原作との違いも含めてどうなるか…書いてる身の私も含めて気になる流れです。
○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国中央部 渭水 河川上○
「1万と見込まれていた叛乱軍が5万!?」
白漂が謎の墨意匠の遊説家に誘惑されるもそれを寝込みで躱し(?)、雍で昌平君が呂不韋やその派閥の者達を驚かせる行動をとっていた頃、渭水を渡河していた飛信隊は合流した南道捻出討伐軍から叛乱軍の規模を聞いて驚いていた。
「はい! しかも函谷関も何らかの詐術で戦うことなく通過したようで…それを聞いて我々も編成は道中しながらに変更してこうして渡河を急いでいる状況なのです」
「現在集まっているこちらの兵はそちらも含めて3万人強、更に武関近くからも募ってはいるのですが間に合うかどうか…」
「信、そういう事らしいわよ…って聞いてないわね、これ…」
その予断を許さない状況の強まりにステラが注意喚起しようとするも、当の信は船首に立って楽しそうな表情を浮かべていた。
「…いずれはこっちも水軍乗って水上戦するようになんだろうな」
「今回ので勝てばね」
「勝てばじゃねえ、勝つんだよ。何が何でも政を勝たせて秦を一纏めにしてな!」
「ええ、そうねー…!?」
だが、平常運転な士気の高さを見せる信に、ステラが呆れ顔から微笑みに切り替わろうとしたその時、彼女の高い視力は北側対岸に味方のものではない砂塵が近づきだしたのを見た。
「ふん! 呂不韋めが3万も討伐軍を用意されるなどしくじりおって…! まぁよいわ、ここで全船沈めて魚の餌にせい!!」
「「「「「ハハァ!!」」」」」
討伐軍が出陣したのを聞いた毐軍から分離してきて、ここで足止めすべく駆けつけてきた戎籊公ワテギ率いる1万の戎籊軍であった。
「やべえ! 先に対岸に着いてた連中が次々と囲まれて潰されちまっていってる!」
「こっちが船だからって何も変わらねえ! いつも通り強行突破だ!!」
対岸から上がる怒号と悲鳴に続けて、信の激励で討伐軍全体の士気もまた上がりだした。
「ぐあああ!?」
「馬鹿め! 高所の利はこちらにある!l」
「全員叩き落として魚の餌にしてやれい!」
だが、信達が猛烈な勢いで近づいている間も、河岸を抑えた戎籊軍によって先に上陸しようとしていた討伐軍兵士達が迎撃されていっていた。
「くそ! 盾兵で川岸の高所をしっかり押さえられちまってる!」
「ちょっと信、耳貸して……………」
「…! 皆ぁ! 飛信隊が先陣を切り開く! 他は盾を構えて川岸近くでいつでも上陸できるように待て!!」
「「「「「ハ、ハァァ!!」」」」」
ステラの策を聞き入れた信の号令で討伐軍もまたそれへの対処で大きく動き出していく。
「んん!? あ奴ら水上で錘行陣でも張ったつもりかぁ! 者共ぉぉ! あそこに矢を集中させろぉ!!」
その動きは戎籊軍にも見えて彼らは哄笑を強めながらも矢を集中させていくが、それは次第に戸惑いの色を帯びていく。
「た、隊長! 向こうの盾の多くにこちらの矢の殆どが弾かれます!」
「あったり前だバーロー!
「あ、兄貴ぃ! まだ矢の雨が続いてるから顔出しちゃ駄目だ!」
「尾到さんも頭出そうになってるよぉ!」
「ええい! 怯むなぁ! 一旦矢は止めて川岸までおびき寄せろぉ! 上陸した際に盾に隙間が出来た所を射抜け…!?」
それに苛立ちつつも戎籊軍の指揮官が対処しようとするが、彼らが一旦斉射を止めて再び弓を引き搾ったその時、船頭が河岸に付いた飛信隊が盾を即座に降ろすと予想だにしない姿を目にした。
「ごめん遊ばせ♪ 新型弩の普及率も
そう言うステラと共に小型化と軽量化及び装填速度が向上してる弩を構える飛信隊の姿で、それに虚を突かれた戎籊軍が矢を放つ前に彼らは引き金を引いた。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアァアアアア!!!?」」」」」
「今だ! 行くぞ野郎共ぉぉぉぉ!!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」
至近距離から威力と速度に正確さと扱いやすさで優る新型弩で矢の雨を叩きつけられ、戎籊軍前衛各所の盾は悉く撃ち抜かれて、そこをすかさず信達が上陸し雪崩れ込んで白兵戦に持ち込まれた。
「今だぁ! あそこの尻にこっちの船首を付けろぉ!」
「こっちはここの船を伝ってあそこから斬り込めぇ!」
戦慣れしている飛信隊面々を先陣として討伐軍は各所から上陸して敵陣を食い破っていき、防衛線を破った勢いと数に合わせて反乱軍を推していく。
「チィ! 小癪な真似をしおって…やむを得ん! ここに五千ほどを置いて連中の足止めをして期を見て咸陽で本隊に合流し―――」
「ワ、ワテギ様ァ! う、後ろ!!」
「―――ろ…!?」
討伐軍の勢いに戎籊公ワテギは舌打ちしつつも動じずに対処しようとするが、そこで切羽詰まった味方の声に釣られて背後を見やると、そこには眼前まで迫ってきた美麗だが清冽とした輝きを宿した刀身が見えた。
「戎籊公、お目に掛かります…そしてさようなら」
「!?」
その静かにだが突如として現れた刀身は、同様に何故かこの場に姿を見せた甄遼頊に振るわれ、戎籊公ワテギに声を上げさせる間もなくその首を斬り飛ばした。
「「「「「ワテギ様ァアアアアアア!!!!??」」」」」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!??」」」」」
数秒後、宙を舞ったワテギの首がその討ち取った本人である甄遼頊が高く掲げた軍旗の穂先に突き刺さって止まると、戎籊軍からの悲鳴混じりの喚声と、討伐軍の困惑が紛れた歓声が沸き起こった。
「あー! リーメアリ…甄遼頊さんが来た!!」
「チ! 別枠で加勢をこっそり頼んだって聞いたけどよりによってあの女かよ…! まーいい! テメエらこの勢いに乗ってここの邪魔くせぇ連中を叩きだせぇ!」
その新たに現れた援軍の正体に気付いた玲花の上げた名に信は舌打ちしつつ、勢いを増して纏まりを失いだした戎籊軍を打ち崩しだしていく。
「…しゃあ! 連中は散り散りに逃げていったぞぉ!」
「十分だ! 残りは落ち着いて上陸しろ!」
「戦線離脱をせざるをえない負傷者と死傷者の累計を早く!」
数分後、大将戦死の凶報もあって戎籊軍は咸陽攻撃のため先に向かった叛乱軍本軍と合流すべく河岸から後退し、空いたそこを討伐軍が続々と上陸していった。
「はぁ!? 白漂軍からは
北岸は緊張こそ解けていないが叛乱軍との緒戦で勝利した高揚に包まれていたが、討伐軍総大将として現地で合流してきた将軍馬仁はその口にした内容で不安を覚えた。
「俺達だって本来は対
「だから俺みたいに腕利きで且つ連携がうまい連中を中心に各隊から供出して編成した後で、小隊ごとに分かれて隠れ進みながらここまで来たんだよ」
「問題はその討伐軍にあなた達みたいにがっかりさせる面子が混じっている事ですが…」
「「んだごらァ!?」」
不安を覚える馬仁に信と郭巨丙は数が少ない理由を説明するが、その真横より甄遼頊が真剣に微妙そうな表情と言葉を向けてくると、拳を向けそうになるが同輩らに抑え込まれる。
「まぁ、こっちも暗号で要請された対魏方面司令官の独断で他の将軍方が気付かぬ間に送られてきた身ですから。後であの小姑参謀への言い訳を考えなくてはいけない身ですし…」
「それでも何だかんだで大王の危機とあらば来るあたり…肝心なところで無茶しがちなのは泥竜出身の共通だな」
それに構わず私的偏重な理由でげんなりとした表情を示す甄遼頊に、今回の討伐軍副将に正史と同様に任じられた尚鹿が頼もしそうな表情を向けてきた。
「あ! あんた確か蛇甘平原の時に壁兄ちゃんと一緒にいた!」
「おー、憶えてくれてて嬉しいぞ信、そうそう壁もお前達の話をよくしてくれたぞ。おかげで今回は東の軍へ合流しに向かう途中で咸陽の女に会いに行ったついでにまた話を聞こうと思ったら…、おかげで壁にごり押しで討伐軍副将を頼み込まれてここへきてしまったわけだ。そう言うお前らはどうやって咸陽から危機を伝えられたんだ? 色々検閲が公的私的問わず刺し入れされるだろう? 漂あたりからこっそり直に聞かせてもらえる信達はともかく騰軍所属のお前さんは別だろう」
その疑問を受けて甄遼頊が懐から何通かの書簡を取り出して広げてみせた。
「何だそれは? 内容からして普通の指令書にしか見えんが…」
「まあ、 文自体は普通ですからおかげで道中にて事故を装って割って盗み見した間者に読まれてもバレずに済みました。文自体を囲む文様みたいな飾りに注目してください」
甄遼頊は広げた書簡を大きく広げると太陽向けて透かすように高く掲げるが、その事で通常の軍務を示す文章を囲んでいる装飾に見える文様に異変が起きる。
「…!? 文様の幾つかが丸で囲まれたように変わって…!?」
「影芝居の応用ですよ。初めは普通に当然の内容ですが似たような指令ばかり送って来るので、少し不思議に思って調べてみたのですが…、この装飾自体が西域文字の一種で、日光に当てて出てくる黒線で囲まれた文字を繋げれば文章になるという仕組みです」
「待て…そういう西域の言語を取り扱っている部署からして…まさか―――!?」
「将軍! 全員が渡河を終えて編成も澄みました! 早く咸陽に向かいましょう!!」
「ええ、その方がいいでしょう。渭水で交戦した以上…敵本隊はもう既に王将の攻略に取り掛かっているはずです」
「―――あ、ああ!」
その明かされた暗号文に扱われている文字を受けて、尚鹿はある人物の姿を思い浮かべるが、甄遼頊に現状へ意識を戻された。
○秦国中央部 王都咸陽 後宮○
「……うーー…何ていうか…今朝から…お腹が落ち着かない感じがするー…」
討伐軍が渡河と合流を終えた頃、咸陽の後宮にある一室で球泰が寝台の上で臨月に入って大きく膨らんでいるお腹をポンポンと叩きながら落ち着かない様子で寝転んでいた。
「あーもう、そんなお腹を下に向けるような寝方をしちゃだめですよ。まだ予定まで2週間くらいありますけど…」
そんな球泰を後宮に置いて妊婦の主治医責任者になっていた鍼濃が窘めるが、そんな彼女に球泰はジト目を向けた。
「そう言うあんたこそ大人しそうな顔をしてしっかり宮女の本業やってるじゃない」
「…あ、いやまー…私も女で…あの人も男という事でして…」
球泰の微妙そうな言葉と顔を向けられて羞恥の苦笑いを浮かべだした鍼濃だが、彼女の腹部もまた球泰程ではないがしっかりと膨らんでいた。
咸陽大学院では医学の教授の一人をしている経緯から時々外に出る事を許されている身ではあるが、鍼濃も身分上は宮女なのでその身をそうできる男は容易に想像できた。
「あーもう、今はそんな仲違いなんかせずに大人しくしてて。先月なんか和托熔さんとそんな感じの会話したらいつの間にか腕相撲に発展して結構危なそうな目になってたじゃ…?」
そんな感じの病室の一角で2人とは友人の間柄である扇琵が果物の皮を剝いていたが、その聴覚は遠方からこの部屋目掛けて大急ぎで近づいてくる足音を聞きつけて彼女に怪訝な顔をさせた。
「おい、そんな悠長に構えている場合ではなさそうだ」
扉を開いて現れたのは、同じく嬴政の子を妊娠していて球泰程ではないがお腹が相当に膨らんでいる和托熔(本名ゼノビア)であった。
「ちょっと和托熔さん、元々西の武家の出自だからってそんなお腹で走ってここまで来るなんて…!?」
短い距離なら走れるとは言っても足の負傷が元で戦場を引退して、山界からこちらへ仲介要員も兼ねて下山して宮女になった和托熔の経緯を知る扇琵は窘めようとするが、彼女の背後に見える後宮の外側の喧騒の音を微かにだが聞き取って表情を曇らせた。
「どうやら叛乱軍が王都の外壁まで攻めてきて、ここまで来る途中で盗み聞きした内容だと城門も内側から開けられそうらしい」
「「「「「!!!!??」」」」」
冷静だが少し険しさを浮かべた和托熔の危急の報せに、部屋にいたもの全員が表情に緊迫を露わにした。
○秦国中央部 旧王都雍 蘄年宮○
「…事態が事態故に幾つか省略しましたがこれで一通り済みまして…ここに第三十一秦国大王の加冠の儀を全うしたことを宣言する!!」
「「「「「…ワアアアァアアァアアアアアアアァアアアアアァ!!!!」」」」」
後宮にも叛乱軍の王都到達の報せが届いた頃、雍においても儀式が終わって大歓声に会場が包まれた。
「…それでは昌文君、我々は急ぎ咸陽に向かおうか」
それが終わる数分前に立ち上がって、より上の席の呂不韋の詰問にも答えずに黙って見守っていた右丞相昌平君が、周囲の歓声が収まっていない内に口を開く。
「っ! 大王様! 儀式が終わって早々に申し訳ありませんが直ちに反乱軍討伐に向かいます!!」
「うむ、武運を祈る」
「壁! 直ちに向かうぞ!」
「「「「「ハハァ!!」」」」」
それに昌文君も即座に答えて郎党を率いて直ちに事態の鎮静化に動き出した。
「っ!? 待て熊啓! 今! 貴様は自分が何をしているのかわかっているのか!?」
そんな中、呂不韋四柱の一角である李斯が同輩である昌平君を本名で呼び止めた。
「ああ、勝った後の減刑の手続きはしておくから安心しろ」
「「「「「!!!!!???」」」」」
それに対し昌平君は澱みなくそう言い切り、会場内部は先ほどの歓声はと別の驚愕に包まれた。
長年に渡って呂氏四柱の一角として呂不韋を支えてきた昌平君が、この場にて主と袂を分かって嬴政陣営に付くと宣言したからだ。
(ヒョッヒョッヒョ、李牧の合従軍の時に心離れしていたのは気付いてはおったが、今この場で明言するとは思っておったよりも大胆な男よのぉ♪)
それに同じ呂氏四柱の一角で秦国の外務大臣に相応する蔡沢が、周囲の動揺している後輩とは対照的に楽しそうに喉を鳴らしていると、李斯が怒りを露わにして声を荒げだす。
「貴様ぁ! 共に呂不韋様に本来埋もれて腐るはずだった才を拾い上げて貰いここまで引き上げてくれた恩を忘れたかぁ! 貴様には義は無いのか!? それともまさか…嘗て
李斯が何やら昌平君に対してその訳ありそうな経歴を含めて詰りだすが、昌平君はそれに構わず側近の介億を見やる。
「行くぞ!」
「ハッ!」
「ま、待て!」
そのまま壇上を降りだした昌平君とそれに付き従う彼の側近達をなおも李斯達は引き留めようとするが、それを刺し止めたのは意外な人物であった。
「その辺りでよい。心情はどうあれ…敢えてここで最後の花を咲かせる道を選びたいのなら進ませてやればよい」
「!? 相国様!?」
最側近の一人に目前で離反された呂不韋本人で、その態度にはある種の納得感は感じさせても動揺は全く見せなかった。
(どういうつもりだ? 四柱の一人で軍総司令を務めている昌平君が完全にこちら側に着いたというのに…)
その様子に喜色を見せる大王陣営の中で、正史より大幅に上司に恵まれていた(且つ扱かれた経験が多いが故に)縁で目利きが冴えていた壁が警戒心を高めるが、それを感じてか呂不韋は会場内を見渡して顎髭を指に遊ばせながら言葉を彼らに向けた。
「昌平君は儂が丞相に就任して最初に登用した男だが本来なら人の下に居続ける男ではない。もう既に十分この身を輝かせる装飾として煌めいてくれたが…所詮はあくまで装飾の域を出ぬ。故に…ここにいるお主ら全員がその装飾ばかりに気を取られてこの呂不韋という存在を図り切れておらぬ。ま~……測るのに必要な物差しが無いから仕方ないがのう」
「「「「「……………………」」」」」
そのゆったりとしているが身を大きく包み、重く満たしてくる呂不韋の語気に会場内にいるものの大半が沈黙に支配され、意識が彼に集められて行く。
それらを浴びつつも呂不韋は眼差しを壇上の嬴政へ向けた。
「大王様、もう時が満ちたこの際に場所を選んでじっくりお話しませんか? 二人で共に…“天下”についての話を?」
「構わん、むしろ俺の方からこの際に話をする予定であった」
「「「「「!!!!???」」」」」
そして、対立を含みながらもこの大国秦を取り仕切ってきた№1と№2のその言葉は、会場内に集う観衆の関心を否応なく掻き立てた。
原作と同様にこちらでも政と呂不韋の対談が実現しましたが、果たしてこの世界ではどのような流れや過去が明らかになるのか…。
次回も王都圏での攻防が話の中心になります。