ヒロインは漫画版イヤーワン、冒頭の三姉妹。
原作では安否不明(たぶん死亡)ですが、この世界線ではログハンに助けられてます。
カラーページじゃないので髪の色とかは勝手なイメージですし、三姉妹の順番も自己解釈ですが、そこら辺はご了承ください。
ログハンが四方世界に転がり込んで二年くらい経過。
ですが勇者ちゃんにも、銀髪武闘家にも出会っていないので、もはや可笑しくなるくらいに鈍感です。
没プロットの供養ついでに書き始めたら、思いの外長くなってしまったので今回は導入部分。
エロ抜きなので、興味ない方はブラウザバックか、更新されていれば次にお進みください。
双子の月の輝きも届かない、とある洞窟の中。
そこかしこから聞こえるゴブリンの声に怯えながら、三人の女性が身を寄せあっていた。
ゴブリンの手により衣服が全て裂かれ、剥き出しになった白い肌には爪で引っ掻かれた跡や、痣などが残り、その四肢も痩せ干そっている。
三人がここに連れてこられ、どれ程の月日が流れたのだろうか。
陽も、月も見えない洞窟の奥では、それさえもわからない。
「大丈夫、大丈夫だから……」
光が消えた瞳を揺らし、それでも愛する妹二人を抱き締めた長女は、何の根拠もなくそう告げた。
だが妹二人の反応はよくはない。小さく呻くか、啜り泣く声が漏れるのみだ。
ゴブリンに村を襲われ、友人たちは皆死んでしまった。
笑いあっていた隣人も、頼りにしていた村の男たちも、皆殺されてしまった。
愛する人に捧げたかった純潔は、あの醜い怪物に奪われた。
自分たちがこうして生きているのは、ひとえにゴブリンたちの気紛れによるものなのは、間違いない。
そして自決できない理由もまた同じ。
舌を噛みきる力も残っておらず、万が一にも上手くいって自分が死ねればそれでいいが、もし他の二人が生き残ってしまったら?
自分が受けるべきだった暴力を、唯一残された家族に向けられることを、三人は望んではいない。
今はこうして放置されているが、時間が経てば我先にとこの部屋に雪崩れ込み、好き勝手に弄ぶのだ。
助けが来るのかもわからない。そもそも、自分たちが拐われたことを知る人物が、果たしているのだろうか。
長女はそんな過った思考を振り払うように頭を振って、ぎゅっと妹たちを抱き締めた。
出来るだけ優しく、それこそ昔のように髪を撫でてやり、一人じゃない、私はここにいると教えてやる。
二人の身体から僅かに力が抜けて、呼吸も落ち着きを取り戻した頃。
「GBGOBRR!!」
一匹のゴブリンが、何かを喚き散らしながら三人がいた広間へと駆け込んだ。
「ひっ!」と悲鳴をあげたのは、末娘だ。
彼女は身体を強張らせながら小刻みに震え、爪が食い込むほどの力を込めて長女に抱きついた。
妹も爪が食い込み、血が滲み出る痛みに耐えながら、長女は二人の盾になるように身体を乗り出した。
ゆっくりと両手を広げ、やるのなら私にしろと言わんばかりにゴブリンを睨む。
睨まれたゴブリンはその迫力に多少狼狽えるものの、すぐに相手が自分よりも非力な女だと思い出してニヤリと嗤う。
「GBR!!」
そして長女に向かって飛びかからんとした瞬間。
大上段から振り下ろされた銀閃により、頭蓋から股にかけてを切り裂かれた。
肝心のゴブリンは断末魔をあげることなく、身体を左右に泣き別れにしながら、その醜い生涯を終える。
「……?」
ゴブリンの声はすれど、全く襲いかかってこない状況に長女が首を傾げると、洞窟の闇からがさごそと何かを探る音が漏れた。
何かいると長女は身体を強張らせるが、ついで彼女の視界に映ったのは橙色の光だった。
突然の光に手で顔を庇った三人は、けれど衰弱しきった表情に僅かな希望を持ちながら、その橙色の光──松明の炎を見つめた。
そして、そこにいたのは一人の男性。
右手には剣を、左手には松明を構えた男性は、頭の上から爪先まで、黒を基調とした衣装に身を包んでいる。
その男性の彼女らがいたことに驚いているのか、松明を掲げた姿勢で固まっているが、おもむろにその場に片膝をつき、頭巾を脱いだ。
露になった黒い髪と蒼い瞳を松明の炎で照らしながら、
「遅くなってすまない。助けに来た」
明らかに助けに来た男の表情ではないのだが、三人にとってそれはどうでもいいことだった。
次女と末娘が涙を流しながら抱き合い、長女もまた耐えきれずに涙を流す。
蒼い瞳の男性はそれを拭ってやると、「よく頑張ったな」と彼女を讃え、ちらりと背後へと目を向けた。
そこに控えていた短い青髪の神官にあとを任せ、彼女の相棒である巨漢──黒い髪の大剣使いと並び立つ。
「それで、ここから先には行かせられんな」
大剣使いは鮫のように獰猛に笑いながら告げると、蒼い瞳の男性が小さく頷く。
小遣い稼ぎに余っていたゴブリン退治を請け負ったのだが、思いの外ことは複雑そうだと、大剣使いは笑う。
ばたばたと闇の奥から聞こえてくる足音に合わせ、大剣使いは予備の片手剣──洞窟でだんびらを振り回すのは馬鹿がすることだ──を、蒼い瞳の男性も剣を構える。
二人が迎え撃つは最弱の魔物──ゴブリンの群れ。
だが、二人が負けることはない。
片や辺境最強とまで呼ばれる純粋な戦士であり、もう片方は辺境最高とまで呼ばれる斥候兼戦士だ。
ゴブリン程度、物の数ではない。
迫り来る数多の足音に、二人は怯むことなく飛び込んでいった。
ゴブリンたちがどうなったかは、もはや言うまでもないことだ。
それから半年ほど経った頃。
辺境の街、眠る狐亭。一階、酒場。
双子の月が昇り、暗くなり始める降魔が時。
旅行客や冒険者などでごった返すその場所を、杯や料理の盛られた皿を持ちながら右往左往している、三人の女性がいた。
一人は肩にかかるほどの金色の髪を揺らす女性。
もう一人は短く切り揃えられた茶色い髪の女性。
最後の一人は、頭の後ろで黒い髪を纏めた女性。
似た顔立ちの彼女らが姉妹であることは、素人目からしても明らかで、最近雇われたばかりの給仕係というのも、ある程度周知の事実。
そんな彼女らが、先日まで神殿に入っていたことや、何がどうしてここで雇われたのかを知る者は極僅かだが、彼女らとしてもそれは都合がよかった。
ただですら将来がわからない状況なのに、過去の出来事──ゴブリンの虜囚になっていた──が知られれば、きっと回りからの目が冷めたものへとなるだろう。
もしそうなれば、きっと自分たちの未来は潰えると、三人の認識は一致していた。
冒険者になろうにも腕っぷしがよいわけでもなく、ゴブリンに襲われた女を娼婦として抱える娼館もあるまい。
街外れの牧場の主が声をかけてはくれたものの、あの
──臆病者、と言われても仕方がないわ……。
長女はその不安を表情には出さずに小さく溜め息を吐き、客に呼ばれたことを合図に笑みを浮かべた。
妹たちも慣れない接客を頑張っているのだから、自分も頑張らねばならない。
「よし!」と気合いを入れ直して、注文を取ろうと駆け出そうとした直後だった。
制服に隠された尻に、誰かの手が触れた。
「っ!」
ピクリと身体を跳ねさせて、ゆっくりとそこに目を向けてみれば、そこにはやはり誰かの手が伸びてきていた。
その手を伝っていけば、そこには酔っているのか赤くなった顔に、気の抜けた笑みを浮かべている男がいた。
単純に酔った男がお触りをしただけなのだが、長女にのってはそれが問題だ。
その男の笑顔が、ゴブリンたちの醜悪な笑顔と重なり、その瞬間には封じ込めていたあの夜のことが、あの地獄が次々と
「あ……ああ……!」
途端に表情が怯えと恐怖の色に染まり、身体が震え、強張り、力が抜けていった。
するりと指から抜けた杯が、がしゃん!とけたたましい音をたてて床へと落ち、中身をぶちまける。
酒場にいる人々の視線が一斉に彼女に集まり、なんだなんだとざわめきが広がっていく。
「え……」と声を漏らして慌てたのは、問題をやらかした男だ。
思わぬ事態に酔いも醒め、次に出たのは心配の声だ。
「あ、おい、大丈夫か……」
立ち上がらせてやろうと席を立ち、手を差し出すのだが、長女は呼吸を乱しながら自分の身体を抱き締め、とりつく島もない様子。
困り果てた男は仲間たちに目を向けるが、肝心の彼らも困り顔で首を傾げるのみ。
「お客さん」
そんな彼らに声をかけたのは、筋骨隆々の男だった。
眠る狐亭の制服がはち切れんばかりに筋肉がついたその男は、この店の用心棒だ。
どこかの国の剣闘士だったとか、名のある傭兵だったとかと言われる彼は、ごきごきと拳を鳴らしてその男たちに告げた。
「うちは、店員へのお触りは厳禁です」
ぎろりと睨んだ眼光には、怒りを通り越した殺気さえも宿り、言われた男たちはこくこくと頷きながら、荷物を纏めてそそくさと酒場をあとにしてしまった。
「またのご来店を」と頭を下げた用心棒は、ちらりと店主へと目を向け、頷きあった。
「給仕殿。彼女の裏に」
「は、はい……!」
表情を僅かに和らげながらの言葉に次女が応じ、長女に手を貸して立ち上がらせ、一旦裏の店員専用の部屋へと連れていった。
そこで休ませ、気持ちを落ち着かせようという判断だ。
用心棒がパン!と手を叩いて
そして、この騒ぎでそれで終わりだった。
客たちが話し始めれば、それに合わせて喧騒が強まっていく。
一人残された次女が末娘は心配そうにしていたが、客に呼ばれてそれどころではなくなってしまう。
ある意味この忙しさのおかげで、あの頃を思い出さずに済んでいるのは確かだ。
夜も更け、酒場からも人が捌けた頃。
「ごめんなさい。せっかく雇っていただいたのに」
顔色が悪いままカウンター席に腰掛けた長女は、カウンターの内側にいる店主に頭を下げた。
「気にするなよ」と苦笑する彼は、そっと白湯を差し出した。
それを受け取った長女は「いただきます」と呟き、こくりと喉を鳴らして一口呷った。
心地よい温もりが身体に染み込み、ほっと息を吐いた。
「この店には、ちょいと訳ありの店員が多いからな。あいつを含め」
店主が顎で示した方向にいるのは、直立不動の用心棒だ。
彼は小さく会釈するのみで、何かを言うことはない。
長女が「は、はぁ……」とよくわからないまま頷くと、店主がぽんと手を叩いた。
「病み上がりで悪いが、ひとつ頼まれてくれ」
「は、はい。先程は迷惑をおかけしましたから」
その言葉に長女は内容も聞かずに即答すると、店主は「いい返事だ」と微笑んだ。
同時に厨房から盆に乗ったサンドイッチが運ばれ、カウンターの上に置かれた。
「これを、ここに書いてある部屋まで運んでくれ。なに、渡すだけか、最悪これで入って構わん」
店主は笑いながらそう告げ、部屋番号が彫られた木板と鍵を盆に乗せた。
長女がそれを確認するが、随分と上の階であることに気付き、僅かに表情をひきつらせる。
「それじゃあ、頼んだぞ」
店主はそう言うと長女は否もなく盆を持ち上げ、「任せてください」と応じた。
そのまま慣れた様子で階段に向かっていき、こつこつと音をたてて登っていく。
「……大丈夫だと思いますか」
彼女が二階以上には行ったろうと判断した用心棒が問うと、店主は苦笑混じりに肩を竦めた。
「それは、あいつ次第だ」
面倒事を任せるようで悪いが、彼なら彼女を救えるだろうと判断してのこと。
妹たちには姉という支えがあるが、その姉には支えがないのだ。
あるのは守るべき妹たちからの
先程のあれは、いつかくるだろう限界が、彼女の予想に反して早くきてしまっただけのこと。
なら、どうするか。
少し乱暴だが、彼女にとっての心の支えを、多少無理矢理にでも用意してやればいい。
そしてそれにちょうどいい人物が、ちょうどいい
この好機に乗らずして、いつ乗るというのだ。
「怯える乙女くらい救ってみせろ、冒険者」
壁に立て掛けられた
暗い廊下を一人で進むのは少々不安ではあったが、流石にゴブリンがここにいるわけがない。
一度深呼吸をし、僅かに激しくなっていた心臓の鼓動を落ち着かせると、こんこんと扉を叩いた。
中からは「なんだ」と淡々とした声が返され、がちゃりと音をたてて鍵が開く。
そして開かれた扉の隙間から顔を覗かせたのは、蒼い瞳の男性だ。
その男性は長女の顔を見つめ、ついで彼女が持つ盆へと目を向けた。
「配達か。すまない、面倒をかけた」
彼は手短にそう言うと盆を受け取ろうと手を伸ばすが、長女は驚いた表情のまま身体を固めていた。
「……どうした」
蒼い瞳の男性は僅かに怪訝そうに眉を寄せるが、改めて彼女の顔を見つめて僅かに目を剥いて驚きを露にした。
「お前、あの時の」
「……っ。……っ!」
長女は頬を伝う涙をそのままに、蒼い瞳の男性──巷では、
「なぜ泣く。……とりあえず、入れ」
突然泣き出してしまった彼女を気遣ってか、ローグハンターは扉を開いて彼女を部屋に招き入れた。
一人で寝るには少しばかり大きめのベッドと、何かを組み立てる作業台、長持ち、
「それは、そこに置いておいてくれ」
その部屋を涙目で見渡した長女は、ローグハンターが示した作業台に盆を乗せた。
「……いつまで泣いているつもりだ」
「ごめんなさい……。でも、止まらなくて……」
ローグハンターが溜め息混じりにそう言うが、長女は涙を止められずに四苦八苦。
いくら擦っても涙は止まらず、次から次へと溢れてくるのだ。
ローグハンターはそんな彼女の手を引いてベッドに座らせてやると、「ほら」と手拭いを差し出す。
「ありがとうございます……」
それを受け取った長女はそれで目元を拭いながら礼を言うと、ローグハンターは「気にするな」と告げるのみ。
そのまま泣き止むのを待つがてら、食事を済ませようとしたのか、作業台に寄りかかりながらサンドイッチを頬張り始める。
さくさくとパンに挟まれた野菜や、ベーコンを噛み千切る音と、長女の啜り泣く声が部屋に響く。
それから数分が経ち、それぞれの音が止んだ頃、ローグハンターが口を開いた。
「ここで働いていたんだな。あの二人も一緒か」
「はい。姉妹三人で、あの人に雇っていただきました」
「そうか。立ち上がれたのなら、何よりだ」
ローグハンターは相変わらず淡々とした声音でそう言うと、何かに気付いたのか目を細め、無遠慮に彼女の隣に腰を下ろした。
そのまま彼女の手に触れ、二の腕を掴み、脈を確かめるように首に触れ、体温を確かめるように額に触れ、頬を撫でる。
僅かに震えている手、柔らかいものの僅かに痩けているように思える腕、不安定な脈拍に、僅かに熱い体温。
「すまない。体調が悪いのに、余計な仕事を増やしてしまった」
「……」
ローグハンターは今の彼女の状態をそう判断し、すぐに謝罪の言葉を口にしたが、肝心の彼女の反応は何とも微妙なものだ。
自分の身体に触れている彼の手を見つめ、不思議そうに瞬きを繰り返している。
「……どうかしたのか」
ローグハンターが首を傾げながら問うと、長女はそっと彼の手に自分の手を重ねた。
彼は無表情のまま疑問符を浮かべるが、長女もまた疑問符を浮かべているのがわかる。
お互いに訳もわからないまま触れあうこと数分。
どうしたものかと無表情のまま困っているローグハンターを他所に、長女はまた別の事を考えていた。
──嫌じゃ、ない……。
彼に触れられても、激しい動悸や寒気に襲われることがなく、むしろ安堵している感覚すらある。
「……」
ぼんやりとした表情のまま、ぎゅっと手を握ってくる長女の様子に困惑しつつ、ローグハンターはとりあえずされるがままになることを選んだ。
女に下手に逆らうなとは、師から教えられたことのひとつだ。
そうして彼女を放置すること数分。ようやく意識が戻ってきたのか、ハッとした彼女は慌てて彼の手を離した。
「ご、ごめんなさい……!その、私……」
「いや、気にするな。だが、なんだ……」
ローグハンターは彼女の温もりが残っている手を開閉しながら、小さく肩を竦めた。
「何かあればまた来い。これも何かの縁だ」
「……っ!はい……っ」
彼の言葉に、長女は表情をパッと明るくしたが、すぐに照れたように顔を背けてこくりと頷いた。
そのまま勢いよく立ち上がり、「失礼します!」と一方的に告げながら部屋を飛び出していった。
「……」
一人残されたローグハンターは頭を捻ると、作業台に放置された盆へと目を向けた。
朝一に返せばいいとして、この部屋の鍵が残されているのは問題なような気もする。
──まあ、どうでもいいか。
どうせ明日の朝には片付く問題なのだ。今考えても仕方があるまい。
ローグハンターはごろりとベッドに寝転ぶと、そのまま目を閉じた。
数分もしない内に寝息をたて始めるのは、余程眠かったからか、あるいは時間を無駄にしたくないからか。
彼が流れるように眠りについたのと、ほぼ同時。
長女は赤くなった頬を手で隠しながら、壁にもたれ掛かっていた。
赤くなった頬は熱を持ち、思い出すだけでも身体が火照ってしまう。
いやいやと首を振り、誰にも見られない内にと駆け足で寮へと戻る。
そのまま駆け込むように妹たちが待つ部屋へと飛び込み、ベッドへと潜り込んだ。
「お姉ちゃん!?どうしたの!?」
「お、お姉ちゃん……?」
愛する妹たちが声をかけてくれるが、今の彼女にはそれに返してやれる余裕がない。
こんな真っ赤になった顔を、力が抜け、ふにゃふにゃになってしまった顔を見られれば、姉としての尊厳が失われてしまう。
「ど、どうしよう。やっぱり、あの時のこと気にしてるのかな……?」
「だ、大丈夫よ!私たちのお姉ちゃんなんだから!」
「そうだよね。きっと、大丈夫だよね」
聞こえてくる二人の声は、こちらを本気で心配している時のそれだ。
それに「大丈夫だから」と返してやれないのも情けない話だが、今顔を出せば、間違いなく二人に心配をかけてしまうし、何より怖がらせる可能性もある。
──とりあえず、今日はこのまま寝よう。
長女は着ていた制服をそのままに目を閉じて、無理矢理でも眠ろうと努める。
両脇のベッドからか「「おやすみなさい」」と少々覇気に欠けた妹たちの声が聞こえ、長女はなけなしの
シーツを被っていたのか、あるいは寝巻きに着替えていたのか、微かに聞こえていた布擦れの音が唐突に止まり、鈴を転がしたような小さな笑い声が耳に届く。
二人が笑ってくれたのならいいかと、長女もまた笑みを浮かべ、その穏やかな気持ちのまま眠りに落ちた。
心配した妹たちがベッドに入り込んでおり、知らぬ内に二人の声は抱き枕にされていたことを知るのは、翌朝になってからのことだ。
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