※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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原作の方では何か色々と宗教ネタみたいな扱いされているあの話が、こちらの世界ならではの変化も交えながらようやく出てきます。


156 真面目があれば唖然も来る●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦日2目昼 秦国中央部 旧王都雍 天備宮○

 

「…人の本質が…」

「………世界……」

 

 政の言い放った人の本質の名は、この内乱の最中にある秦の中枢でその趨勢に大きく関わる論争の場に集う者達に深く染み込んでいった。

 

「俺はまだ齢九つの時に邯鄲から当時は商家であった紫夏の手で救い出され、趙の激しい追っ手から守られてここ秦に戻る事が出来た。その時…紫夏に温かい“光”を見た…」

「………………」

 

 嬴政が口にしたそれは、確かにそれを今この場で彼より見る事が出来た瑠衣が特に深く感じ取っていた。

 

「…そして、その時…まだ身元も互いにほとんど知らぬ身でありながら、その紫夏とこの身を…当時まだ…市井の身でありながら追っ手より守りここへ導いた“友”とも出会った…その時にも確かにその“光”は見た…」

 

 その最中に嬴政の視線は、彼が口にしたその存在がもう一つの大国の未来をかけて争う北の方が国も向けられた。

 

「…最初は、そうした光は一部の人間だけが持つものだと思った。さもなければ、邯鄲で目にしたような…混濁とした“闇”を眼に浮かべる人を…説明できなかったからだ…だが、そうではない事は…秦に帰ってから出会った…今は亡きもう一人のその“友”が教えてくれた」

 

 そして、次に政の眼差しは己自身の過去に向けられた。

 そこには、帰国したばかりの故郷でまだ慣れ切らず、年相応の好奇心でこっそり市井へ抜けた時に出会えた、この時代の中華では本来まだいないはずの“尼僧”である女性がいた。

 高尚な理想を唱える儒者などが近づきたがらない、この時代の負の面を具現化した負郭窮巷で、その女性は色々な意味で明るさを放っていた。

 自分の正体を何故か気付きながら遠慮なくズカズカと前向きに心の内側に入ってくるその女性が、嬴政は非常に疲れさせられたが何故かもっと話を聞きたい存在になっていった。

 そんなある日、その地で自分の正体が一部にだが知られてしまい、その結果として自身に流れるその血そのものを憎む幼き同年代の子らが、過去の己でもある貧民から現れた。

 それはまさに邯鄲で見せつけられた負に染まった瞳を見せて、過去の自身の闇に染まった声を再び耳にさせてしまうほどだった。

 

『まだ皆ー御仏への道の途中だってのに、何でそんなこの世の終わりを見てやけになったような顔してんの?』

 

 だが、そんな状況でも彼女は空気を読まない、だが人の内面にズカズカと何故か入ってくる言葉と共に現れ、言葉と肉体の両方で彼らとぶつかった。

 その身が無茶な要求で血に汚れ、赤く腫れあがっても真正面からズカズカ当たって彼女の明るさと前向きさは、嬴政には過去の己でもある牙をむいた貧者達にやがて畏怖と畏敬すら覚えさせた。

 そして、彼女が文字通り命を賭し、その“光”を見せつけた時、過去の己でもある子らは大粒の涙を溢れさせ、それで彼らの瞳を暗く澱ませていた闇が流れ落とされてい行くのを目にし、そうして、直視に耐えないはずの貧者の闇は色あせ、温かき光で“世界”もまた彩って広まり、それを見ていた他の堕ちたと諦めたはずの者達の瞳もまた色を取り戻していくのを目の当たりにした。

 

「…そして、人が持つ闇によって世が混沌として澱みに沈んでいくように、人の光が世界を彩り…それは鮮やかな世界となって他の人も包み込んでいく事で、人が暮らすこの世界を先に進ませ、それによって人という存在もまたより先へ連れられていく事を知った…」

「「「「「……………」」」」」

 

 それを踏まえて語られる嬴政の言葉には、世界の美醜と対面しようとせずに己の知覚できる領域で学べる範囲だけで、世界を論じようとする学者気取りにはない芯があった。

 

「だからこそ王騎も…麃公も…捉え方は異なれど…自らの全てが世界と繋がっている…その一部そのものであり、自身が行う事には、否…この世界で全ての生きる者達の行いで世界は形作られることに気付けていたからこそ…死ぬまでその光を放ち、それは今を生きる者達に伝播し、この世界が闇だけではないことをより多くの人に気付かせながらその者達は生きていけている…。だからこそ、この中華も…それを絶対とする者達から四夷とかってに呼ばれる外界でも、それに気付けた者達によって人の世はより先へ進んで行き、そしてそこに住まう人もまたより高みへと昇っていく。でなければ、神代の三皇五帝や…商や周の開祖たちが生まれる事も、そうした先人たちが語り継がれることはない…」

 

 そう語り続ける嬴政には、そうして目覚めてより先へ進もうとする人々の背が、生者と死者問わず大きく見えていた。

 

「だが、人は同時に持つ弱さ、時として自らが変わるべきだと気付かせる存在であるはずのその自らの一部の重さと、それが伝播して生じる人の世の闇を前にして、少しでも楽になろうとするあまり立ち止まるも…、それが澱みを生んで、それが人をもがかせて苦しませて悲しませ…悲劇と惨劇を生む…それを最も後押しするのが…戦争だ」

「「「「「………………」」」」」

「…しかし、その澱みもまた…あくまでも人がこの世界に紡いできた“闇”が結びつき、世界を染めていくからこそ可能となるものだ。故に…世界を黒く染め上げ、そこに住まう人を沈めていくのが可能なら…、その逆もまた可能だ。何故なら、人はあくまでも人として人の力のなせる範囲でしか出来ない以上、人の争いもまた人の力で解決できる領域を超すものにはなり得ないからだ」

 

 嬴政の言葉に出ているそれは、人とそれを囲う世が確かに歩んできた根底にあるものの表れの一つであり、その上で彼は強く次の言葉を言い放つ。

 

「…故に、まずその人と世界の可能性という“光”を遮る戦争を中華から無くす!!」

「…………!!」

 

 その言葉に敵対する立場の李斯ですら息を飲み、対坐する呂不韋は瞳に力強い輝きを増しつつも改めて嬴政にその矛盾を問う。

 

「武力でですかな!?」

「武力でだ!!」

 

 改めて突き付けられる矛盾に対する嬴政の言葉に、先ほど呂不韋にそれを突き付けられた時の迷いはなかった。

 

「この身は戦国の世の玉座の一角を預かり受けた! ならば戦とは向き合わねばならない責任がある! ならば! その戦も終わらせねばならない責任とてある! それが暴君の道だと謗る事が出来るなら…それを最後の暴君とすることも人の力で可能だ! まず中華を一統して七雄も華夷も上下もない模範を示す! さすれば我々の次の代の者達が―――」

「「「「「!!!!!!!!」」」」」

 

 そして、嬴政の眼に映る玉座を囲う呻き続ける怨念の手から淀みは消え、それはやがてそれを僅かにだが確かに照らす光を求める力強さを宿らせた手に変わっていき、彼らを照らす光がそれを目に出来るようになった他の観衆たちの視界を強く占めた時、嬴政のその言葉が発せられる。

 

「―――人が人を殺さぬことを真に当然とする世界を紡ぎ出す!!」

「「「「「!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 その結論に、瑠衣は両眼から零れる涙が顎で交わるほどにまで溢れ出ていることに気付けなくなり、蔡沢は胸に伸し掛かる熱き重みを覚えて俯く。

 彼らの胸中には確かに、共通してこの乱世では有り得ぬ、乱世が過去となった平和の世界が確かに映し出されたのだ。

 

「………………」

 

 その光景が見える者の中に一人に、呆けた表情を浮かべた呂不韋が混ざっていた。

 

『今の世の中は嫌だっつー人(・)間(・)の(・)我(・)儘(・)を舐めんなよ』

 

 そして、その光景の中で、呂不韋にとって始まりとなった女性がニヤッとしながらも意志の強さを覚えさせる笑みで立っており、彼の眼に熱を思い出させた。

 

「…………呂不韋、どちらのを世を人が望むかは…」

「いいや、もう十分です。これ以上は言葉を費やしても、大王と私では始まりで得た答えにあまりにも差がありすぎるのが分かった故…決着が付かぬことも、言葉だけでは決めてはいけないことが分かりました…ただ…」

「?」

 

 しばらくの沈黙の後、呂不韋は熱くなった眼を隠すために俯かせていた頭を上げ、嬴政と向き合うが、その瞳には何故か肉親に対するような温かみが混ざっており、それは嬴政を少々怪訝に思わせた。

 

「本当に大きゅうなられましたな。そして…、悔やまれるのは…大王の道と私の道、そのいずれかは…咸陽の戦いによって潰えねばならぬという事です。ですが、どうあれそれもまた人と世が前に進むために選んだ答えでしょう」

「「「「「…………」」」」」

 

 そして、呂不韋の出したその言葉が、一堂に剣戟を交える戦いの舞台に立つ者達の姿を思い出させた。

 

 

 

 

 

 ○秦国中央部 旧王都雍 大王派要人迎賓館○

 

「し、死ねぇ!!」

 

 天備宮での言葉での戦いが一通りの決着を付けた時、鵬の凶刃が成蟜の身を背後から襲い、その背後の脇腹から足に掛けて血飛沫を生じさせるのが見えた。

 

「ぐ―――!」

「はい! ドーン!!」

「がべぇ!?」

「―――ぅお!?」

 

 その痛みに成蟜が歪めた表情で背後を振り返った次の瞬間、そこを見下ろす上階の窓からギョッとした表情ながらも譜孝が即座に反応して上階の窓より鉄鍋を投げつけ、それを横っ面から叩きつけられた鵬はその勢いで刃ごと成蟜から身が離れ、よろめいて階段を転がり落ちていき、先ほど意図的に倒壊させられて蒲鶮達を押しつぶした燃え盛る高楼の大火に落ちてしまう。

 

「ああーーーーーー!!??」

 

 思わぬ激痛を伴う火炎に身を包まれながら鵬はそれに引きずり込まれる様にして、階段を転げ落ちる勢いで燃え盛る瓦礫の中へ身が消えた。

 

「……っう! とりあえず…この場は終わったか…ッ!」

「成蟜様ァ!」

 

 それを見届けた成蟜は緊張の糸が和らぎ、それにつれて強く覚えた激痛で倒れた所で寿白が老体の我が身を顧みずに駆け寄った。

 

「直ぐに傷の手当を!!」

「そんな老人の身で無茶をするな…何より、この怪我の身で…お前が担ごうとして下手に落とされでもしたら…余計に悪くなるわ…。こうなった身でも…やらねばならぬ事が出来た以上は…まだまだ死ぬわけにはいかん…。直ぐに皆で消化と怪我人の搬送…その為にも残っている残党の制圧も急がせろ…」

「ハ、ハハァ!!」

 

 自身の身を襲った凶刃の証しに苛まれつつも、成蟜もまた自身の可能性を今この生きている世界に見出した証拠を笑みで表した。

 

 

 

 

 

 ○秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領中心部 首都龍城○

 

『……ッ…! 父上は何処に…!?』

 

 雍での言葉と剣戟でのそれぞれの激闘が一応の終わりへ向かおうとしていた頃、北の地での覇権を巡る争いで、梁魁が振り回した後に投げ飛ばした丸太から解放されたエルサリアはまだ痛みが深く残る身体で、いまだに死闘が続く龍城内部で人目を避けつつも父を探していた。

 

『! エルサリア様!』

 

 その時にエルサリアの父である左賢王アルクサルトに仕えるご老人がエルサリアを発見して駆け寄った。

 

『爺! 無事でしたの!?』

『私はどうにか…ですが、父君の方はどうにか太后派から身を隠すことは出来ましたが、脱出する際の戦闘で深手を負われた状態で、更に…』

『エ、エルサリアさん!』

 

 更にそのご老人の影から今度はバァトルも姿を見せてきてエルサリアを驚かせた。

 

『貴方は王子! どうしてこの場に…!?』

『衛兵達に王宮の奥に隠されていたんですけど、そこで梁魁殿が何だかすごく怖い大きな人と取っ組み合いしながら雪崩れ込んできて―――』

「ぬおりゃアアアァアアああああ!!」

「がぁぁアアアアアアアァアアァァ!!」」

 

 そのバァトルが説明しようとしていたところ、まさに彼を脱出させた要因である未だに肉弾戦真っ最中の梁魁と龐煖が瓦礫と人をあれこれ撒き散らしながら突っ込んできた。

 

『―――えってごふうう!!??』

『『『『『えええええええええええええええエエエエ!!!???』』』』』

 

 それに真面に巻き込まれたバァトルの小さな身は呆気なく宙を舞って他所の方向で飛んでいき、エルサリアたちはそれに顎が外れんばかりに驚きつつも慌てて追い出した。

 

『…ふえ…あ! に、兄様だーーー!』

 

 一方、まだ戦闘が続いている市内の別の箇所より、テノと彼女を保護した白漂達もまた宙高く舞っているバァトル達に気付き、しかも彼が自分達に向けて近づいていっていることに気が付いた。

 

「! 結羅! あの子を受け止めて―ー!」

「は、はーーーい!!」

 

 それを視認した白漂は即座にバァトルの着地点を予想し、そこにいた自陣営の女間者の一人である結羅に命じて、バァトルをキャッチさせた。

 

『きゅううううううぅぅぅぅ…』

「あー伸びちゃってるわよ完全に…どうするの? こんな小さい子だけど向こうの神輿だから可哀そうだけど早めに…」

「馬鹿を言うな。今この場でやったら面倒になるし、何よりそんな事をするつもりは毛頭ないから」

 

 完全に目を回しているバァトルを抑えた白漂達であるが、エルサリア達が現場に着いたのはまさにそんな時であった。

 

『! よりによってあの好色将軍に! 即座に王子を放しなさ…!?』

 

 現場に辿り着いたエルサリアは即座に剣を向けてそう言い放とうとするが、その途中で白漂達を見下ろすやや離れた高楼の上より血走った眼光とそれに抱えられた巨大な金属製の筒の鈍い光に気付き、同時に猛烈な嫌な予感を覚えた。

 

『し、死ねぇ! 何もか無茶苦茶にしおってええええええ!!』

 

 その望楼にいた血走った目は梁魁達の今だ続く乱闘で巻き添えを食って重傷を負ったドレゲネで、彼女は憎悪の視線の先にいる白漂にばかり気が向いてその傍らにいる息子の存在には気付くことなく、その手に持つ抱え式大筒の銃口を向けてきた。

 

「あ、まずい―――」

「後ろに回れ大将ォ!!」

「―――い…!?」

 

 それに白漂が表情を引き攣らせたその時、竜騎隊員の一人で女性には普通あり得ない2m超の筋肉質な長躯と赤黒い肌を持つレキシントンが彼の前に立ち、その手に持つ大型狼牙棒をまるでバッターのように構えた。

 

「な!? まさかアレの発射物を打ち返すつもりか!? そんなの無茶だ! 皆ー直ちに散って建物にか―――!」

「どうありゃあぁアアアアアアアァアア!!」

「ゴガああああぁアアアアアアアァアア!!」

「―――ぁくれ…え!?」

 

 レキシントンの鬼を思わせる身体能力とそれに反比例したかのような頭の良くなさを知る白漂は、彼女のしようとしていることを即座に理解して止めさせようとしながら周囲に回避行動を命じるが、そこへ空気を読んだのか読んでないのか未だに肉弾戦真っ最中の梁魁と龐煖が大量の瓦礫も引き連れてやってきた。

 

『死に晒せぇぇええええええええええ!!』

 

 ドレゲネが抱え大筒の引き金を引いたのはその直前で、豪速で撃ちだされた砲弾は弓矢とはけた違いの速度で飛んでいくが、それは梁魁達の乱闘で生じた大きな瓦礫に体当たりされる形となった。

 

「ダッシャァアアアアアアアアアアアアアアァアア!!」

 

 その結果、弾道が大幅に歪んで雪面と地面にも衝突して大幅に速度と威力が落ちたとはいえ、未だに人を甲冑や得物ごと粉砕してのける威力が保たれた砲弾を、レキシントンは勘でその軌道を読んだのか狼牙棒を豪速で振るい、何と砲弾に命中させてそれを龍城王宮背後の山へ撃ち反らさせてしまった。

 

「はい!?」

 

 当然、この時代の純粋な人間が占めている周りとは違って前世知識からそのあり得なさ過ぎる光景を目にした白漂は絶句した。

 だが、その半ばギャグと化した絶句は直ぐに真面目な表情に切り替わる。

 

『…な、何だったのですの…!? 今さっきの鉄の塊を盛大に叩きつけ合ったような轟音は…!?』

 

 鼓膜を破らんばかりの轟音で痛む耳を抑えながらエルサリアも戦場であることを半ば忘れて呆然としていたが、その背後にある龍城王宮の裏山にその打ち飛ばされた砲弾が着弾し、大雪崩を起こした時と同様の大爆発を起こした。

 

「……え、この流れ…まさかじゃなくてもまた…!!?」

 

 それに白漂が引き攣った笑みを浮かべた次の瞬間、再び龍城王宮背後の裏山が大雪崩を引き起こした。




また天災(実質人災)ネタですけどどうにか北の方でも話は進められました。
次回は、北の地での一応の決着と、咸陽での戦いが最終局面に入る予定です。
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