※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は真面目な話の間に挟んだギャグパートは、銀の匙及びに現実のアフリカ砂漠地帯での緑化活動の内容のパロディになっています。
それと、今回は例のアンケート(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=280174&uid=48501)で寄せられたキャラ(が元ネタである女の子)がまた一人登場します。


127 先端技術は真面目には見えないものもある●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国東北部 毐国 首都太原 宮殿○

 

 羌瘣が夢で嫌な予感を覚えてから数週間後、秦国内における最大の内政問題と化してしまっている毐国では、国主嫪毐が朝廷に集って沸き立っている家臣達を以前に比べて冷静な表情で見つつもここまでに至る経緯を思い返していた。

 

(…幼少期は身が大きいだけで力は無くて頭も悪いで虐められ、成人しても勇気が無くて戦場に行かず、父の人脈で下級文官にはなれたが、そこでの仕事と言えば精々強靭な男根を車軸代わりにして車輪を回すという下品な芸での接待くらいしかなかった私が…王座に押し上げられようとしているなど…)

 

 そして、嫪毐の回想はやがてその下品な芸の為に呂不韋に目を付けられたことに行きつく。

 

(…その事であろうことか偽宦官として送り込まれた咸陽の後宮で…、何と太后様専属の男娼にあてがわれることとなってしまった。初めは鬼のように肉欲で荒れ狂うあの方が恐ろしかった…。だが、何度かその最中に見せて貰えた涙で…底知れない深い傷が未だに塞がらない方であることに気付いてしまった…。そして、私なりに少しでもその傷を癒そうと頑張っていたら…あの子達が…、それで太后様は自ら逃げ道を塞がれてしまった…)

 

 そして、その時に見た太后の肉欲や権力欲などとは無縁の健やかな笑みを思い出した時、嫪毐は自身の目に涙が生じている事に気付いてそれを拭う。

 

(…違う、逃げ道を捨てようとしたのではなく…ようやく前を向いて安らぎを探すことが出来るようになったのだ。この国もまたそのために…私はその事を忘れるべきではなかったのだ…! もう2度と…あの方が悲しまれぬために…!!)

 

 そこまで思い出して気付いた嫪毐はこれまで見せた事のない毅然とした表情で玉座より立ち上がる。

 

「…皆の衆! それ以上の軽挙妄動は慎め! 特に“王”という言葉を唱える事は禁じる!!」

「な…!?」

「ろ、嫪毐様…?」

 

 その愚鈍で流されるしかない男という印象しか抱けなかった嫪毐の急な変化に臣下達は驚く。

 

「どういう事だ虎歴? 私が此処に来るのは初めてだが話に聞いていたのとは少々違うぞ?」

 

 戸惑っている家臣の中に混じる武官の一人が疑問を呈するが、聞かれた大臣の一人である虎歴は余裕綽々とした表情で返答する。

 

「…大丈夫だ。向こうが如何に“開戦”を避けようとしても、既に咸陽から動き出すような事態になれば…切れる頭で実権を握っている太后の方から立ち上がる」

 

 そして、虎歴は余裕を崩さない表情で王座に向けて歩み出した。

 

 

 

 

 

 ○秦国北部 某開拓地○

 

「…何と…ここにある全ての耕地が向こうまで砂漠だったのですか…」

 

 毐国で再び不穏な事態が進もうとしていた頃、紅華達は領内慰撫や友誼を結ぶ諸族及び諸侯への親善も兼ねて秦国北部の砂漠オアシス地帯を視察して回っていたが、それに今回加わっている姫昭は感嘆の表情を浮かべていた。

 

「はい、農事に詳しい堅陽の方々と技術交換で得た農業技術と、西方から由来した灌漑技術を用いて実験的に始めたものです。何年もかかりましたが今ではあそこまで…」

 

 後代における環境破壊で拡大したゴビ砂漠程ではないものの、その萌芽ともいえる秦北西部の乾燥地帯は広大な砂漠が広がっていたが、現地の役人が案内しているその地は無数に伸ばされた用水路に沿うようにして広い耕地が誕生していて、今現在も拡張中の所が目立っていた。

 

「二人とも、ここで取れたナツメヤシの実を用いた豆花が出来たぞ。味見してみてくれ」

 

 紅華達が泊まってオアシス地帯を眺めている宿場町の旅館の高楼には厨房もあり、そこで藍蘭が菓子を作ったりもしていた。

 

「…美味しいですね。しかし…このような不毛の砂漠が…どうやってこのような緑地に生まれ変わったのでしょうか…? 韓や西域から優れた灌漑技師が来ているのは聞いていますが…?」

 

 それに口を付けつつも疑問を口にした姫昭の顔に、小さな羽蟻が飛びついて来て彼女に怪訝な顔をさせた。

 

「…またシロアリが…この辺りは多いですね…」

「あ、来たぞ。この地に緑を広げた立役者の一角が」

「…え?」

 

 うっとうしそうな表情を浮かべる姫昭だが藍蘭の言葉でそれは戸惑いのそれに変わった。

 

「どういう事ですか? シロアリがこの辺りの耕地の立役者だなんて…?」

「私もいまだに信じられない面もあるが、堅陽から来た農学者曰く、まずは水路作りと並行して町や牧場などで出たこの種のシロアリが好みそうなものを広範囲に撒いてシロアリを住まわせる。そうするとシロアリは撒かれたそれを食しながら巣を広げてそれを下の土や砂にまで広げていく。そうすると砂漠でも水が溜まりやすくて蒸発しにくい箇所が多く出来て緑が育ちやすくなるらしい」

「あれ? 今度は緑地の一角が網で囲まれてその中に牛馬や羊が…?」

 

 藍蘭の説明を聞きつつも姫昭は自身が知る農作業にはないその作業に気付き、それも絡めて説明は続けられる。

 

「あれは契約した遊牧民が収穫の終わった所の作物及びに雑草を食わせている作業だよ。ああすることで閉じ込められた何週間か食っちゃ寝していると土地は肥えていって来年以降に育てられる作物の栄養になるらしい。私も聞いた時は信じられなかったが、旦那が友人のいるという堅陽に送ってもらった農学者の教導通りにしたら実際に故郷みたいに肥えた村が砂漠の中で星々みたいに点々と生まれ行く様を目にしたら疑うことが無くなった」

「…この国に来てから世にはまだ世に広まるべきなのに広まってない技や知恵があることを何度も知らされますね…ん?」

 

 藍蘭の解説の途中で、姫昭は自分達が食事をしている高楼の下をやけに臭う瓶や桶を幾つも載せた馬車が通ってきている事に気付く。

 

「…藍蘭さん、あの荷の中身はいったい?」

「ああ、あれは先に言ったシロアリの餌や住処となる…私達や家畜の下半身から共通して出るア(・)レ(・)を満載したものだ」

「…アレ…? アレって…まさか…あ、いや…いったい…?」

 

 その荷に嫌な予感を覚えて何かに気付きそうになるも、感情からそうであってほしくないと願う姫昭であったが、中華十弓の一人から弓矢も鍛えられた彼女の視力は、適当な耕地にその馬車を引き連れた引手が荷である桶の一つを執り出してその中身を撒くように砂地や緑地に被せた事で結論に至る。

 

「藍蘭さん…アレって…まさかとは思いますけど…まさか―――!?」

「近くの町や村の畜舎や厠から組み上げて集めてきた糞尿だな。あれが此処のシロアリたちの餌や住処となって今この砂漠に広がる緑地の元になる。網で囲っている場所で家畜とかに草を食わせているのも同じ理由だ。ああすれば雑草を処分しながら消化しきれずに糞尿に混じった種は普通に植えるよりも育ちが良くなるのは証明されて…」

「―――あってぶふううぅぅ!!??」

 

 そして、縋る様な想いを抱く姫昭は藍蘭の真顔での解説で止めを刺され、彼女は口からこの地で取れたデーツ使用菓子を勢いよく噴出し、その勢いで後頭部を床に打ち付ける勢いで倒れた。

 

「…って吐くまで驚くようなことか?」

「よ、要するに…ここの人々は糞尿で作物を育てていると…!?」

 

 姫昭は嘔吐で汚れた自身の口元を拭きながらショックからくる驚きで問いを放つ。

 この時代の中華は世界でも有数の農業地帯で、環境破壊が進んだ別時間軸後代と違い姫昭が長らく暮らしていたこの時間軸の趙国も肥沃な黄土が広範囲に広がっているので、肥料を与える、特に糞尿をそれに用いるという思考自体が無かったことから、白漂面子に影響されてオーバーリアクションなのを除けば驚くのは無理のないことである。

 

「せ、戦場では疫病の原因になるからと敵味方問わず死体は埋葬するよう規定されてるのに…!?」

「だからこそ水路も高低差を利用して飲水用と洗濯・洗浄用と農業用水用途に分けているんだろ。栄養を仕込んだ土壌で且つ綺麗な水で洗っているから果物なんかは生でもいけるぞ」

「…そ、それはですが…!?」

 

 文化や技術の違いからくる価値観の相違で姫昭が安心アピールされても抵抗感を示そうとするが、そこで旅館がある集落の外れより喧騒の音が割り込んできた。

 

「ん? どうしたの庶徐?」

「どうやらーここの昔からあった集落と昨年に出来た新しい集落の間で用水路の使用権巡って住民達が喧嘩してるみたいですよー」

「あー、面倒くさいけどここの主な仕事が来た」

「…え…?」

「利権争いの仲裁よ」

「…えぇ!?」

 

 武器などは用いられてはいないが、少なくない人数で喧嘩が起きてるそのもめ事の場に顔を向けて身重の身を立ち上がらせた紅華に、姫昭はギョッとした表情を浮かべていた。

 

「…へー、あれが瘣ねえをこました白漂って奴の女共かぁ、ここの何処かに連れてきているあの一番偉そうな女のガキを北の雇い主に連れて行けばいい手土産になるか…」

 

 その紅華を盗み見ている、面貌は整ってはいるが深い翳を宿した笑みを浮かべている少女がいた。

 少女が来ている衣服は赤を基調とした民族衣装で、この地を管轄している白漂軍に属しているある人物のそれと酷似していた。

 

 

 

 

 

 ○秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領内中心部 某所○

 

「…へっきし! この時期は朔方も寒いが、匈奴(ヒョンナ)の奥地はそれにも増して酷いな…」

 

 紅華の周囲でも不穏な動きが生じていた頃、外交の為に雪が降り積もっている山道を進んでいる白漂一行に属している羌瘣がクシャミをしながら愚痴っていた。

 

「あまり喚いてばかりいると却って消耗するぞ皆、そろそろ北の都が見えてくるぞ」

 

 そうした面子が多い中で、幼少期は人質として匈奴(ヒョンナ)の領内にいた頃もあるので案内人を務めている紅武は叱咤する。

 

「そう言えば匈奴(ヒョンナ)の領内にここまで深く入るのも初めてですから、彼らの都を見るのも初めてですけど…どのような都なのです?」

「そうだな、さすがに規模自体は咸陽や臨淄には劣るが…お、もう見えてくるぞ…」

 

 それ故に何人かからそうした質問が投げかけられるが、紅武がそれへ律義に解説を繰り返そうとしたところで、山道の終わりが見えてきた。

 

「…これが北の民の都か…」

 

 紅武に続いて山道の終わりに着いた白漂は、直ぐに到着した後続ほどのどよめきを示してはいないが素直に感嘆を覚えた双眸をその都へ向けていた。

 山道から抜けた先には平野が広がっており、その向こうには山脈が広がっていてその中腹部に階段状の大都市が築かれていて、それに面した片側には水平線すら見えるまでに広大な湖が広がっていて湖上には船が行き交っており、白漂達から見てそれらで縦で逆にしたL字状に挟まれた平地には、今こそ冬季なので雪が積もってはいるが中華の民からすれば信じられない事に畑地が広大に広がっていた。

 

「…あ、あれが…匈奴(ヒョンナ)の都…“龍城”……!?」

 

 その予想外を突かれた秦側の面子の中に、正体が周囲に発覚してはいなかったが何故か李牧の側近の一人であるカイネの姿も馬借に混じった状態でいた。

 

 

 

 

 

 ○十日前 秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領 某所○

 

「…はあ、まさか龍城まであと一週間というところでこんな大雪に出くわすとはなぁ…」

 

 そもそもの始まりは十日前のこと、白漂達は匈奴領内のある場所で急な豪雪に見舞われたので野営に入った事にあった。

 

(…くそ! まさかあの口元覆面馬鹿がどさくさまぐれで身をまさぐってきたからそれを殴り飛ばしたら、勢いが悪くてあいつが雪山の斜面を転げ落ちていって行方不明になったりするもんだからそれを探しに行ったら大雪に出くわして…この洞窟に入ってやり過ごそうとしていたらその間にまさか周囲で秦軍が野営地を築いているなんて…!!)

 

 ちなみに、その白漂軍野営地のど真ん中には一つの洞窟がある小山があったが、その中には先日にて楚から燕経由で趙に戻って今は匈奴(ヒョンナ)領内にある任務で侵入している密入国者一団である李牧派の一党に属しているカイネが隠れていた。

 

(とりあえず連中が立ち去るまでは隠れていないと―――)

「…グルルルル…!!」

「―――お…え…!?」

 

 だが、カイネが洞窟の入り口付近内側より外の秦軍を盗み見ていたところ、同じ洞窟で冬眠していたらしい熊が目を覚まして彼女に背後から忍び寄ってきていた。

 

「…ぶへーっきし! 義兄さーん、寒さに弱そうだった馬の子を此処に入れて良いかなー? 他が埋まっちゃってるの」

「うん、いいよー」

 

 同じ頃、白漂がいる大型ゲルに赤毛ショートが特徴的でアジア系とゲルマン系どちらの血筋も感じさせる少女紅春が馬を連れて入ってきた。

 紅春は紅華の同母妹で、姉同様に剣術に長けていることから既に初陣を済ませた身で今回の交渉団一行に加わっている身であった。

 

「次は東側の犬達も見た方が良いかし―――」

「ああああああ!!?」

「―――ら…?」

 

 馬と我が身に着いた雪を払い落としてゲルに入った所で、紅春の鼓膜を近場から響いてきた女性の悲鳴が震わせてきた。

 

「…え、何が起きてるんだ!?」

 

 白漂がその悲鳴に釣られて大型ゲルの外に出ると、近くに見える小山の洞窟の手前にてカイネと、彼女の衣服の裾に噛みついてそれを基軸に振り回している大熊の姿があった。

 

「あ、誰か雄の熊に襲われてる。でもなんか何処かで見たことあるような…?」

「紅春、そんなのんきに評してる場合じゃない。誰かは知らないけど助けよう。近くのゲルに羌瘣がいるから熊鍋を餌にして連れてきて」

「了解ー」

 

 それを白漂達に発見されて数十秒後、カイネは熊に振り回されつつもそれ以上の人型猛獣達によって何とか意識不明ながら五体満足にて保護された。

 

「…そういうわけで、熊に噛まれたり引っかかれたりはしていますが五体満足で一命は取りとめました。今は安静にして意識が戻るのを待つだけです」

 

 それから数十分後、医療班ゲルで全身を全身に巻かれつつもどうにか山場を越せたカイネを一人の医療兵が評し終えていた。

 この時代の女性にしては高い160センチ台半ばの長躯は竜騎所属を示す甲冑の上からでも女性らしい豊満さと戦者としての筋骨の両立が成された凹凸を示し、緋色の赤い瞳と長い三つ編みにされた薄桜色がかった銀髪で、幻想感を感じさせる無表情ながらも強靭な意志を感じさせるコーカソイド系の美貌をしていた。

 

「ありがとうナイチンゲール、こんな猛吹雪でも外で剣戟振り回してて熱出した馬鹿数名を治療し終えてようやく眠れるところを起こしたのに」

「構いません。これも職務の範疇ですから」

 

 河了貂の感謝に対しても無表情を保ったままのその医療兵の名はナイチンゲール。

 扁鵲の優秀な弟子の一人で、医療班の竜騎隊所属隊員の責任者で白漂の主治医でもある(別に白漂が持病持ちというわけではなく、彼が負傷した場合の担当が彼女なだけという意味である)。

 白漂含めて数人しか知らないが、どうやら幼少期は白漂の前世における故国の隣国の戦災孤児で、保護されたそこでもテロ行為の爆発に巻き込まれて気付けばこの時代の中華の何処かに流れ着いており、扁鵲に保護された後に白漂とも知己になった間柄である。

 

「でもさあ、傷からして結構高い医薬品も使ったでしょ?」

「ご安心を、治療費はこの子が目覚めた後でここで暫く働いてもらってでも支払えるようにする所存です」

「やっぱりそうですかい…」

「……う…うぐ…」

 

 但し、その影響で医者としての性分を備えてはいるが、それと同等に強い経済観念の持ち主でもあり、それを近場で示されたカイネは意識不明ながら嫌な予感を感じて身をビクッと震わせた。




如何にか助かりましたけど、それ以上にヤバい所に保護されましたねあの子…。
次回は北の都を中心に各勢力の裏での胎動が描かれる予定です。
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