※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回でやっと咸陽の戦いが終わって、それに付随して秦国内各所での結末が出てきます。
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158 始まりだけでなく終わりも連鎖していく●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦2日目夕刻 秦国中央部 王都咸陽○

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」

 

 城外で叛乱軍の指揮を執る味紺が昌平君によって討ち取られた事で発生した歓声は、瞬く間に城内外の味方と民衆へ伝播して大地すら揺るがす響きとなった。

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

「お、落ち着けぇ ワテギ様が討たれて樊於期様が城内にいるとはいえまだこちらが多い! 建て直せば勝機は巡ってく…!?」

 

 叛乱軍もまたその多くが動揺という形で感染していくが、まだ状況の優勢さが分かっている何名かが叱咤しようとしたところで、秦側が思わぬ動きを見せた。

 

「皆、早く反乱軍の彼らが帰れるように道を開けますよ」

「は、はは! 甄遼頊殿!」

「こっちもさっさと早く壁を解け! あのたかびー女に後れを取るな! それで叛乱軍の連中の逃走を手助けしてやれぇ!」

「郭巨丙の言う通りでおじゃ! 二人の言うようにせよ!」

「承知ぃ!!」

 

 包雷を構成していた隊が率先として叛乱軍への包囲網を解きだしたのである。

 

「(まだ兵力で優位に立つ敵の指揮系統が立ち直る前に敗走させる…良き生徒が多く育つようになったな…)ムハハ! 我らも遠慮なく四方で敵の背を押してやれ!!」

「「「「「ハハァ!!」」」」」

 

 その意図を察した介億も加わることでそれらの動きはさらに加速させられて行く。

 

「城内も駄目だぁ! 樊於期様もさっき討たれたという連絡が来たァ!!」

「な、ほ、本当か!?」

「ま、待て! 今のは敵の虚言だ! 真に受けるな!」

「匈奴方面に向かったと見せて留まってる白漂軍がもう直に戻るぞぉ!」

「桓騎軍が戻ってくるぞぉ! 早く逃げんとなぶり殺しだぞぉ!」

「ひいいイイ!?」

「だ、駄目だぁ! 逃げろぉ!」

 

 主将が連続で討たれていって動揺が続いている叛乱軍は、元より各所から集められた寄せ集めの混成軍であったために士気が低く、その一旦出来た敗走の流れに一部でも乗っかると、それに続けて瞬く間に全軍敗走という巨大な濁流と化した。

 

「…こ、これは…負けたのか…!?」

 

 その様子は主戦場より少し離れた丘にいた嫪毐にもわかり、本人が呆然としている中で周囲の側近達は慌てふためく。

 

「ば、馬鹿な! まだこちらの方が数は多いのに!?」

「こ、こっちに逃げてくるぞ! 早く逃げんと押しつぶされるぞ!」

「ッ!? ち、違う! 行く先は太后様が待たれる西だ! 逃げるなぁぁアアアアアアアァアア!!!!」

 

 叛乱軍の敗走という巨大な濁流の中に、それで意識が現実に戻った嫪毐の嗚咽混じりの悲痛な叫びが上がるが、それを聞きとめるものは誰一人としていなかった。

 

「…シャアア! 外の連中がやっと決着を付けやがったな! 癪に障る連中の声が混じってたけどよぉ!!」

 

 数秒遅れでその流れは城内にも波及していき、場内に進入してきていた敵から要人や避難民の避難先を守っていた信達も気付いた。

 

「決まったらしいな」

「そうですカ…ベリーグッド…デス…」

 

 その中に混じって西市の正門前で大量に築いた叛乱兵の山を背後とした晳琭と晳琥の姉弟も静かな安堵の笑みを浮かべる。

 

「だ、駄目です! 太子を狙いに行った隊も例の近衛兵団によって屋敷に近づけぬとの事!」

「城外の味方も続々と離れつつあります! 早く我らも出ねば置き去りになります」

「(太子護衛にも近衛兵団による周到な備え、更に他の王子や王女に后なども既に味方が固める安全区域に避難済みとは…、軍総司令めここまで手を打っていたか。兵制改革反対を契機に沈んでいた我が人生逆転の好機は水の泡と消えたか…)脱出するぞ! 琉期達にも伝えよ!!」

「ハ、ハハァ!!」

 

 それをやや離れた城内の高楼に構えた侵入軍の本陣にいた樊於期達にも伝わっており、大急ぎで彼らも脱出に取り掛かる。

 

「もごー!? もごぉぉおお(ち、父上ぇぇぇぇぇ!? 私はこちらですゥウウウゥウう! そんな反対の方向に逃げないでぇええエエエエエエ!!)!!」

 

 但し、指示を出した父親とそれを高楼の物置部屋の板で塞がれた窓の僅かな隙間より鎖で縛り上げられた状態で必死に盗み見る息子の思いとは裏腹に、両者は急速に離れていくのであった。

 

「…お、収まったのか…?」

「助かったぞーー!」

「ま、負けちまった…」

 

 それからおおよそ1時間後、叛乱制圧に伴って剣戟と喚声が止み切ると助かった事に安堵する市民達が抱き合って喜びの声を上げ、逆に逃げ遅れて捕虜となった叛乱兵達のうなだれた声が各所より滲み出ていた。

 

「…昌文君! あんたもここに来てたのか!」

 

 そんな中、城外に集まっていた討伐軍の将達の中で信は久方ぶりに戦友達と顔を合わせていた。

 

「大王様と秦国の危機だから当然じゃろうが。加冠の儀も状況が状況じゃから一部急かしたが無事にやり通した。雍で呼応して反乱を起こした連中もいたがそれも成蟜達が鎮圧した」

「それに加えて咸陽の反乱も鎮圧したし、毐国本国の方も対趙西部方面の王翦軍が制圧のために動き出した。これらの取り調べで呂不韋にも罪は及んで彼は“失脚”するわけだ」

「ッ!? あんたは…!?」

 

 その中に混じって説明している昌平君の姿に信は驚きを露わにする。

 

「あんたどうして政に付いたんだ? ぶっちゃけあんたが漂に暗号文で報せなきゃ政は負けてただろうし、正直あんたがこっちに付いてもこっちの勝ちの目は良くて十に一つくらいだっただろ。呂不韋に付いたままの方が安全で確実だったんじゃないか?」

「「「「「………………」」」」」

 

 信の疑問に周囲もまた同様の疑惑が再燃して視線を昌平君に集めるが、彼はそれに臆すことなく自身の胸中を明かす。

 

「私もまた一統された中華とその果てを見んとする男の一人だ」

「「「「「!!!!!?????」」」」」

「現秦王はその果てを掴める最大の人物と見込んだからだ」

 

 驚く周囲とは対照的に昌平君側近達が捕捉する。

 

「全てを失う覚悟で此度の戦に参加したこの人に気を一番揉んだのは我々だ。だが、この人だからこそ我々もまた共にこちらへ着いたのだ」

「へへ、あんがとよ…けれどもよーこの場はともかく戦はまだ終わってねーだろ。太源まで逃げていってる連中にはどんな手を打ってるんだ?」

「心配無用、既に毐国近辺の対趙前線に出向いている王翦軍から太源制圧に取り掛かっているとの返答が来た。叛乱軍の方は対韓方面に回している桓騎軍を呼び戻し済みだから函谷関辺りで制圧するだろう」

「…そっか、じゃーあんたの口からこの戦に結果を言ってくれよ」

「…あ…」

 

 信の新たな問いをん向けられた昌文君より呆けた声が出て、彼の脳裏に初めて嬴政と落ち着いて話が出来た時のことが思い出される。

 

『趙では何も学べる状況にはなかった。その分の教育をよろしく頼むぞ』

「…文句など無い…呂不韋との9年に及ぶ…秦国の未来を掛けた激しき戦いは…大王様の完全勝利だ!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」

 

 その昌平君の嗚咽混じりの勝利宣言に、彼の側近達から最も大きな歓声が沸き起こった。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦日2目夜 秦国中央部 旧王都雍 天備宮○

 

「……そうか、反乱は失敗したか…」

 

 夕暮れの咸陽で勝利に人々が沸き立ってから数時間後、星が見え始めた雍にて早馬でその事は両陣営に知らされ、敗者となった呂不韋は、呆けが強く混じりつつも感慨深そうな声でそう呟いた。

 

「大王様! 咸陽は被害甚大ですがお子様方は太子様を始めとして全員がご無事のようです! お后様達も一人が何とこの状況で出産となりましたが全員共に大事には至っていないようです! 後宮にまで侵入されて王宮も大きな被害を受けたようですが…」

「…そうか、良くやってくれた。だが、今はそれよりも焼け出された市民の支援を優先してくれ」

「ハ、無論そのようにしております!」

 

 同じ呂不韋と共に夜空を眺めていた嬴政もまた静かな様子だが、その報せの重みを深く受け止めていた。

 だが、それに鬼気が加わっているものが一人いた。

 

「おい」

「ひッ!?」

 

 大王側の伝令の胸倉を秦国太后が殺意すら籠った状態で掴んできたのだ。

 

「嫪毐はどうなった?」

「は、叛乱軍は撃退されましたが全滅はしておらず北道を通って毐国目掛けて敗走している状態で…討ち取られたという報告はないので恐らくそれに混じっているのかと…ゲホゲホォ!!」

 

 だが、その鬼気迫る表情も伝令が息苦しくなりながらも述べたその報告で落胆へと変わり、彼女が手を床に落とした事でその場には伝令の息を吐く男が目立って響いた。

 

「…何はともあれ、見事完勝してみせましたな大王様」

 

 続けて、呂不韋のその敗れたにもかかわらず恨みを帯びていない言葉が天備宮にて静かに皆の鼓膜を震わせた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦日3目昼 秦国中央部 函谷関○

 

「ギャーーーー!?」

「ギャハハハハハハ!」

「痛い目遭いたくなけりゃ大人しく死ねやぁ!」

「ひィィ!?」

 

 それから次の日の昼間にて、叛乱軍は函谷関内側に到達した所で呼び戻されていた桓騎軍によって包囲されて殲滅されていっていた。

 

「お頭ァ、敵の大将は連れて来たぞー」

「そうか、じゃー弾の材料に使う鉛を溶かして爪先からぶっかけていって四肢を焼き溶かせ炳蒐猘(ヘイ シュウセイ)」

 

 その中で鎖にて縛り上げられた大男を連れてきた隊がいたが、先頭を切る隊の頭はまだ十代後半と思わしい、顔など素地自体は良いが手入れの行き届いていない無造作に着られた短髪と、古い返り血や泥染めの匂いが強い鎧が独特な少女で、彼女に桓騎はいつもと同様に艶と闇の何方も帯びた笑みで凄惨な命令を下す。

 

「やめてくださいよぉ、鉛を溶かすのも鉛玉に混じった不純物とかを除くのも結構面倒なんですからぁ」

「他にもいつもはやるそういうのは今回絶対するなと総司令からの伝令も…」

 

 アグリッパと黒桜が珍しくそういった命令に待ったを掛ける。

 

「生き証人ですからねぇ」

「見せしめに仕える部分は公衆で使わんといかんのも政治でしょう」

「フン」

「さっさと檻の車に連れてけや」

 

 最後に摩論とこの場には似合わぬ文官風の装束を着ているが全身が分厚い獣毛を思わせる体毛に覆われた男が指を遊ばせながら口にした小言に桓騎が詰まらなさそうに鼻を鳴らした後、桓騎兵らによって生け捕りにされた嫪毐が引きずられていった。

 

 

 

 

 

 ○秦国東北部 毐国 首都太原○

 

「西部区画も抑えましたぁ!」

「東部区画も倉央様がもう直に制圧完了となります」

 

 桓騎軍が叛乱軍主力を殲滅したころ、その本国もまた王翦軍によって半日と経たずに陥落させられつつあった。

 

「王翦様、捕えた叛乱軍将校や要人共の内より貴方が先にお選びなされた者どもをお連れしました」

「…ふむ」

 

 その宮殿の本殿へ既に入っていた王翦もまた戦が勝利に終わったと後でいつもやる作業に取り掛かろうとしていた。

 

「ば、馬鹿な…!? 幾ら主力が咸陽攻略に出向いていた後とは言え…こんなあっさりと落とされるなど…」

「うぬらに聞くぞ」

「「「「「!!!!???」」」」」

 

 縛り上げられて本殿に引きずり込まれた毐国の上級文武官たちの多くは未だに敗戦を信じられない状況にあったが、その彼らに王翦が仮面に秘められた意図を伺えない両眼で見下ろして問い掛ける。

 

「これより九族諸共死罪となるか、それとも私に絶対の忠誠を誓う代わりに一族の安寧を我が傘下で得るか、どちらかを選べ」

「「「「「…………忠誠を誓う!!」」」」」

「うむ」

 

 その静かだが重く圧し掛かる問いに、逆らえるものなど今この場にはいなかった。

 

「王翦様、虎歴一党及び例の墨字意匠の者共は城内にはその痕跡含めて見当たりませんが…」

「案ずるな、後者はこの私にも今動かせる兵ではまだ追い切れんが、前者の方は既にあの者を向かわせている」

 

 続けて他の配下が別の懸念を伝えてくるが、王翦の眼差しは太源を囲む産地の一角へ向けられた。

 

「ハアハア…まさか樊於期らがしくじるとは…! あの役立たず共めぇ!!」

「こ、虎歴殿ぉ! このような山地をそのように馬を早く進まれたら家族がァ…!」

「こんな状況で泣きごとを言うな馬鹿者がァ! な、何とか趙側まで逃げれば情報を手土産に後は何とか…」

 

 ちなみに、その山地の一角にある断崖を這うようにして作られた山道より、陰謀を進ませていた時期の余裕など全く残っていない様子の虎歴など強硬派首脳の面々が一族を連れて必死な表情で逃げていたが、その彼を妙な揺れと地鳴りが襲い掛かってきた。

 

「…え、な…何だこれびゃあ!?」

 

 虎歴がそれに寒気を感じて立ち止まったその直後、彼の頭上より叩きつけられるような濁流が降り注いで、彼らを山道からその下を流れる谷底の川へ容赦なく叩き落とした。

 

「…よーし、あらかた落ちたから縄を降ろしてやれ」

 

 それから十数秒後、谷底の川へ落とされた虎歴たちを見下ろす断崖の上より、破壊された溜池の堤の一角を背にした江殊幡が姿を現した。

 

「よくここを通って逃げてくるなんてわかりましたねぇ…」

「ここへ短期契約で雇われた時にここにある水堀調整用の山砦築城の名目でこの辺りの地形を調べたからな」

 

 水面でもがき苦しむ虎歴達をいつも通りの能面で見下ろす江殊幡に、彼女に割り振られた王翦兵は畏怖を込めた苦笑いを向けていた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 龍城攻防戦4日目正午 秦国中央部 旧王都雍 天備宮○

 

「ハアハア、大王様のご様子はどうだ?」

「ハ、以前として敗れた叛乱軍残党及び相国側の抵抗は見られず大丈夫です」

 

 それから次の日、叛乱は制圧されたとはいえまだ残党が咸陽に潜んでいる危険性から、まだ警備の厚さから嬴政達が留まっている雍に昌文君が手勢を連れて戻ってきた。

 

「そうか、それはよかっ…ん? 鳩…の群れ!?」

 

 雍に留まっていた部下からの報告に昌文君は安堵を浮かべたが、その直後に北から大量の伝書鳩が飛んできた光景に目が大きく見開いた。

 

「あ、あれは太源…よりも更に北の方角からだ!」

「そ、そう言えばあっちはどうなったんだ!?」

 

 大量の伝書鳩が来ている方角に雍の要人達は派閥問わず困惑と憂慮の色を露わにするが、それから少しして一人の文官が天備宮へ駆け上がった。

 

「…い、いったい今度は何が起きたのだ―――!?」

 

 新たな只ならぬ予感を覚えた昌文君が天備宮へ続く急会談を登ろうとしたその時、彼の真横を誰かが垂直に上から下へ通り過ぎて、そのまま宮殿を囲む水堀に盛大な水柱を立てた。

 

「……………」

「―――あってだだ大王様ァ!?」

 

 水柱の正体は、天備宮の手すりから落ちて水堀へ落下した後、少しして浮かんできて凄く微妙そうに引き攣った表情のまま固まった嬴政であった。

 

「…あいつ…今度は何をやらかしたんだ!!??」

「…は…? な、何を言って…あ!!」

 

 主君がしたあまりの奇行に昌文君は始め何を意味しているのか分からなかっが、嬴政が見据えている方角から、主君である彼と同じ顔をして北へ派遣されているあの男の姿が思い返された。




今回もまたあの影武者くんが何かやらかしたかやってのけた模様です。
次回は、その理由となった北の地での(一応の)終わりが中心となります。
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