※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は派手な武将達の死闘にうすらされがちな将兵達の戦いや工夫について視点を合わせて補完した内容になっています。
本編との関係性を保つために幾つかの台詞は拝借させてもらってます。
なお、幾つか主人公氏が前世の微かな記憶とそれからの閃きで生じた器物や技術が出てきますが、某春秋戦国系動画に寄れば春秋戦国には飛行機やらカラクリ人形みたいなのを既に作り出した技術者みたいなのがいたりしたらしいので、後々の戦災や盗掘などでそうした技術者や物品が消されただけで、少ない手掛かりからこの時代なりに再現できただろうという仮説でしています。


第二章 山陽編
011 戦争はそれまでの準備の帰結●


 ○秦始皇5年(紀元前242年) 山陽攻略戦決戦初日目昼 魏国西部 流尹(るい)平野○

 

 その年、秦国は中華中央部での最重要目標拠点である魏国西部の山陽を攻略すべく約二十万の大軍を魏国へ繰り出した。

 此度の大戦の決戦が開かれるその平野の中央軍に白漂軍の姿もあった。

 

「…中原でここまで大きい戦に望むのは…始めてね万督」

「えぇ、階級は今回の大戦参加前に北の地での軍功を重ねていったおかげで五百人将までなれましたが…今回は精鋭だけ選び抜いて信殿たちと同じく白漂様直下精鋭部隊二千に参加です…」

「…あ、来た…」

 

 その中に王京達の姿もあり、空気の張り詰めを嗅ぎ取っていると白漂が彼ら前衛の前に進み出て、激励を発していって士気を昂ぶらせていく。

 

「…飛竜隊、前進!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

 そして、白漂が勢い良く剣を振り下ろしたのと同時に、士気が最初の臨界点に達した前衛が一斉に走り出した。

 同時に輪虎が指揮を取る魏軍中央軍の第一陣も彼らを返り討ちにすべく動き出す。

 だが、互いの距離が十数メートルというところで郭備の号令が発せられると、白漂軍から騎射と投石の雨が放たれ、魏軍前衛の何箇所かが綻んで勢いを削がれてしまう。

 続けて後列も動き出し、削がれた勢いが戻せぬ内に魏軍は白漂軍と衝突する羽目となった。

 そのまま、両軍は前線が入り混じっての乱戦へと突入する。

 

「……あそこが凄いな…」

 

 その中で端に近い位置で守戦主体で戦う楽華隊を率いている蒙恬はある兵士に注目していた。

 

「…しぃ!」

「「「がはぁ!?」」」

 

 彼の視線の先では、戦斧を棒を用いた演舞のように高速且つ巧みに振るいながら敵を一刀で両断し続けていっている王京の姿があった。

 先の騎射と投石の雨で陣が乱れていた魏軍騎馬隊は上手く立ち直れないまま、その流れに乗った形だが直近と思わしき騎兵との連携が上手かった。

 その動きはしばらくして反対の端に近かった玉鳳隊隊長での槍を振るう王賁にも確認できるようになっていた。

 

「っ! 何だあの隊は…!?」

「確か先月の生き残りの者が見つかって再結集した王齕将軍の―――」

「余所見とは若いねまだまだ」

「―――おおって賁様ぁ!」

 

 その一瞬の意識の希薄化を魏軍中央軍の第一陣を率いていて、王賁との一騎打ちに入っていた輪虎がすかさず攻めようとするも、玉鳳隊隊員がすかさず割り込んでどうにか守る。

 そこから再び輪虎の双剣と王賁の槍の応酬が再開し、王賁が槍のしなりを利用した曲線軌道で相手を抉る必殺技“龍指”をもって討ち取ろうとするも、輪虎に紙一重で避けられて逆に左肩に無視できぬ傷を負わされた。

 

「…ちぃっ!」

「ああ、もうその傷ではこれ以上は無理だ!」

「賁様を後ろへ下げろ!」

「! あの白尽くめの目立つ鎧は確か…!」

 

 そこで輪虎が追い討ちを掛けようとするも、将校に加えて伝令まで白漂軍の狙撃手に射抜かれて生まれた連絡網の大幅低下を付いて王京隊が彼らを見つけて馬を走らせ出した。

 だが、その事に気付いた輪虎が側近の諫言で一旦王賁との勝負を止め、更に魏軍から煙が立ち上って戦場を包みだしていく。

 

「この煙…歩兵全軍に通達、防御態勢を取れ。騎馬隊に通達、散開して敵を射殺せ」

 

 白漂がそれに反応して対策を打つと、魏軍から第二陣出撃を告げる銅鑼の音が鳴り響く。

 

「…燈騎に燈史、各歩兵隊に“動円砦”を敷く様に伝えろ」

「はっ!」

「動円砦だ! 各隊に笛で伝えろ!!」

 

 続けられた白漂の数多の命令を受けて、白漂軍歩兵隊が銅鑼とは別の自軍の複雑な笛の音にしたがって立ち込めてきた煙に覆われる前に何箇所かで円形状に密集して盾を構える。

 

「カカカカ、素早いなやっぱり!」

「おい信、さっさと馬を乗りて盾を構えろ」

 

 その中で伍鬼が担当する動円砦に、輪虎兵をいくつか潰して回って、王賁から離れた輪虎とも戦っていた信が調子付いた様子で駆け込んできて、伍鬼に馬から引き摺り下ろされて盾を構えた直後、煙が戦場全体を包み込んで数秒遅れて矢が飛んできた。

 

「ぬっお! あぶねえ!」

「ヒヤッとしたぜ!」

「音源めがけて斉射するように伝えよ。敵も視界が悪くなってるから音を出してる偵察隊以外は退いている! それらを集中的に潰せ!!」

「あそこに一隊がいるぞ!」

 

 それらを歩兵が担いでいた大盾を広げて防ぎつつ、白漂軍は無理に打って出ずにまず弓矢で仕留めて行く。

 それらの様子を、年寄りらしからぬ聴力と煙の中でも僅かな影や音声の変化で戦況把握できる経験に裏打ちされた軍才を持つ、魏軍中央軍第二陣指揮官玄峰は正確に見抜いた。

 

「玄峰様、音の合図が少なすぎます。削られているかもしれません」

「(…ほう、他の秦将とは違い白漂は中々兵と共に準備が良い性格をしておるな。あの妙な押し印が幾つもついた笛で複雑な指示を可能にしておるか…)あれを出せ!」

 

 玄峰の指示を受けて魏軍主力部隊が初日早々に出撃する事となり、しばらくしてその前兆である地響きと地鳴りが戦場に染み渡ってきた。

 

「ふおおおおおおぉ! 小癪な秦の蛮族共を残らず踏み潰せぇ!」

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

 この時代の中華にある戦車隊で随一の屈強さを持つと自他共に認められる魏軍の装甲戦車隊の出撃の報せであった。

 先陣を切る魏軍中央軍戦車隊を率いる指揮官の号令に戦車兵達は鬱憤を晴らそうとするように気勢を上げ、早速信が中央で旗を掲げている動円砦の一つを見つける。

 

「さっさと来やがれ魏の間抜けどもぉ!」

「挑発はいいけど頭をもっと下げろ信!」

「腕怪我してんだろ馬鹿!」

「ふざけた小僧め! 如何に盾をもって密集していても我らの突撃を防ぐなど出来んわ―――!?」

「ビヒイイイイ!?」

 

 味方に頭を抑えられそうになっている信にほくそ笑んだ戦車隊指揮官は更に馬脚を急がせるが、秦側の防陣を踏み潰す前に馬が悲鳴を上げて倒れ、その勢いで彼らの眼前に飛び出してしまう。

 

「―――ってがはぁ!?」

「ぐえぇ!?」

「ごふ!?」

「よし、来たぞ!」

「逃げられる前にさっさと仕留めろ!」

「ぎゃあ!?」

 

 同じように続けてきた魏軍戦車兵らも戦車が倒される音と共に地面に投げ出され、そこを盾の隙間やその上を越えて飛び出てきた槍や矢に次々としとめられていく。

 

「な、何が起きて…!?」

 

 魏軍中央軍戦車隊指揮官が傷む身を堪えて頭を上げると、動円砦の周囲には何本かの剣が花弁のように地面に水平状で展開していて血で濡れ、それを支える下部が十字状の台になっている罠が無数に設置されていた。

 

「戦車相手には本当に役立つなぁ、この白漂に杏橋が考えた“剣花”は」

「ウカウカすんなよ兄貴、ほら、後続が来る前に生き残りを倒しながら剣花の位置を直そう」

「ぐえ!?」

 

 伍鬼の動円砦に属していた尾兄弟含める歩兵達が投げ出された魏軍戦車兵に止めを刺しつつ、動円砦の周りに散っているその剣花を元の位置に直していく。

 剣花は対戦車用兵器として白漂軍が考案し生産させた設置型兵器で、十字状の台の上に高さを調整できる花弁状に水平で4本の刃を同じく十字に展開し、戦車の馬脚を待ち伏せしたり攻撃を防いだりする兵器だ。

 普通の騎兵なら飛び越えられる高さだが、如何せん戦車と繫がっている状態の魏軍の馬は飛び越せずに脛から当たって足を負傷してしまう。

 折りたたみも可能で携帯性に優れ、また台には長棒を差し込める穴が付いてるので盾の内側から出ずに移動したり立て直させたりすることも出来る。

 

「お、おお! 戦車が見る見るうちに倒され…あ! 次第に気付いて避けだしてきました!」

 

 だが、何隊かやられると流石に魏軍も気付いてそれらの罠を避けるように動きだし、動円砦の一つに駆け込んでいた蒙恬率いる楽華隊副長で初老男性の胡漸も気付きだす。

 

「あー皆さん、ちょーーっとお聞きください」

「え、何この声? あ、何だか綺麗なお嬢さん。戦終わったら…」

「…あああぁ、こ、この白漂軍は腕も頭も立つが容貌もいい女人が多くて蒙恬様には毒すぎる…」

 

 そこで同じ動円砦にいるターコイズブルー基調の鎧を纏っている譜孝がトランペットに似た楽器を片手に声を上げ、蒙恬は堅苦しい戦場で若干表情を和らげ、胡漸が嫌な懐かしさを覚える。

 

「「「へ、へい! なんでしょう!?」」」

「まず言いますけど戦車は怖いです♪」

「そ、そりゃ…まあ…」

「でも、ちっとも怖くありません♪」

「? 何を言って…?」

 

 譜孝の当然な前置きとそれに矛盾する続きに蒙恬は眉を顰めるが、そこで白漂軍兵士達が人一人分の高さはある撒かれた反物を取り出す。

 続けて、軽快だが甲高く遠くまで響く管楽器の音色が煙が立ち込める戦場一帯に響く。

 

「皆ー、“断縄”で他所まで繋げて」

「なな!? 何やら反物みたいな網…状に結ばれた平べったい縄が解かれだした…!?」

 

 歩兵達が戦車が来ない合間を付いて盾兵に守られながらその横断幕を思わせる断縄と呼ばれる罠を走りながら広げていき、それを他の動円砦へと繋げていく。

 

「っ! そうか! 罠を警戒して回避が増えて速度が落ちている今の魏の戦車ならあれでも…!」

「えぇい! 秦兵め小癪な罠を使いよってぶ!?」

「おお! また戦車が絡め取られだしました―――」

「爺! もう直ぐ出番が来るから準備!!」

「―――あぇえぇ!?」

 

 蒙恬がその意図に気付いた直後、やってきた魏軍戦車隊が低速度でその断縄に突っ込んで横転し、それに他の戦車のまた何台か追突していく。

 

「い、いかん! 前で戦車が押しつぶされあってるぞ!」

「ま、曲がれぇ!」

「む、無理です! 両側をあの花のような剣の罠に守られた秦の軍に固められてますので!!」

「ええい! だったら止まれぇ!!」

 

 魏軍はまた今度の断縄にも気付いて急停止を掛けていくが、そこは秦軍の動円砦に挟まれた場所であった。

 

「見たとーり、止まった戦車は少ない人数しかいない半端な砦と一緒です♪ 皆もう囲んでや―――」

「こっちも真似して敵の戦車の車輪に槍を投げて、それから(残りの)音源を潰すよ」

「―――ってってあらま。せっかちなお兄さんがいるわね」

「「「うおおおおおおおおお!!」」」

 

 魏軍戦車隊が乱れた状態で止まったその時、真っ先に楽華隊が動円砦を飛び出して身動きが取れない彼らを次々にしとめていき、譜孝の若干不満げな声に続けて白漂兵らが同じく飛び出して戦車に群がっていく。

 

「ぐあああぁ!」

「だ、駄目だ囲まれ…!」

「こ、ここから脱出しろぉ!」

「だ、駄目です! 車輪が次々に壊されて…ぐはぁ!」

 

 それはまさしく陸に打ち上げられてしまった鯨に狼の群れが襲い掛かっているようで、身動きが取れない戦車隊は各所で次々と潰されていった。

 

「全軍撤退、立て直すぞ。これは久しぶりに負けたわい」

 

 魏軍第二陣の高台付き大型戦車から悲鳴と歓声の発生位置がほぼ固定化している状態より、自軍の不利を悟った玄峰は味方の戸惑いと衝撃に構わず撤退命令を下した。

 

「信、魏の本陣から更に精兵が来た。ここだけできついから退くぞ」

「…ああ!? もう少しだったのによぉ!」

「信千人将、今日で大分輪虎兵を減らしたから今は引きましょう」

 

 それは休息を取ってから動円砦を飛び出し、輪虎隊と再び乱戦をしていた信達にも及び、羌瘣と王京に連れられる形で彼らも撤退していった。

 一方、白漂達を討つべく本陣を出た廉頗も自軍の不利を悟って、他の味方の撤退を支援すべく彼らから離れていく。

 そして、煙が完全に晴れて両軍が離れると秦軍側から歓声が立ち上った。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇5年(紀元前242年) 山陽攻略戦決戦初日目夜 魏国西部 流尹(るい)平野 秦軍中央軍陣地○

 

「乾杯ー!」

「飲めー!」

 

 初日の戦を終えた夜にて、秦軍は見張りを念入りに付けつつも初戦の勝利から祝宴が開かれていた。

 

「いててて! そ、そんなに何本も針を刺さなくていいだろ扁鵲先生ぃ!」

 

 その一角にある野戦病棟で、輪虎の左手に剣を振れない深手を負わせた信がそれを白漂に労われていた後に、白漂軍の医師達の長を務めている扁鵲の治療を受けていた。

 

「そんな深手を負った腕で無茶な剣をしていたのを考えればこれでもまだ少なくて済んでる方だ。ほれ、体温」

 

 信に悲鳴を上げさせているその扁鵲は、並みの男性よりも頭一つ分高い長躯で露出が少ない男性衣装に上から防具を付けていてもはっきりした凹凸が分かっており、癖が強い茶色の長髪に紫色の切れ目で怜悧な雰囲気が似合う美女であった。

 

「せ、せんせー! 俺ー昼間に斬られた時に右足の太股が骨見えるくらいの深手を…」

「外傷が大きい人は赤旗ゲルに! 捻挫とか軽い怪我の人は青旗のゲルに…!」

「…うーーーん、何つーかここって逞しさが美にも出てるお姉さんが多いけど…あの人って性格も顔も違うけどあの包容力が身にまで出た身体って俺が勉強する切欠になったあの先生思い出すねー…ぶっちゃけ信にあそこの寝床変わってほしい」

「…昼間の戦いでも傷らしい傷してないのに…筋肉痛訴えてここま出来た理由がそれですか…」

 

 扁鵲がいる医療天幕群には白漂軍以外からも高度な医術も込みで大勢負傷兵が集まっており、それにさり気無く混じっている蒙恬に胡漸は本日二度目の嫌な懐かしさを覚えた。

 

「そんであの扁鵲さん…名前があの伝説の名医と同じだが…」

「あ、いやーわしもそこら辺の詳しい事情はあんまり…本人曰く襲名というもので本名は別にあるとか何とか…何やら白漂将軍が各国を遊学していた際に知り合ったとか何とか…将軍になり北部司令官になった伝で厚遇で呼んだとか何とか…」

 

 その最中にも蒙恬は時折り神妙な顔で扁鵲を盗み見ていた。

 

「いやー、木簡や竹簡はかさばりやすいから医術書は戦場には限られた量しかもって来れなかったが…この絹みたいな紙と言うのは本当にいい。安くて何より本を軽く出来るから色々医術書持ち込めて対処の手が増える…」

 

 そんな視線など気付きもしていない扁鵲は軽くなった巻物を読み込んだり負傷者の状態を記録に注力し続けていた。

 

「…まだ始めて出会った頃は向こうが小さいくらいだったのにな。逞しく凛々しくなり…本当に、こちらの未来まで広げてくれたのはありがたいな…」

 

 そうした最中でも、丘の上の白漂軍本陣で今晩も(周りの見張りや催促付きで)合戦後の処理や明日以降の戦の準備に取り組んでいる白漂の姿があり、扁鵲の視線は時折り彼に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラクター設定⑧

扁鵲

容貌/ザキヤ=メディカール(女王騎士物語)

年齢/26歳(始皇5年(紀元前242年)時点)

出身/東方六国某所(モンゴロイド系以外の血筋も混ざっている)

身長/177センチ

体重/62キロ

3サイズ/B100W64H94

得物/針術

趣味/解剖 薬品製造

 白漂が紫夏に付き添って行商の不利をして東方六国を回っていた際に知り合った医者一族の長。白漂には色々と便宜を図ってもらっているので好意は基本右肩上がり。卓越した医療技術を持つが詳細はまだ不明。

 モデルは春秋戦国の名医扁鵲。実の所史実の扁鵲自身が記述に従うとその活動期間が数百年規模とあまりに長いので、複数人からなる特定の学派であったという説がある。




別の地域の戦国系漫画で切れ者坊さんが言ったみたいに、戦争に限らず実戦では常日頃からの積み重ねや研鑽が大事だと思います。
次回は中央軍ではなく左右の各軍及び他所の話が中心になる予定です。
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