※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回にて、色々とあっちこっちに横道したりして長引いた王権を巡る戦いの戦場における決着にようやく入れました。


157 決着には大なり小なりおまけがつくもの●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦日2目昼 秦国外北方 匈奴(ヒョンナ)領中心部 首都龍城○

 

「「「「「『『『『『また雪崩だぁアアアアアアアァアア!!!!』』』』』」」」」」

 

 ドレゲネが用いた時代考証的にまだないはずの抱え大筒(とそれで生じた可燃物による爆発)で発生したその雪崩は、龍城内部で争っていた全陣営を驚愕させた。

 先ほどの物と比べたら小さくはあるが、それでも龍城城内を覆うだけの量と勢いがあるのは明白で、敵味方問わず反対方向や高所目掛けて逃げ出した。

 

「やべぇ!? 早く逃げねえと…こうなりゃー!!」

「ぐうおおおおおおお!?」

 

 それを目にした梁魁は龐煖に対して同じく雪崩に気を僅かにだが取られた隙を突いて、鼻フックと金的を同時に噛まして悶絶させ、その辺にあった鉄鎖でその身をグルグル巻きにした。

 

「おい! 白漂よお前さん達も早くこっちに来て掴まれー!」

「あ、ああ!」

 

 その梁魁の野郎としている事の意図を、直感と彼と同様にある奇人変人染みた感性から見抜いた白漂は直ちに従った。

 

「…な、何だ…あれは…?」

 

 十数秒後、高台に移された燕側本陣にて柱の上にボコボコ状態で宙吊りにされた銀髪の青年は、その目にした光景にこの状況で幾度となくさせられてきた絶句を浮かべていた。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「もごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」

「ウオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

「いやあぁアアアァアアアァアアアアアアアアアアァアア!!???」

 

 鎖に全身を縛られて口もそれに塞がれた龐煖と、その鎖を手に取って手綱のように操って彼を人間雪橇にして乗りこなす梁魁、その彼らと鎖に縛られた雪橇代わりの材木に乗り込んでいる白漂達と、それに両手でしがみ付きながら悲鳴を上げているエルサリアの姿があった。

 梁魁達は人々を再び飲み込んでいく雪崩の上を人間雪橇に変えられた龐煖とそれに括り付けられた雪橇で突き進んでいく。

 

「ぬアッハッハッハーーーー!!」

 

 それは現代風に言えばビッグウェーブを乗りこなすサーファーの如き姿で、人間スノーボードを操る梁魁の姿は、その濃すぎる顔など関係なしに勇壮な美しさを白漂に感じさせた。

 

「っておい! ただでさえ人数多いのに何で敵対する立場のお前さんらがしがみ付いとるんだ!? さっさと手を離さんか馬鹿娘!!」

「ちょ!? 女の顔にそんな刃物を近づけさせなないでくださいま…いやあああ!!」

「ひ、酷い…」

(うわ、こういうカッコイイシーンまで自ら台無しに…でも懐かしい…)

 

 だが、当の梁魁は自分が引いている雪橇にエルサリア達までしがみ付いてるのに気付くと、蛇矛で彼女を叩き落とそうとして、乗り込んでいたバァトルをドン引きさせ、彼を保護している白漂に前世で出会った眉が繋がるまで太い公務員を微妙な意味で再び思い起こさせた。

 

『『『『『「「「「「ウワアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアァ!!!??」」」」」』』』』』

 

 その人間スノーボード一行が何とか連合軍側本陣がある高所の麓まで到達した直後、そこで指揮を執っていた河了貂達まで降りかかる巨大な雪の飛沫が起きて皆も飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦日2目夕刻 秦国中央部 王都咸陽○

 

「「「「「ワアアアァアアアァアアアァアアアアアアアアァアア!!」」」」」

 

 白漂と梁魁を中心に北の覇権争いでまたしても傍迷惑極まる珍事が起きてから数時間後、咸陽での戦いはどうにか膠着状態を保ちつつもじっくりと叛乱軍が押しつつある状況にあった。

 

「フハハハ! ワテギめがマヌケを踏んだと聞いた時は驚いたがどうにかなっているではないか!」

「統制が鈍くなって行動がやや遅くなった戎籊軍と我が強い元趙兵共の主力の大半は城内制圧と破壊に回しておるから問題はない!」

「太子を始めとする王族の方も樊於期が直にその首らをもってこよう…!?」

 

 徐々に戦局が有利に傾きつつある状況に叛乱軍の指揮官達が笑みを強めたその時、彼らの鼓膜を聞き慣れない笛の音が震わせた。

 

「…!? これは…!?」

「黄桜! 皆を集めて食の所の隊へ一旦引いて息を落ち着かせますよ」

「は、はは!」

 

 その笛の音は聞いたことのある面子らが大きく動き出した直後、叛乱軍が本陣を裏から見下ろす裏山の森より、新たな一団が現れた。

 

「…よくぞ持たせてくれたな…」

 

 その笛の音は、雍より駆けつけてきた昌平君一団が自分達の到着を報せるトランペット型管楽器による音術であった。

 

「手遅れではありませんが状況は深刻です。こちらは各方面からの増援を含めても四千騎程度、まず早さが肝心です」

 

 そこには加冠の儀に合わせて大至急帰国してきた中東遊牧民風装束の蒙毅も含まれており、その周囲には西方世界で交遊を深めた友人達で構成された騎兵の姿もあった。

 

「…では行くぞ!」

「「「「「ウオオオオオ!!」」」」」

 

 敵味方から巨大な殺気と戦意が立ち上って入り混じるその戦場に向け、昌平君は動じる素振りを見せぬまま馬を走らせて向かった。

 

「!? 雍方面から敵の新手と思わしき隊を発見!」

「趙曼隊と還鬲隊を呼び戻せぇ!」

 

 一方、叛乱軍もまた無能ではなく、その動きに反応して前面の南道軍との交戦を続けながら予備兵から防衛線を展開していく。

 

(…昌平君、軍総司令として多くの軍略を練り上げて貢献してきたのは確かだが…戦場にて采配や剣戟を振るったという話は聞いたことが無い。先陣を駆けて味方の士気を上げる姿は見事だが…!?)

 

 それに対し戦場目掛けて駆け抜けていく昌平君軍と行動を共にする昌文君は、先陣を駆け抜け続ける昌平君に対して困惑と驚きを露わにする。

 

「よし! 先頭を切ってくるあの派手な男が敵将だぁ!」

「秦の右丞相昌平君だ! 討ち取れば褒美は思いのままだぞぉ!」

 

 何と昌平君は既に守備陣形を展開し終えて槍衾を構える反乱軍に向けて、馬脚を緩めるどころか更に速めさせていっていたのだ。

 

「ま、待て! 味方を置き去りにしてそのような一騎駆けなど―――」

「心配はご無用ですぞ!」

「―――おぉ!?」

 

 それを思わず呼び止めようとする昌文君だが、昌平君の側近筆頭である介億が割り込んできた。

 

「幼少期の話だが…我が主はあの蒙武より強かったのだぞ」

「「「「「ギャアァアアアアァアア!!??」」」」」

「んなぁ!?」

 

 介億のその説明の直後、敵陣に到達した昌平君が震う鋼の矛が、槍衾とそれを向ける叛乱兵を盾諸とも両断して宙へ舞わせたのだ。

 

「さっさと味紺を仕留めるぞ」

「承知ぃ!!」

 

 それに一瞥せずに昌平君がそう言い放った直後、介億らも続々と斬り込んでいった。

 

「しかしまさか…軍総司令があのような猛将だったとは…!!」

「フハハハ! やや誇張は混じるが武力は蒙武級で頭脳は文句なしに李牧級! 安心するだろう! あの方が父(・)の(・)国(・)である楚に連れ帰られてなくて良かったと!!」

「た、確かに…!?」

 

 味方らが初めて目にする総司令の武勇に士気を高めながら安堵感を覚えていると、叛乱軍もまた新たに対処しようとしてきた。

 

「おお! 趙曼隊が敵を左側面から襲うぞぉ!」

「連中の動きが鈍ったら奴らから横流しさせた弩砲の大矢で秦の犬ども自身を撃ち殺してや―――!」

「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアァ!!??」」」」」

「―――あぁ!?」

 

 それに城外叛乱軍の本陣は色めくが、その昌平君一団を狙い撃ちにしようとした弩砲隊の方より悲鳴が上がってきた。

 

「弩砲を優先して破壊しなさい」

「「「「「オオオオオ!!」」」」」

 

 昌平君一団の姿を見て、一旦味方の中で潜んで身を休ませていた黄隼隊が叛乱軍弩砲部隊を潰しだしたのだ。

 

「! この形って…!」

「皆! 催涙式煙幕弾を彼方に向けて一斉斉射ァ!!」

 

 更に、その動きに気付いた玲花達が動いて即座に味方の弩砲や投石機隊を中心とした遠距離攻撃で、反乱軍本陣から見て右側面に太く長大な両眼と鼻孔を痛撃する煙幕の横陣を伸ばしていく。

 

「…先生、これは敵本陣を左右と後ろに味方の陣で壁を築いて動きを封じて、中軍の刃で一気に屠る“包雷”ですが…」

「その通り、問題は敵本陣の背後が乱戦場となっていて壁と呼ぶにはやや不十分だという事だが…」

 

 その中で自身が口にしたその陣形の中央の刃より蒙毅と介億は即座に不安要素を見抜くが、そこで近づきつつも退避の動きを見せ始めた叛乱軍本陣の背後より砂塵の動きが強まり出しているのに気付き、そこに混じる “郭”の旗印とそれと共に動き回る特徴的な頭部を持った古なじみの男に気付いた。

 

「後ろも直ぐに心配は無くなる! 行くぞ!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」

 

 同様にそれに気付いた昌平君の号令を受け、一団は更に進撃速度と士気を高めて声に乗せた。

 

「しゃーー! お前ら今こそこの大戦の決め時だーー! 一旦持ち場を離れてあそこの馬鹿共の後ろを囲うように上がれ上がれーーー! 背から追い討ちしてくるのろま共は無視しろー! 尚鹿の旦那も同意済みだーー!!」

 

 その時、昌平君一団とは叛乱軍本陣を挟んだ乱戦場で、疲労を隠せないがそれ以上に白星を強く見捉えた表情で郭巨丙がその背後の包囲網を形成しようとしていた。

 

「おい! 人の名前を勝手に用いるな!」

「尚鹿の旦那よ! 見りゃ―わかるだろ軍総司令直々に包雷だぜ包雷! 今この連戦しっぱなしで何れはじり貧で負け確定の俺らにやっと勝機が巡って来たんだ…あべ!?」

 

 そこへ険しい顔で駆けつけてきた尚鹿に、郭巨丙は彼に稚拙な判断と思われてきたのだろうと感じて説得しようとするが、その彼の鼻っ面に尚鹿は盾をぶち当てた。

 

「…判断が早いのは褒めるが道具を忘れてどうする! 盾で前後を固めるぞ!!」

「ッ! オッシャアア!!」

 

 苦笑いを浮かべる尚鹿に続けて到着してきた盾兵の姿に、郭巨丙は鼻の痛みを忘れて彼らも取り込んで包囲網の完成を更に急がせる。

 

「うおお! 見ろ!」

「城外の味方が叛乱軍本陣への包囲網を形成しようとしていくぞ!」

「いいぞおぉ! やってくれぇええ!!」

 

 その姿は城壁の上で戦う秦兵達も気付き、ようやく見えてきた逆転勝利の予兆に色めき立った。

 

「はいはい! ちょっと失礼するわ!」

「うわぁ!? なな何者だ…ってうおお!?」

 

 そんな最中に、叛乱軍が城壁に掛けた梯子による拠点の一カ所を制圧してステラ達が何やら弩やその為の矢に弾を多く抱えた状態で駆け上がってきた。

 

「ま、味紺様ァ! このままでは敵のあの勢いづいた矛先がこちらへ直ぐに到達します!」

「直ちに左右か後方の包囲陣に一点集中して突破及び離脱を!」

 

 その状況は敗死の危機が迫っている叛乱軍本陣が否応なくわかっており、今現在の士気の中心を執っている味紺に切羽詰まった表情を添えて報告が寄せられるが、当の本人は得体の知れない自身を感じさせる歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「それこそ愚行よ! あの勢いの連中に背を向けて逃げれば三方の壁を崩している最中に背から討たれるわ!」

「だ、だったらどうするので!?」

「知れたことよ! あいつらをここで返り討ちにするのだ! アイツらの身内が作り上げたものから横流しさせて手に入れた新兵器でなぁ!」

 

 味紺の号令に従って彼が要る本陣の左右両側から大勢の工兵が出てきて、彼らがリヤカー型荷車に載せて無数の大矢をハチの巣状に大量で搭載した兵器が姿を現した。

 

(クックック! 前に極秘の横流しで手に入れたこの兵器を試した時には鉄板を幾重にも巻いた大木が無数も瞬く間にズタボロにされて数回瞬きする間に倒れた! 薄い鎧しか来ておらぬ連中ではボロ雑巾のようになりよるわ! 威力重視で射程距離は短いが連中から近づいてくるから問題はない! 連中を穿ちぬいた矢で味方も何人か死ぬが秦人などどうなろうと知った事ではないわ!!)

 

 その新兵器が左右に展開し、迫りつつある昌平君一団を十字交差射撃で殲滅すべく急ピッチで準備を進めていく。

 

「味紺様ァ! もう発射準備完了しました!」

「直ぐに敵も有効射程圏内に入ります!」

「よし! それでは一斉発し…!?」

 

 だが、昌平君達が射程圏内に入ったのを見て味紺がそれをズタボロにすべく命令しようとしたその時、彼らから見れ斜め上の方角より無数の火矢と油を乗せた小瓶が先端に括り付けられた大矢が新兵器とそれを操る叛乱軍工兵たちに叩きつけられ、瞬く間に切り札が炎に包まれていく。

 

「…乱戦の最中にて偶々近づいて見た時に見覚えがある気がしたかと思ったら、まさか私も開発に協力していた新型連弩の“蜂巣弩”だったとはね。盗んでくれたお礼はさせてもらうわ」

 

 その新兵器に先んじて気付いたステラ達がそれを狙える壁上に登り、焼夷弾と火矢を正確に撃ち込んで使用不能としたのだ。

 

「ぎゅあアアァ! あちい!?」

「ま、味紺様ァ! 新兵器が全て炎に包まれたので近づく事も出来ません!」

「何だとおお!? ええい! さっさと消さんか―――!?」

 

 勝利を確信した矢先に襲ってきた凶事に味紺達は怒りと恐れに包まれるが、その中で味紺は火災に気を取られた一瞬の後に、身が妙な浮遊感に包まれて視界が激しく移り変わる奇妙な光景を目にしてしまう。

 

「………」

「―――あ…!?」

 

 その最中に視界がスローモーションのようにゆったりとした現象が起きた味紺が目にしたのは、矛を勢い良く振り抜いて自身を無言で静かに見やる昌平君と、それに真横を駆け抜けられて何故か首が無くなっている自身の身の姿であった。

 

「反乱軍の総指揮官味紺は秦軍総司令昌平君自らが討ち取られたぞおぉおお!!!!」

 

 続けて介億がその理由を叫んだと当時に胴から離れた味紺の首を矛で突き刺して高く掲げた所で、彼の意識は途絶えた。

 

「…え、な、何か妙な歓声が秦側から起きて…??」

 

 ちなみにその光景へ、咸陽城外の戦いを見下ろす山林地帯にて後詰として待機していた全身包のミイラ男に見える元西録城主は呆然とした眼差しを向けていた。




色々と長くなりましたがやっと叛乱編の終わりの兆しに到達しました。
次回は、咸陽でやっと決着が付いた戦いの終息と、その後のその場での後始末が中心なります。
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