※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

167 / 324
今回は技術系が中心となります。


166 どんなものにも初体験がある●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国中央部 渭水水上○

 

「…いやー、帰り道が船旅許可になるなんてー都のお偉いさん達も気の利いたことをしてくれるねー」

 

 咸陽を出て北への帰途に就いた日の夕刻、白漂は自分達が乗り込んでいる楼船の船上より夕日に照らし出される水面や河岸の風景を楽しんでいた。

 ちなみに白漂が今現在乗船している船は戦場の構造物は春秋戦国時代の楼船のものだが、船の横にはオールを通すための穴が無く、彼の前々世における宋代以降の発展した大型ジャンク船に似た構造をしていたが船首辺りはクリッパーなど快速帆船に近い構造をしていた

 また、この時代の河川航行用の船としては大きなサイズを誇っていて、オールがないにもかかわらず背後からは強い水飛沫を上げ、川下りなのを考慮しても速かった。

 

「江殊幡さんや杏橋達が手掛けている最新式船舶の実証試験も兼ねているらしいけど、本当に凄いわね。夜中も進められるから早馬で強行軍しているのと同じくらいに総体的には進んでるわ」

 

 紅華もまた同行しており、彼女は生まれ育ちから経験の少ない船からの風景に表情が緩んでいた。

 

「…まあね、色々と今現在も試行錯誤を重ねて発展している造船技術のおかげで、今までよりも大型船を作りながらも他所の同程度のよりも少ない人数で運航できるようになってきているし…ん?」

 

 自分も関わっているその新型船での船旅に入り浸っている所、白漂は真下から自身への視線を感じて顔を下げると、通気口から見える下の階では、何やら自転車のような機械に乗っている船員の姿があった。

 

「あー、世間話してるだけだから気にせず仕事に集中していいよ」

「っ!? へ、へい! 申し訳ありやせん! すっげー! 大将軍と会話出来ちゃったよ…!」

「え! ずりーぞ!」

「お、俺も出来るかなー…」

 

 白漂に声を掛けられたその船員は視線を下に戻して、自身が足を乗せているペダルのような装置を大きく回しだしたが、周囲の同様の装置に乗っている同僚達から羨望が上がっていっていた。

 

「…いやねー、櫂や帆に水の流れが無くても水飛沫を上げ乍ら進む姿を見た時は顎が外れるかと思ったけど…、まさかこんなからくりがあるなんてねー…凄いわねーこの“回車櫂”ってカラクリ、普通の櫂よりも少ない人数で速く且つ長く船旅を続けられるし…」

 

 紅華が興味を甦らせてその通気口に頭を突っ込んで、その船員達がいる船底付近のその部屋を見やると、そこには部屋を縦に走って絶えず回る長く丈夫そうな棒があり、それと歯車などで連結されたペダル型装置を船員達が脚力で回して動力を伝えている光景があった。

 その棒の後ろへ伸びた先には耐水及び浸水の対策や速度調整機の都合で、複数の歯車が回る部屋があり、それと何枚かの壁を隔てた先にある船尾付近の水中では風車に似た車輪が幾つも高速で回って水飛沫を上げていた。

 現在、白漂達が乗り込んでいるこの新型船は、後代の言葉でわかりやすく言うなら“人力スクリュー式ジャンク船”であった。

 

「だってさぁ、何十人も普通の櫂で漕いで進むのって意外と人件費や船内空間を大きく使うでしょ。以前に杏橋達が作った水を組み上げるための風車を見た時にー、風を受けて動くことが出来るなら…逆に動かせば風を吹かせられるんじゃねって思ったのがきっかけだよねー。とはいってもそれを聞いて何か閃いた表情を浮かべた杏橋や江殊幡がまさかこんな新しい船の動力装置に仕立て上げるなんて…(いや、マジでこんな数年で人力なのを除けば…変速機付きでスクリュー船を前世や前々世に近い形にまで進化させるなんて…すげえとしか言いようがない…)」

 

 北の地で帰りを待つ妻の一人と、数時間前に咸陽で別れを済ませたマジもんの超天才の姿を思い出した白漂は内心で引きつった笑みを浮かべていた。

 

「おらぁ! くそ秦の山犬共ぉ!」

「命が惜しけりゃ金目のものすべて出して大人しく出せぇ!」

 

 そんな静かな畏怖など知らないとばかりに、この時代では付き物の賊の類が今度は水賊として現れた。

 

「あ、水賊が出やがった!」

 

 信がマストの上の見張り台から見やったその水賊は、自分達が船団を組んでいる新型楼船とはサイズが明らかに劣る手漕ぎボートに分散しているが、数が多くこちらの倍近くは見受けられた。

 

「叫び声の訛りからして趙や魏あたりか…水賊の類の被害はここ数年くらい聞いていないし…ここ近日に密入国してきたばかりか? 内戦が終わって一月前後しか経ってないから国境の幾つかも不安定になってるとは言え、あれだけの数に国外から侵入されて何も情報が聞けなかったんて…、その前に数は倍近いし…どうしたもんか…あ」

 

 まだ距離は結構ある方だが、進行方向からして何れ鉢合わせするだろう事に面倒くさくなった白漂は、今現在自分と同じ船上に備え付けられて水除の油紙で隠されている実験途中の物品を思い出す。

 

「おい、信ー、ステラはこの船の右隣の船にいるんだよなー?」

「ん? そうだがどうしたー?」

「ちょうどいい機会だ。こ(・)れ(・)の実戦試験をしよう。ちょっと隣りの船と寄せて板を掛けて呼んできてくれ」

「!? ちょっと待て! まだそいつは実戦じゃあ確かめてねえだろ!」

「どんな兵器にも初陣がある! さっさと呼ぶんだ! 他にもー…!」

 

 それから発せられた白漂の命令に周囲から戸惑いの声が上がるが、命令自体は素早く実行されて船団は寄せられて行く。

 

「…頭ぁ! 連中は川岸を猛烈に沿って進んで躱して逃げようとしてますぜぇ!」

「それで急ぎ過ぎてんのか横一列に並んでやがる!」

「まずは連中のど真ん中から突貫してぶち抜け! そんで―――!?」

 

 数十秒後、距離が半分まで詰められたところで、水賊達の頭がほくそ笑んだ次の瞬間に、彼の頭上がいきなり赤く照らされて熱気が髪を焼いてきた。

 

「―――え…? な、何だぁ!?」

 

 それに戸惑った水賊の頭が頭上を見上げると、彼らが乗る水賊船団旗艦の帆が勢いよく燃え上がっていた。

 

「ぎゃああ!?」

「あ、あちい!」

「な、何が起きてぇ…!?」

 

 更に、水賊達が乗る船にも、何処からか豪速で飛んできた火の玉がぶち当てられて大きく燃え上がり出し、あまりの火の強さに水賊達は消火もままならず熱を避けて川に飛び込んでいく。

 

「…凄い威力に正確さねー…。この“火砲床弩”…」

 

 その光景に、白漂船団の旗艦の前方部分に付けられた床弩と別時間軸19世紀初頭のガトリング砲を合わせたようなその新兵器を、それの座椅子部分に座って操作しているステラがポカンとした表情を向けていた。

 

「…積んでいる油は僕らが管轄する北方の油田で取れた石油を主に、蒙武将軍が広げた蜀南以降の特殊植物油脂を複数調合して、特定の消火剤を用いなければ水に投じても燃え続ける新型油、及びに西山界で取れる起床木材及びに江殊幡の領地並びにその以南で生産される新型鋼材、北の地で安全な均質に大量生産される糸、各地で量産されるようになった陶器、今の秦で成長中の産業技術の集大成というべきなのがこの兵器だ。さー皆ー残りも遠慮なくやってーー」

 

 水賊達を接近する前に火攻めにしてのけたその新兵器“火砲床弩”の隣りで、白漂がメガホンを片手に号令を下すと、各新型船に備え付けらえているそれらが大矢を短い間隔で次々と撃ち出していった。

 火砲床弩は先端に雨が降っても容易に消えない火が灯されており、それへ先端に特殊油脂を染み込ませた布を撒いた弾丸型形状をした陶物を先端に括り付けた大矢が発射と共に走り抜ける事で火が付き、鋼材と木材を合わせた複材合成弓を元にした発射台で撃ち出されて火竜の如き一撃となる。

 更に、兵器の下にある階にある車輪状の動力装置を数名がかりで回すことで、威力と速度のわりに短い間隔で次弾装填が極めて素早くなされるようにもなっていた。

 

「ぐアアアァ!? また来たあ!」

「い、いくら何でも早すぎ!」

「あ、あぢいよぉ!?」

 

 そうした大矢は豪速で水賊達の船に衝突すると、その衝撃で先端に括り付けられていた投機が割れて中に詰まっていた特殊油脂に火が付きながら広範囲に拡散し、船や船員を瞬く間に灼熱地獄か水面へ落としていく。

 

「…凄い…まるで、性とかをめっちゃ拙い方向に拗らせたおかげで主に見放されて…炎を操る兵器を互いに使いまくって共倒れしたソドムとゴモラみたい…」

 

 その光景にマルタはドン引きする一方で畏怖と畏敬が入り混じった表情を浮かべていた。

 

「…ふーー、中華史上初で接敵しないままでの水上丁字戦法による撃退は勝利と言ったところか」

 

 数分後、こちらと接舷する前に火の海から逃れようと一目散に逃げ去っていく水賊達の姿を見て、白漂は緊張を覚えていない表情で軽く息を吐いた。

 

「…すっげーなーこの兵器!」

「どうしますか将軍! このまま残党を追撃しますか!?」

 

 それに対して周囲は熱気に包まれているが、白漂は冷静な表情を崩さないままに新たな指示を下していく。

 

「無茶を言うな。連中は元からこっちの倍はいて生き残りだけでもこちらと同じくらいの数はいる。それにこっちの半分くらいは北の地へ転勤したり、途中の地で降りて現地に赴任する予定の文官達とその家族だから実働戦力は向こうよりも少ない。それに―――」

「オオおおおロロロロロロロ…」

「―――い………」

 

 周囲の熱気に対して白漂は言葉で宥めようとしていた所で、彼の懸念材料の一つがあまりよろしくない声を伴って姿を見せてきた。

 白漂が指さした先にて、そこの手すりに突っ伏して胃の中を激しくリバースして川の魚への餌巻きの真っただ中にいる薙鍛の姿があった。

 

「今この船に乗っている兵員の多くが彼女みたいに船になれていない北部出身者が多いんだ。今日は近場の川岸の港町によって水賊集団発見のことを伝えて周囲に警戒するように促して。中央にも今回のことを報告して国境警備の再編及び再強化の必要性を…」

 

 彼女の姿と今にもそれに続きそうな顔色が悪い面子の多さが後押しとなり、白漂の指示はそつがなく実行されていった。

 

「…まあ、想像に難くないけど…ここまで持ちこたえただけでも偉いというべきかな」

「…地上戦…特に草原戦では桁違いと言っていいくらいに強い子だけど…まー、テングリ湖とかそこで暮らしてる船の民でもない限りは、旧匈奴(ヒョンナ)系は…まあ、あの子は戦闘が終わるまでは良く持ちこたえていた方よね…」

「それにしても君が殆ど船酔いしてないのが意外だね紅華」

「まあ、秦に恭順する前はご飯中やその直後でも敵襲に有って、馬に乗ってそれから山林を駆け抜けて逃げなくちゃいけない事が多かったし…」

 

 数十分後、夕暮れが薄まって夜の暗闇が増してきた頃にて、どうにか胃の中を吐き終えて医務室に連れられていく薙鍛を生温かい眼差しで見守りつつ、白漂と紅華新型船の楼閣部分にある客室で、彼女の身の上も絡めた今後について小声で話し合い始めた。

 

「…見た時に見覚えがある顔立ちと赤い狼の装飾品だと思ったけど、まさか…前の単于家であった赤沙の御姫様だったとはね…」

 

 紅華は秦へ恭順する前に兄や父の付き添いで、匈奴(ヒョンナ)の首都である龍城に何度か行ったことがあるが、その時期に薙鍛や本来その名を受け継いでいた双子の姉を見たことがあった。

 

「僕の父が残してくれた短剣に括り付けていた母の形見の狼型の装飾品と似ていて何故だと思っていたけど、まさか母と同族とはねぇ…」

「あの子と違って貴方は先祖が草原の下で泣いている姿が何故か頭に浮かびますけどね」

「何か僕に対してだけ辺りがきつくない?」

「…まあ、それはさておき、とりあえず今後の北での段取りだけど…、とりあえず貴方と同じ前の単于家の血筋であるあの子の結婚は必要不可欠。私もあの子とはいい友人だし貴方とも関係は普通に良いものだから今の良好なうちにささっと済ませないと今後がもっと苦労するから」

「やっぱりそうなん?」

「貴方が即位式諸とも匈奴(ヒョンナ)ぶっ壊したせいで北の地では大小無数の族が群雄割拠して四分五裂の争乱状態。その中で北方の全盛期を築いたリトラノスやラルゴールの血筋をそれぞれ引くあの子と貴方の婚姻は、寄り辺を決める上で大きな大義名分になるの…!?」

 

 だが、その説明の途中で紅華の身は白漂によって抱き寄せられた。

 

「…政務とか外交の都合で、この身を君だけのものには出来ないのは頭ではわかるけど、そんな…どうせ他の子にも興味が移ってるんだから、さっさと行って未練(どくせんよく)を断たせて気楽にさせてちょうだいみたいな感じで言うのは何か嫌だなー…」

「…ッ…馬鹿…」

 

 その白漂の少々ウンザリとした表情も添えた言葉に、紅華は彼の体温の心地よさもあってしばし浸りたくもなるが、今の我が身と公務もあってそっと彼の胸に手を当てて少し引き離させる。

 

「…私だって、貴方ともう別れたいわけでも、他の子との関係を許さないというわけじゃない。だからこそ…今の私達の幸せを今後続けるためにも、今は私がここに宿している女としての幸せを…、まだ授かっていない他の子にも宿らせてあげて…」

 

 紅華のその言葉を皮切りに、二人がいる楼船客室の扉が開かれた。

 

「はいはーい、正室だからこそ貰える甘い言葉はもらえない分…体で貰いに来ましたー♪」

 

 まず、綺麗な笑顔だが目元に翳が掛かって女としての競争心(ジェラシー)を隠せていないマルタが現れた。

 

「…このように放っておくと危ない人がおりますので、微力ながら私もお諫めに…」

 

 そのマルタに続けて牙雪も額に一筋の汗を流している引き攣った笑みで入室してきた。

 それからも複数の女性が入ろうとしてきたところで、咸陽で耳にしたあの楽器の音色が白漂達の鼓膜を震わせてきた。

 

「…ん? この音色は…?」

 

 白漂が自室の別の窓から外を見やると、帆立の上にある見張り台にて一人の女性が腰かけて、まだこの時代には生まれていないはずの楽器である“三線”を弾いている女性がいた。

 深い青色のショートヘアーと翡翠色の切れ長の瞳を中心として怜悧でミステリアスな美貌を構成しており、黒と深い青色を基調とした中性的な衣装で魅惑的だが卑賎さを感じさせない曲線美を示していた。

 

「…あ、“夜蘭”…やっぱり帰って来てたんだな」

 

 白漂が見上げるその美女の名は夜蘭。

 商人時代の紫夏が白漂も丁稚という形で連れて中華中を行商していた時より少女の身から連れていた女性で、白漂もまた色々と教わってきた身である。

 現在は秦と長らく同盟関係にある斉へ、秦国女官となった紫夏の店を継いだ香泰商会の燕での大店の一つを任されるまでになっている身で白家のご要衝の一人もしており、今回は北回りルートで燕へ帰るため今回の船団に加わっている身である。

 

「おい、こうして大勢で夜のお務めをしに来たってのに何をまた新しい女にナニを立たせ始めてんだゴラ?」

 

 その夜蘭に白漂が視線を奪われていた隙に、マルタが笑顔でドスの効いた声を吐きながら彼の股間を衣服越しに結構強い握力で掴んできた。

 

「…貴方ー、当家で侍女登録している子達の多くは愛妾登録してて、彼女は侍女ではなくて食客扱いながら愛妾名簿にも記載してますけど…今はすでに関係を結んでいる子達を優先して上げてください♪」

「いや…何をそんな僕の方から手を出そうとしてるって前提で話を進めようとして…あーーーー………」

 

 そのまま、マルタと紅華に両肩を掴まれて白漂はベッドに引き摺り倒され、パタンと窓を閉められた。




取り囲んできた女性達に主人であるはずの主人公が食い物にされたり、交代か人海戦術で尻に敷いてくるのが白漂ハーレムの実態です(笑)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。