※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回も他作品系パロディを挟みつつ、ある人物の素性からくる怨恨の再燃と、加速する策謀が描かれています。
それらに尺を取られているので大人向けシーンは質量ともに微です。


128 翳が重なると闇は濃くなる

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領中心部 首都龍城○

 

「…すげえ、朔方城をよりデカくして立派にしたような街だぜ…」

 

 ある時間軸の歴史では、まだこの時代の北の諸民族に関する通説ではないはずのその大都市の大通りを進む秦側使節団の中で、郭巨丙が関心の声を上げていた。

 

「…でもなんか、結構な割合でもう使われなくなって時間が経ってる空き家が目立つな…」

「まあ、それを後押ししたのには僕達もいるからね…」

 

 単于家の交代に伴う不和の発生、李牧による雁門での大敗、その後に続いた白漂中心の秦や燕による引き抜き工作で、匈奴(ヒョンナ)の衰退の深刻さは城内からも見て取れていた。

 

(まあ、これなら向こうとの交渉も悪くはいかないじゃろう。これまでの林涼(林胡の事。胡は悪字なので秦ではこちらに変更された)や東涼(東胡の事。先に同じ)との付き合いでの蓄積も考慮すれば難しくないか…?)

 

 先頭を行く面子の一人である里甲は別の意味で安堵を覚えるが、その前を進んでいる白漂の顔に複雑な色が浮かんでいる事に気付く。

 

(…思ってみれば、ここの人達はこっちから狄戎とか勝手な呼び名を付けられてるけど…、政達とでこっちがやろうとしてる事を…こっちよりも大幅に早く北の大地で実現してきたのに…、こっちの都合でしっちゃかめっちゃかになったのもあるんだよなぁ…)

 

 白漂の考察通り、この時間軸における北部世界は中華圏との国境争いや各民族間での牧草地の小規模な揉め事を除けば、匈奴(ヒョンナ)を中心に北方遊牧民社会全体で安定した平穏を長期間続けられていたのだ。

 

『…ドレゲネ様、例の秦からの大将軍兼全権大使も務める朔方侯が…』

 

 ちなみに、その思考はともかく白漂達の姿は龍城の上部にある王城の望楼に集まっている匈奴(ヒョンナ)の要人達も確認していた。

 

『そうか、あの男が例の…(くそ、あの者の顔立ち…あの忌々しいをあの女を思い出す…だが、何故じゃ…?)』

「………………」

 

 その視線に勘付いてか、整いつつも影を帯びて悩ましい表情をした面貌とその特徴的な赤紫色の髪を覆面で隠している綴が、懐かしさと敬遠に嫌悪が混ざり合った瞳を王城へ向けていた。

 

 

 

 

 

 ○秦国北部 某開拓地○

 

「…ふーー、ここまで動いたのは久々ねぇ。皆ーここでの利益の味がしめたばかりの村ばかりだから抑え込むのに苦労したわ…」

 

 白漂達が入場した匈奴(ヒョンナ)の都に各々の思いを抱いていた頃、夕暮れで赤く染まった砂漠地帯にある旅館に戻った紅華は汗を多く書きつつも疲労というより颯爽とした表情を浮かべていた。

 

「…お、お腹が膨らんでいる状態であそこまで各集落を走り回るなんて…紅華様は逞しすぎます…。というか何カ所かもう乱闘で百人くらい相手に棍を振り回していたような…」

 

 一方、戦場に立てる身ではあるが基本貴族育ちで尚且つ妊婦である姫昭はくたくたで、同じ妊婦の身なのにまだまだぴんぴんしている感じの紅華達に畏敬を込めた眼差しを向けていた。

 

「皆さん、まかないが出来ました。まかないと言ってもここの食材のあまりもので出来たものですが…」

 

 そんなところで同じ妊婦の杏橋が親子丼を持ってきた。

 

「…ああ、杏橋さんありがとうございま…ぁ、そう言えばこの料理…原材料は…?」

 

 その丼物をありがたく受け取った姫昭だが、黄金色に輝く卵と肉を見て何か嫌な予感を覚えて自ずと口が動いた。

 

「それは無論ここで取れた鶏とそれが産んだ卵ですが?」

「その卵って…何処から生まれるんですか?」

「? 普通に肛門ですがそれが何か?」

「!!!??」

 

 それに対する杏橋の何気ない答えが姫昭から一瞬で思考と同さを奪い去った。

 

「……………ふ、糞尿で育った作物の次は…糞と同じところから生まれた卵って……!?」

「だから皆さん食べたり売ったりする前に洗ってるんですよー。ほら、こんなにピカピカ」

「そ、それでも…ぁ…」

 

 庶徐がテカって光っている卵を見せつけ、却ってそれがギャップを齎して姫昭の口元は過去のトラウマにも押されて強張り続けるようとするも、そこで昼間の調停(という名の乱闘)で酷使された彼女の身が腹の音を盛大に鳴らした。

 

「…ぅ…うぐ………」

 

 途端に、姫昭の手にもたれたままの丼の表面が黄金色に輝いているように見えて彼女の食欲を大いに掻き立て、それでも一抹の抵抗感が震えとなって押しとどめようとしていた所で止めが刺された。

 

「…はー、トロトロの熱い卵が舌の上で甘く蕩けてぷりぷりの鶏肉がこれはやっぱり良いわね~」

 

 姫昭が葛藤している間に、彼女らの見本であるべき紅華が一際大きい丼を空の状態で机上にドンと置き、口元に着いた汁っ気を拭き始めた姿が彼女にダメ出しとなった。

 

「! ガツガツガツガツガツガツガツガツ!!」

 

 姫昭のタガが外れた食欲は普段の作法や気品さも彼女から奪い去り、飢え切った豚の如き勢いで彼女の口内へ丼の中身を送り込んでいく。

 

(…色々意味で懐かしいわね。昔の私もこうだったかしら…ここの空気による汚染が進んでるわ…)

(…あぁ、私の姫昭が…あんな気品のかけらもない姿に…負の記憶があんな形で薄れるなんて…)

 

 その光景に分家ながら名門の生まれで実家の没落後に妓楼へ拾われていた間も芸妓だけで済まされていた王京は微妙な懐かしさを覚え、柱の影より見守っていた参宜正はシメジメと裾を濡らし始めた。

 

 

 

 

 

 ○秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領中心部 首都龍城○

 

「…ん? 何かな? 急に皆の顔が浮かんだけど…おう!?」

 

 姫昭にカルチャーショックの嵐を叩き付けた秦北部の砂漠を赤く染めていた夕日も沈んだばかりの頃、そこよりも更に北に位置する匈奴(ヒョンナ)の都にて、白漂が彼女達の顔が自身の脳裏で急に浮かび上がった事を怪訝に思うが、その最中に下半身のある穴から痛みを覚えた。

 

「検診に集中してください。貴方の丈夫さは知っていますが何物も不測の事態とは縁を切れないものです」

 

 ちなみにその白漂を注意してきたのがナイチンゲールだが、その彼女は彼の真後ろに膝立ちとなっていて、足元には彼のボトムと下穿きが脱ぎ降ろされていた。

 現在、白漂はナイチンゲールによる目的地到着後の健康診断の一環で腸の検査を受けさせられていたのだ。

 

「…ナ、ナイチンゲール…け、健康診断が必要なのはわかるけどさ…ほ、本当にここまでする必要があるわけ…おほぉ!?」

「必要です。便を見れば内臓の良し悪しは大きくわかります。ふむ…これくらい取れれば十分ですね…」

 

 目的は前世の知識から理解できつつも、それを抜きにしても羞恥プレイを掛けられているかの如き心境の白漂はナイチンゲールに哀願を示すが、彼女は彼の肛門に一切嫌悪感を示さぬまま綿棒らしきものを捻じ込んで、その腸内の粘膜や中身を必要量採取して顕微鏡に掛け始めた。

 

「…異常というほどではりませんが、悪玉菌が通常よりも多いですね。明日の食事にはあれを多めにとった方が…ああ、それと検尿の準備をお忘れなく…」

「はいはい」

 

 相手が主君でも機械的にその診断を進めていくナイチンゲールに、白漂は臨床試験に掛けられた被験者の如き心境を味わいつつも素直に従った。

 

「…はい、これで終了ですね。後は…ふぅ…」

 

 通常の診断業務が終えると、ナイチンゲールは無表情のままながらその頬に薄っすらとした朱色が浮かび上がった。

 

「君も何だかんだで溜まってるじゃない」

「…半分焼け石に水となっている状態ですが、やらないよりかは貴方の色欲の犠牲者やそれを狙う面倒事を減らすことにもつながりますか―――?」

 

 それに白漂がにやけた笑みを返してナイチンゲールが無表情を保ちつつも紅潮を増そうとしたその時、窓の向こう側より赤い揺らめく光が立ち上った。

 

「―――あれは…?」

「ちょっと様子がおかしい。僕たちが泊めさせてもらってる宿泊所の近くみたいだから見に行こう」

「………む…はい」

 

 一応大将軍だけあってその辺の切り替えは早い白漂に対し、何だかんだで心身共に期待を秘かに高めていたナイチンゲールは一応了承しつつも不満げに眉を八の字にした。

 

『うわー!』

『弓矢と槍持ってこい!』

『女子供を逃がせー!』

 

 白漂達が仮設診療所を出た頃、彼らが気付いた赤い光の源である大火で龍城の畜舎の一つが燃え盛り、それに乗じて捕えられていた猛獣などが逃げ出して人々を恐怖に駆り立てていた。

 

「きゃあぁ!?」

「シッ!!」

「ゴバア!?」

 

 今も逃げ遅れそうになった少女が逃げ出した熊の一匹に襲われようとしたが、寸前の所で現れたミナイの細身に似合わる剛力を宿した足蹴りで熊が片頬を骨ごと蹴り砕かれたことで助かった。

 

「何だこの騒ぎは!? 何が起きた!?」

 

 その直後に白漂達もまた現場に駆けつけてきた。

 

「そ、それがまだ原因不明ですがこの都の畜舎の一つであるここで大火事が起きてそれに乗じて猛獣が多数逃げ出したようで―――」

「!!」

「ギャオオオオ!?」、

「―――えってウオオオ!?」

 

 気付いた部下の一人が報告しようとしたその最中に、物陰に隠れ潜んでいた脱走中の虎が襲い掛かろうとしてきたものの、白漂がその場にあった槍を蹴り飛ばして虎の口腔に打ち込んで絶命させたことで事なきを得た。

 

「な、何だかんだで凄い!?」

「孤児時代に金に困ったときは薬や毛皮の売り上げにするために近くにいた熊を罠込みながら退治したりしたことが何度かありましたからね―――?」

「「「「「ガアアアァアア」」」」」

 

 それに感嘆している部下にナイチンゲールが回想を一つ口ずさんだところ、今度は闇夜の中より複数の女将が彼女目掛けて襲い掛かってきた。

 

「―――ぇ…ッ!」

「「「「「!!??」」」」」

 

 それに対しナイチンゲールは一瞬驚きこそすれ慌てず、即座に長裾に隠している手首装着型射出暗器で毒針を射出し、それらを狼たちの口内に撃ち込んで悲鳴を上げる間もなく気絶させた。

 

「…本当に…あの人たち…本当に女か―――」

「どうありゃーーーーー!!!!」

「「「「「ギャイイイイイイ!!??」」」」」

「―――あ…!?」

 

 それに場にいた白漂兵達が見慣れた風にしつつも微妙な表情を浮かべた直後、彼らの背後を大きな車が最近のある出来事で印象に残っている声と共に飛び抜けて、残りの猛獣達を背後の城壁とで挟み撃ちにして一網打尽にしてしまった。

 

「何だこりゃあ!? 何時からここはローマとかから流れて来た連中の闘技場みたいになってんだ!?」

 

 車を投げ飛ばしてきて複数の猛獣を沈めてしまったその人物は、燕川の(一応)代表である梁魁だった。

 

「あ、あれは燕国の!? 様子からして今晩さっきに到着してきたのか!?」

 

 どうやら猛獣達に止めの一撃を入れた点からして燕側の交渉団も到着したようであった。

 

「おー! お前らが先についてたかアシェリートさんのガキンチョー!」

「いや、そんな呼び方されてもピンとこないんですけど…?」

 

 ずけずけと馴れ馴れしい感じで近寄ってくる梁魁に白漂は暑苦しさを覚えたが、その直後に陰鬱で深い殺気が自身に向けられている事に気付く。

 

(そ、そうか…あ…あの…アシェリート…の…息子だと…!?)

 

 その時、畜舎の暗闇の中より護衛に守られつつも猛獣鎮圧の場面を盗み見ていた、匈奴(ヒョンナ)で実質的な現最高権力者であるドレゲネの歪んだ笑みこそがその根源であるなど、白漂はこの時点で気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

 ○秦国東北部 毐国 首都太原 宮殿○

 

「…くそぉぉ! まさか事態がここまで深刻とは…!」

「直ぐに咸陽は我らに対して討伐軍を放って来るぞ!」

 

 北の大地の中心が新たな嵐の目へ育ちつつあった時、秦国内で争乱の目になりつつある太源で、その動きを加速させかねない極秘会議が行われていた。

 

「くそ! まさか“後宮の禁”が破られていて更に“隠し王子”と“隠し王女”が生まれていたとは…!!」

 

 国主嫪毐が偽宦官であること、さらに同地へ移住した秦国太后との間に隠し子を二人設けていたことを知らされたためだ。

 更に同国大臣虎歴の口から、これらの事が咸陽に知られたためにいずれは討伐軍が送られて来るだろうと催促されていたので強硬論が強まり続けていた。

 

「ま、待て! まだ咸陽に知られたという証拠はない! 先ずは使者なり間者なり送って確かめねば…」

「そ、それにまだ罪になると決まったわけでも…」

 

 それはと相反する穏健派もまた口を開いていたが、その口調は勢いが無くて数も少なく、却って強硬派の勢いを更に強めていく。

 

「宣大公の時とは時代が違うぞ! 列国で上位に君臨するこの秦でそのような不義が昔同様に押し通されるわけが無かろうが!」

「そうだ! 例え現行法違反にならずとも災厄の種になると目して理由をこじ付けて攻めて来るに決まっておる!!」

「う、うぐ…」

「それは…」

 

 そこで今宵の会議に主催者である虎歴が口を開く。

 

「まあ良い、そのように切羽詰まった顔を見せるでない。幸いにも状況は我らにとって都合が良い」

「つ、都合が良いと!?」

「ど、どういう意味だ?」

 

 その余裕綽々とした態度に周囲は戸惑いつつも注目を向けていき、一同の意識が向けられている虎歴はより確信を感じさせる笑みで言葉を続けていく。

 

「我々の手で咸(・)陽(・)を(・)攻(・)め(・)落(・)と(・)す(・)という意味ではだ」

「「「「「!!!!!!???」」」」」

 

 その虎歴の余裕綽々とした態度からは想像できない妄想に等しいと思わせる宣言に、場にいた者達は派閥問わず沈黙に陥る。

 

「…ば、馬鹿な事を言うな! 五国の精兵が結集した合従軍でも函谷関を抜くことは出来なかったのだぞ! 我々が動かせるのはせいぜいその十分の一前後が限界だ! それだけでは咸陽に近づくことも出来んではないか!!」

 

 沈黙を破って出たもっともな抗弁にも虎歴は余裕を崩さない。

 

「逆だ。咸陽を攻め落とすには今この状況しかないのだ」

「ど、どういう意味だ?」

「今現在、咸陽を始めとする秦中枢には大軍は存在していない。南方では侵攻を開始した楚軍に対処するため蒙武・堅陽といった強軍を動員している。東部軍は対魏方面に騰を中心として向かわされており、桓騎軍は韓侵攻、趙には王翦軍が当てられていて主力を含め大軍は国境に向けられていて離れられん状況だ」

「そ、それは…」

「先の合従軍では列国の目的が秦滅亡に有ったので咸陽も全主力を函谷関に回すことが出来た。だが、今回の状況は列国の思惑が一致せずに個別に動いているので、秦側も個別に対処せねばならず、逆に今や咸陽は手薄も同然」

「おお! それなら確かにやれ…」

「馬鹿が! 北の白漂軍はどうする!? 先の対匈奴戦から蕞への進軍速度を見れば我々が兵を上げればすぐに押し寄せてくるぞ!!」

「た、確かに…」

 

 途中でも反論は続くが、その意見が出た所で虎歴の口元は更に大きく歪む。

 

「それこそが一番心配ご無用。近日中にその白漂本人は秦には居れなくなる」

「「「「「………はい????」」」」」

 

 この地で一番の軍事的脅威に対する虎歴の対案に、彼以外の周囲からは驚きを通り越して呆けた反応が出るが、それを見越していた虎歴は言葉を続けた。

 

「…おお! それは真かぁ!」

「やれる! それならやれるぞぉ!」

「直ぐに太后様と国主様に上奏して実行に移さねば!!」

 

 説明が終わると周囲の大半を起死回生の策を見つけた喜色を見せるが、大幅に減った穏健派は尚もすがるような様子でしどろもどろに尋ねる。

 

「…も、もし…あのお二方がご了承せねばどうするつもりだ?」

「…そうなれば、我がお屋敷に案内する予定のお子様二人とあのお二方には…咸陽に身を持って許しを乞うてもらうだけよ」

「「「「「…!!」」」」」

「それでお主らはどうする?」

「「「「「………………」」」」」

 

 それに対する虎歴の情も忠も溝に捨てた酷薄な言葉に、少数派もここで自らの逃げ場とてこの男によって既に立たれている事を悟り、無言で肯くほかなかった。




遂に原作の第一部最終章の加速が始まりました。
次回はある人物の過去回想に始まって、再び北の大地に焦点が戻る予定です。
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