※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は新たなあのポジでのオリキャラの素性にまつわる話です。


009 危機には文字通り機会も含まれるもの●

 ○秦始皇4年(紀元前243年) 秦国中央部 王都咸陽 歓楽街 高級妓楼香斉○

 

「おい、油は撒いたか!?」

「ああ、外壁を囲うようにな。あの他所からの商人連中から貰った前渡し金で買ってきたからな」

 

 人の気配が殆ど無くなった深夜の咸陽歓楽街にある香斉を囲む外壁の一角で、昼間にてこの店に絡んできたならず者達を含めたヤクザ達が放火を目論んでいた。

 

「ああ、只でさえ国の政策のせいでこっちに回ってくる商品が減ってんだ。それに便乗してるこいつらみてえなのには落とし前を付けてやる―――!?」

 

 そして、男の一人が油に火を灯そうとしたその時、彼の腕はあらぬ方向にあっさり捻じ曲げられて火は踏み消された。

 

「―――うってぎゃあああああああぁ!?」

「は!? だ、誰だ―――」

「信だボケ!」

「―――あってぶが!?」

 

 それにのた打ち回る仲間に別のヤクザの顔が闇から姿を覗かせてきた信の拳で壁に叩き付けられた。

 更に彼だけでなく、闇から白漂達がヤクザたちを囲うようにして姿を現してきた。

 

「おい、死人も出る火付け強盗は普通に当人斬首で家族も流刑だ。大人しく捕まれば未遂で刑も軽くなるから縛られてもらおうか?」

「だ、誰が捕まるか!」

「まだるっこしい真似は止めてテメエらをここで殺してやる!」

「うおおおおおお!!」

 

 白漂が落ち着いた様子で警告するも、激高したならず者達は得物を振りかぶって彼らに襲い掛かるが、当然の如く戦場で鍛えてきた白漂達にやくざが叶うはずも無かった。

 

「…よし、終わり」

 

 十秒後には半殺しにされて縛られて地面に横たわるヤクザと、彼らを適当な馬車に詰め込む白漂たちの姿があった。

 

「しっかしなんだよこいつら、夜中に王都で放火しようなんて警備の連中は何をしてるんだ―――」

「ヴモオオォオオオオオォォ!!」

 

 ならず者を馬車に積み込んでいる信が疑問を口にしたその時、彼ら目掛けて大通りを数頭の牛がいきり立った様子で走り抜けてきた。

 

「―――ああ!? 何だありゃあ!?」

「まずい! 信よ避けろ―――!?」

 

 それに彼らが勘付いた時にはもう信と先頭の牛の間は二メートル程度で、何名かが顔を引き攣らせた直後、白漂の真横を何かが盛大な風きり音を残して飛びぬけた。

 

「ヴモォ!?」

「「「ヴウウウモオオォオオォオオォ!!?」」」

 

 その正体は長柄の巨大な大斧で、先頭の牛の頭蓋を真正面から叩き割って絶命させると、転倒したそれに続いてきていた牛も巻き添えを食ってしまう。

「―――おお!?」

「は!? あの斧って確かば!?」

 

 自分達を救った大斧に白漂達が何かを思い出したその直後、転倒しつつも勢いが残っていた牛の死骸に信が当てられてしまった。

 

 

 

 

 

 ○4年前 荘襄王3年(紀元前247年) 魏国 河外の地○

 

 まだ嬴政が秦に帰国する前の事、秦は何度目かの合従軍との大戦を繰り広げていて、何日目かの夜を迎えていた。

 

「よっしゃあ! 晩飯もらい!!」

 

 その広範囲に渡る戦場の一角にある川で、信は晩飯のおかずを調達していた。

 

「おおー、大きな魚が釣れたなー」

「あ、こっちには山菜が多く生えてるぞ―――」

「ゴアアアアアアアアアアァ!!」

「―――おってぎゃあああぁ! 熊が出たぁ!?」

 

 それに白漂が喜んだ直後、彼らの背後に広がる藪から熊が唸り声を上げながら飛び出てきた。

 

「し、しまったぁ―――」

「ふん!」

「ゴルバァ!?」

「―――あぁ!?」

「ええぇえええええぇえええええええええぇえええ!!?」

 

 それに間近にいた信が思いっきり嚙まれそうになったその時、真横の闇から突然伸び出てきた龍の意匠が施された腕輪を填めた人間の拳に、熊が歯と血を撒き散らしながら殴り飛ばされた。

 

「むぅ? 何だうぬらは…?」

 

 藪から現れたその拳の主は顔を斜めに走る大きな切り傷に長く伸ばした鬚髯が特徴的な黒の武道家の胴着を羽織る巨漢であった。

 

「ぬおおおおお!? 熊が拳の一撃で死んじまったぞ! 誰だおっさん!?」

 

 衝撃的な登場だったが、信はそれに怯える様子を見せず目を輝かせて近寄る。

 

「むぅ? わしは秦軍のものじゃが…その格好はうぬらもか?」

「おう、秦軍も何もこっちは千人隊の飛竜隊でこいつはその隊長の漂だ」

「飛竜…という事は…こちら側のあの砦は…」

「はい、設計は僕がしました。それでもまだ回りの熟練した将校の人が作った他の砦に比べればまだまだですが…」

「そうか…(何だか…あの御仁の姿を思い出すが…いや、関係があるはずが無いか…)そうだの、とりあえずこの熊を振舞うからうぬらも手伝ってくれ」

 

 それから三人で殴殺された熊の解体と調理に取り掛かるが、火にくべられて美味しそうな匂いが立ち上っても男の表情には喜色が無かった。

 

「んん? 何だぁおっさんよそんな辛気臭い顔をして?」

「…うむ、それがな…対岸の方の楚軍に因縁深い相手がいるのだ…」

「どんな因縁ですか?」

「昔に油が乗ってきてそれで勢いに乗って楚を攻めたのだが、そこでまだ若造であったその男にあっさり負かされた事がある」

「は!? 熊を殴り殺すおっさんが負けちまったのか!?」

「それから十何年も経った爺手前になった頃合で、今や油が乗り出した勇将となりしその男とまたやり合う羽目になった」

「……(ん? この話…何処かで聞き覚えが…?)ぁ~~、確かに負けた相手だと苦手意識がありま―――」

「はぁ? 何言ってるんだ2人とも、そんな深刻な面を浮かべる話しかそれ?」

「―――すって…おい信、もう少し言葉を選べよ」

 

 それから欝気味に話が深まろうとしたに関わらず、平常運転の信の言葉に白漂は怪訝な顔を浮かべるが、男は戸惑いに顔を浮かべる。

 

「うぬは聞かなかったか? 若造で負けたなら今やどれだけ力を増しているのか…?」

「だーかーらー今度の戦でおっさんがそいつをボッコボコにすれば済む話じゃねえか」

「!?」

「今度はおっさんがそいつをさっきのくまみたいに一発でぶっ倒してやれよ。そうすれば勝負はおっさんの総勝ちだ」

「!!!!」

 

「ん…何だぁ? そんな可笑しい顔をしてよ…!?」

 

 それに男の身がビクッと止まった所で、信と漂は首の後ろ側より猫の子のように引き上げられた。

「…ああ、そうだったな…おいうぬら、ちょっと付いて来い」

「え……のわ!?」

「ぬおぉお!?」

 

 二人の足が地面を離れると同時に後ろの藪から現れた、この時代の中華の馬の二回り以上の体躯に何倍もの体重を持つ重馬が現れ、男はそれになれた動きで乗り込んだ。

 そのまま、巨躯にふさわしい重厚な馬蹄の音を鳴らしながら馬は駆け出していく。

 

「…うぬら、聞きたいが望みは何だ?」

「…あ、それは…」

「天下の大将軍だ!!」

 

 馬に男の前で乗せられて風を切る感覚と共に放たれた問いに、信が澱みない声で答える。

 

「ほう、そうか…ならこれから目にする景色を1秒たりとも見逃すで―――」

「ぶべ!?」

「―――え…?」

「あ」

 

 それに男は心地良さげな微笑を浮かべて更に言葉を続けようとするも、途中で枝に信は鼻っ面から思いっきり当たって意識を失い、男は戸惑い、白漂は見慣れた苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ○現在 秦始皇4年(紀元前243年) 秦国中央部 王都咸陽 西市○

 

「…いててて、今でも牛にぶち当てられた脇腹がいて~~」

 

 今朝に転倒した牛の巻き添えで気絶した信であったが、正午辺りには回復して起床すると、咸陽で新しく設立された西市を訪れていた。

 

「ハーイ、此処には西域から仕入れた葡萄酒があるヨー」

「駱駝の瘤の肉は要らんかネー?」

 

 そこは中華風の建物と異民族風の意匠が混在した独特の活気を放っており、中華の他の王都には無い多彩で強烈な色が滲み出ていて、異系統の言語やその訛りが出た秦の言葉が飛び交っていた。

 

「…しかしよー、何で俺は寝てた間に前の合従軍の時のあの夜を思い出したんだ…?」

「欧橋、あそこは…?」

「はい、主に…」

 

 そこでの案内役は、先日に白漂一行に迷惑を掛けた欧橋であった。

 彼女は仕事柄から此処にくる事も多いので詳しく、先日の詫びのためもあって妓楼の指示で白漂一行の案内役になっていたのである。

 

「あ、これは確か…?」

「おー、お客さん目の付け所が良いネー。これは西瓜といって西域から入ってきた果物だヨー」

「あー、確かバジオウが秦との交易が公に支障なく出来るようになったお陰で色んな野菜や果物も売り込めるようになったとか…うめえなこれ!?」

 

 その中に混じる信は一行で一番買い食いをしており、今は八百屋から買ったばかりの胡瓜に生のまま齧り付いていた。

 

「…あの人、この中で一番お金の使い方が残念そうな人ね…」

 

 それに生暖かい眼差しを向ける欧橋は雰囲気に混じる高貴な香りとは相反し、今の職場からしてもなかなかの苦学生的な生活をしていたらしい。

 

「おい坊主ー、今度はこっちの弁当を三丁目の海さんところに届けてこーい!」

「へーい!」

「丁稚ー! 今度はこの左官塗りを憶えろー!」

「分かりましたー!」

 

 その中でこの時代では珍しくない児童の働き手も多く行き交っており、それに白漂など少なくない面子が懐かしい顔を浮かべたりする。

 

「懐かしいなー。今よりかはきつかった時や場所で僕らもああして日銭を稼ぎながら仕事を覚えたりしたな―――」

「大人しくしろ!」

「いでぇ! ちくしょう…」

「―――あ…ん?」

 

 嘗てに比べて前向きな笑顔を浮かべている昔の自分達の姿に白漂が過去を思い返そうとしたその時、先日に見たようなならず者が役人に縄で縛られて連れて行かれる姿を目にした。

 

「あー、あれは最近に国のあちこちで運営が乗ってきている屯田施設にちょっかいを出してきている黒社会の連中ですね」

「黒社会?」

「…泥竜…今はそれは通称と化して孤児院が生まれ…更に屯田制として正式に発展し制度化された事で各地の新領地や開拓地に孤児が集められて自立支援をされて職や土地を得たりしている事で治安と貧困の問題は大きく改善し、長期的に見て国の生産力や軍力が上がってきています。ですが、その反動で今までは孤児を奴隷など商売の品にしてきた黒社会の連中が儲けを奪われたと目の敵にしてるんですよ」

「紫夏殿はその時流を早く読んで乗って上手く商売を広めてるんですが、そうした連中の逆恨みや妨害の的にもされやすいんです。国には表立って文句は言えないのでその分…」

「なるほど…けれど王都でそれをやるなんて何処の業界も頭が悪い連中がいるようだなー…ん?」

 

 側近らの言葉に白漂は思案げな表情で周囲を適当に見渡すが、その中で拘束されていくならず者を群衆の中より注意深く見ている中華の他国人らしき装束の人間をいくつか見る。

 

「越ー、庶徐ー近くにいるだろ」

「おうだべ」

「はい、こちらにおります」

「うわ! お前らどんな所から出てくんだ!?」

 

 一行が立ち寄った茶屋の俵よりひょっこり頭を出してきた越と、天井のむき出しの骨組みより降り立ってきた庶徐に信達が驚く。

 

「ちょっと耳を貸して、あの中にな………」

「了解したべ」

「分かりました。では早速」

 

 そのまま直ぐに白漂流から何らかの指示を手短に受けると、越は人混みに、庶徐は入り組んでいる建物で生じている陰の中へ姿を消した。

 

 

 

 

 

 ○秦国中央部 王都咸陽 西市 林胡系商館○

 

「お嬢ー! この刺繍はこちらで良いですか!」

「今は時期的にこちらの花物の柄の方が良いわ」

「お嬢様ー、染料の調合でお話が…」

 

 白漂が本拠地へのみやげ物のための観光を兼ねていた視察を行っていた日の夜にて、譜孝は北方からの商人達の合資で設けられた西市で上位に加わっている商館で働いていた。

 

「よし、ここによーあの旦那達が言ってた北から来た羽振りの良い蛮族共が集まってる!」

「最近はこういう連中にガキとかが雇われたりして俺らの儲けが減ってるからなー。商売潰してやるぜ…!」

 

 その商館の影で油が詰まった桶と火打石を手に集まる無法者たちがいた。

 言動からして今の秦国で割を食わされている者達らしく、屋敷を囲むようにして油を垂らしていく。

 

「よし、行くぞ!」

 

 そして、躊躇うことなく油に火が点され、赤々とした揺らめく光線が商館を取り囲んでいく。

 

「くくく! 蛮族共が思い知れ! 中華で卑しい商人で成功しようというのが―――」

「見つけたぞ! 観念しろ!!」

「―――あぁ!?」

 

 それにくぐもった小声で嘲笑を上げようとしたならず者達であったが、そこで役人達が取り囲むようにして陰から姿を現した。

 

「皆ー! 火付け強盗じゃぞー!」

 

 更に、屋敷を取り囲む塀より中の住人達が姿を現して、手に抱えている桶から水をぶちまけて火を瞬く間に消火していった。

 

「よーし、怪しかったから念のために起きていたけどドンピシャだったな。そういうわけで今すぐ大人しく捕まるならある程度減刑は利くぞ」

 

 それを指揮しているのがならず者達を見下ろす高楼より姿を現した白漂であった。

 

「おい! あ、あいつはあの白起の孫だ!」

「かまいやしねえ! こうなりゃあ全員で袋叩きにしちまえぇ!」

 

 その姿に動揺しつつもならず者達はそれなりに数が多かったので、半ばやけくそと過信で強行突破すべく襲い掛かった。

 

「よし、皆で極力殺さずに生け捕りにするぞ」

「「「「「応!!」」」」」

 

 それを見据えていた白漂流が護衛の名目で連れて来ていた武官達が各々の得物かもしくは素手で彼らに向かう。

 

「しっ! せい! はぁああ!!」

「ぶげ!?」

「がび!?」

「ごはぁ!?」

 

 その中で真っ先に庶徐が疾風の如き勢いでならず者たちに駆け込み、先頭の男を膝蹴りで昏倒させると、その勢いで彼の頭に飛び乗ってそこを起点に軽業師のように飛び立って、男達の頭や首を蹴り飛ばしていく。

 

「技は直線的なのが多いが身のこなしと単純な速度は私より良いな」

「死ねー! まな板女ーー!」

「!」

「ぎゃあああああぁ!?」

 

 それに真顔で高評価を下す羌瘣であったが、別のならず者が自身を罵りながら襲い掛かると無言でムッとした表情となり、彼らの手足の腱を瞬く間に切り裂いていく。

 

「はいはいはい、下手に暴れると傷が深くなるから気を付けてねー♪」

 

 一方、譜孝は錐状に尖った流星錐付き戈を舞踏のように滑らか且つ多彩にふるっていって、男達の急所を錐で打ち据えたり戈で腱を切り裂いたりして、身動きが出来なくなった所を他の者達に捕縛させていった。

 

「す、すげえなぁあの子達、確か信より若いって話だろ?」

「いや、兄貴あの2人もすごいけどよ一番は……」

 

 それに尾平と尾到は息を呑んだりしているが、それを凌ぐ光景があった。

 

「しっ!!!!」

「「「ぎゃあああぁあああああああぁ!!?」」」

 

 その背丈より高い鉄張りの棍を棒切れのように振り回し、ならず者達を武将の如く打ち飛ばしていっている欧橋であった。

 欧橋が棍を振るうだけで複数の男達が骨肉を圧し折られる音を奏でながら宙を舞い、体格で勝る男が拳の一撃で壁まで叩きつけられ、踵を振り落とされると鼻っ面から地面に打ち据えられる。

 

「お、おい! 下手すりゃ信よりも強いんじゃねえかあの嬢ちゃん!?」

「んだとこらぁ!? 何言ってんだこの出っ歯…あ、あの腕輪ってまさか…!?」

 

 その荒武者の如き姿に尾平が上げた驚嘆に信が目尻を吊り上げた直後、欧橋の右腕に填められている腕輪に信が何かに気付いた表情を上げる。

 

「? 信よ如何した?」

「あの腕輪は尺度は違うけど確か前の合従軍の時に俺と漂をこっそり馬に乗せてあちこち連れ回してくれてた王齕将軍のと同じだーーー!!」

「「「「「!!!!!!!???」」」」」

 

 それに白漂が気に掛けると、信は思ったままに叫びを発するが周囲は驚き気を取られて身が一瞬硬直してしまう。

 

「…あの怪力のと同じ…!? てことはあいつが…金もってきた連中が言ってた噂の行方不明になってた末のむ―――」

「っ馬鹿!!」

「―――すべ!?」

 

 ならず者達の最後の一人がその内容に目を見開かせた直後、舌打ちした白漂の蹴りが彼の脳天に振り下ろされ、商館で起きた騒動は終了となった。

 

 

 

 

 

 ○秦国中央部 王都咸陽 歓楽街 高級妓楼香斉 会議室○

 

 林胡系商館での放火及び襲撃での騒動から一夜明けた香斉で、紫夏と白漂を中心として主だった面子が集まっていた。

 彼らの意識は机の一角に沈痛な顔で俯きながら座っている欧橋に向けられていた。

 

「なぁ、単刀直入に言うけどその子は何者だ?」

「漂、必要な問いでもいきなり切り込むと無作法だと見られるよ」

 

 白漂が此度の本題に早速切り込むと紫夏が少し険しい顔で睨むが、彼は構うことなく話を進める。

 

「この場合は残された時間がそう多くないのはその子だろう。だったら問いも切り詰めたほうがいい。欧橋が只の妓女ではないのはあの貴族層で習う舞や音楽の作法からして分かるが、この数日で見せた武芸からしてそれも武官系の生まれなのは分かる。何よりその腕輪は派手さは無いが質からしてその中でも最上級の家系でした購入できないような代物だ」

「…これは、幼馴染の他の妓女とお客様から共に貰った品で…」

「それにしても日常から付け続けているのは可笑しい。そんな事をしていたら狙われて盗まれたり奪われたりしていたとしても可笑しくは無い。普通は秘密に保管しているものだがそれをしないのはよほど思いいれがあって、且つそれを守るためにも幼い頃より積んできた武術を更に鍛えてきていた動きだ。それも使用していた技からして一介の市井の生まれで習える代物じゃないものばかり。それらからここが耳を只の妓女としてではなく何らかの奇貨として置いていると推測できる。結論からして君は庶民の生まれじゃない」

「………………」

 

 白漂の外堀を事前に埋めていく問い掛けに欧橋は口篭りだした所で、紫夏が彼女に助け舟を出す。

 

「欧橋、この子はあんたを騙し売りした連中より性質が悪い所は職業柄あるけど人間性自体はあんたも少なくとも嫌うような男じゃないよ。素直に話してみな」

「紫夏さん……」

 

 その言葉に俯きがちだった欧橋の顔がゆっくりと上がり、白漂達と向き合う頃には昨晩の騒動で見せた凛とした意志のある顔を宿した表情を浮かべていた。

 

「たびたびご迷惑を掛けた身で更に申し訳ありません。私の真の名は王京。先の大戦で皆様方と共に轡を並べた六将の一角王齕の末の娘でございます」

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 欧橋改め王京が言い放った彼女の正体に、紫夏を除いて部屋に集っている全員に驚愕が走る。

 

「王骨!? 確かお前の爺さんと同じ六将の!?」

「王齕だ信…まあ、お前にしては珍しく知ってたな。ああ、長平の戦いで王騎将軍と共に僕の祖父の副将を務めたこともある、秦六将随一の怪力豪将として名高いあの人だ。僕らが以前に参戦していた対合従軍戦で戦死した人だ。それでそんな名家の生まれの人がどうしてこんな妓楼に?」

 

 数秒を経て真っ先に口を開いた信の言葉がある程度場の緊張を緩めた所で、白漂が問いを再び直球で言い放つ。

 

「…4年前の合従軍で父が死に、更に領地と居城が彼らの侵攻経路にあったためにそこを破壊され、一族の男達は皆が戦死しました。先に嫁いでいた姉達やその嫁ぎ先も余波で壊滅し、統治能力は失われたと見なされて城と土地は国の預かりとなり、私たちは国の紹介と縁戚を頼って別の地の同族を頼ったのですが、そこで騙されて私はこの都の奴隷市に売られました」

「わ、私、万督は没落前より京様に世話役兼教師役として仕えていたので直ぐに追えたのですが、そこで行き着いたこの妓楼の方々がどうやら王族の方と懇意にしているという話を聞いて思い切って紫夏殿にすべてを打ち明け、それで私たちはここに身請けしてもらえたのです」

「珍しくは無いけどひでぇ話だなー。それでこれから如何するんだ?」

 

 それに戦災孤児で幼少期を苦労した信が問いを挟むと、王京は鬱屈はある程度晴れつつも重い顔を浮かべる。

 

「…そうですね。昨晩のあの男達の話からして…私の素性はもう趙の方々に知れ渡っているでしょうから。ここに留まっていたら迷惑なので次の行き先を探そうと思います」

「あ、あーーー確かに長平なんてのがあったらその関係者の身内も目の敵になるっすねー。そういやー昨日に捕らえたゴロツキの口を割れたなら趙との関係はどうなるんすか? あいつらの話からしてどうやら趙の連中が関わってるでしょ」

「兄貴ーそれがよー如何せん顔も正体も明かされてなくて金だけ渡されて口頭で仕事請け負ったって話しからしてー、同盟もあるから趙までは追及できないって役人の知人が言ってたぜー。しても精々下っ端が勝手にやったってしかならないだろうって…」

「け! 狡い真似しやがって!」

「信、政治というのは半分理不尽と矛盾で出来ているようなものだ」

「はい、その通りです白漂様。これ以上は私の身では解決できません。故に迷惑を掛けないように早急にここを離れるしか―――!?」

 

 だが、その王京の重い顔を真横から紫夏が頬を抓った事で呆気なく中断される。

 

「―――あえぇ!? ひ、ひかひゃま!?」

「ちょーーーーーっと待ちなー。あんたねーこんだけ私たちに投資をさせた挙句に上客に迷惑を掛けたってのに自分の身が危ないって理由で逃げようってのかい!?」

「紫夏殿ーー! 王京様はそのようなつもりではーー!?」

「しがないおっさんは黙っときな! おい漂、今のあんたの地元の北はまだまだ人手不足でしょ?」

「え!? あ、は、はい! その通りですが何でしょうか?」

 

 先程までの思い空気など何処吹く風という調子の紫夏に、白漂も昔の立場に戻った気分で恭しい姿勢を取ってしまう。

 

「あんた、この子を身請けしない?」

「はえ…?」

 

 そして、紫夏が速攻で切り出した結論に王京は慣れない頬の痛みで目も若干潤ませながら抜けた声を出してしまう。

 

「私としてもねーこんな恨みを四方八方に買ってる子を正体発覚したらここに留めるのは店の損害が怖いからしたくないのよー。けれどもねータダで逃したら舐められる元になるしー、あんたねー奥さん三人とも戦場でも働いててその部下に似たような子が結構いるって言うから別に一人くらい増えても良いでしょー?」

「あ…」

「それにねー今もこの子を探してる王齕将軍の昔の家臣が結構いるらしくてね―。この子を紹介しながら連れて行くとそうした役人も一気に手に入れられるのよねー」

「まあ、そうだけど…?」

「それにさー昨晩でも見たとおりにこの子って腕っ節もそんじょそこらの男なんか歯が立たないくらいに強くて且つ美人だしー。家の方でも琵琶とかみたいに女の子らしい芸もうまくて且つ学識も深いわよー。雇って損は無いわよ♪」

「す、すげえ…白漂将軍相手にあそこまでまくし立てるなんて…商人…今からでも戻れるんじゃねえか?」

「出っ歯君は黙りなさい。それで王京、あんたは如何したい?」

 

 いつの間にか自身の将来を中心に話が進みつつも、いつの間にか会話から外されてしまっていた王京は急に戻されて告げられた内容に途惑う。

 

「………え、わ、私は…………?」

「王京、君は何を望んでこれまでの自分を積み重ねてきた?」

「……………」

 

 戸惑い視線を周囲に彷徨わせていると眼が合った白漂の純粋に見定めてくる鑑定人を思わせるその瞳に、王京はしばし口が小さく開いたまま言葉が止まってしまう。

 

(ま、まあ…夫の負担を減らすためにも…ここは黙っておこうじゃない…場合によってはその落とし前はきっちりとるけどね…!!)

「「………………」」

 

 それを無言ながら光が無い瞳で見守っている紅華に、尾兄弟は今にもこの部屋を抜け出たい恐怖を無言で堪えていた。

 ちなみに、ならず者達の一件だが物証が無い事と、主君の功績を汚されたくないのと自派の影響力低下を嫌った李斯の暗躍で、これ以上の証拠を引き出される前に牢屋ごと火災にあって全員死亡して捜査不可能として打ち切りになった模様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター設定④

譜孝(ふこう)

容貌/たまき(デッドオアアライブ)

年齢/14歳(始皇4年(紀元前243年)時点)

出身/秦国北部 林胡杏族領内

身長/166センチ

体重/60キロ

3サイズ/B84W57H87

得物/流星錐付き戈

趣味/服飾作り

 白漂領内で主に織物系で生計を立てている部族の大家の跡取り娘。

 気立てが良くて商売上手だが結構茶目っ気のある性格で、近接戦闘も結構上手くもう初陣も経過している。

 将来的な白漂の新たな側室候補。

 モデルは婦好。中国の古代王朝商の王武丁の妻の一人で中国史最古の女将軍だった人。祭祀も扱っていたらしい。

 

キャラクター設定⑤

庶徐(しょじょ)

容貌/霞(デッドオアアライブ)

年齢/13歳(始皇4年(紀元前243年)時点)

出身/秦国南部 南越系部族

身長/160センチ

体重/58キロ

3サイズ/B88W56H87

得物/短刀二刀流 鏢(中国で言う手裏剣。正確にはそれと似た武器) 其の他暗器

趣味/占術

 白漂領内に親戚の伝で移住してきた南方系部族。

 羌瘣も感心する容貌元ネタ張りの忍者系技術に素早さを要する(そもそも忍者自体が中国起源らしい)。

 将来的な白漂の新たな側室候補。

 性格は真面目だが天然の気が合って性的なことにはまだ耐性が無い。

 モデルは處女。春秋越の軍を山岳地帯や沼地など厳しい自然環境で鍛えて、同時期の呉を破る軍にまで育て上げた美女だが鬼教官な史実の女性。

 

キャラクター設定⑥

王京(おうきょう)

容貌/獅子堂高嶺(宇宙をかける少女)

年齢/15歳(始皇4年(紀元前243年)時点)

出身/秦国東部 元王齕領内居城

身長/173センチ

体重/68キロ

3サイズ/B91W59H90

得物/戦斧(ハルバート) 棍 手斧 弓矢

趣味/琵琶

 紫夏系列の商会が運営している妓楼で欧橋という偽名を用いて働いていた少女。

 正体は、白漂の祖父白起と同じく秦国六大将軍の一人で怪力豪将として名高かった王齕の末娘で王齕の近親者で数少ない生き残り。

 実家の没落後に紆余曲折を経て紫夏達に引き取られて、音楽や舞踏を主とする妓女として働いていたが、白漂達も舌を巻く武術と見た目によらない父譲りの怪力からしてどちらかというと摎と同じく武功で名を上げたかった模様。

 性格は苦界に落ちても色褪せない高貴さを抱きつつも、その界隈で生きてくために器用さも身に付けて且つ女性らしいことにも芸が深い。

 正体が趙にまでばれたらしいので、その身を守るためにも詫びの品という形で紫夏の発案で白漂軍に移籍された。

 モデルは王姜(周武王の夫人の邑姜と同一人物らしい。藤崎版封神演義で有名になったあの子)。




DOAって設定などが他の作品でも使えそうな魅力的なキャラが多いですね。
宇宙をかける少女もストーリーは評価が分かれますが、魅力的なキャラクターに設定やビジュアルが多いです。
次回はそこからのアイディアを拝借した女性達の白漂地元での生活初期を描いた話の予定です。
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