今回から始まるお話は、その初期プロットの幾つか含んだ内容になっています。
○秦始皇8年(紀元前239年)魏家殺人事件改め事故二日目朝 秦国北部 温泉町
「…う…もうそろそろ日が…」
浴丹で起きた魏家のお家騒動は一応沈静化した晩が明け、朝になりながらも日も十分に輝きだした時間帯にて白漂は畳の上で目を覚ました。
「…終り方はあれだったけどどうにか頼み込まれていた魏家の騒動は収まったし、この辺りの間者も一掃できるようだしで…雨降って地が固まったってところかな―――」
「…あぁ…いやぁ…も、もう駄目ぇぇ…❤️」
「―――あ…」
昨晩の結末を簡単に思い出して畳から目を起こそうとした白漂の耳を、長く親しんでいる声がまだ慣れ切ってない艶を帯びたうめき声で擽ってきた。
「…け、けれどォ…体がもっと欲しくなってしま…あぁ…❣」
仰向けの白漂が耳元を擽ってくるその艶ある声の元をまだ蒙昧としている視界で見やると、うつ伏せにて覆いかぶさった状態で、呻きつつも寝息を立てているままのナクタがいた。
まだ半勃起ながらナクタという肉の鞘に収まっていた己が愚息と、次第に冴え戻ってきた聴力で聞き取った周囲の艶ある寝息で白漂はこうなるに至った経緯を思い出す。
昨晩、事故の場面を再現する一環で白漂は集めた自軍所属の女性達に、衆目の前で下着一丁というあられもない姿を晒させるという暴挙に至った。
結果としてみればそのおかげで事故の解決と、それに付随してこの辺りの間者の一艘に繋がったのだが、現代では考えられないレベルで肌を見せるのはタブー視されていたこの時代の中華では彼女達の多くに精神的苦痛を与えたのは否めなかった(ナミなど文化より実利優先な女子がいないわけではないけど)。
その結果、白漂は事件解決に携わった下着姿作戦に参加した女性全員(ステラや玲花など他に相手がいる面子は除いて)に彼女達が求めた報酬として、この地での滞在中は毎日全員を相手にしなくてはならなくなったのである。
無論、避妊は厳禁であった。
(…それで、この状況でも細胞レベルで適応していってる我が身とそれに乗じる我が男の性が憎い。とりあえず、皆が寝ている間に抜けよ―――)
「あらぁ? こんな無防備な姿晒してる女の子を置いて何処へ行くおつもりですぅ?」
「―――お…あ…」
既に男として色々手遅れな状況になってはいるが、とりあえず今のこの場から一抜けしようとナクタのまだ初心さが可愛い肢体に未練を甦らせる愚息を抜こうとした白漂を、回想している間に目を覚ましたらしい女人の一人が押しとどめてきた。
マイが注がれてから時を置いて半透明化した子種汁を滴らせている自身の女陰で白漂の顔に蓋をして押しとどめている間に、他の女性達も続々と起き上がってきた。
「うわー、昨日あれだけご寵愛してもらったのに…ここはもうこんなに回復なさってますよー」
「ナクタの隙間から漏れ出ているこの胤の味からして…朝食をとる前にも三発までなら楽しめそうだな…ちゅる❤️」
それから部屋の中を肌色の海で満たしていた女性全員が続々と起き上がって、早々に熱を滾らせてきた表情で白漂ににじり寄ってきた。
(…もしもこの世界が誰かに覗かれている創作物の世界とすれば…その覗いてる誰かさん、ここは…
もはや、今この場で自身の立場が主人という体の良い外装を剥ぎ取られれば、女性達に人海戦術で
○秦始皇8年(紀元前239年)魏家殺人事件改め事故二日目昼 秦国北部 温泉町
「お前があの方に付いてけば大丈夫だった言ったんだろうが!」
「何を言ってんだお前こそ!!」
「ぬ、濡れ衣ですぅ!」
朝から早々に搾り取られて頬が少なからずこけたりしつつも、この世界で生を受ける際に貰えた特性と母系で謎が多いが丈夫らしい血筋に子供の頃からの前線地帯暮しで酷使されて鍛えられた肉体で、朝食を多めにとって回復した白漂は自軍駐屯地の一角に設けられたその仮説収容所の様子に極めて微妙そうな顔を浮かべていた。
「…えー―っと、何これ?」
「何って先日の叔孫通及び魏家分家騒動で発覚した内通者共と、その連座に掛かった連中ですけど…?」
大声を上げている逮捕者の群れに絡まれると面倒なので白漂達は建物の覗き穴より盗み見ていた。
昨晩、魏家分家と叔孫通の逮捕に伴ってこの地域に潜む内通者や間者の類が詳細に分かったのだが、その対象の数と範囲はあまりにも多すぎた。
この問題とそれに付随して続出しているそれらに対し、白漂達は頭が痛くなりつつも今後の為の段取りを進めていく。
「…まだこの地域だけですので、他の地域も含めれば更に増える予定です」
「は、まだいるのか?」
「どうやら叔孫通が来たからここへ来るまでに寄った各所で片っ端から後援国から得た資金と舌先で大勢手なずけたりした模様で…、今現在分かっているだけでもこれくらいは…」
「おい、これ…はっきり言って北部一帯の行政や経営に支障を起こすぞ。少なくとも来年になるまで守りはともかく攻勢に出れない…」
「ですよねー、ですから当分はこちらも北部一帯の再編成とそのための守備が中心になるかと…あー、それと以前からこちらも世話になっていた魏亶様も苦しい立場になっているようでして…」
「ん? 彼女に何か新たな問題が…あ…」
続けてあげられた問題に白漂がハッとした表情になる。
この時代の秦は列国の中で最も法整備が進んでいて内容は厳しい。
さすがに史記等を根拠として長らく抱かれていたイメージ程ではないのは白漂の前世における研究結果などで分かっては来たが、さすがに今回のように身内が外患誘致を大規模に行っていたとなれば、如何に嵌められそうになっていたのが分かったとはいえ宗家である魏亶が全く無罪というわけにはいかず、彼女にも連座という形で多額の罰金が科せられる事になったのである。
そして、この地では富豪の名士とは言っても依然として魏冄時代の財産が神器の本物と共に行方が知らない状態である魏亶に払えるものではなかった。
「捕まった魏家四姉妹以外の親戚は?」
「それがー、四姉妹家がヘマを打った際の後釜を狙ったり、そこまでうまくはいかずともおこぼれに預かろうとしていた他の親戚方は、此度の事件が余りに大きくなりすぎたので巻き添えを恐れてさっさと退散したようで…」
「…それが普通だろうなー。事態が事態だし…世話になってるとは言っても今のこちらの立場から表立って支援に動くのは色々と面倒な所が多々動き出すし…」
白漂が人情と立場の板挟みで更に悩もうとしたその時、単純だがゆえにこの場に集っている他の面子には思いもよらない解決策をある者が提示した。
「あ、それじゃーよー俺らと魏亶でこっそり財宝を見つけてそれを当てりゃ―良いんじゃねーか?」
今回の発端になった魏家御家騒動を思いもよらない推理で解決した信が、単純な性格が故に上手く行きさえすれば一番周囲に波風を立てずに済むその解決策を直球で示してきた。
○秦国北部 温泉町
「…そういうわけで幼少期より長らく世話になっていた恩義もあるので魏家の御家御取り潰し阻止のために魏家財宝探索に協力することになりました(断じて魏家のあれな分家衆と叔孫通達のスキャンダルで生じた大量の机仕事から逃げたいためではない)」
「下心は感じられますけどあの方々のそれと比べれば可愛いものだと思えますのでありがとうございます」
駐屯地でのやり取りより十数分後、内心で非常に個人的且つ小さい理由に対し言い訳を述べつつも清々しすぎて却って怪しい微笑みを見せる白漂に対し、長年の付き合いから人格と素行にそれから来る動機を知りつつもそれ故に信を深く置いている魏亶は微妙そうな苦笑いで感謝の意を示していた。
そのまま時間も惜しい彼らは財宝探索の話を始める。
「…ところでよー、言った俺が言うのもあれだけど本当にその財宝ってあんのか? 何度か盗人やそれを手引きした親戚連中が結局見つけられなかったって言ってんだろ? もうここまで何度か家を変えてる間に使い切られてるってオチじゃー…」
「いいえ、それについてはご心配ありません信殿。私は子供の頃に父母に連れられてその財法及び隠し場所を見せられております。最も途中までの道筋は目隠しをされていた状態なのでわかりませんが…確かー、その場所は苔が深く蒸した岸壁に囲まれていた場所です。それと清流の流れが多く聞こえる場所でした…」
「それじゃーこの地に隠されたけどある可能性はあるわけねー。それで何か手掛かりは?」
「そう言えば…父が亡くなられる前によく語られていた歌がございます。最も(この世界では蜀に住まうあの人達しか使わない)特殊な言語で構成されていますけど…」
「どういった内容なんだ?」
「それはですねー…」
それから魏亶が白漂達に語った歌は彼の前世で生まれ育った文化圏の言語に属する川柳という詩によるもので内容はこうなる。
『月満ちて 鏡の先は 鼎なり 回されし時 斧標なる』
その川柳の意味を秦語で語られると周囲の者達は各々の反応を示す。
(…うーん、現代人の癖や言葉が強く出た歌だな…。まだ何を言ってるのかさっぱりだけど…?)
白漂がその短歌の意味が何なのか考えようとしていた所で、新たな人の気配が近づいてきた。
「失礼します。お茶をお持ちしました…」
一人の侍女が大広間にお茶を持って現れたが、その少女は魏亶に比べて幼さも感じさせる十代前半という感じで、何処か気品を感じがする少女であった。
「預華さんありがとうございます。お茶を置いたら直ぐに出てください」
「はい、かしこまりました」
(何度か見てるけど…やはり何処か魏亶に似た子だな。そう言えばー、知らない内にとは言えあの子の父親の預銀さんも他所からの間者を手引きしていたらしいから今は捕らわれて事情徴収されてるらしいけど…。そっちは他の軽そうな人と纏めて軽い処分で済ませえ貰えるように手を打つとして…、今は魏亶の金銭問題解決だな…)
そのように近日起きた事件の影響を一部思い起こしつつも、財宝探索を開始することにした白漂達であった。
○秦始皇8年(紀元前239年)魏家殺人事件改め事故二日目夕刻 秦国北部 温泉町
「…どうだったー?」
「駄目だなー。神器に因んだそれぞれの館を探してみてるけどー、隠し部屋みたいなものも見つからねー」
数時間後、白漂達は魏家山荘にて休暇時間を利用して財宝探しを行っていたが、それらしい手掛かりを全く見つけられずにいた。
「あの、どうしても見つからなくても構いません。払えない場合は屋敷と財産を処分して、後は昔に世話になった学者さんの所かで世話になります。そうしてくださるという返事も貰えていますから…」
「まーどうしても見つからない場合はその方で上手くいくよう便宜は図るつもりだけど…何か引っかかるんだよなーこの旅館に来てから…」
その中で白漂と魏亶は、激流に面した像の館にある清水寺の如き大型木造テラスで夕焼けに染まっている同地を調べていた。
「何か引っかかるんだよね。それぞれの館が名にちなんだ展示物がやけに多いというかさ―――」
「ちょっとー! お二人ともそこから離れてくださいー! そこはまだ進入禁止掲示板は出してないですけど老朽化でいつ崩れても可笑しくない状態なんですよー!!」
「―――あ…?」
「え?」
だが、二人がその大型木造テラスに思考を巡らせていたその時、その真下から避難を促す警告が発せられるとドキッとしてしまう。
続けて、新たな災難の先触れが今度は二人の背後より飛び込んできた。
「あ、あのー将軍ー、ここへの駐屯中に盗まれていた時限機能付き新兵器の試作品なのですが、どうやら今回の件で捕まった技術者に潜入していた間者の手でこの山荘の何処かに仕込まれたようで…!?」
白漂の部下の一人が山荘からテラスに続く階段の一つよりその報告を齎したその時、直後に足元から大きく木材が爆音を添えてへし折れる音が響いてきた。
「…え? 何かしらこの音…!?」
「危ない!」
二人がいる大型テラスがその土台となっている下の木製骨組みごと突如として崩壊しだし、それに始め何かわからず戸惑いつつも崩落の浮遊感に襲われた魏亶であったが、そこで白漂がすかさず彼女を抱きとめて周りの崩落していく瓦礫や破片を回避し、落下し始めていくそれらを足場に脱出を図る。
「よし! これで行け―――!?」
だが、白漂が土台になっている安全な岩場の影へあと一歩まで迫った所で、死角から一本の矢が飛来してきた。
「いけな…いっ!?」
その飛来してきた対処が難しい矢は白漂の背を射抜こうとするも、同じく気付いていた魏亶が手を差し伸ばして防ぐが、彼女のそれを射抜いて苦悶の声を上げさせた。
「―――えってしまった…!」
それに驚いて歯噛みした白漂は安全な足場まであと一歩と言うところまで届かず、そのままテラスの下を流れる激流へ魏亶諸共飲み込まれた。
「朔方侯よ大変ですー! 先ほど仮設収容所に収容されていた間者が複数脱走した模様です! 逃げ切られた際に見据えていた方角からこの地に再び来ている可能性が高い模様で…ぇええ!?」
その数十秒後、切迫した様子の伝令が駆け込んでくるも、彼は崩壊した像の館のテラスの惨状に驚愕を示した。
「…ん? 何だぁ?」
一方、山荘の麓にある宿場町で聞き取りをしている信達もまた崩落を目にした。
「し、信殿ー大変です! 原因はまだわかりませんがどうやら山荘にある大型展望台の一つが崩壊して怪我人が多数! 更にその煽りで同地に作られていた堤防まで決壊してここまで濁流がー…!!?」
そして、山荘から大慌てで降りてきた伝令がその原因を伝えたその直後、山荘を囲う外壁を内側より破壊して現れた濁流が彼と町を飲み込んでいった。
○秦始皇8年(紀元前239年)魏家殺人事件改め事故二日目夜 秦国北部 温泉町
「……んん? ここは…?」
浴丹の町を再び災いが襲おうとし始めてから数時間後、白漂に守られつつも激流に飲み込まれた魏亶は深い苔が全面に蒸した洞窟らしき場所で目を覚ました。
「…良かった。意識が戻ったようだね」
「あ、貴方は…良かった。無事だったのですね―――!?」
魏亶がまだ朦朧としつつも最初に見つけたのは、テラス崩壊時において自身を保護してくれた白漂で、気付くとともに安堵の念を浮かべるがそれと共に意識と視界が明瞭となって、今現在の彼の格好を詳細に見やると固まってしまう。
「―――え…………………えーーッと…朔方侯…その衣装はいったい…?」
その硬直後に生じた少々の思考停止より戻りつつも次第に赤面していった魏亶が見やった白漂の姿は、ほぼ生まれたままの格好で唯一身に着けているのは彼女の前世でも記憶がある南太平洋先住民的なペニスケース主体の貴金属製腰巻であった。
「…いや、だって仕方ないだろ。あれだけあった“財宝”の中でも男用の衣服に仕えるのはこれくらいしかなかったし…。君だって今は大差ない格好だし…お疑いならそちらにある月光で照らし出された姿見で見れば?」
「…………え…?」
それを指摘された白漂は微妙な表情で余所見を向きつつも、何故かその場にあった華麗な装飾が施されている大きな姿見を指さすが、それで魏亶が見やった彼女自身の格好は今現在の彼に勝るとも劣らぬものだった。
姿見に映し出された魏亶の格好は、紫を帯びた黒を基調とする染料で表面を塗り固められた金属製レオタードで、彼女自身の美貌やスタイルと相まって男の情欲を掻き立てるものであった。
「な、何ですか…この破廉恥極まる格好は…!?」
「いやーあの激流で流される際に互いに着てた衣服が岩に引っかかりまくって破けまくって使い物にならなさそうだったから。ここへ流れ着いて見つけたあの財宝の山に適当な衣服ないかと思って探したんだけど女性用のはそれ位しかなかったんだよ」
「だ、だからってここまで大胆なものは前の世界にもそうそうは…え? 財宝?」
今の自身の姿に身悶えを起こす魏亶であったが、白漂が新たな方向を指さしていることに気付いて視線を動かすと、自分達がいる洞窟の中の一角にある人一人は通れそうな小さな横穴であった。
そこからは月光でも反射しているのか小さ目ながら煌びやかが混じる反射光が出ていたが、それに興味を釣られて横穴を進んだ魏亶が目にしたものは我が目を疑う光景だった。
「…どうやらここが君と僕らが今現在もっとも探してるものの隠し場所であったようだね…」
反射光に導かれた魏亶に続けて先に発見していた白漂もまた目にして息を飲む表情を見せるその根源は、まさしく秦王家すら凌ぐと言われた魏家財宝の山と、それらを守るように存在する本物なる饕餮の神像であった。
姫昭と似たような事態が起きましたが、次回からは今度は当作品版K田一少年がちゃんとした推理を見せる予定です(…多分)。