○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国中央部 王都咸陽○
屁理屈に基づくお仕置きも兼ねたミナイとの情事より数十日後、秋も過ぎて冬に入り、年末に入った咸陽の正門をある数千単位の一団が潜り抜けていた。
「咸陽か…思えば前の合従軍戦の後始末がようやく済んで落ち着けてからその報告の為に来た以来だね紅華。あの頃よりもさらに螺旋状に区画が広がって正門もより新しく大きくなってる…」
「あの人達とは時折り隙を見て間の地方都市などで顔を合わせてはいましたけどね貴方」
正月の式典へ出席するためと、そこへ参加する秦国新規諸侯に加わったばかりの北の諸民族及び旧趙領の代表者やその代理人たちの引率役も兼ねている白漂一行である。
正門を潜る前より彼らを一目見ようとする群衆が道の両側に群がっており、人々の期待や高揚はその声にも表れていた。
「おおー、見ろ。あの方が六将筆頭白起様のお孫でご本人も秦国現三人目の大将軍になられた白漂様じゃよ」
「うわー、仮面付けてるけど素顔見せてもらえるかなー」
「きゃー! 紅華御姉様ー!」
中には黄色い歓声も上がっていたりしたが、一行は概ね慣れた様子で手を振りながらも咸陽における自分達の館へ入館した。
そこで土産や自分達の荷物を降ろして整理しつつ、久々に王都へ訪れたり、初めて訪れられた面子がうきうきした様子で話し合っていた。
「「「「「咸陽♪ 咸陽♪ 王都咸陽♬」」」」」
特に若くて初めて王都に来た面子は、白漂が見れば田舎から初めて憧れの都会へ来られた学生の如き状態になっていた。
「ギャハハ! 見ろよ新入り連中が飛び跳ねるまで完全にはしゃぎまわってやがる!」
「そういうお前こそ初めてここを見た時なんじゃこりゃーって顎が外れんばかりに驚いてただろ」
「さー皆ー、緊急時における物資運搬名目で持ち込んだ品の点検は大丈夫かしら―?」
「ばっちりですぞナミ殿」
「お前らこういう時でも変わらんな」
それを古参組は概ね懐かしい様子で見守っていたが、一部の要員はその状態でも常に一定の緊張感を保っていた。
「それと貴方、ここで初めての公務だけど…」
「ああ、向こうも先生含めて五人全員揃ってくるらしいな。当然だけど…?」
その中心には当然白漂がいたが、そこで彼は殺気が無いゆえに気付くのが遅れた気配を背で感じ取るも、反応を示す前にその視界を塞がれてしまう。
「うふふ♪ だーれでしょうか?」
「む、この戦技や織物で使い込まれてる感じの手は…王都へ先に向かっていた愛しの我が五番目の妻」
「正解♬」
その視界を塞いできた者の正体は昨年にて王都圏で進められているある国事の準備に参加するため出張していた、白漂の側室の一人である譜孝であった。
ちなみに、その腹部は今現在妊娠中の面子ではいち早いものであったので膨らみが一番目立っていた。
「お久しぶりね、あなたや他の面子の手紙で書いてたけど今年のあれに向けての準備は色々大きくなってるようね」
「こっちこそお久しぶりー、うふふふ♪ 色々可愛い子や綺麗な子も手紙通りに増えてて、皆そーっちもまた育っちゃってるわね―――」
「こんな所でそんな真似止めなさい」
「―――えってあいて」
久々に再会できた同じ男を愛する面子に譜孝はセクハラ親父の如くワキワキした手付きを見せるが、紅華にビシッと手を叩かれて舌を出させられてしまう。
「お久しぶりです譜孝さん」
「あー、あなたも来てたのね姫昭さん、私なんかの顔を憶えててくれてありがとうねー」
「はい、私達は元々趙に席を置いていた身から帰順した身ですから。これを機会として大王様にお目通りせねば…幸いにも私の家は王家の方々とは遠いながら親戚の間柄ですから…」
その譜孝からそっと身を仰け反らせるように遠ざかろうとしつつも姫昭もまた挨拶をしてきた。
ちなみに、春秋五覇の一人でもある晋文公はお家騒動の都合で長期にわたって各国を亡命で回っていた時期があり、その間の秦穆公の世話になっていた時期に同国の公主を何名か貰っていた身で、その時の公主と晋文公の間に生まれた男子の一人が姫昭の先祖である。
「それでー、今回早速あれからどれくらい育ったか寸法を測ってもいいかしら~?」
「…ぅ、や、止めてください…あのような珍妙で妖艶な衣服ばかり…」
そして、白漂の閨に属している女性達のその時の為の衣服の多くは譜孝が自ら試案や試作をしているものだが、それらは現代的視点から見ても非常に美術的価値が高くありつつも煽情的な衣装が多く、姫昭など真面目な面子を大いに恥ずかしがらせていた。
「こら、だから今はそんな無関係な話は止めなさい。正月のあいさつ回りが終わったら存分にしていいから」
「あいた―い、も~そんなカリカリしなくてもいいじゃないですか奥様ー…ん?」
その縁で巻き尺を手にした譜孝は姫昭ににじり寄り出して彼女を再び恥ずかしがらせるが、紅華にターコイズブルーの短髪を掴まれて止められると、ある人物の奇妙な行動に気付く。
「あれー? 久々の王都に来て今頃は観光で大はしゃぎを一番してそーな彼が…何か妙に重苦しい表情で縁側に座ってるんですけど…?」
譜孝が気付いたその人物は縁側に尻を降ろして悩ましそうな表情を浮かべている信であった。
「…それなんだけど譜孝さん、信君…何だか咸陽へ来る途中に寄ったある廃城からずっとあの調子で…」
「え、どういうこと?」
「それがー…」
その理由を玲花が詳しく話し始めた。
「…うっひょー、久々の王都行きだよなー。ウチの連中もう既にはしゃいでるぜー」
「もう何度も来てるからそんないなかっぺ丸出しな態度を向こうでもするなよー」
数週間前、北部から咸陽へ向かう途中の山道を数千人単位で構成された白漂一行は進んでおり、その中には当然信の姿もあった。
そうしていつもの調子で軽口を叩き合っていると、急に雲行きが怪しくなった。
「…あ、この空模様…もう直に土砂降りになるな…。けどー朝に出た宿場町にはもう間に合わないしどうしたものか…ん? 何だかあそこに廃墟だけど屋根が残ってる山城がある…」
その感性の鋭さから天候の急な変化を覚えた白漂は、自分達が進んでいる山道を見下ろせる山の中腹辺りに古びていて人の気配が無い廃墟化した山城を発見し、そこで雨宿りすることを決める。
「…ふー、打ち捨てられてから十数年以上といった感じかしら。屋根は思ったより残ってるから雨風はしのげそうねぇ…?」
そこで紅華は安堵の声を上げるが、その中で目を大きく見開かせて頼りない様子で城内をフラフラと歩き始めている信に気付く。
「…ん? 信どうかしたのか…?」
「……知ってる…」
「ん?」
続けて白漂もまた気付いてその様子を怪訝に思うが、信の口から出た言葉は予想外のものだった。
「………俺…今の今まで思い出せてなかったけど…、ここ…知ってるぞ…!!」
その時の信は長らく忘れていたものを思い出した懐古と慟哭の表情をしていた。
「…へー、そんな事があったのねー。つまりーその廃城が彼の故郷である可能性が高いって…」
時は戻って現在にて、今も縁側で考えこんでいるままの信の背中に物珍しそうな表情を譜孝は向けていた。
「私も最初は気のせいかと思ってたけど…何だか妙に城の隠し部屋とか地下室とか抜け道とかやけに細かく当てたりしたから本当そうなのよ。まーその時は上京の途中で時間は無かったからそんなに深くは調べられなかったけど…」
紅華が補足している間も信は長らく忘れていた自身の過去の記憶をより思い出そうと深く考え込んでいたが、それはその背を見守っている一人である白漂も同じだった。
(…前々世の資料で且つ歴史の改竄が多かった唐代の資料が元だから信憑性は低いと思っていたけど、確か彼方の世界の李信は祖父と父が郡の太守に任ぜられる名門だと記述されていた。だとすると…こっちの信も実は名門の生まれ…?)
一方、身内の見慣れない様子で思考を巡らせている人物もいれば、そのような事には気付きもせずにいる面子もまたいるのが必然である。
「さー、久々の王都だし、荷下ろしやその点検も終わったから儀式が始まるまでは観光と地元へ持ち帰るためのお土産買いにでも行きましょー!」
開発中といっても国の辺境である北部が主な活動地なので、王都にはめったに来れないマルタと言った面子がウキウキした様子で街に繰り出そうとしていたのだ。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国中央部 王都咸陽 某商店街○
「…いやー、冬に入って北風も吹き込んでるのにいつの時代も商魂たくましいですな~」
「お忍び中のこの時とはいえそんな軽い口を吐けるお前も大概逞しいと思うが…その身重の身で外を普通に出歩くのもな…」
ちなみに、マルタ達が邸宅から街へ繰り出そうとしていた頃、その邸宅と同じ区画にある商店街をお忍びで正(嬴政)一行も出歩いており、同行している面子には艶やかな藤色の長髪で人目を引いている球泰の姿もあった。
「怪しまれないように徹しろと王宮で命じられたのは貴方様でしょ。下手に後宮で使うような態度をしてれば―――」
「いやー、君ー美しいだけじゃなくって服装などの趣味もいいねー。私はねー譜氏商会の者なんだけど―。これから数日後に行う予定の正月式典の数日後に行われる大秦服飾展示会で衣装を着こなしてくれる女優さんに相応しい人員を探しているのだけど…君ー興味ないかい?」
「―――あ…れ?」
下手に知られれば処罰されても可笑しくない砕けた態度をとっている球泰だが、そこで彼女は通りで他の女性達に片っ端から声をかけている羽振りの良さそうな男を見つけた。
どうやら来年の初頭に行われるイベントに相応しい服飾モデルを探しているスカウトマンらしかった。
「いや、私ー興味ありますけど実家があのお祭りいかがわしいって反対してて…」
「そうは言わずにせめて話だけでもー…、近くに知り合いが経営している茶屋がございますのでそこでー、お代はこちらで立て替えますのでー…」
そのスカウトマンの姿を見て立ち止まる球泰であったが、少々して後に彼女は思いもよらぬ行動をとる。
「さあさあ、どうぞお話を―――」
「ねえねえ、ちょっとちょっと」
「―――お…!?」
スカウトマンが如何にか別の女性を茶屋に連れ込もうとしつつあったその時、球泰がその彼の肩を背後から掴んで呼び止めてきたのだ。
「その女優、私はどう?」
その艶やかな青みが強い藤色の髪に似合う明瞭な笑顔を浮かべながら、服飾モデルに自らそう立候補してのけた球泰は実際に興味本位で振り向いてきた周囲には不足が無いように見えた。
(!? え…な、何!? 何いきなり自分から来てるのこの子!?)
だが、当の肩を掴まれたスカウトマンが振り向いて驚きと共に生じさせた念は、感心ではなく未知なるものに対する恐れであった。
「(…綺麗な笑顔だけど纏っている空気には何だがまるで戦場に出てる兵士みたいな威圧感が混じってる! それでいてこの指とそれへ込められた握力は女性のものじゃない! というか身重じゃないこの人!? ふ、深入りされる前に離れよう…)あ、申し訳ありません。私ー急用思い出したのでこの場はもうお引きに…!?」
スカウトマンは営業スマイルを浮かべてさりげなくその場を立ち去ろうとするが、球泰がその肩をメキッと不審な軋みの音が出るまでに掴んで引き戻しにかかった。
「はぁ? さっきと大幅に態度変わってんぞこら? その理由ハッキリ言えよこら?」
「え、ぁ!? いや、ちょっと…あ、あんま引きずり出さないで…こ、この力ぁ何!?」
そのまま球泰は先ほどと打って変わって不良同然の表情や言動でスカウトマンをズルズルと引きずり始めた。
「…ん? あれ?」
「どうした?」
「いや正(嬴政)様、それがーいつの間にか球泰殿の姿が消えてしまってます…」
「…はい…?」
ちなみに、球泰は少々の間スカウトマンを観察していた間も、それに気付かず正(嬴政)達は歩き続けていたので、彼らが彼女の不在に気付いた頃には、遠くから微かにスカウトマンの悲鳴混じりの声が伝わっている頃であった。
(…ううううぅ、アッシリアに虜囚されていたご先祖さまや、バビロン捕囚されていた頃の別の二氏族もこんな感じだったのかしら…ゆ、誘惑が多すぎるわ…)
正(嬴政)達が球泰達の捜索に取り掛かろうとした頃、苦悩と焦燥に駆られた表情のマルタが同商店街の別の通り道をフラフラと歩いていた。
「さー! 新商品に甘辛豚骨どうっすかー!?」
「今日の塩豚丼は良い塩が入りましたよー!」
周囲から立ち上る客引きの掛け声で記憶より喚起される豚系メニューの存在が、知らなかった頃に豚骨拉麺で豚肉に汚染されていたマルタを聴覚と嗅覚から苛んできていたのだ。
(あ、ああ…な、何故豚さんは不浄の生き物とされてしまっているの!? こ、子供の頃は結構かわいいし! 何より知らぬうちに食べていたとはいえ結構美味しいし…! 神様…不浄な生き物だというならそもそも何でそのような存在に彼らを作りたもうたのですか―――)
「あー、そこのお姉さんそんな腹を透かしてるならウチで焼き肉はどうだい? 良い羊肉が入ったんだよ」
「(―――あってそうよ! お腹が空いてこんな邪念が生じてるだけなんだからちゃんと教え守ってる食事で満たせばいいんだわ!)はいハイハイ入ります入ります!!」
そこで偶々ジンギスカン的な焼き肉屋から客引きの声が係り、救い主を目にしたかの如きマルタは駆け込んだ。
「…あー、やっぱ炭火焼きの焼き肉は美味いっすねー。店員さーん、もう一皿追加お願いしまーす」
「おー、本当に美味しそうな表情で食うねー姉ちゃん」
十数分後、先程まで悪魔の誘惑と自制心に苛まれていた青い表情とは打って変わり、マルタは喜色全開の表情となってそれが周囲の表情も和ませていた。
「肉も美味しいですねー。何を隠し味にしてるんでしょうか?」
だが、当のマルタ本人が何となく口にしたその問いがこの場を修羅場に変える事になってしまう。
「はい、今朝に処理したばかりの羊でしてー。一割ほど血が残っている新鮮なものを―――」
「!? う…オオオオオオオオオオオオロロロロロロォォォ!!!??」
店員が善意で言い放ったその言葉をマルタの脳髄は刹那で理解し、即座に胃に溜まっていたものを情け容赦なく吐き出させてその顔から血の気を奪い取った。
「―――おってぇぇぇええええええ!!?」
当然、それと店を汚された店員の悲鳴で他の客達は驚いて騒ぎ始めた。
「おい! あそこに姿を消されてた球泰殿がおるぞ!」
「こんな食い物屋で派手に嘔吐するとは…」
「このような騒ぎが起こされて巻き添えにされる前に大お…正様に先にあの方の館へ向かってもらわれたのは正解だったな…」
「鎖で縛って引きずってでも構わんから早くお連れするぞ。手打ちの方は私でする」
「いや、一応御子様をお一人身籠っている方にそんなご無体な…」
その姿を発見したフードで身を隠した怪しげな者達が動き出した中、マルタの下呂で騒ぎ出した店の裏側にある別の店でそれを不可解に感じている人物がいた。
「…? 何だ―――?」
「ほれ、大将込みで頼まれていた情報だ」
「―――あ、来たか…」
焼き肉屋の裏側にある茶屋で茶を飲みながら誰かを待っていた羌瘣で、彼女もマルタの下呂で起きた騒音を薄壁越しに聞き取って怪訝な表情を浮かべるがに、行商人風の男が現れて書簡を渡してきたのだ。
「…この地図…また北に向けて拠点を動かしたようだな…」
「如何せん、先の蚩尤が行方不明になってる事でケチが付いて趙より追われたらしいからな。こっちも色々伝手を使って引き込みも図っているが目撃情報すらも滅多に入らん。北の例の勢力とのやり取りが増えてるらしいが…」
「詳しく聞かせてくれ」
結局、マルタがある男達に連れていかれていっても、興味が無いため気付きもしなかった羌瘣がその場で深く関わることはなかった。
○秦国中央部 王都咸陽 白一族宗家咸陽別館○
「…ふう、到着初日からあんなに大勢見た事も無い訪問客が面識作ろうとしに来るなんて…疲れた…」
「あらま、一日目でそんなだなんて…妻を不安にさせる旦那様ですねぇ」
マルタがある一団に保護されて十数分後、白漂は譜孝の部屋で腰を勢いよく椅子に降ろして安堵のため息を吐いていた。
「君はそこまでお腹大きくなってるのに館内とは言えよくあそこまで接待で動き回れるねぇ」
「まーこの子には悪いですけど生まれたらすぐに現場へ復帰できるように鍛錬は仕事の合間にいつもしてますので。ほれ、この通り」
譜孝はその辺にあった布を伸ばして新体操のリボンのように操り、壁際にあった茶葉が詰まった木筒をあっさり手元へ手繰り寄せた。
「器用だね」
「それはまあ、この子のためとはいえ本来は貴方様に愛でてもらう分の時まで費やしておりましたから…」
別時間軸の後代インドで生まれるはずだったウルミンとその使い手の大幅な早世に白漂は感心するが、それ以上に譜孝の腹部に目が言っていた。
このまま順調にいけば来年行われる加冠の儀の半月後に生まれる第四子を宿した譜孝の腹部は、今現在白漂の子を妊娠中の女性達の中で最も膨らんでおり、それが白漂の中で強まっているある性癖をこの場で強く騒がせた。
「…え、貴方さ…あ!?」
故に白漂のその手は自然と動いて譜孝の膨らんだ腹部に当てられ、彼女の戸惑いを楽しむように指先は衣服越しながら感触を楽しんで下へと動き、スカート越しだが足の付け根へと到達させられた。
「…ごめんねぇ、種馬的な期待が混じってるとは言っても…やっぱりこう麗しく他にも才がある女性に子の親になることを求められてりしてると、実際に子を宿してくれてる女の子の色々な反応を見たくなるようになってさぁ…♪」
「もう…まだ日が高くて他の女性方もまだ動かれている最中で…っ?」
夫の苦笑交じりながら高まり始めた愛欲を伝えてくる指の感触に、譜孝は困った風な表情をしつつもそれに身を委ねようとするが、そこで外から騒音が近づいている事に気付く。
「何事だ?」
「いや! それがこの近くで開かれる予定の服飾見本市で女優になれそうな女性を勧誘していた譜家の使用人に何故かマルタ殿が締め上げ同然に絡んでいたようで…!?」
白漂が二階の窓から身を乗り出して眼下にいた館の使用人に問いただすと、丁度良く開かれた正門を縛り上げられて猿轡を噛まされながらも暴れて逃れようとしている女性と、それを必死で抑えている一団が潜ってきた。
「ムグー!?」
「落ち着けマルタ!」
「あんな人前で暴れたら大将の恥にもなるんだぞ!!」
「あれはたしかマルタちゃん? けれどあのお腹って―――?」
「相変わらずお前の所は来る度に騒ぎが起きているな」
「あ、政だ」
「―――え…!?」
その女性は譜孝にとって知人であったが故に口にしたその点で強い違和感を覚えたところ、背後から非常に微妙そうな表情を浮かべていた嬴政が現れた。
「え…えーーっと何時の間に何処からお出でになられたので?」
「ついさっき正門から入ろうとしたが見ての通り騒ぎになりそうだったから裏口からこっそり回ってきた…ぁ…!?」
雌猫と評されやすい性格の譜孝も国家元首のいきなりの登場に緊張を覚えるが、当の嬴政は窓辺に乗り出した所で引きつった顔を浮かべる。
「…え? 何故…あいつが…何をした…っ!?」
嬴政が困惑と嫌な予感を覚えた顔色を強めようとしたところで、その窓から館内正門内側に向けて白漂が降り立った。
「うぉお! 白漂様!?」
「どういうこと? その子はいったい―――」
「ほら! 球泰殿ようやくつきましたよ!」
「後で左丞相と女官長からの説教は覚悟してくださいね!」
「―――い…」
どうやら嬴政と同じく何かに気付いたらしい白漂が声を掛けようとしたその直後、嬴政と一時別れていた王宮側の一団が口元を嘔吐物で汚して顔色が悪い女性を肩から支えながら館に入ってきた。
「っぷはぁ! は、放せぇ! こんなんでも宮女なんだから表沙汰になればそっちこそがまずくなるわ…!?」
「…ううっぷぅ…う、うぅ…また食欲に負けて神に背く真似をぉ…え…??」
そこで、白漂側一団に縛られた状態ながらようやく猿轡を外せた女性と、嬴政側一団に介抱されながら連れられてきた女性は互いの存在に気付いて、キョトンとした表情を向け合った。
「「………お、同じ顔…????」」
「「「「「???????????????」」」」」
「「…………………」」
人違いで王宮側要員に介抱されているマルタと白漂側要員に拘束されている球泰が困惑で呆けたのに対し、事態に追い付けていない他の面子は頭に疑問符が浮かび、嬴政と白漂は事態を大まかながら察して乾いた表情を浮かべた。
遂にFGOで名を馳せたヤンキー聖女(由来キャラである)ツインズが邂逅してしまいました。
次回はこの二人に絡めつつ、先の展望にも関わる話が出る予定です。