俺に向き合った。その拍子に、露わになった胸が揺れる。その様子に自然と目が吸い寄せられた。溢れた唾を飲むと、パースの香りが溶けていた。

 そんな俺に、パースは再び、あの獣性の強い瞳を向けた。唇の端に零れた唾を舐めとる仕種が、まるで獲物を前に舌なめずりする肉食獣のようだ。

 

「ねえ、あなた。横になって。――今度は私がしてあげるわ」

 

 そう言って、パースは俺の胸を指で小突く。やや強い力加減に頷いて、俺はそのまま布団の上に転がった。頭を浮かすと、太腿の間に腰を降ろしたパースが見えた。

 浴衣の帯がいとも簡単に解かれる。緩んだ浴衣の足元の辺りを両側に分けて、パースは俺の股座へ細い手を伸ばした。

 

「っ!」

 

 パンツの薄い布地越しに、パースの指が俺のペニスへ触れた。すでに十分すぎるくらい誇張した肉茎は敏感で、軽く撫ぜられただけで堪えがたい快感が走る。先端からどくどくと先走りが零れているのがわかるほどだ。

 

「ふふ、ビクビクしてる」

 

 そんな俺のモノを慈しむように、殊更優しく撫でるパース。柔らかく温かな手のひらの感触が、パンツ越しでも伝わってきた。ただそれだけでも、すぐに果ててしまいそうなほど気持ちがいい。腰が跳ねて浮いてしまう。天使のようなパースの表情が、今はこちらを弄んで楽しむ悪魔にしか思えない。あるいはそれは、男を転がし、その精を吸い尽くすという淫魔(サキュバス)か。

 パースみたいに、美しく、たおやかで、愛らしく、麗しい淫魔に搾精されるのならどれほど幸福だろうかと、そんなことを考えている時点で、俺は彼女に堕落させられているのかもしれない。今はとにかく、その手で直接触れて欲しかった。

 淫猥な笑みを浮かべて、パースは俺の下着に手をかける。わずかに腰を浮かせると、そのままするりと腿の辺りまでパンツを降ろされた。押さえつけるものを失くしたペニスが跳ねる。そそり立った陰茎は、血管が浮き出るくらいに誇張して、パンパンの状態だ。どくどくと流れる血液を感じる気さえした。

 

「もう、すっかり大きくなってる。興奮してるのね」

 

 焼けるような声を発して、パースは再度その指でペニスに触れる。赤黒く腫れあがった亀頭を指先が撫でる。先走りで濡れて、すでに敏感過ぎるほどのそこは、ただ触れられただけで熱い刺激を伝えた。噛み締めた奥歯がカチカチと鳴る。

 そんな俺の様子に気づいているのだろう。パースは同じような触れ方を何度か繰り返した。その度に背筋を電流が走って、目の奥がチカチカとする。呼吸が上がって、鼻息が荒くなる。ピンク色に染まっていく視界の中、言葉を継げずに目線だけで訴えた。

 

「どうして欲しい?」

 

 けれどパースは、意地悪に、焦らすように、ちゃんと触れてはくれない。天使の微笑みを湛えたまま、鈴口へカウパーを塗り込むように指先で撫でまわす。その刺激はまさに衝撃と言う方が相応しく、頭が真っ白になるほど気持ちがいい。しかし同時に、それは吐精に達する程の快感でないこともわかる。気持ちいいだけに、もどかしい。

 パースがその瑞々しい薄桃の唇を開く。

 

「このまま手がいい?それとも口?やっぱり、おっぱいかしら?」

 

 問いかける息が熱い。お互いの体も焼けて灰になるのではというほどに熱い。それなのに、パースの発する声だけは、どこか涼やかな響きを残す。その玲瓏な声が、卑猥な言葉を口にしているという状況に、更なる興奮を覚えずにはいられない。

 ごくり。何度目になるかわからない唾を飲む。そんな俺に、紫の瞳を細めてみせ、パースはその半身を屈めた。もぞもぞと腿の間で位置を探す気配がする。

 しばらくすると、生温く湿った風が、亀頭を微かに撫でた。

 紅葉色の頬をした顔が、ペニスのすぐ側にある。俺の目と、鈴口を交互に見遣る瞳。ギラリと怪しい光を帯びたアメジストに、ハートの模様が浮かんでいる気がした。

 ぱくり。ゆっくりと開かれる唇。「いただきます」と言わんばかりの目。それを、ただ息を飲んで見守っていた。

 

「はぁ……むっ」

「っ!ぐ、うぅ……っ!」

 

 ペニスの先端が、パースの唇に飲み込まれる。その瞬間、生暖かなものに包まれた。ねっとりとした液体が絡みつく。溢れて亀頭を覆っていたカウパーが舐めとられ、代わりと言うように唾液を塗りたくられた。亀頭を転がすように弄ぶ舌の感触に、ペニスを咥えられた事実を認識する。

 柔らかな唇の内へ、パースは俺のペニスを含んでいる。すぼめられた口の中に、敏感な先端が飲み込まれている。それを、パースは舌先で舐め、あるいは絡め、撫でて扱き、馴染ませるようにゆっくりと責め立てる。口の感触は、指で触れられるよりずっと強い刺激だ。それでも、先端だけを執拗に、そして手寧に弄られるだけでは、もどかしい。むしろ一層、欲望は強くなる。もっと、もっとと、求めそうになる。

 たっぷり一分ほど、亀頭を弄んだパースが、一度その口を離す。開かれた唇と鈴口を、白濁した細い糸が結んでいた。つっと伸びた糸は、やがて途切れて雫となり、誇張し震える陰茎へ滴る。淫靡な光景に頭がくらくらとした。

 

「おちんちん、おっきい。顎が外れちゃいそう」

 

 囁く声が、散々転がされた亀頭にかかる。それだけでぞくりと背中が粟立つ。身震いは腿からやって来て、容赦なく脳髄を叩いた。

 

「パース、息、ヤバイ……っ!」

「ゾクゾクしてるでしょう?よくわかるわ」

 

 そう言って、彼女はまたわざと息を吹きかける。すぼめた唇の合間から、まるでろうそくでも吹き消すようにして。そよ風は器用に鈴口の表面を通り過ぎて、消えない快楽だけを残していった。

 パースの顔が再び股座へ近づく。今度は陰茎の、もっと根元の方へ。小さく開かれた唇の合間に覗くのは、ちろりと艶めかしく蠢く赤い舌。表面にぬらりとテカるほどの唾液を纏うベロが、ゆっくりと陰茎へ伸びる。

 触れた舌先が、あたかも羽根のようなタッチで、つーっと裏筋をなぞった。

 

「っあぁあ……っ!」

 

 噛み締めた歯の合間から、叫び声が零れた。堪えていたものを強引にこじ開ける刺激。火花が散るほどの快感。舌先が根元から先端へと走っていく感覚に、全身の筋肉が震えた。

 これは、マズイ……!

 

「ん……んふ……れろ……ふぁ」

「ぐう、ぁ……!あぐ……っ!パー、ス……ッ!」

 

 言葉にならない抗議を上げる俺に構うことなく、パースは陰茎を撫でまわす。舌先の次は、ベロ全体で、あたかもアイスキャンディーを舐めるように。かと思えば、小さなキスを短い間隔で落とす。鼻先を亀頭へ押し付けながら、裏筋を執拗に舐め回す。股座に顔を埋め、両の玉を口に含んで弄ぶ。緩急をつけた刺激に休まる暇がなく、身を溶かされるような快楽に体が言うことを聞いてくれない。ただパースにされるがまま、だらしのない声をいくつも上げた。

 

「ちゅ、んっ……ちゅ……ふぁ、む――はむ、うぅ」

 

 最後に亀頭を啄んで、パースはまたその口へペニスを含んだ。先端だけに留まらず、ずっぽりと陰茎の根元まで、その小さな口の中へ飲み込まれた。鈴口がパースの喉奥へ触れる。膣や舌とはまた違った弾力と、微かな嗚咽に震える表面が、頭を真っ白にする。

 深く深くペニスを飲み込んだパースは、微かな雫を目元に浮かべながら、そのまま数秒間動かない。それから殊更ゆっくりと、すぼめた口で陰茎を扱く。柔らかな唇が肉棒の表面を滑っていく感触は、形容しがたい快悦だ。その動きに引っ張られるようにして、込み上げてくるものがある。

 丁寧にワン・ストロークを終え、ちゅっとキスを残して亀頭の先まで戻ったパースの唇。しかしすぐに、またその隙間に陰茎を咥えこみ、飲み込んでいく。今度は一番奥まで含まずに、穏やかに馴染ませるようなスピードで、行ったり来たり。フェラのリズムに合わせて、流れて輝く金の髪。その毛先が触れるのもまたくすぐったく、今の俺にはもどかしい刺激でしかない。

 動きに慣れてきたのか、穏やかでゆっくりだったパースの動きが加速していく。ワンストロークごとに、髪の揺れるリズムが早くなる。慣らし運転を終えたディーゼル機関が、少しずつその回転数を上げていくように。そしてそれに伴って、与えられる刺激も変わっていく。

 

「ちゅる、んむ、ふむぁ――は、んむぅ、じゅっ……んふ、ふあ……ぁむ」

 

 パースはあの手この手で責めてくる。早く浅いストロークを繰り返す。かと思えば喉奥まで飲み込んで、亀頭へぐりぐりと押し付ける。すぼめた唇でカリを執拗に攻めた。舌を器用に操って、裏筋を刺激しつつ扱く。頬の肉が膨らむほどにそこへ鈴口をあてがう。

 一つ一つでも痺れるほどに気持ちいい。それなのに、前触れもなく新たな刺激を与えられて、その変化に脳の処理が追い付かない。ただ波のように押し寄せ続ける快楽に飲み込まれていた。

 

「ふぉう(どう)、ひもひいぃ(気持ちいい)?」

 

 陰茎を口に含んだまま、パースが問いかける。その拍子に喉が震えて、それがまた新しい快感を植え付けた。

 

「しゃべらないで、パース……っ!」

「ふぁあ(あら)、ふぉうひへ(どうして)?」

「声……!刺激が、強い、からっ……!」

 

 絶え絶えの抗議を聞き届けてくれるパースではない。むしろ輝かんばかりの瞳を細め、なお一層激しく責め立てる。快感が数段増しで強くなり、もはや言葉も継げない。

 

「おふぃんふぃむ(おちんちん)、おいひいぃ(おいしい)」

 

 ストロークの合間に、わざとらしく言葉を投げかけるパース。ちらりとこちらを見る目が、またあの肉食獣の目になっている。彼女の口の中へ、入って出てを繰り返す陰茎は、文字通り食べられているようだ。

 

「ふぃくふぃぐひて(ピクピクして)、ふぁあいぃ(可愛い)」

 

 一つ一つの言葉が、麻酔のように意識を遠のかせる。

 この身を蕩かす快感は、簡単に射精感を煽った。ペニスから口を離したパースが舌で転がす睾丸から、精子が湧き出してくるのを感じる。ぐつぐつと煮えたぎるような愛欲が、今しもそこから零れて、尿道を駆け上がりそうだ。

 

「パース……っ!もう、射精(で)る……っ!」

 

 二つの玉を指で転がしながら、再びペニスへ舌を絡めるパースに、絶え絶えの息でそれだけを辛うじて告げた。その言葉を口にしたことで、さらに射精感が刺激される。今しも陰茎を昇って、亀頭の先端より噴き出しそうな子種の存在を感じていた。

 

「ふぁしそふふぁの(だしそうなの)?」

 

 尋ねたパースに頷く。どうかこのまま、君の口の中へ射精させてほしい。その唇で果てさせて欲しい。

 けれど、パースはぴたりと、フェラを止めてしまった。

 

「……ふぁめよ(だめよ)」

 

 ペニスから離れていく口に、自分でもわかるくらい、情けなく懇願する表情を浮かべている。それに、パースは蠱惑的な笑みを作った。こちらを射竦める、魔性の瞳。

 射精に待ったをかけられて、怒張したままやり場のない高揚に震えるペニス。その上にパースは跨った。ひらりと、フェラの間に随分緩くなった浴衣の裾を、彼女はたくし上げる。

 

「射精(だ)すならこっちに、ね」

 

 そこには、あるはずの布地がすでになかった。露わになったのは、しとどに濡れて、とろりと蜜を零す、パースの女陰。

 思わず目を見開く。彼女が下着を脱ぎ去った様子はなかった。布団の周りの、どこにもパースのパンティは転がっていない。

 うまく回らない思考で、パースに尋ねる。

 

「パース、下着は?」

「履いてないわ。お風呂から、上がった時から」

 

 部屋備え付けの露天風呂を堪能したのは、夕食よりも前のことだ。つまりその間ずっと、パースは下着をつけていなかったということか。

 着付けのできるパースに限って、「浴衣の下には下着をつけない」なんて、都市伝説を信じることはない。だとしたら、彼女がパンティを履いていないのは――

 

「君は――まさか、わざと」

「ええ。――ふふ、これなら、すぐにあなたと繋がれるでしょう?」

 

 悪戯の告白は、いつだって可愛らしい理由と、とびきりの微笑みと一緒にある。それが癖になってしまうくらいには、パースのことが愛おしくて堪らない。

 でも、今はそれと同時に――浴衣の下に何もつけていないパースとずっと一緒だったのだという事実に、更なる興奮を覚えずにはいられなかった。

 

「ねえ、わかる?もう、十分、濡れてるわ。あなたのおちんちん、欲しくて疼いてるの」

 

 浴衣をたくし上げ、ペニスの上に跨るパースが、こちらを見降ろして微笑む。あてがわれた女陰は、すでに溢れる程の愛液で濡れていた。亀頭の先が触れた陰唇から、雫が伝って流れてくる。焼けた鉄のように熱い秘所に、ペニスが溶かされてしまいそうだ。

 

「あ……んあ、ぁ……はう」

 

 すでに準備万端の男性器と女性器を、パースは丹念にこすり合わせて、馴染ませている。くちゅり、くちゅりと、パースが動くたびに水音が響いた。桃色の唇からは、どこか切ない喘ぎ声も。その音色が耳を打つのに合わせて、快感が襲ってくる。

 挿入(い)れたい。入れたい。いれたい。濡れそぼった蜜壺の、その奥深くでパースと繋がりたい。吐き出される寸前の精子を、彼女の赤ちゃんの部屋に注ぎ込みたい。たった一つのその思考に、頭が支配されていく。それ以上は何も考えられない。

 お互いの体液が混じり合って泡立つ頃、パースが腰の動きを止めた。細い指がペニスを優しく包み、その先端を改めて女陰へあてがった。

 こちらを見つめる目が、トロンと崩れて微笑む。これ以上ないほど上気した頬。微かに開いた唇の間から、熱く荒い息が何度も零れていた。

 

「んっ……んはあぁ……うあ、あ……~~~~~っ!」

 

 パースがゆっくりと腰を降ろしていく。愛液とカウパーが潤滑油となって、亀頭の先端は何の抵抗もなく膣の入口へ分け入った。膣内もすでに愛液で濡れていて、あたかも吸い込まれるように彼女の中へと導かれる。そのまま、一番深いところへ――降りてきた子宮口まで、一息に貫く。

 肌の擦れる音に、飛沫の飛ぶ音が混じる。ペニスを飲み込み、腰を落としきったパースは、俺の腰の上でその身を震わせる。一際熱い息を吐き、長くしなやかな睫毛を震わせ、金砂の髪を振り乱す。肩を跳ね、背を反らした彼女は、少しすると力が抜けたように倒れこむ。その身を支えようと、慌てて手を伸ばした。

 もにゅん。しかし、散々快感の波に揉まれた俺も感覚は曖昧で、肩か二の腕を支えようとした手は、結局パースの胸を掴んでいた。いとも簡単に沈み込む両の手のひらと指、その柔らかな感触。パースが俺へ覆い被さるようになっていることも相まって、どきりと心臓が跳ねた。

 震えるパースの瞼が上がる。軽い絶頂のせいか、とろりとキャラメルのように蕩けた瞳が、少しずつその焦点を合わせていった。

 

「……ふふ。あなた、そんなに、私のおっぱいが好き?」

「いや、これは、その」

「いいのよ。あなたの好きにして」

 

 オーガズムの余韻を残す手が、俺の腕を掴む。若紫の瞳は細く、俺を誘って怪しく光った。もっと触ってというように、パースはその豊満な母性を押し付ける。と同時に、温かな膣がペニスをきゅうっと締め上げる。あまりの気持ちよさに、悲鳴を上げそうになった。

 膣を締めた当人であるパースも、甘美に酔った様子でうっとりとしている。恍惚とした表情が俺を見下ろす。浴衣をはだける絶世の美女が馬乗りになっている現状は、あたかも彼女に俺の全てを支配されているかのような、そんな錯覚を覚えた。

 俺の腕を、パースの細い指がなぞる。情欲に染まりきった表情とは反対に、その手つきは優しく穏やかで慈しみに溢れている。指先の触れる場所から、彼女の火照りと愛おしさが流れ込んできた。

 その熱に当てられて、惚けてしまう。今更感じる酩酊感は、きっとお酒のせいではないはずだ。

 

「……動かすわね」

 

 パースの言葉に、頷くしかできなかった。

 パースが腰をゆっくりと浮かせる。来た道を戻っていくペニス、反りかえった雁首の部分に襞が引っかかるたび、ピリピリと刺激が加わる。殊更ゆっくり動くせいで、押し寄せる快感の波一つ一つを鮮明に感じ取ってしまう。ただでさえ、射精をお預けされてショート寸前の脳には、その一つ一つが耐えがたい快楽だ。頭が真っ白になる。

 膣から抜ける寸前まで亀頭が戻る。カリに掻き出された愛液が、二人の繋ぎ目からぽたぽたと俺の下腹に滴った。それを留めようとしたのか、パースが女陰の入り口を締める。急に圧迫され、密着した場所から、甘い電流が走る。吐き出された二人分の喘ぎがシンクロした。

 

「いく、わ……あ、あああぁっ!~~~~~っ!」

「うあ、ああっ、ぐうぅっ!」

 

 パースが一息に腰を落とす。濡れそぼった膣壁を擦って、ペニスは再び最奥へと差し込まれる。まとわりつくように蠢く肉襞が、きゅうきゅうと肉棒を締め付け、扱く。パースの体温に包まれていく。

 声にならない叫びを、パースは噛み締めた唇から漏らした。打ち付けられた肌の合間から、飛沫が飛ぶ。零れ出たパースの愛液が跳ねて、辺りへ雫を散らした。たったワンストロークで、二人の繋がった部分が水溜りのような有様になっている。

 これ以上ないほど、パースの身が昂っている。それは、小刻みな震えを伝えながら、ペニスを掴んで離さない膣壁からも、そして先程から亀頭へ吸いついてくる子宮口からも、明らかだった。

 そんな彼女の熱が、繋がった俺にも流れ込む。すでにこの身はパースの体温に支配されていて、今目の前で俺を求め、腰を押し付ける彼女以外のものが見えない。

 

「フゥーッ……ッ!フゥーッ……ッ!」

 

 荒い息を整えようとしているのだろうか。一際大きな呼吸を、パースは繰り返す。けれど一向に息が穏やかになる気配はない。むしろその間隔はどんどん短く、浅くなっていく。彼女の瞳の奥に、怪しい炎が揺らめく。

 再び、パースが腰を上げる。ペニスが持っていかれるのではと思うくらいに、彼女の膣が吸いついて離さない。襞の一つ一つが蠢動し、肉棒を包み込み、締め付ける。その圧迫感に、息が詰まりそうになる。背骨を伝った快感が脳天を叩き、今日何度目になるかわからない刺激に、奥歯を鳴らした。

 そこから、パースは止まらなかった。

 素早く腰が打ち下ろされる。肌のぶつかる乾いた音、走る飛沫の水音。それらが快楽となって脳へ伝わるより前に、パースは再び腰を浮かす。隙間なく埋め尽くす蜜壺の感触に、ペニスを扱かれる。魂ごと抜けるのではという浮遊感を感じながら、肉棒は再び彼女の奥底へと埋まった。子宮口が亀頭へ口づける。かと思えば、肉襞が雁首を引っかけ撫でて行く。

 

「あ、んあぁっ、やぁ、んふ、んぅうっ、あぁっ、あぅっ」

「ぐ、うあ、くうぅっ、ぐっ、んくぅっ、ふうっ、うぉおっ」

 

 律動は素早く、そして激しい。断続的だったそれまでとは打って変わった、途切れることのない快楽の波。脳の処理能力が瞬時にオーバーフローして、後はただ、襲い来る気持ちよさに身を委ねる他ない。寸前で留めていた射精感が、一気にせり上がってくる。

 

「あんっ、あなたっ、おっぱいっ、おっぱい、いじってっ」

 

 呂律の回らない声が、俺に求める。必死に腰を打ち付けるパースの瞳が、溶けた飴玉のようになりながら、辛うじて残る紫の輝きで俺に訴えた。

 パースの胸に当てた手の指先を動かす。むにゅりと、マシュマロを掴んだような感触に包まれた。瞼を震わせ、苦悶にも似た表情で快悦を吐くパース。だらしなく半開きになった唇から、色艶の喘ぎと共に一滴の唾が零れる。

 とろりとした顔が、「もっと」と求めた。そんな表情を見せられては、すでにないも同然の理性がことごとく吹き飛んでしまう。

 パースの胸を夢中で弄んだ。彼女を後ろから抱いてそうしたように。今度は正面で、律動に合わせて揺れる柔らかなおっぱいに、指を沈める。潰して、引っ張り、広げて、寄せて、その変幻自在の感触を、ただ無心に確かめた。しっとりと桃色の肌に、手が吸いついて離れない。胸の高鳴りに身を任せて、ただその母性を揉みしだく。

 

「ああぁっ!んぅああっ!」

 

 桃色のつぼみを指で摘まむと、甘い声が零れた。パースが背を震わせる。その震えが、擦れ合う膣を通して俺にまで伝わってきた。指の腹で優しくつねり、引っ張り、押して、弾いて、転がす。一つ一つに、パースは違った音色を奏でる。ただ、そのどれもが熱っぽくて、脳を蕩かすには十分なほどに甘くて、そして痺れるほどに刺激的だった。

 

「んあっ!いじめ、ないでぇっ。おっぱい、おかしく、なっちゃうっ」

「ぐっ……っ!それじゃあ、やめる、かい?」

「やらぁ、いやよ、いじってぇ……っ!あなたにっ、あなたにっ、さわって、ほしいの……っ!」

 

 いやいやと、首を振るパース。その拍子に、薄明の髪が乱れて揺れる。微かに差し込む月光を孕んで、美しく輝く。その様に心を奪われた。

 パースの求めに応じて、なおも彼女の胸を弄る。乳首を転がし、乳房を揉み、指先で触れて、手のひらで包む。この身から溢れる程の熱を、今度は俺からパースへ流し込むように。

 快感を伝えるように、パースの膣が蠢く。肉襞が震え、蜜が溢れ、子宮口が開く。一つ一つの変化が、さらに俺のペニスを責め立てる。その奥底に湧き上がるものを――精を、自らの中へ解き放とうと、扱いてくる。

 我慢の限界が、急速に近づいてくる。

 

「ふぁあっ、これ、きもちっ、いいっ。くせに、なっちゃうっ」

 

 俺の限界が近いことに気づいているのだろうか。パースはそれまでにも増して律動を加速する。愛液で潤滑されているのをいいことに、さらに膣の締め付けを強くする。みっちりとペニスに肉壁が密着していて、その熱と蠢く様子がさらに鮮明になる。触れるだけで震えるほど敏感になった肉茎には、それが計り知れない刺激となる。もはや快感を堪える術はなく、噛み締めた歯の間からいくつもいくつも言葉にならない声が漏れた。鼻息は浅く短くなっていく。不思議とそのリズムが、パースの喘ぎ声にシンクロしていった。ハーモニーでも口ずさむように、お互いの声が揃っていく。

 

「パース、パースッ」

「ええ、私よっ。私よっ、あなたっ」

 

 パースの名前を呼ぶ。それしかできないくらいには、頭の中が彼女で一杯だった。こちらを見降ろし、蠱惑的な口元と、魅惑の頬、慈愛の瞳を見せるパース。愛欲に染まりきったその顔以外、見えていない。

 熱いものが込み上げてくる。熱の感覚が、それまでと違うことはすぐにわかった。パースの口へ吐き出すことのできなかった精子が、今度こそ解き放たれようと、尿道を駆け上がらんとする。一度お預けされている分、今度の衝撃は大きく、そして自覚してしまえば堪えがたい。急激に昇り詰める感覚に、背筋が震えた。

 

「パース、もう、射精(で)るっ」

 

 激しい呼吸の合間に、何とかそれだけを告げる。そんな俺に、パースはニコリと微笑んだ。桃色の頬をしたパースも余裕なんてなさそうで、それでも精一杯笑っている。その笑顔が愛おしくて堪らない。そしてそんな彼女の一番奥へ、俺の子種を注ぎたくて堪らない。

 

「ええ、いいわっ。射精(だ)してっ。いっぱい、射精(だ)してっ。私の膣内(なか)、あなたで、満たしてっ」

 

 パースの求める声が、最後の引き金だった。

 熱く、どろりとしたものが、せり上がってくる。パースの激しい腰の動きに、その律動に、扱かれ導かれて、パンパンに膨らんだ男根を駆け上がる。細い尿道を重たいものが通り抜けていく。最早それを留めることなどできなかった。

 亀頭に子宮口が触れたその瞬間、欲望が暴発した。睾丸から肉茎を抜け、鈴口へと至った精子が、たった一つの出口から迸る。その一瞬、頭が真っ白になった。先端から熱いものが流れ出る快感に、全身が支配される。思わず腰を跳ね上げたその瞬間、さらに深々とペニスがパースの膣を抉り、子宮口を押し潰す。パースの嬌声が、霞んだ頭に響いた。

 

「あ、あぁ……っ、ん、射精(で)て、るぅ……っ」

 

 靄のかかる視界に、パースを捉える。射精を受け止める彼女は、恍惚とした表情で私を見降ろした。蕩け切った瞳が快感を訴える。ぐりぐりと押し付けられた子宮口が、吐き出された精子を全て吸い取っていく。膣壁が緩やかに動いて竿を刺激し、尿道に残った精子も搾り出す。文字通り全てがパースに吸い上げられていて、繰り返す快感にただ身を投げ出す他なかった。

 たっぷり十秒は精を吐き出しただろうか。満足げに微笑んだパースが、額にキスを一つ落としてから、ゆっくりとペニスを膣より引き抜いた。荒い息を整えながら、その光景をぼんやり見つめていた。お互いの性器が、白濁した体液の橋で繋がる。月明りが照らすその光景があまりにも淫猥で、今しがた果てたばかりだというのに、また胸の辺りが甘い熱に焼かれた。

 俺の上から退きながら、パースは愛液でびしょ濡れのおまんこを手で押さえる。熱い息を吐きながら、腿をきつく合わせて、恥じらう音色で彼女は告げた。

 

「たくさん、んぅっ……射精(で)たわね。溢れちゃいそう」

「……パース、激しいし、エロいし……でも、綺麗で、我慢できなかった」

「ふふ、ありがとう。――こういうのも、たまにはいいわね」

 

 いいことを覚えたというように、悪戯っぽい笑みを浮かべるパース。それに、力なく苦笑いするしかなかった。

 彼女に本気で絞られたら――きっと、愛しさとか、気持ちよさとか、色んなもので身がもたない。

 ようやく言うことを聞くようになった身を起こす。最早乱れて役に立たない浴衣は、脱ぎ捨てた。そのまま、パースの頬へ手を伸ばす。真っ赤なほっぺは暖かく、柔らかい。

 パースは目を閉じ、頬を俺の手のひらに擦り付けた。いまだ収まらない体の火照りを訴えるように。

 ほとぼりが冷めないのは、俺も同じだ。まだ、君に、触れていたい。

 

「パース」

「なあに」

「まだ、シ足りない」

「……ふふ、素直に言うのね。――私も、もっと、あなたが欲しいわ」

 

 再び開かれた瞳がこちらを見る。揺れるアメジストの瞳を、俺も食い入るように見つめていた。

 

「愛してるよ、パース」

「ええ、私も、愛しているわ」

 

 微笑むパースの腰へ手を伸ばす。辛うじて引っかかっていた浴衣の帯は、手をかけるだけでスルリと解けた。

 

 

 

◇

 

 

 

「んあっ、おぅ……ふうぅっ……~~~~~っ!」

 

 絞り出すような喘ぎ声は、くぐもって布団の上に響いた。枕に吐き出された嬌声。それに合わせて、ほどけた金砂の髪が乱れていく。握りしめられたシーツがギチギチと音を立てていた。

 うつぶせで布団に横たわるパース。そんな彼女に覆いかぶさるようにして、身体を重ねていた。丸く柔らかな臀部だけを浮かして突き出すパース。安産型、と評するべきおしりから腿へのラインに喉を鳴らしながら、ひくついてペニスを離さないパースの恥部へ、腰を打ち付けた。

 

「あ、ああぁんぅ~~~~~っ」

 

 一突きする度、パースが悲鳴のような嬌声を漏らす。蕩けて形のない、どろどろとした甘い叫びが、枕に埋めたパースの唇から零れていた。隙間から漏れ出る響きが脳を痺れさせる。ぞくりと背中が震えて、またパースに肉棒を押し付けた。それを、愛液を溢れさせるパースの膣が受け入れる。

 重ねた左手を握る。パースの小さな手のひらを包み、指を絡める。そうすると、パースもまた、その指先で俺の指を撫ぜた。重なった薬指の指輪がくすぐったい。

 

「はぁ……んふぅ、あ……は、あぁ」

 

 枕の上で、パースが首を捻る。汗を額に滴らせ、湿った髪を頬へへばりつける横顔。紫の瞳だけが、熱っぽい視線を寄越す。

 

「あなた……」

 

 潤んだ唇が、震えた嬌声の合間に私を呼んだ。余裕のない響きに、胸を掴まれる。その瞳に吸い寄せられる。

 

「パース」

 

 応える俺にも余裕はない。パースの名前を呼ぶだけで、甘美な響きに酔ってしまう。その調べの麗しさに、心臓が高鳴って仕方がない。

 名前を呼んだ俺に、パースはほんの一瞬微笑んだ。しかし彼女はすぐにまた、嬌声の海へ沈んでいく。享楽に身を任せ、その細くしなやかな背を震わせる。滑らかな指がシーツと俺を絡め取る。柔らかな臀部が俺を迎え入れる。

 乾いた肌のぶつかる音。リズミカルな音に、飴細工の声が重なる。とろりと甘く、まとわりつく声。蜜へ吸い寄せられるように、パースの背中へキスを落とした。サーモンピンクの肌には、しっとりと汗が浮かぶ。ほんの少しの塩っ気がして、しかしその雫すらもキャラメルのように甘い気がした。

 離れがたく、何度も口づけをした。震える肩甲骨に、揺れるうなじに、粟立つ首筋に、唇を触れる。背中越しに、パースの熱と感触を確かめた。

 

「ふわぁ……くすぐったいわ」

 

 また首を捻って、パースが訴える。熱い息を吐き出しながら、瑞々しい唇で俺に囁く。色っぽい表情の、上気した頬にキスをした。艶めく声をパースは漏らす。

 

「パース、すごく綺麗で、えっちだから」

「もうっ、あなた、そればっかり……っ」

 

 だらしなく半開きの唇から、喘ぎを零す。その声に合わせて、膣が震えた。竿をなぞるように肉襞が動き、キュウキュウと締め付ける。その度に、俺もまた快感に打ち震えた。食いしばった歯の間から、自分のうめき声が漏れている。

 腰を浮かせて、また打ち付ける。ペニスがパースの真ん中を貫いていく。亀頭の先が膣壁を抉り、一番深くで待ち受ける子宮口とキスをする。すでに溢れる程精液を飲み込んだはずの赤ちゃんの部屋は、それでもなお俺の子種をせがんでくる。零れた精液が愛液と混じって、繋がった二人の性器の潤滑性を増す。

 ストロークを加速すれば、二人分の体液が掻き混ぜられ、泡立って、繋ぎ目からコポリとシーツに垂れた。そこはすでに、パースの陰唇から滴る愛液でずぶ濡れだった。月明りの中でもわかるほど、大きく黒いシミができている。それでも、ペニスを引くたびに、後から後から愛液が溢れてくる。パースと俺の太腿を、等しく濡らしている。

 

「~~~~~っ!」

「う、うぁあっ!パース、締ま、って……っ!」

 

 それまでより数段高い声が部屋にこだました。枕へ顔を押し付けていても、はっきりと聞こえている。それと同時に、膣内が急に狭くなった。ギチギチと音がするのではと思うほどに、容赦なく俺のペニスを締め上げた。縦横無尽に蠢く襞が、肉茎を擦り、雁首を擦って、亀頭を嬲(なぶ)る。堪えきれていないパースの快感が、震える女陰から俺の陰茎へと伝わってきた。思わず俺も腰を震わせる。彼女の中に突き刺さったペニスが、温かな膣に弄ばれていた。

 

「あ、んんぅっ……おちんちん、震えて、るぅ。きもち、いいの?」

「きもち、いいよ。気絶するかと、思った。パースが、急に、締め付けるから」

「んあ、ふうぅ……らってぇ……ああぁっ」

 

 オーガズムの余韻に浸る瞳が、俺を見る。律動に合わせて浅い呼吸を繰り返しながら、パースは必死に言葉を紡いでいた。呂律の回らない口調が、やはり酔っているみたいだ。

 

「これぇ……この、体勢ぃ……っ!あなたの、ぅんっ、おちんちんがぁ……はあぁ、ふぅっ、きもちいとこぉ、えぐってぇ……っ!」

 

 艶めかしい声で快楽を告白するパース。表情も声も色艶そのもので、心臓が痛いほどになる。飲み込んでも飲み込んでも、生唾が溢れてくる。喉を鳴らすたび、それを見つめるパースの目が細くなる。「もっと」と、物言わぬアメジストが訴える。

 ただ夢中でピストン運動を繰り返した。溶けてなくなりそうな耳を澄まして、パースの音色を聴きながら、亀頭で膣を撫ぜていく。絡みつく愛液と、蠕動する膣壁が肉棒を迎え入れ、射精を促して扱く。一つ一つの動きが痺れにも似た快感を植え付ける。あまりの気持ちよさに、精を吐き出すより前に腰が砕けてしまうのではと思った。

 情欲を受け止めるパースもまた、甘やかな声を少しずつ高くしていく。

 

「んううぅっ!そこ、そこぉ……っ!」

「ここが、いいの?」

「いいっ、いいっ、いいのっ。あなたのおちんちん、いいのっ」

 

 声も、吐息も、崩れた視線さえも、俺の愛欲を煽る。体の内が熱く燃え滾る。そしてその熱を、ただパースへ伝えたくて仕方がない。

 膣が震える。ペニスを包む感触が、わずかに変わってくる。小さな痙攣が、打ち付け重なるパースの腿を揺すっていた。荒く短い息と、小刻みに震える肩、乱れ舞う髪、なにより必死に絡めて掴んでくる細い指が、彼女が再び絶頂を迎えようとしていることを俺に伝える。

 左手に力を込める。一回り小さな手を俺の手で包む。白くて、滑らかで、細くて、たおやかで、しなやかで、冬のせいで少し冷たくて、けれどやはりどうしたって温い手に、愛しさが込み上げる。

 

「パース、イキそう?」

 

 尋ねた俺に、枕に顔を埋めたまま、パースは何度も頷いた。月光の髪を、淫らに振り乱して、何度も何度も。決壊しそうな快楽を、隠すことなく訴える。

 パースの敏感な部分を亀頭で擦り、撫ぜながら、律動を繰り返した。ペニスが飲み込まれるたび、彼女の絶頂が近づく。キュウキュウと吸いついて離してくれない膣。快楽を求めるように縋りつく肉襞を、陰茎で抉った。絞り出すような声を、パースが枕へと吐き出す。

 

「あ、んぅっ、やあぁ……イクッ……イ、っちゃうっ」

「いいよ、イって。気持ちよく、なってくれたら、俺も嬉しい」

 

 くぐもった声に応える。自分の息で、唇が焼けてしまいそうだ。それほどに、身体の内から熱が溢れる。火照って、最早真っ赤なパースと同じくらい、熱くなっていた。

 

「や、ああぁっ……そ、んな、ことっ……言われ、たら……っ!」

 

 熱で蕩かされたパースの声。鈴の音に似た響きは、もうどこにも残っていない。そこにあるのは、ただ快楽を貪る一人の女性で、そして俺を求める愛しい妻。その姿が狂おしいほどに愛しくて、実際狂ったようにパースを抱いていた。乱れ髪の美女しか、俺の視界には映っていない。

 その熱(愛)に、溶かされている。

 

「イ、ク……っ!イク、わ……っ!あんっ、イクゥッ!あ、あぁ、すきっ、すきっ、好きっ!大、好き……っ~~~~~っ!」

 

 言葉にならない絶叫をパースが枕に吐き出した。打ち付けた陰茎を、膣が一切の遠慮なく締め付ける。ギュウギュウと圧迫する膣壁は、しかし同時に小刻みに震え、縦横無尽に陰茎の表面を駆けた。強く握られているのに、優しく撫でられている。そんな矛盾した感触に脳の処理が追い付かなくて、腰が砕けたように動かなかった。享楽の水底へ沈んでいくパースの、その渦に巻き込まれ飲み込まれて、俺の頭も快感で真っ白になった。

 蠢く膣に、急速に射精感を煽られる。さっき吐き出したばかりの精を、またパースの中へ迸らせたくなる。愛液を飛び散らせ、淫靡に震えて男根を求める雌(パース)の、その一番奥にある子宮へ、子種を注ぎ入れたい。そんな衝動に強く駆られた。

 歯をガチガチと言わせながら、快楽の波を堪える。その間、パースは小さな痙攣を繰り返した。享楽に弄ばれる彼女の唇が、時折甘い吐息を漏らす。それに合わせて、膣と臀部が震えた。柔らかな女性の体が揺れる。細い肩を目いっぱい上下させて呼吸する麗しの美女に、また喉を鳴らした。

 たっぷり一分近く、パースはオーガズムに浸っていた。その間、膣は陰茎を離してはくれず、結局ずっと繋がったままだった。お互いに荒い息を整えながら、しばし快楽のうねりに酔っていた。

 ゆっくりと繋がりを解く。引き抜いたペニスは、白濁した愛液と精液が塗りたくられて、べっとりとしている。それを、首を捻ってパースが見ていた。

 

「すご、い……おちんちん、まだ、元気ね」

 

 桃色の唇がうっすらと蠱惑的に笑う。あたかも淫魔のように、妖艶にこちらを誘う。紫の視線に絡め取られたペニスが、否応なく硬くなった。どくどくと熱い血が激しく流れているのを感じる。

 

「パース。今度は、ちゃんと、向かい合って、シたい」

「ええ、ふふ、同じことを、私も考えてた。――私も向かい合ってがいいわ。それが一番好き」

 

 理由なんて、確かめる必要はなかった。

 ころりとパースが体勢を変える。うつ伏せていた体をひっくり返して、仰向けに。すると、彼女と布団の間で潰れてお餅みたいになっていた、二つのたわわなものが、露わになる。どこか気高くもある双丘はピンと張って天井を向いていた。

 それだけじゃない。月光のもとに晒されたパースの肢体に、思わず惚けてしまう。月明りを写し取る金糸の髪。こちらを魅了して離さないアメジストの瞳。潤んで瑞々しい薄桃色の唇。流れるように滑らかな陶器の肌。細くしなやかで艶めかしい首筋。細く引き締められ、しかし下半身へと膨らんで曲線美を醸し出す腰つき。柔らかさと強かさを兼ね備えた長い脚。どれをとっても「美しい」以外の言葉が浮かばず、そしてその全てが愛おしい。布団の上に横たわるパースは、きっと神話上のどんな女神よりも、世界中のあらゆる美女たちよりも、綺麗だ。

 天女というものがこの世に存在するのなら。そして天女が絶世の美女だというのなら。それは間違いなく、パースのことだろう。

 

「もう……そんなに見つめられると、恥ずかしいわ」

 

 恥じらってみせ、小さな手で体を隠すパース。けれど悪戯っぽい微笑みが、彼女がわざとやっていることを理解させる。否、恥ずかしいというのは本音だろうけど、あの仕種は演技だ。

 頬を掻いて、苦笑いする。見惚れていたのは事実で、隠しようもごまかしようもない。だから素直に、答える他なかった。

 

「パース、すごく、綺麗だから。見惚れてた」

「もう何度も見てるでしょう?」

「何度見たって……綺麗で、魅力的で、見惚れてしまうんだ」

「……ふふ、ほんとに、照れちゃうわ」

 

 真っ赤な頬を両手で覆い、紫の瞳を泳がせるパース。今度の言葉は、百パーセント本音だった。

 

「――ねえ、きて、あなた」

 

 頬を上気させたまま、パースが俺を呼ぶ。純白の腕が伸びて、「おいで」と俺を誘う。その言葉に従って、俺はパースに覆い被さった。ペニスを恥丘へあてがうと、パースも両の腕で俺の首を絡め取る。

 

「愛してる。パース」

「――うん。私も、愛してる」

 

 パースの腕に引き寄せられて唇を重ねるのと、俺がペニスを挿入するのがほとんど同時だった。くぐもった喘ぎと浅い鼻息を隠すことなく、パースは俺の唇を吸い上げる。ほのかな痺れは、脳から近い分タイムロスなく感じられる。そこへ遅れて、膣に包まれた陰茎の感触が押し寄せる。種類の違う二つの快感が混じり合って、格段に甘美な享楽となった。

 

「ふ、んぅ……ちゅ……ふゎあ」

「く、むぅ……んん……ふあぁ」

 

 キスを解くと、そのままパースに抱き締められた。細い腕が背中に回り、俺を強く抱き寄せる。しなやかな足も腰のあたりで絡まって、俺を繋ぎ止める。柔らかなおっぱいの感触と、甘く温かな吐息の感触に、身を委ねていた。

 しばらくそうしていると、パースがゆっくりと、口を開いた。唇が開かれる水音と、微かに息を吸う音を、静かに聞いていた。

 

「……あなた」

「どうした、パース」

「その、ね……わがままを、言ってもいいかしら」

「――ああ、もちろん」

 

 俺が頷くと、パースはまた、さっきよりも深く息を吸った。呼吸の音が、かすかに震えていたような気がする。何かを決意するような間。俺を抱き締める力が強くなる。重なった胸から、どくどくと激しく打つパースの心音が伝わってきた。

 

「――欲しいの」

「――え?」

「赤ちゃんが、欲しいの」

 

 短い願望を、切実な声が告げる。思わず息を飲んだ。

 パースから、避妊具の装着をお願いされたことはない。何度か、俺が避妊具を装着しようとした時には、やんわりと押し留められた。「夫婦なんだから、いいでしょう」と、彼女は毎回そう言った。

 薄々気づいてはいた。パースが、俺との子供を欲しがっていることに。けれど、こうして、はっきりとそれを口にされたのは初めてだ。

 パースの声は、なおも震えている。縋りつくように俺を抱き締めて、訴え求めるように言葉を紡ぐ。ほんの少し湿っぽく聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。

 

「今更、かも、しれないけれど。――私、あなたの赤ちゃんが、欲しい。あなたと、子供を、作りたい」

 

 そう言って、パースは俺の肩に顔を埋める。短く浅い息は、雫を堪えているようで。まるでそのわ(・)が(・)ま(・)ま(・)を、恐ろしいものであるかのように、細い肩が震えていた。

 ……俺は、とんでもない、大馬鹿者だ。

 

「ごめん、パース。――不安に、させてたんだね」

 

 肩に擦りつけられた頭が、ふるふると横に振られる。その髪を梳き、殊更優しく、頭を撫でた。

 

「……俺も、パースの赤ちゃん、欲しいよ。パースと、子供、作りたい。愛してる君の子供が、欲しいんだ」

 

 だから、パース。君が「わがまま」と言ったそれは、わがままなんかじゃない。だって、二人で同じ「わがまま」なら……きっとそれは、「願い」とか、「祈り」とか、「希望」とか、そう呼ぶべきもののはずだから。

 パースが肩から顔を離す。長至近距離で、紫の瞳と目が合った。潤んだアメジストが揺れている。ただ俺だけを、真っ直ぐに見つめている。

 

「ほんとに……?」

「うん。ずっと、そう思ってた。でも、ちゃんと言わなくて、ごめん」

「……いいえ。私こそ、ちゃんと言わなくて、ごめんなさい」

 

 パースと二人、笑う。口の端を緩めて、羞恥で頬を熱くしながら、目を細める。

 こつりと、パースがおでこを、俺のおでこに、合わせた。目を閉じた彼女は、唄うように、楽し気に、夢見心地で、囁く。

 

「――あなたと、私の、子供よ。きっと、可愛いわ」

「うん、そうだね。君に似て、きっと可愛い」

「あら。あなたに似たって、きっと可愛いわ」

 

 クスリと笑って、パースが啄むように口づける。再び開かれた瞳に、涙の痕はない。ただ溢れるばかりの愛情に任せて微笑む、俺の最愛の女(ひ)性(と)が、そこにはいるだけだ。

 その笑顔が堪らなくて、もう一度彼女を抱き締めた。細い背中に回した腕へ力を込める。それだけで彼女の体はふわりと布団から浮いた。俺の腕の中にすっぽりと納まる温もり。それを、大切に大切に、包んだ。

 パースもまた俺を抱き締める。しなやかな腕が背中に回って、きゅうと力を込める。俺の腰を掴んだ両腿が、俺を捉えて離さない。全身全霊で彼女は俺を抱き締める。

 

「パース。俺と君の子を、産んでください」

「――はい。あなたと私の子供を、産みます」

 

 囁いた言葉に、同じような囁きが返ってくる。それから、気の抜けたような笑い声も。耳をくすぐる吐息が、この胸に暖かなものを残していく。

 たっぷりとパースの感触を、温もりを、香りを、確かめた。腕の力を緩め、彼女を布団へ戻す。枕の上に収まったパースは、紅葉色の表情で、俺に求めた。

 

「あなた……そろそろ」

 

 パースの言葉に頷く。さっきから、暖かさで包んでくるパースの蜜壺に、俺の陰茎も我慢の限界だ。男根は正直に、早く動かしてくれと促してくる。

 腰を引く。これまでさんざんまぐわって、お互いの性器も馴染んでいる。ゆっくりとアイドリングをする必要はない。蠕動で俺のペニスを刺激するパースの膣内からも、それは明らかだった。

 陰部の入り口付近まで引いた肉棒を、一息にパースの中へと挿し入れる。熱を帯びて膨らんだ亀頭が、溢れる愛液を潤滑油に、パースの膣を掻き分けていく。それを、蜜壺もまたすんなりと受け入れ、その最奥まで導いた。鈴口が暖まった子宮口に迎えられる。

 

「~~~~~っ」

 

 ぎゅっとパースが俺を抱き締める。快感に抗うように、あるいは自分の存在を俺に繋ぎ止めるように。そんなパースを俺も抱き締める。溶けてしまいそうなこの身を、彼女へ繋ぎ止めて。

 意識をどこかへやってしまいたくはない。目の前にいるパースを、ずっとずっと見つめていたい。その温もりを永遠に感じていた。蜂蜜の香りも、パンケーキの感触も、全て手放したくはない。この腕の内に抱き締めたい。

 けれど律動は止められない。お互いの体が求めている。もっと包んでくれ。もっと突いてくれ。堪えた喘ぎと、乱れた吐息、熱くなる一方の体温で、お互いに求め続ける。何よりも深く繋がっている今、けれどそれ以上の繋がりを、感触を、存在を求めるように。

 

「ぅんん、ふあっ」

 

 肩に顔を埋めたパースが、甘い嬌声を漏らす。鎖骨を撫でた吐息が、この身を焦がすほどに熱い。それがなお一層、ピストン運動を加速する。快感を植え付けるパースに、溶かされていく。

 膣壁が動く。締め付け、かと思えば優しく包み、入り口だけをきつくし、あるいはカリのみを執拗に責め立てる。動き一つ一つが、俺に射精を促す。湧き上がってくる精を、子宮へ吐き出せと、誘ってくる。それが抗いがたい快感だった。

 

「パースの膣内(なか)っ、うねって……ぐっ……気持ち、よすぎる……っ」

「あ、ふあぁっ……あなたの、おちんちんもっ……熱くて、パンパンで……気持ちいいところ、ばっかりっ、えぐって……~~~~~っ」

 

 快感を訴えた俺に、パースも享楽に溺れた答えを寄越す。湯気みたいに熱い声が、告げられた言葉の一つ一つが、耳を痺れさせ、思考を蕩かす。頭の中に何度もこだまして、快感で真っ白になったところを、彼女の色に染めていく。律動の度に、頭も、胸も、体の全てが、パースで満たされていく。

 膣が急に締まった。不意打ちの感触に、目の奥で火花が散る。同時に、抱き着くパースの腕が、さらに力を込めた。背を丸めて、声を堪えて、震える。どうやら軽い絶頂を迎えたらしい。

 それには構わず、律動を続けた。堪えきれなくなった様子で、それまでより数段高い嬌声をパースが漏らす。けれど、霞んだ目も、潤んだ唇も、縋る手も、「止めて」と訴えることはしなかった。だから、ストロークを止めることはしない。

 一度気を遣(や)ったからか、膣の感触はなおも刺激的なものとなった。蠢動する膣壁。撫ぜて嬲って責め立てる肉襞。ちゅうちゅうと吸いついてくる子宮口。どこもかしこも、その全てが俺の射精感を煽る。ペニスの根元、二つの睾丸から、溜まった子種を吐き出させようとする。

 最早声も出ない。腰を振り、彼女の膣へ飲み込まれるたび、どうしようもなく声が漏れる。噛み締めた奥歯がガチガチと鳴る。視界が何度もホワイトアウトした。ただ、胸の内に抱き締めたパースの感触だけが、俺を現実に留めている。

 

「あなたっ、あなたっ」

 

 パースが俺を呼ぶ。抱き締める力を弱めると、彼女と目が合った。涙とも汗ともつかない雫が、いくつも頬に伝う。霞んでぼやけて、ぐにゃりと歪んだ若紫の瞳。しかし、眩く煌めくその光に、どうしようもなく心を奪われる。

 

「きもち、いいのね?」

 

 絶え絶えの声に、話せない俺は頷く。そんな俺に、パースは愛おしそうに、慈しむように、微笑む。余裕のない真っ赤な表情で、それでも精一杯笑う。いずれ訪れる春の日のような温かさで俺を包む。

 

「私も、きもちい、わ……っ!ねえ、ねえっ、あなた、わかる?私の子宮、吸いついてるっ。あなたの、せーし、欲しくて、吸いついてるのっ」

「う、あぁ……っ!わか、る。わかるよ。俺も、パースの子宮に、射精(だ)したい……っ!赤ちゃん、作って、ほしいっ」

「ええ、ええ、ええ、きっとよ。だから、いっぱい、射精(だ)してっ。赤ちゃんの素、いっぱいいっぱいっ。――お願い。私を、孕ませてっ」

 

 ぷつりと何かの糸が途切れた。

 無我夢中でパースを求める。俺を迎え入れるおまんこの、その一番奥で口を開く子宮へ、なんどもなんども亀頭を合わせる。敏感になった先端で、同じくらい敏感な赤ちゃんの部屋の入り口を、押し潰す。ぐりぐりと、パースが黒蜜のような嬌声を吐くまで、押し付ける。

 お互いの吐息が混じる。嬌声も。喘ぎも。熱も。香りも。お互いの感覚まで一つになってしまったかのような。

 だからこそ伝わってくる。

 好き。

 好き。

 好き。

 好き。

 俺を見つめるパースが、その瞳で語りかける。ただの一時も目を逸らさず。ただの一瞬も間を挟まず。まるでその感情だけでできているかのように。一心不乱に、伝えてくる。

 

「パースッ」

 

 そんな彼女の名前を、呼ばずにはいられなかった。

 

「好きだ、パース。好きだ。君のことが好きだ。大好きだ。――誰よりも君を、愛してる」

 

 思考の覚束ない今、それだけをただ素直に伝えることしかできない。もっともっと、色んな事を伝えたいはずなのに。簡単で短くてありきたりな言葉しか、口にできない。

 けれど、その、どうしようもなく単純で飾り気のない言葉に、パースは瞳を輝かせる。ありったけの彩を、輝きを、俺の言葉に与えてくれる。

 

「私もっ。私も、好きよ。好き。好き。あなたのことが好き。――世界で一番、愛してる」

 

 唇を重ねる。お互いにもう、余裕なんていうものはどこにも残っていなくて、ただ唇同士を合わせ、舌先を触れるくらいのキスしかできない。けれどたったそれだけのことに、この上ない幸福を感じている。柔らかな彼女の感触に、繋がった二人の間に流れる感情に、涙が出るほど心を打たれている。

 精はもう、迸る寸前まで昇り詰めている。あと十数回もピストン運動を繰り返せば、亀頭から吐き出されて、パースの子宮に飲まれるだろう。それを堪える必要もなくて、ただ腰を振り続ける。膣と肉棒を幾度もこすり合わせた。

 

「パース、射精(だ)すよっ。パースの一番奥に、射精(だ)す……っ」

「ええ、射精(だ)してっ。一番奥に、ちょうだい……っ」

 

 キスの合間にそれだけを交わして、再び唇を繋げた。もう離さない。この甘やかな温もりを、決して離さない。

 最後の一突きを、子宮口へ押し付ける。その瞬間、留められていた精液が、一気に走り出した。睾丸から送り出された熱いものが、尿道を駆け上がる。経験したことのない快感が陰茎を抜けていく。思わず腰が震えて、なお深くへペニスを挿しこんだ。くぐもったパースの声が、繋がった唇の間にする。

 鉄砲水のような勢いで、精液が亀頭から噴き出した。信じられないほどの気持ちよさに、背中が粟立つ。そんな背中を、パースが優しく撫でたものだから、堪らず声を吐いた。キスの合間に、俺の声がこだまする。

 吐精中の鈴口へ、子宮口が吸いつく。溢れた精子を、片っ端から吸い上げていく。蠢く膣壁は射精中で敏感な竿を扱き、更なる吐精を促していた。尿道へ残った精液も、おおよそ子種と呼べるものは一滴も残すまいとするように、搾り取る。その刺激で、また新たな精子を吐き出した。その間、パースは腰に回した両の足をきつく締めあげ、決して逃すまいとしていた。

 たっぷりと三十秒ほど精を吐き出した。それを、パースの子宮が全て受け止める。今、彼女の赤ちゃんの部屋に、俺の赤ちゃんの素が、たっぷりと入っている。

 吐精の間、ずっと繋げていたキスを解く。力が抜けて惚けているパースを、慎重に布団の上へ降ろす。それに満足そうに微笑んで、パースはその細く白い指で俺の頭を撫ぜた。

 膣からペニスを引き抜く。そのまま、パースの横へ寝転んだ。パースは器用に身を捻ってずらし、俺の分のスペースを作ってくれた。そこへありがたく収まる。足元へどけておいた掛布団を引き上げる。

 布団は二人分敷かれていたが……今は、こっちの方がいい。枕だけ、手を伸ばして引っ張ってきた。それを、パースのものとぴったりくっつけて並べる。

 寝転ぶパースと目が合う。まだ熱を完全に収めきっていない表情が、俺を見つめている。とろりとしたアメジストの瞳に、吸い込まれそうな気がした。

 

「……やっぱり、暖かいわ」

 

 ぽつり。パースは呟く。衣擦れの音。金糸の髪が揺れる。やがてそのおでこが、俺の胸にこつりと、合わさった。彼女に、俺の心音を、聞かれている。

 

「いつもより、ぽかぽかしてる」

 

 擦り付けられた前髪とおでこの感触に、その甘い香りに、胸が一杯になるほど、暖められる。

 

「……パースの方がよほど、ぽかぽかしてるよ」

 

 胸元の愛しい人を抱き寄せる。それに、パースが微かな笑いを零したのが聞こえた。麗しい鈴の音が、耳に心地よい。

 お休みのキスをして、二人、目を閉じた。幸せそのものの温もりを抱くと、穏やかな微睡みがすぐに訪れ、俺を夢へと誘う。

 意識が薄れるその瞬間まで、パースの暖かさを、感じていた。

 

 

 

◇

 

 

 

「ふふ、朝風呂と言うのも、悪くないのね。癖になりそう」

 

 初体験だという朝風呂にご満悦の様子で、金糸が揺れていた。ふわりとした薔薇の香りが、温泉の香りに混じって漂う。楽し気にお湯を掻き、肩を揺するパースに、自然と俺の頬も緩んでしまう。

 二人揃って、いつもより随分遅く目覚め、目覚めのコーヒーを一杯飲んだ後、一緒に朝風呂をしないかと提案したのはパースからだった。断る理由もなくて、プライベートの温泉なのをいいことに、二人で昨夜の汗を流し、湯船に浸かった。

 

「夜とはまた違った景色が見れるしね。いい風情だ」

「そうね。……朝のお風呂から眺める景色が、こんなに幻想的なんて、知らなかった」

 

 そう言って、パースは俺の腕の中を離れ、湯船の端へと身を動かす。揺れる湯面から真っ白な湯気が漂って、薄明の髪をさらに幻想的なものへと仕上げる。その美しさに、また、心を奪われていた。

 湯船の端へ両腕で寄りかかり、その上に頭を乗せて、パースは露天風呂から見える景色を眺める。やがてその唇が、流行りの歌を口ずさみ始める。玲瓏な声で、美しい調べて、麗しい響きで、まるで天使のような歌声で、音を奏でる。それに、俺は聞き入っていた。

 パースの見つめるものへ、俺も目をやる。夜とはがらりと雰囲気を一変した景色。朝の澄んだ空気に包まれ、佇むのは、冬支度の山。透き通ったせせらぎを流す川。それらを照らすお日様には、温泉街独特の靄がかかる。

 歌を歌いきり、殊更嬉しそうに笑い声を零したパース。彼女はくるりと振り返り、今度はその女神の微笑みを、俺へと向けた。朝靄の景色に、見返り湯けむり美人が一人。

 

「なんだか、素敵な一日になりそう。そんな気がするわ」

「そうだね。――こんなに綺麗な朝だと、尚更そんな風に思える」

 

 俺が答えると、パースは頬を染めて頷いた。

 

「ねえ、今日はどうしようかしら。遅くなってしまったし、予定通りにはいかなそうね」

「うーん、そうだなぁ。遠い場所に絞って、近場は明日の帰りにしようか。――でもまずは、朝ご飯かな」

「ええ、そうね。夕食もおいしかったし、今から楽しみだわ」

 

 他愛もない会話に声を弾ませる。湯けむりの中、パースと語らう。パースが微笑めば、俺も自然と微笑む。たったそれだけのことに、幸せを感じている。

 体が温まったところで、二人揃ってゆっくりと十を数えた。湯船を出て、手早く体を拭いて、浴衣と羽織に袖を通す。

 二人揃って部屋を出た。朝食の会場まで繋いでいく手が、いつもよりちょっと、愛おしかった。




ほろ酔いパースさん、提督にべったりなの可愛い…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。