ぐだ男が他のマスター候補生に奪われたマシュを奪い返すまでの話 作:大中小
薬の効果は、直に現れた。
今の今まで楽しく談笑し、笑顔を見せていたタマモキャットの呼吸が少しずつ荒くなり、困惑しているような表情を浮かべ始めている。
よく見れば、彼女の頬はほんのりと赤く染まっているようにも見えた。
彼女の正面に座る立香には、その変化がありありと見て取れる。
タマモキャットがそうなるように仕向けた張本人である立香は、今しがた彼女の異変に気が付いたふりをしながら、その身を案じてみせた。
「どうかしたの、タマモキャット? なんか、様子が変だけど」
「な、なんでもないゾ! 少しばかり、そう! 体温が上がっているだけだ!」
「ああ、言われてみれば確かに顔が赤いね。食堂の仕事で疲れてるのに、俺の話相手までさせちゃって、本当にごめん」
「き、気にするな。これはアタシが好きでやっていることだからナ」
異変に気付かれ、慌てるタマモキャットを尻目に、立香は自分たちが使っていたティーセットを流し場へと運んでいった。
そうして、帰りにコップ1杯分の水を手にテーブルに戻ってくると、それをタマモキャットへと差し出しながら言う。
「冷たいものでも飲めば、少しは楽になるかな? これ、どうぞ」
「う、うむ……お気遣い、ありがとうだ」
差し出されたコップを、大きな手で挟むようにして受け取ったタマモキャットは、立香の気遣いに感謝しつつそれを一息に飲み干した。
……その中に、自分を狂わせる媚薬が駄目押しとばかりに混ぜ込まれていることも知らずに、だ。
彼女の喉が動き、体内へと媚薬入りの水を嚥下していく様を、立香は興奮を必死に堪えて見つめる。
ほんの数秒、たったそれだけの時間が数分にも数時間にも感じられるほど、彼は緊張していた。
仕込みは十分過ぎるくらいに行った。後は、収穫だけだ。
ベリルから受け取った霊薬を殆ど使用し、タマモキャットへと飲ませることには成功した。ここからは、自分の行動に掛かっている。
そう、自分自身を鼓舞するように思いを浮かべた立香は、コップの中身を飲み干しても微動だにしないタマモキャットへと手を伸ばし、彼女の大きな手からコップを奪い取りながら、様子を伺う。
片手でガラスのコップを掴み、もう片方の手でそれを挟んでいたタマモキャットの両手を下げさせた彼は、その下にあるタマモキャットの表情を見て、小さく笑みを浮かべた。
「は、ぁ……♡ う、ぁ……?」
長く熱い吐息。発情した獣、という表現がぴったりな蕩けた表情を浮かべながら、タマモキャットは甘い声を漏らしつつ呼吸を繰り返している。
普段の快活さは消え失せ、とろんとした意識のおぼついていない顔になった彼女の頬に手を触れてみれば、タマモキャットの体がビクリと反応を見せた。
「……どうしたの? どこか、調子が悪い?」
「んぅ……は、ぁぁ……っ♡ うぅん……?」
こてん、とタマモキャットが首をかしげる。
いったい、自分はどうしてしまったのかと理解に苦しんでいる彼女の頭の中には、目の前の青年が自分に薬を盛ったという可能性はまるで浮かんでいないようだ。
その純粋さを利用していることに若干の罪悪感を感じながらも、立香は計画を止めはしない。
ここからが本番だと気合を入れ直してから、そっと彼女の瞳を覗き込むようにして顔を近づけ、囁くような小さな声を発する。
「ねえ、もしかしてなんだけど……タマモキャット、魔力不足なんじゃないの? カルデアのシステムに何か異常が起きたのかも……?」
「ん……そうかもしれない、ナ……。どうにも体が怠くて、力が入らん……」
「それは大変だ。タマモキャットさえよければ、俺が魔力供給をしてもいいんだけど……?」
「は、ふぅっ……♡」
魔力供給……その単語を耳にしたタマモキャットの瞳に、期待と欲望の火が灯る。
魔術師と使い魔の間で行われる粘膜接触を介しての魔力の補給とは、主に男女の交わりの最中に行われるものだ。
言ってしまえば、セックス。若しくは、それに準ずる行為である。
ゴクリと涎を飲み込むように喉を鳴らしたタマモキャットは、目の前の青年の言葉に体は反応していることを感じていた。
どうにも体が火照り、快感を求める中で、立香の勘違いによってそのチャンスが巡ってきた。
そういった経験が多いわけではないどころか、一切の実体験こそないものの、
(別に、最後までしなければ大丈夫なはずダ……口吸い程度なら、別に……♡)
体を明け渡すのは自分が主と認めた人物のみ。だが、最後の一線さえ越えなければ多少の前戯くらいは認めても良いだろう。
唇を重ね、舌を絡ませて、唾液を循環させての粘膜接触で魔力供給を行うくらいならば……別に、構わない。
これは魔力供給に必要な行為なのであって、決して男女の契りだとかそういうものではない。
だから、多少の淫らな行為も認めてしまっても良いのだと、自分自身に言い訳をするようにしてそんな大義名分を振りかざしたタマモキャットは、立香に向かって頷くと共に、口を開く。
「すまないが、頼めるか……? 舌を介して、魔力を分けてくれ……♡」
「……うん、わかった」
タマモキャットの吐息は、むわりと甘い匂いが漂う程に蕩けている。
その熱も尋常ではなく、息を浴びた立香には彼女の興奮がひしひしと感じられていた。
彼女の髪と同じ、ピンク色に染まった頬。潤んだ瞳とぷっくりと膨れている唇。一切の抵抗を感じさせない脱力しきった体など、他にもタマモキャットの発情度合いを判断する材料は幾らでもあった。
それら全てを見て、感じて、彼女の霊基に霊薬が完全に染み込んだことを確信した立香は、そっとタマモキャットの頬に手を添えながら、彼女の唇に自分の唇を重ね、舌を絡ませ始める。
「んっ……♡ んちゅ♡ ん、んっ♡ んぅぅ……っ♡」
立香にとってのファーストキス。それは、タマモキャットの激しい求めを受け入れ、それに応えるためのもの。
ザラリとした猫舌が唇を重ね始めた瞬間に立香の口の中へと侵入し、縦横無尽に暴れまわる。
立香の唾液を、舌を、魔力を吸う。歯も歯ぐきも舐め上げ、呼吸も忘れてただただ貪るように接吻を続けるタマモキャット。
その動きに翻弄させぬよう、されど突き放しこともしないように、立香は彼女の舌を受け入れ、同じように快楽を享受し続けた。
飼い主が散歩中にリードをしっかりと握り、飼い犬に勝手なことをさせぬようにしっかりと操る。
そんな、好き勝手にされているように見えて、実は立香の方がこの場の主導権を握っているという盤面を作り出したら、後はひたすらにタマモキャットとの悦楽に浸るだけだ。
「ぢゅっ♡ ちゅっ♡ んふぅ……♡ ん♡ んっ♡ んんっ……♡」
体が、吐息が、舌が全てが熱い。性の興奮に塗れた肉体が興奮で昂ぶり、脳を沸騰させるほどの熱を発している。
だが、そんな立香よりも更に興奮を滾らせているのがタマモキャットだ。彼女の吐く息や触れている肉体が信じられないくらいに熱くなっていることを感じ取る立香は、彼女が満足するまで唇を重ね続けた。
「ぷはぁ……♡ はぁ、はぁ、はぁ……っ♡」
やがて……呼吸が限界に達したのか、名残惜しそうにタマモキャットの唇と舌が立香から離れていく。
その瞬間、立香は彼女の顔を両手で挟み、一度強く顔を押し付けて唇を重ね合わせた。
「んぐっっ……♡」
限界ギリギリを攻めていたタマモキャットの呼吸が、立香の予想外の行動で完全に途切れる。
数秒の間、意識を途切れさせた彼女の脳内にはふわふわとした浮遊感による快楽が満ち、全身はだらしなく脱力してしまっていた。
立香はそんなタマモキャットの唇を今度こそ解放しながら、自らの唾液を開きっぱなしの口へと流し込んでいく。
銀色の橋を作り、ゆっくりと雫となって零れ落ちていった唾液は、タマモキャットの伸びっぱなしの舌を伝って彼女の口内へと注がれていき、嚥下されると共に彼女に甘美な魔力と快感を味わわせた。
「……どう? 少しは楽になった?」
「あふぅ……う、ぅ……」
ドロリと、熱によって融解した理性が零れ落ちていく音がする。
元々、
腰を強く抱き寄せられ、至近距離で目を見つめられ、ほんのりと赤く染まった頬を撫でられていたタマモキャットは、立香の股間が盛り上がっていることに気が付いて眼を見開いた。
(あぁ、そうか……
この行為を、ただの魔力供給として見ていたのは自分だけではなかった。
目の前のこの雄も、自分との口付けを性を楽しむ行為として受け取っている。その証拠が、硬くなった彼の逸物だ。
興奮で熱くなった立香の体よりも熱い、自分の肉体。それよりも熱く滾りを放つ、立香の男の象徴。
ずくり、ずきりと体が……いや、子宮が疼く。雄の興奮をその身で感じたタマモキャットの霊基が、霊薬の効果によって昂らされていく。
「ふむっ!? む、むぅぅ……っ♡ ん、むぅ……っ♡」
不意に訪れた2度目の口付けを、彼女は拒むことはしなかった。
先ほどの口付けとは逆。今度は、タマモキャットが立香を受け入れる番。
口の中を丁寧に舐められ、舌を吸われ、魔力と共に彼の唾液を体へと染み込まされる。
脱力した体を立香に支えられ、彼に強く抱き締められるタマモキャットは、英霊である自分が非力な人間に貪られている状況に本能を刺激されていた。
(喰われている、アタシは……♡ 目の前の雄に、雌としての部分を貪られている……っ♡)
立香の腕の中から逃げられない。立香が与える快感を拒むことが出来ない。
雌として見られ、口内を貪られ、野生界の生き物がそうするが如く、強い雄に本能と肉体が屈服してしまっている。
脈々と昂るお互いの熱が、段々と余裕がなくなっていく立香の愛撫が、そしてけたたましいくらいに早鐘を打つ心臓の鼓動が、自分が喰われているということをタマモキャットに実感させた。
「ぷはぁ……♡ はぁっ♡ はぁっ♡ はぁぁっっ♡」
再び、立香の顔が離れ、呼吸が自由になる。
完全に媚薬が回り切り、口付けの興奮に晒され、快感を求める本能を引き摺り出されたタマモキャットの表情は、これ以上ないほどに発情し切っていた。
だらりと口から飛び出し、だらしなく垂れている舌。
潤み、恍惚とし、瞳孔にハートの紋様を浮かび上がらせている瞳。
真っ赤に染まり、ふっくらと膨れた頬。
荒い息遣いも呼吸の度に震える全身も、全てが彼女の興奮を示している。彼女が何を期待しているのかも、タマモキャットの全身が主張していた。
ゆっくり、ゆっくりと……立香の顔がタマモキャットの耳元へと運ばれていく。
こそばゆく、それでいてうっとりとしてしまう彼の弱々しい呼吸と共に吐き出された言葉は、タマモキャットの心を大いに疼かせた。
「ごめん、俺の方が治まりが利かなくなっちゃったみたいだ……ねえ、タマモキャットさえよければ、この続きを……!!」
立香の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
その途中で、タマモキャットが自らの唇で彼の口を塞いだからだ。
魔力供給など関係ない、ねっとりとしたキス。自らの興奮と答えを、行動として立香に示す。
たっぷり数十秒、唇を重ね続けた2人は、三度唇を離すと共に熱を帯びた瞳でお互い見つめ合う。
疼く、燃える、滾る、興奮する。
自らの欲望のために雌を絡め捕った雄と、そんな策謀も知らぬままに自らの欲望に従おうとしている雌。
この先のことなんて関係ない。今はただ、目の前にある快楽を互いに貪ればいいということだけが、本能で理解出来ていた。
ふわりと、タマモキャットの姿が消える。周囲から目視出来ない、霊体へと状態を移行したのだ。
だが、彼女は確かにそこにいる。自分の横に、燃え盛る情欲の炎を持て余したタマモキャットの存在が感じられる。
引いた椅子も、使っていたコップもそのままに、立香たちは食堂を後にした。
時にカルデアのスタッフとすれ違い、他のマスターたちから嘲笑の視線を浴びせられながらも、彼の胸の内には込み上げる興奮と性欲の滾りが存在している。
そして、その傍らに彼との逢瀬を楽しもうとしている極上の雌がいることに、立香以外の誰もが気づくことはなかった。