時期的にはエピローグ頃。ギルドの修理終わった前後くらい。
双子の月に照らされた辺境の街。
僅かばかりの残業で帰りが遅くなった受付嬢は、一人夜の街を進んでいた。
壊された冒険者ギルドの修理も終わり、失われた備品の発注から書類の確認と、やることが多いのだ。
月明かりで明るいとはいえ大通りは静寂に包まれ、壁のように立ち並ぶ家屋の窓も明かりが点いている方が少ない。大半の住民は明日に備えて寝ている事だろう。
制服の上から防寒用の外套を羽織る受付嬢は、ホッと白い息を吐いて愉快そうに目を細めた。
もう冬だ。雪が降り始める前に二代目のギルドが建った事は、喜ばしい事で、ギルドがあれば仕事も捗るというもの。
「……?」
そんな事を思っていた受付嬢は、ふと違和感を感じて立ち止まった。
どこからか見られているような気がして、何だか気持ちが悪いのだ。
冒険者でもない自分が、気配なんて曖昧模糊なものを感じられる訳がないと彼女は思うのだが、一度気付いてしまうとやはり気になって仕方がないというもの。
彼女はそれとなく振り返り背後を確かめるが、人影はない。
──やっぱり、気のせいですよね。
彼女は誰に似たのか無駄に警戒心が強まった事に苦笑しつつ、正面に向き直って歩き始める。
遮るものがないため吹き付ける夜風は冷たいが、どうせ十分もしないうちに家にたどり着くのだ。多少の寒さ程度なら我慢出来る。
彼女がそうして気合いを入れた直後、一際強い夜風が通りを駆け抜けた。
「ひっ!」
彼女は小さく悲鳴を漏らして身体を縮めこませた瞬間、彼女の脇で口を開けていた路地裏への入り口から手が伸び、彼女の口を塞いだ。
「んんっ!?」
彼女な悲鳴をあげる間もなく路地裏の闇の中に引きずり込まれ、通りには誰もいなくなった。
あるのはただ月明かりに照らされる通りと静寂のみだ。
「んん!んーっ!!」
路地裏へと引き込まれた受付嬢はどうにか手足を振り回して抵抗するが、彼女を捕らえた誰かは一切怯む様子もなく裏路地を進むと、壁に背中をつけて足を止めた。
「んんん!んんっ!」
強烈な不安と恐怖から涙を流す彼女の耳元に顔を寄せた誰かは、彼女を宥めるように小声で囁いた。
「受付嬢、俺だ」
「ん……!」
何とも聞き覚えのある、むしろ聞き慣れた声が鼓膜を揺らすと抵抗を止め、口を塞がれたまま、そっと顔をあげた。
「すまん、怖がらせたな」
そこにいたのは、申し訳なさそうな表情を浮かべるローグハンターだった。
初雪のように白い髪が目深く被ったフードから零れ、涙に濡れた彼女の頬を撫でた。
「声出すなよ」と短く告げた彼は口を塞いでいた手を退かすと、受付嬢は先程とは違う意味で涙を流し、腰に添えられた彼の腕を掴んだ。
「こ、こわ、怖かったじゃないですか……っ!」
嗚咽混じりに震える声を絞り出した彼女に、ローグハンターは「すまん」と再び謝ると「離しても?」と自身の腕を掴む彼女の手を見つめながら問うた。
「ま、待ってください!」
彼が返答を待たずに手を離そうとすると、受付嬢は慌てて制止の声をあげた。
「どうした」
「あ、安心したら、こ、腰が」
受付嬢がかくかくと生まれたての小鹿のように足を震わせながら言うと、ローグハンターは「本当に申し訳ない」と彼女の身体をしっかりと押さえながら再び謝った。
「ど、どうしてこんなことを……?」
彼の顔を見上げて問いかけた彼女に向けて、ローグハンターは何故か数瞬迷ったような素振りを見せると、困ったように笑って彼女に告げた。
「家を見に行ったがいなかったからな。少しばかり心配になった」
「心配、ですか……?」
確かに今日は思わぬ残業となったが、だからと言ってこんな路地裏に引き込む程だろうか。普段の彼ならそれとなく尾行してきそうなものだが。
「あの──」
「まあ、無事で何よりだ。本当に」
受付嬢の言葉を遮る形で彼は何故か心の底から安堵したような声音で言うと、ぎゅっと彼女の身体を抱き締めた。
受付嬢は思わぬ力強さに苦しげに声を漏らすが、ローグハンターは構わずに独り言のようにぼそりと呟く。
「もう、我慢できそうにない」
「……我慢?」
彼女の不安げな声音での確認に、彼は「ああ」と短く返すと、何を思ってか再び彼女の口を押さえ、腰を押さえていた手をスカートの中へと突っ込んだ。
「ん!?」
「言っただろう。我慢出来ないんだ」
驚愕に目を見開く彼女を他所に、スカートの中に入り込んだ手はタイツ、そしてショーツの中にまで入り込み、乾いた彼女の秘裂へと触れた。
「んんっ!」
受付嬢の身体が思わず跳ねると、ローグハンターはゆっくりと指を動かし始める。
ピタリと閉じた秘裂を撫でるように指を上下させ、時には押し込んで僅かに指を沈ませる。
「んっ!んぐ!んんっ!」
緩やかに与えられる快感にピクピクと身体を震わせる受付嬢の耳元で、彼はそっと囁いた。
「力抜け。
「んっ!?」
ローグハンターは言うや否やあまり濡れてもいない彼女の秘部を抉じ開け、指を突っ込んだ。
「んんん!?」
小さな異物感と僅かな痛みにビクンと身体を跳ねさせた彼女を押さえつけ、突っ込んだ指を馴染ませようと指を動かし始めた。
ゆっくりと出し入れを繰り返し、愛液の分泌を促すように指で膣肉を掻いてやる。
「んん!んーっ!んんん!?」
いつになく乱暴に与えられる痛み混じりの快感に喘ぐ受付嬢を他所に、ローグハンターは得意気な笑みを浮かべた。
「ここが良いんだろ?知ってるぞ」
「んぎぃ!?」
彼女の急所を指で掻いてやれば、彼女は苦悶にも似た声を漏らし、がくがくと膝が震える。
力が入らないのだろうが、力を抜けた身体を支えてくれるのは、秘部に入り込んだ彼の指と、秘裂を押さえている彼の手だけだ。
肝心の彼はほれほれと彼女を煽るように膣肉を掻き、受付嬢は歯を食い縛って耐えるのだが、それも限界が近かった。
「んふっ!ふぅ!んっ!んんんっ!!?」
ビクンビクンと身体を跳ねさせながら、僅かに感じていた痛みさえも快感へと変わり始めたのだ。
膨らんだ快感に合わせて愛液の分泌が増え、彼の指を包み込み、潤滑油代わりに彼の動きを滑らかにしているのだ。
結果絞まっていた膣肉が強引に掻き分けられる痛みがなくなり、僅かな隙間を広げられる圧迫感も、今の彼女にとっては快感でしかない。
「
「んんっ!んー!んーっ!!」
不敵に笑いながら告げられた問いに、受付嬢は小さく首を振って否定するが、ローグハンターは愉快そうに目を細めた。
そして彼の指がGスポットを深々と抉った瞬間、彼女は全身を駆け抜けた快感に目を見開き、絶頂を迎えた。
「んぐ!?んんんんんんんっ!!!!」
足をピンと伸ばして絶頂を迎えた彼女は秘部から潮を吹き、パンツとタイツをびちゃびちゃに濡らしながら、彼女は嬌声をあげた。
もっとも口を塞がれている為、聞こえているのはローグハンターただ一人で、そもそも彼らがここにいる事を知るのも彼らのみだ。
「ん……っ!ふっ……!んんっ!」
受付嬢の絶頂が治まるとピクピクと痙攣する彼女を他所に、ローグハンターはちらりと横に視線を動かし、都合よく置かれた大きめの木箱を発見すると、瞬きと同時にタカの眼を発動した。
敵味方の識別や物の透視などが出来るそれで、箱に危険がないかを確かめているのだ。
数秒かけて安全を確かめた彼は、器用に片手で自身の外套を脱ぐと絨毯代わりに木箱に被せ、尻を突き出させるように彼女の上体を木箱に倒した。
そのまま彼は彼女のスカートを捲し上げ、タイツとショーツを纏めて降ろした。
濡れた秘裂と染みのついたショーツが半透明な糸で繋がれ、
「ひぁ!?」と声を漏らすと、ローグハンターはむんむんと香る雌の臭いに喉を鳴らし、自身のズボンとパンツを降ろして勃起した逸物を取り出した。
それで彼女の臀部を叩き、そっと濡れた秘裂に押し付けると、ローグハンターは短く息を吐いた。
「待って……!こんな所、誰かに見られたら……」
「──好都合だ」
どうにか彼の手から口を逃がした彼女は涙ながらに懇願するが、ローグハンターはたったの一言で断じた。
その声色はどこまでも冷たいもので、聞いた相手に恐怖を与えるものだ。
事実、受付嬢がその声に怯え、身体を強張らせてしまった。
その隙に、ローグハンターは腰を突き出した。
「ん゛ぁ゛!?」
亀頭が絶頂後で敏感になっていた彼女の膣肉を無慈悲に掻き分け、子宮口に突き刺さる。
それだけで絶頂したのか、受付嬢は身体を痙攣させながら「お゛っ!お゛……っ!」と野太い声を漏らす。
ローグハンターは彼女のうなじを撫でると、受付嬢はくすぐったそうに背筋を震わせた。
そんな彼女の様子に苦笑を漏らしたローグハンターは、震える彼女の腰を両手で押さえつけ、腰を振り始める。
「ぅ゛お゛!?お゛っ!お゛お゛お゛……っ!」
パンパンと音をたてて叩きつけられる快感に、受付嬢は品の欠片もない嬌声をあげながら、三つ編みの髪を振り回して快感に喘ぐ。
「お゛お゛!?イく゛!ずっど、イ゛っでる゛っ!!」
一握の理性が声を絞り出し、どうにかして快感から逃れようとするが、ローグハンターは彼女の頭を掴み、絨毯代わりに使っている自身の外套に彼女の顔を押し付けた。
「ふぐ!んっ!んんん!?」
突然視界が暗転した動揺と、鼻から入り込む彼の臭いに反応してか、膣肉が一気に引き締まり、隙間なく彼の逸物に吸い付く。
そこを逸物のかりが掻き回すのだから、彼女は文字通り無駄なく彼の与えてくる快感を享受することとなる。
「んん!んーっ!ん゛ぁ゛!?」
子宮口を突かれる度に彼女は足をピンと伸ばして絶頂を迎え、接合部からは掻き出された愛液と潮が垂れ流され、彼女の足元に水溜まりを作り出す。
ローグハンターは押さえていた彼女の頭を解放すると、今度は顎を押さえて持ち上げ、無理やり自分の方へと向かせた。
稼動域の都合上、一緒に上半身を捻ってもどうにか顔が見える程度。
だがローグハンターにはそれで十分で、彼は喘ぎ声が漏れる彼女の口を唇で塞いだ。
「んぐ!?んぁ!ふぁ……!じゅる!」
自分の舌を彼女の舌に絡ませ、マーキングをするように唾液を塗りたくり、それを口内全体に行き渡るように塗り広げていく。
「んぇ……っ!んんっ!んむぅ!」
彼の舌に口内を占領されていく感覚に快感を覚えながら、彼女はついに受け入れるように彼の舌に応じ始めた。
くちゃくちゃと湿った音を出しながら二人の舌は
「んっ!ちゅる!じゅるる!んんっ!んぇぇ」
ローグハンターが息継ぎついでに顔を離すと、彼女の舌が物欲しそうに彼の方へと伸び、舌先から唾液が糸となって垂れていく。
蕩けた瞳に緩んだ表情。だらしなく伸びた舌。
彼女が
ローグハンターは再び彼女に口付けすると、腰の動きを一層激しくさせた。
「んぐ!んん!んっ!んぁ!んんんっ!」
パンパンと先程までとは比較にならない速度で叩きつける衝撃と、それが変換された快感に脳を揺らされ、受付嬢の視界が点滅を始めた。
突かれる度に意識が飛びかけ、突かれる度に意識が覚醒し、また突かれて意識が飛びかけるを繰り返し、延々と叩きつけられる快感に彼女は喘ぐ。
痙攣する膣肉が彼の逸物で抉られ、かりでGスポットを削るように責めてやれば、彼女は更なる絶頂に身を投じる事になる。
口を塞がれたまま喘ぐ受付嬢に、ローグハンターはいよいよトドメを刺そうと思い切り腰を引いた。
そろそろ彼も限界なのだ。せめて彼女には限界まで気持ちよくなってもらいたい。
その思いを込めて、彼は全力をもって彼女に腰を叩きつけた。
「ん゛ぉ゛っ──」
めりっ!と音をたてて子宮を亀頭で叩き潰された受付嬢は白眼を剥いて倒れると、彼の逸物はついに耐えきれずに最奥に向かって精液を吐き出した。
「──お゛ぉ゛!?」
その熱さに途絶えた意識を覚醒させられた彼女は、ビクンと身体を跳ねさせると、注ぎ込まれる精液の熱さに当てられて絶頂を繰り返す。
「お゛お゛っ!ん゛ぉ゛お゛!?」
身体を痙攣させてがくがくと膝を揺らしながら、獣じみた唸り声をあげた。
「くっ、おお……」
きゅんきゅんと締め付けてくる膣肉に、尿道に残された精液さえも絞り出されながら、ローグハンターもまた小さく唸った。
そして最後の一滴まで注ぎ終えた彼はゆっくりと腰を引いて逸物を引き抜く。
「ん゛ぉ゛!?」
それが最後の快感となった受付嬢は野太い悲鳴をあげると、木箱に体重を預けてがくがくと腰を震わせた。
どろりとした精液が秘裂から溢れ、地面に落ちて白い染みを残す。
「お゛……っ!おぁ゛……っ!っ……!」
絶頂の余韻に喘ぐ彼女は、全身を襲う倦怠感のままに意識を手放し、そのまま木箱を伝って地面へとへたり込んだ。
「あひっ……!んぁ……!へぁぁ……」
蕩けた表情のままピクピクと身体を跳ねさせる彼女を見下ろし、ローグハンターは笑った。
そして絨毯代わりにしていた外套で彼女の身体をくるむと、そのまま担いでその場を去った。
残るのは僅かに残った淫行の香りと、僅かに白く染まった水溜まりのみ。
朝になればほとんど消えているような、誰にも気付かれない僅かな痕跡を残すのみだ。
「んっ。ああ……?」
受付嬢は、物音を感じて目を覚ました。
首を傾けた先にある窓からは、相変わらず月の明かりが差し込んでいる。
──まだ、夜ですね……。
その事に安堵すると共に再び寝ようと目を閉じると、ふと違和感を感じて再び目を開けた。
違和感に突き動かせるままにシーツを退かすとそこには自身の裸体があり、呼吸に合わせて胸が揺れている。
「え、あ、あれ……?」
いまいち状況を理解できない受付嬢は部屋を見渡すと、ここが自室でない事にようやく気付く。
あるのは自分が寝ているベッドとサイドテーブル、クローゼット、後は何かの作業台程度。
冒険者の部屋、というのはこんな感じなのだろうかと首を傾げ、では誰の部屋だと更に疑問符を浮かべる。
「ああ、目が覚めたか」
そんな彼女に向けて、部屋に入ってきたローグハンターがそう告げた。
水浴びでもしていたのか髪が湿っており、平服姿ではあるが首にはタオルがかかっている。
「ローグ、ハンター、さん……?」
「どうかしたのか」
受付嬢に恐る恐ると言った様子で呼ばれた彼は、僅かに心配そうな顔となりながらタオルをサイドテーブルに置き、ベッドに乗って彼女の頬を撫でた。
彼女は一瞬恐怖したようにビクンと肩を跳ねさせたが、すぐに平静を取り戻して彼の手に自分の手を重ねた。
「何だか、怖い夢を見てしまいました……」
「怖い、夢……」
彼女の言葉をおうむ返ししたローグハンターは、僅かに嗜虐的な笑みを浮かべ、彼女へとすり寄った。
「それは、俺にいきなり暗がりに引き込まれて、散々な目に合わされる夢か?」
「……え?」
彼の問いに、受付嬢は思わず声を漏らした。
彼の言葉は正確に彼女が見た夢を言い当てているのだから、当然だ。
そう理解したと同時に受付嬢は顔色を青くして、彼の瞳を覗きこんだ。
夜空を思わせる瞳は、長時間眺めていると吸い込まれそうな錯覚を覚えるが、今の彼の瞳は何かが違う。
夜空というよりは深海。あるいは深淵を思わせる、冷たい何かが孕んでいるのだ。
「ローグハンター、さん……?」
「先に言うが、それは夢じゃあない」
彼女の呼び掛けを無視するように彼はそう告げると、彼女の肩を押してベッドに倒した。
「きゃ!」と悲鳴を漏らした彼女の身体に覆い被さりながら、ローグハンターは告げる。
「お前は、俺のものだ」
「……え?」
「誰にも傷つけさせない。誰にも渡さない」
「ローグハンターさん……?」
彼女に呼ばれたローグハンターはそっと彼女の頬を撫でると、真剣な面持ちで彼女に告げた。
「お前は俺が守る。命をかけて、必ず」
凄まじいまでの覚悟が込められた言葉を浴びせられた受付嬢は、数度瞬きを繰り返すと、「な、何かあったんですか?」と彼に問うた。
彼はその問いに苦笑を漏らすと「知らない方がいい」と告げて、彼女の唇を奪った。
受付嬢は状況を理解できないままに彼の口付けを受け入れると、彼の身体を抱き寄せた。
まだ夜は始まったばかり、後は更けていくのみだ。
翌日、ギルド受付。
「ねぇねぇ、聞いた?」
「何をですか?」
冒険者たちが朝一に貼り出した依頼書を確認している隙に、手持ちぶさたな監督官が受付嬢に声をかけた。
本来なら仕事中の私語は注意すべきなのだろうが、暇なのは受付嬢とて同じ事。多少耳を傾ける程度なら問題ないだろう。
「昨日の夜、殺人事件があったんだって」
「っ!?」
監督官の単刀直入な言葉に受付嬢が驚愕すると、当の彼女は「言葉が足りなかったね」と苦笑を漏らした。
「殺されたのは、都で指名手配されてた殺人鬼だってか。女性ばっかり狙って、強姦してから殺す。文字通り女の敵」
「それが、昨晩ですか?」
「うん。そっちは残業してたって聞いたから、ちょっと心配になっちゃって。まあ、ここにいるなら大丈夫だったって事だよね」
あははと嬉しそうに笑う彼女に笑みを返してやりながら、受付嬢は「はい」と頷いた。
「昨晩は何事も──」
そこまで言いかけた彼女は、ふと昨晩ローグハンターに言われた事を思い出した。
『お前は俺が守る。命をかけて、必ず』
『知らない方がいい』
──もしかして……。
彼は
受付嬢がそんな思考をしていると、監督官が「大丈夫?」と彼女の顔を覗きこんだ。
「あ、はい。大丈夫です」
「『あ、はい』って、まあ怪我してないならいいや」
監督官がそう話を締め括ると、受付嬢はちらりとゴブリンスレイヤーらと談笑するローグハンターへと目を向けた。
昨晩の疲れを感じさせないのは、目覚めと共に
彼女の視線を感じたのか、ローグハンターはちらりと彼女の方へと目を向けて、小さく笑みを浮かべた。
その瞳にはいつもの夜空の蒼さが戻り、昨晩のような冷たさはない。
──大丈夫、ですよね……?
受付嬢は僅かに祈るように目を閉じると、彼へと向けて小さく手を振った。
時を巻き戻し、受付嬢がローグハンターに襲われる数分前。
その男は、路地裏に隠れながら、とある女性の後を尾行していた。
物乞いを隠れ蓑に女を襲っていたが、物乞いの王が殺されたと知るや否や、都を飛び出してきたのだ。
街道で待ち伏せて馬車を襲い、それを使って辺境まで逃げ延びたのだ。
水の街での殺人はあまりに危険。ならばと辺境の街にまで足を伸ばした訳だが、その間殺人を封印していた彼は、文字通り溜まっていた。
どうにかしてこの欲望を解放しないと、今晩は熟睡する事など不可能だろう。
そこで彼が目星をつけたのは、明かりの消えたギルドから出てきた一人の女性だった。
淡い茶色の髪を三つ編みに纏め、尾のように揺らしながら歩く一人の女性だ。
遠目から見てもいい身体をしており、きっといい声で泣いてくれるに違いないと断言する。
後はゆっくりと尾行して、隙を見て襲うだけだ。
彼が短剣を片手にぺろりと舌舐めずりすると、路地裏から飛び出そうと身構えた。
そして、それが彼の最期だった。
背後から伸びた手に口を押さえられ、抵抗する間もなく短剣を奪われると、そのまま喉をかっ切られたのだ。
彼は自身の血に溺れながらその生涯を終え、誰に殺られたのかを知ることもなく神の御前に旅立った。
そんな男の死体を冷たく見下ろしたローグハンターは、血に濡れた短剣を丁寧に拭うと、それを男の懐に忍ばせた。
武器を持たない死体というのは、
ローグハンターはそっと影から顔を出すと、こちらに気付く事なく家を目指す彼女の背を見つめ、僅かに不満げに目を細めた。
夜の街を一人で歩いているのだ。少々無防備に過ぎないだろうか。
──少しばかり、脅かしてやるか。
彼はそう即決すると、足音を殺して路地裏の闇へと消えていった。
この数分後、受付嬢はローグハンターに襲われる事になるのだが、この段階でそれを知るのはローグハンターのみ。
様々な偶然に巻き込まれ、彼の愛を一身にぶつけられた受付嬢は、単純に運が悪かっただけ。
ただ
──彼女がそれを知ることはないのだが。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。
次回は剣聖編を予定。